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シナリオ詳細

<ディダスカリアの門>拝啓、不信心な大人たちへ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ああ、愛しいアシガラ。
 愛しいルゥ・ガ・ルー。
 よく来ましたね。

 勇気あるアシガラ。兄を亡くしたのは心が痛むでしょう。
 けれど、其れは貴方を成長させてくれました。
 裁判にかけるべきを人より早くみつけ、断罪する。貴方の行いをファルマコンは見ておられました。
 貴方は立派な聖銃士です。隣を御覧なさい。護るべきフローライトの友が、貴方を勇気づけてくれるでしょう。

 そしてルゥ・ガ・ルー。まるで天から遣わされたかのような子。
 貴方の周りは苦難ばかりでしたね。断罪すべき者たちが、貴方を狙って来るのだから。
 だけれども、其れは勇気ある友によって阻止されてきた。
 貴方に危害を加える者は、みな魔女である。ゆえに貴方は護られねばならないのです。
 恐れる事はありません。隣を御覧なさい。勇敢なるオニキスの友が、貴方を護ってくれます。

 貴方達の役目は、下層を見守る事です。
 アシガラの勇気は他の子どもたちを導いてくれるでしょう。
 ルゥ・ガ・ルーの存在は、真なる悪を子どもたちに教えてくれるでしょう。
 恐れる事はありません。二人とも、“鎧”は持っていますね?
 ――宜しい。
 貴方達の旅路に、ファルマコンのご加護があらん事を――



「アドラステイアの――オンネリネンの活動が活発になってきてるんだけど」
 グレモリー・グレモリー(p3n000074)は手帳を取り出し、以前も頼んだ事があったね、とページをめくった。
「肝心のアドラステイアに僕たちは余り手を付けられていない。判るのは、下層で魔女裁判だとか色々が行われている事くらいだ。なので、今回は中層に向けて本格的な潜入任務を行う事になった。僕らは攪乱……しつつの、人探しかな。そうだね?」
 グレモリーが振り返ると、其処には黒髪の少年がいた。見覚えがある者もいるだろう。――名前は「ナチ」。かつてオンネリネンを率いるリーダーとして、幻想貴族を襲った少年だ。
「アドラステイアの中層は……昔、アスピーダ・タラサって呼ばれていたんだ。マザーが昔、話してくれた事がある。多分調べれば出て来ると思う。俺達は下層にいたところを拾われて、直ぐに幻想への任務が入ったんだけど……本来なら、選ばれた子どもは中層にいって裕福に暮らすんだ。」
「うん。という訳で引っ張り出してきたよ。これが昔のアスピーダ・タラサの地図」
 グレモリーが地図を一枚机に置く。随分と古びているが、ナチ曰く「そんなに変わっていない」という。
 ナチは一点を指差した。
「此処が多分、“中層”に繋がる扉。其れ以外は封鎖されてて、下層と中層は完全に分けられてる。“通行証”がなかったら、子どもたちでも追い返されるんだ」
「――今回、通行証については別の部隊に任せてある。今回の僕らの役割は、兎に角下層をひっかきまわしつつ、アシガラ――ナチの弟を探し出す事だ」
「外で暮らしてみて判ったよ。アドラステイアは間違ってる。神様を信じる事が間違ってるんじゃなくて、なんというか……“変”なんだって、判った。そんなところに弟を置いておきたくないんだ。だから……お願いします、弟を助けて下さい!」

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 アドラステイアの中層、ファルマコン、魔女裁判、……
 あまりに歪です。


●目標
 アシガラを探し出せ


●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia


●立地
 かつて「アスピーダ・タラサ」……天義の一地方であった場所です。
 現在はアドラステイアと呼ばれるその場所の下層に向かって下さい。
 下層は文字通りのスラム街です。寝る場所があれば上々。子どもたちはキシェフのために命を奪い合う……そんな場所です。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。


●エネミー
 下層の子どもたちx???
 ???x2

 殺すか殺さないかはイレギュラーズに委ねられます。
 子どもたちはみなナイフなどの武器を持っています。其れ等は魔女裁判の際に使われるものです。
 彼らは下層に入ってきた大人を排除しようとするでしょう。
 そして其の様子を伺っている者がいます。


●アシガラについて
 黒髪
 黒い垂れ目
 気が弱い
 長柄武器の扱いが得意



 此処まで読んで下さりありがとうございました。
 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
 では、いってらっしゃい。

