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シナリオ詳細

恩人たちへの招待状。或いは、強き脚の戦士たち…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●強き脚の戦士たち
 鉄帝の辺境。
 雪深く、そして険しい山脈を越えた先に小さな小さな集落があった。
 空を飛べぬ翼種ばかりが集まり作った、ごく小規模なコミュニティだ。
 故郷を追われ、一族は散り散りとなっておよそ1年もの間、鉄帝各地を放浪していた。
 けれどようやく、生き残ったごく少数の者たちは終結し、新たな集落を完成させるに至ったのである。

「では、恩人たちを招こう。恩人たちに恩を返そう」
「あぁ、まだまだ生活は安定しないが、恩は返さねばならない」
 言葉を交わす女性が2人。
 どちらも背が高く、容姿もうり二つであった。
 違いといえば、髪の色ぐらいのものか。
 片方は赤の髪、もう片方は青の髪色をしている。
 雪深い土地にも関わらず、大胆に外気に晒された両足は、膝から下が猛禽のそれに成っていた。
 鋭い爪で雪の積もった大地を噛んで、しなやかな筋肉を躍動させて飛ぶように疾駆する姿は、野生の獣にほど近い根源的な美しささえ備えているようだ。
「新たな集落で」
「新たな生活を」
「恩人たちに」
「感謝を込めて」
「「思いっきり、蹴り合おう!」」
 どこか凶暴な笑みを浮かべて、2人の女性……クアッサリーとエミューは山を越えていく。
 世話になった恩人たちを。
 イレギュラーズを、里へ招待するために。

●文化の違い
「あぁ、2人ともおそろいで! 探していたですよ!」
 そう言って『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が声をかけたのは、長剣を背負った鎧の男、オリーブ・ローレル(p3p004352)と、人の骨格をした狼、ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)の2人であった。
 依頼の帰りか、2人はどこか疲れたような顔をして、冷えたからだを焚き火で温めているところだ。
 傍らに用意された肉や酒を見るに、これから帰還を祝って軽く祝杯でも傾けようとしていたのだろう。
「2人に招待状が届いているです。少し遠いところですが、何人か集めて行ってきてほしいです」
 そう言ってユリーカが手渡したのは、水に濡れ、泥に塗れた封筒だった。
 差出人の署名らしき字が刻まれているが、あまりにも悪筆であるため読み取れない。
 しかし、2人はその文字に見覚えがあった。
「招待状だと? 仕事の依頼や厄介ごとの解決ではなく、招待?」
 訝しむウルフィンに促され、オリーブは手紙を開いた。
 ミミズが這い回ったような文字だ。
 内容は、生憎と読み取れない。
「読めないと思って、事情を聞き取っているです。要するに、彼女たちの習慣なのです。お世話になった人たちを里に招いて、お祭りに参加してもらうんだそうですよ?」
「む? 祭か」
「まぁ、厄介ごとではないようですね」
 ユリーカの言葉を聞いて、2人はほっと安堵の吐息を零した。
 だが、しかし……。
「いえ、厄介ごとですが?」
 恩返しのための招待状は、新たなトラブルの火種であった。

