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シナリオ詳細

再現性東京202X:夜明けの色は

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●初詣は苦行なりて
 音呂木神社――
 再現性東京202X街の希望ヶ浜に存在するその場所は大晦日が近付くと毎夜毎夜、黒髪の巫女が徘徊するという噂があった。
「って、それひよのさんじゃない?」
 スナック菓子を囓りながらそう呟いた笹木 花丸 (p3p008689)に疲れ切った顔をした音呂木ひよのは「まあ」と呟いた。
「私ですけれども」
「だよねえ……」
 肩を竦めるひよのに花丸も「お疲れ様です」と告げることしか出来ない。希望ヶ浜にも様々な神社があるがその中でも音呂木神社は社格からしても初詣にうってつけだと言われているのだ。名の通り、その跡取り娘であるひよのは巫女として、そして神職を継ぐ者として幼い頃から家の手伝いをしてきたのだが……。
「練達も大変でした。その所為もあって、今年は神様に災難を祓って貰おうという動きが大きくて、お祓いの予約もぎっしりなのですよ」
「うわあ」
 肩を竦める花丸は「よし、初詣を手伝おうか! 花丸ちゃんにまるっとお任せ!」とひよのに微笑んだのだった。

「……で」
 集合は大晦日の昼間。夜間になれば初詣客でごった返す。生憎、初日の出をのんびりと楽しむことは愚か年越しそばを食べることも年末特番を見ることも許されない。
 げんなり顔の越智内 定 (p3p009033)を連れてやってきたのは綾敷なじみであった。
「やあやあ、ひよのん。お疲れだね。栄養ドリンクと定くんの差し入れさ!」
「待って、なじみさん。僕は差し入れなのかい? 花丸ちゃんからは手伝うようにと言われたけど、僕は差し入れという枠でいいのかな」
 差し入れられたら其の儘待ち受けているのが苦行であるとは定も思いやしないだろう。
「ふふ、猫の手も借りたいって聞いたのだけれど……お手伝いできるかしらぁ?」
 教えて頂戴ねと微笑んだのはアーリア・スピリッツ (p3p004400)。学園の教師でもあるアーリア先生にひよのは「有り難うございます」と苦しげな表情の儘、そう言った。
「不安かしら?」
「違うんです。違う……その、昼間に初詣におすすめ神社特集とかやっていたので……」
 胃がぎりぎりと痛んだのだろう。苦しげなひよのにアーリアはお労しやと悲しげな視線を向けたのだった。
「いや~! 巫女服を着れると聞いたんですが、この美少女巫女しにゃが居ると、初詣客も多くなっちゃうかもしれませんね!?」
「帰って下さい」
「えっ、嘘ですよ。ちゃんと手伝いますっって。ねえ、そうですよね!? しにゃの手も借りたいですよね!?」
 慌てた様子の美少女、しにゃこ (p3p008456)に『確かに手は借りたい』と思い留まったひよのはまだまだ閑散とした神社を眺めた。
「お願いしたいことは幾つかあります。
 まずは少し掃除をして、初詣の皆さんをお出迎え……それから、初日の出までの辛抱です。
 掃除をした後は少しお昼寝をしましょう。私の両親も皆さんの手伝いを歓迎していますから……」
 げんなりとした顔のひよのは自宅で先に鍋でも食べて英気を養おうと告げた。
 その後は少し昼寝をしてから、軽い掃除を。そして初詣の参拝客が訪れればお守りの授与、書き置きの御朱印の受け渡しに誘導業務エトセトラエトセトラ……。
 喧噪の神社のお手伝いをしてから、落ち着いた頃に皆で初詣をするスケジュールだ。
「私も皆さんの初詣はしたいですし、少し落ち着く頃合いまで頑張りましょう……」
 げんなり顔のひよのは皆の手伝いがあれば落ち着いていられるとふうと息を吐いたのだった。

 ――さあ、鍋パーティーをしよう。そして、その後地獄の音呂木神社の初詣が始まるのである!

