PandoraPartyProject

シナリオ詳細

バビロンの守護者。或いは、“銀鷲”アルコと空中庭園…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●大空冒険譚
 窓の外に見える景色は一面の白。
 鋼鉄のとある上空、雲の上。
 飛空艇の船内で2人の男女が、粗末なテーブルを挟み相対している。
 片や飛空艇の持ち主である“空賊”アルコ。
 その肩に止まる相棒、大鷲のファルコと共に眼前に座った銀髪の男性、九重ツルギ(p3x007105)へ問いかける。
「さて、今回はご足労いただいてすまないね。1つ、君に訪ねたいことがあったんだ」
 アルコは口角を緩めて笑う。
 人好きのする笑みに、自然とツルギの頬にも僅かな笑みが浮かんだ。
 それから、ツルギはポケットから煙草を1本取り出して唇へ挟む。
 瞬間、アルコの肩で大鷲がけたたましく嘶いた。
「おっと、ごめんね。船内は禁煙なんだ。空のうえで火事なんて起きたら、逃げられないからね」
 そう言ってアルコは肩を竦める。
 アルコには鷲の翼があるが、怪我が原因で飛行能力は失われているらしい。
 なるほど、遥か上空から大空に投げ出されてしまえば、命を失うことは明白。
 すまない、と短く謝罪しツルギは煙草をポケットへ仕舞いなおした。
「さて、それで俺にどういった質問が? 必要とあらば助力も惜しみませんよ」
 そう言いはするものの、実際のところアルコの要件におよその当たりは付いている。
 ツルギとアルコが顔を合わせるのは、これが初めてではない。
 以前、アルコが目指す雲の上の島へと至る経路の確保に助力したことがあるのだ。
 つまり、此度の要件もおそらくそれに類するものであろうことは容易に想像が出来た。
「察しが良くて助かるよ。助力……そう、また君たちの力を借りたいんだ」
 そう言ってアルコが口にしたのは、彼女の目指す浮島についての話だった。

●空中庭園
 ――ANOTHER QUEST:“銀鷲”アルコと空中庭園、発生――
 
 Rapid Origin Online
 それはもう一つの現実。
 それはもうひとつの混沌。
 それはもうひとつの世界。

『“銀鷲”アルコからの招待状が届きました』
 メッセージを受け取ったツルギは、アルコの空挺を訪れた。
 そこでアルコに依頼されたのは、以前に経路を確立した“名も無き浮島”の調査である。
「これまで“浮島”へ辿り着けた者は誰もいなかった。きっと、辿り着けても帰還できなかったんだろうね」
 空挺の窓から一面に広がる雲を眺めて、アルコは告げる。
「島の入り口付近にあった小屋には“バビロン”の文字が刻まれていた。つまり、大昔には人が住んでいたということだね」
 小屋に魔石を設置したことで、アルコは今後、自由に浮島改め“バビロン”へと至ることができる。
 ここまでが、前回、ツルギたちの協力により得られた成果だ。
 そして、今回は満を持して“バビロン”の調査を行うということである。
「一度、単独でバビロンの調査に赴いたんだけれどね、そこで幾らかの障害を見つけたんだ」
 まず1つは、バビロンの地形。
 巨大な階段のような地形をしており、奥へ進めば進むほどに高度があがる。
 空の上にある島なので、多少高度が上がった程度で大した変化はないのだが“昇る”という行為それ自体がそこそこに大変なのだという。
 そして2つ目が、バビロンに生息している固有植物の存在だ。
 【毒】を散布する奇怪な花などは序の口で、中には【混乱】を付与したうえで、積極的に捕食にかかる食人植物も存在している。
 バビロンは自然の豊かな浮き島だ。
 生い茂る緑の中から、危険な植物だけを見極め回避することはアルコには困難だったとい。
「それから、時折発見される蔦と苔に覆われたゴーレムらしき物体。これが一番厄介だろうね」
 全長は3メートルほど。
 巨大な上半身に、長く太い両腕、比して頭部と足は小さく、シルエットだけならゴリラのようにも見えなくはない。
 また、ゴーレムには翼が備えられており、飛行能力を有することが判明している。
 備えた能力は【弱点】【崩落】【飛】といったところか。
「それから、銃口らしきものを備えていたね。周辺の破壊の痕跡から察するに【雷陣】【連】辺りが怪しいかな」
 そして、ゴーレムが居るのは決まって石造りの小屋の前ばかりだった、とアルコは言った。
「おそらく何かを守っているんじゃないかな? 私が観測したのはバビロンの下層だけなんだけど、少なくとも2つの小屋と3体のゴーレムがいたよ」
 小屋の中に何があるのか。
 また、バビロン上層へ続くルートを確立すること。
 以上が今回の依頼の内容である。
「聞けば君は“物体に残る残留思念を読み取れる”能力を持っているそうじゃないか。どうかな? 私たちと一緒に、冒険してみないかい?」
 なんて。
 どこか興奮した面持ちで、アルコはそう告げるのだった。

