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シナリオ詳細

霊喰集落アルティマ・ヴァイオレットウェデリアより

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●超越者ヴァイオレット
 ピュニシオンの森からやや離れた、氷の華が咲き乱れる氷原地帯を――亜竜種の戦士が走っていた。
 彼の左腕は既になく、顔も酷く損傷している。姿勢も大きく傾いているが、それでも走り続けていられるのは彼の強靱さゆえだろう。
 が、そんな彼の表情には当然というべきか余裕はない。恐怖と困惑、あるいは絶望にすら染まっていた。
 荒れる呼吸の音と血のどくんどくんという耳鳴り。それをおいてなお聞こえる、『彼女』の声があるからだ。
「るーんたるんたっるんたった、るんたったー、るんたったー」
 どこかで聞いたような、聞いたこともないような、なんともいえない鼻歌をうたいながら、彼女はスキップをしていた。
 赤いドレスに赤い手袋。真っ赤な髪をした、それは少女に見えた。
 角も尻尾も羽根もないところからして、亜竜種でもましてや竜種でもないはずだが……その力は、必至に逃げる戦士の様子からも明らかだ。
「るんたっ、たったー――んっ!」
 ぱしり、と戦士の後頭部が掴まれた。
 それだけで戦士は一歩たりとも前へ進めなくなり、薬指からなみうつように優しく、あるいは艶めかしく胸元へと手が回される。
 そして彼女の薬指が戦士の下腹部をゆっくりと円を描くようになで、肩越しに耳へと唇を寄せた。
「にげちゃあ、だめ」
 幼い少女の声、のようだった。
 少女は赤い舌を伸ばし、戦士の耳をひとなめする。
「『あの方』は正しかった。いずれこんな人たちが現われる。美味しい時間がやってくる。いま、いま、いまが……!」
 少女の言葉はまるで発情したかのように感情が乗り、そして戦士の耳を食いちぎった。
「私だけのディナータイムッ!」

 その後、少女――『超越者ヴァイオレット』は亜竜種戦士の首を枝から果実でももぐように取り外して、それこそ果実のように囓りながら逃げ惑う戦士たちを物理的に喰らって回った。
 ひとしきり食い散らかしてから、手をぺろぺろとなめて少女は……両足を喰ってしまった亜竜種の女戦士を見下ろして髪をかきあげた。
「ンああ……だめだめ、ちゃんと残しておかなくっちゃ。もっと人が来てくれなくっちゃあ、ね?」
 ヴァイオレットは女戦士の髪に指をいれ、くるくるとまきとったあと、顎から頬へと優しく撫でる。仲間達の血と臓腑の混ざった何かがべっとりとつき、女戦士は震えた。
「仲間に、知らせてあげてね? 私が来たよ、って。ヴァイオレットちゃんが、来たよ……って」

●霊喰集落アルティマからの使者
 双子の亜竜種少女たちが、悲しげに目を伏せている。
 カムイグラの巫女めいた、あるいはラサの踊り子めいた、幻想のジプシーめいた、どうとも掴めない独特の服装をした双子だ。
「「霊喰集落アルティマからの使者に違いありません。『超越者ヴァイオレット』……古い文献に、その存在が語られていました」」
 全く同時にしゃべり出した双子が語るには、ヴァイオレットという存在はアルティマなる土地からやってきた魔物であるという。
 人間でもなく亜竜種でもまして竜種でもなく、『魔物』としか言いようのない存在だ。
 しかもアルティマという土地は覇竜領域のどこかにあるのだろうが、具体的にどこにあるのか誰も知らないのだと。
 何をしに来たのかといえば、ただ強者の血肉を貪りに来ただけなのだろうとも。
「「超越者ヴァイオレットは強者の肉を喰らうことで魂ごと喰らい、暴食の快楽を浴び続ける魔物だといわれております。獣のよけの魔法が施されたウェスタといっても、外がこう危険では……」」
 同時に言いよどむ双子。ここ亜竜集落ウェスタはピュニシオンの森と呼ばれる深き森の近くに存在する地底湖周辺にある集落だ。ピュニシオンの危険さを理解しているがゆえ決して近づかず、集落の防御も十全である。
 であるにも関わらず危険だと述べるのは、それだけ超越者ヴァイオレットが亜竜種たちにとって危険な存在だからだろう。
 そしてそれを退治することを、いまあなた……つまりローレット・イレギュラーズに依頼しようとしているからだ。

