シナリオ詳細
<ダブルフォルト・エンバーミング>可能性のつぼみ
オープニング
●アルストロメリア研究室
無数の機械の山が、あちこちに転がっている。それは、手であったり、脚であったり。或いは身体、顔。
事情を知らぬものが視れば、それはロボットの部品である、と判断するだろう。
昨今の、R.O.Oの決戦によってもたらされた、練達の異常。セフィロトを司るシステムの弱体化は、練達内部の機械自体の暴走を招いている。この手足が、身体が、その暴走したロボットの成れの果てであろうと。
実際には違う。
ここに転がっているのは、夢のつぼみである。
「やはりここにいたかね、アルストロメリア君」
声がした。分厚く重い扉を、ようやくに開いた老紳士。その背後から灯る光で、機械の夢の山に埋もれた、この景色の光景が明らかになっていく。
メタリックな質感を思わせる外壁。飾り気のない部屋の内装は質実剛健。或いは、主がそう言ったものに頓着が無いようにも思えた。
「キミか、レジナルド」
その部屋の奥にいた、何かが声をあげた。見れば、ロボットのような外見である。中央に輝くカプセルの様なものをすえた、巨大な機械の手足を持った、ロボット。それもまた、実際には違う。その姿もまた、夢の……アルストロメリアと呼ばれた彼、或いは彼女の夢の現れの姿であった。
アルストロメリアと呼ばれた者――モーガン・アルストロメリア。機械の身体に憧れ、優秀にして完璧な機械の身体の制作と完成を目指す、機械夢の科学者である。
一方、老紳士。プロフェッサー、レジナルド・スタンフィールド。二人は研究上のパートナーと言う立ち位置である。
「これは秘匿案件だがね? R.O.Oの存在を、機械の肉体に移すことは可能だと考えるかね?」
と、レジナルドが提案してきたのは、いかほど前の事だったか。モーガンはしばし沈思黙考すると、
「しらない。私は練達の国家事業にはさほど興味がない。故に、R.O.Oの存在とやらの状況も知らない」
モーガンはつっけんどんに、或いは淡々とそう言う。レジナルドは「そうだったねぇ」と肩をすくめると、
「これから言うことは全部秘匿情報なので、午後の茶会の時には注意したまえ。茶飲み話に花を咲かせてはまずい」
「私に茶会は不要である」
「おっと、これは失言だ。とにかく、R.O.Oについて、簡潔に説明しようか」
レジナルドはまさに簡単に、R.O.Oについてモーガンに説明した。モーガンは静かにたたずみながら、それを聞いていた。
「つまり……ゲーム内世界に誕生した生命を、現実に現出させることは可能か、と言う問いなわけだ。
我々はゲーム内世界に現出するためにアバターを必要とするわけだが、いうなれば、これは現実で稼動するアバターだ」
「可能だろう? いわば、AIを有したロボットのようなものだ」
「違うんだねぇ」
レジナルドは言った。
「私は、ネクスト世界のNPCは、もはやAIなどと言う生ぬるいものではなく……魂を持ったヒトととらええている。
つまり、これは、人工的な生命の誕生プロジェクトだ」
「なるほど」
モーガンは言った。
「キミが私の仕事をどこで知ったかは知らないが……いや、練達で仕事をしている以上、それを知られるのも時間の問題か。
つまり私は、ヒトを機械に置き換えるための研究をしている。ヒトの肉体を、脆弱なそれから完璧な機械の肉体に置き換える研究だ」
「そのとおり」
レジナルドが言う。
「この魂を定着させるには、より高度な肉体が必要だと考える。つまり、AI制御のロボットのようなちゃちなものじゃない。より高度で、より精度のたかい、『肉体のような機械』だよ。混沌に『ヒト』として認識されている存在で言うならば、『秘宝種(レガシーゼロ)』に近い。正直、この研究はあらゆるルートで走っている。葛城・春泥もアプローチは違うがそうだね。
さておき、私は君の腕を買っている。この完璧な肉体を、君なら作れると。やってみないかね?」
その言葉に、モーガンはしばし、黙っていた――。
そして現在。電気もろくにつかなくなった研究所で、モーガンは夢の山に埋もれていた。機械の身体のあちこちの反応が鈍い。流石に長い事メンテナンスをしていなかった。いうなれば、何日も徹夜が続いてろくに寝ていない、と言うような感じか。こんなに体のだるさの感じ、かつて幼いころに風邪をひいて寝込んだ時を思い出した。
「首尾は良いのかね?」
「無論だ。ローレットがこの騒ぎをどうにかする頃には完成させる自信がある」
「そうだね。ローレットなら……ふむ、彼らならやってのけるだろう。だが、問題はね?」
