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シナリオ詳細

千年寿くとぞ渡り姫、或いは白妙の袖に遊ぶ虎落笛

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●新年、息白し
 さても気紛れに風が吹く。
 この月この日、薄はね雲も白添えて――、

 辰の刻は三つ鐘なりて雪化粧のご神域。
 『姫』が夕やけ夕日の髪揺らし朱の鳥居を見上げれば、傘木の上を悠々越えて吹く初松風――昇る空はいと青し。
 お包温石、お守りみたいに懐入れて。
 火鉢のまわりで手をかざし。
 人は地上にて身を寄せ合い、手を取り合い、言の葉交わし笑み咲かせ。
 巡る季節の中、姫が幾度となく見た風景。
 あたたかな時間。
 同じようでいて、それは同じではない。
 誰かが死んで、誰かが生まれて。巡るようでいて、「今」は過ぎ去れば戻らない。

 鳥の囀りも爽やかに、新しい年の息吹が柔らかな風になり天翔ける冬曙。しゃり、と音立てる玉砂利は柔らかな雪混じり。長い道には出店が並んで、たい焼きたこ焼き、肉うどんに林檎に苺の果実飴、綿菓子包も輪ゴムで吊られてゆらゆらと。梢に獲物を搔っ攫う烏たちと地上で愛嬌振り餌を啄むもこもこ小雀の群れ。
 道の脇で石造りの黒狛犬が見守る中を人々が挨拶を交わし、溌剌と笑顔を見せながら草履で心地よい足音を響かせて。手水舎の清冽な水はぴりりと冷たく、身も心も濯がる心地。
 朱鳥居でお辞儀してご神域に踏み入れたなら、拝殿に着くまでの列は今朝はすこし疎らに、されど明るく賑やかしく。境内の中では温かな湯気香気を立ち上らせている一角があって、ひときわ賑わう人だかりができている。
 授与所では巫女がお守りを手渡し授与の真っ最中。
 狐耳の助務巫女も幼い容姿に清楚な笑顔を咲かせ、お守りをお渡ししている。
「ちはやちゃん、交代するわ。お休みしてきてね」
「はい! 行って参ります」
 『ちはや』と呼ばれた巫女は頷いて――夕焼け夕日の狐耳をひょこりと揺らした。そして、ほんの少し、表情を曇らせた。なぜなら、虎落笛に混じって子どもが歌う声がきこえたから。

 こりゃこりゃ 旅のお姫さん
 麦わらお菊が落ちていたなら
 お拾いなすって お姫さん
 麦わらお菊がそらをみるから
 お揚げをかぞえて お姫さん
 ひと、ふた、みよに、雨が降る
 いつ、むつ、ななよ、箒が躍る
 巫女のお清め 狐々のたり――♪

「……あぅ」
 眉を下げ、耳をへたっとさせる『ちはや』。どうしたのだ、とたずねたのは、通りかかった宮司の声。いいえと首を横に振った『ちはや』の狐耳は、続く宮司の呟きを拾ってしまった。
「ああ、あの歌は『千の渡り姫』」
 『千の渡り姫』。
 それは、豊穣郷の各地にて数百年にわたって出没情報がある『渡り巫女』。
 無垢であどけない幼女の姿にて、旅をしながら禊や祓いをおこなっている様子がよく謳われる。性質は優しく善良、綺麗好き。好きな食べ物は揚げ物と桜最中。
 民草に語り継がれる噺は信ぴょう性に欠けるものも多いが、共通している点は弱き民、特に女性の味方である点だ。
 ――その耳は人々の嘆きをきき、その瞳は人の本質を見定め、その箒は死に絶えし者の魂を地縛する未練やしがらみを掃き清めるのだと伝えられる。
 ――それは、救済を齎す者。慈愛博愛に溢れてやさしき奇跡を恵む者。

 宮司がちいさく呟くのは、ほとんど無意識で、独り言のようなものだった。
「本当にいるのなら、私も助けてほしいものだね」
 彼は、ここ数日私的な問題を抱えているのだ。