「「超越者ヴァイオレットは非常に高いパワーをもった少女の姿をした魔物です。
 多くの魂を喰らったことで非常に死にづらく、また戦いながら自らの体力を回復するすべにも長けています。
 皆さんが到着した頃には、『たべかす』と呼ばれる亡霊たちを兵隊にして侍らせていることでしょう」」
 真正面からつっこみ、そして暴れ回る。それ以外に対処するすべはないだろう。
 双子が小さく頭を下げるのを背に、あなたはウェスタの天幕より出た。

GMコメント

●オーダー
 あなたは強力な魔物である『超越者ヴァイオレット』を撃退することを求められました。
 というのも、ここ覇竜領域の集落ウェスタと友誼を結ぶには相応の強さあるいは有能さを示さなければならないからです。彼女と戦って死なない程度の強さがなければいけない……ということのようです。
 オーダーはあくまで『撃退』。『撃破(殺す)』ことは求められていません。殺せるなら殺したほうがずっといいのですが、そう簡単にヤれる相手とも思えないとのことです。

●ヴァイオレットとたべかす
 小柄な少女の姿をしたヴァイオレットは凄まじいパワーをもった魔物です。
 簡単にひとの腕を引っこ抜きますし野球のボールみたいに人を投げます。
 また、常時発動する能力として喰らったばかりの魂を『たべかす』という亡霊兵にしてはべらせることができます。
 『たべかす』には『EXF+100』という非常に厄介な付与効果がついているため、倒すにはブレイクしてからトドメをさすか【必殺】攻撃を用いるかしないといけません。相手の形状もありいつがトドメのタイミングか分かりづらいので、どのタイミングでどのスキルを使うのかをある程度定めておきましょう。

●戦場:氷の華園
 氷でできた華が咲き乱れる花園めいたフィールドです。現在思いっきり血塗れです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 霊喰集落アルティマ・ヴァイオレットウェデリアよりLv:30以上完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年02月15日 21時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
観音打 至東(p3p008495)
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃

リプレイ

●ドキドキはーとをキャッチして
 ウェスタからやや離れた氷の華園。
 歩くたび、足元でくしゃりと霜を踏んだような音がする。
 『空の王』カイト・シャルラハ(p3p000684)は畳んだ翼をぴくりと動かし、漂ってくる血のにおいに顔をしかめた。
 まだ対象の魔物は見えないというのに、既にもう戦場の匂いだ。いや、屠殺場や肉の解体現場の匂いかもしれない。
「超越者……超越者ねぇ……。
 覇竜領域ってのはとんでもないのしか居ねぇのか。
 ま、だからといって尻込みする気はねぇけどな!」
 あえて気を強く持って胸を張るカイト。気持ちで負ければそれまでだと言わんばかりの様子に、『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)もへらへらと笑ってみせる。まるで些事だと返すかのようにだ。
「竜に非ずして亜竜種たちからも危険視される存在……。
 相当な手練れであるというのは間違いないでしょう」
 火(あるいは己を燃やすもの)に並々ならぬ関心をよせるクーアのこと、火の竜に強い関心を寄せてこの地を目指したものだが、そればかりというわけにもいくまい。
 握った両手を胸の前に持ってくると、ぱっと開いてみせる。
「亡霊たちの無念もろとも、我が焔によってなんとかしましょう!」
 どうやら、今回も仲間は頼りになるようだ。『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)はそんなふうに考えてくすくすと笑った。
 『リヴァイアサンに比べれば些事だ』などという言うものはいない。相対規模を無視して語る者がないというのは頼もしいことだ。よしんば並べるとしても、四桁人数で挑んで四桁死んだという乱暴すぎる計算がなされたあの戦いと8人で挑む戦いを並べるのはあまりに乱暴が過ぎるだろう。
 竜のファーストインパクトが大きかったおかげで侮らずに済んでいるという意味でも、あの戦いはやった意味があった……などと。
(頼りになる方々も御一緒ですし。悪い事にはならないと良いのですけれども……)
 それでも、この竜が飛ぶ地において危険視される魔物に油断する筋合いはない。
 事実、亜竜種の戦士達は何人も殺されているのだ。自分達がそうならないなど何故言えよう。
「確か……可愛らしい女の子なのよね?」
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が顎に指をあててゆったりと首をかしげた。
 白く透き通ったような髪が肩に垂れる。つい先ほどまで飲んでいた集落の酒のせいだろう。特殊な芋から作られたという酒は白く透明で、そしでちょっとだけ乱暴な味がした。
「フリアノン、ウェスタ、ペイト――少しずつ、それぞれの集落の人とも仲を深めて解ってきた気になっていたけれど、此処はやっぱり覇竜なのね……」
「恐ろしい?」
 前を歩いていた『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)が振り返る。
 アーリアは何も言わず、ただ苦笑と照れ笑いの中間を浮かべた。
 対するエルスは小さく肩をすくめ苦笑を浮かべてそれに応える。
 強力で小柄な少女。その要素だけを聞くと、はるか昔レオンとディルクが亜竜種をナンパしようとして返り討ちに遭ったエピソード(細部を雑に思い出すとそうなる)がイメージされるが……そんなに可愛らしい話ではないはずだ。
「当然だけど、竜や亜竜ばかりが脅威じゃないのね」
 ふと思う。自分は可愛らしい少女の首を鎌ではねることができるだろうか。ラサで出会った子供達と重ねて、首を振る。
 見た目で判断してはいけないのは、この世界の鉄則なのだと。

