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シナリオ詳細

<Jabberwock>クリスタラード・スピード

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●空が割れた日
 再現性東京20X0希望ヶ浜地区。その南端にあるガハマランドはオーソドックスな遊園地である。
 日々家族連れやカップルで賑わう筈の場所は、しかしたった数分で地獄と化した。
 炎をあげて転倒したアイスクリームワゴンの向こうには、半壊したメリーゴーランド。馬から下りれず泣きわめく小さな子供が、白い半透明の水晶体へと吸い込まれていった。
 頬に煤をつけ、ところどころが焼けたカーディガンを羽織った母親らしき女性が助けを求める声に起き上がり、子供の名を叫ぶ。
 子供はやや細長い八面体の水晶内部へと閉じ込められ、内側から必死に壁を叩いている。くぐもった声で、今も尚助けを呼ぶ声がした。
 手を伸ばす母親めがけ、水晶体は光の弾を連続発射。初弾こそ大きく外したものの、まるで狙いを徐々に整えるかのように母親へと迫る。
 怯えすくむ母親に直撃する――かに思われたその時。
 豪速で駆け抜けたバイクが彼女をかっ攫っていった。
 小脇に抱えられた形になった女性が顔をあげる。ライダースーツに、頭部に獣耳ポケットのついたフルフェイスヘルメットをした、髪の長い女性に彼女は抱えられていた。
「無事か?」
 ヘルメット越しに問いかける女性。それでも美しい声だ。白銀の髪が長く後ろに伸びて、洗練されたボディラインがスーツによって露わになっている。
 が、見とれている場合ではない。母親が子供が水晶体に閉じ込められたことを叫ぶと、女は――マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)はバイクでスライドブレーキをかけ、女性を下ろしヘルメットを脱ぎ捨てた。
「まったく。タダでさえ今は人手不足だっていうのに……花丸!」
 マニエラが自らの魔術を込めたカードをピッと投げると、後ろから走ってきた笹木 花丸(p3p008689)がそれをキャッチ。手の中で消えたカードは、彼女に高度な戦闘効率能力を付与した。
 水晶体から放たれる光弾をジグザグに走ってかわす花丸。そして真正面へと迫った弾を跳び蹴りによってシュートすると、水晶体へと跳ね返した。
「よしっ、攻撃は効いてる! ってことは、倒せる!」
 一度着地すると、花丸は思い切りスニーカーで地面を踏みしめ、そして再度跳躍した。
 宙に浮かぶ水晶体へと距離を詰め、中で怯えた子供と目が合った。ウィンクする花丸。ハッとして頬を赤らめる子供。
「ひっさつ――『蒼天』!」
 花丸は思いっきりパンチをたたき込むと、水晶体を衝撃が貫いた。
 蒼天。それは必殺技というより『不殺技』である。
 うっかり当てても殺してしまわないようにという配慮であったが、その選択は結果として正解だった。
 破壊された水晶体から落ちた子供は、多少の怪我をしてこそいたもののきゃあといって花丸の腕へとキャッチされた。どうやら元気そうだ。
「水晶体を破壊すると、爆破して内部の人間もろとも死なせてしまうと聞いたが……」
 歩み寄ってくるマニエラ。親子が掛けより、抱き合う風景をちらりと見る。
「【不殺】攻撃なら助けられる、か。お手柄だな」
「ん」
 花丸は頷き、そして回想した。

 ROOの悲劇からこっち、これまでの文化形態を維持しきれなくなった希望ヶ浜地区が2010から20X0と名を変え、様々な問題を技術革新という理屈で処理しきった頃。
 大親友(という言葉で表しきれないが)と遊ぶために花丸は希望ヶ浜へと訪れていた。
 ついたよと連絡するべくスマホを取り出す。自分と音呂木・ひよの(p3n000167)がツーショットで映っている写真だ。タワーをバックにした冬の夜景つきである。
 ショートカットにしていたアイコンをタップしようとした途端。
 ――空が割れた。
 そう、空が割れたのである。美しく爽やかな青空が粉砕され、疑似天球を破壊し降下してくる巨大なドラゴンを見たのだ。
 ワニのような顎と目。大きな翼。赤い鱗。脳裏にリヴァイアサンとの戦いが蘇る。
 花丸には、これが『竜に似た怪物』でも『竜を摸した機械』でもなく、『真なる竜そのもの』であると、直感できた。理由はないが、それが泡立つ肌感覚と共に確信できたのだ。
 それは日常の破壊であり、世界の破壊である。
 地面への着地だけで馴染みのパン屋が物理的に潰れ、沿いの人工川が氾濫し、街路樹が周囲のアスファルト素材ごとめくれ上がり吹き飛んでいく。
 そんなドラゴンを追いかけるようにして複数の水晶体が疑似天球の穴から出現。都市内へと入り込み、半透明な光線をあちこちへと放った。アブダクトビームとでも言おうか。人々が吸い上げられるように光の線を通り、水晶体の中へと閉じ込められていく。
「なに、が……」
 何が起きたの? そう呟こうとした所で、スマホが振動し着信音を鳴らす。相手の名は『音呂木・ひよの』。
 反射的に通話アイコンをタップすると、まず最初に『生きてますか?』という声がした。
「う、うん。大丈夫。ひよのさんは!?」
 一秒ほどの、長い沈黙のあと、通話先のひよのは小さく咳払いをしたようだった。そして、早口でまくし立てる。
「今すぐ、動いてください。佐伯さんからドラゴン襲来の連絡がありました。防衛力を欠如したこの都市では、もちません」
 見ればわかる。鉄壁の守りを誇っていたセフィロトが、まるで卵の殻でもわるかのように破られ、そして今まさに住民たちが襲われているのだ。
「こちらも対応を急いでいます。花丸さんは……南の遊園地へ向かってください。人手が足りません。それと……」
 言葉が途切れ、小さな声で続く。
「デートは、また今後」
 『また今度』という言葉の重みに、花丸はうんとだけ返した。通話がきれる。きびすを返し、道路の真ん中を走る。

 同時刻。ドラゴン襲来を察知した越智内 定(p3p009033)は自宅のベッドから転げ落ちた。
 追って落ちてきたスマホが顔面に激突したことで唸ると、すぐにその画面にある画像と着信通知が表示された。
 花火とタワーと、綾敷・なじみ(p3n000168)が映った写真だ。
 そして当然通話相手は、なじみだった。
「生きてるかい? こっちは……まあギリギリってところかな」
 その言葉を聞いて、定は反射的にそばのジャケットをひっつかみ、部屋を飛び出そう……としたが、なじみはそれを電話越しに制した。
「助けには来なくて大丈夫。なじみさんは、大丈夫だぜ。それより、定くんには助けにいって欲しい場所があるんだ。いいかい?」
 ゆっくりとジャケットを着直し、鏡をのぞいて寝癖を直しながら定は『ああ』と応えた。
 ふと、玄関へと視線をやる。
「もう迎えに来てる。家の前だよ」
 電話越しのそんな声に、思わず華やいだ定は玄関の扉を開け。
 そして。
「よう、越智内」
 紫色の高級車(左ハンドルのオープンカー)に乗った『希望ヶ浜学園校長』無名偲・無意式 (p3n000170)が手招きしていた。他には誰も居なかった。
「お前の助けが必要だ。乗れ」
 通話越しに、なじみの声がする。
「がんばってね、定くん。これでもなじみさん、次に遊びに行くのを楽しみにしてるんだぜ」

