PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<濃々淡々>遊色のロールフィルム

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「映画に興味はありませんか?」
 少女らしきよく通る声が、街に響いた。行き交う人々はまるで少女がいないかのように、見向きもせずに歩みを止めない。
 其れは勿論絢もそうで、特に見たい映画もないからと素通りをするつもりだった。
 少女は気にしていないのだろう。薄い唇を再び開き、また告げるのだ。
「映画に興味はありませんか?」
 また、誰もが無視をする。
 此処でふと抱いた違和感。普通ならば、誰かは噂をしたり、少女の方に向かうのではないだろうか?
 どこか不自然だ。どうしたものか、と少女の方を向けば、少女は最初から此方だけを向いていたようで、何故だか悪いような気がした。
「映画に興味はありませんか?」
 恐らくは、最初から絢に言われていたのだろう。
 しぶしぶ近寄りその言葉に頷けば、少女は笑みを浮かべ、絢にチケットを押し付けた。
 六枚のチケット。嗚呼、そんなに沢山はいらないのに!
「此処に来てくださいね。皆で待っていますからね」
 念を押すように笑った少女。
 ちょっと待って、と手を伸ばすも、少女はひらりと人混みを掻き分け、あっという間にどこかへと消えてしまった。
 皆って誰だろう? そもそも、彼女と面識はない筈だけれど。
 偶然か必然か、依頼も用事もないので、顔見知りの仲間たちとチケットの端に書いてある住所へと向かってみることにした絢。
 其の映画館は街外れにあるようだった。

 其処は古びた小さな映画館であった。
 ギィ、と傾いた扉を開けてみる。
 埃被った其処は、恐らくはもう何年も前に封鎖されていたのだろう。
 人が通った跡といえば、スプレー缶の落書きや壊された椅子だけ。見るも無惨な状態に、住所が間違っていたのではないかとチケットを見直してみるが、どうやらそんなことはないらしい。
 一先ずは帰ろうとする。が、入り口にあった筈の扉がない。

 ――カタカタと、映写機が動く音がする。

「――まもなく、3番シアタアで『   』の上映を開始いたします」

 あの少女の声がどこからか響いた。
 けれど、3番シアターなんてどこにあっただろう。そんなに広い映画館ではなかった筈なのに。
 ふと後ろを振り替えれば、先程までのおんぼろ劇場の姿はどこへやら、賑わう人々の姿が一面に広がっていた。
 ちか、ちか、と点滅する3番シアターの古風なランプ。
 ……行ってみるしか、ないのだろう。
 どうやら敵対はされていないようだが、帰すつもりもないらしい。
 相変わらず扉はないし、点滅するランプが急かすように光をつけては消して。
 しぶしぶシアターへと足を進めた絢は、3番シアターの、ちょうど空いている席に腰掛ける。
 ブー、と聞き慣れたブザー音が響いた。直後、目の前のスクリーンが眩しく輝いた。

 ――目を開ける。
 其処は、絢が此れ迄に刻んできた足跡――つまり、記憶の中。
 不思議な映画の上映が、今、始まろうとしている。


「と、いうことがあってね」
 絢はチケットを翳して笑った。
 夢を見ているようだったと呟いて。
「此れ迄の戦いとか、冒険とか。そういったものが見える映画館のようなんだ。だから、振り返りたいものがあれば、行ってみるといい」
 はい、と手渡されたチケット。ほのかに煌めいたそれは、まだ見ぬ冒険の予感を匂わせた。

NMコメント

 どうも、染です。
 たまには足跡を振り返りませんか。

●依頼内容
 チケットの使用

 絢に手渡されたチケット、つまりは映画館に行ってみましょう。
 その映画館では一風変わった映画が見られるようですよ。

●映画館
 廃墟です。
 が、皆さんが到着した頃には嘗ての賑わいを見せるでしょう。

 皆さんがこれまでに混沌で紡いだ冒険をもう一度行うことができます。
 たとえば、あの戦いをもう一度外から見てみたい。
 あのお菓子のお店にもう一度行きたい!
 などなど、
 ・もう一度『体験』してみる
 ・もう一度『第三者』として、過去を見る
 ことができます。
 これは実際にシナリオやSSになっているものでも、皆さんの明かされていない設定でも大丈夫です。
 ただし再体験したからといって混沌の歴史には何の影響もありません。つまり幻覚や夢のようなものです。
 過去やメインストーリーに変化がなされることはありませんので、ご注意ください。