GMコメント

こちらのシナリオは『名も無き浮き島。或いは、“銀鷲”アルコと空の旅…。』のアフターアクションシナリオです。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/6433

●ミッション
バビロン下層にある小屋の調査、および上層へ至るルートの発見


●ターゲット
・バビロンの巨象×3
巨大な上半身と両腕、小さな頭部と足、背には翼を備えたゴーレム。
普段はじっとしたまま動かないが、侵入者を発見すると襲い掛かって来る性質を持つ。
3体中、2体の背後には小屋が存在していることが確認されている。



・バビロン固有植物
バビロンの各所に生息している植物たち。
【毒】の花粉を散布する花や、【混乱】を付与し、襲い掛かって来る食人植物などが散見される。
危険な植物ばかりではなく、中には体力を回復させてくれるものもあるかもしれない。

ノック:物近単に大ダメージ、弱点、崩落、飛
 巨大な両腕を使った格闘戦。

光線:神中範に中ダメージ、雷陣、連
 バビロンの巨象が放つ光線。


●NPC
・アルコ&ファルコ
白い髪、褐色肌の女性。背には翼を持つが、怪我のため飛行能力は失われている。
そのため、相棒のファルコに騎乗し戦闘を行う。
基本的には一撃離脱の戦法を得意としている。。
サーベルを武器として用いるが戦闘能力は低い。
優れた視力を用いた索敵や、ヒット&アウェイを主とした戦闘を得意とする。

●フィールド
鋼鉄。
都市から遠く離れた渓谷の上。
“バビロン”という名の空飛ぶ島。
固有の植物が繁殖しており、道らしきものは発見できない。
また、ところどころに小屋らしきものや、人工物があるようだ。
島の形状としては、階段上になっている。
次の階層へ移動するには、2メートル程度の段差を昇る必要がある。
上層には向かうルートを確立することが今回の目的となる。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

※重要な備考
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • バビロンの守護者。或いは、“銀鷲”アルコと空中庭園…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年01月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドウ(p3x000172)
物語の娘
樹里(p3x000692)
ようじょ整備士
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)
不明なエラーを検出しました
シラス(p3x004421)
竜空
九重ツルギ(p3x007105)
殉教者
ホワイティ(p3x008115)
アルコ空団“白き盾持ち”
イズル(p3x008599)
夜告鳥の幻影
いりす(p3x009869)
優帝

リプレイ

●浮遊島の冒険
 空高く、雲の海を行く飛空艇。
 ゆっくりと、高度を下げて降り立ったのは緑溢れる島だった。
 島の名は“バビロン”。
 鋼鉄を拠点とする“空賊”アルコが、長年にわたりその存在を探し、そして遂に乗り込むに至った浮遊島だ。
 人の気配は無く、生物もおそらく住んでいない。
 そんな島では、危険な原生植物や小屋を守護するゴーレムたちが確認された。アルコ1人でそれらを退け、島の調査を行うことは叶わない。
 ゆえにアルコは、かつて幾度かの冒険をともにした“アルコ空団”の仲間たちや、その同僚に協力を要請したというのが、事の発端である。

 時間は幾らか遡る。
 鋼鉄のある渓谷。アルコ空団の拠点を訪れた一行のうち、まず声をあげたのは『アルコ空団“白き盾持ち”』ホワイティ(p3x008115)だった。
「お久しぶりだよぉアルコさん! いよいよ本格調査って訳だねぇ、ファルコちゃんも元気にしてた?」
「飛んでる島って何だか不思議な感じですね。やっぱりこういう場所ですし未知の何かもあるのでしょうか?」
 次いで『優帝』いりす(p3x009869)が言葉を投げる。拠点に停泊している飛空艇を視て目を丸くするいりすの隣に『アルコ空団“蒼き刃の”』ドウ(p3x000172)が並べば、飛来した大きな鷲がじゃれるようにドウの頭に足を乗せた。
「幽霊船との空戦を終えていよいよ、島の探索ですね! まさに冒険、と言った感じでワクワクします!」
「やぁ、よく来てくれたね。これから向かう先はまったくの未知の世界だよ。君たちにはきっとたくさんの迷惑をかけるし、危険な目にあうこともあるだろう」
 飛空艇の整備をしていた手を止めて、アルコはにぃと挑戦的な笑みを浮かべる。
「だけど、これだけは約束するよ。わくわくする冒険が、私たちを待っている」

