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シナリオ詳細

醜悪なりし蛇の魔人、求むは無垢なる花嫁

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 暗き洞穴により構成された『亜竜集落ペイト』はかつて『地竜』とあだ名された亜竜種が築いたのだという。
 その一帯は、蟻の巣のように複数の地下空洞が広がっている。
 洞穴や地底湖、さらには古代遺跡なども点在しているそれらの地下空洞は、多種多様の地中生物たちがわらわらと生息している。
 そんな地底の集落にて住まうは武闘派の亜竜種が多いのだという。


 ペイト周辺にある地下空洞を何かを引きずるような音が反響する。
 それらの反響音は、よくよく聞けば8つほどあることが分かる。
「偉大なるデルピュネス様、我らの主様。この度のピュトンの餌を取りに行くのでしょう?
 どのような者なのです? 屈強なる男? 麗しき乙女? 汚れなき処女に無邪気な少年?」
 そう言って笑う女の下半身は、蛇のそれであり、上半身は人のそれだ。
 その顔には邪悪な蛇の眼と大きな牙が見え、その両の手の爪は鋭くとがる。
「乙女がいいですわ。乙女がよい。乙女の血のおこぼれはとても美味しいですわ」
 別の女がそう言えば、他の女はまた別の好みを語る。
 それはまるで傅くようにして1匹の男へと各々の好みを告げている。
「騒がしい。此度は決まっている。お前達は着いてくるだけで良い」
「あら、うふふっ。さすがはデルピュネス様、もう獲物を決めてらっしゃるのね」
「それは良いわ。それは良い。えぇ、早く美味しい獲物が食べたいのですもの」
「声を落とせ。そろそろであろう」
 そう言って男が言えば、8つの影は大空洞にて自然にできた岩影へと身を顰める。
(……全く、下賤な蛇どもめ。汚らわしい蛇共め。
 貴様らのような腐った化け物に、あの娘をくれてやるわけがあるまいに!)
 心の内、嘲笑する男は、じぃ、と静かに向かいを見る。
 そうやって見ていれば、やがて3つの影が見えてきた。
 その影は一見すると8つの影と似た風貌である。
 蛇のような下半身に、人のような上半身。
 美しく健康的な肌艶をした、その3人は親子である。
 亜竜種――その中でも、東洋龍のような下半身を持つ、たしかなこの世界の人類だ。
 人間で言えば4~50代を思わせる壮年の女性と、20代の妙齢の女性、そしてまだ10歳ほどにしか見えぬ幼き少女。
 母親と、娘2人。仲睦まじく、警戒を忘れずに歩いている。

 あの娘と出会ったのは偶然だった。
 あの娘と出会ったのは運命であった。
 魔物――デルピュネスは、獲物を探していたある時に見た少女の顔を、今の今まで片時も忘れてなどいない。
「見えたぞ――あの3人組だ。
 年配の女と若い女はどうでもいい! あの幼子だけは生きて連れて帰るぞ!」
 そう言うや、デルピュネスが岩陰から飛び掛かり、それに続いて7匹のデルピュネーが飛び掛かる。
(あぁ! あぁ! なんとも愛おしき姫よ! 我が妃に相応しいか!)
 ――愉悦を浮かべるデルピュネスのその表情は、きっと魔物であることを差し引いても醜悪な事だっただろう。


「杏璃! 貴女は走って! 村にこのことを伝えて!」
 そう叫んだ母の声に、杏璃はなりふり構わず走り出した。
(どうして――どうして、デルポイの手先がここまで!?)
 脳裏によぎるのは、追ってこない8匹の魔物の事。
 滑る下半身が擦り切れようが、何か尖った物に刺さろうが、そんなことは知った事じゃない。
 妹が――母が、今も襲われている。
 それを考えれば、自分の身体が多少痛むぐらい、大したことはない。
 かすむ視界、切れかける体力を振り絞って、杏璃は速度を上げた。


