シナリオ詳細
<Sprechchor op.Ⅱ>この指先からこぼれ落ちる毒もあなたの血液を凍らせることはないでしょう
オープニング
●世界のどこかには愛されるべき私の子供達がいるはずなの
ぎい、と扉が開いた。赤子が泣いている、と女が言う。薬品棚の匂い。それから、女に交じる毒の香り。
「助けて欲しいの」
何度目かの来訪だった。慣れたように『彼』は顔を上げて、形ばかりの診察をする。死因は明らかにハッキリしていており、それは手遅れで、全く、意味を成さなかったけれど。
「おねがい、助けて欲しいの、この子を」
懇願する声はとても哀れっぽく見えた。
彼女が抱いている赤子は、褐色の肌をしている。並の医師がよく観察してみるならば、特徴的な毒を摂取したことがわかるだろう。そう、ちょうど、彼女が発するような。
もっと腕の良い医者ならば……彼女が子どもを真剣に助けようとしたことが分かるかもしれない。女の毒によって、心臓はゆっくりとした鼓動になっている。症状を和らげるための毒。おそらく無意識に使っている毒。それは毒とも薬ともつかず……。
まあ、それもつかの間のことだ。つかのま、その生命を伸ばしただけのことだ。赤子はまた息を引き取り、黒い塊になった。
「この子も駄目だった。耐えられなかったのよ。どうして……どうして……」
美しい女は両腕を投げ出し、それから人目もはばからずに泣き出した。
『毒の乙女』レイラ。
彼女は、シュプレヒコールの声を聞き、狂気に陥った魔種だった。
「なら、あの子は君の子ではない。君の子であるならば、当然、君の毒に耐えられるのだから……」
シュプレヒコールの声を聞き、彼女がぱっと顔を上げた。
「それなら、私の子はどこにいるの……?」
「この世界は広い」と彼は言う。この世界のどこかに、きっと……。
「そうね。こんなときはスープが必要だわ。
あたたかいスープを用意しなくっちゃ」
レイラは憂いをおびた表情のまま、ようやく笑った。悲しんでばかりもいられない。可愛い我が子が待っている。
ああ、思い出す。子供の頃のこと!
配られるスープの底にみんなは怯えていた。いつだって薬が入っていた。
でも、配られる食べ物はそれしかなかった。
だいじょうぶ、だいじょうぶ、言い聞かせて飲んで、飲んで、飲むうちに。少しずつ、少しずつこの体は毒に染まり耐性を得ていた。
……このスープを飲んだら、また、探しに行かなくちゃならない。
ほんとうの、私の子供達を。
『毒の乙女』レイラ。
触れるモノ全てを毒で傷つける、かつて暗殺者だった女。
彼女の願いは――ただ、「自分の子供達との『普通』の家庭と生活」だ。
●ニンフとさそり
覚えているわ。
かすかにふれあったその指先が、あなたを侵すことがなかったことを。
ええ、覚えているわ。
私の『毒』が、あなたを黒に染めることはなく、あなたが、『形を保っていた』ことを。
「ずっと、会いたかった」
「ああ、きっと、会うことになるのではないか」とは思っていたけど。
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は嘆息する。今、ここで――海洋の街中で、とは!
