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シナリオ詳細

貧しい人たちのために薄いほn……ポートレートを作りたいんです!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●聖教国ネメシス
 聖教国ネメシス。
 穏やかな冬である。
 薄い雪の降り積もる薄いタイルのに、人々はそれぞれの靴跡を残していた。大きいもの、小さいもの……。
 シャイネン・ナハト(聖なる夜)の前ということで、国内はずいぶんと盛り上がっている。
 ほら、あの堅物で有名な教会ですら! 庭には色とりどりのイルミネーションを許している。雪の粒の上でハレーションを起こし、ステンドグラスと相まって、幻想的な光景を作り出している。
 けれども、光がまばゆければまばゆいほどに、影がまた色濃くなるように。
 貧困に凍える人々も、多くいるのだ。

 炊き出しの前には人々の列があった。ベーコンのかけらの浮いた薄いスープを、シスター・リリベルは熱心によそっている。礼を言って過ぎ去る人々。もう一個ちょうだい! と、無邪気に差し出す子供を慌てて引っ張る母親。
……この聖なる夜にも安心して夜を過ごせぬ人たちがいる。
 そのことを考えると、胸はひどく痛んだ。
「なんとか、もっと炊き出しの回数を増やすことはできませんか? ううん、そうでなくても。シャイネン・ナハトの時くらい、特別なごちそうをあげることはできないでしょうか」
「ええ、気持ちは分かります。シスター・リリベル。ですが、我々の懐にも、決して余裕があるわけではありません……。年を越すのが精一杯です」
 リリベルは短い髪を触った。……先日、少しでも足しになればと長い髪の毛を売ったのだが、それも一時のことだった。
「何か……何かできることはないんでしょうか……。あ、そうだ、このコートを売れば!」
「……リリベル。あなたの持っている唯一の外套でしょう? それで風邪をひいてしまっては、元も子もありません」
「うう……」
「毎日の積み重ねこそが大切ですよ。焦る必要はありません。一歩一歩、できることをしましょう」

(もっと、何か。何かできることはないのかな……)
 気落ちして買い出しから帰るリリベルである。パン屋の店主は、薄いパンを一つおまけしてくれた。
 でも、何も、売れそうなものはないのだ。
(せめて、また髪が伸びてくれたらなあ)
 ガラスに映る自分を見る。……ふと、店に貼ってあったひとつのチラシが目に入る。
「え、……聖都フォン・ルーベルグ、大バザー大会……? ……これだわ!」

●ずいぶんと発想が飛躍したな
「ばざーと本づくりを手伝ってほしいという依頼なのです!」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は冬用のもこもこ服に身を包んでいる。+羽毛なので最強である。短髪のシスター、リリベルがぱっと顔を輝かせている。
「はい、わたくし、本を作るのははじめてなのですが! 修道院のシスターたちも協力してくれるそうです。聖都フォン・ルーベルグのバザーに出たいのです」
「ふむふむ。どういうものをつくるです?」
「はい。ご活躍のイレギュラーズのみなさんの活躍とか、絵とか、文章とか、お写真とかまとめたらきっとたくさんのかたにお買い上げいただけることと思うのです。え、中身? 中身は考えてないです! きっとアイディアが思い浮かぶと思いますの。アイディアをいただけたらうれしいですわ」
「前途多難なのですね」
「あと箔押しというやつもいいですね。装丁はやっぱり正義感を出すためにホログラムみたいにしてあと、あの星型の表紙とか! 前にお見かけしたけれど素晴らしいものだと思いますの。あ、正方形裁断ってどうですか? すごく素敵ですよね。あこがれてしまいます」
「ふむふむ。それで、締切は?」
「一週間後ですわ」
 一週間後。
 あえて、シスター・リリベルを一言で言い表すなら、見通しが甘いというところだろうか。

GMコメント

クリスマスだぞ!
薄い紙でも折れば本!

●やること
・製本パート:本を作る
・イベントパート:売る

●目標
薄いほn……ポートレートを作ろう!
というタイトルですが、なんでもいいです。
フィギュアとか本とか、そういうのが多いみたいです。明らかになにかをモチーフにしたアクセサリーとか、明らかに何かを想定した香水だとかもあります。

シスター・リリベルのお手伝いでもいいですし、自分で作っても構いません。
でも一週間です。
売れるか売れないかではありません。その一冊はだれかの人生を変えるかもしれません。

●締切
なんてこった! 一週間後だ!