 そして時間は今に至る。
 空の旅の果て、バビロンへと至ったアルコ空団一行は、十全な警戒を維持したままに1人ひとりと飛空艇から島へと降りた。
「空島ってところか、テンション上がるぜ!」
「豬ョ蟲カ蜃?>縺ュ縲よュ、蜃ヲ縺ォ縺ゅk縺ェ繧画キキ豐後↓繧ゅ?√%縺?>縺?ウカ縲√≠繧九°縺ェ」
 最後に船から降りて来たのは、白き竜『竜空』シラス(p3x004421)と、名状しがたき異形の怪物『不明なエラーを検出しました』縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)だ。
 口調からどこか若さを滲ませているシラスはともかく、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の言葉は誰の耳にも、異音として聞こえただろう。
 しかし、敢えて訳すのなら『浮島凄いね。此処にあるなら混沌にも、こういう島、あるかな』といったところか。
「……頼もしいよ」
 どこか引き攣った笑みを浮かべてアルコは告げた。
 そんな彼女の右手は『ようじょ整備士』樹里(p3x000692)の襟にかけられていた。瞳をきらきらさせながら、右へ左へ視線を巡らす樹里を案じてのことだろう。
 有体に言うのなら、どこかへふらふら行ってしまいそうで目が離せないのだ。
「エクスギアなどのきかいもロマンですが……こーいうロマンもまたたいへんよきものです」
 
 かつてはしっかり整備されていたのだろう。
 苔蒸した足元は平坦で、所々に罅割れた敷石が覗いている。
「元はハエトリソウの類かな? 危なそうなのは迂回するなり、早急に排除するなりしてしまおう」
『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)は脚を止め、視線の先を指し示す。
 鬱蒼と生い茂る草木の間に、じぃと潜んだ植物はなるほど確かに、巨大なハエトリソウに近い外見をしている。
「だが、ゴーレムの守っている小屋はこの先だぜ? 迂回している余裕はあるのか?」
 重たい音を立てて、イズルの傍にシラスが降り立つ。斥候に出した小さなドラゴンを肩に乗せ、くいと顎で前方を指した。
「確かに今のところ道らしき道はこの1本だけ……迂回して茂みに立ち入るよりは強行突破の方が安全かもしれませんね」
 暫し思案した末に『アルコ空団“輝翼”』九重ツルギ(p3x007105)は応えを導きだした。それで良いか、と視線でアルコへ問いかける。
 無言のままにアルコは首肯し、方針は決定した。
 ならば、と前に出たのは盾を掲げたホワイティだ。
 1歩、2歩とホワイティを先頭に一行は道を先へと進む。
「来た時の景観はなるべくそのまま……来ます!」
 いりすが叫んだ、その直後。
 これまでじぃと、身じろぎのひとつもしていなかった植物がホワイティへと襲い掛かった。

●小屋の守護者
 葉の端に並ぶ鋭い棘は、まるで獣の牙のよう。
 蔦をくねらせ、葉を限界まで開いた人食い植物がホワイティへと食らいつく。腰を落とし、盾を前面に構えた姿勢でホワイティは地面を蹴った。
 植物の攻撃にタイミングを合わせたシールドバッシュ。鈍い音がして、植物が大きく後方へ仰け反る。
「……やっぱりあの植物は倒しても」
 一瞬の隙にいりすは銃のトリガーを引いた。
 射出されたビーコン弾が、点滅しながら降り注ぎ植物を強く撃ち据える。ビーコン弾の巻き添えを食ったのか、がさりと茂みが大きく揺れて、直後に視認できるほどに濃い花粉が撒き散らされた。
 何らかの植物が、茂みに潜んでいたのだろう。
「ふん、竜の体にこんなもの効くかよ」
 突風と共に低く飛翔し、シラスが花粉へ突っ込んだ。
 鞭のようによくしなる蔦がシラスを襲うが、構わずに白き竜は飛ぶ。その後ろに続くのは、滑るように浮遊している縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧だ。
 白い布を頭から被った、闇より深き異形の身体。
 それより溢れる淀んだ何かが植物に触れた。ジジ、と耳障りなノイズが鳴って、植物の見た目がまるでホログラムのように揺らぐ。
「っ!? 何か、すごく嫌な感じだ」
 思わず足を止めたアルコは、胸を押さえて呻くようにそう呟いた。
 そんな彼女を庇うように、樹里とドウが前進。
 アルコを伴い、シラスやホワイティの開いた道を駆け抜ける。
 そうして、一行は開けた空間へと至った。
 空間の奥には、石造りの小屋。
 その前に陣取るゴーレムが、砂埃を散らし起き上がる。
 振り上げた拳を胸の前で交差させ、頭部にあたる箇所をシラスへと向けた。
 キィ、と空気が震え……直後、放たれた光線がシラスの肩を撃ち抜いた。