 歌声が聞こえていた。
 ざん、と足を止める。踏みならすかのように。
 『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)が踏みつけた花は既に赤く、ぴちゃんと鮮血を滴として垂らしていた。
 戦いはずっとずっと前に終わっていたはずなのにここまで血に濡れているのは、彼女が『たべもの』で遊んでいたからだろう。
 お行儀が悪いんですねと言おうとして、開きかけた口を閉じる。
(霊喰集落アルティマ……竜種ならぬ魔物や亜竜が支配力を持っている場所なのでしょうか。だとすれば、それを保っているのは絶対的な……)
 歌声は、やまない。足音を聞いてもだ。
 両手を広げて、スキップでもするように歩いて、くるりと回る少女がいた。
 肘まで届く手袋をしている……かと思えたが、それは鮮血による色でしかなかった。元の色がどうだったのかわからないほどワンピースドレスを真っ赤に染め、可愛らしいエナメルの靴を履いている。これは、元から赤かったようだが。
 少女は鼻歌を歌いながら笑い、そして血塗れの手のこうで口元をぐいっと拭った。
 たいして拭えたようには見えないが、大きく開いた口から白い歯が見え、ぴたりとこちらに向けて回転をとめたことで流れた前髪より、印象的な紫の目がきらりと光った。
 例えるならスピネルという宝石の紫色だ。赤みの混ざった深いそれが、恋するようにきらきらとしている。
 ケーキバイキングにやってきた年ごろの少女を思わせるその表情に、リースリットは言うべき言葉を選んだ。
「あなたは、何者ですか」
 大きく声を張った問いかけに、少女……超越者ヴァイオレットは『んー?』と言って首を身体とごと傾けた。両手を腰の後ろで組んで、上半身を傾けるようにして。
 甘く蕩けるような、高い声だ。
 『忠義の剣』ルーキス・ファウン(p3p008870)はその雰囲気に飲まれぬようマントの襟で口元を鼻まで覆って目を細める。
 バンダナを少し下げれば、表情を読まれることもほぼないだろう。
「……『暴食の魔種』」
 ルーキスの小さなつぶやきに、隣に立っていた『suminA mynonA』観音打 至東(p3p008495)が視線だけを向けた。
 その声が聞こえたのか否か。超越者ヴァイオレットはかしげた顔をそのままに何も言わない。
 こちらの言葉に興味が無いのか、それとも自分達の情報をみだりに漏らさないようにしているのか。
(いや。だとすればわざわざ名前を述べて増援を誘ったりはしないか……)
 超越者ヴァイオレットの性格は、事前情報で粗方分かっている。
 至東はコホンと咳払いをして、立場を明確にするかのように己の考えを言葉にした。
「まず私が為すべきは、死に損なった戦士たちの再殺。
 血屍と恐怖にまみれ、責苦の激痛に侵され、恥辱の内に生命絶たれ、ならば死した後こそは、かれらの神の御下にて、安らかに在る可し。
 ――で、ございましょう。ございましょうとも獅子郎どの。そなたのお望み通りに」
 後半は完全に自分だけが分かる言葉だったが、ルーキスたちは頷きによって同意を示した。
 ぴん、と超越者ヴァイオレットが直立姿勢へと戻る。組んでいた右手を顔の位置まで翳し、立てた人差し指をくるんとまわした。すると周囲の血だまりから紫色の霊体が立ち上がり、その全てが超越者ヴァイオレットへと跪く。
 彼らの造形はぼんやりとしているが、角や翼や尾の様子からしてこの場で殺された亜竜種戦士たちを象ったものなのだろう。
 なるほど『たべかす』か……とルーキスが呟いた。
「参りましょう」
 至東は杖をスッとだし、かちりと回して仕込み刀を抜く。
 止めるものなど、ここにはいない。
 始まるのは、殺し合い。
 八人のイレギュラーズが、一斉に走り出す。

