＜異世界プリンの恨み＞激辛の復讐者

オープニング

「特異運命座標様ぁ～！！」
　ローレット前に馬車をつけるや否や、従者も置いてとび出していた人物。そのぐしょぐしょの泣き顔の４０代半ばのおっさんこそは、『幻想』辺境に領地を持つ貴族、ホットマン男爵だった。
「聞いてくれたまえお願いします皆々様。先日、アラモード伯爵主催の美食舞踏会に招待されたので行ってきたのだがね……」
　偉そうに胸を張りながら弁舌を垂れる男爵だが、口調は偉ぶってるのかへり下っているのか判らぬし、格好に至っては両膝を床についたまま、顔を涙と鼻水でひどく汚している体たらく。さぞかし辛い目に遭ったに違いない……。
「そうなのだよ！　あのにっくきスウィートソンのやつめ、ワシがあれほど楽しみにしていたプリンを、ワシのぶんまで食べてしまいおったのじゃーーーーー！！！」

　……彼の老執事の冷静な説明によれば、その美食舞踏会の目玉料理は、とある旅人が長年再現に努めてきた、故郷の世界のプリンだったという。その完成を阻みつづけてきた混沌肯定『不在証明』を一度きりの偶然により克服した異世界プリンは、さしものアラモード伯爵といえどもその時作られたものを丸ごと確保するのが精一杯の、超貴重プリンなのである！
　然るがゆえにプリンには、１人につき１つの制限がかけられたのだ。が……何故かホットマン男爵が食べようと思った時には、１つも残っていなかったのだとか。理由をよく知ってる特異運命座標もいるって噂だけど。

　依頼内容は、そんな男爵に異世界プリンがいかに美味しかったかと滔々と語ってくれた隣領の貴族、スウィートソン子爵の屋敷に忍びこみ、食糧庫の食材なり調理中の料理なりに秘密の粉末薬品『ゲキカラーゼ』をぶち撒けること。ゲキカラーゼには調合次第で特定の時刻に激辛化する性質があり、これを使えば毒見が終わった後、ちょうど子爵が食事を始める瞬間に激辛化させることができる。
「なぁ～にが『この世の何よりも最高の甘味だった』だ！　なぁ～～にが『食べねば人生を損する逸品』だ！！　あやつめ、喰えんかったワシを嘲笑うために、ワシのぶんのプリンまで食べたに違いない！！！」