 1年の感謝と怒りや恨み、ネガティブな感情もポジティブな感情も吐き出して、次の1年をすっきりとした気持ちで迎える。
 今回、イレギュラーズたちが招待された祭りとは、そんな意味の込められたものだ。
 酒と食事を思うさまに楽しみ、大いに語り、笑い、泣いて、騒ぐ。
 そんな祭りにおけるメインイベントとは、つまり代表者たちによる蹴り合いだ。
 集落の代表として、仲間たちの抱く様々な感情を背負い、そしてぶつけ合う。
 本来であれば、集落の者しか参加できないしきたりだが、この1年間、彼女たちがイレギュラーズに受けた恩は大きい。
 そのため、しきたりを捻じ曲げてでも、ぜひイレギュラーズに参加してもらいたい。
 以上が、ユリーカの聞き出した祭りの概要……つまり、依頼の内容であった。
「たしかに【飛】【ブレイク】【滂沱】などの効果が付いた蹴りを主体として扱っていましたね」
「体躯に優れる者の蹴りには【致命】も付与されているだろうな」
 声を潜め、言葉を交わすオリーブとウルフィン。
 かつてクアッサリーやエミューたちに蹴られた痛みを思い出したのか、眉間に皺を寄せている。
「向こうからは皆さんにお世話になった代表が4名、こちらは最大8名まで……顔を覚えていないそうなので、面子は適当に集めてくれれば良さそうですよ」
「……恩人以外に恩返しする形になるが、構わないのか?」
 そう問うたウルフィンに、ユリーカは困ったような視線を返す。
「恩を受けるのも返すのも部族単位で行うものだそうです。つまり、イレギュラーズを1つの部族とみなしているというわけですね」
 なんとも奇妙な話だが、それも文化の違いだろう。
 先方が「それでいい」というのだから、依頼を受けた側がとやかく言うこともない。
「とはいえルールなども分かりませんが?」
「鐘が3回鳴ったらメインイベントの開始だそうです。舞台は集落全体で、建物などの破壊も許可されているそうです」
 そして、次に3回の鐘が鳴るまでが制限時間。
 最後に立っていた人数や、受けたダメージの具合を見て、集落の者たちが勝敗を決める。
「曰く、里は雪に覆われており足場は悪い。時折、強い吹雪が吹くため視界が不良となることがある。家屋は2~3人用の布と木材で造られた粗末なものということです」
 里の人数は30名ほど。
 家屋は雪原の中央に、適当に並んでいるそうだ。
 また、里の周辺には獣よけの雪垣が積まれているという。
「というわけなので、しっかり恩返しを受けて来てもらいたいです」
 イレギュラーズにとって“祭りへの招待”は厄介ごとでしかない。
 しかし、相手にとっては大事な風習の1つなのだ。
 盛り上げるようなことは無いように、と。
 困ったような顔をして、ユリーカはそう念を押す。

GMコメント

こちらのシナリオは「人鳥企鵝。或いは、探索するピングィーン…。」のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7040

●ミッション
祭りを大いに盛り上げること。

●ターゲット
祭りに参加する翼種たち。
皆、イレギュラーズに恩を受けた者ばかりだ。


・クアッサリー&エミュー
赤い短髪、長身の翼種がクアッサリー。
長く青い髪を1本に括った長身の翼種がエミュー。
2人とも厚手のコートにショートパンツといった服装をしている。
素早い身のこなしと冷静な判断、力強い蹴りを用いて戦闘を行う。
現在、2人とも怪我をしており本来の戦闘力は発揮できない。

蹴砕:物近単に大ダメージ、移、連、滂沱
 流れるように繰り出される鋭い蹴撃

鉄穿:物近単に特大ダメージ、移、飛、滂沱
 勢いをつけて繰り出される渾身の蹴撃


・セクレタリ
白と黒の混じり合った長髪。
怜悧な瞳とスクエアの眼鏡が特徴。
冷静沈着で思慮深い性格をしているらしい。
また、彼女は蹴り始めると止まらない性質である。

執蹴:物近単に特大ダメージ、移、連、ブレイク
 対象を執拗に蹴り続ける。全力で、何度も、動かなくなるまで。


・オストリッチ
日に焼けた肌に2メートルを超える長身。
体格に優れた翼種の少女。
下半身が鳥。力が強く、脚が速い。
彼女は素直で単純で、そして非常にタフである。

破蹴:物近単に特大ダメージ、飛、ブレイク、致命
 勢いをつけて繰り出される渾身の蹴撃

●フィールド
鉄帝の辺境。
雪ぶ深き山脈を超えた先にある雪原。
雪原の中央に、布と木材で出来た家屋が都合10ほど乱雑に並んでいる。
また、家屋の周辺を囲むように雪垣が積み上げられている。
雪垣の内側、半径100メートルほどが舞台となるだろうか。

