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シナリオ詳細

Nacht und Nacht

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●Nacht und Nacht
 魔法使いにも派閥がある。
 例えば、『夜(ナハト)』の魔女集会。【揺り籠の魔女】ジレッタは、その一員だ。

 小鳥に姿を変えたジレッタはその日、監獄島を眺めていた。
 ピィ、ピィ、チチチ♪
 青い海を越えて、ほんの気紛れに鳥の姿で羽ばたいて。しお風に気分よくなって高くのびのびと囀れば、薔薇のコインを数えていた囚人が1人、彼女を視た。暗い色の瞳は、奥で複雑な感情が波立つみたいで、吸い込まれそうなほど底が深い。
 そこは、監獄島。ならば囚人の彼は、凶悪で危険な――、
「――……」
 逞しい腕が宙に無言で伸ばされた。無言の彼は、何かを期待するように空を見つめて表情を変えぬ銅像のようになっている。

 風を羽で叩いて、首を持ち上げてツンとして。

「――……」
 ちらりと下を見る。
 囚人は、まだ同じ姿勢でいた。
 何かを待つように。何かを試すように。静謐で、切実で、どこか必死で痛々しくて。ジレッタはふわりひらりと高度を下げた。下を向く瞳がぱちりと合えば、囚人の目が輝きを増して――腕に降りてやれば、その瞬間もう片方の手に持っていたコインが落ちて、硬質な音で空気を騒がせた。
 囚人はその瞬間とても焦った顔をして、小鳥を視た。ジレッタは澄ました顔で、この男が無礼を働けばすぐにでも魔法でお仕置きをしてやろうと思っていたものだ。だが、そんな心知らぬ男は、コインを拾う代わりにぎこちなくあたふたとパンくずを取り出して、そぉっとそぉっと小鳥の嘴に差し出して。それをジレッタがついばんでやると、嬉しそうな顔をして笑ったのだった。
「ああ、クソみてえな俺にも鳥は寄ってくるじゃねえか」
 無垢な子供みたいな笑顔で、喜んでいた。

 それから数度、ジレッタは彼の近くに飛んでいっては、独り言に耳を傾けた。彼がここに居る理由。生い立ち。罪の話。永遠にこの島から出られず、死を待つ生涯についての想い。
「死んでないだけなんだ、人が生きてるって状態は」
 男はいつも取り留めもなく、ジレッタがじっとしている時間の分だけお喋りをした。他に友達がいないのかもしれない。その肉の体に閉じ込めた人生の道のりや思いを、誰かに伝えたいのかもしれない。

 人は、自分という存在を誰かに――、
「俺さ、もうすぐ……」
 ――わかってほしかったのかもしれない。

 短い命ながら、懸命に生きる人間達を愛しく思う。
 揺り籠から墓場まで、その生命を見届ける魔女。
 ジレッタは、そんな魔女だった。


●サン・サヴォア領
 天義北方教区、サン・サヴォア領。
 多額の献金をしたことで暫定領主として慕われているたアーリア・スピリッツ(p3p004400)。
 彼女はその日、酒場に立ち寄って店主とにこやかに雑談していた。

 ――ふわり。
 風が吹きこみ、羽根が舞う。

 誰かが開けた戸の隙間からパタパタ、するり。小鳥だ。
 酒場の中に入り込んだ鳥は、アーリアの隣に着地して――女性の姿に早変わりした。

 温かみのあるアズティック・ブラウンの生地に甘やかなピンクのレースと煌めく金装飾が際立つ魔法使いのとんがり帽子。裏生地の赤が端麗な顔周りをより一層華やかに見せ、濡れ羽色の長い髪は淑やかかつ神秘的に背を覆い、露出したなだらかな肩のラインとその白さを引き立たせている。
 アクセサリーとは人体の魅力的な部位に目を惹きつけるためなのだと実感せざるを得ない魅惑の装束飾りと蠱惑的な肢体と、印象的なダイクロックアイ。ルージュに濡れた唇が笑みを象り、友好を示せばアーリアは綿菓子のようなふんわりとした微笑みを返し、彼女の名前を呼んだ。
「はぁい、ジレッタちゃん」
 呼ばれた【揺り籠の魔女】ジレッタは混沌では魔女集団『夜(ナハト)』に所属している。
「アーリアちゃん、ここにいたのね。会えてよかったわ」
 果実酒を注文し、目を細めたジレッタはちいさな声で呟いた。
「ふふっ、おーいしい♪ 今度、『夜(ナハト)』の魔女集会にこのお酒を持って行こうかしら。それは、そうとして――」
 その瞳がアーリアを見て、一瞬の思案ののちに語りだす。
「お願いしたいことがあるのよ」

