シナリオ詳細
迅・天黎と初めての冒険
オープニング
●迅・天黎は訓練したい
からりと晴れた青空の下。
日差しに赤みを増した大地に白い雲が悠々と漂い、時折遠景に飛翔する影が過ぎていく。
そんな『亜竜集落フリアノン』に、テンションあげあげハーモニアな声が響いていた。
「竜ですよ!ㅤ竜!ㅤドラゴンです!ㅤすっごいすごい!!」
ギルド・ローレットのイレギュラーズ――付け髭がチャームポイントのピンキィ長耳ガール、ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)の声である。
「来訪者だよ! 来訪者! イレギュラーズだ! すっごいすごい!!」
一方、フリアノンサイドにもあげあげテンション女子がいた。
集落に外からの来訪者が来たという話を耳にして、亜竜種の『迅・天黎(じん・てんれい)』である。彼女はワイバーンや幼竜を育てる迅家と呼ばれた名家の血筋。卵から孵ったワイバーンを調教する事を仕事にしている。あまり里の外に出たことがない、言うなれば『箱入り』お嬢さんだ。
やがて2人の目がぱちりと合い、んびびっと何かが通じ合った。
「「はじめまして!!」」
それは運命的な出会いだった――。
「天黎さんも竜種が好きなんですね!」
「うん! ウテナさん、いつか成竜を見に行こう! アタシは、いつか竜種の体を撫でる! ついでに鱗を貰うんだ。仲良しの証ってね。その夢のために、一緒に頑張ろう!」
笑顔で約束を交わし、けれど、と天黎は眉を下げて両手の人差し指の先っちょをツンツン合わせて。
「けどアタシ、腕に自信がないんだ」
「そうなんですか?」
「アタシは、里の中で過ごしてばかりだったから。……夢を叶えるためには、やっぱり実力を付けないとだよね」
ちらっ。
天黎が外の方角を視た。そして、ウテナの手を取り、ぶんぶん振った。
「ねえねえ! よかったら今から行かない?」
「えっ、どこに?」
「――実戦訓練!」
断られると露ほども思っていない、天真爛漫な笑顔。
それは、ドキドキがいっぱいの初めての冒険のお誘い――。
●『覇竜領域トライアル』
覇竜領域デザストル。ラサへと繋がる『竜骨の道』を辿ることで亜竜種達の集落へと到達したイレギュラーズ達は、亜竜種達と接触し縁を紡ぐ事に成功し、亜竜種『フリアノン』の里長である珱・琉珂はイレギュラーズ達に提案した。
「これも何かの縁。あの『滅海竜』を封じて『怪竜』と戦う……それに私たちへと力を貸したいとアナタ達が言うのだもの! なら、覇竜領域トライアルをはじめましょ?」
『覇竜領域トライアル』。
覇竜領域で力と心を示し、そこに生きる民と絆を結び、信頼を勝ち取る冒険の始まりだ。
●そんなわけでお外です。
「おやつ持った! 武器も持った! 水もおっけぇ! あっ、ワイバーンだ!」
『亜竜集落フリアノン』の外、山岳地帯。
「あのワイバーンの種類は飛ぶより走る方が得意なんだよ」
空を悠々と飛ぶワイバーンを指して、天黎がぱたぱたと駆け出した。上に気を取られて走る前方には、岩のような図体の亜竜が口をぱっくり開けて獲物が射程に入るのを待っている。
「天黎さんー--!! 前、前ー---!!」
悲鳴をあげて天黎を引っ張るウテナ! 2人の横を亜竜の牙が通り過ぎていく。
~~しばらくお待ちください~~
「あ、あの形の亜竜(モンスター)は炎を吐いて――ぎゃあ!」
「天黎さんー--!!?」
~~しばらくお待ちください(2)~~
「任せて! ワイバーンなら詳しいから! 絶対いけるから!」
「天黎さー-----ん!!」
イレギュラーズのパーティは、こんなノリで明るく楽しく笑顔が絶えない(ブラック企業の宣伝かな?)冒険に出かけたのであった!