※時折、ひどい吹雪が起こる。
対策が無ければ【凍結】の状態異常が付与されることもある。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 恩人たちへの招待状。或いは、強き脚の戦士たち…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年01月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
夜式・十七号(p3p008363)
蒼き燕
ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)
復讐の炎
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
エア(p3p010085)
白虹の少女

リプレイ

●鳴り響く3回の鐘
 りぃん、ごぉんと、鐘が鳴る。
 それから暫く、どう、と鈍い音が響いた。
 吹雪に混じって飛び散る瓦礫と赤い鮮血。
 積もった雪を撒き散らし、地面を跳ねる人の影。
 そして喝采が地面を震わす。

●恩返しは暴力的に
 ところは鉄帝。
 辺境の雪深い山岳地帯。
 姿勢を低くし、雪の上を滑るように疾駆するのは鳥の脚を持つ双子の女性だ。
「数度にわたって世話になったな」
「これは礼だ。受け取ってほしい」
 赤い短髪の翼種、クアッサリーが右へ、青髪を後ろでひとつに纏めた翼種、エミューが左へと展開する。

 両の拳を地面に突き立て『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)はエミューの蹴りを受け止めた。
 装甲越しに響く衝撃に、エッダの身体が数十センチは後ろへ下がる。
 しかし、鉄壁の防御が崩されることは無かった。
「成程、よい祭りでありますね。然らば一丁、気合いを入れに行くでありますか」
そう呟いたエッダの背後では『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)が低く剣を構えている。
「返す物を返し、奴の顔が頭から離れない日々を終わらせます」
 1歩、オリーブが滑るように前に出た。
 回避しづらいタイミングを狙い、叩き込んだ強烈な蹴りだ。防がれると思っていなかったのか、エミューは驚愕に目を見開く。
「これはけじめであり、報復であり、死闘です」
 上方へ向け剣を薙いだオリーブが告げる。
 エミューは足の爪で器用に刃を受け止めると、流れるような動作で後ろへ飛び退いた。

 クアッサリーの蹴撃を『蒼き燕』夜式・十七号(p3p008363)は軽い動作で回避した。
「今日はよろしく頼む。どちらが勝っても、盛り上がればそれでいいが……折角なら、負けたくはないな」
 回避と同時に刀を一閃。
 獲物を狙う燕のように流麗な軌跡を描き、振り下ろされた斬撃をクアッサリーは爪先蹴りで迎え撃つ。
「あぁ、そうしよう。お前に受けた恩、しかと返したいからな」
「……悪いが私とお前は初対面だ」
「そうか。人の顔を覚えるのは苦手なんだ」
 淡々と言葉を交わすその間も、刀と蹴りの応酬は続く。
「それと個人戦も苦手だな。早々に恩を返してエミューの元へ向かわせてくれ」
 1歩、大きく後ろへ跳んだクアッサリーは着地と同時に積もった雪を蹴り上げる。
 ばら撒かれた雪の塊が、十七号の視界を白に煙らせた。
 一瞬の隙を突いて、クアッサリーは再度前進を開始。
 跳躍からの膝蹴りを、十七号の顔面目掛けて叩き込む。
「単刀直入に申します、今回オリーブさんはエミューさんとの戦いを希望されているようです」
「っ!?」
 クアッサリーの蹴りを阻んだのは、ごうと唸る風の障壁だ。
笑顔を浮かべ佇む『特異運命座標』エア(p3p010085)の姿を認め、クアッサリーはごく小さな舌打ちを零した。
 石の壁なら蹴り砕こう。
 鉄の壁でも、蹴り続ければ傷が付く。
「あちらに行かれるのでしたら、まずはわたし達を倒していって下さい♪」
 しかし、見えない風の壁はどう蹴り壊せばよいのだろう。
 初めての体験に、クアッサリーは困惑を隠せないようだった。