 大鷲の背に乗ったアルコがシラスの頭上を越えていく。
「アルコさんに合わせるよぉ、頼りにしてるからねぇ!」
 アルコの真下を駆けるホワイティはそう告げて、盾を体の前に構えた。アルコを狙い、振り上げられたゴーレムの拳を、押さえつけるように盾で打ち据える。
 衝撃と轟音、ホワイティの身体が僅かに宙へ浮く。
 その隙にゴーレムへと接近したアルコは、手にしたサーベルでゴーレムの頭部へ一撃を入れた。そのまま、ゴーレムの後方へと飛び去って行くアルコ。一方、ホワイティはその場に留まり、ゴーレムの攻撃を盾で受け止める。
「……バビロンは回る、あなたを乗せて」
 盾を打つ激しい音に紛れるように、静かに樹里の聖句が響いた。
 一瞬、胸の前で手を組んだ樹里の身体が光る。
 直後、ゴーレムの身体に浮き上がる『受理』の2文字。
 何が起きたのか、誰にも理解はできないがどうやらゴーレムはダメージを受けたようだ。石の欠片を散らしてよろけるゴーレム。その懐へ、蒼い軌跡を描きながら駆け込む小さな影がある。
 それは、腰の位置に剣を構えたドウだ。
 1歩、2歩と地面を蹴る度に加速したドウは、アッという間にゴーレムとの距離を0へと詰めた。
 一閃。
 ドウが蒼き剣を振るった。
 飛ぶ斬撃がゴーレムの胸を深く斬り裂く。
 左の脇から背にかけてを深く抉った斬撃は、石畳を削り、風を切り裂き遥か彼方へ飛んでいく。
 ドウの強烈な一撃を受け、ゴーレムはたまらず背中から地面に倒れ伏した。
 投げ出された太い両腕。
 肘を狙って撃ち込まれたいりすの弾丸。
 駆け寄るシラスの殴打によって、罅の入ったゴーレムの腕は砕けて散った。
 まずは両腕。
 次いで脚を破壊されゴーレムがついに動きを止める。

 アルコと縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧が小屋の扉を押し開く。
 小屋の内部には本の形をした石板らしきものがある。
「小屋の前にゴーレム、と言うコトは何かを護らせていたのでしょうし、人的意思を感じますねぇ……」
 興味深い、と言葉を零したドウはそっと石板に指を這わせた。
 直後、石板は蒼く淡い光を放つ。
「ん? これは」
 魔力のラインが、石板の表面を駆け抜けて……新たに一行、短い文字が刻まれた。
 文字の内容を読み取ることは出来ない。
 しかし、それに意味がないとは思えない。
 1歩、石板から距離をとりドウはチラと背後を見やった。
「いま、何か受理した気がする!」
 小屋を覗き込む受理が、嬉し気に何か言っている。