- 迅・天黎と初めての冒険完了
- GM名透明空気
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年02月14日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
「冒険だぁー---ー-っ!!」
天黎が全身全霊で声をあげた。
「初依頼! がんばるぞー!」
『宝石ぱくぱく』ユウェル・ベルク(p3p010361)が冒険は得意分野だと両手を振り上げる。
この日、初冒険組である『嶺上開花!』嶺 繧花(p3p010437)は同様に両手を上げて覇竜の咆哮を響かせて。『特異運命座標』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)を見上げて首を傾ける。仲間に釣られて高揚を感じていた大柄のライオリットは破顔して一緒のポーズをしてくれた。
「取り敢えず、腕試しみたいなものと思えばいいっスかね?」
ちらっと窺う眼は先輩に向いて。
「まだまだ自信はないし、先輩たちの力は遠慮なく頼らせてもらいまスよ」
ちなみにこの手はもう降ろしていいっス? と問えば繧花が頷いた。
「天黎君、面白い夢を持っているんだね。確かに浪漫があるかも!」
でしょ、と天黎が顔を輝かせる。繧花はその指先を包み込むように掬い上げ、八重歯の覗く笑顔を見せた。
「私も特訓、手伝うよ! 一緒に頑張ろうね!」
『泥沼ハーモニア』ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)が冒険旗をぶんぶん、はりきりハーモニアしている。
「実践訓練行きましょう天黎さん! うちに任せてください!ㅤすいませんやっぱり皆さんに任せてください!!」
ぽいっ。旗を放り投げる。キャッチしたのは『純真無垢』メリッサ エンフィールド(p3p010291)。両手で旗をふりふりして、周りのお兄さんお姉さんを見上げてニコーッと微笑む。
「天黎さんすごく楽しそうですね、私もこういう場所を冒険するのは初めてなのでドキドキしちゃってます」
旗を差し出せば、お姉さんが受け取ってくれた。
「はじめての冒険はワクワクするよね。外にはどんな世界が広がっているんだろうって感じでドキドキが止まらない!」
『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が受け取った冒険隊の旗を振る。スティアせんぱいに守ってもらうぞ、とユウェルが天黎の手を引いて後ろに下げようとする。
「てんれー、こっち! このせんぱい、つよつよだから安全!」
(つ、つよつよだって)
スティアの長い耳がぴくっと揺れてほんのり赤く染まった。
「それでは張り切っていこー!」
背伸びするような少女心は、意気揚々。
(冒険の先輩らしくきっちり捌けるって所をアピールするんだ!)
そんな内心をなんとなく察しつつ『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は天黎からチョコを受け取った。郷を出る前に入手して、おやつにしようと思ったらしい。全員に配り終えて自身も頬張る天黎はフェザーワイバーンとデミワイバーン、フライ・ワイバーンの違いについて語っている。
(知識があり、やる気は十二分か。上手く教えられれば、かなりの上達速度を見せそうだが……)
「旅は道連れ世は情け、ってか。ここまで来たら最後までサポートしてやろうじゃねぇの」
親指についたチョコを舐めるライオリットにハンカチを渡し、葵が後方を護るように最後尾を進む。巨躯を屈めるようにしてハンカチを受け取ったライオリットが「感謝っスぅ!」緑青鱗の尾を嬉しそうにぶんぶか振っている。葵の目には――(大型犬みたいな、いやいや)。
先頭ではスティアがガイドさんよろしく旗を掲げて岩の隙間から生える緑草や花を見つけては親しげに挨拶を交わし、情報を得て仲間に知らせてくれる。
さてさて楽しくデンジャラスな冒険のはじまり、はじまり――早速、汰磨羈が空から来るぞと呟いてメリッサもおずおずと周囲の危険を伝えた。
「あの、エネミーサーチで下にも敵意が感じられます」
繧花が耳に手を当てて声を潜め、絶妙な震え声でドキドキ実況している。
「近づいてくる物音と殺気……これは、下から? 土を掻きわける音が聞こえる――近づいてくる。爪でざくりって掘ってる。この刺さるような殺気! ぃや、来ないでッ……あァっ――く、来る!」「この冒険……ドキドキだね!」「あっちに走ろう」「逃げろー!」みんなで一斉に走り出せば、後ろで何かが飛来して地面から飛び出した何かとかち合う音がしていた。
「きゃー!」
(楽しんで貰えるといいな)
みんなで笑いながら逃げる中、スティアはそっと全員の顔を視た。
(危ない時は私達がフォローすればいいからね。実践形式で学んでいってもらえれば良いかな?)
