シナリオ詳細
彼らと我らのイニシエーション
オープニング
●亜竜種たちの住まう場所
覇竜領域デザストル。大陸南方に存在するその領域は、人類にとってまさに未知の領域であった。
何せ、竜が住まう、とされると地である。おいそれと足を踏み入れるわけにはいかない。
だが、その危険な地を探索する術があった。混沌世界を模倣した世界、すなわちR.O.Oに置いてだ。
R.O.O世界において、覇竜領域の調査を行ったイレギュラーズ達。文字通りに決死の工程であり、何度もデスカウントを蓄積させながら、やがてイレギュラーズ達は、R.O.Oに再現された亜竜種たちと交流を持つにいたる。
だが、ここまではあくまで仮想世界の物語。
R.O.Oでの知識を利用し、現実にて亜竜種たちの住処へと、再度訪問することに成功したイレギュラーズ達。
果たして、R.O.Oの時と同じように、彼らと縁故を結ぶことはできるのか?
亜竜種たちの信頼を勝ち取るために、イレギュラーズ達は、珱・琉珂の提案である『覇竜領域トライアル』を行うことになる。
それは、端的に行ってしまえば、この地域での雑用のようなものだが……信頼を得るには、まず自分たちの力を見せねばなるまい。
かくして、ローレット・イレギュラーズ達による、覇竜領域での冒険が、ここに始まろうとしていた――。
「はっきりと言えば、我はお前達を信用してはいない」
と、あなた達、イレギュラーズの目の前にいる、亜竜種の男が言った。
真我(マナガ)、と名乗った男である。その皮膚の殆どは爬虫類様の鱗に覆われている。ファンタジー的な言い方をするなら、リザードマン、の外見に近い。
「お前達が善なるものかもわからぬし、我々と肩を並べる力があるかもわからん。
確かに、お前達はこの地へと到達することができた。それは認めよう。
だが、その力、実際に見てみない事にはな……」
「そのための、琉珂の提案だと思っています」
イレギュラーズの一人がそういうのへ、真我は頷いた。
「うむ。故に、我からも一つ、トライアルを行わせてもらう」
彼はゆっくりと頷くと、あなた達に地図を手渡した。この付近の地図で、道は近くの山に続いている。山のルートには詳細な地図がある。複雑だが、この地図があれば迷う事は無いだろう。
「通過儀礼という言葉を知っているか? つまり、子供が大人になるための儀式だ」
真我は言った。
「まぁ、これは我々戦士団が、その戦士を見極めるためのものだが。とにかくお前達にやってもらいたいのは、この通過儀礼だ」
「地図を渡されたところを見ると、この場所に行けという事ですか?」
イレギュラーズの一人がそういうのへ、真我は頷いた。
「この道を進んだ先に、フェザーワイバーンの巣がある。羽毛を蓄えた、変わった亜竜だ。そこに行き、卵を一つ盗んでくる。
卵は大きい。それこそ、我々が抱えて持ち帰る様なものだ。だから、持ち帰って来るのは一つでいい」
「卵泥棒か」
苦笑するイレギュラーズの一人に、真我はにぃ、と牙をむきだした。
「相手は凶暴な亜竜だがな。その卵を盗めるのが、臆病者には出来まい。
だから、戦士の素養には必要な儀式なのだ。
そして、お前達の力を見るのにも、うってつけだと考える。
フェザーワイバーンは多い。まともに戦っては死を見ることになるだろう。うまく役割を分担するといい。
フェザーワイバーンを引き付ける者。たまごを運搬するもの。護衛するもの……。
欲張りになるな。フェザーワイバーンはたくさんの卵を産むが、さっきも言ったが持ち帰るのは一つでいい」
ちなみに、と真我は言った。
「ルートを逸れるな。行きも帰りも、その地図のルートを順守しろ。道を逸れたら命の保証はない。我々も助けられる保証はない。
安全が確保されているのは、その道の上だけだ。どうしても逸れたいなら、死ぬ覚悟をしておけ」
ごくり、とイレギュラーズたちの一人がつばを飲み込む。この領域が前人未到の地であったことに変わりはない。つまり、未だにその危険性は払しょくされていないのだ。道を外れて、とんでもない怪物に出くわす可能性は高い。
「臆したか? だが、この程度はやってもらわなければ困る」
「いいさ、真我、だったな? やってみせよう」
イレギュラーズの一人が不敵に笑うのへ、真我は頷いた。
「ああ、それで聞きたいんだが」
ふと、イレギュラーズの一人が言う。
「このたまご、持って帰ってきてどうするんだ?」
その言葉に、真我は頷いた。
「プリンを作る。疲れた体をねぎらうのに、甘味は良い。うまいぞ。楽しみにしていろ」