 アーリアのジョッキで揺れるのは、黄金を溶かしたようなたっぷりの液体。味わいはスッキリとしてクリアー。ごくごく飲める。
「『薄荷緑の魔法使い』のテリトリーに行って、赤と緑のほろ酔い草を採取してきてほしいの」
「『薄荷緑の魔法使い』。知っているわねぇ……」
 酒場の灯りにビールがたぷたぷキラキラ輝いている。安らぎの色だ。アーリアは色を楽しむようにジョッキを揺らした。くいっ、ぐびっと飲み干せば、気分爽快!
「『夜(ナハト)』とは別の派閥の魔法使いよ。私は彼のテリトリーには近づきたくないの。個人的に私と彼は仲が悪いのよ……」
 とぷとぷと追加のビールをジョッキに注ぐ。
「そういうわけ~」
「そうなのよ~」
 カツン♪ 乾杯するみたいな音立てて。ぐびぐび、ほわ~っ。ふわふわ、酩酊感があったかい。体の内からじんわり、ぽっかぽか。幸せな感覚が世界を染めていくみたいで、楽しさが笑顔と言葉に溢れ出る。
「ふぅ~♪ ほろろい草はぁ、らににつかうのぉ~?」
「それはぁ、魔法をかけてプレゼントをつくって、私の、……な人に、あげるのよぉ」
「やだ、コイバナはじまっちゃう?」
「ううん~、お友達よぉ」

 ふわふわと続くやりとりをのちにアーリアさんが思い出したところ、「ジレッタが小鳥に変身して出会った『監獄島』のお友達にシャイネンナハトのプレゼントをしたい」という話のようだった。

GMコメント

こんにちは、透明空気です。
今回は第8回冒険でリリースされた『Night and Knight』の成功をトリガーとして発生したふわふわシナリオです。

●成功条件
・赤と緑のほろ酔い草を採取し、ジレッタに渡す。
・シークレットオプション:プレイングで特定の要素を満たすと、後日派生シナリオが出る可能性があります。

●NPC
・依頼人【揺り籠の魔女】ジレッタ
アーリア・スピリッツ(p3p004400)さんの関係者です。
魔女集団『夜(ナハト)』所属の魔女さんで、今回はお友達にプレゼントをしたいようです。

・『薄荷緑の魔法使い』
冒険『Night and Knight』に登場した魔法使い、名前は冒険成功した方だけが知っている状態です。
『夜(ナハト)』とは別の派閥に属する魔法使い。
ジレッタお姉さんいわく、「彼とは仲が悪い」らしいです。

●冒険の舞台
『薄荷緑の魔法使い』のテリトリー内の森の中
冒険成功者がパーティにいる場合は、いきなり森の中からスタートで大丈夫です。いない場合は、森を探すプレイングが必要になります。

森の中には、赤と緑のほろ酔い草が生えています。
冒険成功者がパーティにいて、かつプレイングで『薄荷緑の魔法使い』を指名する人がいた場合のみ、『薄荷緑の魔法使い』が採取場所を教えてくれます。
冒険成功者不在、指名なしの場合は、ほろ酔い草を探すプレイングが必要になります。

●ほろ酔い草
ほろ酔い草の採取場所に辿り着いたなら、いよいよ採取です。
ほろ酔い草は、特殊な性質を持っています。
1、近くに寄ると酒に酔ったみたいに酔っぱらいます(個人差あり)
2、赤いほろ酔い草に素手で触ると、外見が幼児化します。
3、緑のほろ酔い草に素手で触ると、外見が老けます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

以上です。
それでは、よろしくお願いいたします!