  • <ディダスカリアの門>拝啓、不信心な大人たちへ完了
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年01月24日 22時11分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵

リプレイ


 ――淀んだ眼をしている。
 『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)はナチの言葉を足掛かりに侵入したアドラステイアを歩く子どもたちを見て、そう思った。まるで自分たちが呼ばれた頃の天義のようだと。
「……なんだよ、ここ」
「これが、……アドラステイア」
 お兄ちゃんなら、きっとこの人のように怒ったのだろう。
 『揺らぐ青の月』メルナ(p3p002292)はカイトを見上げ、思う。思うのは昔時の兄の事ばかりだが、其れでも憐憫を感じずにはいられない。スラムもかくや、という有様だった。最早目の前すら見ていない、座り込んでいる子ども。魔女裁判にかける子どもを求めて歩き回る子ども……
「……仕事を始めましょう」
 静かに『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)が言う。子どもたちに同情している暇はなく、同情だけでは彼らは救えない。
 『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)はしかと前を向き、頷く。
「僕らの役割は陽動だったな。メルナ、カイト、ヴィリス。宜しく頼む」
「ええ、ええ。飛び切りの一幕を踊って差し上げましょう。――そうだ。アッシュちゃん、あの子を宜しくね」
 『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)が頷く。かつ、と彼女の剣の義肢が鋭く石畳を削った。黒蝶を周囲に舞わせながら、仮面越しの視線をアッシュへと向けると、アッシュは肩に乗ったネズミをつつき頷く。
「何かあったら、連絡してね?」
「そっちもね。ぼくたちはその間に、そうさく、だね」
 『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)が『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)を見上げる。同じイレギュラーズだから辛うじて彼がアーマデルだと判るが、子どもたちにはアノニマスを纏った彼が誰だか理解する事は出来ないだろう。
 ああ、とアーマデルは頷き。
「事前にナチからアシガラの似顔絵と、特徴を聞いてある。……其れを足掛かりに何とかなれば良いが」
「ホホホ。何とかなりますとも。今までも何とかしてきたのですから」
 『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)が身を屈め、朗らかに、けれどひそかに笑ってみせる。
「さあ、アシガラ少年を迎えに行きましょうぞ。スケさんは骨身を削って捜しますぞ。骨だけに」
「うん。……どっちにしたって、この場所は放っておけない。思い切り暴れよう!」
 メルナがぐっ、と拳を握った。



「大人だ! 大人だ!」
「魔女裁判にかけろ!」
 子どもたちが群がる。互いに背を預けた陽動班は個々で動きながら連携する。
 メルナが雷撃と共に大剣を叩き付ける。やせ細った子どもたちは溜まらず壁に、地面に叩き付けられて、そのままぐったりと動かなくなる。メルナが脈を確かめると、弱々しいが確かに命は繋がっていた。気を失っているだけのようだ。
「大人は殺す!」
「先生以外の大人は毒だ!」
「これは……洗脳が此処まで広がっているのか」
 シューヴェルトが呟く。彼は別の路地に山盛りのプリンを置いておいた。其れがある程度子どもたちの気を引いていると信じたいが、其れでもこの数とはと舌を巻く。子どもたちの都市。大人たちの為の都市。オンネリネンをほいほいと送り出していたのは、いわば“予備”がこれだけあるからか。
「クソ……やりにくいな」
 魔眼で暫く子どもたちを眺めたカイトだったが、洗脳の上に洗脳は効かないという事か。子どもたちの熱狂はやまない。長い間積み重なったキシェフとイコンによる洗脳は、そう簡単に上塗り出来ないのだ。
 力加減をして子どもを殴りつけ、其の動きを封じる。其れを乗り越えて、別の子どもがナイフをぎらつかせる。
 ステップを踏むヴィリスの爪先が堅い音を立てた。
「こんな所じゃ踊りを見る機会もないでしょう? パンはないし、サーカスでもないけれど……プリマはいるわ! さあ、どんどん注目なさいな!」
 寄ってらっしゃい見てらっしゃい。貴方達の見た事ないものを見せてあげる。華麗なステップと、鋭い一撃。大丈夫、ほんの少し眠るだけよ。
「子どもたち、イコルを捨てろ! マザーやファーザー、ティーチャーを信じるな!」
 シューヴェルトが声をあげるけれど、其れが通じるとは思っていない。あくまで陽動の為、子どもたちの怒りを買っている。
 思惑通り子どもたちは口々に怒りの声をあげながら、手に持った武器をシューヴェルトに向けた。其れを横合いからカイトとメルナが無力化していく。
「……」
 物陰から覗いている子どもがいる。
 手にはナイフ。あの大人たちに刺すには近付かなければいけないが、勇気を持てない。
「おい」
 大人たちの一人がこちらに気付いて、歩み寄ってきた。子どもはびくりと震えて、ナイフを取り落としてしまう。
「や、やだ!」
「……お前は……洗脳が薄いのか?」
「ぼ、僕、最近此処に来て……其れで……」
「……そうか」
 眼鏡のようなカバーをした大人が手を伸ばして来る。子どもは怯えて己の頭を庇ったけれど、大人は其の頭にそっと手を乗せただけだった。
「其処でじっとしてろ。そうしたら俺達は何もしないから」
「……え?」
 子どもが見上げた其の大人は、先生たちとは違う優しい目をしていた。