●世界観
 和風世界『濃々淡々』。

 色彩やかで、四季折々の自然や街並みの美しい世界。
 また、ヒトと妖の住まう和の世界でもあります。
 軍隊がこの世界の統制を行っており、悪しきものは退治したり、困りごとを解決するのもその軍隊のようです。
 中心にそびえる大きな桜の木がシンボルであり神様的存在です。
(大まかには、明治時代の日本を想定した世界となっています)

●絢(けん)
 華奢な男。飴屋の主人であり、濃々淡々生まれの境界案内人です。
 手押しの屋台を引いて飴を売り、日銭を稼いでいます。
 屋台には飴細工やら瓶詰めの丸い飴やらがあります。
 彼の正体は化け猫。温厚で聞き上手です。

 今回も皆さんとご一緒します。不明点があれば彼に聞くと良いでしょう。

●サンプルプレイング(絢)
 見たいもの:初めて飴を食べた日

 あれ、ここは……昔?
 おれはあの日初めて飴を食べたんだ。
 衰弱していたのに、それがとても美味しく感じられたんだよね……あ、あの猫、おれだ。ふふ、小さいな。
 ……よくもまあ、こんなに大きくなれたよね。

 以上となります。皆さんのご参加をお待ちしております。

  • <濃々淡々>遊色のロールフィルム完了
  • NM名
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年12月25日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
鮫島 リョウ(p3p008995)
冷たい雨
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤

リプレイ

●Only melody for him
(これまで辿る……してきた思い出、冒険。見えるなんて、不思議な場所)
 カラカラと音を立てる射影機に瞬いた『埋れ翼』チック・シュテル(p3p000932)は、あたりをキョロキョロと見渡した。埃が積もり、ところどころスプリングが飛び出した椅子もある古ぼけた映画館。いっとうマシな椅子は偶然にも真ん中で、埃をはらってゆっくりと腰掛けた。
(……映画って。たしか、絵が動いて、声や音が出る紙芝居。そんな感じで合ってる、かな? どんなものが……見られるん、だろう。……楽しみ)

 3

(……あ、)

 2

 1

 カウントダウンを添えて。始まったその映画は。
 まだ、薄鈍色を忘れられなかった頃。ようやく『自分』を貰った頃の、あの日。
(ん、と。これ……は……そうだ。これは……まだおれが、名前を貰って間もない頃の。『うすにびいろ』から『チック』になって、少し日が経つ……したくらい)
 薄暗がりの夜に、溢れる雫のような音色が響く。まだ懐かしいボーイソプラノ。柔く溶けては、月に滲んで。
 無知だった頃。無垢だった頃。故に、純真で。痛々しいほどに、真っ白だったあの頃。
(まだ……あの時は、手伝いの仕方……わかってなくて。蹴られたり……とか、色々されても。誰かの為になってるから、良いと思ってた)
 それでも。痛む身体は、恐れを知っていたのだ。ないはずの傷に触れれば、僅かな苦味が心を見たいsて。
(皆が……してるような、手伝いのやり方。親友のルスティカが、教える……してくれた、から。今も沢山、役立つ……出来てるの、かな)
 恐らくは。まだ、歌の力に気付く前のこと。
 今と同じぼさぼさの髪。灰色の羽根。ただひとつ違うのは、その背丈だけ。小さな自分は座り込んで。雲々が覆う空の下から、月を覗き込んだ。
(確か、切れ間から……差し込む薄明かりが、綺麗だな……って感じた、から。だから、)