そう言った刹那、周囲から赤いパトランプの光と、耳障りなサイレンの音が響いていた。がざがざがざ、と粗雑なロボットの足音が聞こえる。モーガンは、(たぶん)鬱陶しそうに眉をひそめた(のだろう。きっと。カプセルの中にあるであろう、モーガンの本体の姿は見えない)。
「粗雑な関節だ。耳障りだ」
「うむ。この研究所、包囲されてるよ」
もし、この研究所――さほど大きなものではない。重要施設は地下にあるから、地上の入り口は平屋の建物位のものだ――を外から眺めるものがいたら、無数の暴走ロボットたちがあたりを包囲しているのが分かっただろう。暴走したロボットたちは、生命の――この場合はモーガンの――気配を察し、まるでそうするのが当然であるように、危害をくわえようと現れたのだ。
「……まさかと思うが、レジナルド。助けに来たのか?」
「パートナーじゃないか。ああ、礼はいらないよ。かわりに今度、午後の茶にでも付き合ってくれればうれしいものだがね」
「私は茶は飲まないが」
モーガンは言った。
「付き合う位なら」
「先ほど、ローレットには連絡を入れてある。とにかく、研究所を破壊されないように、しばらく時間を稼ぐとしようか」
そう言うと、レジナルドは肩をこきり、とならした。
「仕方あるまい」
モーガンは立ち上がると、巨大な鉄の扉を開いて、外へと飛び出した。
イレギュラーズ達が現場にたどり着いたとき、ボロボロになりながら戦闘を続ける、レジナルドとモーガンの姿があったのだった。
- <ダブルフォルト・エンバーミング>可能性のつぼみ完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年12月18日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●続く世界に
ぶぶぶぶぶ、と音が鳴る。それは、ドローンの飛行音だ。配達用のそれは、今や荷物でなく大量の爆薬を積んでいる。まるで爆撃機のように、二人の――レジナルドとモーガンの上空を遊弋する。
「やれやれ、老体にはこたえるね」
苦笑するレジナルド。
「だが、良い経験だ。次の体のバージョンアップには、戦闘性能も加味しておこう」
モーガンが、わずかに身体をきしませながら言う。
「レジナルド、キミもそろそろ限界だろう。下がりたまえ」
「おっと、こう見えても実家は伯爵家でね。ノブレスオブリージュは家訓なのだよ」
不敵に笑ってみせるが、実際のところ、既に限界は近い。
やるしかないか。二人が覚悟を決めた時――ぱあ、と何か光が巻き起こった!
「レジナルドさんと、モーガンさんですよね! 大丈夫ですか!」
大声が上がる。それは、ローレット・イレギュラーズ……救援にやってきた、『特異運命座標』滋野 五郎八(p3p010254)の声であった。
「ローレットの方かな?」
レジナルドが言う――同時、配達用ドローンが、ぶうん、と羽音を鳴らして、五郎八へと向けて爆弾を投下する! ぼん、という音と真っ赤な炎が上がって、五郎八は思わず身をすくませた。
「わぁっ! なんで配達用ドローンに爆薬が搭載されてんの!?
爆弾のデリバリーは頼んでないぞー! 責任者をだせー!!」
足元で雄鶏のぼんちゃんがコケッ! と鳴き声をあげて、羽をバタバタと羽ばたかせる。
「ぼんちゃんも怒ってるぞ!」
「さておき、これで助かったとみて良いかな?」
そんな声をレジナルドが聴いて呟くのへ、モーガンは頷くように声をあげた。
「ああ。だが、あちらが合流するまで、今少しは持ちこたえる必要がありそうだ。
まぁ、ローレットのイレギュラーズの事だ。ほんの少しの時間耐えればいいだろう」
「同感だ。ローレットのイレギュラーズ諸君! よろしく頼むよ! 此方は正直、限界でね」
「ええ。承知しております」
『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)が応える。寛治は、「さて」と呟いて紳士用ステッキ傘――その実態は寛治の武器である――を構えると、
「それでは、事前の打ち合わせ通りと生きましょう。
私がひきつけ、チャロロさんが抑える。その隙をついて、敵陣を突破、2人の直掩を行う」
「まかせて!」
『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)が頷いた。ころり、と口の中で飴を転がす。夜闇の世界に、光がともったように、視界が良くなる。若干の暗視能力。
「R.O.Oの人達と現実で交流できるなら、きっと可能性が広がるよね!