床のタイルを、したたる毒液が焼いていた。レイラが一歩歩みを進めるたびに、レンガが、植物が、空間が腐食して溶けてゆく。ねじ曲がり、ぼろぼろと黒の欠片となる。
とはいえ、だ。
「お客様がた、ご安心を」
回りの通行人がパニックに陥っていないのは、ひとえにこの夫婦の存在が大きい。
『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)が銃を撃った。跳ね上がったがれきは蝶へと姿を変える。『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)がひとたびステッキを振れば。
「これは……」
「なんだ。何かの。見世物、か?」
「下がってな、すぐここは戦場だ」
まだ、レイラにはアーマデルしか目に入っていない。
その頬は上気して染まり、興奮に満ちている。
「ずっと、会いたかったの。私の子。ずっと探していたの。後悔していたわ。あなたを手放すべきではなかったの。名前を教えてくれるかしら、私の愛おしい子」
「間に合った。案内、ありがとうね」
駆けつけてきたシグルーンが、武器を構える。ああ、あの子もとっても強そうだ。
「お友達、なのかしら。紹介して貰えるととても嬉しいわ、坊や」
- <Sprechchor op.Ⅱ>この指先からこぼれ落ちる毒もあなたの血液を凍らせることはないでしょうLv:20以上完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年01月26日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●したたる愛は毒液に溶け、
それは、つきつめても毒にしかならない毒。
優しげに手を伸ばしてくる女の顔は慈愛に満ちている。
『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)には毒の効力は及ばない。
「見た所、確かに似てはいる。が、覚えがない……あんたは何者だ?」
「そうね、愛おしい私の子。こうして、遇うのはまだ二回目ですものね。『同じ』よ。同じ毒。覚えがあるでしょう――」
手を差し延ばす彼女の手の指先から、黒い塊が線を描き……河のように二人を隔てる。
「私は、レイラ。『毒の乙女』レイラと――」
「そうか。俺は」
アーマデルが答えようとすると、『長頼の兄』冬越 弾正(p3p007105)が僅かに肩を強張らせた。だが、アーマデルの判断を信じることにしたようだ。
(ああ。道は交わらない
俺は死神(ししん)に仕えるもの、死者を往くべき処へ送るが務め
俺は毒と病を司る『一翼の蛇』の加護を魂に刻んだもの、毒と病は弄ぶものにあらず)
「アーマデル」
(名を問い、素性を問う。
それは縁を結ぶ事ではあるが、止むを得まい)
今、この瞬間にも。ちりちりと生命が揺れるやり取りがなされている。
「アーマデル……」
目を見開いた女は、何度もその名前を呟いた。
瞬間、滴る毒は意志を持ったようにアーマデルの方へと伸びる。けれどもそれは、直前で何かに防がれたように勢いを失う。毒への類い希なる耐性がそうさせる。レイラは微笑んだ。
「ねぇ、私の子――」
(イシュミル、周囲の一般人の避難誘導を頼む)
(ああ、わかったよ。だが、アーマデル、アレとホンキで戦うつもりなのかな?)
(なんとかする)
イシュミルはうごめく子供達にアーマデルが注意を傾けているのを察する。あれは人間の成れの果て。しかし、この圧を抜け出すには隙がない――と、いうところで、聞きなれた機械音が唸りを上げた。
「皮肉なものだ。アーマデルを守りたいという願いと、イーゼラー教の信者としての務めが重なる時が来るとは」
弾正の、絶響戦鬼『古天明平蜘蛛』弐式が、小さな爆発を巻き起こす。
「魔種と化した哀れな魂、死にきれない子供達。みな我が神の元へ送ろう。恋人を守る為なら、俺はもう退かない!」
「弾正……」
まだ、この場は保っている。
アーマデルの宣名によって、レイラの注意はそれのみに向いている。
閃光が瞬いた、その刹那。道雪の『雷切』が、静かに煙幕に紛れて毒液を斬り裂いた。
「こっちだ」
運良く逸らしたかに思えるほどの、最小限の動き。道雪にとっては……イシュミルの身の安全が一番。正しくいえば、弾正の心の支えであるアーマデルが倒れるのは防ぎたいという打算になるが……。
(撤退して、治療に専念して欲しいということだね)
イシュミルは頷いた。
『ママァ、ママァ、……』
「ああ……全く我慢ならねえな」
子どもの声。『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)はレイラへの殺意を押さえつける。それでもはっきりとした怒りがにじみ出ている。
「俺は様々な魔種を見てきたが、その中でもレイラは最悪の部類に入るぜ」
やはり、魔種は全て滅ぼすべきだ――ジェイクは確信を深める。だが、怒りに任せてぶっ放すわけにもいかない。周りにはまだ避難を終えていない人がいる。
「ええ、ジェイク様の仰るとおりです」
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は美しいため息をつき、かぶりをふった。ウェーブの髪が揺れた。
通りの良い声。さして大声でもないのに目線で追わずにはいられない……幻こそが人を逃がすための時間をくれると、ジェイクは確信している。
