シナリオ詳細
デスゲームサーカス
オープニング
●残酷なサーカス
夜空に移り変わる頃――砂漠地帯のある場所に、限られた期間のみ現れるサーカステントがあった。
出入り口やその周辺には、テントに近づく存在を厳しく監視する覆面の男たちの姿が見られる。そのテントの中には招待された者のみが入れるようで、仮面をつけた案内人が招待状の有無を確認していた。
テントの幕の向こうには、サーカスらしい舞台が設営されていた。舞台を中心にしてすり鉢状に組まれた観覧席があり、何百という人数を収容できそうな規模だった。しかし、舞台を見守るのは十数人ほどのまばらな客たちだった。
およそ20メートル四方の舞台上には、鉄柵を組み合わせて作られた迷路があり、更にその周囲は金網や有刺鉄線で覆われていた。迷路の中には、完全に逃げ道を塞がれて彷徨う道化たちの姿があった。
一様に恐怖に染まった表情の道化――出演者たちは、同時に迷路に放たれたあるものの存在に怯えていた。それはカンガルーによく似た胴体に、鋭い鉤爪、イグアナの頭を足したような獰猛な魔物だった。迷路には3体の魔物が存在し、出演者らは入り組んだ迷路の構造を利用して、接近しようとする魔物をどうにかやり過ごそうとしていた。しかし、魔物はその俊敏さに加え、3メートル近い鉄柵を優に飛び越える跳躍力で出演者を追い詰めていく。更に鉄柵の一部を倒すほどの勢いを見せ、出演者の1人は鉄柵の下で必死にもがき叫び続ける。
ピエロのペイントをする訳でもなく、派手な色合いのピエロ服を着せられた感が否めない4人の出演者たちは、魔物らに不条理に弄ばれた。残虐にその命を奪われ、舞台上は阿鼻叫喚をきわめた。
絶望の淵に立たされた出演者の1人は、返り血を浴びながら金網の向こうの観客に助けを求める。だが、どの観客もその様を見てにやにやと笑うばかりだった。
複数の覆面の男らに守られるように客席に鎮座する人物――頭にターバンを巻いた男もまた、葉巻をふかしながら凄惨な見せ物を堂々と眺めていた。
「ボス、今日もシナモンはいい動きしてますねぇ」
ターバンの男を警護する男の1人は、上司におべっかを使う素振りを見せ、舞台上の魔物のことを指して言った。
「あ? なに言ってやがる――」
しかし、その男に向かってボスの鋭い視線が突き刺さる。
「シナモンじゃねえ!!!! シナモン『ちゃん』だろうが!!!!!!!!!」
男を怒鳴りつけたボスは、容赦なくその脳天を殴りつけた。軽く脳震とうを起こしてふらつきながらも、男は慌てて謝罪した。
ボスの眼差しは、まるでドッグランではしゃぐペットを微笑ましそうに眺める飼い主のようだった。
●サーカスの主催者
「ラサの領土内――砂漠地帯でイカれた悪趣味なサーカスが開かれるそうです」
『強欲情報屋』マギト・カーマイン(p3n000209)は、ローレット・イレギュラーズの面々にあるサーカスの情報をもたらした。
「金と暇を持て余した連中が、生きの良い死に様を見たいがために集まり、開催されている胸糞サーカスなんですが――今回はそれを潰せという依頼でしてね……」
マギトは耳を傾けるイレギュラーズに対し、依頼の概要を語る。
「サーカスの主催者は、ラサのヤクザ団体です。依頼人は、そいつらと敵対する団体さんでね……ライバルの資金源であるサーカスを潰してほしいという要望です」
主催側は悪徳な金貸し業を営む一方で、各国からパトロンを募っては、件のサーカスを開催していた。そのサーカスの出演者は、借金返済が滞っていることを理由に強制連行されてきた老若男女である。舞台上の迷路に放たれる魔物から逃げ切り、最後に生き残った者に賞金を与える――というのは口約束に過ぎない。無理矢理生死をかけたゲームに参加させられ、観客たちを楽しませるためだけに命を散らすことになる。
「――という訳で、招待状を用意してもらいました」
そう言って、マギトはサーカスへの招待状を掲げる。その招待状は、依頼人が送り込んだスパイからの提供であるとマギトは説明する。
「この招待状で潜り込めるのは3人までですが、協力者であるスパイくんはそれなりに信用を得ている立場のようです。皆さんの内の誰かを不履行クソ債務者として連行する演技をしてもらい、参加者として潜入することも可能かと」