(ああ……)
 ほんとうは、『千の渡り姫』は特別な能力など何も持ち合わせていないのに。
 ちはやの草履が音立てて緋袴がそっと一歩の後退に揺れて。
(わたくし、助けられる人を思い付いて――思い当ってしまって)
 ちはやは、『千の渡り姫』と呼ばれる自らの過去に刹那想いを馳せる。
 始めは、童心からの安請け合い。自分では解決できないのに、背伸びして身の丈弁えず、理想と夢だけを胸に人を助けようとして――危なっかしい『自称救世主』――幼子の勇士ごっこを当時の大人達が助けてくれていた。その時代に生きた、本物の勇士達が。
 百年が過ぎる頃には、我武者羅な勇気や情熱は薄らいで、己の無力さや現実が視えるようになっていた。けれど、無我夢中で善行を積んで得た名声、己を讃える人々の声が心地よく、望まれれば、期待されれば、応えなければと感じた。名声に傷がつかぬようそれらしき存在を演じなければと思った。そして――培った経験をもとに、その時代の勇士達の力を借りて人を助ける自分を演出したのだ。
 三百年が過ぎる頃、姫は――人々の心の中に存在する架空の存在『千の渡り姫』とその実際の姿である己を比較して、もはや心地よいとも感じず、むしろ己がひどく汚らわしく滑稽な生き物に思えてならなかった。正直なところ、育ち過ぎて独り歩きするようになったもう一人の自分がもう重荷であったし、如何にも御伽噺に出てきそうな有難みのあるキラキラとした伝承は現実の無様を知るだけに、恥ずかしいとすら感じるようになった。

 だから、ちはやは『千の渡り姫』をやめて『只のちはや』になろうと思ったのだ。
(わたくし、ただのちはやですから……ただのちはやとして、ちょっとだけ思いついた事を言ってみるだけですから)
 人を助けたいという気持ちだけは、どれだけ経っても変わらず湧き続ける。嗚呼、能力が伴っていればどれほどよかったか。ちはやが欲していたのは、一人で解決する圧倒的なちからだった。努力すれば得られると思っていた。けれど、天はそんな能力を与えなかったから、いつもちはやは人を助けようとするたびに『能力を与えられた者』を頼る。それはとても、とても――、

(『理想の自分』には、なれなかった)
 結局、彼女は選ばれなかった者。持たざる者だったのだ。

 ちはやは唇を軽く噛み、逃げるように距離を取りかけて、踏みとどまる。
「――あのう、宮司さま」
 見上げた瞳は矢張り困った色をちらつかせていたけれど、声は寄り添うような温度を保っていた。
「そ、そういえば。先日お話なされていました儀式ですけれど。神使の方に助力を請えば、解決してくださるかもしれません」
 その脳裏には、白妙姫(p3p009627)――『姉さま』の顔が過っていた。
「その……渡り姫よりも、本当に。頼れると思うんです。依頼すればいいと思うんです。きっと、力を貸してくださると、わたくしは思うのです」


●選ばれし者たち
 街中をくるりふわりと風が吹く。

 ゆらり、湯気立てあたたかな冬のギルドの中に集うのは、まさしく『当代の選ばれし者たち』、ギルド・ローレットの特異運命座標と民は呼ぶ也。

 さて、そんなギルドの内部で、情報屋の少年が依頼書の並ぶ掲示板にぺたりと依頼書を貼り付けた。given が見ていると、少年はくるりと振り返って目をキラキラさせる。
「もしやこの依頼受けてくださります? 豊穣郷は高天京、大陸奥宮神社(おおむつのみやじんじゃ)でのお仕事です」
 少年は「野火止・蜜柑です」と名前を告げると説明を始めた。
 京談混じり蜜柑が語るところによれば、いわゆる巫女さんの助務(バイト)の募集の様子。
「巫女さんの装束が支給されますんで、それ着てもろて」
 少年の声が依頼書を読む。
「んで、こっからは~、依頼人の『るう宮司』からの文、そのまま読みます。こちらのお方も旅人なんかね」