●霊喰晶竜クリスタラード
 希望ヶ浜全域にわたってドラゴンによる侵食が始まった。
「『霊喰晶竜クリスタラード』。覇竜の領域からやってきた真なる竜種の一体……いや、ひと柱だ」
 水晶体によって連れ去られそうになった人々を片っ端から救出して回った定たちは、遊園地の傾いた観覧車前で無名偲校長と合流していた。
 煙草をくわえ、ふとマニエラの顔を見る無名偲校長。
「お前は、つくづくドラゴンに縁があるな?」
「望んでねえんだよなあ」
 苦々しく言いながらも、しかし経験則からわかることがある。
 空を大きく旋回しながら地上を睨むクリスタラードを見ただけで、わかることが。
「ヤツは竜。リヴァイアサンと同種の怪物だ。数百人単位で連続トライして、数百だか数千人だか死んで、命を犠牲にした奇跡を連発してやっと『お帰り頂いた』ヤツの同類だ。
 強さの強弱ってやつはあるんだろうが、『無理をすれば殺せる』ような相手じゃないのは確かだろうな」
 無理をしても殺せない。大量の犠牲や、無理を通り越した効率化の果てでやっと殺せる。そういう類いの、伝説に語られるような怪物だ。
 いくつかの色のついた水晶体がクリスタラードへと舞い上がっていく。中には、閉じ込められた希望ヶ浜住民の姿が見えた。大人や子供。家族ずれ。老夫婦。飼い犬を抱きかかえた娘など、統一性はない。
 クリスタラードは、水晶体を自らの周囲で旋回飛行させながら、傾いた観覧車の上へと着地した。
 こちらを、睥睨している。
 定と花丸が身構えた――その瞬間。クリスタラードは観覧車を蹴ってまっすぐ北へと飛び始めた。
 その方向にあるものは、間違いない。
「――学園が危ない!」
 花丸が叫ぶが早いか、校長はオープンカーへと飛び乗り、ハンドルを握った。同じくバイクへと跨がるマニエラ。
「折角こっちの生活も板についたんだ。ぶち壊されちゃあたまらねえんだよ」
 エンジン音が、うなりを上げる。

GMコメント

※このシナリオはベリーハード難易度のシナリオです。
 成功条件は厳しく、成功させるだけでも困難です。
 その上で多数のオプションがありますので、『より成功に近づける方法』や『より納得できる戦い方』を相談の上で選択しつつ、それを実現可能なだけのスペックと行動を要求されます。
 大健闘し善戦しても失敗するリスクがあり、その上でどれだけのものを手にできるかが重要です。
 成功条件やオプション条件達成にあたってどんな手段をとっても構いません。が、相応のリスクとコストを必ず要求します。
 健闘を、そして武運を祈ります。

●成功条件とオプション
・成功条件:クリスタラードの死亡(討伐)
 OP中にマニエラさんが言ったとおり、『無理をしても殺せない』レベルの怪物です。
 これがベリーハード難易度である最大にして最重要な理由です。
・オプションA:クリスタラードが希望ヶ浜地区から撤退する
 クリスタラードに一定以上のダメージを与えるとおそらく撤退を開始します。成功条件に至らないまでも最善の結果や被害軽減をはかる手段となるでしょう。
・オプションB:水晶体(ドラゴンクリスタル)を半数以上破壊する
・オプションC:水晶体(ドラゴンクリスタル)をすべて破壊する
 クリスタラードは『色つき(アクティブ)』となった水晶体を複数侍らせています。
 水晶体は独立した自我をもつモンスターで、浮遊しクリスタラードに連結した形で移動します。詳しくは後のエネミーデータにて解説します。
 オプション達成条件は、このアクティブ体を破壊することでカウントされます。
・オプションD:閉じ込められた希望ヶ浜住民を半数以上救出する
・オプションE:閉じ込められた希望ヶ浜住民を全て救出する
 水晶体に閉じ込められた希望ヶ浜市民は生命力をエネルギーに変換されています。長時間放置すれば衰弱死するでしょう。水晶の壁越しに治癒魔法をかけるなどの試みは全て失敗しています。
 また、水晶体をただ破壊した場合霊的爆発が起き中に居た市民も死亡します。
 生きたまま回収するには【不殺】攻撃によってトドメをささなければなりません。
(※普通は水晶体のHPは判別できないものとします。詳しくは後の補足で解説します)
・オプションF:クリスタラードが希望ヶ浜学園に到達する前に決着を付ける
 かなりの速度でクリスタラードは希望ヶ浜学園へと飛んでいます。
 おそらくそこに人間が避難し密集していることを察知したのでしょう。
 戦闘に時間をかけすぎた場合、希望ヶ浜学園にかなりの危険が及びます。
・オプションG:無名偲校長を直接戦闘に参加させない
 校長は魔改造オープンカーを運転する役割として皆さんに同行しています。攻撃や防御を行いません。クリスタラードも(その必要が全然ないので)直接狙いません
 が、仮にクリスタラードが希望ヶ浜学園へ到着してしまった場合、校長は戦闘に参加します。
 理由は一切秘密ですが、そうなった場合このオプションは達成されません。されませんし、あまり良い未来にはなりません。要するに、できる限り早期の決着を目指して下さい。

☆成功条件とオプションまとめ
 ドラゴンが希望ヶ浜へ到着する前に、水晶体に閉じ込められた人達を任意で救出し、殺すかまたは一定ダメージを与えて帰らせるべし。

●エネミーデータ(ドラゴン)
 希望ヶ浜地区全体は亜竜(デミドラゴン)による襲撃対応で手一杯になっており非常に緊急性が高いこともあり、皆さん10人しかこの作戦に投入できません。
 その代わり、皆さんはクリスタラード(とそのオプションユニットである水晶体)だけを相手にできます。

・クリスタラード
 非常に強力な竜種(ドラゴン)です。
 飛行能力を持ち、一軒家程度のサイズをもちます。
 フィジカルに優れ、牙や爪による攻撃の他、光の弾を放つ竜語魔法(ドラゴン・ロア)を用いました。
 まだ解明されていない攻撃方法や特徴があるかもしれませんが、それについては不明です。

●エネミーデータ(水晶体)
 市民が閉じ込められ、アクティブ状態となった水晶体です。それ以外のものは既に破壊し終え、その過程で多少のデータが得られています。
 また、正しくはドラゴンクリスタルと発音表記しますが、以下同様のものは圧迫防止のため漢字で略して表記します。
 水晶体には全て『収奪効果』があり、場に生きている限りクリスタラードや周囲の水晶体へと特殊な効果を及ぼします。
 また、水晶体はある程度独自に動き、光の弾を放つなどの簡単かつ低度の攻撃手段を持ちます。
 また、かなり高いFXAが予想されています。

 これまでの報告によると、水晶体の光弾攻撃はAPを100ほど消費し、素のAPは500低度しかないようです。HPは固体によって2000~10000程度と非常にばらつきがあります。