　……なおこのホットマン男爵とスウィートソン子爵。一般には喧嘩するほど仲がいいと思われているのは、本人たちだけが知らぬ事実である。

参加者 : 8 人

冒険が終了しました！　リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧（8人）

リプレイ

●訪問、子爵邸
　復讐の味は苦いというけれど――『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ（p3p000736）の口許に微笑みが浮かぶ――此度の復讐はどうやら辛い味らしい。
　嫉妬。激憤。それは人の本能から生まれる愉悦。黒マナより生まれし高位悪魔にとって、手を貸すのにやぶさかではない甘美な感情だ。
　……などと表現するとこの依頼が実に邪悪な何かであるようにも聞こえるが、それは、ある意味ではもっと純真な何かであるのかもしれなかった。だって楽しみにしていたおいしいプリンを食べられちゃうなんて、『玻璃の小鳥』不破・ふわり（p3p002664）だって悲しくて、許せない、って泣いてしまいそうなんだもの。いい年した貴族のおっさんが、１０歳児と同じ感情で動くことの是非はともかくとして。
　いやホント、子供が怒っているだけならほのぼのとした光景なのだ。『しまっちゃう猫ちゃん』ミア・レイフィールド（p3p001321）の怒った顔だって、傍目からは実に微笑ましい。
「うんうん……食べ物の恨みは恐ろしい……の。それがレアモノなら、なおさら……にゃ。ミアも絶対許さない……の」
　あれ、と何かの違和感に気づいた『悪い人を狩る狐』ルルリア・ルルフェルルーク（p3p001317）だった。宿の“来客用”備蓄プリンを食べたの誰だったっけ？　いや、その話をすると自分もいろいろツッコまれそうだから別のツッコミをしておこう。
「……でもこれ、いくつもプリンを食べちゃった人は別の貴族さんじゃありませんでしたっけ？」
　そうなのである。
　ついでに言っておくと、赤信号みんなで渡れば怖くない的にそれに加担させられた特異運命座標たちの仕業でもある。スウィートソン子爵だけが運よく異世界プリンにありつけたことは間違いないが、依頼人のホットマン男爵が考えているように彼が男爵のぶんまで２つ食べたという証拠は、どこにもないのである。
『やっていることが子供の悪戯のような気がするな』
　ほら、『穢れた翼』ティア・マヤ・ラグレン（p3p000593）の中の『神様』が呆れかえっていた。当の本人は真剣だし、依頼はちゃんとこなすけどね、と返すティア本人の声も、少しばかり疲れているような気がしないでもない。でも……。
「オレの世界にも『喧嘩するほど仲がいい』って言葉があるんだぜー？　２人がこれからも仲良く喧嘩（？）するために、オレも頑張っちゃうぜー！　なーパカおー？　ぴょんぴょんたろー？」
　ペットのパカダクラとトビンガルーに話しかけていた『雲水不住』清水 洸汰（p3p000845）のように、あんまし気にしない人もいたりはする。迷惑そうな顔をしてみせるパカおとぴょんぴょんたろー。
「なー？」
　そんな洸汰の白羽の矢が自分にも立ったので、『神話殺しの御伽噺』エクスマリア＝カリブルヌス（p3p000787）のボリューム満点の髪の毛先がひとりでに捻れた。変わらない彼女の表情の代わりに洸汰に返した感情は、興味か、それともやはり迷惑か。
　マリアはその髪を今度は伸ばし、門に備えつけられた呼び鈴を鳴らしてみた。濁りのある甲高い音がしばらく辺りに鳴って……現れたのは、厳しい顔の衛兵が２人。
「ここは、スウィートソン子爵閣下の屋敷である」
「面会予約のある者たちではなさそうだが、何者だ？」
「ローレットのほうから挨拶に来ました……聞けば、閣下は珍しい甘いものをお探しだとか」
　メイドの嗜みとして彼らに恭しく一礼してみせた『カレーメイド』春津見・小梢（p3p000084）の手にはひとつの包みが、まるで貴重な何かが入っているかのように丁重に乗せられている。そういうことなら子爵の判断を仰がなければ……互いに顔を見合わせる彼らは知らない。
　その包みに入っているのが、山ほどのカレー用のスパイスだということに。
　……いや、他の人たちの手土産には、ちゃんと甘いものがたくさんあったことだけは記しておこう。甘いものを用意する場面で何故かカレーを持ってきてしまうのは彼女だけでいい。
　もっとも、衛兵たちがそんな裏事情を知るはずもなく。彼らは主人の意向を確かめるために、一旦屋敷の中へと帰っていった衛兵たちは、しばらくして笑顔で戻ってくると特異運命座標たちを歓迎するのだった。
「お会いになる、とのことだ。あそこに見えるメイドについていってくれ。くれぐれも閣下に粗相のないようにな」
　だがすまんな２人とも。こいつらは、まさに粗相をするためにやって来てるんだ。

