PandoraPartyProject

シナリオ詳細

希望のひかり

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●それは終わりかけた世界
 吐き出した息が白く凍りつく夜。
 青く冷たい月が大地を照らしていた。
 少女を囲むのは武装した騎士たちだ。
「お前が語る理想は偽りだ」
 手にした剣は少女に突きつけられ、降伏を促していた。

 ――世界は必ず救われる。
 少女は『理想』を語っていた。

 この世界は終焉を間も無く迎える。
 だって、荒廃した世界がそれを証明しているのだ。木々は枯れ、緑豊かだった大地は乾いていく。水は濁り痩せ、かつての栄華は夢の果て。
 神々がこの世界を棄てて百年が経つけれど、未だ帰還する兆しもない。人々は終焉を恐れて嘆く。

 だけど、少女――ルクスは希望を語った。
『神々は必ず帰還されます。今、神々はわたしたちに試練を与えているのです。神に手を引かれずとも、人は歩いていけるのか、と』
 神々の声を聞くルクスは奇跡の術を行使した。怪我や病を癒やし、苦労をいとわぬ献身により、彼女の言動を人々の信頼を得たのだ。
 人々はその信仰と献身ゆえに、彼女を『聖女ルクス』と呼ぶ。

 けれど、彼女を邪魔に思う者もいるのだ。
 神々が去ったのち、神が握っていた権力を手にしようと目論んだ者たちがいたのだ。
「神々は我々を見捨てたのだ。あの方こそが、我ら人類を導き、滅びの未来から救ってくださる」
 そう騎士は力説する。つまるところ『神』も『聖女』という存在も邪魔に思う勢力がいるのだ。
「さあ」
 騎士たちは少女に決断を迫った。
「偽りの希望を捨て、あの方にその身を委ねよ」
 即ち、騎士が戴く主人に服従しろと。
「絶対に嫌です!」
 けれど、少女は果敢にもその要求を跳ね除けた。
「必ず、神々は戻られます。だからわたしはあなたがたに従いません」
 ルクスは希望の光だった。
 当人は知らずとも、ある種の運命により世界を救う使命を背負っていた。滅びゆく世界でただ独り神々の声を聞く。数々の奇跡を成し遂げた今、彼女の言動に人々は希望の光を見る。
「ああなんて愚かな」
 騎士たちは呆れ、あるいは嘆きながら少女へその手を伸ばす。
 彼らの主人はルクスの身柄を欲していたのだ。
 もし本当に神々の声を聞く聖女を従えるならば、世界を統べることが出来るやもしれぬ。
 それこそ、神のかわりに。

(どうか助けてください)
 聖女と呼ばれる少女は、知らず誰かに願っていた。

●境界図書館
 境界案内人はあなたに一冊の本を差し出した。
「まあそんな世界があるんですよ。理由はわかりませんが神々が世界を去ったのは事実です。神の恩寵を失った世界は確かに滅びゆく中で、けれど、少女は神の声を聞いたのです」
 よくある話でしょうと笑って境界案内人は続けた。
「簡潔に言いますと、このルクスという少女を救って下さい。彼女を邪魔に思う人間がいて、聖女という肩書きを利用しようとしています。手段は任せます、阻止してください」
 敵である騎士たちは今回無力な少女を相手するつもりで慢心している。イレギュラーズであれば簡単に蹴散らせるだろう。
 境界案内人はそう言ってあなたに手を差し伸べた。
「一般人には十分危険な場所に送る以上、あなたの無事を祈ることしかできません」
 けれど、もしあなたが協力しても良いと考えその手を取るならば。
「どうかご無事にお帰りください」
 あなたに、無事を願う声が届くはずだ。

 全ては、あなたの意志のもとに。

NMコメント

 はじめまして、こんにちは。
 いつき、と申します。どうぞよろしくお願いします。
 皆様の旅の記録を彩ることができれば幸いです。
 リプレイは三人称視点になります。