そういう研究を、邪魔させるわけにはいかない!」
「ええ……些か倫理的な問題もありそうですがさておき。
今は依頼です。二人の救出に尽力しましょう」
寛治がそう言って、
「行きますよ――」
ゆっくりと、歩く。その姿は油断と隙を晒しているように、一見、みえた。戦場のど真ん中に、そのような愚か者がいるのだろうか? だが、敵対する者にとっては――その姿を狙わずにはいられない。注視を誘う――相手の視界と視線を理解し、あえてその中に入るように動くそれは、工作員が人の目に映らぬようにできるが故に、あえて反対の事もできるのだという技。
ロボットたちが蠢いた。寛治を狙い。警棒を持ったロボットががしゃがしゃと音を立てて走り出す! うち一体が、寛治に接敵した! 振り上げられた警棒――だが、それを受け止めたのは、チャロロだ。
「させない!」
機械盾で警棒を受け止めて、大剣で斬りつける。がん、と鉄を斬る音が響き、ロボットが喘ぐように両手を動かした。
「オイラが相手だ!」
「私が寄せて、チャロロさんが受ける。即席ですが双方の強みを活かしたコンビですよ」
飄々と告げる寛治――だが、実際に即席のこのコンビの、戦場における影響力は非常に高い。敵は寛治に釣られ、チャロロによって迎撃される。もちろん、2人の負担は大きいものとなったが、元々の目的――つまり、レジナルドとモーガンに続く道を切り開く、その第一段階として、敵を集中させることを成功させていた。
「よし、第二陣、攻撃を!」
「まかせて!」
くい、と眼鏡――暗視用の携行品だ――の位置を直した『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)が頷いた。そのまま、細剣(というよりナイフのようだが)を掲げるや、指揮棒のようにそれを振るう。
「呪言の歌よ、啜れ。何人の精神をも喰らい、嗤え」
どこからともなく流れる、跳ねるようなバイオリンの音色。荒れ狂うピアノの絶叫。のたうつマリンバの断末魔……狂乱の音楽が、心をかきむしる魔性の音色が、アリアの指揮の下、ここにコンサートを開演した! 如何なロボットといえど、その間に魅入られては、その心を、電子頭脳を犯されずにはいられない! ギリギリと、ロボットたちが身をよじる様に足掻く。飛行するドローンは、まるで目を失ったかのようにふらふらと飛び跳ねた。
「永久に紡ぐ呪い歌――聞いたらそこで、真っ逆さま!」
すっ、と指揮棒をそうするように、細剣を振り下げた。鳴り響く楽器たちがひときわ大きな音をあげて、響くは愉悦の笑い声。呪歌が、ロボットたちを冒していく。その神経の末端に至るまでを、その呪いで飲み込んでいく――。
「では、突破口を開いて見せよう」
『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)は静かにそう言うと、その剣を抜き放った。一足飛びに敵陣に突撃するや、刃が閃く。一刀両断の斬撃が、ロボットの身体を斜めに斬り捨てていた。ず、と音を立てて、ロボットの上体と下体がずり落ち、地に倒れ伏した。
「正直なところ、その手の先端技術のことは全然分からないのだが……要するに、この騒動で窮地に追い込まれた人がいるのだろう。
で、あるならば。それを救う。そう動くことに、それ以外の理由が必要か?」
その問いの答えは、無い、である。誰かが困っている。ならばそれだけで、動くには充分な理由だ! エーレンは続く斬撃で、次なる敵を斬り捨てた。アリアの歌で弱化していた敵は、エーレンの斬撃によって完全にその止めを刺される。
だが、まだまだ敵の数は多い。突破迄もう一歩……しかし、第三陣の攻撃は、すぐに開始されようとしていた!
「『機械の身体』……その研究の果てに、珠緒達の友人の力になっていただける可能性があるのなら……!」
「今はまだ形なきデータの姉ヶ崎さん達との……エイスさんイデアさん達との約束を、果たせるかもしれないから!」
『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)と、『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)が頷き合う。今はここには居ない友、それにつながる可能性を、ここで消さないためにも!
