PandoraPartyProject

シナリオ詳細

再現性東京202X:くたばれハッピーエンド

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 誰かに打たれるのは慣れていました。
 最初はお父さんを亡くしたお母さんに。その次がクラスメイトで、今は学校中の誰からも。
 時に冷水や泥を。心無い言葉を。何のためらいもなく浴びせかけるみんなに、私はただ、諦めたような微笑みを浮かべるだけ。

 ――本当に、ただそれだけで、良かったのに。

「……馬鹿野郎」
 私を虐める人たちに、殴りかかる人が居ました。
「身内でも、身近にいる存在であっても。
 アンタが奴らの仕打ちに耐える必要なんてなかった。向き合う必要なんてなかった。アンタは、いつだって逃げられたのに」
 作り笑いの頬を引っ張って、私をいろんな表情にする人が居ました。
「アンタが、アイツらと同じような存在になる必要は、何一つなかったのに」
 そうして、今。
 人を殺す化け物になってしまった私を、泣きながら抱きしめてくれる人が居ました。
 ……周囲には千切られた人間の身体。撒き散らされた血と臓物が幾重にも。
 私を虐めた人たちの成れの果ての只中。真っ赤になった私を、構わず抱きしめるただ一人の友達へと、私は「ごめんね」としか言えませんでした。
「ねえ、×××ちゃん」
「……何さ」
「わたし、を――――――」
 続けて、震えながらも紡いだ……否、紡ごうとした言葉。
 けれど目の前の友達は、それを言いきるよりも早く、私の口を片手で覆いました。
「……アンタの言う事は正しくて。きっと、その終わり方は間違いなく訪れるかもしれない」
 だけどさ。そう言った彼女は、ちょっとだけ困った表情で笑いながら。
「いつか必ず辿り着くなら、何もそれを急ぐ必要は、何処にもないと思わない?」
 ゆるりと、抱きしめていた手をほどいた私の友達は、その手を開いて私に差し出しました。

 過ちでしかないそれを。この世界にとって、間違いなく悪であるというその誘いを。
 それでも、私は泣きじゃくりながら、頷くことしかできなかったのです。


「……これもまた、私たちの『東京』にとっては、ありふれた話なのでしょう」
 その言葉を吐いた少女に対して、カフェのテーブルを挟んで対面に座る特異運命座標達は、少しだけ苦しげに頭を振った。
 ――――――『再現性東京』。
 地球と呼ばれる世界、その内の或る国を模倣して作られたとされるその街に発生した怪異……夜妖(ヨル)の討伐依頼の詳細は、ともすれば少女の言う通り、この街に於いて「幾らでも起こり得る其れ」でしかなく。
「『対象』は2体の夜妖憑きです。
 その内、1体はもう片方の眷属として力を授かったような存在であるため、戦闘不能に追い込めば救出することも不可能ではないでしょう」
「………………。けれど、それは」
「もう一人の夜妖憑きは助け得るのか」。それを口にしなかった時点で、答えは明白。
 であれば。そうして大切な友人を奪われざるをえない他方は、果たして生き残ることを望むだろうか。
 それを言いかけた特異運命座標の一人……『埋れ翼』チック・シュテル(p3p000932)に対して、依頼内容を口にする少女はかすかに瞳を眇め、呟いた。
「たとえ差し伸べられた手が、拒まれても。振り払われても。
 結果として、助けたその人が、例え死を選ぶのだとしても」

 ――それでも、迎える選択肢が少しでも多く在ってほしいのだと。自らの願いを隠さぬまま。


 世界の総てを、眩しそうに見ているように見えた。
 同時に、それら全てを手にはできないのだと諦めているようにも。
 そんな、自分の運命を最初から手放したような姿が気に食わなかった。それだけなのだ。
 虐めている奴らを引っぺがした。理不尽な仕打ちに声を荒げて反抗した。
 何時しか自分もアイツらから爪弾きにされるようになったけれども、それを気にしたことは一度も無かった。
 笑うことは無くても。以前より、少しだけ下を向くことが減った彼女の姿を見れただけで。私は満足だったから。