GMコメント

 夏あかねです。部分リクエスト有り難うございます。
 此のシナリオは【12/31】です。誰が何と言おうと【大晦日~元旦】シナリオとなります。

●成功条件
 ひよのさんの手伝いをする

 難易度ノーマルなのは、肉体労働です!
 嘘です。部分リクシナだからです。ほぼイベシナのようなものです。お気軽にご参加下さい。

●音呂木神社
 希望ヶ浜では有名な神社です。音呂木は『御路木』や『途路木』とされ神様のお通り道と護る者とされていました。
 初詣特集などで名前が出たこともありひよのは「やばいです」と言って居ましたが……。

 まずはひよのの自宅で皆で鍋でも食べて英気を養いましょう。鍋の具材は皆さんにお任せです。好きなものを入れましょう。
 ちなみになじみさんは意気揚々と油揚げを持ってきました。メインは君たちに任せたぜ!
 その後、少しお昼寝をしてから軽いお掃除をして神社のお手伝いをして下さい。
 お守りの授与や書き置きした御朱印の受け渡しなどなど。大忙しです。
 ある程度のお手伝いが済んだ後、皆で初詣をして解散となります。

 基本的にはとっても自由です。巫女服を着て思い思いにお手伝いをして頂ければと思います。

●音呂木ひよの
 皆の先輩。希望ヶ浜の夜妖専門家。音呂木神社の一人娘であり本職の巫女さんです。
 基本的な指示は彼女に仰いで頂いても大丈夫です。お鍋の準備やお料理、軽食の差し入れなどもしてくれます。
 初詣が終わるまで青白い顔をしていますが……

●綾敷なじみ
 怪しくないけど怪しい彼女。夜妖憑きの天真爛漫なじんじゃう系女子。
 巫女服を着用して皆さんと一緒にひよののお手伝いをします。何方かというとトラブルメイカー気質です。
 お鍋の具材として用意した油揚げを手に「他の具材は何だろう!」とわくわくしています。

●その他
 夏あかねの担当NPCのうち、再現性東京に訪れることが可能なNPC(自由に動けるNPC)はお手伝いや初詣にお誘い頂けます。
 具体的には亮やリヴィエール、フランツェルと陽田さん、澄原家です。もしもご希望があればご指名下さい。

 基本的には自由に日常を過して頂けます。
 変革してゆく希望ヶ浜。きっと、見える景色も少し違ったりするのでしょうね。

  • 再現性東京202X:夜明けの色は完了
  • GM名夏あかね
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年01月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
※参加確定済み※
九重 伽耶(p3p008162)
怪しくない
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
※参加確定済み※
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
※参加確定済み※
ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)
無銘クズ
越智内 定(p3p009033)
約束
※参加確定済み※

リプレイ


「こうして皆で集まり、鍋を囲んでから年越しを迎える。こんな日常が、これ程までに有難く感じるのは久々だよ」
 ほう、と息を吐いたのは『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)。炬燵の上に設置されたガスコンロの炎は土鍋を熱し続けている。
 締め切られた襖に畳の上に敷かれたカーペットは此の儘、雑魚寝をしても許されるだろう。
 ――時間を少し戻そうか。汰磨羈が仲間達と鍋を囲む幾分構えの話である。