●世界説明
 滅びかけているファンタジー世界だと思って下さい。
 神々が実在し、人々を導いたり自然に干渉していたため、彼らが『世界を棄てて』百年たった今その力の恩恵は徐々に失われいます
 何もなければ衰退し続けて滅びる世界です。

●目標
 少女・ルクスの身柄の確保です。
 騎士たちを追い払えばOKです。
 殺してしまうと彼らもメンツがあるため、暫く手を出したくなくなる程度に痛い目をみせてやる方がいいかもしれません。

●現地の状況
 現地はとある辺境の村。
 時刻は夜ですが、月の光によって皆様の視界や行動に一切支障はありません。もちろん暗がりを利用することも可能です。
 村人は聖女の指示に従って家屋に閉じこもっているため、今回触れなくても彼らに危害が及ぶことはありません。(触れていただいても構いません!)
 今まさに少女に手が伸びる、その瞬間に皆様は現れます。ある程度の場所指定も可能です。

●敵…騎士
 ファンタジー世界っぽい全身鎧と剣や槍を持っています。
 彼らは戦闘を想定していなかった(あっても一般人を想定していた)ので、わりと隙があります。

●味方…少女・ルクス
 イレギュラーズの使う『ライトヒール』と似たような神秘の力を使えます。基本的に騎士に捕まらないよう自衛に徹していますが、必要があればその力をあなたの為に使います。

●サンプルプレイング…一例です。
・俺はルクスと騎士の間に割り込んで彼女を守ります。
 なるべく殺さないように、ただし二度と手を出したくないように
「聖女に手を出すならまた痛い目を見させてやる」
 と脅して力いっぱい戦います。

・暗がりに身を潜めて弓で狙撃をします。
 場所を特定されないように移動しつつ敵を混乱の渦に叩き込みます。どこから攻撃が来るかわからない状況は、かなり怖いはず!

  • 希望のひかり完了
  • NM名いつき
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年01月13日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
チェル=ヴィオン=アストリティア(p3p005094)
カードは全てを告げる
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者

リプレイ


 ――誰か助けて。
 伸ばされた手に、ルクスは祈っていた。
 あの手はルクスの希望を手折るものだ。
 あの手に捕まれば、今度こそこの希望は潰えるだろう。
 ささやかな奇跡を起こしたとしても、神々の声を聞いたとしても、ルクス自身は彼らに抗うだけの力はなかった。
 だから。
 イレギュラーズが現れたのはまさに、ルクスにとって『奇跡』のような出来事だったのだ。