「――――――きて。起きて。×××ちゃん」
 呼ばれた名前が意識を掘り起こした。血に烟る視界。冷えた身体。
 無理やり与えて貰った力はそれほど悪いものではなく……同時に、これ以上ないほど酷い代物だった。
 欠損した肉体の一部を蛆が覆って再生させる。追手の『祓い屋』を傍らの少女と一緒に撒くのも、いい加減限界が近いのだろう。
 時刻は夜、人気の絶えた廃工場。その一角に座り込んでいた私たちは、冷えた身体を寄せ合いながら忘と中空を眺めていた。
「……まだ、続けるの?」
「当然」
「いつかは終わっちゃうって、分かってるのに?」
 逃げることを、戦うことを、延いては生きることを。
 それら全てに対して向けられた言葉を肯定する私に、『彼女』は泣きそうな表情で言葉を発する。
「けれど、こうして抵抗した分だけ、私はアンタと一緒に居られる」
 返答はなかった。私はそれを気に掛けることも無く、淡々と言葉を続ける。
「……一人にすんのは、止めてよ。
 私は寂しがりだからね。誰かと、一緒に居たいんだ」
 貴方を一人にしたくない、ではなく、私が一人になりたくないのだと。
 一人を識る『彼女』にとって、これはきっと、拒みようのない狡い言葉なのだと、理解していながらも、私はその意図をハッキリと示す。
 ……崩れかけた廃工場からは、微かに月光が差し込んでいた。
 天井に空いている穴の向こう側に見えた月の眩さに、ほんの少し、私は目を細めながら言う。

「くたばれハッピーエンド、ってね」

 奪われて。打ち棄てられて。そうして変わらざるを得なかった者たちを殺すことが、この世界の為だというのなら。
 そんな終わり方を。私は、私達は最後まで否定してやるのだと。

GMコメント

 GMの田辺です。この度はリクエストいただき、有難うございました。
 以下、シナリオ詳細。

●成功条件
・『夜妖憑き』の討伐
・『眷属』の無力化(殺害を含む)

●場所
『再現性東京』内、今では人のいない工業地帯の一角にある廃工場です。時間帯は夜。
 崩れた天井から各所に月光が差し込んでいるため、光源等は必要なく、また広さも十分に確保されています。
 半面、老朽化が進んだこの戦場では壁や床などのオブジェクトの破壊が比較的容易であり、下記『夜妖憑き』『眷属』の二体はそれを利用して逃走する可能性が在ります。
 シナリオ開始時、敵二体と参加者の皆さんとの距離は30mです。

●敵
『夜妖憑き』
 年齢10代半ばの少女です。元希望ヶ浜学園中等部の生徒ですが、虐められていたこともあって不登校がちだったため、PCの中でも面識のある人はほぼ居ないと言っていいでしょう。
 現在までの過剰な虐待によって鬱屈した心に夜妖が憑りついたことで覚醒。その後、自身を虐めていた者たちを感情に任せて殺害しました。
 自らが犯した罪の意識も相まってか、既に夜妖を引きはがすことは不可能なほど侵食が深まっており、その分強力な異能を行使できます。
 戦闘に於けるスペックは後衛型。二回行動と命中率、そして速度に重きが置かれたステータス構成となっています。
 攻撃方法は敵味方を問わず戦場に居るキャラクター全体に無数の蝿を纏わせるもの(高命中、低威力)と、幾多の蝿を一か所に纏めて作り上げた集合体をぶつける遠距離単体攻撃(高威力、[飛]属性)の二種類があります。
 また、彼女の攻撃がクリーンヒット以上で命中した対象は、その周囲3m以内に攻撃の残滓である大量の蝿が一個のエネミーとしてブロック状態で配置されます。
 此方のスペックは高くありませんが、発生する個体数に制限はないため、攻撃を当てれば当てた分だけ発生し続けます。