「ここまで弱ってるひよのさんを見るのって何だか珍しいね? まぁ、おすすめ神社特集とかで紹介されたら仕方ないのかもだけど……」
 音呂木神社へとやってきて『可能性を連れたなら』笹木 花丸(p3p008689)は肩を竦める。カフェローレットに置かれていた雑誌なども初詣特集などと謳って音呂木神社が掲載されていた。流石は『由緒正しき』と言うに相応しい神社であろうか。準備に追われた青白い顔の音呂木ひよのを前にして花丸はつん、とその頬を突く。
「まあ……」
「花丸ちゃん達だってついてるんだから頑張っていこう、ひよのさん!」
 ほら、と微笑んだ花丸が振り返れば綾敷なじみが「そうだぜ!」と勢いよく『凡人』越智内 定(p3p009033)の腕を掴んで飛び出してくる。
「差し入れです!」
「今回は差し入れ枠の僕だぜ。でもまあ、こうやって行く年来る年を皆と一緒って言うのは悪くないかな。
 ……それにひよのさんのそんな表情、初めて見たぜ。
 正直ちょっと可愛らしいと言うか、年相応な感じのひよのさんを見るのは珍し……あれ?ひよのさんって何歳だっけ?」
 定がちら、とひよのを見遣れば微笑んでいる――その笑顔がなんとも恐ろしい。学生の身分ではあるが実年齢は不明な音呂木ひよの、永遠の女子高生である。
「ひよの殿ー! 今年はお世話になりましたぞー、来年もシクヨロー……むむ? 何やら顔色が悪くないでありますか?
 ああ、そういえば初詣特集で神社の事が取り上げられてましたな。今年の初詣は参拝客倍増の予感というわけでありますか……ならば僭越ながら吾輩も手伝いをさせていただきますぞー!」
 やる気を漲らせた『どんまいレガシー』ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)にうんうんと頷いたのは『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)。
「色々あった一年が終わって、全てを祓って心機一転!
 しかも特集まで組まれたら、神様も大繁盛ねぇ。かわいい生徒が困っているとあれば、先生が一肌脱ぎましょ!」
「練達も大騒ぎでしたが、そこまで人で溢れかえるとは。
 これはより一層励まなければですね。今年最後の大仕事、微力ながら頑張ります……どれだけ参拝客が来るのか、逆に楽しみですね」
 例年、大忙しだとは聞いていたが、今年は更に参拝客がやってくるというのならば興味もあると『龍成の親友』ボディ・ダクレ(p3p008384)は肩を竦めた。
「皆さん……」
 感涙するひよのの前に「いーーやーーー」と聞き覚えのある声が響く。花丸が「あ」と声を漏したのは呼んでいたことを忘れていたからと言うわけではない。
「超絶美少女のしにゃと一緒に年が越せるなんて皆さんラッキーですねぇ! 来年も絶対いい年間違い無しですよ!」
『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)、満を持しての登場である。花丸の召集に答えて胸を張ってやってきたのだ。お手伝い要員のしにゃこの背後から『怪しくない』九重 伽耶(p3p008162)が「遅れたかの?」と顔を出す。
 汰磨羈は「買い物をしてきた」とスーパーの袋を持ち上げた。一先ずは鍋を食べて仮眠を取って英気を養うというひよのの計画を聞いて準備を整えてきたのだろう。
 伽耶は木箱をがさりと取り出す。いかにも高価な物品が入っていると告げるような箱だ。
「夜に備えて鍋をすると聞いておってからの。奮発して黒毛和牛のロースを買ってきたのじゃよ、それも5パックものぅ」
「やった~! 聞いた、良いお肉だって!!」
「勿論、野菜もあるからの?」
 うげえと声を漏したのはしにゃことなじみ。伽耶はふふんと鼻を鳴らしてから早速鍋パーティーをしようと音呂木邸へと足を運んだのであった。


 先に腹拵えをしようと具材を準備する汰磨羈曰く『鍋は豪華にしてなんぼ』である。
 鍋の準備中に境内や参道の掃除を軽く行っておいた定は「ひよのさん、土鍋って一つだけ?」と問いかけた。
「いえ、具材に何があるか分からなかったので一応鍋は幾つか用意しておきましたよ。何か分けますか?」
「うん。皆と具材の話をしたときに思いつかなかったのだけれど、もつ鍋をしようかなって。少し前にキャンプで作って、これが結構美味しくってさ……」
 色々鍋はありますと台所の戸棚を漁るひよのに話しかけていた定は背中に衝撃を感じる。覚えのある香りを感じ取り定が硬直する。
「えー!? キャンプなんて楽しそうなもの、誰と行ったんだい?」と飛び付いてきたなじみに背後から汰磨羈が「なじみ、台所で驚かしてはいけないぞ」と忠告を送る。
「な、なじみさ……え、あ、誰と行ったって……? 一人だぜ……?」
 ――応えがない。大々的にソロキャンプしていることを言うのは何だか気恥ずかしい。汰磨羈によって炬燵へ撤退させられたなじみは「また行こうぜ」と手を振っている。
 定は下茹でしたもつにバーナーで焼き目をつける。下拵えをする彼の隣でひよのは飲み物類の準備を続けていた。
「肉や魚は他の面子がもってきそうですゆえ、吾輩鍋には欠かせぬ白菜を用意しましたぞ!
 ぶっちゃけ白菜のない鍋は物足りないでありますからなぁ、名わき役ここにありというやつですな! ひよの殿、先に煮ておきますかな!?」
 台所に顔を出したジョーイはくたくたに煮込むのも良いだろうと笑いかける。ひよのは「そうですね」と頷いて野菜を切り分ける。
「ひよのさん、花丸ちゃんが奮発したお肉はここに置いておくね! あ、お皿は持っていくから!」
「おやおや、笹木さんは手伝わないんですか?」
「そういうしにゃこさんも。だってお料理上手の皆が集まってるしここは食べる事に専念する場面かなっ」
 同意見だと頷いたしにゃこはチョコやマシュマロを手にしていた。定のバーナーでマシュマロを炙って貰うかどうかと話す女子二人を余所にボディが持ち込んだネギも鍋に投入される。