 君達が亜竜集落の一つ、ペイトへと訪れると、慌ただしさがあった。
「どうしました?」
「ん? 見かけぬ顔……外から来た例のやつらか」
 何やら指示を出していた男の亜竜種に声を掛ければ、彼は此方を少しだけ見る。
 その身体には鎧をまとい、手には槍を握り、如何にもこれから戦いに行くとばかりだ。
 隆々とした筋肉と装いを見るに、戦士の類なのだろう。
「デルポイの手先……いや、まずはデルポイから説明せねばならんか。
 ペイトの付近に、旧デルポイ神殿と呼ばれている場所がある。
 ここには……正直不快なんだが、俺達と同じように下半身が龍あるいは蛇のようになっていて、上半身が人間の魔物が住んでいる。
 奴らは雄個体のデルピュネスを支配者階級、雌個体のデルピュネーを非支配者階級とする男尊女卑社会の化け物だ。
 その化け物が、俺達の同胞を誘拐した。これから急いで救出に向かう」
「手伝わせてほしい」
「……分かった。直ぐに準備しろ、急がねば間に合わん。
 もしも旧デルポイ神殿まで到着して、亜竜ピュトンなど出てきてもらったら最悪だ」
「亜竜ピュトン? それは一体?」
「あぁ、旧デルポイ神殿付近に住んでいる亜竜だ。
 地を這う超大型の蜥蜴のような亜竜でな。凄まじく聴覚が良い。
 デルポイの手先共は奴に門番をさせる代わりに、あの魔物に餌を提供してやがる」
 忌々しいとでも言いたげに、男は舌打ちを一つ。

GMコメント

 さて、皆様こんばんは。春野紅葉です。
 攫われてしまった亜竜種の女の子を助けに行きましょう。

●オーダー
【1】香凛の奪還・救出
【2】デルピュネスの討伐
【3】デルピュネーの撃退

【1】を絶対条件とします

●フィールド
 ペイト近郊に存在する遺跡へと続く地下空洞です。
 更に奥へと進むと旧デルポイ神殿と呼ばれる遺跡へとたどり着きます。
 空洞は広く、戦闘に支障はありません。
 ただしやや暗いために対策の無い場合は少しばかり命中、回避にマイナス補正がかかります。
 また、戦闘終了後は早々に退却するようおすすめします。
 ゆっくりしていれば死にかねません。

●エネミー
・『壮健なる』デルピュネス
 下半身が蛇(ないしは東洋龍)のような姿に人間の身体をした青年男性。
 幼気な幼子を嫁として略取しようとする変態です。
 魔物ですが人語を介し知性を持ちます。
 とはいえ、折角『嫁』として攫ってきた香凛を皆様へ返す気はありません。
 ただの『撃退』では態勢を立て直して再来するでしょう。
 討伐する以外ありません。
 豊富なHPに加え、抵抗、各攻撃力が高く、EXAも高め。

 多様な状態異常をもたらす魔術を使いこなすほか、近接での物理攻撃にも長けています。
 また、その両眼は【停滞】と【呪縛】、【石化】をもたらす邪眼となっています。

・デルピュネー×7
 下半身が蛇(ないしは東洋龍)のような姿に人間の身体をした女性。
 魔物ですが人語を介し知性を持ちます。
 今でこそデルピュネスの命令通り香凛を連れ去っていますが、
 彼女達はデルピュネスが香凛を嫁にするつもりだとは知りません。
 もしも知ってしまった場合、香凛を囲う彼女達は嫉妬に狂い、香凛へと危害を加えるでしょう。
 彼女達にとってデルピュネスは将来は夫となるはずの魔物なのです。

 手に持つ刀剣類や魔術などにより攻撃を行ないます。
 デルピュネスよりは数段劣ります。

・『デルポイの門番』ピュトン
 旧デルポイ神殿の門番もとい門付近に生息する亜竜です。当シナリオでは基本的には出会いません。
 とはいえ、もしも戦闘が極端に長引いてしまった場合、この亜竜は皆様の下へ顔を出す可能性があります。
 そうなった場合、出来る限り撤退をおすすめします。
 デルピュネス&デルピュネー戦で疲弊した状態ではまず勝てません。
 非常に鋭い聴覚を持つとのこと。