『眷属』
 年齢10代半ばの少女です。上記『夜妖憑き』から力を与えられました。
 良くも悪くも自身の線引きによって行動するタイプ。虐められていた『夜妖憑き』を助けた切っ掛けも、「虐められている様が気に入らなかったから」。
 関わることになったきっかけは自分が主体となっていましたが、其処から現在までの付き合いの中で、両者は大切な友人として互いを意識しています。直截的に言うと、「本依頼の成功条件を前提とした交渉」は、彼女達に通じません。(会話自体は可能です)
 戦闘時は前衛型として動きます。HPの高さと移動距離に重きが置かれたステータス構成。
 攻撃方法は遠近を問わない強力な単体攻撃を与えた後、その範囲10m以内の選択対象に蛆を撒き散らして肉を食らわせる持続的な[毒]系状態異常を与えるもの、また、自身の負傷を蛆に喰わせて再生させることで、ターン終了時に一定割合回復させる自己治癒能力の二つ。
 そしてOP文章にもある通り、彼女たちはあくまでも「少しでも生き残ること」を念頭に行動します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。



 それでは、リクエストいただきました方々、そうでない方々も、参加をお待ちしております。

  • 再現性東京202X:くたばれハッピーエンド完了
  • GM名田辺正彦
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年01月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
※参加確定済み※
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
那須 与一(p3p003103)
紫苑忠狼
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
エドワード・S・アリゼ(p3p009403)
太陽の少年
暁 無黒(p3p009772)
No.696

リプレイ


「――ここまでくると友情ってモンは、とんでもないものですなあ」
 伽藍の建造物の中、奇妙なほど『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)の言葉はよく響く。
 相対するは一対と八名。月光差し込む建物の中、少女たちは言葉を返すでもなく、ただ特異運命座標らの方へねめつける様な視線を送っている。
「とはいえ、お判りでしょう? 悪い子たちにはお仕置きが待っているものなのです」
「逆でしょう? 『お仕置き』を先に受け続けたから、私たちは悪い子になったのよ」
 自身らが受け続けた理不尽な虐待が無くば、こうまで歪むことも無かったと、眷属である少女は淡々と呟く。
「歪な姿になっても、命からがら……逃げてきたんだね」
「……同情? それとも憐憫かしら」
「そんなつもりはない。けれど……」
 くっ、と悔しげにこぶしを作った『埋れ翼』チック・シュテル(p3p000932)は、真っすぐに少女らを見つめて、言った。
「二人一緒に、だなんて。
 ……まるで、嘗てのおれと弟みたいじゃ、ないか」
「っ!」
 少女の内、もう一人――夜妖憑きである彼女が、その言葉に小さく俯いた。
(……一緒に逝かせた方が幸せ? 辛くても生きててもらうべき?)
 互いの手を繋ぎ、特異運命座標達を睨む少女らへ、『揺らぐ青の月』メルナ(p3p002292)が瞳を細めながら自問する。
 少女たちが今こうしている理由。それを知っているメルナは、だからこそその問いに答えを出せずにいる。"私"には分からない。"私"はお兄ちゃんのように、優しくは無いからと。
 ――或いは、『彼』のように、総てを救うと決意出来たらよかったのだろうか。
 メルナの視線の先。他の面々と一線を画する覚悟を表情に浮かべる『ドキドキの躍動』エドワード・S・アリゼ(p3p009403)は、
「……ずっと、辛かったんだよな」
 ただ、平坦に言葉を発する。
「苦しいことも、ずっとずっと耐えて。周りにあるもの、嫌なもんばっかで。
 ……ごめんな。来るの、遅くなった」
 少女は応えず、少女は見据えるのみ。
 ともすれば冷え切ったともとれる二人の反応に、しかしエドワードは怯むことなく、言う。
「2人はもう諦めちまってるかもしれねーけどよ。そんな2人にあえてこう言うぜ」