\鍋パーティーの時間だーっ!/

「えへへ、こうして皆で集まって鍋を囲むなんてあんまりなかったから、花丸ちゃんスッゴイ楽しみにしてたんだ!」
 にんまりと笑ってから取り皿を各自に分ける花丸にうんうんと頷いたのはボディ。練達の喧噪さえ忘れるような平穏がこの部屋には満ちている。
「――さ! 頂きましょう!」
 鰤を持ってきたというアーリアに汰磨羈は「私は鱈・帆立・毛ガニの三点セットを持ってきた」ととっておきの具材を披露する。
「美味しそうねぇ。ふふ、贅沢だわぁ。たくさんの具で、身体が温まるわねぇ」
「そうだろう? どうだ、涎が出るだろう? 毛ガニはしゃぶしゃぶ方式で頂こうか。鍋の中身はコントロールさせてもらおうか」
 料理と統率、それこそ鍋奉行だとしきる汰磨羈にアーリアは「お任せしようかしら」とにっこりと微笑んでからしにゃこの取り皿に野菜をどっさりと入れた。
「ならば肉です肉! 成長期ですからね! 肉ばっか食べちゃいます! 美味ぁー!! 止めて下さい、野菜! 野菜ばっかり!」
 叫ぶしにゃこに伽耶は「取り過ぎは野菜もじゃ」といひょいひょいとネギと白菜を取り分ける。
「ええ、待って下さいどうしてしにゃに!?」
「鰤美味しい! 花丸ちゃんお鍋で鰤を食べるってあんまりなかったから気になってたんだ!
 あ、しにゃこさんはもっと野菜食べて? これとこれとこれと…はい、どーん!」
「だからどうして!?」
 肉ばかり食べるからだと言わんばかりの仲間達にしにゃこがクレームを入れる。そんな様子を面白いと見遣ったジョーイは大量投入された油揚げに「凄いことになっておりますな!?」と驚愕する。
「なじみさんは油揚げ持って来たのかい? 狐みたいだぜ、猫なのに」
「食べたかったんだよね。お餅のしゃぶしゃぶも美味しいぜ! ひよひよに用意して貰おっか。餅なら沢山在るはず!」
「食べたかったから? そっかあ」
 油揚げを食べ続けるなじみのマイペースさに伽耶は「肉も食べるんじゃよ」と取り分ける。食べ盛りが多いのだからと大量購入された肉はまだまだ楽しめそうだ。
「ひよのさんも折角美味しいお鍋が出来たんだから確り食べなきゃだよ? ほら、これとかとっても美味しいよ!」
「ええ。夜は長いですしね」
 花丸とボディに取り分けられたひよのはどうしたことかボディをまじまじと見ている。よいしょ、と首の部分を開閉して流し込んだボディに「食べ方はそれなんですね」とひよのは呟いた。
「……ボディ。御主、そういう仕組みだったのか」
「ええ。実は」
 鱈が良い感じだとなじみに取り分けていた汰磨羈の驚愕を見詰めながらアーリアは「楽しいわねぇ」と微笑んで――
「ところでこれだけ美味しいお鍋なんだし、一杯くらいお酒……だめ? 一杯だけ、寝たら抜けるし身体を清める的な! ね? ね?? う、先生の威厳が……いいじゃない、今日は先生だけど先生じゃないの!」
 ――1杯くらいなら、と煽った酒に「もう一杯」と言いかけるのは……仕方が無いことなのであった。