冒険は、心が折れてしまいそうになる辛い事も多い。けれど、楽しい思い出や仲間との絆が辛い道を支えてくれた。いつだって笑い合えば、前を向く力が湧いた。真面目ばかりでは折れてしまう心も、支え合う喜びと絆で強さを得て、抗い戦う力が増すのだ。
(だから、私はみんなの「楽しい」を大切にしたい)
ネオサイクロプスとサイクロプス・スタチューを発見し、避けて。
「あ、ジャコウワイバーンが飛んでる! 追いかけていったら良い草が採れるかも」
飛び出そうとした天黎の首根っこを繧花と2人がかりで掴み留め、汰磨羈が首を振っていた。
「今回はあくまで訓練だからな。手頃な相手を狙う事を承知して欲しい」
広域を識視俯瞰する瞳は冷静沈着。ドレイクが大顎蛇を追いかけているのに気づき、また進路を変える。
「まずは、自制心を鍛えて貰う……ワイバーンは回避だ!」
「できる限り小さいやつからに一票っス!」
ライオリットがウンウンと頷く。繧花が「スライムがいるよ」と報告をする。「動きがゆったりとした、ああいうのを相手にして――」声を背景に天黎が「あっ、ワイバーンだ「天黎さーーーん!? いきなりそれはマズイと思うよーーー!?」繧花の制止を振り切って全力疾走する天黎! 使い魔の鳥の視界を伝えるユウェルが「あっ」現実の視界に呆然とする。ウテナの声が青空に反響した。
「ワイバーンは避けていく方向あれえええええ天黎さんが突っ込んでいきますからね仕方ないですね!?」
「初めて外に出歩くんなら、気持ちは分からん訳でもないっスけどね」
『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)はその時、面倒見の良いお兄ちゃん然とした顔で口元に利き手の人差し指を立てつつ安全な岩影に手招きしようとして「こっちに――」言いかけて目を見開いて止まる。視界に映る「ひらっ、ばさぁっ」降下する何か「しゅたたたっキャーワイバーンサァン」自分から向かっていく誰か。仲間達の混沌とした叫び。
「天黎さーーーん!!」
「ワイバーン……アタシを連れて行って。自由なる大空へええぇぇ」
「いけません天黎さん、だめですぅ危険ですぅ」
「空の旅してみたくない!?」
「それ命と引き換えになっちゃうから!!」
メリッサが必死に羽をぱたぱたさせて天黎にしがみついている。ユウェルも「危ないよー」と引っ付いていた。
「いきなりピンチっス! 葵パイセーン!」
「がーんばれ、がーんばれ」
――しばらくお待ちください――
「が、がんばった」
「…――ハァ、ハァ。い、いけない、これは何としても彼女を守護らないと……!」
繧花が「私はさっき九死に一生ショーを目撃してしまった」という顔で蒼褪めていた。
「でも先輩方が何とかしてくれましたね!ㅤせーふ!!」
ウテナの隣でスティアと汰磨羈と葵が互いの健闘を讃え合い、真剣にルート相談をしている。そこで、ライオリットが白地に赤チェックの布を広げ、人数分のお弁当箱を手渡した。
「休憩が必要っスね。こんな事もあろうかと、弁当を持ってきたっス!」
「おお……なんて用意の良い」
「とんかつっスよ、とんかつ! 腹が減っては戦はできぬ、これを食べればどんな相手でも勝つ!っていう験担ぎっス」
「どんな相手でも」
天黎の目がギラッとした。慌てて手を振るライオリット!