 ──――――”助けに来た”。

 ハ、と眷属が笑う。
 多くを失い、多くを奪われ、最早身一つさえ覚束なくなった自分たちに、本当に「何をいまさら」と。
(……「彼女」は、どう思ってその選択をしたのですかね)
 未だ、一言も発さぬ夜妖憑きの少女を見ながら、『メイジン』那須 与一(p3p003103)は静かに疑問を浮かべた。
 浮かべる言葉は無い。それらはエドワードが全て発してくれた。
 なればこそ彼の願いに力を貸そうと思う与一。しかし――その『方法』には、一抹の不安を拭えずにいるけれど。
「……キミ達に、この言葉が通じるとは思えないけどさ」
 そう前置きして。つと、少女たちの側へ一歩を踏み出したのは『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)。
「悪いことをしたからって報いを受けるだなんて思わなくていい。その分いい事をすればいいんだよ。私はそう信じてる」
 それは、きっと貴方達も。
 何処か強気な笑みを浮かべた茄子子へと、眷属の少女は忌々しげに舌を打つ。
「薄い言葉ね。それで私たちが翻意するとでも?」
「ん-ん? 言ったじゃない。通じるとは思ってないって」
 だから。そう一拍を置いた茄子子は。
「なんていうかつまり、二人ぼっちで孤独に生きようとするその様が気に入らないから救わせてもらうよってことだね!」
 その笑みを崩さぬまま、仲間と共に疾駆する。
 対し、構える二人の少女のうち、どちらかが、ぽつりと。
「……今更、救いだなんて」
 誰に聞こえる必要も無いかのように、小さく呟いた。


「エドワード君の決意を聞いて、思い直したっすよ」
 戦闘開始直後、誰よりも早く挙動したのは『No.696』暁 無黒(p3p009772)。
「可能性が少なかろうが――やる事は全部やりたいっすよね!」
 踏み込んだる歩は少なく、一定の距離を保った状態で放たれたソーンバインドが眷属の側へと這い寄るも、その茨は寸でのところで躱される。
「……私は」
 そうして、返す刀。
「私は、貴方達が望むことを、望んでない……!」
 ざらりと、少女の繊手が無数の蝿に置き換わる。
 宙を舞い、汚らわしい雨のように降り注ぐそれらに、特異運命座標らが顔を歪めるのと、
「……それでも。わりぃが、逃がしゃしねえ」
『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)が、言葉と共に銃火を上げたのは、ほぼ同時だった。
 銃技『焚付』。撃ち込むは身体ではなく、それより奥深く、心そのものにこそ。
 撃ち込まれた夜妖憑きが苦悶の表情と共に蹲る。眷属がそれに即座に気づき、声を上げようとするも……
「申し訳ないけど、一旦離れてもらうよ」
「ッ! クソ……がっ!」
 茄子子の神威は、それより早い。
 命中した対象に距離を取らせ、複数の状態異常を付与する術式は十全以上にその能力を発揮した。歪む表情、撓む身体に茄子子は、しかし何一つ表情を変えることは無い。
 初動の展開は特異運命座標らの狙い通りに運んだ。夜妖憑きと眷属の少女は互いに距離を取らされ、尚且つ合流を防ぐべく残るメンバーは両者のブロッキングへと移り始める。
 けれど、誤算が二つ。一つは彼らが懸念していた、蝿の群体によるブロッキングだ。
「……此処に住む人達に、被害が拡大しない様に。為さなきゃいけない」
 ――それが、『正しいこと』なんでしょう?
 そう、チックは呟いた。術具を手にした腕を、コンダクターのように緩やかに振れば、其処から放たれた光は自身の周囲に存在する蝿たちを瞬く間に灼いていく。
 与一もまた、同様。可能な限り多くの蝿を巻き込むようプラチナムインベルタを介して殲滅に移り、ブロックされた仲間たちの身を自由にしようとする。
 こうした対策班が講じられている分、確かに夜妖憑きが発した蝿はその本来の能力を示すことは出来てはいないが、速度差を加味すれば要所要所で行動にバラつきが出来てしまう部分は些少ながら存在する。
 最も、それらは妥協できる程度の障害でしかなかった――――――もう一つの誤算が存在しなければ。
「×××、ちゃんっ!」
「解ってるわよ、畜生が……!」
 響く声。眷属の側が小さくそれに応えれば、彼女は「後方に下がる」と共に、変異させた肉体をぶつけてメルナの周囲を蛆で満たす。
「……! これ、は」
 行動の真意に気づいたメルナだが、それに対処するよりも早く、夜妖憑きも同様に動く。
 双方が「後方に下がる」ことは、開かされた距離をさらに離すということと同義だ。そうでありながらも、二人の表情に迷いはない。
 つまり、それが第二の誤算。彼女たちは『共に』逃げる必要は無いということ。
 戦場を逃れた後合流する手段もある。何より、彼女たちは互いが互いを大切に思っている……「自らの死に付き合わせたくない」ほどには。
「さーて、どうしたもんかなあ」
 ……ブロッキングと名乗り口上の二重の足止めを介して各個撃破を狙っていた秋奈の口調は困惑そのものだ。
 それもそのはず、彼女をはじめとした特異運命座標らは今回、『戦闘による討伐を目的としていない』。
 或る程度の衰弱を狙っている以上攻勢は苛烈でも、殺害を意図していないそれらは、どうしても所々能力に寄らぬ甘さが見えてしまう。