 日向で猫のようにまるくなった汰磨羈となじみを見遣ってからアーリアは巫女服を着用する。覗いちゃダメだと揶揄った定の慌てっぷりは愉快そのもの。
「ああ、もう時間か。なじみ、起きろ」
「ええー……」
 巫女服を着用したアーリアは「ちょっと若者と違ってきつくないかしらぁ」とぼやいた。汰磨羈に言わせれば良く似合っている愛らしい姿であるがアーリアは少し途惑いを覚えているようである。
「お早うございます。早速お仕事と参りましょうか」
 ボディは巫女服を着用した女性陣を確認してからこんもりと盛り上がった布団を剥いだ。事前にひよのにそうしてくれとお願いされていたからだ。
「起きれないです、こんな寒いのに仕事なんてしんどいです! うわー! しにゃのお布団がー! うっうっ……鬼です……」
 丸くなって布団の中に隠れていたしにゃこは其の儘、引っ張り出されて着替えへと連行されたのであった。
 新年を迎える前に鼻歌交じりで大掃除をしていたジョーイは高い場所の拭き掃除を終えて「皆さん! 参拝客が来始めましたぞ~!」と声を掛ける。
「さあ、仕事だ。仕事なんだ。だから女の子達の服装がどうとかそういう雑念は一切ないぜ。……ないぜ」
 例え仲良しの女の子が巫女服姿で隣に立っていても。雑念は除夜の鐘で消してしまう。消してしまわねば困るのだ。定が硬直するのをジョーイが愉快そうに見遣っている。
「似合う?」
「似合ってますぞ、なじみ殿! さ、頑張りましょう!」
 軽くそんな言葉を返したジョーイに似合うと伝えられなかった定は唇を引き結んだのだった。
 寒さが苦手ならばと汰磨羈が渡したカイロをシャカシャカと振り回しているしにゃこは「さ、さぶい」と呟く。
「仕方ないですねぇ……しにゃの超絶接客術をお見せしましょう! 千客万来間違いなしですよ!
 おみくじはいかがですかー! 今ならなんと一回100円の所を十回で900円! 10連なら一個大吉確定ですよ! お得ですねぇ! え、駄目ですか!? ゲームだと皆喜ぶのに!」
 それは違うと首を振った伽耶。しにゃこは「ええー!」と叫ぶが参拝客は愉快そうにその様子を眺めている。
「新年明けましておめでとうございます、本年もよろしくお願いします……っと新年の挨拶はこのぐらいにして巫女の仕事せんとな」
 縁起物の販売を行う伽耶の傍でアコギな商売に手を染めようとするしにゃこはしっかりと監視されていた。
 ひよのの補助に回る花丸は甘酒を配るアーリアと周囲の確認をする汰磨羈を見遣ってから箱の運搬と甘酒の追加を男性陣に頼む。
「此方の姿なら大きい物も抱えられますので、其方を優先して持ちましょう。
 甘酒ですね? 了解しました。おや越智内様、どうされました?」
「いや……」
 力こぶを見て欲しいとアピールしていた定は淡々と荷物を運ぶボディに負けた気がしていたのだ。マナーの悪い参拝客を説得するジョーイに、なじみのトラブルを「慣れている」とサポートする汰磨羈。初詣は大忙しだが何とか無事に一度目のピークを終えられるだろう。
 仕事中の生徒達をaPhoneで撮影していたアーリアは年始の学園新聞に頑張る生徒達を掲載するのだとにんまりと微笑んで。屹度、多数の生徒達が訪れている。アーリアの巫女服姿も何処かに流出するかも知れないがそれはそれでご愛敬なのだ。
「なに、記念写真? 断る理由もないし一緒に撮らせてもらうかの。もちろん、わしにも写真はくれるのじゃよな?
 あ、そこのお客様ー勝手にじゃなくて、さきに巫女の者に許可を取ってから撮影して下さいねー」
「ぴーすぴーす☆ そこのお客さんもしにゃ撮っちゃいます!? 可愛い巫女さんがいるってもっち広めてもいいですよ!」
 アーリアの撮影に乗じて勝手に撮影しようとする参拝客に目を光らせていた伽耶。写真は勿論送るとの言葉に定が「え」と呟いたのは気のせいではないのだった。
 ――ちなみに、写真の一枚目はしにゃこのぷりちーすぎる顔面が占有しているのであった。