 境界図書館からその世界へ訪れたイレギュラーズの視界には、今まさに騎士の手が少女へと伸びる瞬間が映っていた。
「貴方を助けます」
 手が届く――その刹那『抱き止める白』グリーフ・ロス(p3p008615)がルクスの前に現れて魔手から庇った。
 グリーフ自身はいずれかの神の信徒ではなかったけれど、その在り方は信仰の守り手である。その決意は堅牢で、ここが境界であっても『聖女』を護る絶対の壁として立ちはだかるのだ。
 それに呼応するかのように上空から威嚇術が放たれ、騎士たちの注意が逸れる。『埋れ翼』チック・シュテル(p3p000932)は自身の術の効果を確認すると、飛翔したまま見下ろす少女に安心させるように声をかけた。
「もう、大丈夫。おれ達は……君を助けに、来たんだよ」
 絶望的な状況の中、突然現れたイレギュラーズを驚いたように見ている少女を安心させるように、穏やかな声色でチックはそう告げたのだ。
「声が、聞こえたんだ。助けを呼ぶ、君の声が。その想いは確かだと思う、から。おれは君を守るよ」
 この身にぐるぐると渦巻く気持ちが何なのか、チックにはわからない。けれど境界図書館で話を聞いた時、確かに助けになりたいと願ってここに来たのだ。
「ごきげんよう、騎士の皆様」
 少女の安全が確保されたことを確認した『カードは全てを告げる』チェル=ヴィオン=アストリティア(p3p005094)は、鋭い眼光に不敵な笑みを浮かべていた。この場に不釣り合いなほどに優雅な態度で一礼し、ひとりひとりの顔を確認するかのように、ゆっくりと見回していく。
「いやいや、一人のか弱い乙女を複数の男が寄って集っててのは、傍目からみても恥ずかしいもんだ。よりにもよって騎士道を重んじる騎士様方とは……」
 続いて『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)はその様子を見てそう嘲笑した。
「さぞかし重大な理由があろうとは思うが、一体全体どうしてこんなことになってるのか教えて欲しいもんだね」
 世界の故郷では、騎士は弱き者の守護者たれという教えがあったはずだ。異世界の、まして境界でどこまで通用するかはさておき、屈強な騎士が多勢で少女を取り囲む――その様に、果たしてどのような理由があれば許されるのだろうか、と嘲りと皮肉を込めて。
「ええわたくしも知りたいですわ」
 悲しいことに、自身を信じろと強要する者は往々にして相手から信用されていないことをチェルは知っている。
「貴公達、救世主に仕える騎士だとおっしゃいましたわね。ならばその証を見せていただけます?」
 本当に世界を救えるほどの力を持つのか。あるいは『ルクス』の持つ奇跡の力を利用したいだけの悪者なのか。それを見極める為に。
「くっ……いいからその聖女を我々に渡せ」
 チェルの求めた答えを得ることはできず、騎士の一人がグリーフが背後に護る少女を睨みつけながらそう叫んだ。月の光を受け、銀色に輝く剣が話し合いの余地がないことを告げる。
 イレギュラーズたちは依頼に応え、騎士たちは己の主人の為に、それぞれが武器を手にする。
 そうして希望という光を巡る戦いがはじまったのだ。


 騎士達は殺さない。それを意図してイレギュラーズは立ち回っていた。たった一人の少女の為に死者を出してしまえば、彼らも騎士としての立場故にそれ相応の手段をとるであろうから。
 けれど今後も、少なくとも当分聖女に手を出そうと思わせない為には少しばかり彼我の差を思い知らせなければならないのだ。
 だからチェルは生み出した光翼を羽ばたかせ、深い闇に彩られた夜を眩く照らした。光刃は騎士たちに向かい、予兆もなく放たれる衝術に近づくことすらままならない。敢えて受けた矢傷すらも、たちまち癒やしてしまう。
 グリーフもまた掲げた盾に力を込めた。自身の背後に少女を庇いながら展開した保護結界と合わせれば、その護りは並大抵のものでは突破されることがない。
 なんとか接近することに成功した騎士も、けれど自身の剣が弾かれるのを見て畏怖の表情を浮かべる。
「ひっ……」
 それは「勝てない」と思わせるチェルの狙い通りでもあった。
 騎士といえどこの境界の者ならばイレギュラーズの前では一般人とさほど変わりはない。純粋な戦力差による畏怖を覚えたとしても仕方がないことだろう。
 グリーフは、だからただ目を伏せてそれを受け入れた。元より秘宝種で純粋な人ではない、そういった視線を投げられることもあるから。グリーフにとって、そこは幾度目かの境界だった。混沌には混沌の理があるように、境界世界にもまたそれぞれの異なる理があるのだ。
 為すべきは与えられた役割のみで、世界の在り方自体に介入する余地はないと考え、境界に伺う時はそのようにグリーフ自身に命じている。そう考えなければ、世界の数だけ存在する倫理に、不条理に、グリーフ自身の『ココロ』が、染められてしまう気がするからだ。
「……今回の為すべきことが、あまり人の道を外れたモノでなくて、幸いでした」
 もしも正道から逸れるものであれば、幾ばくかの影響を受けていたかもしれない。
 掲げた盾は誰かを護る為のものなのだから。
「……君達は、一度たりとも……彼女から助けを得る、しなかった? ルクスは奇跡の術、持ってる。それでも……驕ったりせず、人々の為に、力を揮う……してたんだよね?」
 ねぇ、教えて。
 そう続けたチックの問いかけにも、騎士は誰も答えることができなかった。滅び行く世界の中で、確かに彼女の奇跡を目にした者もいるのだから。
「神が実在する世界というのは何処も大変だな」
 世界もまた虚空に白蛇の陣を描いて応戦していた。投げかけた皮肉と嘲笑は騎士たちから少しばかり怒りをかったようで、世界の狙い通りに動く彼らに思わずまた笑ってしまうのだ。
 激高した騎士の剣が世界に届く。その直前にチックが放った茨が、騎士達の身体を縛る。それでもまだ動こうとするものには、
「どうか、ご自身の掲げた夢の中で、お休みください……」
 グリーフが夢へと誘い動きを封じていく。
「――ねぇ、愚かなのは、どっちの方なの」
 残されたまだ動ける者にチックが詰め寄る。
 あの方に伝えて。いつか罰が下る日が来るよ、と。
 騎士達は、盾に阻まれ、吹き飛ばされ、イレギュラーズに近づくことすらままならない。確かに与えた傷すらたちまち癒える姿に、戦力差を理解して。
 彼らは渋々ながら敗北を認めたのだ。