●ギュッとしてchu
 誰よりも早く動き機先を制したのはクーアだった。
 地面をひっかくかのようなタッチで初速を上げると超越者ヴァイオレットへと急接近。残像でもつくるかのような速度でクーアの炎を伴った爪撃を1m程度の横スライドで回避する超越者ヴァイオレットだが、クーアはそのままつんのめることなく素早く前転。地に手を付けたクイックターンで背後を取ると、バチリと桜色の雷を具現化して手刀による足払いをはかった。
 小学生がやる精一杯の縄跳びのような、両足をそろえて踵をあげる可愛らしいジャンプでそれを回避すると、超越者ヴァイオレットはにっこりと笑ってクーアへ振り返る。
 表情は余裕なものだ。が、それでいい。
 クーアは直撃を狙おうとも、圧倒しようとも思っていない。
「暫くこの場から動かないでいてもらいましょう。――リースリットさん、エルスさん!」
 二つのエフェクトが起きた。
 リースリットが巡る風を纏い、空を螺旋に穿って弾丸のように飛ぶ。
 手には既に剣が握られ、クリスタル状の刀身から緋色の炎めいた輝きを漏らした。
 風と炎二つの力は剣の中で混ざり合い、雷となって放たれる。雷を矢のように飛ばすその魔術はしかし刀身に宿したまま、リースリットは弾丸のような己の速度をそのまま乗せた斬撃を超越者ヴァイオレットへと叩きつけた。
 がしり、と刀身を掴む超越者ヴァイオレット。飛行していないせいか勢いは殺せていない。大きく突き飛ばした形になったリースリットは軽く減速をかけながらも、至近距離からもう一対の魔道具である魔晶核を握りしめて拳の形に殴りつける。纏った力は極寒の冷気と鋭い刃解かした氷の群れだ。
 それらを直に浴びた超越者ヴァイオレット――の後方に、氷でできた鎖が伸びた。
 回り込んだように、そして意思を持った蛇のように動いた鎖の先端部はペンデュラムの形をしていた。
 氷の鎖は素早く超越者ヴァイオレットへと巻き付き、流し込まれた力が電流のように彼女の身体をけいれんさせた。
 エルスは鎖のもう一端を握りしめながら、指輪にそっと口づけをする。そしてパチンと指を鳴らすと指輪に込められていた力が銀色の剣となって空へと放たれる。
 回転した銀の剣を、掲げた手でキャッチ。
「出し惜しみできる相手じゃない。速攻でいくわ」
 鎖がビッと張り、超越者ヴァイオレットもまた身体を反らすようにして止まる。
 攻撃がやんだから、ではない。その逆だ。
「そんなに腹が空いているのなら――」
 大きく靡く青いマント。ルーキスが後方へと素早く回り込み、抜いた刀を十字に構えていた。
 誓いのように垂直に立てた刀『瑠璃雛菊』と、逆手に握り水平に交差させた『白百合』。
 刀には毒の力が流れ込み、交差した部分が怪しく光る。
「とっておきの毒を喰らうがいい!」
 ほぼ同時に振り込まれた刀はヴァイオレットの背を複雑に斬り割き。無理矢理に開いた傷口に毒液を深く浸入させる。
 それによって超越者ヴァイオレットはガハッと血を吐き、両腕から力を抜いた。
「今だ、レジーナ!」
「汝(あなた)が超越者ならばコチラは破壊神。
 この手に握るは彼の柱より拝借した無双の刃」
 側面へと回り込んで射線を確保していたレジーナは両手を翳し、無数の魔方陣を展開した。魔方陣というよりAstrark geis裏面に描かれた模様を摸した光の線ではあったが。
 翳した手をスライドさせるように広く左右に開くと、重なっていた魔方陣もまた水平に並ぶように展開。その全てから異界では伝説(スーパーレア)に数えられた武器の数々が召喚された。
 中でも三枚の魔方陣を使って召喚されたのはあまりにも巨大な剣であった。
「今日この時だけは龍鱗を断ち肉にも届きましょう」
 放たれた無数の武器は超越者ヴァイオレットの身体へと刺さり、そして巨大な剣が細い脇腹を貫いていく。