 一人ぼっちの中で音を紡ごうと、唇を開いた。

 細い声に、かすれてしまいそうな音。揺れる微風。ふ、と笑みがこぼれた。
 一度やんだその音。それは、周りの確認をもって更に大きくなる。
(自由に歌う、しても良いって……気づいて。少しずつ、旋律が大きくなっていく。……まだ、笑ったりとか。よくわからなかった、けど)

 あの日の自分の瞳を見れば、わかる。
 初めて歌を灯した時、胸に抱いたもの。

(それが、『嬉しい』って名前だったんだって、……今ならわかるよ)

●Amazoon様よりシリアス不在通知
(混沌で紡いだ冒険…思えば去年の夏の頃)
 『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)とイシュミルは一緒に召喚され、右も左も良く分からないまま豊穣を駆け回って。
(……思えばずっと駆け回ってきたな)

 何も為せずに無力を痛感した事もあった。
 何も為せずにどうすれば良かったのかと、惑い、振り返る事もあった。
 眠れぬ夜……は、アーマデルには無かったが。
(まぁ、仕事だからな、体調を整えるのも仕事のうちだ)
 オンボロの椅子はキィと音を立てた。む、と首を傾けるもどうしようもないのでおとなしく着席。
(……例え今やり直しても、どうすればよかったのか分からない…或いは同じ手を選ぶだろうという事もあった。
 それはきっと自分にとって譲れないなにかに触れる事なのだろう)
 肘置きは埃を重ねていて、腕が灰色に汚れてしまった。仕方ないので姿勢良く見ることにしようか。
(第三者としてそれを振り返る事が出来れば…何か、違う事が思い浮かぶのだろうか? ……ああ、)

 呼ぶ音が。開演の音が。ブザーが、遅刻を許さぬように鳴り響く。

 ザザ――――ン。

 寄せては返る波の音を聞きながら茫然とその場に立ち竦んでいたのはry。

(──寄せては返す波。そう、夏の浜辺……)

「は? 夏の浜辺??? どの浜辺だ??? いやどっちも駄目だが???」
 右手前方に巨大蛸ヨシ。あっこれあかんやつ。
(あ、忍者の集団がいる。だめだこれ。一時停止ない? ない、そうか。そうか……)
 よくよく見れば自分がいる。ああ。なんてことだ。
「ッ―――ぬ、脱がそうと、するな……!」
 己の悲鳴が聞こえます先生。どうしたらいいんですか先生。なんで何も言ってくれないんですか先生。
「……去年の夏、いたんだ。男の服だけ溶かそうとするヤツ。今年、別件が現れたという噂は聞いたが、まだいたのか……」
(蛸…そうだ、あいつだ。何種類もいたしそのうち俺が遭遇したのはコイツが2体目だが蛸だ。あのときどうすべきだったのか……)
 遠巻きに頭を抱える己を見ながら、ふと。アーマデルに天啓来る。

(――そうだ)

(そうだ、今なら俺にはあれがある――――――あらいぐま着ぐるみだ。あらいぐまでるに俺はなる……なるぞ……)

 それでいいのか。
 だがしかし走り出した青年の背中を止めるには右手が足りない。常夏の浜辺に、着ぐるみの青年がいたとかなんとか。

●Love is not ×××
 『冷たい雨』鮫島 リョウ(p3p008995)には弟がいる。

 既に親は無く、弟とも疎遠にしていた。
 それがいつからだろうか、弟と再会し、親しくするようになった。
 家族とはいえ異性だったから、なんとなく再会後も同居する運びにはならなかった。
 私はそれでいいと思っていた。お互いの生活。お互いの触れられたくないところ。そういったものがある。

 それでも。

 それでも、何かしら理由をつけて弟は――テンマは、わざわざ私に会いにくる。
 私は、それを拒まない。
 今日も一緒に台所に立って、食事の用意をしたりする。
 ……テンマは、テンマは私をときどき熱のこもった目で見る。
 異性として意識しているのだとなんとなく肌で感じる。だからこそ、確信に近い。
 私達は、姉弟なのに。