 集落の各所で、戦闘音が鳴り響く。
 集落の周囲を囲むようにして、各所で起きる戦闘を住人たちは観戦していた。皆、興奮に顔を赤くし、声援と喝采、そして感謝の言葉を叫ぶ。
 そんな中、並ぶ家屋の間を縫ってスケートよろしく雪上を滑る女が1人。
『あーあー、テステス。聞こえているかしら?」
スキルを通して拡大された『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)の声が、集落の各所へと響いた。
『各所で激しい戦闘が開始されたみたいね。さぁ、実況していくわよ!』
 吹雪の中を突っ切って、戦地へ赴くヴィリスの言葉に観客たちは喝采をあげる。

『まずはセクレタリVSウルフィン! ここは他と違って1対1、つまり古式ゆかしいタイマンよ!』
 粗末な小屋の屋根に上って、ヴィリスは地上を見下ろした。
 集落の中央付近。
 開けた場所で交戦するは、眼鏡をかけた長身の女、セクレタリと、黒い外套を纏った巨躯、『復讐の炎』ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)の2人だ。
「……あの時とは状況が違うな」
 赤黒く染まる包帯を巻いた右腕で、ウルフィンは渾身の殴打を放つ。
 細く、けれどしっかりと筋肉の付いた脚でそれを容易く受け流したセクレタリは、お返しとばかりにウルフィンの胴を蹴り上げた。
「おかげさまでこうして集落を再建できました。今更ですが、改めてお礼をさせてください」
 鈴の転がるような声音でそう言って、セクレタリは地面を蹴って跳びあがる。
 刹那、左右の脚を交互に振り抜く連続蹴りがウルフィンの胴や胸を激しく打ち抜いた。
 肉を打つ鈍い音が鳴り響き、裂けた皮膚から血が飛び散る。
「貴様とはもう一度やり合うべきだと思っていたぞセクレタリ」
 蹴りのラッシュを受けながら放った拳。
 空気を斬り裂き、セクレタリの胸を殴打した。

 時間は少し巻き戻る。
『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)と『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)、そして2メートル超える大柄な翼種、オストリッチの3人は吹雪を避けて小屋の中へと移動していた。
 小屋とはいえ、古い木材で組まれた粗末なものである。防寒という観点で言えば、野外よりは幾らかマシな程度だろうか。
「さぁ、やろうか」
 そう言ってオストリッチは、羽織っていた外套を脱ぎ捨てる。
 顕わになった筋肉質な上半身。日に焼けた肌がいかにも健康的だった。
 胸にサラシを巻いただけの薄着ではあるが、オストリッチはちっとも寒そうにしていない。そもそもの体温が高いのか。それとも寒さに強い性質をしているのか。
 好戦的な笑みを浮かべて、オストリッチが身を低くする。
 クラウチングスタートにも似た姿勢から、彼女の目的を察したマリアは1歩、後退。片足を壁に押し付けて、刹那の加速に備えていた。
「オストリッチ君! よろしくね!」
「貴女と並ぶと、私がまるで子供みたい。でも一応言っておくけれど、手加減不要でしてよ! こう見えて私も、力としぶとさにはそれなりに自信があるのですもの!」
 そう言ってヴァレーリヤは大上段にメイスを構える。
 一層、オストリッチは笑みを深くした。
 もはや言葉は不要だろう。
 数瞬の沈黙。
 そして、3人は同時に地面を蹴飛ばした。

 衝撃、轟音、飛び散る瓦礫と倒壊する家屋。
 屋根の上に乗っていたヴィリスは、家屋の倒壊に巻き込まれた形となった。投げ出されたヴィリスの身体が、数度地面を跳ねて転がる。
 何が起きたか分からずにいるヴィリスの視界に跳び込んだのは、吹雪の中に閃く一条の稲妻だった。
 
 鉄の義足で雪と瓦礫を蹴り上げ、ヴィリスが地上へ帰還した。
「さっむいわ!!!!!」
 艶やかな髪には雪が張り付き、元より白い顔色はより一層に蒼白だった。
 雪と瓦礫の下に埋もれていた時間は、ほんの数分ほどだろう。
 震える肩を抱きしめて、ヴィリスが視線を巡らせる。
 果たしてそこには、血塗れのまま蹴りとメイスをぶつけあうオストリッチとヴァレーリヤの姿があった。
『あー……タフなオストリッチ相手に2人はカップルらしい息の合ったコンビネーションで対抗してるわ!!』
 凍死の未来が脳裏を過るが、それでもヴィリスは己の仕事を忘れない。