・赤水晶
 収奪効果:クリスタラードと他水晶体のHPを+10000する。この効果はブレイクできず、自身は含まれない。

・青水晶
 収奪効果:クリスタラードと他水晶体のAPを+5000する。この効果はブレイクできず、自身は含まれない。

・黄水晶
 収奪効果:クリスタラードと他水晶体の攻撃全てに【雷陣】【崩落】【呪縛】を付与する。この効果はブレイクでき、自身も含まれる。

・緑水晶
 収奪効果:クリスタラードと他水晶体の全てに【BS無効】を付与する。この効果はブレイクでき、自身も含まれる。

・紫水晶
 収奪効果:1ターンに1度、1つの対象に『EXF+100』の付与を与える。この効果はブレイクでき、自身も対象にできる。

・白水晶
 収奪効果:クリスタラードだけに【物無】効果を付与する。この効果はブレイクできない。

・黒水晶
 収奪効果:クリスタラードだけに【神無】効果を付与する。この効果はブレイクできない。

●補足
・【不殺】攻撃によるトドメについて
 普通は水晶体のHPは判別できないものとします。
 よって、高威力スキルを連発しトドメだけを不殺攻撃にすることは通常できません。
 例えばEXF判定によってミリ残りした対象に不殺攻撃をするといった、明らかに分かりやすい場合は可能とします。
 方法やその共有については相談して決めて下さい。が、方法論でプレイングを圧迫することはそれだけリスクを伴いますので、効率化や簡略化、ないしはそもそもプレイングの圧迫を必要としないスペックの用意が要るでしょう。

・水晶体内部に捕らわれた人間について
 希望ヶ浜市民が水晶体の内部に捕らわれています。
 『収奪効果』は彼らの生命力を奪うことで発動しており、かなり早期に救出しなくては彼らは死亡するでしょう。
 また、内部の人間が死亡した場合収奪効果は消失します。
 校長の予測では、クリスタラードが希望ヶ浜学園へ到着する少し前に生命力を使い切るだろうと言われています。

・移動しながらの戦闘について
 クリスタラードたちは二車線道路をまっすぐ飛ぶ形で学園へ向かっています。
 これに追いつきながら戦うべく、校長はオープンカーを豪速で走らせています。車に乗っているPCは騎乗戦闘スキルなしでも平常スペックで戦えます。
 これ以外のPCは騎乗戦闘可能なアイテムを持っていない場合、戦闘から置いて行かれることがあります。(馬でもバイクでも構いません)
 自分で乗り物を運転して戦う場合、戦闘スペックがやや下がります(何がどう下がるかは状況によって変わります)。が、騎乗戦闘スキルを有している場合はこれが免除されます。
 馬やバイク系は二人乗りまで可能。(二人目は騎乗戦闘スキルを要求されず平常スペックで戦えます)
 馬車系は今回の作戦では使用できません。また、今回は機動力にかかわらず乗り物を必要とします。(なんだか物に乗っていると不自然そうなキャラは自力で走っているように描写しますが、乗り物にのっている扱いであるものとします)
 そして戦闘のダメージは車両には入らないものとし、操縦者が戦闘不能になるまでは充分な運転が続行可能であるものとします。(車両を守ったり庇ったりするプレイングは必要ありません)
 また、これらの状態での『移動』『全力移動』は相対的な位置の変化として処理されます。(竜に追いつくために全力移動をし続けなくていいということです)

・クリスタラード他の飛行能力について
 戦闘可能なレベルでの飛行能力を全てのユニットが有しています。
 ですが高高度ペナルティの対象になるため、水晶体たちは高度3m以下を保ちます。
 クリスタラードに関しては『対象になったところで気にならない』のでやや高い高度をとることがありますが、直接攻撃等の目的で高度を下げてくることが多いはずです。


●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●重要な備考
 これはEX及びナイトメアの連動シナリオ(排他)です。
『<Jabberwock>死のやすらぎ、抗いの道』『<Jabberwock>金嶺竜アウラスカルト』『<Jabberwock>アイソスタシー不成立』『<Jabberwock>灰銀の剣光』『<Jabberwock>クリスタラード・スピード』『<Jabberwock>蒼穹なるメテオスラーク』は同時参加は出来ません。

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●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

  • <Jabberwock>クリスタラード・スピードLv:50以上完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別EX
  • 難易度VERYHARD
  • 冒険終了日時2022年02月01日 22時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
越智内 定(p3p009033)
約束