●場所
聖都フォン・ルーベルグ、ブリリアントホール1階
※売り上げは全額貧しい人たちの活動に寄付されます。※

基本的に和やかですが、富めるものと貧しいものを巡り言い争いをしているような参加者もあります。
また、騎士団が目を光らせています。
キワドイものには、教会の聖印(R18表記)が必要です。

え?自分の薄い本を見つけた?

●登場
シスター・リリベル
 志が高く、突っ走る傾向があります。
 放っておくと本は完成しないでしょう。
 全方位推し気味で、まだ沼にはまったことはないようです。

修道院のみなさん
 間に合いそうもないので、イレギュラーズに相談したらとアドバイスしたのが先輩シスターのようです。
 初参加のリリベルをにこにこしながら活動を見守っています。
 やたら強力なホッチキスを持っていたり、謎のスキルを持った人たちもいます。ただあまりオープンではないようです。しかしイレギュラーズのみなさんにきゃあきゃあ言っています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。ぎりぎりでの家のプリンタは信用しないでください。

  • 貧しい人たちのために薄いほn……ポートレートを作りたいんです!完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2022年01月02日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
姉ヶ崎 春樹(p3p002879)
姉ヶ崎先生
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方

リプレイ

●貧しき人々への祈りを!
「薄い本……もといポートレートを販売して孤児院への寄付金を稼ぐ、ということだな」
『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)は、『薄い本』が含むニュアンスについてはともかく――頷いた。快く協力してくれるのが、沃土の業 乙女座のゲオルグたる所以である。
「分かりました!
本を作った事はありませんが、簡単な絵なら何とかなります!」
『武の幻想種』ハンナ・シャロン(p3p007137)は、勢いよく腕をまくる。
「根本的な部分での解決には至らないだろうが
少しでも良き聖夜を過ごせるように稼ぐしかあるまい」
「とりあえず、行動あるのみだよね」
『正義の味方(自称)』皿倉 咲良(p3p009816)は、事件のニオイを嗅ぎつけてやってきた。かちかちとホッチキスを握って……。
「えっと、何をするんだっけ?」
「事情は分かったよ。でも、何故に薄い本……?」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は首をかしげる。もっともである。
「少しでも皆様に希望を届けようと思いまして。ええと、薄い本というのは……」
「いや薄い本が何かは知ってる、が作ったことはさすがにないぞ。一週間って、どうなの?」
「戯け! あと一週間でキラキラで箔押しな薄い本が出来るわけないだろう! ……いや、説教をする時間すら惜しい。すぐ作業に取り掛かるぞ!!」
『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)……稔の言葉に「えっ三日とかでできるんじゃないですか!?」と、シスターたちは慌てはじめる。当然である。
「あ、やっぱりそう……だよね?」
 と、イズマ。
「ああ。このままでは金と労力をドブに捨てることになってしまう!」

 期限は一週間。
 それで本を作れるのは、特殊な訓練を受けた人間のみだ――。
「一週間? え、そんなに余裕あんの?」
 そこへ現れた救世主こそが、『モザイクレイター』姉ヶ崎 春樹(p3p002879)。彼は特殊な訓練を積んだ側の人間だ。
「あなたは……姉ヶ崎……先生!?」
「先生!?」
 BL漫画家、姉ヶ崎はる姫。――プロ中のプロといってもいい。
 春樹は辺りをぐるりと見回すと、まず作業環境を確認する。泊まり込みスペースも万全。人手も十分。やる気もあるとみえる……。
「まあ、やるだけやってみよう。本を作るのって、楽しいからな」
 はっきりと表現したい物がある。
『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)はそういう目をしていた。きゅっとはちまきを装着して、魂を燃やしている。
「けどなあ……寄付か。ああ、いや」
 春樹が濁した言葉の意味を、『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は理解した。
(そもそも……)
 そもそも、このバザーで大きく売り上げることが可能なのか、というと……。
 このバザー、規模は悪くはない。ただ、今年は別にイベントが重なっていたりもして、運営は結構厳しい、という話もある。
 ならば、どうする?
 一人だけ売り上げるのでは意味がない。場を広げるのがいい。そうすれば長く続く、イベントになるだろうから。一回きりの善意ではなく……。
(どんな方法でこの大バザー大会を広めようかしらね……私なりに、やることがあるみたいね)
 出来ることを、出来る人が。
 やりたいことを、やりたい人が。