 ――だから、チャンスは、きっと一度だけ。

 戦場から引き下がる夜妖憑きを。
 親友からの願いを、必死にかなえようとする少女を。
 エドワードの手が、確かに掴んだ。


 戦いは続く。
 蛆と蝿が飛び交い、それを灼き、或いは滅する特異運命座標らの激しい交錯音の中、少女とエドワードの空間はやけにスロウリーに時を進めていた。
「……教えたいんだ」
 何を。そう少女が問いかけるまでもなく、エドワードは言葉を綴る。
「世界には悲しいこととか、辛いことばっかじゃねぇ。
 それと同じか、それ以上に、楽しいことも嬉しいことも、この先にきっと待ってるってこと!!」
「――――――、それは」
 奇跡よ起これと、少年は叫んだ。
 それが例え、我が身をどれほど削るものであろうとも、と。
 けれど、それに、少女は。
「……そんなこと。
 私は、ずっとずっと前から、知ってたよ」
 そんな奇跡は要らないと、言外に示したのだ。
 エドワードが望んだ奇跡は、PandraPartyProjectは、それが発揮される環境に於いて発動が叶う代物だ。
 例えば此度の奇跡を叶えるには彼我の心が寄り添うことが必要になるが――それに対し、彼は「奇跡を前提とした説得」を介して少女たちに接触した。
 天命を当てにした人事に、彼女らが応えることはない。神であればそれは猶の事。
「………………っ!!」
 踏み出したエドワードの身体は、余りにも無防備だった。
 全ては、少女たちを救おうとしたが故の彼の献身。
 それを、夜妖憑きの少女は……いとも容易く、踏みにじる。
 出でる蝿。パンドラを犠牲にしてなお少年の四肢を食らう其れに、堪らず彼は膝を着く。
「……!! エドワード!」
 それに、焦燥を露わにしたのはチックだった。
 自身の役目もかなぐり捨てて、全力で友達の元に向かい、その身を抱えるチック。
 先の一撃の間に、二次行動によって距離を取った夜妖憑きの少女は……その姿を見て、瞠目した。
「……ふざけろよ」
 それは、眷属の側も同じく。
「正しさのため? 為さなきゃいけないこと?
 今そうして自分の欲得の為に動いたアンタが、どの口をしてそんなことを言えるのよ!?」
 眷属の少女が、戦う事すら止めて、大声でそう叫んだ。
 夜妖憑きの少女も、また同様に。その隙を縫って精撃以上の命中率を見せ、少女に間違い無い致命打を叩きこんだジェイクは、その姿に衝撃と苦悩の表情を浮かべた。