リプレイ

●伝説に弱点を作ったのは誰?
 ベーカリーショップタイプのカスタムワゴン車から積荷が放られる。
 少しでも軽く、少しでも速く走るためだ。
 もしこれが営業中で日よけを出していたならそれももぎ取って捨てたことだろう。
「希望ヶ浜南! 竜、ドラゴン!」
 『恋揺れる天華』上谷・零(p3p000277)は運転席でハンドルを握りしめ、ギアレバーを操作するとハンドル脇に固定していたスマホに音声検索を試みていた。
 GPSなんていう気の利いたものは働いてくれなかったが、地図は表示できた。これで学園までのおおよその距離もわかる。速度やおおまかな目印から都度計算し続ける必要はあるが、そこは努力だ。
 だが何より今は……。
「ドラゴンの弱点ってなんだ! ワニと同じか!? カメか!? シカか!?」
 全開にした運転席の窓から頭を出し、前方上空を飛ぶ巨大な怪物――霊喰晶竜クリスタラードを睨んで、彼は叫んだ。
 運転席の真横を走る大型の狼。森を意味する言葉で、『シルバ』という名前だ。その背に騎乗しているのは『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)だった。
 レイチェルは同じくクリスタラードを見上げ、そして忌々しげに眉間に皺を寄せる。
「生きてる以上は死ぬはず、なんだがなあ」
 あくまで異界の、21世紀地球での知識だが、竜というものは中国大陸を征服する際に集団が象徴動物としてかかげた架空の動物である。彼らが併呑した勢力には鹿やカメや蛇といった動物を象徴した紋をもつ集団があり、それらを飲み込んで合体したものだという主張をするべくありもしない動物を作り上げ、それを竜と呼んだのだ。
 ゆえに覇者の代名詞であり、覇王を想像させた。
 後に別の大陸にてドラゴン殺しの伝説として利用され、己の民族の自尊心を高める材料とされた。しばしば大蛇やニワトリや巨大魚に例えられてはドラゴン殺しの聖人伝説を作られ、それをもって『ドラゴンの弱点』という誤解が生まれ、いつしかそれらも陳腐化し異なる文化圏において『とりあえず強力なモンスター』という位置づけを得たのである。
 ゆえに総合して、こう述べておこう。
「ドラゴンに弱点なんてものはない。あれば今頃滅んだろうぜ、こんなヤバイもの生かしておきたいかよ」
 レイチェルは舌打ちをして、今度はドラゴンから周囲の水晶体へと意識をうつした。
 水晶の中に捕らわれているのは間違いなく人間だ。こちらのほうはむしろ分かりやすい。見るからにぐったりとしていて、長時間放置すれば命に関わるほどの衰弱具合が見て取れる。
 熱中症患者と飢餓状態、及び脱水症状をミックスしたような状態とでも言おうか。今すぐ水晶体を破壊して病院にでも送り届ければ命は助かるだろうが……。
「どうする。助けて病院まで直行する余裕があるか?」
「心配するな」
 レイチェルを挟んでワゴンと反対側。紫色の左ハンドルオープンカーが追いついてくる。
 運転席ではいかにも不吉そうな顔をした『希望ヶ浜学園校長』無名偲・無意式 (p3n000170)が、高速運転しながらガラケーで電話をするという危険行為に及んでいた。
 パタンとガラケーをたたみ、ポケットへしまう。
「救急車とタクシーを手配してある。澄原と去夢の所だ、信用できるだろう」
 後部座席で聞いていた『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)が『本当に?』という顔をしたが、ここは信じるしかない。あるいは、考えている余裕はない。
 自分達が彼らを助け出すことができなければそもそも運送手段自体意味が無くなってしまうのだ。
「それにしても、11人で竜を倒せだなんて……もとより断るなんて選択肢はないけど、赤点単位おまけぐらいはしてくれるよね校長先生!」
「俺にそんな権限が?」
「ないの!?」
 そうこう言っている間に、隣に座っていた『凡人』越智内 定(p3p009033)がすっくと立ち上がった。結構な速度で走るオープンカーで立ち上がるというのはかなりの勇気だが、定は迷うことなく車両の外へとジャンプ。
 素早く車体をよせてきた『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)のバイク後部へと跨がった。
「アーリアせんせ、頼みます」
「ん」
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は小さくだけ笑った。黒塗りの無骨な魔導ハイブリットバイクである。風を切って走るためにか黒い革製のライダースーツを纏い、後ろに人を乗せるために髪を団子状にまるめていた。
「しっかり捕まってねぇ」
「はい」
 定は決意を固めた少年の目で、アーリアの腰に手を回した。
 回してから、びくりと固まった。
 なんかすごいいいにおいがした。甘い果実のジュースをまぜたような香りだ。
 『これは母さんの背中!』と脳内で念を無限再生する定。
 アーリアがライダースーツのファスナーを首から胸元へとさげるさまを想像したからではない。1
 8歳なら想像しちゃいそうだが、そんな場面ではない。
 そんな場面ではないしそれに……。
「此処は僕達の街だ。大切なものが、いっぱい出来たんだ」
 スマホに保存された大量の写真。大量のトークアプリの履歴。最後の通話記録。
 これで終わりになんて、してやるものか。
 定の決意を背中越しに感じたのか、アーリアは笑みを深くした。
 彼だけじゃない。受け持った何人もの生徒は、かりそめの日常と立場とはいえ大切なものだ。彼らが消えて無くなってしまう明日なんて、見たくない。
「それに、校長にはまだまだ高いお酒を奢ってもらわないと!」
「それは構わん。棚から好きなものを持っていけ。校舎ごと消えていなければな」
 ずるい! と後ろから避叫ぶサクラ。
 それで空気が少しだけ軽くなったのを察したからだろうか。『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)が『あーあ』とあえて大きな声を出した。
「初めてのオープンカーは再現性千葉フォルニアのドライブデートって思ってたのになー」
 声に出してみるが、目の前の現実が払いのけられることはついぞなかった。
 高速で飛行する巨大なドラゴン。水晶に捕らわれた人々。
 巨大な物体が高速で移動したことによって生まれた暴風であおられる左右の建物。巨大な看板がそれによって外れ、はるか後方の道路を縦向きに転がっていく。
 自分達が無事なのは丁度真後ろについているからだ。じきに追いつき、戦闘可能圏内に入るだろう。
 早鐘を打つような心臓に手を当て、すこし急いで息を吸い込む。はいた息はため息というより、ハッと短い気合いをこめたものになった。
「校長先生、運転はお願いします!」
 シートベルトをあえて締めて、(なにげに初対面の)校長に小さく頭を下げる。
 『ん』とだけ言って、無名偲校長は無表情に前を見つめギアレバーを操作した。
 ドラゴンについに追いつき、同じ速度で並走する準備をとどのえたのだろうか。
 すると、両サイドを固めるようにして二台のバイク……というかバイクとドスコイマンモスが並走してきた。
「紫こーちょーからヤバめのDM飛んできたと思ったらドライブとはねー。
 どーよ私ちゃんのオープンカー、馬力も積載力もやばたんっしょ?」
 ドスコイマンモスの上でビッと親指を立てて見せる『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)。
 相変わらずふざけている……ように見えるが、目の奥の光は鋭い戦士のものだった。
 『形だけでもふざけてみせる』というのは、戦神になった時からの彼女の癖なのだろうか。それとも生来のものだろうか。
 ROOで会った戦神シリーズを見る限り戦神の癖っぽなー、などと頭の片隅で自問自答しつつ、秋奈は刀に手をかけた。緋色の刀身がすらりと抜ける。
 その一方で、『可能性を連れたなら』笹木 花丸(p3p008689)はポニーテールを靡かせ黒塗りのバイクを加速する。
 彼女が『サメちゃん』と愛称で呼んでいる練達製特殊自動二輪車だ。アーリアのそれと同じで多少の浮遊能力をもち、主に殴る蹴るで戦う花丸にピッタリの乗り物である。
 加速したのは周りにあわせてのことだが、本能的に戦いの始まりを予感したからというのも、ある。
 クリスタラードの巨大な瞳がこちらをちらりと見て、飛行する高度を下げ始めたのだ。
 たとえドラゴンでも高高度での機動力制限はかかるようで、高度を下げたことで大きく加速した。倍の速さにならなかったのは、こちらとの戦闘を警戒してのことか。周囲の水晶体も同じように高度を下げている。
「こっちを侮ってくれてない……かあ。捕まっててステラさん! きょうばっかりは荒っぽくいくよ!」
「はい、了解です!」
 二人乗り用のシートに跨がっていた『斬城剣』橋場・ステラ(p3p008617)が、花丸にしがみつく。両手の指輪から赤と青の光を漏れさせ、さながらサイリウムのように軌跡を描いていくが、剣の形はまだとっていない。
 水晶の中からもこちらが見えるのだろうか。高度を下げてきたことで、中に捕らわれた女性がこちらをちらりと見たのがわかった。助けを求めるような目をして、唇がわずかに動いている。
 ステラは花丸が何を考えているのかを、自分なりに想像してみた。
 いくつも思考が走ったなかで、『こっちを侮ってくれてない……かあ』という言葉がひっかかる。
「あ……」
 ステラは想像する。自分がドラゴンになって、異種族の街を破壊する命令を受けたときのことをだ。
 大きな身体で風を切って飛ぶ。全能感。わずかな高揚感。
 地面を走って追いついてくる異種族。彼らは自分が指をはじくだけで殺せるかもしれないほど脆弱だ。
 だというのに高度を下げる。はるか高高度を飛んでいけば無視できるかもしれないのに、あえて戦闘に有利な位置をとる。なぜか?
「私達が何者か、分かっているんですね……」
 確実に命令を果たそうと、ドラゴンは努力しているのだ。高い知性を働かせ、凄まじい戦闘力を持ちながら慢心をせず、はるかに脆弱なこちらを警戒すらしている。
 強敵だ。ROOの中で戦った終焉獣より、ずっと。
「それでも、なんとか。……いいえ、なんとかします!」
 ステラが強く言い切ると、自ずと声は大きくなった。
 『うん!』と同じくらいの声でいう花丸や同じように同意を示す仲間達。
 その中に、『無名偲・無意式の生徒』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)の声もあった。
「校長」
 平淡な、抑揚を感じさせないくらい感情のこもらない声を発して、マニエラは魔導バイクをオープンカーの横へとつける。
「奥の手を使う時は、お供させてくれよ」
「……」
 無名偲校長はただ目だけでマニエラを見て、何も言わずに前をむき直した。それが最大の答えであり、唯一の回答方法であったようにマニエラには思えた。
 思えばこの無名偲・無意式という人物は奇妙だし、不自然だ。佐伯は崇高な目的のために活動し、その一端として希望ヶ浜地区を幾千の建材と物資流通と情報の網によって作り上げた。音呂木神社も澄原病院も、去夢鉄道や阿僧祇霊園ですらその目的は分かりやすくまっすぐだった。
 希望ヶ浜学園……いや、無名偲校長だけだ。彼だけ、目的が分からない。普段はまるで働く様子を見せず説明すらしてくれないくせに、希望ヶ浜の状態が揺らぐことになれば今のように率先して動き始める。
 彼の目的はなんだ。
 彼は誰のために、あるいは何のために犠牲を払っている?
 そして払う犠牲とは、なんだ?
「いや、いいか」
 マニエラは途中までねじれた考えを、自ら止めた。
 今まさに希望ヶ浜は壊れようとしている。練達という国、あるいは構造ごと。そうすればたとえ人々が一握り生き延びたとして、二度と『希望ヶ浜』というセカイには戻れなくなるだろう。
「出し惜しみは無しだ。全力でサポートさせてもらう」
 ピピッとマニエラの装着していたスマートウォッチが短くアラアームと振動を発した。
 戦闘可能範囲へ到着。マニエラはライダースーツに備え付けたホルスターから扇子を抜いた。
 キュッと前後反転するように回転した赤い水晶体が、こちらへと光の弾を発射してきた。