「……そうか」
 一方の捜索班。
 子どもの彷徨える霊魂と対話するアーマデルを、ヴェルミリオ、アッシュ、リュコスはそっと見ていた。アーマデルは一堂に視線を戻して、静かに頭を振る。
「アシガラらしき少年は兄弟と一緒にいるのを見たのが最後だそうだ」
「……まじょさいばんに、かけられたのかな」
「其れは……判らない。だが、此処に来るまでにアシガラらしき霊魂は見ていないな」
「生きているのが一番ですな。兄であるナチ殿を失って、どうなったかは判りませんが」
 まあナチ殿は生きているんですがな! ホホホ!
 ヴェルミリオが笑う。
「まあ冗談は此処までとして。陽動班はよく働いて下さっているようですな。お陰で捜索がやりやすいですが……」
「……陽動にアシガラが混じっている可能性もありますね」
 今残っている子どもたちは、きっと動けない子どもたちだ。其の頭髪の色を確認しながら、アッシュ達は足早にアシガラを探す。
 ヴェルミリオの視界で地形を捉え、アッシュがナビゲートする。
 イコンの呑み過ぎか、其れとも空腹か、病か。横たわって武器も握れない子どもたちは決して少なくない。そして彼ら全員を救う手を、アッシュたちは持っていない。今助けたとしても彼らの洗脳は解けず、根本的な解決にはならないだろう。
 もどかしい。悔しい。
 其れは誰もが同じだった。唇を噛むような沈黙が続く中、鼠のファミリアがヴィリスの声を届けた。
「“聞こえる!?”」
 其れは焦ったような声色だった。
「……? どうしたの」

「“聖銃士が現れたわ! ……恐らく片方はアシガラよ!”」



「下層の平和を乱す不届き者め。大人の癖に平和の尊さも知らないのか」
 そう語る男児は鎧らしい鎧を着ていなかった。胸にオニキスのペンダントを下げて、一同を睨み付ける。其れはナチの語るアシガラ――気弱でいつも兄について歩いていた――とは大きくかけ離れていた。
 其の隣には、フローライトのペンダントを下げた少女がいる。彼女を護るように、下層の子どもたちが囲む。其れこそが少女――ルゥ・ガ・ルーの能力である。彼女は生まれ付いて“守られる者”なのだ。彼女に害を為そうとしたものは全て魔女裁判に掛けられ、そうしてルゥは「魔女を見付ける慧眼」として聖銃士となった。のだろう。