 メイスと蹴りとが衝突し、ヴァレーリヤの筋と骨とが悲鳴をあげる。
「なんですの、その威力!? そんなの私、聞いていませんわよ!」
 強引にオストリッチを押し返し、大振りなメイスの一撃を叩き込んだ。腹部でそれを受け止めて、オストリッチはその場で僅かに腰を落とす。
「ぬぅぅ、あぁぁ!!」
 雄たけびを1つ。
 地面を蹴って跳んだオストリッチの放つドロップキックが、ヴァレーリヤの顔面を叩く。
 溢れる鼻血もそのままに、ヴァレーリヤはメイスを一閃。
 オストリッチの胴を打ち抜き、その巨体を地面に倒した。
 巻き添えを食って雪だるまが砕け散る。
 雪だるまの影に潜んでいたマリアが、転倒したオストリッチの元へと疾走を開始。
 雪上に雷光の軌跡を残しながら、オストリッチの側頭部へと蹴りを叩き込んだ。
「うぉぉ! 速いね! 速いけどぉ、ちょおっと軽いかな!」
「な!? それって派手さばかりで威力がないってことかい!?」
 唸るマリアの脚を手で掴み、オストリッチは身を起こす。
 腕を一振り。
 マリアの身体をヴァレーリヤへ向かって投げた。
「きゃっ!?」
「うわっ! バカ力も大概にしたまえ!」
 縺れるように2人は転倒。
 その隙に、オストリッチは体勢を立て直した。
 雪を払い、立ち上がった2人を見てオストリッチは笑う。
「「さぁ! 決着を付けようか!」」
 マリアとオストリッチの声が重なった。
 衝撃によって雪が舞い散る。巻き込まれたヴィリスが転がっていく。
 オストリッチがドロップキックを放ち、ヴァレーリヤがメイスを一閃。
 弾かれたメイスが宙を舞い、ヴァレーリヤの胸を蹴りが貫いた。
 吐血。
 しかし、ヴァレーリヤは倒れない。
「鉄騎の耐久をなめてはいけませんわよ! マリィの渾身の蹴りを喰らいなさい!」
 紫電が奔る。
 まずは膝、次いで腹部。
 胸、肩、顔面、側頭部。
 赤雷を纏うマリアの蹴りが、オストリッチを滅多打つ。その度に空気の弾ける音と稲妻、そして血が飛び散った。
「……ぁ」
 数歩、よろけて後ろに下がったオストリッチは意識を失い地面に倒れ伏したのだった。