●甘味披露宴
「ほっほう。わざわざ遠くから私の高名を聞きつけたのだね」
　小太りなホットマン男爵とは兄弟のようによく似た体型のスウィートソン子爵との面会は、そんな自意識過剰から始まった。
「まさか、隣領のホットマンの方へはゆかないだろうね？　いや、もしギルドの意向であちらにも顔を出さねばならぬようなら、是非とも奴にこのアマッタルミンを塗りつけて顔を蟻だらけにしてやってくれたまえ……ところで、珍しい甘味があると聞いているが？」
　うわぁ、本当に同レベル。神様と２人（？）して気が抜けるティアではあったが、そうはしておれぬと保冷かばんから何かをとり出してきた。
　ティアが恭しく夏の爽やかな酸味の氷菓子を献上すれば、ほう、と子爵の両目が興味深そうにぎょろつく。
「海洋のジェラートを参考にして作って参りました」
「それは以前、貴族同士の集まりで食べたことがあるな。しかしあの時は集まった面々がそうそうたるもので、味などすっかり覚えておらん……」
　まるでリベンジとばかりにジェラートを頬張る子爵。銀の匙が冷たく甘酸っぱい氷を運べば、氷は口の中でたちどころに溶けて、胃袋へと流れおちてゆく。
「ううむ、これは夏に食べるに相応しい。暑さで疲れた体を芯から冷やし、活力をとり戻させてくれるかのようだ。
　しかし……わざわざこれを届けるためだけに、諸君は我が屋敷までやってきてくれたと言うのかね？」
　突然誰かから何かを提供された時、人はその裏に何があるのかと不安がるものだ。そんな時、幸運の代償を提示されることほど人を安心させるものはない。
「実は、お願いごともある……の」
　その安心に当たるのが、愛嬌をふり撒くミアの声なのだ。
「こんど町で売り出す、新メニューの試食を……甘味好きと名高い子爵様に、お願いしにきた……の♪」
「ほう、それは良い心がけである……」
　……などと勿体ぶってみせようとした子爵だったが、次の瞬間そんなのも忘れて、ミアのバッグを食いいるように凝視する！　何故なら彼女のバッグから出てきたものは……明らかに容積よりはるかに大量のドーナツなのだから！
「ミア特製、ねこねこドーナツ……なの♪　耳つきで普通のドーナツよりお得……ホワイトチョコかけの白猫に……黒ゴマの黒猫……バリエーションいっぱい……にゃ♪」
「見た目も愛らしく味のレパートリーも豊富……調理の腕にはまだまだ精進の余地あれど、それを補って余る魅力が今後を期待させる！」
「よかった……なら、みんなにも配ってくる……の！」
　子爵の驚愕に満足したミアが応接間を出てゆくのにかこつけて、マリアら数人も配るのを手伝うと称してついていった。中にはティアのように本当にミアを手伝うことで屋敷の使用人たちを油断させる目的の者もいるが……それ以外の４人こそが、この作戦の真の本隊である。
　だが、彼女らが起こすであろうトラブルを子爵に悟られぬため、子爵への餌付けはまだまだ続く。

　腕がまだまだと評していたくせに蕩けそうな顔になっていた子爵を見ていると、ふわりまでなんだかふわふわと、幸せそうな気持ちになってきてしまうのだった。
　いけないいけない。ふわりも、ちゃんとお仕事をしないと。
「わたしは、この３つを作ってきたのです」
　そして眠そうな目を片手でこすりながらもう片手で合図をすると、召喚されたたれ耳ウサギぬいぐるみの『プルムちゃん』の給仕で、フルーツ大福、ふわふわ生どら焼き、冷やし白玉ぜんざいが子爵の目の前に並ぶ！　ちなみにどれも灰熊ぬいぐるみの料理長、『ロッシュさん』の作品だ。
「これは、餅かね……？　ううむ、ひと口食べると中からは甘い豆の餡……いや、そればかりさらに奥から、瑞々しい白桃の果肉と果汁があふれ出てくるではないか！
　おお、次のパンケーキサンドは……む、何を挟んでいたかと思えば、渋味が甘みと調和する緑のクリーム……これはもしや抹茶では！
　どちらも濃厚な甘さだが、最後の品は逆にあっさりした甘さなのだな。この団子の舌触りも面白い……ああ、いずれもワインか何かと一緒にいただきたいものだ」
　そんな欲望が目の前にあれば、つけ込んでこそ悪魔というものだろう。そんなこともあろうかと、マルベートがとり出したのはデカンター入りの赤ワインだった。
　しかも、ただのワインではない。その中にいくつものベリーやリンゴなどの果物を漬け、たっぷりの蜂蜜で甘みを追加、さらにシナモンで風味づけと香りづけをしたサングリアである。
「菓子とも合わせて、ゆっくりと味わってもらいたい」
　ぞくり、と子爵の全身に鳥肌が立った。これほどの甘味に囲まれて、飲みものもさっぱりとした甘さのサングリア！　これでは今日のこれからの執務も忘れ、堕落してしまうではないか！　いいや、これは神よりの、堕落せよとの思し召しに違いない！　……いやマルベートは悪魔だけど。