テント内には、他の一般人の出演者も3名集まる予定だ。他の出演者の生死については依頼人から言及されていないものの、一般人を逃がすための隙は充分に作れるだろうとマギトは見積もる。
マギトは簡易的なテント内の見取り図に、警備を務める人員の配置を示したものを皆に提示しながら、
「出演者が多過ぎても不都合がありそうですし、他の方には棄権してもらうのも1つの手だと思いますが……まあ、そこは皆さんにお任せしますよ」
ちなみに、サーカスの舞台となる迷路は、一般的な鉄柵や金網でできている。イレギュラーズの能力を駆使すれば、容易に破壊できるものだ。
更に、マギトは魔物に関する情報についても言い添える。
「迷路内に放たれる魔物ですが、サーカス側はそれなりに手懐けているようです――」
手の平サイズのほら貝のような特殊な楽器を使うことで、魔物に指示を出すことが判明している。
団体の幹部の1人、サーカス側のボスであるターバンの男――アラムートも楽器を使いこなす調教師の1人で、サーカスの開催時には常に観客席に鎮座している。また、調教師はアラムート以外にも3人存在する。3人共に同じ種類の楽器を所有し、常時舞台の周辺に張り付いている。楽器を壊すなり奪うなりすることで、魔物の統率を崩せる可能性がある。
サーカステント内の見取り図を見返すマギトは、どこか考えを巡らせるように言った。
「正面から殴り込むのも結構ですが、警備を潰すのも重要そうですし、潜入も対象の不意を突く有効な手段かと……くれぐれも怪しまれないよう、注意してくださいね」
- デスゲームサーカス完了
- GM名夏雨
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年02月04日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
広大な砂漠の一角に、こつ然と現れるサーカステント。何やら覆面姿の怪しげな男たちが、テントの周辺を厳重に警備していた。
『No.696』暁 無黒(p3p009772)は依頼人が送り込んだ協力者、スパイの男の手引を受け、テント内の楽屋に通じる場所に入り込んだ。無黒は強制連行された出演者として、ひどく怯えた様子を装う。
薄暗い楽屋スペースには、情報通り警備の男6人の姿があった。そして、無黒以外の出演者らしき存在も確認できた。中年の男、青年、若い女性の3人はどこか沈んだ雰囲気で楽屋の隅にかたまり、みすぼらしい風体だった。
後から無黒を連れてきたスパイに対し、1人の男が詰め寄る。
「おい、4人目がいたのか? 聞いてないぞ」
しかし、スパイは何食わぬ顔で言った。
「――のじいさんの趣味だ」
スパイがぼそぼそと誰かの名前を出すと、相手の男は嘲るように笑い、納得した素振りを見せた。
――うまく潜入できたっす! きっと他の皆も、今頃は観客席に……。
ひとまず怪しまれずに済んだようで、無黒は胸を撫で下ろした。
自身のコネやスパイから受け取った招待状を利用し、多くのイレギュラーズが潜入を果たしていた。『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)もその内の1人で、
「ふーん……ここで皆とゲームをしてるんだね☆」
テント内全体を見回してつぶやいた。
「ほほ……楽しみじゃのう」
『元気なBBA』チヨ・ケンコーランド(p3p009158)は金持ちの好事家らいし雰囲気を匂わせてテント内に臨み、観客席や舞台の様子を把握しようと見て回る。同様に潜入した『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)も、広さに反してまばらな数の観客らの様子を窺う。
――借金を体で返させて、それを見世物にして儲ける……。中々ウマくできてんじゃねーか。参考にしよ。