「親というものはよく分かりませんが、貴女が歪んでいることぐらい分かります。子供に毒を与える親なんて親とは言えませんね」
幻の一振り。『夢幻』を冠するシルクハットから星々が瞬いて空へと昇る。
「哀れで愚かな方。きれいな夢を魅せて差し上げましょう」
「うふふ……」
これは、幻の作り出した舞台。
まだ戦闘は始まっていない。
「聞いた通り、ここは戦場と化す。今ならまだ間に合う。命が欲しければここを離れろ!」
ジェイクのことばにより、波が引くように人々が駆け抜けていった。
それを追いかけようとする影。レイラの子供たち。
「危ないわ、走ったらダメでしょう――」
親。
本当の親というものが、『陸の人魚』シグルーン・ジネヴィラ・エランティア(p3p000945)には分からない。
(私は本当の母親を知らない。私を買った御義父様は愛してくれたけど、御義母様からはひどい仕打ちを受けていた)
だからレイラが子供を探して彷徨う姿は、あまりにも哀れで、同時に少し羨ましくもあった。
(ママならきっと同じように探してくれたり愛してくれる。でも……生みの母と御義母様はきっとそうしてくれない)
不思議なことに、目の前の女も、かつては「買われた」ものなのだと。
同類なのだと直観が告げた。
(……だからといって、どうなるでもないのだけれど……)
「奴隷売買ルートがまだ残ってるなんてね」
『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)は冷静な頭で計算する。
あれに、こっちを向かせなくてはならない。
史之は知っている。自分が大切にしているものを馬鹿にされたとき、感情はどうしようもなく沸騰することを。
「ふん、ぽこぽここどもを作ってるやつが『乙女』を名乗るなよ。ユニコーンに蹴られて死んじまえ」
「乙女。乙女! ああ、私をそう呼んだのは誰だったかしら。私のはじめて。私の終わり。……? 私は、母。子どもたちと幸せに暮らしたいだけ」
誰も傷つけずに――そう『できない』ことはレイラの存在がはっきりと証明していた。いるだけで彼女は空間すら朽ち果てさせる。
魔種とは、そういうものだ。
「母親として普通の生活を送りたい、っていう貴女の気持ちも分からない訳ではないわ」
『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)の『聖ルチアの光』は、毒の煙幕を貫いて相手を見据えている。
「でも、共感できるのと認められるのは別。
貴女のそれは、他人の幸福や安全を侵しているもの。
だから、貴女の行動を容れることはできないし、止まらない――止まる気もないでしょうけれど――なら、命を対価に貰わないといけない、ってこと」
「アーマデル、私は、あなたたちさえいれば、他には――」
「ママ……」
シグルーンの呟きに、レイラは顔を上げた。
(いいえ、違う、私のことでは――)
がしゃん。
ガシャン、がしゃん。
飛び出した子供たちの足元で、金属のトラバサミが、花開くようにあちこちで作動した。
どこからか現れた『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)はしたりとページを捲る。
「随分と愉快な物語性ではないか。私にも貴様の頁を捲らせ給えよ。隣に娘も在るのだ、我々の勇姿(すがた)を刻むと好い」
奇妙な、しかし無視のできない存在感を放つオラボナにレイラは顔をしかめる。子どもたちには、トラバサミを避けるほどの知能はない。精霊爆弾は場違いなほどに煌びやかな鱗粉を残して場を強制的にお開きにする。
「流れるのは血ではなくインクだ、文字は繋がりを得て漸く意味と化す」
「ああ」
舞台の始まりを告げるのは、美しき青き蝶の幻影。
「胡蝶の夢に御座います」
●愛という名の煙幕
幻により造られた舞台は、幻により新たな展開を見せる。
幻覚をもたらす致死毒の嵐の中で、幻は微笑み、己の立ち位置を見失ってはいない。
「毒と精神攻撃は僕には効きませんよ。そんなものに惑わされる僕ではないので」
ふう、とため息をつく幻が、愛しい人にしか分からない方法で合図する。爆音が鳴り響くような戦場で、針がひとつ落ちたことを察するような芸当であろうとも――ジェイクがそれを聞き違えるわけはない。
「――想い人の夢を御覧に入れましょう」
ひとつ。ふたつ。みっつ。
あの人のように、疾く。
よっつ。いつつ。
研ぎ澄まされた奇術が、レイラを貫き、惑わせる。
ジェイクはもろく崩れ去っていく足場を捨て、距離をとりながら『狼牙』と『餓狼』を抜いた。強烈な一射が襲い掛かろうとする子を――しかし脚を確かに撃ちぬいた。
……弾正は理解する。
ジェイクは子供想いだ。あれは助からない……かもしれない。しかし、その可能性に賭けているのだ。あれはまだ原型をとどめている。
そして、弾正は敵であるレイラですら、これ以上、自分を責めて欲しくないとすら思っていた。
勇ましく、敵全に飛び出した史之は、良く知っている。己の急所を。……分かっている。相手にとって致命的になりうる言葉を。
「おまえはこの子達の母親なんだよな
こどもは父と母が愛し合って生まれるものだろ
『普通』の家庭じゃそうなんだよ!」
ぴくりと、レイラの顔が引きつった。
「父親は誰だ! おまえの最愛の人はどこに居るんだよ!