「自己修復機能とかあるのかな…?」
 倒れ伏したゴーレムを見下ろし、イズルは静かにそう告げた。
「治るといいねぇ。彼らは自分の仕事をしているだけだもんねぇ」
 そう言ってホワイティは、砕けた手足の破片を拾い集める。
 現在、ゴーレムは動きを止めている。しかし、その機能までが停止しているわけではない。
 ゴーレムの傍にしゃがみこみ、ツルギは己の右手を見つめていた。
 触れた対象から残留思念を読み取る力。
 それは否応なく、他人の隠したい物を非情に暴く。
 秘する想いも、悪意も、本音も……そして、それを知ってしまえば敵に情を抱くこともあるだろう。
 つまり、ツルギは恐ろしいのだ。
 知ることが怖くてたまらないのだ。
 知らず、右の手が震えた。
 指の先から凍えていく感覚に背筋が冷える。
 右手をゴーレムに触れるだけ。
 たったそれだけのことが、まるで神の与えた試練にさえ思えた。
 そんなツルギの傍らに、イズルは音も無く近づいていく。伸ばした両手で、ツルギの右手を包み込み、ただ黙って震えが止まるのを待っていた。
 どれだけの時間が経過しただろうか。
「それでもアルコさんが望むなら……もう一度だけ、この力を信じてみましょうか」
 囁くようにそう言って、ツルギはゴーレムへと手を伸ばした。

 ツルギのアクセスファンタズムにて得られた情報は以下の通り。
 ゴーレムは“守護”することをプログラムされた存在だ。
 “名を刻まれていない者”を攻撃し、小屋や階段から遠ざける防衛機構として配置されている。
 また、小屋の内部に設置されていた石板はバビロンの通行許可証としての役割を担うものだった。石板に名を刻むことが、バビロンを自由に移動するための条件だ。
 樹里が感じた「受理の気配」とは、つまり許可証に名が刻まれたことを指しているのだろう。

 小屋に残った石板には6名の名を刻む余白しか残されてはいなかった。
 そのため、ツルギ、イズル、シラスの名を石板に刻むため、一行はもう1つの小屋へと向かった。
 2つ目の小屋は、半ばほどが植物に覆い隠されている状態だ。正面にはゴーレム。周辺には、幾つもの植物が蠢いているのが見て取れる。

 閃くは、虹にも似た輝き。
 イズルの翼は刃と化して、ゴーレムの腕を斬りつける。
 起動したゴーレムがイズルに気づき前進を開始。
 それを視認し、イズルは素早く後方へ下がった。
 まるで迷彩でも纏うみたいに、その存在が視認しづらくなっていく。
 そうして姿を晦ませる気か。
 だが、イズルを狙って植物たちが動き始めた。
「不意打ち上等。受け止めてやるぜ」
 代わりに前へと飛び出したのはシラスであった。
 鋭い棘の生えた蔦を両の腕で受け止めて、ゴーレムの前に立ちはだかった。岩の拳がシラスの腹部を殴打するが、竜の巨体は揺らぎもしない。
 その隙に、ツルギを横抱きに抱えたイズルと縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧、そしていりすがゴーレムの右を迂回するように小屋へと駆ける。
 周囲の景色に溶け込むイズルを、ゴーレムは認識できていない。
 しかし、反応が送れたのは一瞬。
 足音や気配を頼りに、イズルの現在位置を割り出したのか。
 後方へ身体を捻ったゴーレムは、直後、強かに盾で胸部を叩かれた。
 それを成したのは、ゴーレムの背後へ回り込んでいたホワイティだ。
 展開した糸で体を支え、突進するゴーレムの巨体をその場にどうにか食い止める。
 その隙に、イズルたちは小屋へと至る。
 直後、辺りに光が瞬いて『受理』の文字がゴーレムを襲った。
「ゆーじょうを確かめあいながらのじつりょくこーしです!」
 シャドーの要領で、樹里は数度、虚空を打った。
 しかし、ゴーレムは受理に目もくれない。
 その場において、ゴーレムが攻撃対象と定めているのは石板に名を刻まれていないツルギ、イズル、シラスの3名のみらしい。
 
 翼を広げたゴーレムが、空高くへと舞い上がる。
 それを追ってシラスも空へ。
 ゴーレムの肩を押さえるように、上昇を阻んだ。
「牽制はしておきますので攻撃はお願いします!」
 背後に回ったいりすが銃を乱射する。
 ゴーレムの巨体は絶好の的だ。
 腕に、脚に、首に、翼に、次々と弾丸が命中し、岩の体を削り取る。
 その様子を、茂みの中から見ていたドウは今が好機と判断する。
 姿勢を低くし、剣を腰の位置に構える。
 強く、地面を踏み締めて弾丸のように駆け出した。
 一閃。
 ドウの放つ蒼き魔力の斬撃がゴーレム目掛け飛翔する。
 ゴーレムの腕を深く抉り、体勢を大きく崩させた。
 さらにもう一撃、と踏み込んだ直後、ドウの脚に激痛が走った。
 見れば、ハエトリグサらしき植物がドウの脚に喰らい付いているではないか。一瞬、ドウの動きが止まったその瞬間……視界を塞ぐ巨大な“何か”の影が迫った。
 それは巨大なウツボカヅラだ。
「逃走に……いや」
 間に合いませんね。
 そんな呟きを残し、ドウはウツボカヅラに飲まれる。
「やっぱり植物は倒しておくべきでした!」
 なんて。
 いりすの悲鳴染みた叫びが木霊する。