『皆様は『ぽゆぽ味(み)』という味をご存知だろうか? そう、かのウォーカー種族ぺょん人が最も好む、独特な味覚である。どれくらい独特かって言うと崩れないバベルを通しても『ぽゆぽ味』になるくらい。
 そんな珍しい味であったが故にぺょん人の私は無辜なる混沌に召喚されてこの方、なかなかぽゆぽい故郷の味に出会うことができずに悲しい思いをしていたのだが……だが! 故郷の味に再会できる見通しが立ったのだ!』
 なんと、故郷の味に再会できそうらしい。
「それはそれは、よかったのう」
 額に二つの緋角もつ白妙姫が通り過ぎて他の依頼書を取ろうと手を伸ばした時、蜜柑が続きを読んだ。
『巫女のちはやさんが白妙姫殿を特に推してくださったので、ぜひ彼女には優先して声をかけていただきたい』
「……ちはや」
 蜜柑は揉み手をして何度も頷いた。
「お知り合いで?」
 白妙姫が思い至るのは、自分を姉と呼び慕う幼い少女。
「それでは続きを読みますぅ」
 少年は(このおかた、仕事受けてくれるやろか)と縋るような目をしてへいこらと頭を下げた。
『いくつかの文献と噂話とによれば、コン=モスカ島産の木の葉にぽゆぽい儀式を施してからじっくりことこと煮ることでぽゆぽい味に至るという。私は早速木の葉を取り寄せた。あとは儀式だけなのだ。
 しかし、肝心のぽゆぽい儀式の内容がはっきりとしない。文献によれば、「ぽゆぽい儀式。それは、イレギュラーズにしかわからない儀式である。イレギュラーズを8人集めよ。イレギュラーズならば、何をするべきかわかっている。絶対。絶対だ。カシオミニを賭けてもいい。彼らに『この葉を囲んで、『ぽゆぽい儀式』ときいて思いつく事をしてくれ』と言えばなんかやってくれる。たぶん成功する」と書いてある』

 白妙姫は「なるほど、ぽゆぽい儀式。アレを披露するときが来たようじゃな」と頷いた。「そうそう!」と調子を合わせる蜜柑が周囲に視線を巡らせる――。

 ギルドに集うイレギュラーズは出身世界や国も多種多様、その文化も幅広い。周囲からは「ぽゆぽい舞を奉納しましょう」とか「俺の故郷でぽゆぽい儀式といえば蝋燭を燈して……」といった囁きが零れている。
「8人8様のぽゆぽい儀式が合わされば、そりゃもう成功しないはずもありません」
 情報屋はそう断言して、「どうかよろしゅうおたのもうします!」頭を下げたのだった。

 ひゅるりほわりと風が吹く。
 そんな新年の神社を舞台に――、
 あたらしい縁と物語のはじまり、はじまり。

GMコメント

 こんばんは、透明空気です。
 今回は、巫女さんになって儀式をしてください! というネタ寄りの依頼です。
 タイトルは病み月GMリスペクト、ぽゆぽみネタは昨年末にるうGMが「ネタを思い付いたから使っていいよ」と提供してくれました。

●成功条件
 巫女服を着てなんかいい感じに儀式をする。

●儀式について
・巫女装束は、性別種族問わず支給されます。
・PLさんは「ぽゆぽい儀式???」となっているかもしれませんが、PCさんはきっと「ぽゆぽい儀式――アレのことだな!」みたいにキュピーンとわかっているはずです。なんか不思議なパワーでイレギュラーズにはピーンキュピーンとわかっちゃってるみたいです。わかってる感じでどうかおひとつ、いい感じによろしくお願い申し上げます。
 ちなみにこのあたりの雰囲気についてpipiSDが先程記載した年末のやりとりの時に「それ難しいネタですよ https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/93 これを参考にするといいですよ」と素敵なアドバイスをくださいました。要するにこんなノリで遊びましょうっていうシナリオです。

・儀式はどんなものでもよいです。空想上の儀式でOKです。
「俺の故郷では3回まわってワンと言う儀式が超ぽゆぽい儀式なんだよ」とか「私の故郷では豆を3粒箸でつまんで隣の皿に移動させるぽゆぽい儀式が」とか思いつくままに書いてください。それぞれが書いた儀式を8つミックスしたものがぽゆぽいリプレイになって返ってきます。
・儀式は一般の参拝客が見守っています。厳かというよりは「なんかイレギュラーズがショーしてくれるぞ」「何それ見にいこ」みたいな軽いノリで。強力要請すれば、るう宮司やちはやも手伝ってくれるでしょう。