　子爵が我も忘れて甘味をほお張りはじめて、どれだけの時間が経っただろうか？
「うーむ……久々に満足させて貰った……これほどの甘味ずくしとなると、王都とは言わずとももっと都会まで出なければならんからなぁ……」
　さすがの子爵も腹をさすって、ズボンのベルトまでゆるめる有様だった。いかに子爵が甘味に貪欲だとはいえども、サングリアの最後の一滴を飲むころにもなれば、ひと口ひと口に覚悟が要るほど胃袋に入れるのに時間がかかる。
「美味い……これ以上入らない……美味い……」

　さて、子爵が甘味たち相手に悪戦苦闘している間、はたして屋敷内では何が起こっていたのか。
　時は、応接間を辞したミアが衛兵さんに「あーん♪」してメロメロにしはじめた頃に遡る。

●迷子の迷子の特異運命座標さん
　早速だが小梢、マリア、洸汰、ルルリアの４人は……迷子になっていた。
　いくら子爵邸がそこそこ大きい屋敷だとはいえ、そんなに何人も連続して迷子になることがあるのだろうかいいやそんなわけがない。ここからが４人の特異運命座標たちによる潜入大作戦の始まりなのである……ホントは案内のメイドさんさえついてなければ、応接間までの間に『迷子』になるはずだったんだけどね！

　そして洸汰は偶然にも、その案内メイドさんと再びばったりと出くわしてしまっていたのだった。
「応接間にご案内したはずですが……どうしてこちらに？」
「ねーちゃん、そのことなんだけどさー！　あのさ、オレの友達、見なかった？　黒っぽい肌で、金髪のー」
「その方でしたら特徴的なお姿でいらしたので、覚えておりますが……」
「その子と一緒にいたはずなんだけどさー、どっか行っちゃってー」
　お調子者感たっぷりに答えてやれば、ここは任せてお戻りくださいとメイド。これだけでもひと騒ぎは起こせそうだが、洸汰はさらにもうひと声！
「オッケー！　……って、応接間ってどこだっけー？　ちょっと案内してくんねー？」
　これにて捜索人員と案内人員をゲット。こうして屋敷内を人手不足に変えてしまえば、時間的に本来なら厨房に出入りするはずのメイドまで、片手間で別の仕事までしなくちゃいけなくなるはずだ。

　もっともその程度で厨房から人気が消えてくれるほど、世の中甘いわけがなかった。だとしても無表情な顔つきを感情豊かな髪の動きで補う少女は、ほのぼのとした場所にならどこに入りこんでも追いだされない程度の愛嬌を武器に、屋敷探索を続けてゆく。
「おい。君はどこから入ったんだ？」
「貴族様のお家っておっきいですね……お部屋もいっぱい。ここがキッチンですか？　甘いもの好きの貴族様のために、マリアもお手伝い、したい、です」
　マリアの　保護欲をかきたてる　こうげき！
　普通の童女を装うマリアの純真な眼差しに、厨房で野菜を切っていた若い料理人は耐えきれなかった。そういえばマリアらは、子爵に甘味をご馳走するために訪れたのだったっけ……そんな噂話が屋敷内ですでに広まっていたのが災いし、料理人はついつい子爵も承知の上だと勘違いしてしまうのだ。
「ああ、確かにここが厨房だが……でも危ないから大人しくしているんだぞ……」
　ガッシャーン！
　けれども料理人が注意するよりも早く、積みあがったお皿を盛大に床にぶちまけるマリア！
「おい！　だから言っただろ……」
「あ、ご、ごめんなさい……」
　すぐさま叱ろうとした料理人だったけど、しょんぼりするマリアを見てしまったら、どう接していいものやら戸惑っている様子。
　そこへ、ひとりのメイドが厨房内に飛びこんできた。
「厨房内の始末は私がやりますので！」
　その時若い料理人は……マリアに完全に気を取られ、感じるはずの違和感に気づけなかった。確かにこのメイド、この屋敷のメイドの格好はしているが……こんな声と背格好のメイドはこの屋敷に雇われてたっけ？
　その正体こそは小梢である。実は着てきた外套の下に、子爵邸のメイド服を着ていた（当然、子爵邸の間取りや子爵のスケジュールまでバッチリな男爵にかかれば、その程度の準備は造作もないのである）彼女は、そのまま何事もなかったかのようにシチューにターメリックその他諸々の粉末を投にゅ……。
「おいお前！　何をしてるんだ！！」
　……年のいったほうの料理人に腕を掴まれた。
「あれっ？　カレーを作るんじゃなかったんですか？」
「ふざけるな！　おい、誰か人を呼んでくれ！」
　小梢……作戦失敗！　でも実はそうやって老料理人が小梢に気を取られている隙に、ルルリアが何かを食材にかけて回ってたんだよね。
（ゲキカラーゼを馴染ませるのに水分が必要なのでしたら……こうして聖水に溶かした状態でかければ最初から馴染んだ状態になるはずです！）
　なんという完璧な作戦！　これぞ狐さんクオリティ！　そして騒ぎを聞きつけた衛兵やら何やらが駆けつけてくる前に撤退……はせずに。
　するっと、天井裏に身を躍らせる。
（子爵さんが辛さにもだえ苦しむところを、依頼主さんに伝えないといけませんし！）
　実際にはちゃんと『風の噂』が男爵まで届くようにはなっている辺りが２人の仲なのではあるが、だとしても自ら責任を持って報告する態度は特異運命座標の鑑……いや単に野次馬根性溢れてるだけかもしれないけれど。