くっくっと、真我はわらった。多分、本当のことなのだろう。ぺろり、と舌なめずりをする真我の口元が、見えたからだった。
- 彼らと我らのイニシエーション完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年01月31日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●亜竜の卵を求めて
「ここがデザストル……竜の住まう大地……。
良いですね、凄くワクワクしてきます!」
『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)は、好奇心に輝く眼を隠さずにそう言う。
「こっちでも来れるとはな。ROOの時の気持ちを引きずって無茶しないように注意しないとな」
『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)が、辺りの景色を見やりながら言う。ルートを外れれば、命の保証のない場所ではあるのだ。
「覇竜のお仕事、がんばるですよ!」
『航空猟兵』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)が、おーっ、と手をあげながら言った。
「とはいえ、卵運びというのも何というか新鮮ですよ。覇竜はそういうのが流行りなんですよ?
これで認められるなら、頑張って運ぶですよ!」
「戦士のための儀式、って言ってましたね。
勇気を試す……みたいな感じなのでしょうか?」
むむ、とリディアが唸る。依頼主である真我の言うことによれば、まさにそう言った儀式なのだろう。ワイバーンを倒せ、という依頼でもない事から、まさに、此方が勇気あるものか試すのが、真我の目的なのかもしれない。
「試される、か。信用できるかっていうのには、きっと力や勇気も含まれるんだろうな」
錬の言葉ももっともだろう。これから力を合わせて欲しい、と願う以上、此方も対等かそれ以上の存在であることをアピールするのは重要だ。
「しかし、フェザーワイバーンだったか?
通過儀礼で卵を盗まれる方はたまったモンじゃねぇ気がするが……。
真我の旦那は、あの強面でプリンが好きとはね。案外気が合うかもしれない」
『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)が苦笑していうのへ、『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)がはーい、と手をあげた。
「ルシェもプリンが楽しみです! フェザーワイバーンのお母さんにはごめんなさいだけれど……人間は欲深いものなの」
何かで読んだ本の影響だろう、些か暗い言葉を紡ぐが、頭の中は割とプリンでいっぱいである。
「いやぁ、ワイバーンのプリンとやら少々楽しみでござるなぁ。おっと想像するだけで少し涎が」
ごくり、とつばを飲み込む『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)である。依頼人でもある真我の表情を思い出せば、あの強面で随分と幸せそうにプリンを語ったものである。此方も期待しないのは無理というもの。
「ふむ。やはりどの時代、どの世界も、卵は美味いというのは共通認識なものなのじゃなぁ」
ほっほっほ、と笑うのは『殿』一条 夢心地(p3p008344)である。
「万の言葉を交わしても伝わらぬことは多いが、胃袋はそうでは無い。
同じ釜の飯を食べ、美味かったと共に笑うことさえできれば、分かり合える日はくるものよ。
その第一歩として……此度の依頼、気を引き締めてかからねばならぬ」
むっ、と口を結ぶ夢心地。夢心地なりに、亜竜種たちとの交流に、思う所もあるのだろう。
「そうね! ルシェも、プリンだけじゃなくて、そういう所も大切だって思ってました!」
キルシェが慌ててそういう。
「ふふ。頼もしいですね」
『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)が口元をほころばせた。
「確かに、亜竜種との交流は重要です。私達の、新たな友になるかもしれない方々。印象は良くした方がよいでしょう。
……それに、私も、プリンというものは気になります。あまり食べたことはありませんが、絶品というのでしたら」
「こちらでも竜関係の食材が美味いかは気になるな。頑張ってご相伴に預かるとしようか」
錬の言葉に、皆は頷いた。縁が「さてと」と声をあげる。
「皆、地図のルートは叩き込んでおいたか?