●関係者NPC
『千の渡り姫』ちはや……白妙姫(p3p009627)さんの関係者です。
 年齢不詳のちっちゃくて可愛い巫女さんです。困っている人がいると、ついつい助けたくなってしまう性分の様子。しかし、彼女本人には特別な人助けパワーはないので、事件のたびに頼れる誰かに助力を請い、間接的に人助けをしてきた過去があります。
 結果、「困ってる人を助けてくれる『千の渡り姫』」という伝承が生まれたりもしています。本人は「自分が助けたわけじゃないのに、自分に助けるちからはないのに」と気にして、正体を隠して生きるようになりました。
 今回、ちはやは現地神社で期間限定の助務(バイト)をしています。『千の渡り姫』の正体は隠しつつ「ギルドに依頼してみては」と依頼人にアドバイスをして、ギルドに依頼が届きました。
 儀式が無事終わりましたら、現地にいるちはやがぽゆぽ煮を作ってくれます。なお、ぽゆぽ煮を食べると「なるほど、これはぽゆぽい!」と思うらしいです。

●おまけ
 舞台が神社ですし、新年ですからお仕事を終えた後でお参りしたりおみくじやお守り選び、屋台巡りなどを楽しんだりもOKです。おみくじは近所の神社までGMが引きに行ってきます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 以上です。それでは、よろしくお願いいたします!

  • 千年寿くとぞ渡り姫、或いは白妙の袖に遊ぶ虎落笛完了
  • GM名透明空気
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年01月20日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
冬隣
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
隠岐奈 朝顔(p3p008750)
真意の選択
ルーキス・ファウン(p3p008870)
散華閃刀
白妙姫(p3p009627)
慈鬼
星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎
メリッサ エンフィールド(p3p010291)
純真無垢

リプレイ


 白い、雪のような紙が降る。
 春のきざしが必ずあるように、赤や緑、黄色もまじえて。
 『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)が紙吹雪を撒いている。

 ♪てってってれれてーれっれー「ぽゆぽい!」
 軽快な音楽が鳴り響く中、『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が軽快なステップでダンスしながら巫女服で見物人に手拍子を誘っている。
「ぽゆぽい! ぽゆぴょい!」
 ♪限界巫女服☆美少年「ぽゆぽい!」
 ぴょこっと虎尻尾を揺らしてひらっと袖振り、汗ばむ腹はセクシーに。蠱惑的な虎耳に両手を添えて、ハイポーズ!
「♪今日もーあーまでるー」
 保護者席でイシュミルがウードを弾く。こんな儀式は初めてDokidOkidokIdoKiX2

 赤ふん姿の『忠義の剣』ルーキス・ファウン(p3p008870)はリズムに合わせて清めの冷水を鍛え磨かれた肉体に掛けていく。お嬢様口調の『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)が蛍桂香を焚きしめ、粛々と煙にあたるルーキス。
「煙り具合はいかがですの?」
「丁度良い具合ですぽ」
「それでは、塩を振りますわ。ぽゆっ、ぽゆっ」
「食材の気持ちになってきましたぽゆ」
「仕上げに香油です、ぬりぬり擦り擦り」
「ぽゆぽい、ぴろんぽ、ぱぷぺっぽー」
 ムグリラをぽゆぽく吹き鳴らして祈るチャロロ。まるでモイモイの化身ですね、とルーキスが眩しそうな目で見つめながら巫女装束を纏っていく。このムグリラのため半虎の紙様とモイモイ噛みSummerした日々が走馬灯のように過ぎていく。ルーキスはそっと目元を指で拭った。少しぬるっとした。

「神使様! 色神様!」
「ぽゆぴょい! ぽゆぴょい!」
 歓声が沸いている。

(位置について、ですわ)
 『光華の導き手』星芒 玉兎(p3p009838)が八方に位置取る仲間達を見ている。

          ぽゆぽい
 これが、わたくしの火湯方違!

(この儀式を楽しみにしてくれている依頼主さんのためにも!)
 『幻想の冒険者』メリッサ エンフィールド(p3p010291)は勇気を胸に巫女装束でアロハする。腰を愛らしくくねらせ、波のように腕をふわふわ踊りを魅せれば幸せの色紙がおひねりみたいに降ってくる。愛を説く型でイメージするのは、コン=モスカ。お店のお手伝いをしていた時、お客さんが語った遥かな蒼穹と緑の記憶。風吹くマカニ、可愛いプア、きっとみんな幸せになれると全身であらわすアヌエヌエ。
「♪赤くかがやく 太陽に
 ♪白くきらめく 珊瑚礁」
 宮司が歌のお兄さんみたいに歌をうたっている。これは何かというとメリッサからの「音楽の演奏があったら」とオーダーがあったので宮司本人が愛情たっぷり考えてくれた歌詞です。やったね。

(今、信仰の力が高まって――)
 希紗良が胸の前でぎゅっと手を握る。ああ、年獣と戦った日が遠く近く思い出される。あの時も人が多くて、お役目を果たそうと進もうとしたのに中々先に進めなかった。
(ですが今! キサは高所を取りました。どれだけ人が多くても、キサの紙吹雪は止まりません!!)