そう考えつつも、ことほぎは「誰が一番長く生き残るのかとか、賭けしてねェの?」と観客の一部に尋ねることで、その場に馴染む素振りを見せた。しかし、日頃のことほぎの行いを知る『《戦車(チャリオット)》』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)は、あわよくばその金をかすめ取ろうということほぎの真意に薄々気づいていた。とはいえ、ピリムは関心がなさそうに舞台上に視線を戻す。
――せっかくの脚を魔物のおもちゃにするなんて、もったいないですねー。
ピリムの興味は常に『脚』に注がれていた。
「初めまして、アラムート様」
身なりのいい紳士然とした男性――『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)に声をかけられたアラムートは、どこか怪訝そうな表情を見せた。アラムートを警護する覆面の男たちも、寛治を警戒するように向き直る。
「――噂に聞くサーカス、是非、特等席で拝見させていただきたく」
寛治はスーツのポケットから小切手を取り出し、さりげなくアラムートに手渡す。また、寛治はサーカス同好の士であることも主張し、アラムートのご機嫌取りを欠かさない。
「アラムート様の席が一番の特等席なのでしょう? ――」
礼儀正しい寛治に気を許し始めるアラムートに、寛治は願い出る。
「隣や近く、とは申しませんが、そちらの方面で見たいのが人情というものです」
アラムートは、どこで見ようが構わないと寛容さを見せたが、警護役、取り巻きの男たちのピリついた空気は抜け切らなかった。
「俺は初めて来たんだが……どんな魔物を手懐けているんだ?」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は寛治の連れとして、興味深そうに魔物のことをアラムートに尋ねた。すると、アラムートは喜々として溺愛している魔物たちのことを語り始める。
「それ、楽器だよな。どんな音がするんだ?」
イズマは腰元に下げているアラムートの楽器を指して言った。ほら貝によく似ているその楽器には、くり抜かれた2つの穴も存在している。楽器の音自体が魔物の声に似ているため、それでコミュニケーションを取ることができると、アラムートは得意気に語った。
無黒たち出演者がピエロの服を着るよう指示されている間、スパイはもう1つの役目をこなすためにテントの外へ出ていく。
テント周辺を警護していた男たちに対し、スパイは不審物の存在を伝えることでその場から引き剥がした。
スパイの働きかけによって、チェレンチィはテント内に侵入する機会を得た。
観客席の裏に入り込んだチェレンチィは、席の間の隙間からわずかに見える舞台の様子を窺う。
――趣味の悪いサーカスですねぇ。警備も割と厳重ですし、よっぽど金を持て余しているようで。
イズマはアラムートから楽器のことを更に聞き出そうとしたが、調教師の男の1人が開催の挨拶を始める。
まず舞台上に送り込まれたのは、犠牲となる出演者4人。無黒を含めた4人は、初めて見る舞台の鉄柵の迷路に戸惑うばかりのようだった。
他の3人は訳もわからず迷路の中央に向かって進んでいくが、無黒は逐一舞台の構造などを把握していく。
無黒たちが通ってきた通路は完全に塞がれ、舞台から降りられない状況となった。しかし、舞台に続く通路はもう1つ存在する。鉄の門扉によって閉ざされていたが、それも開放される。
暗がりばかりが広がる通路の奥から、かすかに何かの気配を感じた。唸るような声に誰もが耳を澄ますように、その場は静まり返った。
舞台のそばに立つ調教師たちは、一斉に楽器を鳴らし始める。ニワトリの声帯をつぶしたようなその音は、音色というにはあまりにも遠い。
調教師が吹く楽器の音に引き寄せられるように、通路の奥から飛び出す影があった。その全身を見た出演者たちは、一様に表情を引きつらせる。獰猛そうな爬虫類の顔と鉤爪を見れば、丸腰で太刀打ちできるような相手ではないと一瞬でわかる。
舞台上に姿を見せた3体の魔物は、調教師の楽器が出す音と似たような鳴き声を発した。何やら楽器の音と呼応するように、魔物は興奮状態を示す。鉄柵越しに獲物である出演者から目を離さず、徐々に距離を詰め始める。
(「なるほど、ああやって指示を出すのか……。楽器と言うよりは犬笛だな」)