 その間、アーリアたちは跪いていたままの『たべかす』へと迫っていた。
「あぁもう、こんなにたべ零しちゃって!」
 透明な液体の入った円柱カップ型の瓶を取り出し、プルタブ式のキャップをぽんと外す。
 中身に口をつけると、アーリアはその残りをまき散らすかのように瓶ごと放り投げた。
 周囲に散らされた酒精の香りが跪いたままの『たべかす』へとまとわりつき、その霊体組織を破壊していく。
 『たべかす』に擬似的な不死性が付与されているらしいが関係ない。不死性もろとも破壊し尽くす力がアーリアにはあったからだ。
 至東は胸の谷間に手を突っ込むと、ゴルフボール程度のサイズの何かを取り出した。
 それを放り投げると、まるで虫のように羽をひらいて飛び始め『たべかす』たちへと飛び込み、そして自ら爆発した。
 そこでようやくというべきか、『たべかす』たちは動き始めた。
 殆ど無防備だった彼らは立ち上がり、霊体の剣なり槍なりを手に取って走り出す。
 それも、至東たちから逃れるように後方にだ。
「逃がしません」
 至東は凄まじい初速から距離を詰めると、仕込み杖の刀によって霊体を袈裟斬りにした。
 パキンと何かが割れる音がして霊体にかかっていた紫色のもやが消えていく。
 なるほどと小さく呟き、ベルトに偽装していた鎖を抜いて放つ。
 『たべかす』は砕け散り、そしてはじめから何もなかったかのように消え去った。

「よし、いい調子だ!」
 カイトは笑い、そして超越者ヴァイオレットへと襲いかかった。
「俺を喰いたいか? そう簡単に捕まってたまるかよ! 俺は食材じゃねぇんだぞ!!!!!!」
 やや高所をとり、がしりと超越者ヴァイオレットの額を鷲掴みにする。
 【怒り】を付与し引きつけながら、己の高度すぎる回避能力でかわし続ければ一方敵な勝利が――。

 と、そこまで考えてからカイトの本能が警鐘を鳴らした。
 『調子が良すぎる』と、本能が言うのだ。
 亜竜種の戦士たちを皆殺しにしてむさぼり食った相手がこうも簡単に手玉にとれるのだろうか?
 この覇竜領域の外を歩き戦うような強力な戦士達がその程度の敵に負けるなど計算があわない。
 カイトは相手の精神を歪める術を流し込みながらも、ゾッと背筋に冷たいものが走ったのを感じた。
 興味本位で魚のいる池を脚でかきまぜて遊んでいたら、恐ろしい人食い魚にかじりつかれた時のような、あるいは……。
「釣られた」
 カイトの本能。それは漁師としての本能だった。釣る側が釣られる側になる時の、あの感覚だった。
 カイトの手のひらの下で、超越者ヴァイオレットが笑った。