「あくまで験担ぎっス! 弁当食べただけで勝てるなら誰も苦労はしないっス」
お弁当タイムは和やかだった。
「あ、野性のドラネコだ!」
「かわいーい!!」
「はい、ゆんゆん。あーん」
ユウェルがとんかつを繧花に差し出して「あーん」「なんちゃってー」自分でぱくりっ。ぐぬぬ顔の繧花に笑って、今度こそホントのあーん。繧花は懐から宝石を取り出して、お礼にどうぞと差し出し「ユウェル君、目の色変わって綺麗!」「えへへ、おいしー」2人、顔を見合わせてにっこり。天黎にも視線を向けて。
「てんれーてんれー、ワイバーンって何食べるの? やっぱりおにく?」
「お肉も食べるし草も食べるよ」
「宝石は食べないかな……美味しいのに……」
「岩場に向かう子を追いかけたら岩の間に生える草が……」
食事を終えて、食後の運動とばかりにライオリットが汰磨羈と剣を打ち合わせて「ユウェル君、私達もやろうよ!」「いいね!」繧花とユウェルがじゃれ合いみたいな格闘を始めた。
ウテナがシナン美草と呼ばれる清楚な草から情報収集して「もしもし!ㅤこの辺に根っこ食べてくるやつとかいますか! ふむふむ……あびゃ!」周囲から蔦が伸びてウテナとライオリットを絡め取り「なんか蔦が伸びてきてる気もするッスが、多分気の所為っスね……ぬわー!?」「ウテナさんライオリットさん!」「肉食植物でした!!ㅤこれはうっかりハーモニア!」「オレは筋肉ばっかりで、弁当にしても美味しくないッスよ!?」
ぼこぉっと地中から襲い掛かってきた敵に向け、持ってきた植木鉢から茨を急成長させるウテナ。
「ソーンバインド!」
茨姫がバインドする中、ライオリットが軍刀でしゅぱっと蔦を斬って距離を取る。
「皆さん、今なら戦いやすいはずです!」
頷き、茨姫ちゃんを燃やさないよう気を付けてファイアフライを詠唱するメリッサは虚空から現れた身の丈ほどもある大きな剣を両腕に抱える。小さなメリッサが剣の重みによろけたりしないかと心配して、ライオリットがそぉっとその背に回り、支えた。
「……ファイアフライ!」
発動の炎がシナン美草を燃やしていく。あ、とライオリットに気づいて視線を上に向け、メリッサが「ありがとうございます」と笑む。上と下で噛み合った視線が成功の喜びを分かち合い、頷き合った。
食事を終えて、再び冒険。
「プラント・リザードの子供だ」
つい触ってみたくなっちゃう。でも危険、とスティアがお道化て両手を腰にあて、仁王立ちのポーズ。
「ここは私に任せてみんな逃げて!」
「でもスティアさん!」
ちらっと振り返る。キリッと(ちょっとドヤッと)。
「私は死なないよ。絶対みんなのもとに帰るから」
ふっ、と片手を顎に当てて頷く。決まった――!! 格好良い感じになったぁー! 一通り耐えて、満足しながらてってってーっと敵を振り切って逃げる。余裕であった。
「怪我、大丈夫?」
合流した天黎が心配そうな顔をしているから白い指をくるくる回して。
「痛くない、痛くない~!」
傷が癒えて天黎がほっと胸を撫でおろした。
ぽつ、ぽつと地面に濡れた痕が生まれ始めたのはその時だった。雨だ、と呟いて。
「雨宿りがてら休憩を取ろう」
汰磨羈が指差したのは、せり出した岩が天蓋めいて空からの死角を作り出す一角。僅かながら濡れた体を温めるため、焚火を起こして囲み。奥に遺跡の入り口がある、と繧花が教える。
「攻略できる部分は全部攻略済なんだって。でも、攻略した冒険団はその時の探索が原因で壊滅して、立ち入る人もいないって聞いたよ」
ユウェルは両手を火にかざして、同じ火色に照らされる仲間達を順に見た。
「色々お話を聞きたいな! リヴァイアサンのことも気になるー! お話してほしー!」
「いいよ!」
「あっ、そういえばこの武器見て見てっス」
「ライオリットさん、それリヴァイアサンの鱗使った刀だね」
「えーっ、見せてーっ」
声を背景に汰磨羈は遺跡の入り口から中を確認していた。
「汰磨羈さん、大変」
「ドウシタ」振り向いて仲間の元に――カタッ。どきっ。物音に様子を窺う……何も起きない。気のせいか。
「花が踊ってる」
「なに、踊る花? ……ホントに?」
観に行けば、地面から生える木人に花がダンスバトルを申し込んでいる。木人は別の依頼でも遭遇したな、と汰磨羈が情報共有すれば、ダンスしながら混ざったら友達になれたりして、と天黎が燥いでユウェルが「え? なにそれ楽しそう!」とついていく。「どうしてそうなる?」驚く汰磨羈に共感を示す葵。
天黎とユウェルは二人仲良く両手を組んで優雅なワルツで戦場へ――「ぎゃー---っ」数分後、救出されて並んで正座した。
「ごめんなしゃい……」
「ごめんなさい」
「反省してえらい」