イズマは楽器の音を聞き分けるために集中する。
寛治はアラムートの後方の席にさりげなく座り、舞台を見守るのと同時に不意打ちの機会を狙う。
半狂乱になって逃げ惑い、魔物から遠ざかるために迷路内を右往左往する男女3人。無黒も魔物におののく演技を続けながら、うまく魔物を誘導しようと立ち回る。
――さあ、ここから乱戦に持ち込むっすよ。
舞台上の成り行きを見守る調教師らは、3体の魔物――シナモン、シズリー、シザーの名前を呼んで楽器を吹きながら、3体の狙いを分散させようとしていた。
調教師の意図に気づいた無黒は、迅速に行動する。女性を追いかけようとしたシナモンだったが、無黒によって妨害される。無黒は指先から伸びる茨のツルを瞬時に鉄柵に絡ませ、鉄柵の一部を無理矢理引き倒す形でシナモンの進路を塞いだ。
分断されたシナモンは、無黒を追いかけて鉄柵の間を進む。すばしこく動き回る無黒はシナモンの注意を引き、ある場所へと移動していく。
無黒が引き倒した鉄柵は、舞台と観客を仕切る金網に寄りかかる形で傾いていた。入り組んだルートを利用し、傾いた鉄柵のところまで回り込んできた無黒は、
「モウダメダーオタスケーっと!」
鉄柵の上に立ち、獲物を捕えようとするシナモンの動きを見極める。無黒は即座にその場から飛び退き、飛びかかってきたシナモンは勢いよく金網に激突した。その衝撃で金網を留めていた金具が弾け飛ぶのと同時に、金網の一部が客席側へ大きく倒れかかる。魔物とを隔てていた金網は意味を成さない形となり、客席からは悲鳴があがった。
舞台と客席をつなぐ橋のようになった状態の金網の上でシナモンは起き上がり、観客を見つめる。
いよいよ騒然となる観客たちを前にして、調教師の1人はシナモンに向けてライフル銃を構えた。その様子を見たアラムートは即座に立ち上がり、「待て!!!! 撃つんじゃねぇ!!」と言いかけた。だが、背後から狙撃を受けたアラムートはその場にくずおれる。
「残念ながら――」
アラムートを後方の席から見下ろし、銃口を向ける寛治に対し、警護の男たちは一斉に振り返る。
「これからデスゲームの参加者になるのは貴方の方ですよ、アラムートさん。どうぞ、存分に抗ってください」
肩に銃創を受けたアラムートを守ろうと、男たちはアラムートを取り囲む。
男たちの内の3人は、寛治の攻撃を阻もうと向かっていく。4人はアラムートの警護を続けながら、出口を目指して退避を始めた。
ことほぎはアラムートを逃がさないよう攻撃に移る。口に煙管をくわえたことほぎは紫煙をくゆらせ、自らの呪力を引き出す。吐き出された紫煙は呪力を凝縮した魔弾へと変化し、アラムートを狙って放たれる。離れた場所から攻撃を加えることほぎに翻弄されつつも、アラムートらは出口へと向かっていく。
3人に囲まれそうになる寛治だったが、マリカは寛治に加勢する。
「ねえねえ☆ もしかして遊び相手を探してるの?」
無邪気に男たちの前に踏み出すマリカの周囲には黒い霧が漂い、おどろおどろしい怨霊の姿が現れ始める。
「――だったらマリカちゃんと遊ぼうよ♪」
無垢な少女そのものの笑顔で大鎌を構えるマリカは、肌が粟立つほどの凍てつく気配を強く感じさせた。
舞台付近には、無黒が引き起こす混乱に乗じようとする者らが待ち構えていた。ピリムもその1人であり、真っ先に調教師の1人――調教師Aに対し襲撃を仕掛ける。
舞台のそばにひそかに移動していたチェレンチィも、調教師Bの背後をつくことで楽器の奪取を図った。
チェレンチィの攻撃をわずかでも察知できなかった調教師Bは、楽器をその手から取り落とす。
チェレンチィは流れるような動作で楽器を拾い上げた。するとその直後、不意にチェレンチィの目の前にシナモンが立ち塞がる。
チェレンチィに向けて威嚇するように鳴き声を発するシナモンだったが、イズマが鳴らす楽器の音に注意を向けた。しかし、イズマ自身は楽器を持っていない。指笛を吹いているようにしか見えないイズマだったが、イズマは自らの能力によって、完璧に楽器の音をコピーしていた。
調教師Cは、慌ててシナモンを誘導しようとするが――。
「悪趣味なサーカスは終いじゃ!! これ以上見逃してはおけんぞ!!!!」