  • Nacht und Nacht完了
  • GM名透明空気
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年12月26日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
純白の聖乙女
マルク・シリング(p3p001309)
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
ネーヴェ(p3p007199)
うさぎのながみみ
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ

●早朝の酒場から
 ケーキを人数分、切り分けて。

「まぁ、まぁ! ジレッタちゃんがプレゼントを渡したい相手なんて、気になるわねぇ。はい、どうぞ!」
「ありがとう」
 資料の山に埋もれるマルク・シリング(p3p001309)に『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)がホットドリンクを差し入れした。
「すごい資料ねぇ。根を詰めすぎて倒れないでねぇ」
「そうだね。少し外の空気に当たってくるよ」

 入れ違いに風が吹き込んで『武の幻想種』ハンナ・シャロン(p3p007137)は精霊に微笑んだ。
「ほろ酔い草……なんて不思議な植物なのでしょう。どこまで変化するのかちょっと試してみてもよろしいでしょうか」
 同感に頷くのは、『白うさぎ』。
「わたくしも、手鏡を、持っていきます。どんな姿になるか、自分でも見てみたいです、から!」
 苺ホイップのキャンドルケーキと誕生日プレートに祝われる『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)は、20歳の誕生日がもう、すぐ。
「近くに行くと、酔ってしまうなんて、とても、とても、不思議で、楽しみです!」
 弾む気持ちが溢れて、お耳がぴこーん。みなさんと、冒険です!
 ――少しだけ早い、お酒の気分を、味わいに!

「なんだか不思議。ちょっぴり大人になったような気分を味わえるー!」
 『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)とお揃いの手袋を填めている。
「酔った状態ってどんな感じなんだろ? ちょっと怖いなぁ……稽古で頭を打たれた時と似たような感じかな?」
「サクラちゃんはほんとにサクラちゃんだなぁ」

 外に出た仲間を気遣う『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の肩を『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)が叩く。バーテンダー姿の麗人は酒場によく馴染んでいた。
「私たちが請け負った仕事は『赤と緑のほろ酔い草を採取しろ』だ。それ以上でもそれ以下でもないさ。人間関係は難しいものだし――監獄島に関する仕事は倫理を問われるものも多い」
 紅茶のカップを渡され受け取ったイズマは湯気と香気の中で頷けば、温かな声が続く。
「気を使いすぎると擦り切れてしまう。100%までは皆で頑張って、あとはやりたい人に任せるくらいでいいのさ……まぁ世間話や悩み相談なら聞いてもいいが?」
「俺はお酒はあまり飲まないし、飲んだ後は大抵すぐ寝てしまうんだ。だからちょっと……最後までやり切れるか不安なんだよ」
「なら、寝たら私が起こすさ」
「ちなみにジレッタさんは、ほろ酔い草を使ってどんなプレゼントを作るつもりなんだろう」
「秘密を共有してくれたから打ち明けよう――実は私も興味はある」

 やりとりを背に、鈴振る様な声は無邪気に陽気に張り切っている。
「とびっきりのプレゼントのために!」
「せっかくだから楽しんじゃおう!」
 スティアがサクラの手を掴み、ぐいっと上に持ち上げて。
「えーいえーい」
「おー!」
「おー、です!」

 一方、酒場の外で掌を天にむけて粉雪を鑑賞していたマルクは。
「近付くと酔ってしまうほろよい草、か……僕、あんまりお酒は強くないんだけどな……」
(あ、でもお酒を飲まずに酔うなら、気持ち悪くなったりしないのかな?)
 首を傾げ――ふと気紛れ風がその手の資料を攫い飛ばして。
「あ、いけない……!」
 追いかける先には見知った商会の印章を付けた若商人がいた。手には資料が握られている。
「シリング商会の商人?」
「この囚人リストに名があるのは……?」


●その森へ
(それにしても『薄荷緑の魔法使い』さんとジレッタちゃんが知り合いだなんて! 人の縁って、ふしぎで素敵ね!)
 森の中、斑落ちる木漏れ日に玲々とした声響く。
「薄荷緑の魔法使いさん――いえ『サタナヤ』さん!」