●NPC
・櫻
 亜竜種の女性、香凛の母親。救出対象。
 香凛を庇っていたためについでとばかりに攫われてしまった女性。
 ある程度は自力で戦えますが、香凛の守りに徹する構えのため、戦力には数えられません。

・『蛇姫』香凛
 亜竜種の少女。救出対象。
 魔物に同族と思われ攫われてしまった幼気な女の子。
 亜竜種ですが、人間種でいうと10歳相当の幼子であり、恐怖におびえています。

・亜竜種戦士団×10
 下半身が蛇のタイプの亜竜種で構成された香凛救出のため組織されたチームです。
 基本的には戦闘には参加せず、皆様を見定めつつ、櫻・香凛親子救出を最優先とします。
 香凛が救出されればその護衛、最悪のケースとしてピュトンと遭遇してしまった場合は殿として奮闘してくれます。

・杏璃
 亜竜種の少女。香凛の姉。
 母の指示で今回の事件をペイトに持って帰ってくれました。
 リプレイには基本的に登場しません。
 救出後の後日談のようなものがあれば、ぐらいです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 醜悪なりし蛇の魔人、求むは無垢なる花嫁完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月08日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶
エドワード・S・アリゼ(p3p009403)
太陽の少年
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

リプレイ


(――お母さん……!)
 魔術で拘束された手を伸ばす。同じように拘束された母が、少しだけ近づいて笑いかけてくれた。
 その微笑みが、少女にとっては今ある中で唯一の安らぎだった。


 やや仄暗い空洞を走る音が鳴り響く。
 反響音の先からは、何かを引きずるような音がする。
「例のピュトンとやらが現れる前に片を付ける必要がある、と。誰か討伐に動いた事は過去にあったのか?」
 じき追いつこうという中で『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は戦士団へと問うた。
「あぁ、我々の同胞が過去に2度、討伐に動いている」
「なるほど、フリアノンの亜竜種と敵対している別種族の建造物という所でしょうか?」
 その苛立つような、焦るような口ぶりを聞きながら『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)の言葉に戦士が頷いて。
「これは、第二次討伐隊の情報から推察したものだが……」
「おや、その口ぶりではまるで……」
 リーダーの言葉に『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は眼鏡の位置を微調整する。
 2度に渡って動いた討伐隊。そのうちの2回目のみからの推察――それは。
「……まず、第一次討伐隊は、言葉通りの意味で全滅した。誰一人、帰ってこなかったのだ。
 第二次討伐隊は『帰還することを大前提』とする作戦で動いた。
 それでも、20人ほどの討伐隊のうち、帰ってこれたのは2人だけだった。
 ピュトン自体、強力な亜竜だが、デルポイ神殿への攻撃……つまりは、デルピュネスとデルピュネーとも同時に戦うことになる。
 デルポイの手先共に魔術で動きを封ぜられ、我々の同胞の多くは次々と殺され、食われていった」
 まるで見てきたように、そう戦士長は語った。
 あるいは――もしかすると、本当に『見てきた』のやもしれないが、それを考えるのは今でないか。
「そうなりますと、たしかに亜竜と戦う際は注意せねばなりませんね。
 ふむ。彼らも運がない。この面々が奪還者とは、ね」
 亜竜とデルポイの手先とやら。それらが連携力を以って更に脅威となるのであれば、なおさらのこと。
 亜竜と遭遇する前に狩りつくせばいい。
 この8人ならば、それが可能であることを寛治は分かっている。
「どうあれ、嫌がる少女を無理やり攫って力づくでモノにしようなんざ男の風上にも置けねえ。
 遠慮も容赦もなく、一瞬で粉微塵にしてやる」
 寛治の言葉に説得力を増させるような『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)の殺意もあれば。
「ま、嫁のもらい方なんざ部族によって様々だろうがよ。流石にダセェだろ」
 雄獅子の毛並みを切って走る『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)の足取りは確かに前の音を聞いている。
「どの国でも酷い案件はあるものなのね……早く助け出してあげなきゃ!」
 呟く『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)は今なお恐怖の只中にいる少女を思う物だ。
「幼子と母親が攫われた。ならば助けなきゃ……って思うのが人情ってやつだよね」
 その先が売り払われるのか、娶られるのか、食われるのか、その差こそあれど、それらは等しく不幸な結末にしかなりえない。
 男尊女卑の社会性の魔物なのだと聞けば、それはなおの事だろう。
 そんな不幸っていう奴が、どこにでも転がっているのが『世界』というものであることも『今は未だ秘めた想い』ハリエット(p3p009025)は知っている。
「自分勝手に攫ってきて、相手の気持ちもわかんねーまま好きなようにしたって、そいつと仲良くなれるわけねーよな。
 香凛のこときちっと助けて、デルピュネスのにーちゃんにもそれを伝えられたらいいな」
 そう言う『ドキドキの躍動』エドワード・S・アリゼ(p3p009403)の優しさは、仄暗い洞窟の中を微かに穏やかにする。