「行きましょう、珠緒さん!」
蛍の言葉に、珠緒は頷いた。
「快適ではないかもですが……いきます!」
珠緒が、その手を掲げる。その手が仄かに、桜色の光を放つや、同時、神聖なる裁きの光が、ロボットたちの群れへと解き放たれた! 上空へと飛んだその光が、間髪入れずに降り注ぎ、ロボットたちを打ち貫く!
「蛍さん!」
「まかせて!」
蛍は、手に装着した純白の手甲を掲げる。そのまま、地面を叩くように振り下ろすや、桜の花びらが舞い上がった。続いて、炎がそれを照らすように舞い上がる。桜と、火の粉、二つの花弁がちらちらと昇り、舞い、その光景が道をふさぐロボットたちの注意を引いた。
「道を作ろう、未来のために!」
蛍が奔り、その手甲で赤と黒の二撃をくわえる。ロボットの外装がへこんで、フッ飛ばされる――次に襲い掛かるロボットは、珠緒の放った神聖なる光が薙ぎ払った!
「一気に突破しましょう! 皆さん、援護を!」
「了解です!」
珠緒の言葉に、五郎八がうなづき、ぼんちゃんがコケーッ、と鳴いた。引き絞る、死者の怨念を束ねた矢。放つそれが、命中したロボットの身体を蝕み、粉砕した。
「こちらでひきつけますので、皆さんは突破を!」
「よし、このまま真っすぐに突破しよう」
『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が言った。
「あまり時間をかけて居はいられないのでね。
残念だけれど、キミたちとじゃれ合ってやれる暇はない」
ゼフィラがゆっくりと構える。なだれ込むロボットたちの群れを、ゼフィラたちは一息に突破を試みる――。
●ここにある可能性
「……敵の攻勢が緩んでいる。イレギュラーズ達がひきつけてくれている様だね」
レジナルドが言う。油断はできないが、少しは息つく間ができたというものだろう。
「それどころか、此方に突破を狙っているらしい。剛毅なものだ」
モーガンが感心したように声をあげる。果たして、その言葉に応じるかのように、飛び込んでくる5つの影……ゼフィラ、蛍、珠緒、エーレン、そしてアリアだ。だが、アリアは、4人が敵を突破したとみるや反転。そのまま敵陣に一人立ち止まる。
「そっちにはいかないように、引き付けるよ!」
アリアが叫んだ。
「タンクなんて柄じゃないけど……私の目の前で人が死ぬのは嫌なの! そのためだったら体張るよ!
英雄ってそういうものだよね! ――私吟遊詩人だけどさあ!」
にっこりと笑って、敵の攻撃を受け止めるアリア。
「すまない、すぐに安全を確保して、攻撃にうつる!」
ゼフィラが叫ぶ。
「お待たせしました。ローレット・イレギュラーズ到着なのです」
珠緒が、少しだけ口早にそう言った。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。ご両名、助けに来たぞ。もうひと踏ん張りだ!」
エーレンが、2人を安心させるように言う。レジナルドたちが頷くのを確認してから、蛍が引き継ぐ。
「挨拶がまだだけど、緊急事態だから、手短に。
二人は、このまま研究所の近くで待機をお願いします。
こっちは、このまま挟み撃ちにする形で、敵を攻撃するわ」
「合理的だ」
モーガンが言った。
「というわけだ、色々と言いたいことはあるが、まずは安全を確保させてほしい。
ここは私たちに任せて、キミたちは自分の身を守るのを優先してくれ」
ゼフィラの言葉に、モーガンは頷く。
「キミが来ていたとはな。何とも奇妙な縁だ」
「こう見えても心配しているんだよ? キミが研究熱心なのはわかっていたが、こんな時まで研究を続けていたとはね。
ああ、今は小言は良い。とにかく、待機を頼むよ。なに、すぐに片付けるさ。
それから……後で、義手のメンテナンスをお願いするよ」
冗談めいてゼフィラが言うのへ、
「良いだろう。良いパーツが手に入った。礼代わりに組み込むとしよう」
モーガンが頷くようにそう言う。レジナルドとモーガンは、イレギュラーズの意を組んで、後方へと下がった。
「さて、ここからが本番だ。二人とも、一気に押し返すとしよう」
「ええ、珠緒たちにお任せください」
「ボク達にとっても、他人事じゃない研究だからね」
珠緒、そして蛍が頷いた。
「さっきと同じ方法で行きましょう?