●心のままに書き/描き綴れ
「とはいえ、本を作るとかあんまりやったことないからなぁ」
 うーん、と悩む咲良。
「お手伝い、といきたいところなんだけど。ねえ、何を書くの?」
 いざ聞くと、あれもやりたいこれもやりたいと言っていたリリベルがおとなしくなる。
「書きたいモノを書くのが一番の原動力だな」
 春樹の言葉に従って辺りを見回すと、すぐに製作に取りかかるふたりが目に入る。
「ああ、俺が書きたいのは、『精霊やぎさん』だ」
 ウェールは、どうやら童話調の話を書くようだった。その巨体に似合わず小さなペンを操る姿はなんとも可愛らしい。しかし、瞳は非常に真剣だ。
 それは、宛名の無い手紙を運ぶ精霊やぎさんの冒険譚。
 ひどくおぼろげな世界の中で、メッセンジャーとして奮い立った精霊さんのおはなしだ。幾多の妨害をくぐり抜けて……。
「ああ。いや、理弦……これじゃあ可愛さを表現できていないな」
「私が作るのはふわもこアニマル達によるもふもふピンナップ集だ」
 ぽふん。
 ゲオルグがくるりと魔方陣を描くと、ぽこぽことふわもこ羊のジークが出現した。これだ、と何か天啓を得たらしいウェールの筆が勢いよく走り始める。
「これがジークだ。そしてこっちは、にゃんたま」
 あまりのかわいらしさに、言葉を失うシスターたち。おそるおそる手を差し伸べてみると。
 もっちりやわらかまんまるマシュマロボディが手のひらに重みを伝える。
「ビッグイノセントヒヨコ」
 ふわっふわでやわらかな毛並みのヒヨコである。
「はわわわわ」
「そんな可愛らしいふわもこアニマル達の織りなす日常の一コマを切り取った、もふもふ好きには堪らない一冊にしたい」
 ゲオルグの脳裏には、見ていると自然と光景が浮かんでくる。いろいろなポーズをとって、それからくるくると回ってダンスして、……疲れ果て、ビッグイノセントヒヨコのやわらかでふわっふわのお腹に埋もれて眠るふわもこアニマル達。
「!」
 これだ、これこそが書きたいモノだ。

 これは祈りだ。そうあれば良いという願い。
 一筆一筆に思いを込めて……。
 あの小さな奇跡は、きっといろいろな人たちの思いが積み重なってできている。とても優しい何かを、信じたいと思うから。
 ゲオルグとウェールには、理想が見えているようである。
 あんな風には書けないかもしれない……。けれど、書きたい。その気持ちはあった。

「何を作るのか決まらない時はネタ出しというものからですね」
 と、ハンナがふわりと微笑んだ。
「みなさんのかっこよさを書いてみたいんですけれど……」
「イレギュラーズの活動はネタになりそうだ。幽霊と運動会したって話はどうだ?」
「ええ、幽霊と……? ホラーモノ、ですか」
 イズマは頷いて、語る代わりに運動会のファンファーレを鳴らした。どこか愉快でおかしみのある曲。意図を理解してぱあと表情は明るくなる。
「そう。ハチャメチャで楽しかったし、最後は幽霊も満足して成仏したというハッピーエンドだ」
「イレギュラーズの格好いい活躍も素晴らしいですが、身近に感じてもらえる意外な一面というか、面白いエピソード等を紹介するのも良さそうかなと思います」
 ハンナが、リリベルに助け船を出す。
「紹介、ですか……」
「おすすめは漫画だな」
「漫画……っ!? 書けるでしょうか?」
「書けるさ、その気があればな」
 Tricky・Starsが触れた武器は、雄弁にそのストーリーを語り出す。込められた思いはアレンジされ、一つのストーリーを語る。
「ああ、それなら、きっと、こんな音だね」
 ふと、手を止めたイズマが音楽を添える。
 それはときに、救えなかったものの話で、倒しきれなかった悪の話。あるいは勇ましく戦って散った英雄の話。
 そんな、こうだったらいいのに。
(それをそのまま書くことも出来る。理想の結末を描き出すことも出来る)
「ここで、私はこう思ったんですけど、……これ、もしかしてプロットですか?」
「そうなるな」
 と、頷く稔。
 そしてふと思う。
(この戯曲もまあ、薄い本であるのではないか?)
 虚構と、真実と。理想を混ぜて……。
「どうですか? 心は決まりましたか?」
「どっちも出したい!」
「あっこら、一週間しかないのに」
「完成するモノも完成せんぞ」
 稔とイズマが忠言をする。
「いいかい、1時間に1ページ書けるとしてもそれを10時間やったからといって10ページになるというわけではないんだ」
「えっ……!?」
「算数からか?」
 呆れる稔。
……書きたい、というのは悪いことじゃない。だが、メリハリが必要だ。もう一人のシスターがおずおずと手を挙げる。
「すごく、なんていうかとてもすごく光景が浮かんできて……書きたいんです……」
「よし、サポートする」