その暗殺術は誰に教わったんだ?」
「……」
――ああ、あなたの福音は、誰一人として傷つけたりしない。
「さぞかしこどもたちに恥じない『普通』の人生を歩んできたんだろうな、俺の目を見て語ってみろよ!」
焼ききれそうになる憎しみは悲しみを忘れるに十分なもので、勢いは彼女を惹きつけるに十分だ。
「アーマデル。あなたは信じてくれるわよね……?」
「……」
(俺は異界生まれの旅人
七つの卵の一つめにして、最後まで孵らず取り出されたもの
……あんたの子でない事だけは確かだ)
だけれども、その『興味』がこの場をせきとめている。
普通。
(普通に生きたいと思った事も無かった
『普通』を知らず、この生き方しか知らぬから?
否、俺は『俺』である事を、自ら選んだからだ)
「アーマデル……」
「分かってる」
燃えるような毒の嵐、灯台のように弾正の声がはっきりと響いている。
史之が攻撃を全身で受け止めその軌道に――アレンジを加える。平蜘蛛に突きさしたUSBは、新たな弾道を予測する。
超至近距離での弾幕だ。
「視えた! 診えたか? 看えただろう、一つが」
オラボナは毒の一つをピン、とはじいた。
そう、一つで良い。今は。
――無数の猛毒。精霊の毒。隠し味の猛毒のコケ。全てではないが……。
「うん、わかった」
ルチアは理解して、頷いた。
理解すれば解くのはたやすいはずだった。
「覚悟は宜しいですか」
レイラはやさしく包まれ、生まれることを待ち望まれている幻想のさなかにいた。アムリタの香りにレイラは灼かれる。
幻は、傷ついているはずの愛しい人のために突きつける。
「貴女の子なんて一人だっていないんですよ。貴女が子と思っているのは只の他人です」
「そんなはずはない! そんなはずはないの、全部、私が生んだ子よ。アーマデル……」
「弾正!」
弾正をアーマデルがかばう。レイラは、ひるんだ。
「アーマデル。いけない子、あなたは、あなたは……どうしてかばうの、アーマデル」
「……大切な人です。清いお付き合いをさせて頂いています」
想いもかけない愛の囁き。
レイラは目を丸くすると、それから、涙を流し、恍惚した表情を浮かべた。うっとりとした顔。魔種はその絆が偽りではないことを感じ取ったのだろう。心の底からの拍手を贈り――。
「いいわ。いいわ。見せて頂戴、私に――」
レイラの祝福とは毒だ。
弾正は、オラボナから投げられたそのものの正体を解析しながら立ち続ける。ルチアの助けを借り、次を知った。
レイラは歓喜に打ち震えた。
「……あなたも、死なないなら、私の子かしら……お願い、私を許して」
「何処を論拠に示される」
オラボナもまた笑い、展開する。傷つきそのたびに贖われ、分かち合う毒は効かない。
「あなたはっ! あなたがたはっ!」
ルチアは息を止めず、号令を叫んだ。耐えろ。耐えろ。蒼鍵玉がきらめいて、場を保ち続ける。
聖なるかな。聖なるかな。引き留めた子供を弾正の燦々煌々、一喝が響き渡り、美しい音の波があふれる。
そして、引いた。無数の、物言わなくなった子供たちとともに。
「ママ」
オラボナを追えばシグルーンが、シグルーンを追えばオラボナが。交代交代で繰り出されるコンビネーションは、まるで、踊りましょう、と誘っているかのようだった。
シグルーンが可憐なターンを決めた。ふりまく光は、毒にもまけていない。いつもならばこんなことはしないけれども、今日はママと一緒に。ここに立つ。
シグルーンの声。けたたましく笑うオラボナが立ちはだかる。
美しい光景だとレイラは思う。これが理想ね。こうありたい。胸は焦がれる。
(毒は確かに厄介だけれど、逐次治していけば――)
ルチアの的確な治療が、魔種の物語に水を差す。
「喰い合おう。成すべき事は常と変わらず、我が身は毒の底に沈んだとしても『肉の壁』なのだ」
物語に飲み込まれる。自分が描いたストーリーを邪魔される。いやよ、違うわ。私の子、このお話が成り立たなくなる。
「証明し給え、貴様は人か怪物か悲劇のヒロインなのか。グロテスクなまでに美しい花
道化の如くに語れば目立つ」
――不純物は、はやくけさないと。
門にして鍵。開いた身体はすでに再生を終え、ぴんと立っている。
「ママ、」
「ママ、ですって……?」
ずるい。
ずるいずるいずるい。