 アーリアが名を呼べば、幼い姿の魔法使いが嬉しそうに一行を迎え入れた。
「やあ、遊びにきてくれて嬉しいよアーリア。ぼくの新作のお菓子を召し上がれ。食べると杏花火が出て空に打ちあがるんだ」
「あらぁ。素敵なお菓子!」
 アーリアは順に仲間を紹介し――「スティアは知っているよ」サタナヤが手を振った。彼女は依頼を受けてから出発までにサタナヤと縁を結んだのだ。
「採取場所を教えてほしいのよぉ」
「うん、いいよ」
「よろしくお願いするわねぇ」
 アーリアが優艶に笑みの花を咲かせれば、サタナヤは尊き姫君に傅くように恭しく頭を垂れて「エスコートできて嬉しいな」と悪戯っぽく笑むのだった。

「サタナヤさん、ジレッタさんを知ってる?」
「あんまり仲良くないんだって?」
 道すがらスティアとサクラが問えば、先導するサタナヤはカネット壜入り鉱石液を浮遊鍋に垂らしながら頷いた。
「えっ、ジレッタは友達だよ」
 2人は顔を見合わせ、ハンナが首を傾げて会話に加わる。
「魔女様と、普段どんなお話をなさるのでしょうか」
「あまり話さないかな。彼女はぼくの招待状には応えないし、ぼくに招待状もくれない。でも、見かけるたびにぼくは彼女で遊んでいるよ。小鳥姿が可愛かったから鳥籠に入れて愛でたり、お菓子やほろ酔い草で悪戯したり揶揄ったり」
 スティアが困ったように眉を下げた。
「それ……ジレッタさんは友達だと思ってない、かも」
 スティアは乙女心を説いて「友達と遊ぶのと、友達で遊ぶのは違うよ」と言い聞かせた。少ししゅんとして「わかったよ」と素直に頷いたサタナヤは鍋の水を掬い「助言のお礼にスティア。2つめの占いを君に」と手招きした。
 スティアが鍋を覗き込む。水面には、赤い彼岸花を付けた白き精霊、己を悪の偽面で覆うような健気な魂が揺らいでいた。
「視えたかな」
「うん」
「時が経てば裏返る。誕生するのはセバストス」
 サタナヤは鍋をとぷりと混ぜた。



「さて、このあたりがほろ酔い草の群生地だよ」
「ありがとうサタナヤさん。御礼はまた、ゴブレットと――寒い冬にはうってつけの、紅茶やミルクに垂らすブランデーでも持ってくるわぁ」
「顔を見せてくれるのがなによりの喜びだよ。また会いにきておくれ」

 なるほど、赤と緑、波打つ形状の珍しい草が生えている。
(近づくだけで酔うってどういう理屈なんだろう。花粉のような何かが舞うのだろうか?)
 マスクをつけたイズマは、軍手で慎重に草を探る。いつでも寝ていいぞと言わんばかりに笑顔のモカを意識しながら。
「はい、それではやって参りました。現場です!」
 ハンナが草をマイク代わりに口元に立てている。
「目の前には赤と緑のほろ酔い草! かわいいですね!」
 採狩の魔眼には視界一杯、紅白の光が満ちた眩い世界が広がっていた。
「赤と緑の草を交互に採取すれば、見た目の年齢変化を防げるかな?」
 マルクが思案気に呟き、二色採りで確かめている。
「当たりだ。それと……ハンナさんが既に酔っているね」
「え? 何でしょうか? いいえ酔ってないですよ大丈夫です。まだほろ酔いには早いですよ!」

「必要としている方が、いるのです。少しだけ、頂戴します、ね」
 恐る恐る草に触れ、優しい手つきで採るネーヴェ。
「優しいのね」
 アーリアが微笑んだ。
「なんだか冬なのに、暖かいです、ね?」
 ネーヴェは掌を頬にあててのぼせたように吐息を零した。
 ふわふわとした淡い酩酊感。
 アーリアは長い髪をひと房つまむ。色は変わっていなかった。
「お酒も飲んでないのにこの感じ、不思議ねぇ。このほろよい草を摘んで部屋に飾っておけば、いつでもほろ酔い気分に……は危ないかしら!」