●英雄の定義
 バラバラに飛行していたはずの水晶体が、針金でも通したかのようにピッタリと一列に並び、こちらへ『まんべんなく』射撃を開始した。
「――ッ!」
 光弾には黄色い光が宿り、直撃を受ければただで済まないのは明らかだ。
 直撃を避けるべく全員が一斉にハンドルをきり、アーリアも例外でなかった。
 しがみついた定へ『右!』と呼びかけ急速に身体を傾けると光の弾を回避。定は自分の頬から20㎝脇を弾が通り過ぎたこととその熱、ピリッとした静電気のような感触を確認すると、背筋にぞくりとはしった恐怖を振り払うかのようにナップザックに手を突っ込んだ。
 引き抜いたのは無骨な鋼の塊。剣でも杖でもなく、リボルバー拳銃のおばけだった。
 正確にはダネルMGLの応用コピー品。リボルバー式のグレネードランチャーである。弾には聖別された火薬とワインが使われた、魔を払い人を救う『聖なる手榴弾』の模造品である。
 自分なんかが持つにはあまりにいかつすぎるが――。
「いつか持つはずだったんだ。その『いつか』が、今だ!」
 トリガーを引くと極めてまっすぐに近い放物線を描いて飛んだグレネードが赤い水晶体へと激突。中に捕らわれた女性が顔を引きつらせて手をかざしたのが見えたが、定は歯を食いしばった。ガゴンと弾倉が周り、すぐさまグレネードを連射。
 二度目の爆発が起きた所で、アーリアは車体を起こしながら赤い水晶体の正面に位置取った。
 ライダーグローブの代わりに装着していた黒い手袋。ハンドルから右手を離し、額にピッと人差し指を立てた。まるでピストルの銃身をくっつけるみたいに祈りを――あるいは呪いを込めると、それこそピストルのように水晶体に指で狙いを付けた。
 何をしようとしているのか察した水晶体内部の女性が透明な壁の内側をばんと両手のひらで叩いた。
「大丈夫よ」
 アーリアは囁き、そして心の中でトリガーをひいた。
 パスッパスッという渇いた音と共に放たれた魔法の銃弾は水晶体を破壊。砕けたガラスのように散ったその中から女性がこぼれ落ち、地面へと転がった。器用にそれを回避して走るアーリア。なぜ回避したのかと言えば、そんなアーリアめがけて暴風が押し寄せたからである。
 先頭を飛行していたクリスタラードが鋭いインメルマンターンをかけ、鋭い牙をギッと見せつけ突っ込んでくる前兆であり、そして一秒とたたずそれは実現した。
 バイクを包み込むパープルカラーの魔術障壁。ガチンと食らいついたクリスタラードの牙は容易に障壁を破壊する――が、金色の魔術障壁がその一枚内側に出現。クリスタラードの牙をくいとめた。
 ハッとして定が振り返ると、タイムがオープンカーの助手席から身を乗り出してこちらに手のひらを翳していた。
 クリスタラードもそれを見たのだろう。ぶんと吐き捨てるようにアーリアたちをバイクごと5mほど高く放り投げると、さらなるターンをかけて校長の運転する車の背後につけた。
「校長先生、スピードあげて!」
「限界だが?」
 スーツの裾を引っ張って叫ぶタイムと、バックミラーをちらりと見ただけで表情を変えない無名偲校長。タイムは後ろを振り返り、そしてほっとした。
 というのも。はるか後方に転がったであろう、水晶体から助け出された女性が素早くかけつけたタクシーへと運びこまれ離脱していったからだ。
 そして、クリスタラードとの距離が20mから5mまで一秒たらずで近づいたことに気付いて毛をわずかに逆立てる。
 クリスタラードの巨大な眼球は、ぴったりと『自分』を睨んでいる。自分を殺せばチームの回復が追いつかなくなると察しているのだ。
「サクラ」
「んっ」
 無名偲校長の呼びかけに、後部座席のサクラが立ち上がる。クリスタラードを撃退するつもりか――と考えた次の瞬間にはサクラは勢いよく跳躍。猛スピードで走る自動車でそんなことをすれば当然のように外へ投げ出されるが、とてつもない一週ターンをかけながら横切ったマニエラのバイクへと着地。と同時に無名偲校長はハンドルを強引にきった。
 カーブするため――なのは確かだが、次の瞬間タイムは宙に浮いた。より厳密に言うなら自動車が45度かそれ以上傾いてタイムがシートから放り出されそうになった。
 シートベルトの偉大さを実感しながらきゃあと叫ぶタイム――の真横をクリスタラードが通過。更に大きな声できゃああと叫んだ。
 自動車はおかしなスピンをしてから、すぐに皆に追いつくべく走り出す。
 そして、タイムはすぐ後ろの道路が軽く1~2mほどえぐれていることに気付いてひゃああと小さく悲鳴をあげた。
 ペッと道路の素材を吐き出しながら飛び上がるクリスタラード。
 それに応えるかのようにジグザグかつ校長の車を囲むような陣形をとって飛行を継続した水晶体群。黄色いエネルギーを配合した光弾を一斉連射してきた。おそらくはタイムの動きを完全に封じるつもりなのだろう――が。
「マニエラ」
「みなまで言うな」
 包囲の中に思い切り割り込む形で横から突っ込んできたマニエラのバイク。光の弾を抜いた剣で打ち払うサクラ。
 マニエラは魔術を発動させて全員に施された黄色いバチバチとしたものをとりはらった。
 その様子を、クリスタラードはじっと観察している。
「不都合だろう? 私を殺したいか、クリスタラード」
 挑発でもするように人差し指だけで手招きしてみせるマニエラ。
 が、クリスタラードは彼女を無視するように飛行を続けている。
 舌打ちするマニエラ。
 黄色い水晶体を狙って斬り付けていたサクラが呼びかけてくる。
「マニエラさん、もしかして――」
「だろうな。クリスタラードには、強力なBSのついた攻撃手段があると見た。イエロークリスタルの【雷陣】効果はそのため、か……?」
 マニエラの反撃を見越して無視できるほど知性の高いドラゴンが、無駄にBSを詰むとは考えづらかった。
 クリスタルのエネルギー源を『現地調達』している以上、貴重な効果のはずだ。
「作戦通りだ、花丸!」
「まかせて!」
 花丸は『おねがいサメちゃん』と囁いてアクセルをひねるとフリーにした右腕で青い光を纏った。
 拳を繰り出す動作の先には黄色い水晶体。その内側には小型犬を抱きしめる少年が見えた。
「続いて、ステラちゃん!」
 思い切り拳を振り抜く花丸の動きと、シートに足を付けて飛び上がるステラの動きはほぼ同時だった。反動が逆方向にかかり、バイクはほとんど揺れることなく姿勢が維持される。一方で放たれた青いエネルギーは光の柱となって水晶体へ激突。押しのけるように道路脇のテナントビル外壁へぶつかり窓ガラスを次々に破壊――した所へ、ステラが思い切り飛び込んだ。
「伏せて!」
 叫ぶステラ。両手に赤と青による光の剣が生み出され、水晶体の上半分をバキンと切断した。
 言われるまま伏せた少年はビルフロア内へと転がり、ステラは砕けた破片を踏みながらスライド。少年を抱き起こす――暇はない。パチンとだけウィンクして見せるとすぐに走り出し、別の窓へ光の剣を投げつけて破壊。窓を壊すと同時に外へとダイブした。
 空へと飛び上がっていた花丸のバイクがそんなステラをキャッチ。車体を傾けてビル側面を走ると……悔しげに目を細めた。
「学園まで半分をきってる! 急いで!」