●下層の踏破
 ウツボカヅラに飲まれたドウへ、無数の植物が一斉に攻撃を開始する。
 反撃により、幾らかの植物を打倒したが、ついにドウは【死亡判定】を受けた。
 暫くすれば、アルコの飛空艇でリスポーンするだろうが、ドウが抜けたことによる戦力の低下は否めない。
 戦線にはアルコも加わっているが、植物による横やりが鬱陶しくて仕方が無いのだ。
「やっぱり不殺対象はゴーレムだけで十分ですよね!」
 後方に下がったいりすが、植物へと銃口を向けた。
 いりすが牽制している間に、樹里や縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧がゴーレムに攻撃を当てていく。片腕が砕け、ゴーレムがよろけたところで、小屋の中からツルギとイズルが飛び出して来た。
 どうやら石板への登録が済んだらしい。見れば、ツルギが胸に石板を抱えているではないか。そして妙に頬が赤いのは、イズルに抱き上げられたまま運ばれたのが恥ずかしかったからだろうか。
「繧キ繝ゥ繧ケ縺輔s縲∫浹譚ソ縺ク蜷阪r蛻サ繧薙〒縺上□縺輔>」 
 縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の咆哮。
 訳すのならば『シラスさん、石板へ名を刻んでください』といった感じか。
 体当たりによって転倒したゴーレムへ、盾を構えたホワイティが肉薄した。構えた盾を前方へ突き出し、ゴーレムの起立を妨げる。
 その隙にシラスは、ツルギの背から石板を受け取ったのだった。

 復帰したドウの誘導で、一行は3体目のゴーレムの元へとやって来た。どうやら、飛空艇でリスポーンして、仲間のもとへと戻る途中にゴーレムの姿を見かけたらしい。
 既に石板に名前を登録したからか、ゴーレムが襲い掛かって来ることは無かった。
 直立不動のまま動かないゴーレムの前にツルギはゆっくりと歩み出る。
「空いてる左手。握ってくれませんか? イズルさん。貴方と心躍る冒険が出来ると思えば勇気が出ますから」
「冒険か。現実でもこんな遺跡があれば……夢は広がるね」
 そう言ってイズルはツルギの左手をそっと握った。
「その時は叶うなら、キミと一緒に行ってもいいかな。キミと同じ風景を見たいんだ」
 暫く。
 無言のままにゴーレムへ手を触れていたツルギは、やがてゆっくりと視線を上げた。
「ツルギさん、なにか分かったら手伝うよぉ〜」
 ホワイティの問いかけに、ツルギは笑ってゴーレム背後の茂みを指さす。
 蔓延る草木を掻き分けた先には、上層へと続く階段があった。

「石板はこの辺りに隠しておこう。次に知らない人が来るなら、私が1度、取りに来たらいいわけだしね」
 そう言って、階段の奔る罅の間にアルコは石板を差し込んだ。
 階段を昇る一行を、ゴーレムは黙って見送っていた。

 バビロン上層。
 そこは一面の花畑。
 遠くに霞む城のような建物が目を引く、ひどく美しい空間だった。
「気になるけれど……帰れなくなってしまうからね」
 今回の冒険はここまでだ。
 ファルコの言葉を合図とし、一行は飛空艇へと帰還する。
 
「そだてるかどうかは、あなたにおまかせします。ですがもし育てるなら……たいせつに育ててくださいね?」
 佇むゴーレムへ花の種を手渡して、樹里はゴーレムへそう告げる。
 種を受け取ったゴーレムは無言。
 暫くの間、1人と1体はじぃと視線を交わしていたが……やがて、どちらともなく背を向けて、それぞれの帰るべき場所へ、ゆっくり帰って行ったのだった。

成否

成功

MVP

シラス(p3x004421)
竜空

状態異常

ドウ(p3x000172)[死亡]
物語の娘

あとがき

お疲れ様です。
アルコ空団による、バビロン下層の調査は無事に終了しました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただき誠にありがとうございます。
縁があれば、また別の冒険にてお会いしましょう。

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