「手伝いと言っても口出しをするのは下準備までだ」
 稔と虚は客観的にコレは絶対無理だな、というものを排除する。「ここを超えればなんとかなる」という状態に分担を割り振る。それを、イズマが並べていった。
(メインはこれ。計画立てて進め、意地でも〆切には間に合わせる……!)
 まずは、考えて進める必要があるプロットや下書きを先に進めてもらうのだ。
「う、うう。このお話面白いんですか!?」
「……修正は後回しだ。先に進め、正気に戻るな。貴女の描くものは絶対に面白い! 俺も楽しみにしてる!」
 それは、創作をするモノへのエールだ。
「さあ、一週間しかありません。とにかくペンを動かしましょう! 全力で制作を支えますね! 背景とかモブとかはお任せください!」
「……文化祭の準備してるみたいでなんか楽しいね!」
 咲良はぱっちんぱっちんとホッチキスを揺らす。

「ほい」
「姉ヶ崎先生、この紙は?」
「ああ。今から印刷所を探すのは大変だろうから、納期に間に合う範囲で作れる本の見本誌を持参してきたぜ」
「こ、これとかこれもできるんですか!? これも!?」
「ああ」
 漫画家の戦略眼はゆとりをもったプロットを引いている。
「ウェールさん、ゲオルグさん、正方形加工とかどう? 絵本っぽくなるんじゃないかな?」
「なるほどな……この紙の、しっとりした質感……キャンバス地のような風合い。ジーク、気に入ったのか?」
「遊び紙……か。目の色と合わせて……」

「え? きわどい写真なら売れるかも?」
 咲良はまあ人助けならいいか、と即座に割り切った。
「ふっふ、シスターさんたちから褒められると嬉しいなぁ。
こうか? それともこうか?!」
 唐突に始まるポージング練習。「はうわ~!」という喜びの声を上げるシスターに即座に「手を動かせ」と進言する稔。
「それにしても、咲良たんがモデルになってくれるおかげで捗るわ~!
女性らしいポーズって、毎回苦戦するんだよなぁ」
 春樹の手元には製作を手伝いつつも、それなりの厚さのコピ本が出来ている。これが息抜きらしい。
「このポーズが欲しいんだけど、二人要るなあ」
「はい、私が」
 と、ハンナが進み出る。
「もっと体重かけてもオッケー!」
「こ、こうですか?」
 ハンナと咲良は二人で決めポーズをとった。重心がしんどいフィクションポーズも、おそろしく器用にこなす。
「うわあ、映える……見えてきた。見えてきた」
『この構図はなかなかいいんじゃないか?』
「だがこう左右をそろえればこっちの側が未来、そっち側が過去という示唆になるな……」
 Tricky・Starsはかなり考察しがいがあるような要素を仕込んでくる。
「でも、セリフの流れが止まってしまいますね」
「ほう……いいんじゃないか? なら、こうだ」
 ラフを切り直す春樹。