「――見えたぞ! あれだ!」
 戦士団のリーダーが声を上げる。
 なるほどたしかに、そちらには先を行く集団が見て取れた。
「アンタ達戦士団が二人のところに行けるように、まずは道を作る。
 開けたら仲間が二人を抱えて戻ってくるから、それまでは焦らずに身を守って。いいね」
 ハリエットが戦士団に言いながらも銃口をデルポイの手先たちへ向ける頃には、イレギュラーズの動きは既に始まっている。
「じゃまぁ、行こうぜ!」
 最速で動いたのは、言うまでもなくルナだ。
 速度をはね上げて跳躍するように走りだす。
 気配を殺し、跳躍すれば壁面を踏みしめ斜め下を見下ろす。
(――はっ、がら空きじゃねぇか)
 獲物を狙う猛禽類の如く、そっと息を、気配を殺す。
 ルナの事を警戒する敵の姿はなかった。
 最速で駆けるルナに続くように、ベネディクトが走り抜ける。
「亜竜種どもとも違う……何者だ貴様ら!?」
「彼女の居るべき場所へ彼女は返す。騎士として、お前を許す訳にはいかない」
 語るまでもなく、たった1人の男の魔物――デルピュネスを見定め立ち塞がれば、こちらのことが分かっていないらしき魔物が激昂する。
「き、騎士だと!? 何だか知らんが、邪魔するというか!!」
 デルピュネスがその両手に魔方陣を描きながら怒り狂う。
 それを無視して、ベネディクトは真っすぐに槍を払う。
 美しき軌跡を描いた刺突がデルピュネスの身体に傷を入れた。
 それは己へと課した誓い。己が意志を乗せた刺突は美しく、デルピュネスの体制を突き崩す。
「負ける心算は毛頭無い。お前が俺を倒すか、それとも逆か。我慢比べと行こう!」
 騎士の挑発に、デルピュネスの視線が注がれる。
「いい的だね」
 ハリエットは銃をひと固まりになった女型の魔物――デルピュネーへ向けて引き金を引いた。
 鋼の驟雨が降り注げば、優れた狙撃技術を以って狙い澄まされた弾丸はデルピュネーのみを撃ち抜いている。
「我がはなよ――」
「よぉゲス野郎。テメェみてえのと長々会話する気はねえ。さっさと地獄に落ちやがれ!」
 デルピュネスが全てを言い終える前に、ベネディクトとは別方向から回り込んだルカの剣が黒き軌跡を描いた。
「がはっ!?」
 大胆に、苛烈に追い立てる猪鹿蝶の三連撃がデルピュネスの身体を逃すことなく食らいつけば、敵の意識を無理やりこちらへ追い立てるに問題はない。
「お、おのれら! 俺が誰か分かっての狼藉か!」
「知るかよ、テメェ見てぇな三下」
 激昂する魔物へ挑発的に笑ってみれば、魔物の激昂が戦場に響く。
「貴方達にもやり方はあるのでしょうが、誘拐はいただけませんね」
 魔晶剣に稲光を纏うリースリットがデルピュネスの眼前へと到達したのはその時だ。
「そうね、保護欲なら解るけれど……結婚相手として見るのはちょっとわからないわ」
 デルピュネーに囲まれる幼子と母親を目の端に捉えながら、エルスも全力の速度で前へ。
 出来る限り声を殺して敵へとそのことを悟られぬように気にかけながら、大鎌を振り抜いた。
「小娘どもに何ができる!」
 連続する猛攻を受けるデルピュネスの瞳に映えたのはエルスが放つ次なる一撃。
「小さいからって油断しないでちょうだい。これでも私は子供ではないのよ?」
 月光に輝く次をその身に浴びた男がその身体に痺れを残す。
 続くように、リースリットの放つ雷光が迸る。
 尾を引く稲光が眩く輝き、避けがたき雷霆となってデルピュネスの身体をこれ以上ないほどに拘束する。
 スパークを残す男がリースリットを睨んだ時、既にその剣身には霧氷が揺蕩っている。
「貴方達はここで一人残らず打ち倒します」
 振り抜いた絶凍の刃が敵の身体をスパークの上から凍り付かせた。
 魔物達がイレギュラーズを把握したその時、寛治は自分の役割が正しく作用したことをすぐに理解した。
 ベネディクトに抑えられたデルピュネスを除く他の魔物の全てが既にその視線を寛治に向けていた。
「さて、Ace of Aces達の競演、特とご覧に入れましょう」
 今更になって眼鏡を拭いてみたり、露骨に隙を見せれば、魔物達の注意を引くには十分だ。
「間抜けな獲物! 間抜けな獲物です! まずそうだけれど、女より弱そうな獲物です!」
「素敵ですわ! 肉が無さそうですけど、素敵ですわ! あれも餌にしましょ!」
 釣れるに釣れる魔物を見ながら、寛治は一言。
「では、エドワードさん、護りはお願いします」
「おう! 任せてくれ! ぜってー倒れねぇ!」
 振り上げられた剣を、突き出された槍を、代わって受けたエドワードが受け切った。
 エドワードの身体に複数の傷を生んだ複数の刃は、その実、エドワードを倒すことはできない。
 それらの動きを見届けたルナは、再び跳躍する。
 壁面から大地へ。くるりと身を返して受け身を取り踏みしめば、そこは捕らえられた親子の眼前だ。
「ひっ!? だっ、だれ……!」
 怯えるように声を上げた幼子と、それを守るように前に出てきた女。
「そう睨むなよ。アンタらを助けに来たんだぜ」
 移動に困りそうな拘束だけ先に外せば、怯えた様子の幼子が目に移る。
 腰を抜かしているのか、立てない様子の少女へ少しばかりの溜め息をひとつ。
「てめぇは震えてるだけか? 俺が知ってる女っつーのは、けして弱くねぇ。
 てめぇの姉ちゃんや、目の前の母ちゃんみてぇによ。ほら、てめぇの足で立て」
 とはいえ、目の前の少女はあまりにも幼い。
 まだ守られていてしかるべき年頃の少女でもある。
「ダメなら、今回だけは乗せてやるがよ」
 ぶっきら棒に告げて背中を向ければ、少女はおずおずと手を伸ばして背中に乗った。
「アンタは……走れるな」
「……えぇ」
 拘束を除いた母親から返答を受ければ背中へ声をかける。
「ちっと荒っぽくなるが、手を離すなよ、それぐらいできんだろ?」
「う、うん……」
 ぎゅっつ背中にしがみつかれたのを感じて、黒獅子は走り出した。