「サクラちゃんとどっちがいっぱい取れるか競争だー!」
 元気なスティアが輪郭をぶらして視えたから、サクラは目を丸くする。
「あー、スティアちゃん分身してる~。あたま良い~。それならたくさん探せるもんね~」
(……面白そうだ)
 イズマがマスクをそっとずらせば、モカが肩を揺らして見守った。
「あ……果実のような匂いがするな」
 甘い香りがふわふわとする。
「……ん、何だかふわふわしてきた……あったかい」
 くらりと感じる酩酊感は、快い。

 アーリアは慣れた様子で周囲を気遣い声をかけた。
「初めての子は特に、気を付けてねぇ」
(私はこういう感覚に慣れているけれど)
 アーリアはふらふらのサクラやスティアの仲睦まじさに目を細め、火照った頬のネーヴェに手を差し出した。
「はふ」
 ちょっぴり大人びた自分をふしぎそうに手鏡で見るネーヴェは。
「これで、どんなプレゼントを、作るのでしょう?」
 若返りの薬、変身薬――泡沫めいて浮かぶ案。万華鏡のように脳裏に展開する未来予想図。
「ん……くらっと、目が」
 ふにゃっ、へたぁっ。
「あらあら! えぇと……っ、草がないほうに行けばいいかしら?」
 ネーヴェを草が少ないほうに連れて休ませ、アーリアは冷たいお水を用意して黒の手袋を填めた手を振った。
「このあたりは草がないから、気分が悪くなった人はこっちに来てねぇ」
「くすくす、わたくし、大人の淑女です」
「ええ、素敵なレディよぉ」

 熾火に似たほてりが胸に萌すのは、理性を溶かす陽気だった。
「俺、老けたらどうなるんだろ」
 緑に触れて鏡を覗くイズマはマスクを下げ、鏡の中の紳士に首を傾げる。
「ううむ、順当って感じ?」
 顎に手を当てていると、鏡の紳士も同じポーズを取っている。幼いモカが映り込み「次はこっちだろ?」と片目を瞑って赤を差し出した。
「外見が変わるのは新鮮だな」
「くすくす……♪」
「可愛いですね」
 ネーヴェとハンナが楽しそうだ。
「少し休もうか?」
 モカが提案して、皆が水を飲む。癒しの冷たさが咽に沁みてゆく――、小イズマがくすりと笑む。
「ふふ、子供の頃を思い出すな。ちょっと恥ずかしい」
「子供時代、か」
 モカは優しい目で呟いた。ハンナは冷たい水に「可愛い」を連発するとファルカウのポーズを取った。
「歳を重ねた貫禄が出ていますか」
「そうだな、まるで大樹だ」
「可愛いですか?」
「可愛い大樹だな」
 赤いほろ酔い草が振り掛けられば、可愛い大樹がくすくす燥ぐ。
「光のシャワーですね、うふふ」

「アレ」
 サクラは赤い草のシャワーを傍目に、ほわほわと草むらを泳いでいる。
「アレなんだっけ、なんか草」
 草が脳内で生い茂り、おいしそう、と呟いて。
「どの草だっけぇ」
 その背後にはスティアが迫っていた――。
「がばぁ~っ」
「ふわぁー!」
 奇襲の体当たりに縺れるように倒れ込む2人。吐息が触れ合う距離で覗き込む大好きな目が春空みたいで、スティアは「きれい」と呟いた。
「これが酔っ払うってことなのかな?」
 手を引っ張って、立ち上がって、転んで。座り込んで一緒に笑う。
「そう! いい気持ちでしょう?」
 アーリアがにこにこしている。スティアはサクラの手を引いて「さん、にぃ、いち~」「「わぁ~い!」」「きゃっ、あらあら」せーので一緒にアーリアに飛びついた。お姉さんは楽しそうに笑って草むらにみんなで転がってくれる。
「きゃーあ!」
「っあはは!」
「やだーぁ」
 こうしてぴったりくっついたら、まるで本当の姉妹みたい――「かわいい」語彙が可愛いで染まったハンナがふわふわと加われば。
「あーりあさま! わたくしもぎゅうしていいですか?」
「いいわよぉ! いらっしゃぁい」
「ふふ、ぎゅー!」
 ネーヴェもハンナもろともに腕をまわしてアーリアに抱き着き、みみ揺らし。
「あたたかい、です! ほろよい、とても、とても、たのしいです!」
「でも、やっぱりお酒が回っていく感覚には勝てないかも?」
「お酒、飲めるようになるのがちょっぴり楽しみ」
 スティアが蕩けるように微笑んだ。
「飲めるようになる日を楽しみにしてるわぁ! 全員で飲むわよぉ!」