 思春期にはよくあることだと、私は私を納得させていた。
 男はよく知らないのに。
 信じたくなかったのかもしれない。どちらにせよ、どうしようもなかったのだ。自嘲してくすりと笑えば、それを目ざとく捉えたテンマが私のほうを見る。
 私は手にもっていたキュウリの切り口を見せ、模様が顔みたいよねととぼける。テンマがなぜかほっとする。
 なんで、なんて口にすることはしない。安堵したように緩んでいくその顔を見て、私は急に思い出した。

 そうだ──、昔も、何かこのようなことがあった。
 まだ二人が子供で親のこともなにもかもわからず無邪気に遊んでいたときのこと。
 私が何かケガをして──ああ、そうだ、大したケガじゃない。
 転んだとか何かで切ったとかそういうの。たったそれだけなのにテンマは大泣きして。
 自分のせいだとわんわん泣いて。私は自分のケガよりもそっちにびっくりしてテンマを慰めて。
 痛みなんかも、どこかへ飛んでいった。たしかそうだった。
 それでようやくテンマもほっとして。あれは、結局どうなったんだっけか。

 そんな、遠い遠い昔の、ふわふわしてくすぐったい思い出。

「……テンマも、私も。変わっちゃったな」
 きっと変わらないものだってある筈だけど。自信はないから、笑ってごまかすことしかできずに居て。
 それが、ひどく悲しいことのように思えたから。
 ふわりと舞う埃の雪を、遠く眺めた。

●故人に捧ぐベルスーズ
 ようやく見つけた柔らかな座席に腰を下ろした『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)。
 大きなモニターをぼんやりと眺めていれば、見覚えのある景色が映し出され、あたりは眩く光りに包まれた。

 あぁ、見た事ある。忘れるわけもないこの光景。

 それが最初に抱いた感想だった。
 つい先日の依頼で赴いた孤児院。バイクを子供達に弄って見せてる自分自身の姿。映画だと慢心していたのだろうか。役者でもない自分が映し出されるのは居心地が悪くて、不貞腐れたような顔をしてスクリーンだったはずの景色を眺める。
 あれは演技なんかじゃない。現実だったと理解しているからこそ、見ているこちらの心地は心底悪い。
 依頼に向けた『焦燥』と、子供達に向けての『憐憫』をないまぜにした、不器用で不細工な笑顔。
 表に出さずしてもわかる。腹立たしいのか、気味が悪いのか。はたまた嫌なのか。ただただ見ていて不愉快なことだけはわかる。あまりにも下手くそで隠しきれていない笑顔にため息がこぼれた。

 この後、こんなにも無邪気に笑っている子の親を、今頭をなでたその手に掛けるのだ。違う。もう、掛けている。

 無邪気に笑っているこの子達から笑顔を奪わないといけない事。違う。きっと、もう奪ってしまっているだろう。答えは、覚えていない。

 違う。

 それに絶望せず、任務の流れを気にしていた自分に、ひどく絶望したのだ。失望したのだ。

「これまでの善行で洗い流せると思ったか? ちげぇ、ちげぇんだよ」
 敵に問い詰めたかのように見せかけて。己にも掛けられたその質問。
 『うるさい、黙りな』なんてつぶやいたところで、聞こえはしないのだ。
 救うために持ったはずの得物は、今や救い以上に血で汚れて。多くの人を助けるためにと願ったこの手は、多くの命を奪うためにただ振るわれる。
 そんな当たり前の事だ? こうなるってわかってた筈だ?
 そう笑い飛ばせたなら良かっただろう。でもできない。なぜなら、コルネリアは生きているから。
 画面の中の過去も、ここに居る今(コルネリア)も、迷いの中を歩いているから。だからこそ、迷い、淀む。

「真っ先に逃げなかった……」

 銃は、手から離れない。
 それは罪の証であろうか。はじめて手にしたあの日抱いた、祈りの証か。馬鹿者の愚行の対価か。それは、誰にもわからない。

「でもまぁ助かったよ」
(これで手帳にも書き足すことが増えた。ま、貴重な経験だしな)

 悲しげに揺らいだ瞳。歪につり上がった口元。
 後悔はないと、エンドロールに誓えるのか?

成否

成功

状態異常

なし

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