「アンタらは先に帰りな」
「うん、ここは私達に任せて」
 亜竜種母娘を守るように固まっている戦士団にルナが告げれば、それにハリエットが肯定する。
「あぁ、分かっている。お前達も無理をせず帰ってくるのだぞ」
「はっ、誰に言ってんだ」
「うん、大丈夫」
「あぁ、ここは任せな! 心配いらねえよ。誰も死なせねえ為の仕事をするだけだ」
 2人に続けて、前線で戦うルカが背中越しに告げた言葉を聞いて、戦士団のリーダーが号令を発すれば、彼らは足早に撤退を開始していった。
「――き、貴様らァ!?俺の花嫁を!!」
 轟く激昂。
「ダセェよ、蛇野郎」
 合わせるようにルナは引き金を引いて弾丸を叩きこんだ。
 刹那、デルピュネー達が顔を上げる。
「花嫁?」
「おかしな言葉!」
「そうですわ。おかしな言葉ですわ! あれは私達の餌ではありませんか!」
 口々にデルピュネー達が声を上げた。
「なんと嫉ましい!」
「なんと憎たらしい!」
「「私たちを差し置いて!!」」
 今更怒ろうと、彼女達の機動力ではとても間に合うまい。
「目障りな者共め、俺を攻撃するだけに飽き足らず、我が嫁を奪うとは!」
 激情にかられたデルピュネスの頭上に複数の魔方陣が浮かべば、文字通りの雨の如く魔弾が降り注ぐ。
 怒りもあってか、狙いの甘い魔弾の多くはイレギュラーズへ致命傷を刻むにはあまりにも貧弱だ。
「私達を倒すには足りないわね」
 返す刃を振り抜いたエルスの鎌が大きく弧を描く。
「囀るか、それがただの強がりでなければいいが!」
「強がりとかでもないんだけれど?? ここ(混沌)はなんで見た目で判断する方が多いのかしら!!
 跳躍と共に見舞う連撃が形成された魔方陣を断ち割り、ついでとばかりにデルピュネスの腕を斬り飛ばす。
「とっとと死にやがれ!」
 腕を庇い、慄くように後退したデルピュネスへ、追撃とばかりにルカの斬撃が振り下ろされれば、その暴威の三連撃がもう片方の腕を吹き飛ばす。
「どうやら、俺達がお前を倒す結末のようだな――」
 踏み込むと刹那、振り上げた竜の爪の如き槍がデルピュネスの心臓を貫く。
 苛烈なる騎士の槍に食い破られた心の臓、これで最後――ではなかった。
 それは魔物ゆえの生命力か、ベネディクトの槍を掴んで、無理矢理に引き抜いた。
 夥しい流血と共に、命さえも消費されるだろう。
「お、俺の花嫁、愛しき花嫁、この世の秘宝! かえせ――かえせぇぇ!!」
 絶叫は断末魔のようでさえあった。
 無数の魔方陣が浮かび上がり、最後の全力砲撃が放たれる寸前、動いたのはリースリットだった。
「では、貴方は彼女の名を知っていますか? 彼女は貴方の妻となることを理解していたのですか?」
「なに!?」
「それも知らず、何が花嫁でしょうか」
 ほんの一瞬、魔物の動きが止まった。
 素気無く告げるリースリットは、その剣身へ束ねた精霊の旋風を叩きつけ――あがく魔物の命を粉微塵に打ち砕いた。
「あんなに小さな子を娶ろうとか、あいつ変態じゃん……アンタらも、そんなのがいいの?」
 ハリエットの心の内に芽吹き始めたばかりのその感情は、きっと果てたあの魔物とは違うものだ。
 声はデルピュネー共に聞こえただろうか。
 放たれた銃弾が、跳ねまわって戦場を突っ切り、1匹の脳天を撃ち抜いて、大地へ落とす。
 悲鳴さえなく死んだそれから、既に視線を別へ。
「……伝えてあげられたら良かったのにな」
 エドワードは斃れたデルピュネスを見ながら、思わずつぶやいた。
 それは人を信じ抜ける強さであり、優れた感受性からくるものだ。
 たとえ相手が悪なのだとしても、少年の思いは変わらない。
(……さて、それでは――あとは殲滅させるだけですね。
 禍根は断っておくにこしたことはありません)
 少年の言葉を聞きながら、寛治は静かに銃弾を魔物へと叩き込んだ。
 それはもはやどうしようもないほどに精密なる狙撃。
 撃ち漏らすことなどあり得ぬほどの必中を思わせる弾丸は、いっそ美しいほどの弾道を描いてあるデルピュネーの心臓を捉え、撃ち抜いた。
「悪いが、生かして返すわけには行かない」
 ボス格といえたデルピュネスが死んだことを把握して、怯え始めた生き残りのデルピュネーへ、踏み込んだのはベネディクトだった。
 流れの崩れた敵陣を突き崩すは容易い。暴れる乱撃の刺突は複数のデルピュネーへ深い傷を刻み付けていった。