ボクが前衛で敵を引き付けるから、珠緒さんは後ろをお願い。
エーレンさんとゼフィラさんは――」
「私も前で体を張ろう。アリア君も頑張っているしね。なるべく早く合流してあげたい」
「そうだな。俺も剣士だ。前を務めよう」
「なら――行きましょう!」
蛍の言葉に、頷いて、エーレン、ゼフィラ、蛍は駆けだした。珠緒はその手を掲げ、桜色の光と共に神罰の光を降り注がせる!
降り注ぐ光の合間を縫うように、エーレンとゼフィラ、蛍は駆けた。目の前を、アリアの歌によってふらふらと飛んでいたドローンが通り過ぎる。ゼフィラはそれを捕まえるや、高く蹴り上げた。ぼん、と上空へと飛んだドローン、盛業不能になって落ちてくるそれを、ゼフィラは装甲を取り付けらえた義手で殴り飛ばす。がん、と音を立てて、ドローンが地を滑り、爆発。
「うむ、好調」
「好調ではない。もっと丁寧に扱え」
モーガンがぶぜんとした様子で声をあげるが、ゼフィラは肩をすくめてみせる。ぶぶぶ、とドローンたちが反撃に転ずるが、刹那、閃光が閃くや、その身体が真っ二つに両断され、次々と地に落着していく。
「空にいれば安全というわけではないことを、その回路に刻んでやろう。
……いや、どうせすぐに散る命。無益なことかもしれないが」
エーレンの斬撃だ! それが、飛行するドローンを切り落としていた!
一方、蛍は手甲による一撃を、ロボットに加えた。どしゃり、と音を立ててろぼったが力なく倒れるのへ、
「アリアさん、大丈夫!?」
声をかける。敵に集られていたアリアが、攻撃によるダメージに表情をしかめつつ、
「うん! ここが耐え時だからね――でも、二人の安全が確保されたなら、お膳立ては完了、ということで!
ここからは叩き潰していくよ!」
目の前にいたドローンへ、アリアが指揮棒を振るうように細剣を振るう。同時、シンバルのような音が鳴り響くや、凝縮された神秘的な破壊力が爆発し、ドローンへ壊滅的な一撃を与える! ドローンはそのまま爆散!
「よし、チャロロさん、反撃に転じましょう」
状況を察知した寛治が、チャロロへと言葉をかける。
「よーし、もう我慢は必要ないね!」
拳銃ロボットが一斉に発砲するのを、チャロロは盾で受け止めた。ががん、と盾を、銃弾が叩く音がする。チャロロは走ると、拳銃ロボットに肉薄。大剣でそれを切り伏せた。
「まったく、意外と敵が多いな……どっかから、邪魔されてるんじゃないの? この研究!」
「個人的には、少々危険なものだとは思いますからね」
寛治が傘をライフルに見立てて、銃弾を撃ち放った。拳銃ロボットの拳銃を打ち貫いて破壊し、続いて頭部を狙った完全破壊する。
「でも……少しでも、未来につながる可能性があるなら、その研究を、止めたくはないよ」
「かもしれませんねぇ」
チャロロの言葉に、寛治は相槌を打った。だが、今考えるべきは、研究の是非ではなく、敵のせん滅についてだ。寛治は、チャロロは頭を切り替えると、
「とにかく、このまま押せば我々の勝利は必定といえましょう。
とはいえ、最後まで気を抜かず。さぁ、行きましょう、皆さん」
寛治の言葉に、
「分かりました! 行くよ、ぼんちゃん!」
コケッ! とぼんちゃんが鳴いた。同時に、放つ五郎八の死霊の矢が、拳銃ロボットを打ち貫く。イレギュラーズ達の猛攻により、敵ロボットたちはその数をあっという間に減らしていく。突破に我慢を強いられた分、それを発散するかのような全力の猛攻が、敵ロボットたちを瞬く間に叩いていったのだ。
「これで――!」
チャロロが、大剣で、警棒ロボットを斬りつけた。半ば破断するように斬り捨てられたそれが、地に倒れ伏す。
「終幕です」
寛治の銃弾が、最後に浮かんでいたドローンを撃ち抜いた。どかん、と空中で爆発。それを最後に、ロボットたちの駆動音は聞こえなくなったのだ。
「ふぅ……これで終わりでしょうか?