●ゆうやけこやけで遊びも終わり
　そんなドタバタ劇が裏手でくり広げられていたなどとはつゆ知らず、スウィートソン子爵はいつもよりかなり出た腹で、特異運命座標たちを見送るのだった。
「いやぁ、実に素晴らしく甘い時間だった。この世の天国とはまさにこのことだとも」
「それだけ楽しんでもらえたのなら何よりだよ」
　そう微笑んでみせてから、子爵には聞こえないよう続きを囁いたマルベート。
「……だって、そうでないと後から味わう復讐の味が活きてこないからね？」
　そんな文字通りの悪魔のやり口に子爵が気づくまで……あと少し。山向こうに落ちた陽が大地に影を落として、思わずかくりと船を漕ぎはじめたふわりを、ぬいぐるみたちが慌てて支えてあげる。

　特異運命座標たちの視線の向こう、ずいぶんと小さく見えるようになった子爵の屋敷。しばらくすればその中からは、身の毛のよだつ、世界の終わりを思わせる絶叫が上がった。
「いつ毒見していつ実際に子爵が手をつけるかまで行動パターン知ってるって、なかなかだよね」
『これではライバルどころかまるで兄弟だな』
　暮れなずむ空の下で語りあうティアと神様の視界の中を、任務完了した狐耳少女の姿が近づいてくる。

「依頼成功確認、バッチリです！」
　遅れて合流したルルリアが親指を立てたのを見て、ミアは魔法のバッグを漁りはじめた。
「ミアもバッチリ、悲鳴を記録した……の。成功を祝って、みんなにも、ミアのドーナツをあげる……の」
「おー、ありがとな！」
「……美味しい」
「そうだね、甘くて美味しい。ミア、ありがとね」
　小躍りする洸汰、髪をぱたつかせて感謝を表すマリアや、慈しみの表情を浮かべるティア……いずれも、次の瞬間ルルリアに降りかかる悲劇を、予想だにしていない。
「わーいっ！　ミアちゃんのドーナツ……あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙！！」
　秘密の激辛粉末『ゲキカラーゼ』。その哀れな犠牲者の悲鳴は、もう１つ、王都より離れたこの地に響いたのだった。

成否

成功

ＭＶＰ

なし

状態異常

あとがき

　まさかこのシナリオで料理マンガの料理解説的な描写をすることになるとは全く思ってもみませんでしたが、それ以上に想定してなかったのが……え？　ゲキカラーゼ、自分たちで食べるの？
　せっかくなので、記念に激辛重傷を出しておきました。事実上の称号みたいなものだと思います。どうぞご笑納ください。