 イレギュラーズが撤退を開始してから数分の後のこと。
 戦場の跡地、倒れたデルポイの手先たちの死体の下へ、そいつは姿を見せた。
 10には及ぶまいが、かなりの大きさをしている。
 ずんぐりとした蜥蜴のような身体に竜のような頭部、鼻の先には一本角。
 出会えばあるいは寛治のような現代地球にも等しき文明の出身者であれば、その存在を『恐竜』のように捉えたやもしれないが。
 そいつは不快な咆哮を定期的に上げながらゆったりとそちらへ近づいていく。
 すんすんと匂いを嗅ぐようにして顔を動かせば、そのまま骸を咥え――そのままガツガツとその噛み締めた。
 鋭い牙に八つ裂きにされて零れ落ちた遺骸をもう一度咥えれば、それをぽいっと空に投げ、口を開けて丸呑みした。
『美味しくないなぁ……やっぱコイツらの味はろくでもないや。
 喰うならやっぱり亜竜種がいいなぁ』
 ぺろりと口元を舐め上げたその亜竜は、そのまま尻尾を器用に使って遺骸すべてを拾い上げ踵を返す。
 地響きを微かに鳴らしながらその亜竜は自らのねぐらへと戻っていった。
 それは亜竜。それも決して人類とは相容れぬ根本から邪悪なる亜竜。
 きっと、英雄がその手で討ち取るべき――魔物の城の門番である。