これからは、多分地図を見ている暇はないだろう。
慌てて迷子になって……なんてのは目も当てられない」
「拙者はしっかりと、頭の中に」
咲耶が頷いた。
「ブランシュも、しっかりとメモリーしておいたのですよ!」
はいはーい、とブランシュも手をふって頷いた。
「なら結構。予定通り、卵の運搬と、フェザーワイバーンを引き付ける、この係にわかれることになるな」
「卵の脱出運搬は、私と、錬さん。夢心地さんに、サルヴェナーズさん、キルシェさん……ですね?」
リディアが言うのへ、皆が頷く。
「おっさんと残りのメンバーは、フェザーワイバーンの対処だ。きつい所だが、倒さなくていいだけ気は楽だな」
縁の言葉に、皆は頷く。
「さて、じゃあ始めようか。ブランシュ、お前さんは先行して巣の場所を確認してくれ。
もちろん、気づかれないようにな」
「了解なのです!」
「ブランシュが引っ張ってきた奴を、俺が抑える。咲耶は攻撃面でサポートを」
「承知いたした!」
仲間達が頷くのへ、縁も笑った。
「さて、じゃあ華麗な卵泥棒と行くかね」
すぅ、とキセルの煙を吸い込んで、縁は笑った。
●たまご、たまご、たまご!
フェザーワイバーン。覇竜領域の山岳地たちに棲む亜竜である。
見た目は、まさに羽毛恐竜のごとくか。地球世界では、恐竜と鳥類は縁のある酒類らしいが、まさにその縁を感じさせるような外見を、まったく異なる混沌世界で見られるのは奇妙と言える。
さておき、フェザーワイバーンは、山岳の岩の上などに営巣する。たまごは常に複数生まれる。やはり過酷な環境である。たまごはほかの亜竜や魔物に食われたりするし、生まれたとしても大人になる前に様々な要因で死んだりする。だから、複数生んでおくにこしたことはないのである。
さて、巣の上を周回していたフェザーワイバーンが、僅かに自分の巣に異変を感じた。なにか、一瞬奇妙な感覚を覚えたのだ。何か、違和感のようなもの。たまごが一瞬ブレて、消えて、またでてきたような……。
フェザーワイバーンも厳しい野生で生きていた存在である。何か、奇妙な違和感を危機感を、強く覚えていた。そうでなくても、卵は色んな存在から狙われているのだ。警戒しすぎることはない。
フェザーワイバーンが、ゆっくりと降り立つ。ばさり、と風を巻き起こし――そこへ!
「おっと、とおしません!」
飛び込んできたのはブランシュだ! 対戦車砲の砲塔で、竜すら穿つとされる一撃をぶち込む! 突然の闖入者に、フェザーワイバーンは、ギャア、と鳴き声をあげた! 一度距離をとり、ブランシュを威嚇する!
「こちらですよ! フェザーワイバーンさん!」
ブランシュが巣からは離れるように駆けだす! フェザーワイバーンが、そちらへ向かってゆっくりと降り立った。同時、待機していた縁が、タイミング良しと飛び掛かる!
「よし、こっちだ!」
ワダツミの刀によって、連続する二撃の斬撃を繰り出す。フェザーの名の通り、その皮膚は羽に覆われている。が、羽毛をとれば柔らかい皮膚があるというわけでもない。鎧のような鱗がびっしりとつまっており、鉄を戦いた彼のような手ごたえを、縁に感じさせた。
「流石に亜竜だな、一筋縄ではいかないと見える」
挑発するように、刀を揺らす縁。フェザーワイバーンが威嚇の声をあげる。刹那、フェザーワイバーンは飛びあがり、その鋭い爪のある足を突き出して突撃してきた! たとえるなら、大上段からの殻竹割と言った所か。縁が刀を掲げ、その衝撃を受け止めた! ずん、と身体が地に沈むような感覚。衝撃が身体を伝わる。
「さぁ、かの覇竜に住まう飛竜の実力は如何程のものか。お主で試させて頂こう!」
飛び込んできたのは咲耶だ! 体重をかけるフェザーワイバーンから、縁を救うように、横合いから斬りつける! ブレード付きの手甲が蒼空に輝き、外三光の斬撃が、邪剣の一がフェザーワイバーンを狙う! 羽毛を切り裂きながら、フェザーワイバーンは飛んだ。すぐにブランシュが、追撃の砲撃をお見舞いする!