 二人は鎧らしい鎧を着ていなかったが、其の雰囲気で子どもたちは中層に住まう子だと判ったのだろう。まるで忠実なる獣のように、聖銃士の為に異邦人を取り囲む。
「君がアシガラか」
 シューヴェルトが問う。そうだ、とアシガラは頷いた。
「僕は聖銃士アシガラ。そして同じく聖銃士ルゥ・ガ・ルー。この鎧が見えるだろう。君たち大人が叶う相手ではないぞ」
「……鎧?」
 其れらしきものは見えない、と、メルナは不思議そうに返す。ルゥが悲し気に、僅かに俯いた。
「そうだ、鎧だ! マザーが、先生が、僕らの為にしつらえてくれた立派な鎧だ! これを着ている限り、お前達なんかに僕らは負けない!」
 手に持っていた槍をくるくると回し、アシガラは構える。
「みんな、」
「判ってるよルゥ様。僕らがルゥ様をまもるよ!」
「ルゥ様を傷付ける奴は許さない! 其れが同じ子どもでも! 魔女裁判だ!」
「そうだ! 魔女裁判だ! 大人は悪だ!」
「悪だ! 悪だ!」
 ルゥは其れを望んでいるのだろうか。
 子どもたちはルゥを護ると意気込んで、ナイフを振り翳す。
「……くそ」
 小さくカイトが呟く。子どもたちが意気込むほど、此方が不利になる。殺したくはないからだ。傷付いて、痛みに呻いて横たわっていて欲しい。けれども彼らはルゥを守る為なら何度でも立ち上がるだろう。あるいはアシガラに鼓舞されて立ち上がるだろう。
 鍵は恐らく、他の子どもたちにはなくて二人にはあるもの。――胸元で煌めくペンダントだろう。
「鎧、ってのは、あのペンダントの事だろうな」
「ああ、恐らくそうだろう。つまりあのペンダントさえ奪ってしまえば、アシガラと少女を無力化できる可能性が高い」
 ひそ、と呟いたカイトにシューヴェルトが頷く。
 しかしペンダントを奪うには、戦いは避けられまい。伝えたか、とヴィリスへシューヴェルトが視線を送れば、プリマはこくりと頷いた。
 大人たちもまた、構え直す。捜索組が帰って来るまで持ちこたえるしかない。



「はああッ!」
 結論から言うと、ペンダントの有無にかかわらずアシガラの腕は本物だった。
 長柄の扱いはメルナが舌を巻く程。……兄を失い、縋れる腕を失って、必死に磨いたのだろうか。魔女裁判を逃れながら、罪なき子を魔女裁判にかけて。其れにはどれ程の努力が必要だったのだろう。どれ程心を削り、切り捨ててきたのだろう。
 盾を買って出たメルナを始め、陽動班は既に小さな奇跡を起こし、其れでも更に体力を削られていた。シューヴェルトが剣でアシガラの相手をするが、其れも互角。長柄の間合いから内側に入る事が出来ない。
「ルゥ様を護れ!」
「ルゥ様の為に!」
 一方、カイトとヴィリスは其れを助太刀出来ないでいた。ルゥを取り囲む子どもたちがひっきりなしにナイフや槍、時には硝子片すら武器にして襲い掛かって来るからだ。其れを振り払うのに精一杯で、アシガラにもルゥにも辿り着けない。
「ああもう! あの子たちが来てからみんな元気になっちゃって……!」
「其れが聖銃士サマの力ってやつだろう、な!」
 カイトが子どもを殴りつける。動けなくなったその子に、ヴィリスが不殺の一撃を見舞う。こうして一人一人片付けてはいるのだが、陽動班には癒し手がいない。メルナも護り手としては不十分だ。
 大人たちはじりじりと追い込まれていた。そしてアシガラの槍がついにメルナに決定打を見舞うかというところで、声がした。

「みんな~~~~~!! 護り大好きスケさんの登場ですぞ~~~!!」

 敵の目が向く。骸骨の顔に、陽気な声。ヴェルミリオだった。
 陽動班が次々と合流する。ヴェルミリオがメルナたち傷付いた陽動班を回復していく。
「な……ッ、卑怯だぞ! 増員だと!?」
「卑怯も何もあるものか。増員しても君たちの方が数では上だ」
 アーマデルが言う。リュコスは其の陰から、確かにルゥ・ガ・ルーを見た。

 ――さよならしたリルルによく似た子。
 ――悲しそうな顔をしていた子。
 ――前に会ったときは一緒に行けなかったけど……今なら



「ナチは、生きていますよ」
 アッシュが容赦なく攻勢を仕掛けながら、アシガラに声をかける。
 メルナを守って放たれた一撃を槍の柄で受けながら、アシガラは嘘だと叫びを挙げた。
「お前達は、僕らを騙そうとしているんだ!」
「生きていますよ。彼が外へ出てきた日に彼を止めました。だからよく覚えています」
「カコ少女とチョウカイ少年も生きておりますぞ! ええ、勿論!」
 子どもたちの武器を骨の体で受け止めながら、ヴェルミリオが付け足す。