 ――エドワード、彼女達を救いたい気持ちは俺も変わらないさ。

「上辺の使命だの正義だので取り繕って、『その時』が来たら簡単に友達におもねるアンタと、私たちのどこが似てるって!?」

 ――だがよ、2人を野放しにする事で被害を拡散させてはいけない。こういう時だからこそ、頭を冷やす必要がある。

「一緒にすんな! 私たちは最初から私たちだけだったんだ! 本音の上に下らないお題目を被せて動くようなアンタと私たちは違う!」
 ……或いは、彼女たちが叫ぶ『上辺』を、彼に握らせてしまったのは。
「けれど、貴方達のその関係は、終わらせないといけない」
 悔恨するジェイクに気づくことなく、メルナが呟いた。
 身を食らう蛆は今も止まない。せめて痛みと恐怖だけはギフトを介して可能な限り抑え込んだ彼女へと、しかし、夜妖憑きは。
「……それなら。
 何も言わず、何も感じず、ただ、殺してくれるだけで良かったのに」
 頼りがいの無い希望を与えられた。薄っぺらな正義を語られた。
 今更、それに何を感じられよう。そう嘲った少女に、無黒は唇を噛んでそれを見守る。
 自分たちの想いが、行動が通じなくて。ならばできることは、彼女の選択を唯見届けることだけなのだと。
 ――ちらとエドワードを見遣っても、視界に映る彼は既にその意識を留めていないままだった。
「同じガッコに通う友ピとしては、さ。
 普段なら言うこと、うんうんって聞いて助けてあげるトコなんだけど」
 でも、ごめんね。と。
 そう言った秋奈は、静かに、刀を眷属の少女の首にあてた。
「……最後に、ひとつだけ聞きますが」
 問うたのは、与一。
 最早視線すら寄こすこともない彼女ら……否、眷属の少女に向けて彼女は言う。
「主である彼女が倒された後、貴方には元通りに生きる道も残されています。
『人が本当に死ぬのは忘れ去られた時』だそうですが……貴方は、彼女の為に生きる気は?」
「……冥途の土産に教えておくけどね、クソ野郎。
 それは忘れたくないほど、優しい記憶に溢れていた者同士に限って言えるのよ」
 認め合ったのは二人だけ。残るすべてに迫害され続けた記憶を、逝ってしまう側が残してほしいと叫ぶものかと、そう眷属は言った。
 緩やかに引き下がった与一。その後に残るのは、確かな終わりを示す凶器が向けられる光景だけ。
「……キミ達に、この言葉が通じるとは思えないけどさ」
 戦いが始まる前、全く同じ言葉を放った茄子子は、そうして全てが終わる直前。

 ――二人で生きる事を諦めなかったキミ達は、ちゃんと素敵だったと思うよ。

 せめて、その想いを口にした。


 手を繋いだ夢を見た。
 いつも一緒にいるあの子と、二人きりで晴れた日の校門を通る夢。
 周りには誰も居ない。私達は無人の校舎を燥いで駆け巡り、そのたびにどうでもいいことで一喜一憂する。

 ――ありがとう。

 ふと、あの子が笑顔のまま、そう呟いた。

 ――ありがとう、最期まで、最期のあとも、わたしと一緒に居てくれて。

 理不尽にさらされてきた。
 滑稽な最期を迎えた。
 それでも。その全てを経て今、私たちはこうして笑えている。
 それが、他の人にとって、どれほど哀れに映っても。
 私たちは、この瞬間、確かに幸せだった。
 確かに、幸せだったのだ。

成否

成功

MVP

チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠

状態異常

なし

あとがき

シナリオ中、少女二人の戦闘行動停止に最も貢献したチック・シュテル(p3p000932)様にMVPを。
またエドワード・S・アリゼ(p3p009403)様に称号「奇跡をうたうひと」付与致します。
ご参加、有難うございました。

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