 そんな決意の視界に藁人形が運ばれる。神妙に入場し、藁人形の前に座るのは『慈鬼』白妙姫(p3p009627)。
「ぽゆぽみ……ぽゆぽみ……」
「白妙姫様がぽゆぽっていらっしゃる!!」
 どよめく大衆。玉兎とチャロロが声を合わせる。
「「ただいまから、祈祷が始まりますわ」」
 まるで姉妹だ。

「……るう宮司様、ちはや様によるモイモイです。綺麗な水で育ったモイモイの清めを」
 チャロロに合図され、2人がモイモイを振る。

 コン=モスカの木の葉を藁人形に被せ、白妙姫が一心にnoritoを唱える。
「ぽゆぽみたまえ……ぽゆぽみたまえ……」
 巫女たちがその後ろに座り、共に祈りをささげた。
「無茶ぶりに沈もうと」巫女『真意の選択』隠岐奈 朝顔(p3p008750)が悪夢を振り払うように。
「ぽゆぽむ力を……!」巫女希紗良がぽゆ紙を撒きながら。
「俺達は知っています」香油と塩塗れの巫女ルーキスが。
「そのぽゆぽさを……」巫女玉兎が厳かに。
「儀式の道のりを……!」巫女メリッサが本当はよくわかっていないけど皆がやれって言うから。
「だから限界巫女服になっていけ……!」ぽゆぴょい巫女アーマデルが。
「ぽゆぽ煮のためにッ!」締めはお嬢様(美少年)巫女チャロロ!

 想いが溢れ、祈りが力となる――ぽゆぽ光が場に満ちる!

(けれど私は、これで終わりにしてはいけないと思うんです――)
 朝顔が立ち上がる。人魚姫の海めいた瞳は、底に深い情を揺らめかせて。巨躯少女の手は、まっすぐに差し伸べられる。それは、逃げない強さ。挑む優しさ。曝け出す純粋さ。
 夕焼けに微笑んで。
「ちはやさん、一緒に稲穂持って歩きませんか?」
 モイモイしていたちはやが、一歩踏み出した。小さな手が躊躇うように稲穂に伸びようとする。
「わたくしが、そんな大役を」
「……いやー……この儀式やるの初めてですし。1人でやるより複数人でやる方が安心するなぁって」
 稲穂を分け合い、大きな朝顔と小さなちはやが肩を並べて一緒に歩く。

 白妙姫が木の葉を手に持ち大幣のように振りかざし、唱える。
「ぽゆぽみ~ぽゆぽみ~」

 ここまでの流れを3回繰り返し、最後に「北ですわ」玉兎が柔らかに指示を出している――白妙姫の朧月夜が藁人形を一刀両断。稲穂を火にくべる。
「良い感じの火加減です」
 朝顔が笑う。こうして儀式は成功した。

「続いて芋煮、じゃないぽゆぽ煮の時間ですわ」
 玉兎が扇をぱらりと広げて司会進行役になっている。
「楽しみじゃ」
 白妙姫が期待を寄せれば、料理担当のちはやは「頑張ります」とはにかんだ。

「料理の間、わたくしから火湯方違の謎を紐解き、その神秘にお招きいたしましょう」
 拍手が満ちる。玉兎は嫋やかに微笑み、語り始めた。
「「火湯」は字面から明らかなように、「煮る」という意味。ええ、まさに「木の葉を煮る」事を示しているのです。

 そして「方違」は陰陽道に纏わる言葉の「方違え」を意味するもの。常は調理の際に出てくる言葉ではございませんが、今回は調理に儀式を要する事を考えれば不思議は無いと言うべきですわ。

 さて、本来これは忌むべき方角へ足を向ける事を避けるため、予め別の方角へ進んで一泊し、目的地への方角を変えるという一種のおまじないなのですが、この場合重要なのは「方角を変える」という発想ですわね。
 何の方角を変えるかといえば、まあ多分葉の生えていた向きとかですわね。吉兆があるのでしょう。
 しかし収穫の際に気にしていられませんから、調理の際になんとかするのですわ。