チヨは調教師Cを昏倒させる勢いで飛びかかった。
イズマはまだ舞台上に残っている魔物らに対しても、音を出して命じ、客席の方に向かわせようとする。
まだら模様のシズリー、鉤爪が最も大きいシザーは、イズマの音に反応するように破れた金網の方へ向かった。
調教師Bは背負っていたライフル型の魔導銃を構え、舞台の外へ踏み出そうとするシズリーに向けて発砲しようとした。しかし、それを見たアラムートは護衛の制止も聞かず、調教師Bへ躊躇なく発砲した。
「バカ野郎!!!! 銃なんか向けてんじゃねえ!!」と怒鳴り散らすアラムートは、自ら舞台の方へと向かって行く。
観客たちが出入口に殺到する中、外の警備をしていた男たちも騒ぎに気づき、アラムートを守ろうとする護衛たちと合流する。
シズリーは発砲音に驚いたように舞台上から飛び出し、客席の奥へとカンガルーのように飛び跳ねていく。
撃たれた調教師Bが瀕死の傷を負っていることなどお構いなしに、アラムートは舞台のそばに集中しているイレギュラーズを散らそうと、連続で引き金を引いた。
「俺のハニーたちに傷をつけたら、ただじゃ済まさねえぞ!!!」
激昂するアラムートは、部下たちでは手がつけられない状態だった。
最後のシザーも舞台上から降りたのを確認した無黒は、他の出演者たちにも救いの手を差し伸べる。
「さあ、今の内にここから逃げるんすよ!」
逃亡に手を貸す無黒の行動を気に留める者はいなかった。何よりも厄介なアラムートの命令と魔物の脱走で、自体は混迷を極めていた。
イズマは徐々に魔物の行動を掌握していく。イズマはコピーした音に加え、魔物とのアイコンタクトで正確に指示を出す術を理解した。そのイズマの指示によって、シザーは警護の男たちに襲いかかる。
「こらー!! めっ!!!! シナモンちゃん、シズリーちゃん、シザーちゃん! おすわり!!!!」
アラムートも楽器を吹き鳴らし、イズマからの命令を上書きしようと対抗する。その行動に対し、魔物らは困惑したように客席の間をうろついていた。
「縄だ! はやく縄を用意しろ!!」
すでに他の調教師は動けない状態で、アラムートの部下たちは懸命に魔物を生け捕りにしようとしていた。
部下たちが生け捕りにかかり切りになる一方で、アラムートはことほぎが放つ魔弾に晒される。対峙していた部下を振り切った寛治も加わり、アラムートは2人と銃撃戦を繰り広げる。
マリカも次の標的の相手をしようと舞台の方へ接近し、魔物を狙うチヨたちに加勢した。
アラムートは銃だけでなく魔術も駆使し、疾風の刃を放つことで寛治らを切り刻もうとした。寛治は瞬時に客席を飛び越えるほどの軽快な身のこなしを見せ、ことほぎも広い客席を利用することで、アラムートの攻撃に対処していく。
「このまま放置しておく訳にはいかんな!!」と魔物を討伐する構えを見せるチヨたちに対し、男たちは躍起になって阻止しようとする。
チェレンチィの隙のない動き、相手を圧倒するばかりの速さには誰も対処できず、そのナイフさばきから逃れられる者はいなかった。相手を寄せつけない勢いで攻めかかるチヨは、己の拳を武器に猛攻を繰り返す。細剣を構えるイズマも相手の懐に踏み込み、一挙に相手を引きつけることで複数の裂傷を刻んだ。
アラムートの部下たちは商売道具でもある魔物たちを守り切れないどころか、混乱したシズリーやシザーに襲われる始末。更にシナモンは怯えたように弱々しい声を発し、舞台の迷路の奥へと引っ込んでしまう。そのシナモンを見たアラムートは、離れた舞台の方へ移動しようとする動きを見せた。しかし、ことほぎと寛治は客席の影に見え隠れするアラムートに向けて、しつこく攻撃を繰り返す。それでもあきらめようとしないアラムートは、応戦を続けていた。
「あーあーあー……人を喰う所作も糞もねー魔物なんかに与えちゃってー」
シズリーとシザーが本格的に暴れ出し、地獄絵図と化した光景の中でも、ピリムは己の欲望に忠実に、冷静に行動する。
すべてを寸断する驚異的な太刀筋を放つピリムは、無残な躯を魔物以上に転がした。
しゃぼん玉が舞い上がる光景を歌った童謡を口ずさみながら、マリカはその恐ろしい能力を発揮する。
「あれれ、こわれちゃった……」