スティアが2人をなでなでして、汰磨羈が教え諭し。
「損害が大きくなる相手の情報を早期に掴み、可能な限り回避して行動する。これもまた、戦士に必要な技術だ。よく覚えておくといい」
葵も助言をする。
「アドバイスがあるとすれば、そっスね、視野は広く持つ事っスかね。一つに拘って周りが見えなくなると自分だけじゃなくて周りにまで被害を及ぼす可能性があるって話っスよ」
今分かんなくても、その内分かってくるっスよ、と語る葵は、実戦でしか得られない感覚を知っていた。天黎は素直な目で頷いて呟いた。
「ありがとう」
雨が止み、一行は冒険を再開した。
「私が注意を引くね!」
スティアが天真爛漫に手を叩いて敵を誘えば、ぼこぼこと地面から魔モグラが釣れて。
「スティアさん、頼りになります!」
「絶対にいつか強くなって、借りをお返ししますから!」
メリッサと繧花の声援にスティアのお姉さんゲージがぐぐぐっと上がっていく。
「任せて、お姉さんだからね!」
汰磨羈は地中から現れた魔モグラに舞刃白桜を見舞って敵の数を間引きした。メリッサが創鍛した疑似生命が足元でコロコロしながら戦っている。ふくふくした尻尾、三角の耳、猫のような狸のような或いは――「猫だな」断ずれば疑似生命は「わかってくれた!」って目で汰磨羈を見上げる。
「間違えるものか」
ぴょこんと跳ねて肩に乗る疑似生命が人懐こく頬擦りした。喜んでいる。
「そら、好機だぞ。打ち込め!」
「ぉ、おおっ!!」
ライオリットが速力を撃力に変換した刀で魔モグラの腕を斬り払った。続けぇ、と声をかければ繧花が後ろから駆けて、すれ違い様にライオリットの丸まった尻尾をパシッと叩いてクッと姿勢を低めて速度を増し、魔モグラの鼻っつらを蹴りあげた。勢いのまま一回転して「やぁっ!」集気し練りあげるように掌撃を繰り、気を固めるように両手を合わせて「キャノンッ!」光塊を押し出すように突き出し、爆発させる! ドォッと迸る光柱に紛れ込んで天黎がえいやーぱんち。魔モグラが「うぉまぶしっ」て顔でなすすべなく倒された。やったーと燥ぐ初冒険組の背を狙う一体目掛けて、葵が綺麗なフォームでボールを蹴る。熟練組は必要な分を見定めて手助けしている。経験を積ませるためだ。
重心移動は慣れた感覚で、荒れた大地を踏む足は優れた体幹に支えられ。振る足は軽妙、インパクトは強烈。グラビティスマッシュは吸い込まれるように敵に向かって敵の悲鳴を生む。美技に歓声が沸いた。
「オレ達がいるとはいえ保身第一っスよ、そこだけは忘れんな」
「あ、ありがとうございます」
「グッジョブっスパイセン!」
和む勝利ムードに汰磨羈が鋭く警告する。
「騒ぎを聞きつけて大物が来るぞ。撤退時だ」
「疑似生命を囮に時間稼ぎをします!」
メリッサが疑似生命を走らせ、背を向けて全員が撤退した。
「にげろー!」
ユウェルが左手を天黎と、右手を繧花と繋いで走り出す。途中で手を解いて。
「あの岩まで誰が一番に着くか競争」
「負けない!」
「おにーさん足はっや」
敵を振り切り落ち着いてから、ユウェルが一等賞の花を葵に差し出す。記念に押し花にでもするか、と考えながら葵が受け取って。ウテナとメリッサが「勉強になりますね」と語り合い互いの擦り傷に絆創膏をぺたぺた貼りあいっこした。
「お疲れっス。色々あったけどとりあえずはOKっスね」
葵が総評すれば汰磨羈とスティアも頷いた。
「上出来だ」
可能性を秘めた全員を順に見て、褒めて。天黎が元気いっぱいに感謝を告げた。
「おかげですっごく楽しかった! ありがとう!」
(さて、どんな伸びを見せるかな?)
先輩組は顔を見合わせ頷きを交わした。
そして、別れの時間がやってきた。
――オレも、この大きな体で飛べるだろうか。
夕暮れ空を頭上に冠り、ライオリットは仲間と肩を並べて己が一歩を踏み出した瞬間を心の中に大切に抱く。これまで自分が思っていたのと違う、未来への道が広がっている。それは、確信だった。
「ハンカチは洗って返すっス、葵兄貴!」
「オレ実は年下」
「……マ?」「マ」
やりとりの中、繧花が心配した家の人達にお迎えされている。ただいま、と言う声を聞いてメリッサも家が恋しくなれば、スティアがその頭を優しく撫でた。
「楽しかったね」
「はい!」
ウテナとユウェルはまだまだ元気。
「またねー! ワイバーン育てがんばって! うおー! ユウェル、これからイレギュラーズとして頑張っていきます!」
「うちも更なるテンアゲハーモニアになりますよ! あっワイバーンだ」
ラスト一声、超反応で飛び出す天黎! 解散しかけた一行が声を合わせる。
「「あああああああええええええっ!!??」」
――郷の入り口で最後にワイバーンが釣れて大騒ぎになったのは、ご愛敬!