 儀式に要する神使、巫女は8人。
 これは四方に四隅を加えた八方、方角の数と同じ。偶然ではありませんわね。
 巫女1人が八方の1つをそれぞれ司るとして、皆で葉を囲んでぐるぐる回る事で方角を変えた事にするのですわ」

 流暢かつ丁寧な説明に、宮司すら感心したように手を叩く。

「最終的に葉先に吉方を司る巫女が位置すれば完了ですわね。今の吉方は……壬。ですから北の巫女が葉先に位置するように移動したのですわ」

 そうだったのか。今、全員が思いをひとつに頷いた――自分達はそんな儀式をしていたんだ、と。



 ルーキスがおみくじを引く声が響き渡る。
「ぽゆぽい、ぴろんぽ、ぱぷぺっぽー!」
 ルーキスのおみくじは吉。盤中の黒白子、一著機を先んずるを要す。先行投資が後で活き意気マッスル絶好調。
「……それは、言いながら引かないといけないものなんですか?」
 純真な問いを零しながらメリッサがおみくじを引く。
 メリッサのおみくじは大吉。
「花発きて陽台に応じ……」

「わしらの分も用意してくれたんじゃのう。うむ、煮物は皆で食べるとより美味いものじゃ!」
 白妙姫が労えば、ちはやは嬉しそうに狐耳をぴこぴこさせた。

「「――いただきます!」」

 いざ、実食。

「このためにキサは参ったでありま……こほん」
 希紗良がぽゆぽ煮に嬉しそうに眼を細め、言い繕う。
「儀式を無事に終えることが任務であります故、食事につられたわけではないでありまして」
 椀をすすると、あったか~な湯気がほんわり口元や喉を温めて。ぱくりっ。口に入れればふわっとぽゆぽさが広がる。
「あったまって良きでありますなぁ……。はぁ。ぽゆぽい」
 チャロロとメリッサも目を輝かせ。
「すごい! ほんとにぽゆぽいとしか言いようのない味だ……! まるで口の中にぽゆぽい音色が響き渡るかのような……」
「これが、ぽゆぽい……ですか」
「うむ……ぽゆぽいな、実にぽゆぽい! おなかぽゆぽゆじゃ」
 白妙姫がぽゆぽゆに目を細めれば、ちはやは嬉しそうな顔をした。
「味、ぽゆぽいですね」
「うむ」
 チャロロはこの味の可能性を探るように首を傾げた。
「このぽゆぽ煮、どうにかして保存はきかないのかな? あとは儀式を知ってるイレギュラーズを募って定期的にふるまえば他のぺょん人さんも喜んでくれるかも」

 その後は、余った時間で屋台を巡り、お参りやおみくじと全員が束の間の休息を楽しんだ。

 少年が青年に移ろう頃合いの成長を感じさせる細身が白化粧の世界に日差しを浴びて歩いている。その子をずっと見守ってきたイシュミルは白絹の髪をしゃらりと風に靡かせて淡く微笑んだ。傍らに伴う体温が興味を惹かれるのを察して、問う声は柔らかに。
「おみくじ? 面白そうだね、一緒に引いてみようか」
(今日はイシュミルがちょっと優しい……?)
「どうしたんだ、熱とかないよな?」
「測ってみる?」
 案ずる気配はわかりやすい。イシュミルは笑顔で――稀に胡散臭いと言われる――首を振った。羽ばたきの音が響く中を2人分の手が同じ箱からおみくじを引く。
 アーマデルのおみくじは、吉。平坦道を守りて当に泰に逢うべし。地道に努力をすれば運が開ける。
(……正に好し、中秋の月)
 イシュミルのおみくじも、吉。蟾蜍、皎潔の間、暗雲何れの処なるかを知らんや――万事十分にて。

 希紗良とチャロロは並んで皆の無事を祈っている。
(きな臭い事件も多いでありますが)
(いろいろ大変なことも続くけど)
「皆幸せに」
「皆、無事で」
 危険と隣り合わせの日々。厳しい戦いが続いて息をつく暇もない昨今。想わずにいられない、祈らずにいられない気持ちは、同じだった。