 流れるような連続蹴りの全てを受け止め、或いは捌き、エッダは拳を突き上げる。
 腰を低くし、半身の姿勢。前に伸ばした右手の平を広げ、左の手で頬を拭った。
 髪は乱れ、身体や腕の装甲は傷だらけ。
 問題はない。
 闘志と体力が尽きない限り、倒れることはあり得ない。
「まだまだ自分は元気でありますよ! 次来いやぁ!」
「頑丈だな、鋼の鳥よ。うちの集落に来ないか?」
 そう言って、エミューは再び駆け出した。身体に比して巨大なエッダの両腕を、翼だと思い込んでいるようだ。
 低い姿勢から地面を蹴って跳躍。
 膝蹴りは装甲に弾かれた。
 脚を伸ばして前蹴りを放つ。
 金属を打つ鈍い音。
 しかしエッダの装甲は貫けない。
「やはり硬い」
「ふん、チーム鉄腕は伊達では名乗れないでありますよ」
 エミューの蹴りが止まった隙に、鋼の拳を突き出した。
 一撃、腹を打たれたエミューが苦悶を零す。
 次ぐ2撃目はどうにか蹴りで相殺した。
 3、4、5……蹴りと拳が激しく打ち合い、時折火花が飛んでいる。
 拳と蹴りの応酬は、拮抗していると言ってよいだろう。
 拮抗……つまり、それはエミューの不利を意味することを、彼女は気づけなかった。
「借りを返させてもらいますよ」
 視界の隅に鈍い輝き。
 それが剣の先端であると認識した時には既に手遅れ。
「う……ぉぉ。速いな」
 倒れずに耐えたエミューだが、その足元はふらついている。
 眉間、胸、腹部には深い裂傷。流れる血が雪を赤に染め上げた。
「これで良し……では、楽しみましょうか」
 かつて蹴られた借りは返した。
 それはオリーブにとって1つの区切りとなったのだろう。
 地面と水平に長剣を構え、まっすぐにエミューを睨み据える。
 エミューは顔を濡らす血を乱暴に拭うと、視線を一瞬、右へと向けた。
 瞬間、地面を蹴って跳躍。
 分が悪いとみて、距離を取ることに決めたようだ。右方向に立っているテントの影へと駆け込むと、次の攻撃に備えて地面に身を沈ませる。
 追って来たオリーブかエッダを、不意打ちで蹴り跳ばす心算だ。
 けれど、しかし……。
「あの時のような待ち伏せはもう通用しませんよ」
 空気を斬り裂く音がした。
 声がしたのはエミューの左方向……視線をそちらへ向ければ、たった今しがた2つに断たれて倒れるテントの様子が見えた。
 その向こうには、剣を振り抜くオリーブの姿。
 反射的に回し蹴りを放つエミュー。
 胸部に一撃、斬撃を受けて意識が遠のく。
 エミューの放った周り蹴りが、オリーブの右腕を蹴り抜いた。確かな手ごたえ。骨に罅ぐらいは入ったか。
「あぁ……あの時は、ありがとう」
 なんて。
 満足気に呟いて、エミューは地面に倒れ伏す。

 脚を左右に広げて跳んだ。
 エアと十七号の首を、クアッサリーのレッグラリア―トが穿つ。
 重たく、速い蹴りだった。
 けれど、2人の意識を奪うには足りない。
 首を蹴られ、倒れながらも十七号が刀を一閃。
 刀の背でクアッサリーの腿を強かに打った。
 痛みに耐えかね、地面に膝を突くクアッサリー。
 大して、口元を吐血で濡らしたエアは未だに立ったまま。
「重たい蹴りではありますが……本調子では無さそうですね?」
 薄く笑みを浮かべたエアがそう告げる。
 挑発だ。
 それを理解していながらも、クアッサリーは立ち上がる。
 一族の戦士として、侮られたまま黙っていることは出来ないからだ。
 立ち上がると同時に、下段蹴りをエアへと打ちこむ。
 蹴りが当たると同時に、十七号の放った刺突が脇を掠める。
 1歩踏み込み、膝蹴りを腹へと叩き込む。
 風の障壁に威力を殺され、脛を風に抉られた。
 脚を伸ばして前蹴りを放つ。
 伸ばした爪先を、十七号の刀が弾いた。
 跳躍。
 飛び蹴りがエアの腹部を打った。
 避けたエアの腹からは滂沱と血が溢れだす。
 数度、追加の蹴りを放った。
「その流麗な蹴り……全部受け切るか捌き切れば、盛り上がりはどうだろうな!」
 刀の腹で蹴りを後方へ受け流し、十七号はするりと前へ。
 胸部を狙った横薙ぎは、右腕を犠牲にして受け止めた。
 直後、クアッサリーは地面を蹴って急加速。疾走の勢いで十七号を地面に倒すと、その顔面を踏みつけて、エアの背後へと跳んだ。
 側頭部を狙った回し蹴り。
 風の盾を撃ち砕き、エアの頭部を激しく揺らす。
 よろり、と。
 エアは数歩、よろめいて……けれど倒れず、風の盾を展開しなおす。
「どうしました? まだ、わたしは倒せていませんよ?」
 呼吸が荒い。
 けれど、意識は未だはっきりとしている。
 思わず、クアッサリーは1歩後ろへと引いた。
 直後、クアッサリーの腹部に衝撃が走る。
「ぅ……?」
「ちょっとした芸を混ぜてみた。飛ぶ衝撃派を見たことはあるか?」
 視線の先には、刀を振り抜いた姿勢の十七号がいる。
 血で濡れた彼女の顔には、僅かな笑みが浮いている。
 力と速度ではクアッサリーに軍配が上がる。
 防御と技能の面で言うなら、エアと十七号の方が上だ。
「あぁ、楽しくなってきた」
 なんて。
 そう呟いてクアッサリーは疾駆する。
 クアッサリーの体力が尽きて倒れるまでの長きにわたり、3人の戦いは続くのだった。
 