「ところで」
 ひたすらに魂を打ち込んでいたウェールが顔を上げる。
「サークルカットやポスターは用意してあるのか?」
「え?」
 駄目そうだ。
「あー、大丈夫、こうやって決めゴマをこう。あと、あらかじめ大きめに頼んでおいたから」
 春樹がちゃきちゃきと準備をしていた。
「値段は考えてるのか?」
「なんかもう買って貰えるだけ、ただでも良くないですか?」
「ちょっと。目的!」
「あ、そうでした。……ハンナ様、それは?」
「私の兄です」
「え」
 ハンナが描いていたのは、美しい幻想の光景に佇む兄の姿。兄というからには青年を思い描いていたのだが、10代後半の少年に見える。あまりのギャップに胸をつかれた。
「兄?」
「ページ数が物足りない時にはこの絵を足しにしていただければと思います!」
「兄……」
「あ、ミスプリントが」
「ください」
「シスター?」

●修羅場という名の一つの山
 製作が6日目にさしかかる。
「大丈夫です! まだ立ち上がれます!」
 ハンナがガタッと立ち上がる。
「おつかれさま」
 イナリがやってきた。
「あ、イナリさん。順調ですか?」
「まあね。まだ準備中ね? ここのポップはこうして……こうね。それから……」
 イナリのアドバイスが加わり、作品はよりブラッシュアップされていく。宣伝もまた戦略のひとつだ。
 欲しい資料が即座に出てくる。
「最強……最強だわ~この環境」
「力になれたら嬉しいわ。時間が合ったら作ってみるのもよかったんだけど」
「あ、なら。ゲスト原稿、どう?」
「それもいいかもね」
「稔たんたちの戯曲もいいよなあ」

「寝るな、寝たら完成しないぞ」
『まあ、このくらいの余裕はあるぜ。一〇分な』
 稔と虚。飴と鞭という……わけでもなく鞭を振るったからこそのゆとりである。
「そう、ですね、あとすこしですから……」
 そう。
 ほぼ全て完成しているのだ。
 正確な進行と采配により、残っているのは、文字入れや加工等の単純作業だけだ。
 ゴールはここではないのだ。イナリの手によって、洗濯物なんかが干されている。洗剤のにおいだ……。

「はい! 差し入れのエナドリとお夜食だよ!」
「あ、咲良さん。個包装……助かる。ありがとう。これなら汚れないね」
「あとこれは、ええと。目を温めるタイプのアイマスクだね」
「あたたまりますね……」
 ふうと一息をつくハンナ。
 咲良の正確無比のホッチキス留めが、怒濤のごとく本を築き上げていく。
「ああ、どうしましょう。このページ、ページがかすれてしまっています」
「ん、ちょっとまってて」
 と、ひとっ走り……。
「よし、ここまで来れば。リリベルさんは指示を出してくれ。塗りつぶすとか加工なら俺でもやれる」
 イズマは、仕上げの局面に来てその真価を発揮していた。印刷したときにかわる色合いもまた、地道に調整を重ねていく。
「ベタ塗りとかほわいと? は、任せておけ」
「稔様は」
「寝ている暇などあるものか。一度作ると決めたなら最後まで向き合うのが作家というもの。魂を削って作り上げた作品でなければ客の共感を生むことは不可能だ!! 恥を捨てろ邪念を捨てろ! 手を止めるな妥協を許すな!」

 終わった。
 終わるのだ。
 朝日がうっすらと差している。
「これで、ゴールなんですね」
「何を言うか。まだ販売があるだろうが」
 白目を剥いている稔。

「うん、うん。問題ないね」
 春樹はぺらぺらとめくり、最終チェックを行う。聖印はばっちり。全年齢向けの加護を得て、モザイクはしっかりと。注意書きなどもぬかりない。
(頑張って作ったんだ、売れなかったら悲しいもんな」
 平然とした顔で戦場に立ち続ける先生の横顔を朝日が照らしていた。
「いよいよだな!」
『イレギュラーズお手伝い中!』というポップとともに、カソック姿のウェールが現れる。ギャップにやられたシスターが無配を刷りはじめた。元気なものである。