「わたくし――少しはお役に立てましたでしょうか」
 小さく呟くちはや。朝顔は頷いた。
 大切に何かを想って歩いて、燃えた。手から離れたそれは確かに役に立って沢山の笑顔を招いた。
「私はちはやさんは『人を見る目が良い』と思いました。だって今回の依頼を神使に頼むようにしてくれたのは貴女なんでしょう?」
 声をかけたのは、思ったから。想ったことを、伝えたいと思ったから。……何となく、自分の無力に悩んでる気がしたから。
(神使になる前の私も同じ表情をしてたから)
 赤橙の瞳が青空を見上げるみたいに朝顔を見た。
 ――誰かの目に映る自分は。
 朝顔は一緒になって見上げるみたいに空に目を逸らして、けれど視線を戻した。
「何かしらの困難を誰かが解決する力を持っていたとして。その人が困難を知らないなら、別の誰かが困難と誰かを結び付けなければ解決しないんですよ」
 声は優しく、確信をもって。
「そう、ですね」
 様子を伺えば、ちはやはどうやらその言葉を好く受け止めたようだった。
「私はその『結びつける誰か』の力を貴女は持っているんじゃないかなって思ったんです」
「『結びつける誰か』の力」
 小さな声が宝物のようにその言葉を口にする。
「なんて、素敵なお言葉でしょう」
 感謝を呟く吐息はふわりと白く空気に溶ける。
「おみくじ、引きに行きます?」
「――はい!」
 朝顔のおみくじは、吉。有達宜しく更変すべし、重山利まさに逢う。変化が開運のもと。
「ちはやさんは――」
「わたくしも吉です。春に逢うて、歩を進むべし、青霄より箭の降る……これは……まさに、今日の運勢にぴったりみたいです。それに、ちょっと朝顔様の運勢と似ていますね」


●おまけの舞台裏
 時遡り、儀式前。

「ちはやか……あの子の頼みならばしょうがないのう。どれ、吾郷に伝わるぽゆぽい儀式を披露する時が来たようじゃ」
 白妙姫が意気込んで、ルーキスが遠い目をする。
「ぽゆぽい儀式ですか? えぇ、勿論知っています。自分の住んでいた里でも伝承されていました。懐かしいですね」
「オイラの故郷で『ぽゆぽい』といえば主に音に対する言葉なんだ」
 チャロロが現れれば、仲間達は専門家が現れたような目で頼もしそうな顔をした。あのコモドドラゴンドモノコドモダッテ経験がある一目置かれるスミーノポユポマーノナレテルーノだ。心で戦えるさいつよ美少年だ。
「ぽゆぽい味か……どんなか気になるな」

「ああ、ぼんやりとしたイメージでは脳内に存在するのに具体的にうまく説明できない……くっ、すごそこまでは出てきてるんだ、ほんとだぞ」
 アーマデルは言語化に苦労していた。
「あれだ、ほら、奉納神楽的なやつというか。大事なのはノリと勢い――なんとなく動きと心をひとつにして一体感とやりとげちまった感を体験させる。そう、その「やり遂げた」感が大事だ、所謂成功体験というやつだ。「やり遂げた」「楽しかった」「来年はさらにうまくやろう」……その気持ちが信頼と信仰に繋がるのだ……って神殿の爺様が言ってた……気がする、いや、言ってた」
 謎が解けていく!
「犯人は爺様だ」
「推理物だっけ」
 イシュミルはそんな愛し子と例の巫女服に。
(そんな儀式あったっけ? いや、そういう意図の例祭はあったけど、それだっけ?)
 首を傾けながらもツッコミは心に秘めて「それより衣装の露出が問題なのでは」と優先順を定め。
「裾が短すぎない?」
「もう少しいけるのでは?」
 すす、と差し出されるもう一着。
「肌が露出しない衣装なら構わないよ」

 ――つまり、ぽゆぽいは普遍的な概念。世界の枠すら超えた知的生命体の共有意識。即ち遥か歴史と神話の彼方の楽園の記憶。

 玉兎が仲間達に知識を共有して。
「え? ぽゆぽいって神様の名前じゃないんですか? 自分の住んでいた里には、ぽゆぽい神を祀った祠がありましたよ」
 ルーキスが自分の文化とちょっと違いますね、と好奇心をのぼらせた。
「ちなみにモイモイはぽゆぽい神の従兄弟で、ムグリラを手に持つ半虎の神様だと伝わっていたんですが……国や地域ごとに色々な伝承があって興味深いですね」