 花丸の声を聞いて、サクラは歯がみした。
 思ったよりもクリスタラードたちのスピードが速い。悠長に水晶体を破壊していては学園に到達してしまうだろう。
 マニエラは黙って運転を続け、その横にシルバに跨がったレイチェルがつけた。
 ちらりとこちらを見てくるレイチェルに、サクラは頷く。
「わかってる。間違わないよ」
 サクラの構えが大きく変わった。マニエラのバイクからまるで弾丸のようにサクラが飛ぶと、緑色の水晶体を斬り付け――その場で高速回転をかけた。
 まるで巨大な回転のこぎりを当てられたかのように赤い火花を散らす水晶体。内部の人間ごと破壊してしまいかねない動きに、水晶体内部でへたりこんでいた老夫婦が互いを抱き寄せ合った。
 そこへ、真っ赤な炎が浴びせられる。直前で飛び退いたサクラは、腕から流した血をそのまま炎へと変えていたレイチェルを見る。空中で一度回転し、そしてレイチェルのシルバへと相乗りする形で着地した。
「レイチェルさん、二人は――」
「任せろ。『視』えた」
 血が炎に変換されていたのはそこまでだ。血は炎ではなく複雑に折り重なった魔方陣へ変化し、魔方陣は白い光の円盤――いや、ゲートへと変わった。ゲートは立体的に連なり、それは砲身のようにも見えた。
 そして手の中で、『性急な砂時計』を握りつぶす。
「借りるぞ、『ジョアンナ』」
 自分にだけ分かる言葉で呟いたレイチェルはゲートを通し光の槍を発射。緑の水晶体を槍が貫き、老夫婦は地面へと投げ出された。抱き合って転がる二人を横目に、レイチェルは『無事だ』と小さく言った。
 そして、レイチェルは自らの姿を変化させながら叫んだ。
「もう一つだ――上谷、茶屋ヶ坂! それで『済む』!」
 レイチェルの言わんとすることを理解した零はアクセルをべた踏みにしてフロントガラスへ手を伸ばした。
「信じるぞ!」
 投影術式が発動。自動車と並走するような速度で美しい刀『天星』が空中に出現した。
「よっしゃ、気合いいれろマンモス!」
 立ち上がった秋奈は大きく鳴いて加速したマンモスから思い切り跳躍。
 目標は白い水晶体。内部に見えた幼い少女を抱きかかえた女性にあえてニッと笑顔を作ると、ふたふりの刀をそれぞれ高く振りかざした。身をゆみなりにそらし、全身を使って思い切り剣を水晶体に叩きつける。
 バキッと不安な音をたてて水晶体にヒビが入り、中の少女が泣き叫んだ。
 秋奈はその反動で宙を舞い、秋奈と入れ違いになる形で零の『投影術式《天星》』が弾丸のように飛んだ。
 水晶体の表面を穿ち、貫き、砕き、そして下半分だけを残して破壊した。
 地面に投げ出された女は少女を抱え。振り返る。バックミラーでそれを見た零はグッと拳を握り、天井にドンッと着地してきた秋奈に『上出来だ』と呼びかけた。
 その直後のことである。
 全ての建物を破壊して、真横からクリスタラードが現れ零のワゴン車を食いちぎっていった。

●霊喰晶竜クリスタラード
 車両後部だけを食いちぎる等というラッキーは起こらなかった。いや、車両の構造もどこに誰が乗っているのかも理解した上で、クリスタラードは零の座る運転席を的確に食いちぎり空高くへとかっ攫っていったのだ。
「ぐ、おお――!?」
 顎の力でみるみる圧迫されていく運転席。まるで棺のように狭くなったスペースの中で投影魔術によって呼び出した『天星』が即座にばきりとへし折れた。
(死ぬ? 俺が……?)
 これまで何度も考え、あるいは口にしてきた単語が、突如現実を帯びたのが分かった。死んだらどうなる? 誰がそれを覚えて、誰が泣く? 良い悪い、許す許さないが全て通用しなくなるだろう。自分の望まない全てにNOと言えなくなるだろう。明日を観測することすら許されない筈だ。全ての選択を、今この瞬間に取り上げられるのだ。
「う、ぐ、うう……!」
 両足が潰されたのだろう。感覚がない。右腕もだ。
 胸が圧迫されたせいで言葉もでない。
 が、ひとつだけできることがあった。
「――!」
 なんと叫ぼうとしたのかも、血の上った頭では理解できなかった。
 少なくとも『Tout abattre』のマクロ術式をギフト能力と混合して放ったのは確かだ。