 騎士たちが撤退する様を確認して、イレギュラーズは一息ついていた。
(戻ってこないのか戻ってこれないのか知らないが、神がいないだけで亡びる世界なんてある意味滑稽だな)
 神々去ったことにより衰退することも、その神威を狙って人々の間で諍いが起こることも想定していたのか世界にはわからなかったけれど、神託を覆す為に特異運命座標を召喚する『混沌』もある意味似たようなものではあるなと思った。
「まあそれはそれ、これはこれだ」
 考える必要のない事は切り捨てて為すべき事を為そうと、世界は仲間たちを癒やす術を行使した。
 いつだって人は、人の手が及ばない意思によって翻弄されるのだ。
 世界のミリアドハーモニクスを見たルクスは、それを自身の扱う『奇跡』と似たようなものだと理解したのだろう。
「皆さん、ありがとうございました」
 冷静さを取り戻した少女は、イレギュラーズへ感謝を込めて深く一礼をする。少女の吐き出す息は白く、緊張と高揚が去った今寒さが身を蝕むことに気づく。
 チックは、ルクスの背にそっとマントをかけてやる。
「……どう? 少しは寒く、なくなった?」
 できる限り穏やかに話しかければ、少女は大丈夫だと頷いた。
「ルクスさん、貴女の信仰心は尊いものですわ」
「……ルクスはもう、わかってると思う、けど。今、この世界に神様……いない。何もしなければ……世界は終わる。でも、君はそうじゃない」
 この世界にはルクスの言葉だけではなく行いを信じた人達が傍にいる。
「そうです。貴女が奇跡の力を持っている事自体、この世界の神が貴女を見捨てていない事の証左だと思います。ですからどうか、強く、生きてくださいませ」
 つらい現実が続こうとも少女が灯した希望は、人々の寄る辺となっている。今も家屋に閉じこもっていた村人達が、少女の身を案じるように顔を覗かせているのだ。
(……ふむ、嘘は平気なつもりでいましたけれど)
 チェルは知らず息を吐き出していた。
(神についての嘘、今回はさすがに後味が悪いですわね。でも、彼女が奇跡の力を持っている事には何らかの意味があると、考えたいと思っていますの)
「ルクスさんが為したいことがあるなら付き従います」
 グリーフはそう申し出る。彼女が望むならその要望に応える為に。
「すみません、それでは村の人達の様子を見に……」
 少女はそう告げると村人の元へ向かい始めた。

 彼らはきっと少女の存在に、力に救われている。
 彼女を必要とする人々はこの村の外にも、たくさんいるだろう。
「その希望を絶やさないで」
 その背中に声をかける。

 全てが終わった後。
「本当にありがとうございました!」
 ルクスと村人たちの感謝の言葉を背にイレギュラーズが帰還する直前には、もう空は白みはじめていた。
 深い闇を払う夜明けは。
 そう、この境界の未来を予感させるようだった。

成否

成功

状態異常

なし

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