「ふむ。里以外で巫女装束に身を包むことになるとは。神使の仕事は多岐にわたるでありますな」
 希紗良は白い小袖と緋袴姿に千早を羽織り、髪は高い位置で結わえているのをうなじ辺りに下げ、手には神楽鈴。いかにも清潔感のある巫女さんだ。
「キサの住まう鬼菱の里では、時折この姿で舞を奉納しているでありますよ」

  朝顔は大きめの巫女服を探しながら。
「豊穣の困り事ならば少しでも力になりたいと思い、やってきました! 私の故郷ではぽゆぽい……それは嘗て【歩癒穂医】と呼ばれていた……と。稲穂を持って、歩き続けるというシンプルなモノです。その歩きは歩く者と見る者を癒やし持っている稲穂は医者いらずの万能素材になるとか……」
 自分に合うサイズを見つけて、「ありました!」と明るい笑顔で皆に報せた。
「皆さん(男性)の分も、合いそうなのがありましたよ!」

「……って、巫女装束? また女装しなきゃいけないってこと!?」
 チャロロは経験豊富(略)茶ロ子は思い出していた。ルーキスも受け取った巫女服を広げて思わず問わずにいられない。
「これ本当に着るんですか? チャロロさんやアーマデルさんは何となくセーフな気がしますが、自分の場合ただの女装になりますよ? しかもなぜか女性陣のよりも高露出で虎耳付きですよ」
 そうは言ってもそれで救われる命があるんです。GO巫女ルーキス、YES虎猫巫女ルーキス。尻尾もあるよ。
「じゃあ着替えてきますどうなっても知らないからな!!!」
 ちなみに着替えた後一度脱ぐ。儀式の都合で。

「ちはや、おぬしも手伝え」
 白妙姫が誘うと、ちはやは一も二もなく頷いた。
「はい、姉さま」
 ぱたぱたと寄ってくる娘姿はいたいけで、瞳には親愛の情が温かく煌めいている。
「お主の祈りが木の葉に届けば、よりぽゆぽ味も増すじゃろう」
「わたくしの、祈り」
 ぽつりと呟く声は、自信なさげ。白妙姫はその頭をゆるりと撫でて微笑んだ。
「わしは巫女ではないが、お主は巫女じゃろう。そういうものじゃよ。ほほほほ」

 みなさんがカオス。そう思ったかどうかは定かではないが、この時メリッサは穢れを知らぬ純真無垢な瞳で。
「ぽゆぽい儀式……初めて聞く儀式です……」
「「えっ」」
 視線が集まった。
 円かな瞳は春空のよう。背でふわふわする羽はやわらかで、綿菓子のよう。あどけないその顔。
 ぽふ、と、白妙姫が肩に手を置く。
「言わせぬ」
 もう言われてる。
「は、い……?」
 メリッサは順に仲間の顔を視た。

 チャロロ。アーマデルとイシュミル。希紗良。朝顔。ルーキス。玉兎。
(皆さん、ぽゆぽみがわかるのですか?
 そして、私もわかっていると思って――いえ、そう振る舞えと言われています……?)
 それは、とても不思議な依頼だった――メリッサはのちに語る。


「お待たせいたしましたわ、それではぽゆぽい儀式を始めましょう」

 雪のような白が降る。希紗良は手一杯に紙を握って、人々に幸せを撒く。
 ひらり、袖を振り。はらり、紙が舞う。
「有色を手にしたものは一年幸福に過ごせると、キサの里では伝わっております」
 白の中、色付きを探す人々が上に手を伸ばして、下に視線を落として。幸せを見つけると、指でつまんで見せ合っていた。――その笑顔が遠目にもわかって、希紗良は休まず手を動かして祈るのだ。

 ――良き一年に、なりますよう。

成否

成功

MVP

星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎

状態異常

なし

あとがき

儀式お疲れ様でした、イレギュラーズの皆さん!
今回はぽゆぽみという混沌相手に魅力あふれるプレイを展開してくださり、ありがとうございました。
MVPは「そのまままるっと演説させたい」と唸らせてくれた玉兎さんに。儀式を熟知しているオーラが出ていました。
ちなみにおみくじは完全に偶然の結果です。
寒い日が続いていますが、皆さまどうぞご自愛くださいませ。

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