ぼんちゃん、敵の増援とか見かけたら教えてね?」
コケコケッ、とぼんちゃんが鳴く。五郎八は満足げに、頷いた。
「アリア、チャロロ、蛍……三人は、得に敵の攻撃を引き付けたはずだ。けがはないか?」
エーレンが尋ねるのへ、
「大丈夫だよ! 痛たた……」
アリアは笑ってみせるが、傷は相応に深い。流石に敵陣ど真ん中での戦いはつらかっただろう。
「オイラも何とか……蛍さんは?」
チャロロが言うのへ、蛍が頷いた。
「ボクも大丈夫よ! それよりも……」
蛍は、視線を送る。レジナルドとモーガンが、ゆっくりとこちらにやってくるのが見えた。
「プロフェッサー・レジナルド。お噂はかねがね」
寛治が言うのへ、レジナルドは優雅に一礼してみせた。
「新田 寛治君、此方こそ」
「さて、プロフェッサー。ぶしつけではありますが、お答え願いたいものです。
現在、あなたが取り組んでいる研究……R.O.Oの存在を、現実で活動可能とする研究です。
R.O.Oの性質はご存じでしょう。これは……ROOを経由することでまさに『魂』を新たな肉体に転移できる可能性ばかりか、ROOのNPCすら受肉できる可能性もあり……そして、これには死人も含まれる。これが何を意味するかは、ご理解の上と存じますが」
レジナルドの目が、細くなる。
「ふむ……だが、R.O.Oの存在は、厳密には死者本人ではない。それに、混沌法則は未だに我々の前に立ちふさがっている」
「問題は発生しないと?」
鋭くなる寛治の瞳。その雰囲気を取り払うように、珠緒がこほん、と咳払い。
「議論も良いのですが、今は安全な場所に行くのが先決なのです」
「おっと、そうですね」
寛治が肩をすくめた。
「……それに、珠緒たちは、この研究を応援しています。
珠緒たちの友達も……それで救われるかもしれないのですから」
「まぁ、研究者の良心に任せるという事で、今は良いだろう」
ゼフィラが笑う。
「私だって、興味が無いというわけじゃない。
それはおいおい……それに、練達の危機が去ってない以上、この話も机上の空論になる可能性はある。
いまは、練達の危機を救うことに全力を尽くそう」
ゼフィラの言葉に、仲間達は頷いた。
練達の危機は、今だ去ってはいない。
だが、その先につながるかもしれないつぼみは、こうして守られたのである――。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ご参加ありがとうございました。
皆さんが守った可能性は、きっと実を結ぶのでしょう――。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
二人の可能性を模索するものを助けてあげてください。
●成功条件
モーガン・レジナルドを救出し、すべての敵を撃破する。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●状況
R.O.O決戦のあおりを受けて暴走した機械群が、モーガン・アルストロメリアの研究所になだれ込みました。
モーガンはパートナーでもあるレジナルド・スタンフィールドの協力の下、ロボットの攻撃から耐えています。
皆さんは、そんな二人から救援を求められて、現地に到着しました。
速やかに二人を救出し、敵を撃退してください。
作戦エリアは街灯が破壊されているため薄暗いです。ライトなどがあると視界が良くなるでしょう。
また、足元はがれきなどで悪化しています。が、これは遮蔽物的なものがあるという意味でもあります。
なお、戦闘開始時の配置は以下のような感じです。
研究所
味方NPC
敵 敵
敵 敵
イレギュラーズ
●エネミーデータ
配達用ドローン ×10
元は配達用のドローンでしたが、システムの影響のあおりで暴走しています。
空中からの体当たりや、どこで調達したのか爆薬をふらせてきます。
爆薬による複数範囲攻撃に注意してください。
警察ロボット(警棒) ×10
人型の、警察の雑務を行っていたロボットです。今は暴走し、警棒を片手に近接攻撃を仕掛けてきます。
警察ロボット(拳銃) ×5
人型の、警察の雑務を行っていたロボットです。今は暴走し、拳銃を手に遠距離攻撃を仕掛けてきます。
●味方NPC
レジナルド・スタンフィールド & モーガン・アルストロメリア
新田 寛治(p3p005073)さんと黎明院・ゼフィラ(p3p002101)の関係者です。
R.O.Oに関する何らかの研究を行っていたようです。
二人が死亡したり、研究所が破壊されると少々面倒なことになります。
二人とも、近接戦闘能力は持ち合わせています。レジナルドはカラテや柔術によくにた格闘術を使いますし、モーガンはその機械の身体でパワフルに戦います。
とはいえ、2人とも本来は戦闘要員ではないため、シナリオ開始時点で掃討疲弊しています。速やかに救助してあげるのが良いでしょう。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
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