●来たる日
「よし」
 ウェールはばさりと机に布を敷いた。こうすることによって、スペースが殺風景に見えない。
 ポスターも用意してある。作ったお品書きを貼る。成人指定のものには、きちんと聖印をつけてある。
「これがコインケースと、寄付金を入れる箱だな」
「よし! ばっちこい!」
 咲良の声は良く通る。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい! みんなで一生懸命に作りました!
どこかあなたの心に引っかかる作品ばかりです! ぜひ見ていってくださーい!」
 サンタ服を着た咲良の姿。わぁ、と人々が集まってくる。
「大丈夫。あれだけ一生懸命作ったんだから! これが、答えだろ」
 疲れた表情ながら、虚がシスターを励ました。
「あれ? あそこ、なんか喧嘩してる?
こらー! こういうイベント位喧嘩しないの!」
 騒ぎを見つけては、咲良が素早く仲裁をする。
「出展者である以上、お金持ちでも貧しくても関係ないでしょ! めっ!」
 それにしても、人が多い。
「なんか、いつもより、過ごしやすいなあ」
 バザーの宣伝方法、店の配置、人の動線。それが、いつもとは違う。
「どう? 楽しんでる?」
 それは、イナリの采配だった。
 このバザーは大いなる意義があるのだと説き、会場を広げ、動線を確保して……。
「会場内BGM?」
「そう。まかせられる?」
「生演奏、でいいのかい」
 イズマがゆっくりと音楽を奏でる。
「え、何? 何?」
 イズマの『響音変転』が響き渡った。自在に音楽を奏でる。シャイネンナハトらしい楽曲だ。
(このお金も修道院の運営に役立ててもらおう)

「あああああ姉ヶ崎先生ぇえええ……!?」
「売上はそのまま寄付してくれ。あ、スケブもOKだ」
 迷惑にならないように、壁際の席に配置されていた。イナリの判断だ。もはやブースは盛況という言葉ですまされないほどの賑わいだ。
「よろしくお願いします!」
 ハンナのシスター服とウェールのカソックが、天義なのでそれはもう普通みたいなものだがすさまじいハーモニーを呈しており、客が足を止める。そしてふわもこジークの絵本に涙する。
「寒い中ありがとうございます
貴方のおかげで皆さんの生活があたたかくなります」
 ウェールのぎゅっと肉球で包み込むような握手……。そこで、また騒ぎだ。
 ハンナが立ち上がった。
「どうしたんですか?」
「聖印が甘いんだよ!」
「コッチはこの日のためになあ!」
「ああ、ほら、表記はちゃんとするっていってるよ。後から上にはるだけでもいいんだろ?」
 と、春樹は免罪符を貼る。
(こういう時に大事なのは事前の根回しだからな)
 通路の一角に、ふわふわした一群がある。にゃんたまとジークがぽてぽてとかわいらしく看板を持っている。
「お買い上げ、ありがとう」
 にゃんたまの肉球でスタンプを押す。かわいさに息を詰めて感涙するものもいた。
「正しく世界に一冊だけの本になるな」
「う。ふいっ……ぐすっ……」
 隣では、ウェールの絵本を手に取った男が号泣している。

『ある所に精霊のしろやぎさんがいました
しろやぎさんの主食は宛名の無い手紙です
宛名が無いからきっと食べてもいい奴めぇーと
読んで宛名が無いか確認した後もぐもぐします
ある日森に置かれてた手紙を拾い
いつも通り宛名が無いか確認しました
親から子への手紙でした
難しい言葉は分からないけど
あたたかくて泣きたい初めての何かが溢れました
しろやぎさんは決意します
この手紙を届けようと』
「俺、良い人になります」

●これからも、これからも
「そうだ、リリベルさん。他の出店者を見て回らないか?
せっかくのバザーだ、楽しんだ方がいい」
「そうですね。みなさんの本もあるかも」
「……え、俺をネタに?
いや、無いだろう。
天義じゃそんなに知られてないし、撮影や録音はされないはずだし……」
 と、イズマがいったものの、である。仕事を手伝っていたシスターが明らかにイズマだろ、というギリギリの本を配っていた。いや、それはどうなんだよ。タイトルは『蒼き音の貴公子』。
「な、なんか恥ずかしいというかむず痒い……!」
 ハンナの兄っぽい人物の無配もあった。

 来年も、寄付活動を含めてバザーは行われるということだ。
「楽しかったです! 調子に乗って作ったら、全部売り切れなかった、ですけれど」
「ああ、それはな。多めに刷ったんだ。うちのギルドで委託販売も出来ると思うぜ!」
「先生……!」
 また、本が欲しいです。
 と言われてしまえば、春樹は仕事を終えたのだと確信できる。

成否

成功

MVP

姉ヶ崎 春樹(p3p002879)
姉ヶ崎先生

状態異常

なし

あとがき

新刊全部ください!!!!!!!!

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