どうしてそれほどに甘えた声を、オラボナに向けるのか。
親子が憎い。
オラボナをターゲットにしているすきに、シグルーンは歌った。何度も、何度も、金切り声をあげるレイラを飛び越して、空へと逃れ、歌う。
目が離せない。
振り切ることはできない。
ここで一つの、オラボナの指が鳴った。
「残るのは上位存在の悦よ」
●見えないモノ
(子供が攫われて無残に殺されていくのが我慢ならねえ。出来る事なら『毒親』に付き従う子供達も救いたい)
ジェイクが狙いすまして、子供たちを親から引き離す。可能性があるのなら。
「いやよ、見えないわ、どこ、」
「わかるよ」
史之ははっきりと告げる。
「分かる。見えている。見えないの?」
史之は名乗りを上げると、子供たちを集めた。押し寄せる波のように、……攻撃は苛烈だが、それでかまわない。
寒櫻院。その名前を口にするたびに勇気が湧いてくる。
「おいで、相手してやるよ」
「本当は気付いているんでしょう?」
ひらりと蝶が舞う。
「アルマ様が貴方の技の影響を受けないのは、只、イレギュラーズだからです。イレギュラーズは不可能すら可能にするのですよ。ご存知ないようですが、一部のイレギュラーズはそういう生き物です。その一人がアルマ様というわけです」
「……嘘よ。私の子」
「子供に毒を飲ませれば死ぬに決まっているでしょう? 貴女のように幼い時から訓練を受けていたわけでもなければ。そんなことすら分からないなんて、本当に貴女という方は哀れですね。分かったら、子供に近寄らないで頂けますか。僕の子供なので」
それはトドメの挑発だ。
奇術師のステップは、面白いようにレイラを動かす。さあ、ステップを。舞台の真ん中で。聖なるかなを背負い、ルチアの歌を尋ねる。
とどめたかに思えた毒は逆再生して戻っていく。次の踊りを、と差し出すように優雅にオラボナが差し出した手のひらを棘が刺し、ぽた、ぽた、ぽたとエナジィが滴る。
シグルーンの刹那殺しの月跳魚は、滅びを肯定しない。
「光よ」
届かぬほどの深海に見えて、シグルーンの光はまっすぐに貫いた。晶を屈折するようにして、不可能を可能にする。
(……道具はつかってこそ、だもの)
波を遠くに届けるように。
シグルーンは歌うように告げる。
「だって、私は、私は、私は!」
音色が、アーマデルが、決別を示した。
未練の結晶が奏でる音色。刃が軋り歌うその音は決別を形ってゆく。今度は、知らない色。欠けたのはレイラのほうだった、もしかするとアーマデルが秘めしものは自分よりもずっと強い――。
「我が守神は毒と病を司るもの、死者の未練に寄り添い、送りゆくもの
あんたは子の命を弄んでいる、その自覚は無かろうが」
「待って」
レイラの声は懇願を帯びている。
「連れて行かないで」
耐えきれない、子供が消えてゆくのは。
「貴様の子供を殺したのは俺だ。我が神、イーゼラー様に魂を捧げるためにな」
ああ。
「……お前が……お前がお前がお前がっ!」
責めるように、子供たちが群がる。
「恨まれようが構わない。血塗られた道を歩む覚悟はとうに出来ている」
「だがそれは、アーマデルが共に歩んでくれるからだ。子はいつか親元を離れ、愛する人と結ばれる。彼は俺のものだ、絶対に渡さん!」
「ママ」
シグルーンの決別の歌が、暗く響き渡る。
「わがままだとはわかってる。けれど、私はたくさんの人を愛したいし、愛されたい。
寂しいのは辛くて苦しくて、死にたくなってしまうから。
けど、1つだけわかっていることがあるよ。
それは――君は死なないと、君は救われないってこと。そして、子供たちも。だからごめん、君を殺すね」
「やめて、私から」
奪わないで――。
「おいでおいで、もうなにも怖くないよ、俺のところへおいで。
苦しかったね、辛かったね、いたかったね、もう終わりだからね」
初めから無理に引き延ばしていた幸せだった。止めても子供たちはもう止まらない。史之の元へと寄せられ、消えていく。
「待って」
「塵芥となり消えろ!」
「おいて、いかないで――アーマデル」
「お前の子供はこの世の何処にも居やしねえんだ!」
ジェイクの狙撃が、レイラの胸に突き刺さる。二度、過たずに同じところを撃ちぬいていた。
シグルーンの歩みを、オラボナがとどめた。