「――すぅ」
 イズマの寝息は規則正しい。モカはコートをかけてやり、混沌とした仲間達を鑑賞した。

「サクラちゃん! サクラちゃん! 呼んでみただけ」
「んあ~抱きつかないでスティアちゃんたおれるぅ~」
「サクラちゃん酔ってるぅ」
「え~お酒~? 飲んでないよそんなの~?」
「じゃあ、お酒あげるよお酒」
「スティアちゃんそれお酒じゃなくて草」
「私のお酒が飲めないのかー!」
 スティアが草をぐいぐいと口に近づける。
「その草を飲めって事? ハードルたかいよ~」

 仲良し2人を微笑ましく見守るアーリアは、ハンナとネーヴェに抱き着かれて――その眼がふと幹にもたれ赤と緑の草に埋もれるように座り込んでいる存在に気付いた。
「あ、ら……?」

 部分的に別の空間として切り取られたような静寂がそこにあった。
 そしてなぜか、そこだけ暗い。
 長い両脚を立てて、両腕で抱えこみ、顔を埋めて。その青年は平素と異なり、人を遠ざけるようなオーラの中にいる。蹲りぶつぶつ呟く全身からじめじめした空気を醸し出している――、
「……そうだね……」
 ――マルクだ。何か言っている。独り言だろうか。
「……も……」
 小さな声は、鬱々として――「僕も……いるよ」

「「……」」

 静寂を破ったのは、アーリアだった。面倒見がいいお姉さんである。
「ぇと……だいじょぶ?」
「僕に話しかけて……のは、……さんかな?」
「たぶん、そ、そうよぉ」
「よかった。……の呼び声じゃない……ね」
 消え入りそうな声で儚げに微哂う。酔っている。
「何か聞こえていたの……?」
「わからない。でも安心して。……僕は……拒否するよ」
 マルクはその瞬間、一見凡庸そうな見た目に秘めた意志の強さを感じさせる真摯でひたむきな眼差しを見せた。アーリアはウンウンと頷いて視線が合わない彼に調子を合わせ。
「酔ってるわねぇ」
「そうだね。華がある皆と違って、僕は地味だしね」
 優しげな瞳が滔々とアーリアの隣の茂みに語り掛けている。
「きっと僕はいつまでたってもローレットのその他大勢で、色んな出来事に埋もれてしまうんだろうな……でもね……」

 その耳には、明るい少女達の賑々しい声が届いた。
「手袋とか~邪魔だよね~!」
 スティアがぽいっと手袋を片方脱ぎ捨てれば、マルクの頭にヒットした。緑の草をぷちっとして「うーん?」と自分の頬をぺたぺたするスティアは、次いで赤い草をサクラに押し付ける。
「え~何この赤い草~」
「サクラちゃんにあげるぅ」
「あー、スティアちゃんがおっきくなったぁ~」
「えー、サクラちゃんが! サクラちゃんが!」
「わー服がぶかぶかだぁ」
「私も小さくなるもんん」
「とにかくしっかり集めないと~なにせアレだもんねアレ」

 ――きゃっきゃっ!
 溌剌とした声にマルクがしみじみと微笑する。
「パトラッシュ。皆が眩しいよ……」

「しっかり……私はパトラッシュじゃないわよぉ」
「その光のさす場所の端っこにせめて、僕の居場所を貰えたらうれしいな……地面にのの字を書けるくらいのスペースを」
 マルクは視線を彷徨わせ、眠るイズマを見つけた。
「これは……酔い潰し事件だね」
「かわいいですよ」
 ハンナは精霊達と戯れている。
「みんな、聞いてくれないか。この中に犯人がいると僕は思う」
 マルクがイズマを酔い潰した犯人捜しを始めると、スティアはとろんとした顔でマルクを指さした。
「わかったよ。マルクさんが精霊だったんだ」
「僕は精霊じゃないよ。臆病で弱い、ただの人間だ……」
 片割れのサクラはとろんとした目で「センセー」「僕はセンセーでもないよ」「私、間違えたりしないよ」「でも今確かに……」
 うっかり素手で緑の草に触れたアーリアが悲鳴をあげたのは、その時だった。
「きゃっ。み、見ないでぇ!」
 恥じらい慌てて赤い草を掻き抱き、見た目が幼くなっていく。
「あら? あらら? こ、これじゃあお酒が売ってもらえないじゃないの! サタナヤさん、助けてちょうだーい!」
 大切なぬいぐるみに縋るよう抱き着くアーリアをハンナが「可愛すぎです」とぎゅっとして。