「ファイアッ!」
雷鳴の如き砲音が轟き、轟雷の如き砲弾がフェザーワイバーンを狙った。がうん! 強烈な音とともに、フェザーワイバーンが中空で体勢を崩した。
「お主にはすまぬがこれもまたプリンの為! 卵の一つ我慢して貰うでござる!」
山岳地帯を身軽に飛び込むその姿は、流石忍びの者か。咲耶は追いすがる様に手甲刃を翻すと、追撃の斬撃を見舞う! フェザーワイバーンは怒りに吠えながら、距離をとる。
だが、この時、フェザーワイバーンはようやく気付くことになる。巣にある卵、その一つが贋物と化していることに。
相手はこの覇竜領域の厳しい自然の中で生きてきた亜竜である。むしろ、その本能的なセンスを、これまでの時間ごまかせた点こそが称賛に値するだろう。だが、不運にも、というべきか、フェザーワイバーンは、イレギュラーズ達の行った工作に、気づいてしまった。
イレギュラーズ達は、フェザーワイバーンを引き寄せつつ、卵を幻影の像へとすり替えていたわけだ。フェザーワイバーンはようやくそれに気づいた。慌てた様子であたりを見てみれば、何やら風呂敷を持って走り去る集団が。この時、本能的にフェザーワイバーンは察した。奴らが卵を持っていると!
「まずい、気づかれたか!」
縁が叫んだ。
「咲耶、頼む!」
「承知!」
咲耶が、卵搬出部隊に預けたファミリアーに指示を出す。甲高く鳴かせた。見つかった、突破された、の合図。
「ブランシュ、このまま砲撃を続けtげ、少しでも足をとめるですよ!」
「頼む!」
ブランシュの言葉に、縁が叫んで応える。
さて一方、卵搬出チームは、自分たちに危機が迫っていることに気づいたのだ。
「ぬおおお! 気づかれたぞ!」
夢心地が風呂敷に包んだ卵を、錬に渡しながら言った。
「麻呂も泥棒コントで使った風呂敷じゃ! 丈夫故に、多少手荒に使っても破れん!
とにかく脱出を優先せよ!」
「了解だ! 悪いが、後は頼む!」
錬が叫び、飛び出した。フェザーワイバーンは怒りの雄たけびを上げて突撃してくる!
「貴方達の怒りは、ごもっとも!
ですが、このリディア・レオンハート! この場は故あって、押し通らせて頂きます!」
リディアが応戦の構えをとる! 宝剣を掲げるや、地を蹴って跳躍! 上空より迫るフェザーワイバーンへ、刃を振り下ろす! 魔力を帯びたそれは、黒顎を生み出し、獣のごとくフェザーワイバーンへとかみついた!
「ザラシュティお姉さん、錬お兄さんについていってあげて!」
キルシェが声をあげた。
「せんせんはルシェが維持しますから!」
「お願いしますね、キルシェさん」
サルヴェナーズが頷き、走り出す。いざとなったら、最後の楯は自分となるのだ。
「錬、行きましょう!」
「ああ!」
二人は一気に走り出した。錬は自信の運搬性能を最大限に発揮して、急な崖路を危なげなく卵を運んでいる。遠く錬とサルヴェナーズが消えていくのを、フェザーワイバーンは怒りの声をあげて追おうとした。だが、
「済まぬが、卵は麿たちに必要なものなのじゃよ!」
夢心地の名刀東村山が、フェザーワイバーンを切り裂いた。同時、リディアの黒顎が、再度フェザーワイバーンに食らいつく! ぎい、と声をあげて、フェザーワイバーンが上昇。その翼をはばたかせるや、かまいたちのように圧縮された風の刃が、仲間達に降りそそいだ!