 きっかけはなんだっただろうか。
 カイトの腕が肩まで失われたことだろうか。
 超越者ヴァイオレットが自らを縛る氷の鎖をまるで蜘蛛の糸でもはらうように軽々と破り、伸ばした手でパンでも千切るみたいにカイトの腕を取り外した。
 誰もがその動きに瞠目したが、誰よりも驚いたのはカイト自身だ。
 次に狙われたのは、あろうことかアーリアと至東だった。
 逃げるように走る『たべかす』たちは突如として二人に組み付き、その動きを鈍らせた。
 両腕を掴まれ脚にしがみつかれたアーリアへ、紫の残像をひいてヴァイオレットが急接近した。唇が触れるかと思えるほどの距離へ顔を近づけ、舌なめずりをしたかとい思うと彼女の胸を掴んだ。否、胸ではない。その内側にありあばら骨に守られた内臓をつかみ取ったのだ。
 声すら出ない痛み。喉から上った血が無意識に吐き出される。
 更に、バイオレットはその様子に瞠目していた至東の首に手をかけ――たところでレジーナの放つ巨大な剣が飛んだ。
 エナメルの靴で跳ね上げるように破壊するヴァイオレット。
「綺麗なものは好きだわ。
 強いものもとても好き。
 汝(あなた)はどうして今来たのかしら。
 お腹が空いたの?
 それとも誰かに教えて貰ったのかしら?」
 レジーナはつぶやき、その間にカイトは素早く飛びかかり三叉蒼槍をたたき込んだ。
 振り上げた脚をくいっと鞭のようにしならせることで槍は弾かれる。
 これまでの『直撃』は意図したものだったとでもいうのだろうか。
 ヴァイオレットはカイトの目をみつめながら、もぎとったばかりの彼の腕にかじりついた。
「美味しいわ、あなた」
「――ッ」
 が、二度目はない。アーリアがかはっと血を吐きながらも取り出した赤いワインの瓶でヴァイオレットの頭を殴りつけたからだ。
 砕け散るガラス瓶。そこへクーアが素早く飛びかかった。ヴァイオレットに――ではなく、周囲の『たべかす』を燃やし尽くすためにだ。
 ヴァイオレットにとって『たべかす』は新たな獲物を得るための餌であり釣り針だ。残しておけば釣り上げられる。
 そして、治癒能力にかけた今のメンバーの場合――火力を可能な限りたたき込むに限る。
 リースリットとルーキスが迫り、同時に左右から剣を叩きつけた。
「散歩や食事だけの為だけに、古の魔物が里へ姿をみせたのか? そんなわけはないだろう!」
「もう一度尋ねます。あなたは、何者ですか」
 二人の剣を両手でがしりととめ、握り、そしてブンと強引に真上へ振って二人の身体ごと放り投げる。
 そんな彼女へエルスは剣で斬りかかり、そしてその剣もまた手に握られて止まった。
「去りなさいヴァイオレット。あなたと戦いのは……まだ本意ではないわ」
「あら。わたしもよ? こんなに美味しい美味しいこどもたちと喧嘩なんてぇ……」
 甘く蕩けるように言うヴァイオレット。
 エルスの頬にぺたりと自分の頬をつけ、そして耳元で囁いた。
「とっても美味しくなってくれて、ありがとう。今度かならず、食べてあげるからね」
 やくそくよ、と囁き、そしてヴァイオレットはエルスの肩を掴んで放り投げた。

 衝撃。痛み。そして……それだけだ。
 顔を上げたエルスに見えたのは、血塗れの華園と倒れた何人かの仲間だけ。
 超越者ヴァイオレットの姿は、どこにもなかった。

成否

成功

MVP

リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者

状態異常

アーリア・スピリッツ(p3p004400)[重傷]
キールで乾杯

あとがき

 ――超越者ヴァイオレットの撃退に成功しました

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