「仕事が終わったら初詣ですが、人と紛れるのならこっちの方が良いです」
「……本日二度目の驚きだ。いや凄いな御主」
「ボディさんが女の子になっちゃっていた件。どういうギミック!?」
 ボディの姿が『雛菊』に転じたことに汰磨羈と定は驚愕したように目を瞠る。
「え、どういうギミックと? ……私にも原理は不明なのですよね」
「成程……?」
 皆で初詣とおみくじをと計画していた一行にひよのは「私もご一緒してもいいんですか?」と問いかける。手伝いを頼んだ側である事から僅かな気まずさを感じているのだろう。
「願い事はこの街の平和。あんな事があったばかりだから、尚更ね」
 花丸が手を引けば、ひよのは「あら」と顔を上げる。境内に立っていたのは水夜子に連れられてやってきた晴陽か。
「晴陽先生、ご足労いただきありがとうございます」
「明けましておめでとう御座います……その、どこかでお会いしましたか」
 晴陽の言葉に全容をどうしたことか理解していたのだろう水夜子が吹き出した。不思議そうに首を捻る晴陽に「私です、ボディです。……こうなっています」とボディは緊張したように言葉を紡ぐ。
「……凄いですね。旅人とは、不可思議な事象が多く起こります」
「龍くんは美人な親友を持ったんですねえ! ふふ、姉さん。顔面に『龍成が粗相をしたら張り倒さないと』って書いてますよ」
「……」
 茶化す水夜子を肘で小突いた晴陽は息を吐く。アーリアは「えぇと、燈堂先生にはいつもお世話になってまして……」と挨拶をし――晴陽から感じられたつめたい気配に地雷を踏んだと驚いたように息を呑んだ。
「ま、まあ。初めまして、じゃな。わしは九重伽耶、よろしく頼むぞ。あ、耳と尻尾に関しては質問は受け付けんぞ」
「獣種――でなく旅人でしょうか。素敵なお耳ですね。澄原晴陽です。こちらは従妹の水夜子。宜しくお願いします」
「みゃーこちゃんです。仲良くして下さいね」
 晴陽を引っ張ってきた水夜子は「初詣に行くんですよね」とぐいぐいと晴陽の手を引いている。待っていたと手を振った汰磨羈は「作法は分かるか?」となじみに問いかけた。
「ひよひよに教わったよ!」
「ああ。ならば――」
 汰磨羈が願うのは少しでも多くの平穏が訪れること。それはボディも同じだ。この国の動乱など、もうこりごりなのだ。
 あと一歩でも勧めるように、そう願った定にジョーイが「おみくじに行きますぞ」と声を掛ける。
「まぁしにゃは美少女なので大吉確定ですけど! ……むしゃむしゃ。これは無かった事にしましょう」
「此方で引くのは久方ぶりじゃが……うん、まずまずといったところかの。ほれ、悪かったものは厄払いに籤を結びに行こうか」
「結んだら大吉ですね!」
 伽耶にふふんと胸を張ったしにゃこは「あ、そうだ !お年玉! お年玉ください大人の人! 15歳ならまだ貰っても全然いいはずですけど!?」と叫ぶ。
 ひよのと結果を見せ合っていた花丸は「しにゃこさんってば」と肩を竦める。お年玉が欲しいと騒ぐしにゃこにアーリアが心ばかりと配ったポチ袋は可愛らしい。
「うわあ、お年玉。ありがとう」
「わ、ありがとう! 花丸ちゃんのおみくじの金運は正解だね!」
 大吉だったと見せる花丸にしにゃこが「それしにゃのじゃないですか?」と何度も問いかける。穏やかに笑うアーリアやボディへと晴陽がそっと取り出したのは小さなポチ袋でした。
「音呂木さんには事前に渡したのですが、折角ですから……病院の『協力者』の皆さんに。幸がありますことを」
 友人と呼ぶのには慣れぬ彼女がイレギュラーズ全員に手渡したポチ袋は――
「凄く不細工な猫……?」
 何とも言えない絵柄の猫が『心ばかりですが』と魚を差し出してくる奇妙なものであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度は音呂木神社の初詣のお手伝いを有り難う御座いました。
 折角なのでお呼びいただいた晴陽から僅かばかりにお年玉です。水夜子曰く「かなり気に入って用意したポチ袋」なので大切にして上げて下さいね。

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