「痛たた……でも、ルシェが皆を癒すのよ!」
キルシェがその手を高く掲げる。桜の花のブレスレットがほんのりと優しい光を放ち、やがて温かな雨を降らせた。触れるものを濡らすことのない、癒しの雨。祈りの雨。それが仲間達に触れると、傷口はたちまちふさがっていく。
「お前さん方、無事か?」
縁が叫んだ。ブランシュ、咲耶も一緒だ。足止め組が此方に追いついたわけだ。
「卵はどうなってるでござる?」
咲耶が尋ねるのへ、リディアが頷いた。
「錬さんとサルヴェナーズさんが、運んでます! もう安全圏に離脱する頃です!」
「よし、ならばもう、こいつに用はないな。ブランシュ、砲撃で足を止めてくれ」
縁が叫ぶのへ、
「了解なのですよ!」
ブランシュは頷いた。派手に砲撃をぶちかますブランシュ。狙いを定めずに、目くらましのように砲撃を撃ち放つ! 轟雷のような音が鳴り響き、フェザーワイバーンの周囲で爆発と爆炎が巻き起こった。
「よーし、この機に乗じて離脱じゃ!
場面転換のテーマをながせい!」
夢心地が叫び、すたこらさっさと走り去る。
「わわ、夢心地さん、とっても足が速い!」
キルシェも驚きつつ、走り出した。リディアが最後に、黒顎の斬撃を目くらましに打ち放つ。フェザーワイバーンがそれを回避すべく大きく飛びあがった。やがて再び同じ場所に降り立ってきた時には、既にそこに誰もいなかった。フェザーワイバーンは怒りをあらわに、鳴き声をあげながら周囲を周回する。だが、イレギュラーズ達の姿を見つけることはできず、結局空しく巣の周囲を警戒するにとどまるのであった。
●報酬のプリン
「おお、見事なものだな!」
真我が豪快に笑う。何とか集落へと戻ってきたイレギュラーズ達は、早速真我に、フェザーワイバーンの卵を示して見せたわけだ。
「これで認めてくれるか?」
錬がそう言った。錬が両手で抱える位のサイズの卵だ。ここまで持ってくるのにも相当苦労した。
「ああ、勿論だ。お前たちの力量を認めるよ。
だが、力量を認められたという事は、これからさらに厄介ごとが舞い込むかもしれないぞ?」
「それこそ、望むところだ」
錬が応える。
「俺達と、縁を繋いでほしい。その為なら、この力、存分に振るうとも」
「頼もしい事だ」
それより、と真我は咳払い一つ。
「お楽しみの時間だ。今日は良い卵が採れた。ありがたい事だ」
「プリン、ですね」
サルヴェナーズが微笑んだ。
「興味があります。あまりプリンを食べたことはありませんので」
「ほう? なら、それは気の毒に。最初にこれを食べたら、他のプリンでは満足できなくなってしまうだろうな?」
「それほどまでのおいしいのですか?」
サルヴェナーズが小首をかしげるのへ、真我はくっくっと笑った。
「ああ。何せこの儀礼も、本当は卵が欲しくてやっているんじゃないか、等と言われるほどにな!
俺も最近はそう思うほどだ!」
ははは、と豪快に笑う真我。最初の印象はとっつきにくそうな強面のリザードマンであったが、なるほど、打ち解ければ意外と気さくなのかもしれない。
「疲れただろう。戦士団の詰め所がある。休憩室で休んでくれ。
すぐにプリンのいい匂いがするだろう。だが、呼ばれるまでは我慢しろよ」
「ほほう、そんなにおいしいのかの」
夢心地が声をあげた。
「しかし、そんなにうまい卵なら、他の料理も食べたいのう。たまごかけご飯、オムレツ、だし巻き卵……」
「それは確かにそうだな。だが、今日の所はプリンで我慢してくれ。これを食うまでが、儀礼みたいなものだよ」
「では、少し休ませてもらうとするか!」
かっかっか、と夢心地が笑う。一同は真我に案内されて、戦士団の詰め所の一室に通された。簡易なベッドもあり、休憩するには充分だろう。冷えた水をたたえたツボもあり、飲みたかったら自由に汲んで飲んでくれ、との事だった。
「しかし、流石亜竜。比較的温厚とは言え、大した迫力で御座ったなぁ」
咲耶の言葉に、リディアが頷く。
「はい。ここで活動するという事は、あのクラスの怪物と対峙する可能性を常に考慮しないといけないのですね……」
真剣な表情で言うのへ、
「そうだな。だが、まぁ、何とかなるだろうさ」
縁は疲れをいやすように、リラックスした様子で応える。果たしてほどなくすると、何か甘い匂いが部屋に漂ってくるのが分かった。
「わ、プリンの匂い!」
キルシェが声をあげるのへ、
「おお、これがプリンなのですね!」
と、ブランシュも声をあげた。確かに、濃厚な甘い香りが漂ってくる。これにはつばも出てくるというもの。
「うう、どんな感じなんだろう……見に行きたい……だめよ、ルシェはお姉ちゃんだから、我慢するのよ!」
うう、と目をつむるキルシェ。一方ブランシュは、ほんのりした顔で、
「ふふ、これは良い香りです。楽しみですね~」
と呟くのである。真我がプリンを持って現れたのは、それから少ししての事だ。
「おまちどう。これが俺たち戦士団のプリンだ」
盆の上にのせられた、黄色い宝石。カラメルソースの代わりにベリーのシロップが乗せられた、甘い黄金。
「早速食ってくれ。疲れも吹き飛ぶだろう」
「では、遠慮なく」
縁がそう言って、プリンを口運ぶ。皆もそれに習った――刹那! 口中を包み込むは甘い幸福! 濃厚な甘みとコクが優しくもとろけるように舌を包み込んだ!