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
冒険お疲れ様でした! 天黎「楽しかった!! また冒険しようね!」
MVPはお弁当を持ってきて語り合う時間のきっかけ作りをしてくれたライオリットさんに。
初めての冒険の方も数人いらして、先輩組と天黎&初めて組との冒険って雰囲気になりましたね。名前が出て来たモンスターの一部(フェザーワイバーン、デミワイバーン、フライ・ワイバーン、ジャコウワイバーン、ドレイク、大顎蛇、プラント・リザード、木人、ネオサイクロプス、サイクロプス・スタチュー)は他GMの今日までの覇竜依頼でも出ていたりします。「どの依頼にどのモンスターが出てるんだ! 見付けてやるぞ!」と探してみるのも楽しいかもしれません(時間に余裕があって、情報収集して知識を仕入れたりリプレイを読むのが楽しいって方向けの遊びです。特にそれをやったからといって何かあるわけではありません)。
GMコメント
おはようございます、透明空気です。今回は覇竜での冒険です。
軽いノリのワイワイエンジョイ系なので、天黎といっしょに楽しく冒険してください。
●オーダー
迅・天黎を連れてフリアノン周辺で楽しく冒険して無事に帰る事。
●ロケーション
・『亜竜集落フリアノン』
竜骨の道から繋がっている集落です。巨大な竜フリアノンが洞窟と合わさり出来た集落だそうです。
竜骨の道はフリアノンの尾であり、隠里クスィラスィアでもそれは神聖なる場所として扱われています。
★フリアノン周辺
フリアノンから出ると閑散とした山岳地帯が広がっています。空をワイバーンが飛び回り、地中から突然ぼこっと魔モグラや肉食植物が蔦や爪を伸ばし、岩だと思って近づいたら亜竜だったりするデンジャラスな山岳地帯です。程近い場所にピュニシオンの森が存在しますが、踏み入らないようにして下さい。死にます。
●遭遇率が高い敵
・ワイバーンさん
空を飛んでいることもあれば、降りてきて獲物をザクザクしたり持ち上げて落として遊んだり、そのまま掻っ攫おうとしたりすることもある敵です。
・魔モグラさん
敵は下から来るぞ気を付けろ! なモグラさんです。
・肉食植物さん
蔦をしゅるって絡めてくれます。
・他
「こんな敵いそうだよね」って書いてみたら出てくるかもしれません。
●味方
・迅・天黎(じん・てんれい)
ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)さんの関係者です。
亜竜集落フリアノンに住まう竜種マニアの亜竜種。ワイバーンや幼竜を育てる迅家と呼ばれた名家の血を引いており、卵から孵ったワイバーンを調教する事を仕事にしています。ワイバーンも幼竜も制御が難しく、少し育てた後に野生に放つことを繰り返しています。
天黎は何時の日か、其れ等を完璧に育て上げて仲良し成竜にすることを目標としています。
彼女は里の中でのワイバーン達の教育にこれまでの時間を割いてきたために戦闘能力には乏しく、それでも「訓練して実力をあげる!」と意気込んでいます。竜種という上位存在への憧れがあるからです。
覇竜領域を出る事の無い彼女は、とっても強くて恐ろしい竜種へと最接近して、その体を撫でさせて貰うことを幼い頃から夢に見ていました。その夢を叶えてくれるのがリヴァイアサンを封じた英雄譚、めちゃめちゃ強くてすご~いイレギュラーズ達の存在なのです。
知識だけは一人前であるために意気揚々と飛び出しては返り討ちに遭いそうになることが多いです。このため、一緒に連れて歩くと(無対策だと)気づいたらいろんな地雷を踏み抜いてモンスターに襲われまくってしまいます。
死なないよう、いい感じに楽しく経験を積ませてあげてください。
●情報確度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、お外は危険なので。
以上です。
それでは、楽しい時間をお過ごしください。
Tweet