 上空。クリスタラードが車両の前部分を吐き捨てたのが見えた。レイチェルはこらした目で零の肉体を発見し、それがぴくりと動いたのを見た。
 回収すべきか? 飛行可能な誰かが彼を?
 そう動こうとした仲間を察知したのだろう、クリスタラードはその巨体から、あるいはその翼の形状からは想像できないような鋭角のカーブを描いてレイチェルたちへと急降下してきた。
 狙いは誰だ? いっそ地面ごと食いちぎるつもりか?
 レイチェルは想像し、そして想像する無意味さを悟り『選択』だけをした。
 吸血鬼としての変化能力をそのまま解放。金銀妖瞳を持つ銀狼に変化すると、天空めがけて思い切り魔力を帯びた爪を奮った。
 巨大な孤月の形をした真っ赤な斬撃が空に奔り、クリスタラードの顔面を払う――と同時にクリスタラードの爪が走った。
 直撃と直撃。『ドラゴンの顔面をぶん殴る』という偉業を達成したレイチェルはその直後、走っていた道路ごと削り取られ道路側面に立っていたテナントビルを半分ほどえぐりとり、はるか上空へと舞った。
 もはやレイチェルの意識はないのだろう。されるがまま宙を舞うその肉体から、秋奈はあえて意識を外した。
 クリスタラードが車両を囓り取ったその瞬間に飛び退き難を逃れていた秋奈が、走ってきたどすこいマンモスの頭を踏み台にして跳躍。クリスタラードめがけて剣を構えた。
 じろりとクリスタラードがその姿を睨む。睨んだその瞬間に生まれた水晶の槍が七本生まれ、その全てが秋奈の身体を一瞬で貫いていく。
「――!」
 死んでいて然るべき傷だが、こらえた。
(あの子の、本物の奏の刀ならできる! こんな事に躓いて、私は足を止めたくないの! ねえ、そうでしょう! ――奏!)
 振りかぶった刀を、秋奈は思い切り投げた。
「――戦神をなめんな!」
 刀は見事にクリスタラードの眼球へと突き刺さる。
 その瞬間をアーリアと定は目撃していたが……しかし。
「作戦通りにいくわよ!」
 ジィッとライダースーツのファスナーを胸元まで下ろすと、アーリアはその内側から美しい色の酒瓶を取り出した。ぴったりとしたスーツに一体どのように入っていたのかわからないが。
 ラベルには魔女がよく使う古代文字が書かれている。『ブーザァ・ブーザァ』という意味の言葉だ。
 思い切り投げつけた酒瓶が黒い水晶体にぶつかり割れて、大量の小妖精が出現。
 クリスタラードの制御を外れたのか、それとも分散させるだけの余裕がなかったのか、すぐ近くに配置されていた紫の水晶体へも『妖精のいたずら』ふりかかっていく。
「定くん!」
「せんせ」
 伏せて、と続けた定に応じてアーリアは上半身をふせ半分ほど解放された胸元をぺったりと車体につけた。
 定は『最後のとっておき』を腰に下げたバッグから取り出すと、それをグレネードランチャーの弾倉へ差し込んだ。
 キュゥンという収束の音がした。聖別されたワインに含まれる聖なる力が圧縮された音であり、小さな精霊たちがコンマ5秒の間に十七章だての歌をうたった音である。
 かつて天義では聖書解釈の裁判において、まち針の上で何人の精霊(ピクシー)が踊れるかという議論がなされ、それを基準として聖なる力の計測方法が編み出されたことがある。
 定のグレネードに込められた聖力が788p/pinであるとして、今詰め込んだグレネードの聖力はおよそ1300~1400p/pinの間で揺れた値で計測されランチャーにオプションされたニキシー管に表示される。
 それはもしかしたら、定の込めた祈りの力であったのかも知れない。
「返せ」
 打ち出されたグレネードが激しい爆発を起こし、水晶体を二つ同時に破壊する。
 ガッツポーズをとる……余裕はない。両目を見開き、定は荒く呼吸をした。

「やったな」
 マニエラはそうとだけ呟くと、自分を睨むクリスタラードを見た。
「いい加減、邪魔になってきた頃か? 覚悟を決めろドラゴン。嫌いな食べ物をたべる時だぞ?」
 意図するところが分かるのだろうか、マニエラが扇子を広げたと同時にクリスタラードはマニエラの前方へとターンしこちらを向くと、口を開けて突っ込んできた。
 立てかけられるように落ちていた看板をジャンプ台代わりにして飛び上がるマニエラ。
 ドラゴンの開いた口めがけてバイクで突入するコースをとりながら、マニエラは自らの力を倍ほどに膨れ上がらせた。
「この身尽きようとも――爪や牙いや、眼の一つ程は対価として貰い受けようか」
 バイクから跳び、クリスタラードの牙を回避したマニエラは眼球に刺さった剣めがけて蹴りをたたき込む。全身全霊の魔力を注ぎ込んだ蹴りによって秋奈の刀は深々と刺さり、クリスタラードは今度こそ痛みに声を上げた。
 直後、繰り出した爪の一撃をまともに喰らい、マニエラが地面をバウンドしながら転がっていく。
 全ての力を出し切ったがゆえ、防ぐための魔力を残していなかったのだろう。
「花丸さん、後は頼みます!」
 ステラがそう叫ぶと、花丸のバイクから飛んだ。
 呼びかける間もない。キュンッと180度のありえないターンをかけたクリスタラードが花丸のバイクのすぐ後方へと迫ったためである。
 狙うは一点。先ほど刀が深々と刺さり今なお血を流している片目だ。
 ステラは両手を合わせると、二重螺旋になった赤青二色光の大剣を作り出す。それまで生み出していた剣より遥かに大きい。二つ併せたからではない。それ以上の力を、全身から絞り出すように注ぎ込んだからだ。
「斬城剣ステラ――ドラゴンすら斬って見せましょうとも!」
 ざくんと突き刺さる剣に、クリスタラードは暴れた。人間でいえば脳まで達しただろう……が、それでもクリスタラードは止まらない。
 剣がフッと消え全身からも力が抜けて落ちていこうとしたステラをつかみ取り、がぶりと足を食いちぎったのだ。
「ステラさん!」
 悲鳴のような声をあげる花丸。
 だがその声はクリスタラードの咆哮に全てかき消された。
 車の後部座席へ戻っていたサクラの呼び声も、タイムの叫びも、無名偲校長の運転する車の激しいエンジン音でさえも。
 そしてクリスタラードは首を傾け、花丸のバイクも校長のオープンカーも、まとめて頬張るようにその巨大な顎のなかへと喰らい、そして――。
 ――ばくん、と顎は閉じた。