「お、おお、おお!」
咲耶が感激の声をあげる。
「おいしい! すっごく、おいしい!」
キルシェが幸せそうに笑顔を浮かべる。
「素晴らしいですね。たまごの濃厚な味が、シロップの甘味とぶつからずに、調和するように感じます」
サルヴェナーズも、思わず口元をほころばせる。
「確かに、これは疲れも吹き飛ぶおいしさです!」
リディアが微笑んだ。
「だろう? おかわりならあるから、思う存分食ってくれ。
そして、ようこそ、亜竜の里へ。
歓迎するぜ、ローレット」
真我は、にぃ、と笑った。
果たして、甘い幸福と共に、イレギュラーズ達のイニシエーションは、成功裏に終わるのである――。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お仕事お疲れさまでした!
皆さんのトライアルは無事成功。
そして味わったプリンは、極上のそれだったはずです。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
亜竜種たちの領域、フリアノン。
そこで一つ、トライアルを行いましょう!
●成功条件
フェザーワイバーンの巣から、卵を一つ持ち帰る。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
渡された地図の指示通りのルートを選ぶならば、想定外の事態は絶対に起こりません。
●状況
亜竜種たちの信頼を勝ち取るための、『覇竜領域トライアル』。その一環として、あなたたちは、戦士集団の一つに属する、真我(マナガ)という亜竜種から、戦士になるための通過儀礼の一つに参加するように要請されます。
それは、フェザーワイバーンの巣に向かい、卵を一つ盗んでくること。
舞台となる山岳地帯の地図は、しっかりと克明に描かれています。ルートは決められており、ここを外れなければ、迷ったりすることは絶対にありません。
外れなければ、です。もし迂闊にこのルートの外に出てしまった場合の命の保証はありませんので、ご留意を。
フェザーワイバーンの卵は、大人が抱えてようやく持てる位に大きく、運搬するための手段も考える必要があるでしょう。
それだけでなく、フェザーワイバーンは亜竜の中では大人しいとはいえ、一般の魔物とは一線を画すような存在です。
戦闘面のケアも忘れずに。
無事に持ち帰ってこれたら、プリンを作ってくれるらしいですよ。
作戦決行時刻は昼。作戦エリアは山岳地帯です。特にペナルティはありませんが、足場に関するスキルや、索敵や見通しを浴するスキル等を持っていると、有利に働きます。
●エネミーデータ
フェザーワイバーン ×1
大きな、いわゆるワイバーンです。ただ、前進は羽に覆われており、見た感じは鳥にも近い種族です。
基本的に気性は穏やかですが、卵泥棒には容赦はしません。当然ですよね。
鋭い爪や、くちばしのような口腔による攻撃、或いは、翼を刃のように展開したり、風を巻き起こして叩きつけたりしてきます。
BSとしては、『出血系列』『足止系列』を付与してくるでしょう。
戦う相手は1体ですが、あまり戦闘が長引いたりすると、仲間が来る……可能性もあります。そこだけにはご注意を。
なお、討伐する必要はありません。あくまで目的は、卵の確保です。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
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