●恩返しの顛末
 滋味に溢れた優しい香り。
 ヴァレーリヤのボルシチだ。
『セクレタリの強烈な蹴りを受けるウルフィンは見てるこっちがハラハラするけど迫力満点ね!』
 実況にもそろそろ慣れたか。
 ヴィリスは熱の籠った大音声を響かせる。
 祭りもそろそろ終盤だろう。各所の戦闘が終わり、住人達は少しずつだが集落の中央へと集まって来る。
 その中に紛れて、酒瓶を手にしたエッダや、よろけた足取りのオリーブ、エアもいる。
 おぉ、と喝采が巻き起こった。
 ウルフィンの拳がセクレタリの顔面を撃ち抜いたのだ。
 けれどセクレタリもやられっぱなしではいられない。蹴り上げた爪先がウルフィンの顎を強かに打ち据えた。
 お互いに血塗れ。
 身体中は痣だらけ。
 もはや気合だけで立っているような有様だ。
「壮絶だな」
「ウルフィン様はタフネスがウリらしいでありますが、よく持ちこたえたでありますね」
 十七号とエッダが静かに言葉を交わす。
 直後、空へ向かってウルフィンが吠えた。
 呼応するように、セクレタリもまた鳥類特有のけたたましい咆哮をあげる。
「戦いはやはりサシが愉しいな」
 殴打と蹴りの応酬は、一体どれほど続いただろうか。
 顔面へ、喉へ、胸へ、腹へ、セクレタリの蹴りを浴びながらウルフィンはきっと笑ったのだろう。
 痣だらけの両腕を伸ばし、ウルフィンはセクレタリの両肩を掴む。
 構わず、セクレタリは前蹴りのラッシュをウルフィンの腹へと打ちこみ続けた。蹴りが命中するたびに、ウルフィンの巨躯が激しく揺れる。
 ごう、と。
 冷たい風が吹き、ウルフィンの外套を攫って行った。
 顕わになったウルフィンの顔は、まさしく血に飢えた肉食獣のそれである。
 がば、と開いた口腔に鋭い牙が並んでいるのが見て取れた。
 拘束から逃れるべく、セクレタリはウルフィンの脇へ狙いを定めて蹴りを放った。
 口の端から血を零しながら、ウルフィンはセクレタリの肩へと食らいつく。
 白目を剥いて、血を吐いたのはセクレタリだ。
 どさ、と力なく彼女の身体は雪上に倒れ……直後、脱力したウルフィンもまた、その場にがくりと膝を突く。
 両者ともにノックダウン。
 意識を失うその寸前、ウルフィンは告げた。
 指さした先には、酒樽を抱えたヴァレーリヤとマリアの姿がある。
「酒を用意しておいた。再開と復興……これからの生きる道が良い道であることを願って杯を傾けるのも悪くはないだろう」
 なんて。
 ウルフィンの言葉を耳にして、セクレタリは弱々しくも笑ってみせる。

成否

成功

MVP

ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)
復讐の炎

状態異常

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)[重傷]
願いの星

あとがき

お疲れ様です。
壮絶な殴り合いという形で、皆さんは鳥の一族から感謝の気持ちを受け取りました。
祭りは成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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