おびただしい毒にまみれたレイラは致死毒と化している。動きは鈍かった。街の人々を避難させる時間はあった。這いずった跡は、たどれば海へと消えている。
●葬送
(神がいるなら子供たちを健康体に戻してください。罪もない子供が死んでいくのは許せません)
幻の祈りが、波間に揺れる。ジェイクは、それを見守っている。けれども、救えた命は数多い。腹を抱えた妊婦が逃げ出したのを見ている……イシュミルが保護しているはずだ。
(せめて、苦しまぬよう送ってやろう)
アーマデルの音色は、混ざりあった彼らを分けていった。
――お母さん、お母さん。
ママ。
母さん。パパ、ママ。
うめく小さな塊たちは、安らかに眠った。持っているものはほとんど腐食してぼろぼろではあったけれど……。けれども髪の一束や、小さな布切れに過ぎないものでも。迎えに来た者がいる。
それはためらった、よくできた一体が持っていた。
弾正がそれを拾い上げる。
「おやすみ、疲れただろう
いい夢が見れるといいね」
史之は見晴らしの良い場所に、子供たちを埋めてやった。子供たちが持っていた欠片。それは咄嗟に――生き延びられる見込みがあるならばと、ジェイクや、弾正がかばった部分の欠片だった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
レイラは結構な手傷を負っての撤退となりました。
作戦が功を奏して、被害は最小限に食い止められた感じです。
お疲れ様でした!
GMコメント
布川です!
再会を担当させていただきます。よろしくおねがいいたします。
●目標
『毒の乙女』レイラの退散、または撃破(よりむずかしい)
●登場(敵)
『毒の乙女』レイラ
精霊種の魔種です。アーマデル・アル・アマル(p3p008599)さんを『自分が産んだ子』と思い込んでいるようです。
精神は非常に不安定です。
暗殺者としての訓練を受けています。素早く、毒液で構成されたナイフを振るいます。脅威はなんと言っても強烈な【毒】系列の攻撃です。
BS偏重、攻撃力は控えめです。
・多重影?、スプラッシュ?、呪殺
紹介するわ。『あなたのきょうだい』たちよ×13
レイラにさらわれた子ども達です。もう既に死んでいる、と言ってもいいでしょう。
髪、目、肌……どことなくレイラに見た目が似ているようです。
毒の刃を単体に飛ばします。
何らかの薬物を(おそらくは無意識のうちに)使われているようで、意識はふわふわとしているようです。
彼らは毎ターンレイラの毒によるダメージを受けます。これは無意識のもので、彼らが「自分のせいで」朽ちるたびに、レイラは嘆き悲しみ、BS攻撃の威力が増します。彼らが毒で死なないうちは、庇うそぶりもみせるほどです。
●状況
海洋の街中。
『毒の乙女』レイラはアーマデル・アル・アマル(p3p008599)さんを見つけ、我が子と確信して駆け寄ってきました。
回りにはまだ一般人がいます。
明らかに状況は悪い……のですが、刺激しなければ時間は稼げるかも知れません……。ほんの少しは……。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●魔種
純種が反転、変化した存在です。
終焉(ラスト・ラスト)という勢力を構成するのは混沌における徒花でもあります。
大いなる狂気を抱いており、関わる相手にその狂気を伝播させる事が出来ます。強力な魔種程、その能力が強く、魔種から及ぼされるその影響は『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』と定義されており、堕落への誘惑として忌避されています。
通常の純種を大きく凌駕する能力を持っており、通常の純種が『呼び声』なる切っ掛けを肯定した時、変化するものとされています。
またイレギュラーズと似た能力を持ち、自身の行動によって『滅びのアーク』に可能性を蓄積してしまうのです。(『滅びのアーク』は『空繰パンドラ』と逆の効果を発生させる神器です)
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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