 アンドロイドという特質もあるが普段客を遇する側のモカは、決して自分を見失うことはない。
 ゆえに、落ち着いた声は適切なタイミングで放たれた。
「皆。そろそろ帰ろう」
 とても冷静な声だった。

 モカは仲間達を草の影響が少ない方に引っ張り、気付いた。荷物に草がある限り、ほろ酔いの影響から脱せられない。
「密封袋が有効そうだな、イズマさん」
「おはよう……あれ、もう十分な量を採取できてるな? ん……うん?」
 夢うつつのイズマは袋に入った草を見て、朧な記憶を辿り――仲間に囲まれた。
「イズマさん!」
「犯人は誰?」
「え? うん? ……何?」


●「おかえりなさい」
「ただいま、ジレッタちゃん」
 酒場に戻り、アーリアがジレッタに依頼品を届けると魔女は大袈裟なほど喜んで感謝を告げた。

「サタナヤさんはジレッタちゃんと仲良くしたいみたいよぉ」
「え? よく攻撃してくるわよ。迂闊に森の上空を飛んだら捕まえられて鳥籠に入れられたり、危険な」
「たぶん、今日からは改善されるかも……?」
 労いのご馳走が注文され、一行は依頼の成功を祝い合った。

 光精霊が窓の外を示すのを視て、寄り道した仲間を出迎えにハンナが入口に向かう。

「ちなみにジレッタさんは、ほろ酔い草を使ってどんなプレゼントを作るつもりなんだ?」
 シュトーレンの一片をフォークでつつきイズマが問えば、アーリアも髪色を酒気で色づかせて話を向ける。
「そうそう。これを渡したいお相手のこと、聞かせてちょうだい。ね、どんな方なの?」

「監獄島のご友人とはどんな話をしてたんだ? 無理に聞くつもりはない、話せる範囲で構わない。ただ、貴女のご友人のことを聞いてみたいと思ってな」
「あの島には行ったことがないし、興味も湧くのよねぇ。ね、ね」
 アーリアが優しく嗾けると、ジレッタは語る――優しい目をしていて、数か月で処刑されると語った彼の話を。

 ハンナに迎えられ、マルクが商人を伴って輪に加わる。
「お待たせ。彼は、囚人の昔の仲間だそうだ」
 語る声は、勇気を振り絞る告白。
「――僕は商人になる前、彼と知り合いでした……」
 その話の後、少し考えてからジレッタは想いを告げた。
「これから、彼の助けになる薬をつくろうと思うの」


「……あの なんか 夜」
 目覚めたサクラが隣を見ると、すやすやと天使の寝息をたてるスティアがいた。
 カーテンの隙間から覗く夜天で星は瞬いて、可愛い寝言が流れる中を静かに滑り落ちたのだった。

成否

成功

MVP

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

状態異常

なし

あとがき

おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆さま。透明空気です。

依頼は成功となっております。EXプレイング含め、すべてのプレイングがとても素敵なものでした。
シークレットオプションも満たし、次へとつながることでしょう。来年続きを出せた際には、ぜひよろしくお願いいたします。
GMはPCの行動が物語を作る礎だと考えております。OP時点でのPCを取り巻く環境やNPCに「現在の状態からこの道に進ませたい」と働きかけるなんらかのプレイがあり、「そのプレイなら状況が動せる」と判定した時は、誠実にプレイを取り上げ「プレイがなければこの道には進まなかったが、プレイにより進む道が変わり、未来が変わりました」と結果をお返したい、と思います。
ネーヴェさんは、すこし早いですがお誕生日おめでとうございます。

年の瀬が迫り、今年も残りわずかとなってまいりました。どうぞ良いお年をお迎えください。

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