 嘘だ。
 嘘だ嘘だ嘘だ。
 じゃあなんで、兄ちゃんは帰ってこないんだ。

「仮に私が嘘をついているのだとして」
 鈍ったアシガラの槍を弾きながら、アッシュは淡々と述べる。
「わたしがあなたをナチの弟だと断じるのには、其れなりの根拠があって、其れなりに彼を知っての事です。そうでなければナチは貴方の事を私たちに話したりしないでしょう。――貴方だって、本当は死んでいないと思いたいのではないですか」
「……ッ、うるさい! うるさい、うるさい!! 兄ちゃんも嫌いだ、大人なんて嫌いだ! じゃあ何で兄ちゃんは僕を置いていったんだ! 負けても良い、帰ってきて欲しかった! 何で兄ちゃんは外から帰ってこないんだよ!!」
「……此処が、おかしいから」
 ぽつり、リュコスが呟く。
「おかしいって、アシガラのお兄ちゃんは気付いたよ。アシガラはまだ気付いてないの? ……そっちの子は、もう気付いてるよね」
「……! 私、は」
 子どもたちの影に隠れていたルゥが、怯えたように身を震わせる。視線を合わせる事を赦さない、と子どもたちがリュコスに殺到する。
 アーマデルが奏でるのは、偽りの聖女と誹られた者の怨嗟。刃がきしり、と悲し気に歌って、子どもたちの行動を阻害する。
 リュコスもまた、殺さないように留意しながら子どもたちを一人一人仕留めていく。其の場に倒れる子の数が、立っている子の数に勝り、そしてやがて、其の場に立っているのは二人になった。
「さあ、あとは貴方達だけね」
「……」
「……ルゥ?」
 ルゥがそっと、前に出る。アシガラを護るように。
 幼い両腕を広げて、初めて彼女は自分から言葉を発した。
「アシガラを傷付けないで」
 其れは薫るような言の葉。魅惑の声に大人たちは従いそうになり、思わず頭を振る。これがルゥの力。“意図せず守られる力”を能動的に使うという事の恐ろしさだ。
「……アシガラ、」
 ルゥは振り返ると、アシガラが止める暇もなくぱっと彼からペンダントを奪い去った。そして、其れをあらぬ方向へ投げ捨ててしまう。
「ルゥ!? どうして! あれは大切な……」
「貴方のきょうだい以上に大切なものが、あるの?」
「……!」
 ルゥは諦めていた。
 どうやったって此処から出られる事はない。守られて、見知らぬ誰かを犠牲にして自分は生きていくのだと。
 でも、隣の少年までそうする事はないのだ。兄が外にいるのなら、彼も外に出るべきだ。ルゥは初めて、自分からそう思った。そして生まれて初めて、自分を守ってくれたこのアドラステイアに反抗した。
 ペンダントを外されたアシガラは、呆然としていた。鎧を剥がされ、自失しているかのようだった。ヴェルミリオが注意深く近付いて、其の体を抱き上げる。――軽かった。こんな軽い身体に、彼は何を背負っていたのだろう。
「取り敢えず、アシガラ少年確保は達成ですな」
「うん。……」
 リュコスが、ルゥに手を差し出す。
 ルゥは不思議そうにリュコスを見返した。
「……ルゥ。君も、ここにいるりゆうはないでしょ」
「そうよ。アシガラを“助けてくれた”貴方を置いていくなんて出来ないわ!」
 ヴィリスが頷く。かつかつと近付いて、刃の脚を振るう。
「……あ」
 ぷつり、と紐が千切れ、ルゥの鎧が道に落ちた。
「ほら、これで貴方も自由よ! 逃げましょう!」
「……」
 迷うような沈黙を落とすルゥの手を、リュコスが握る。
 他にもアーマデルが、戦闘不能になった子どもを担いでいた。一人でも多く、この蟲毒から救い出してやりたい。
「じゃあ行きましょ。じゃあね、アドラステイア……アンコールはまた今度!」
 ヴィリスが遙か遠くに見える都市に投げキスを残した。


 ――そうして、二つのペンダントが下層に残された。

成否

成功

MVP

メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた

状態異常

メルナ(p3p002292)[重傷]
太陽は墜ちた

あとがき

お疲れ様でした。
アシガラはナチを失った後、ひたすらに魔女裁判を繰り返し聖銃士へと昇り詰めました。
相対するのが彼だけだったなら、説得はもしかすると通じなかったかもしれません。
ただ、一緒にルゥがいたから――
ご参加ありがとうございました!

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