マリカの能力によって腐り果てた死体へと変わった男の1人を前にしても、マリカの無邪気な反応は変わらなかった。
「――あたらしい『お友達』になれると思ったのに」
そう言ってマリカが見つめる先には、ピリムとマリカの残虐さに戦慄し切った男たちがいた。マリカの一言によって、いよいよ男たちは戦意を失ったようで、総崩れとなって逃亡を図った。
「逃さん!! 全員ふんじばって牢屋送りじゃ!!!!」
まだ逃げられる余裕がある者たちに対し、チヨはそれを阻止しようと誰よりも速く行動に移す。
迷路内に入り込んだままのシナモンと、しぶとく銃撃戦を繰り返すアラムートを見比べたピリムは、あることを思いつく。
ピリムはあえて舞台上にアラムートを引き寄せるように言った。
「ほーら、シナモンちゃん。すぐにお仲間のところに逝かせてあげますよー」
アラムートはピリムの一言に血相を変え、無謀にも舞台へと突っ込んでいく。
「シナモンちゃーーーん!」
疾風の魔法で金網を突き破り、その間に強引に体をねじ込んでシナモンの下を目指す。
ピリムはことほぎや寛治らの攻撃を制止し、迷路の奥に向かったアラムートを追いかける。
ピリムはアラムートの位置を迅速に把握し、高い障壁となっていた鉄柵を一挙に飛び越えた。そして、アラムートの背後に瞬時に降り立ったピリムは、「感動的ですねー」と言うや否や、その刀の鋭い切れ味をアラムート自身の体に知らしめる。
無残にも立つ脚を失ったアラムートの絶叫が響く中、
「そんなに大事に思っているなら、あの子との絆も充分にあるはずですよねー? 楽器など無くても、きっと気持ちは通じるハズですよねー?」
ピリムはアラムートの楽器を奪い、ゆっくりとその場から遠ざかる。
アラムートはいつの間にか自身を見下ろすシナモンの影に気づく。同じ舞台で数多くの者が絶望に打ちひしがれたように、アラムートもその報いを受けるのであった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。デスゲームで暴れまくる皆さんを期待して考えたシナリオでした。
GMコメント
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『傭兵』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●成功条件
現場のサーカス運営陣の全滅、あるいはアラムートの殺害。
●シナリオ導入
周囲にかがり火が焚かれたサーカステントには、すでに限られた観客が集まり始めていた。何やらテント裏の方へと連行されていく、出演者らしき人影も確認できる――どのようにサーカスを潰すべきか。
●戦闘場所について
時刻は大体19時頃。ラサの砂漠地帯のある場所に存在するサーカステント。(体育館くらいの広さ)
招待状で観客として入場できるのは3名まで。
他の客の数は15人ほど、警備は24人。
テント周辺に8人、(楽屋スペースである)観客席裏には出演者を見張るための6人と、出演者が3人。舞台周辺には調教師3人、ボスのアラムートのそばに7人が配置されている。
スパイ役は機を見てとんずらするので、特に気にする必要はない。簡単な工作活動であれば、事前に引き受けてくれる。(ちなみに、調教用の楽器に細工をするなどは「難しい」と言われるレベル)
●敵について
ボスのアラムートは魔術の知識をかじっており、疾風の刃(神遠貫【足止】)を放つ魔術を扱う。また、アラムートと調教師の3人は、ライフル型の魔力銃(神超単【ショック】)を使用する。部下たちの共通の攻撃手段は、刀剣や警棒(物近単)など。
サーカスの魔物(計3体)は、捕食のために相手を襲うというよりは、丁度いい玩具が目の前に用意されたので遊んでいるという感じ。ちなみに名前はシナモン、シズリー、シザーで、アラムートに溺愛されている。
魔物の攻撃手段は【物至単】。調教用の楽器で魔物に指示を出している。
個性豊かなイレギュラーズの皆さんの参加をお待ちしています。
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