 ペイトへと帰還したイレギュラーズを待っていたのは心配そうにしている戦士団と、無事の再会を果たした姉妹と母娘だった。
「ほんとのところ、ピュトンとも”ともだち”になりてーところだけど……」
 エドワードの呟きを聞いて、戦士団長はぎょっと目を見開いた。
「止めた方が良い。どうしようもなく相容れぬ存在……そういうものもいる」
「でも、そのピュトンって奴は好んで誰かを襲ったりするのか?」
「さぁな。奴は門番だ。だから、基本的にデルポイ神殿を離れぬ」
 そう言って力無く戦士団長が首を振った。
「正直なところ、住処付近を探索する時間ぐらいがあればよかったのですが……」
 ぽつりと呟くリースリットに対して、戦士団長は少しばかり考える様子を見せる。
「……いや、やはりそれはしなくてよかったと思う。
 あれの耳の良さは、尋常ではない」
 言い含めるように、彼は言った。

(……私のおかあさん、てどんな人だったんだろうな)
 愛銃を抱えるように持ったハリエットは、母娘の様子を見ながら記憶にない母の影に思いを馳せる。
「怖かったわね……もう大丈夫よ、安心してちょうだい。
 また悪い人が居たら私達がやっつけてあげるんだから!」
 母と少女から許可をもらって、そっと抱きしめたエルスが、安心させるように告げれば。
「お姉さん、ありがとう!」
 女の子――香凛はそれまでの感情を振り払うように、華やぐような笑みを見せた。
「怖かったろうによく頑張ったな。偉ぇぞ。お前さん、将来はきっと美人で強い大人になるぜ」
「え、えへへ……そ、そうかなぁ……」
 ルカが頭を撫でてやれば、照れたようにもじもじしながらも、少女の尻尾の先がフリフリと触れて微笑ましい。

成否

成功

MVP

エドワード・S・アリゼ(p3p009403)
太陽の少年

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
MVPは盾となり支え切った貴方へ。

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