 静寂、だったように見えた。
 クリスタラードは一度飛行をやめ、周囲を見回す。時折はるか遠くにこちらを見る人間の姿はあったが、自分へ刃向かおうとする者は一人として見えない。
 片目がやられたが、手をあてれば血は止まった。
 キュキュウという奇妙な音をたて、水晶による美しい義眼が作られる。
 瞬きを二度ほどすれば、それは元の目とかわらない。
「強者だった。危ういところであった」
 口を閉じたまま、空気だけを震わせて独りごちる。
「クリスタルも全て砕かれてしまった。ジャバーウォック殿の命を果たすには、新たに収穫せねばならぬか」
 かなり大量のクリスタルを投入してやっと七色揃ったという経緯を考えると、今から向かおうとしている『学園』なる場所を襲撃すれば同じ程度の数を確保できるだろう。
 できることなら、今戦っていた強者達をクリスタルに閉じ込めてエネルギー源としたかったが……。
「そのような余裕は、こちらにもない……か」
 油断すればこちらの命をとりかねない存在だと、クリスタラードは考えていた。
 ジャバーウォックをはじめ他のドラゴンたちが聞けばなんと矮小なと笑うだろう。人間が10人かそこら集まった程度で殺されるはずはない。ドラゴン(竜種)とはそういう存在なのだ。
 だが、クリスタラードは彼ら……ローレットという存在に何かを直感していた。いつか自分達を屠る存在がこの中から生まれるのではという直感だ。
 ありえないと自分の中の理性と経験が告げているが、クリスタラードは直感を信じるタイプだった。
「確実に、全員殺しておくべきか……」
 振り返り、路上に転がり意識を失ったマニエラやレイチェルや、手の中のステラを見る。
 と、その瞬間。
「ぐっ!?」
 口の中を激しい刺激と、鉄の味が走った。
 思わず口を開き、中のものを吐き出す。
 大量の血と共に転げ落ちたのは、サクラと花丸。そして彼女たちとは別にタイムを抱えてこちらを不吉そうな、あるいは悪魔めいた目で見る不気味な存在だった。
 不気味な存在は翼を羽ばたかせてホバリングすると、タイムを道路の上へ寝かせる。
「よく耐えた。褒めてやる。お前の力が無ければ……全員死んでいただろう」
 大量の血から守られていたのだろうか。タイムの頬には涙のあとが残り、『エンジェル・レイン』の力を解放した痕跡もまた残っていた。
 不気味な存在が手をかざすと、空中で一瞬だけホバリングしたサクラと花丸がふわりと地面に落ちる。
 そして、不気味な存在は回想した。

 クリスタラードによってひとのみにされたサクラは、自らの肉体がかみ砕かれたことを実感した。
 もはや自分がどんな形状をしているのかも思い出せない。脳が死を予期して感覚をシャットアウトしたのだろう。が、最後に一度だけ……。
 一度だけできることがある。
「天義の聖騎士、サクラ――ロウライト」
 そう呟いたはずだ。舌や喉が動いたかどうかすら怪しいが。
 『ロウライト』という言葉が、彼女の胸になにか熱いものを感じさせた。心臓が残っていたかも怪しいが。
「こ、な、く、そぉーーー!!」
 叫ぶ。
 いや、叫べた。
 急速に回復した自らの肉体が、赤く光る剣によって照らし出された。手を伸ばし、掴む。
 その向こうでは酷い状態になったタイムが涙を流しながら手を伸ばしていた。彼女から溢れてくる力と、サクラが直前に服用したアクアヴィタエの効果が現れたのだ。
 それは、花丸も全く同じだった。
「ん、ぐ……ぐうう……!」
 かろうじて復元された右腕と左足をつっぱり、震えながらもクリスタラードの顎を押しのけている。
「この場所が閉じた箱庭だとしても、此処は私の―皆の大切な居場所なんだ」
 花丸の言葉が、鮮明に聞こえた。
「奪わせてなんてやるもんか……奪わせてなんて、やるもんかァ!」
 泣き声にすら聞こえる声で、花丸が叫ぶ。
 瞬間、闇が彼女たちの間を走ったよに思えた。
 闇が腕や脚に巻き付き、操り人形のように自らの動きを補強したように思えた。
 サクラは剣を振り、花丸は闇の拳でどこともわからないクリスタラードの部位を殴った。
 そして。
「ぐっ!?」
 クリスタラードは、思わず彼女たちを吐き出したのだった。

 ぜえ、ぜえ……という息を荒げる声がする。
 見上げると、クリスタラードが胸を押さえて浮かんでいる。
 いや、クリスタラードなのだろうか?
 先ほどまでの真っ赤なドラゴンの姿ではない。人間に近い形状に変化していた。
「なんなのだ、お前達は……」
「その質問には三つ答えられる」
 血塗れの道路の真ん中で、無名偲校長は血痕ひとつついていないスーツを払ってクリスタラードを見ていた。
「ひとつ。こいつらはローレット・イレギュラーズ。世界の崩壊を回避し、破滅の未来を破壊する力の集合体。生きた奇跡だ」
「『生きた奇跡』……」
「ふたつ。俺はこいつらに含まれない。俺はただの雇われ校長だ。犬に噛まれただけで死ぬ」
「犬に……」
 そこで、無名偲校長は言葉を止めた。
 三つ目は? という視線がクリスタラードから向けられるが、応えるどころかポケットから煙草を取り出してくわえはじめた。
「見逃してやる。退け」
「なんだと?」
 クリスタラードは怒りを声にのせた。倒されたわけでも、戦えなくなったわけでもない。その気になれば今から皆殺しにすることも不可能ではないだろう。
 が、無名偲校長は倒れたタイムたちを見下ろして言う。
「こいつらが一人でも目を覚ましてみろ。お前を地の果てまで追いかけて、何度でも立ち上がり何人でも増え、何十年かかってでも願いを引き継ぎ続けその眼球を永遠に刺し続けるだろう」
 ゾッとした。のだと思う。クリスタラードは1mほど距離を取って上昇し、そして翼をはばたかせ飛んでいく。その速度は凄まじいもので、どうやっても追いつくことは難しいだろうが。
 その様子を見送ってから、無名偲校長は胸ポケットを叩き、脇のポケットを叩き、そして両手をズボンのポケットに入れてため息をついた。
「……ライターを忘れた」

成否

失敗

MVP

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂

状態異常

零・K・メルヴィル(p3p000277)[重傷]
つばさ
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)[重傷]
祝呪反魂
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)[重傷]
記憶に刻め
アーリア・スピリッツ(p3p004400)[重傷]
キールで乾杯
サクラ(p3p005004)[重傷]
聖奠聖騎士
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)[重傷]
音呂木の蛇巫女
タイム(p3p007854)[重傷]
女の子は強いから
橋場・ステラ(p3p008617)[重傷]
夜を裂く星
笹木 花丸(p3p008689)[重傷]
堅牢彩華
越智内 定(p3p009033)[重傷]
約束

あとがき

●作戦結果
・ローレットチームの損害
 ほぼ全滅:全員が重傷を負いました。
・一般人の救出
 すべて成功:クリスタルに捕らわれていた市民は全て救出され、その後の搬送と治療によって死亡者は出ませんでした。
・クリスタラードの状態
 生存:怪我を負いましたが、希望ヶ浜地区の破壊と虐殺を中止して撤退しました。

・依頼結果
 失敗:クリスタラードの討伐に失敗しましたが、捕らわれた住民を全て救出した上、ローレットチームも全員生存しました。
 奇跡的な成果であり、これによって大きな名声を得ています。

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