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シナリオ詳細

<タロット・ワークス>12月の女帝

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『女帝』のカード
 パパは、わたしのことが嫌いなんだ。
 ママがわたしを生んだせいで死んじゃったから、ママを奪ったわたしのことが好きになれないんだ。
 だって、パパはケーキの上に「パパとママ」の砂糖菓子を並べてた。わたしがいない2人だけのケーキをつくってたもん。
 だって、パパはママと「ずっといっしょにいたかった」って絵本を見せて言ったんだもん。
 だって、パパはあんな変な恰好をして――あれは、なんだったの……?
「パパなんて、嫌い! ばいばい!」

 ひらり、女帝のカードが蒼穹に遊んで、誘われたように駆け出した幼い娘がひとり其処に飛び込んだ――、

「アンナ! 戻ってきなさい、アンナ!」
 父親が叫んでいる。板一枚、聖教国ネメシス(天義)の道のど真ん中に場違いにぽつりと立つ大きな金色の扉を叩きながら。
「何かあったんですか? この扉は?」
 異常事態を察した人々が集まってくる。

 それは、不思議な事件だった。
 父娘がほんのちょっとした行き違い(コミュニケーション・エラー)で喧嘩をしたのが先か、それとも扉の出現が先かは目撃者にもわからない。アンナという6歳の娘が手に持っていたタロットカードが風に攫われたようにふわりひらりと舞い上がり、何もない虚空に大きな扉が現れたのだ。
 カードに導かれるように娘は開いた扉の中に飛び込んで、娘を守るように扉は閉じた。一瞬視えた扉の向こう側には、青空と花畑、そして城のような建築が視えたという。
 
「あら、given 」
 優艶な声で名を呼ばれて、あなたは彼女の存在に気づいた。暗色のローブを纏った妖艶なビエラという名の彼女に。
 ビエラは、神出鬼没の占い師。
「奇遇ね」
 艶めく唇が穏やかに言葉を紡ぐ。
「困っていることがあるの。状況から察しがつくかと思うのだけれど、お姉さんからあなたに依頼させてくれないかしら」
 表情はフードに隠れて視えないが、ビエラの気配は少し困ったようでもあり、申し訳なさそうでもあり。傍にいる「娘を案じて扉に縋る父親」の存在もあった。この事件を解決してほしいと言うのだろう、と見当をつけて、あなたは頷いたのだった。
 ビエラは安心した様子で口元を微笑みで彩り、事情を打ち明ける。
「わたくし、実はタロットカードを失くしてしまって探していたの」
 不思議なちからを持つタロットカード。今回の事件を引き起こしたのは、そのカードだというのだ。
「『女帝』のカードが原因ね。アンナちゃんは、感情を暴走させて女帝が創る感情世界の城の奥に逃避してしまっている」

 ゆったりとした袖を揺らし、ビエラは優しく父親の肩に手を置いた。
「マルコさん」
 呼ばれた父親は驚いた顔をした。
「私の名を知って?」
 ビエラは透き通った煌めきの神秘的な水晶を見せて、自分が占い師だと名乗った。
「その扉は、わたくしが開くことができる。そして、ここにいる特異運命座標が中に入り、『女帝』の城を攻略しお嬢さんを怪我ひとつなく無事に連れ帰るわ」
「できるのですか?」
 父マルコは縋るような目で特異運命座標を見つめた。
「given の腕はわたくしが保証するわ」
「given さん、どうかお願いします。娘を助けてください」
 マルコは語る。
 妻は、娘を生んですぐ亡くなった。
 男手ひとつ、不自由させぬようにと努力したが、成長するにつれてたまに娘が考えている事がわからなくなる時がある、と。
 例えば、マルコはパティシエで、娘が気に入るスイーツをつくってプレゼントをしようとする。スイーツには砂糖菓子で「マルコとお姫様なアンナ」を並べて。だが、娘はそれを見て泣いてしまった。
 例えば、マルコは絵本を買ってプレゼントしようとした。「たいせつなきみと、ずっといっしょにいたかったから」。そんなタイトルで、ふたつの手がしっかりと繋がれて雪夜を歩いてあたたかな灯りが燈る家に向かう、そんな表紙。だが、娘はそれを見て泣いてしまった。
 例えば、マルコは「ママじゃないとやっぱりだめなのか」と思い悩んで女装をした。娘はショックを受けた顔で「うわああああああ!!」と大号泣した。

「……私が悪いんです。どうか、アンナを助けてください!!」
「あらあら。無事、アンナちゃんを救出して『女帝』のカードを回収できたら、無料で占いをするし、いろいろな味がする不思議な飴もあげるわ」
 ビエラはそう言って扉を開いた。
「いってらっしゃい、特異運命座標。頼りにしているわ。……どうしても厳しかったら、カードに逃げられてもいいわ。アンナちゃんを最優先に、お願いね」

GMコメント

 初めましての方は初めまして、そうでない方は今回もお世話になります、透明空気でございます。
 このシナリオは、「異空間に逃避した6歳の女の子(アンナ)を救出し、不思議なタロットカードを回収する」という内容です。

●成功条件
 アンナを救出する。
 オプション…『女帝』のカードを回収する。

●状況説明
 アンナは『女帝』のカードの力で感情を暴走させ、女帝が創る感情世界の城の奥に逃避しています。
 城の中には、お菓子の兵隊がたくさんいます。
 武力に物を言わせて突破し、無理やりアンナを攫って現実世界に戻ることもできますが、その場合は『女帝』は逃げてしまいます。
 『女帝』やアンナが喜ぶような「楽しい事」「可愛いもの」「興味を惹かれるパフォーマンス」をすれば、兵隊は襲ってくることなく、アンナと『女帝』が自分から近づいてきます。
 アンナが自分から「父のもとに帰る」と言い出せば、『女帝』は大人しく回収されます。

●NPC紹介
 アンナ…6歳の女の子。自分を生んで母親が死んでしまったことを知っており、そのせいで父に嫌われていると思い込んでいます。
 マルコ(アンナの父)…26歳。パティシエです。男手ひとつで娘に不自由させることなく育てていこうと思ってお父さんなりに愛情深く接していますが、どうも娘の心がわからない、うまくいかない、と悩んでいます。

●関係者さん紹介
 ビエラ&女帝のカードは、共にレッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)さんの関係者さんです。

 ビエラ…あちこちの街でふらりと現れては路上占いしている占い師のお姉さんです。あらあらうふふ。無事にカードを取り戻した時には、希望すれば占いや飴ちゃんのサービスが受けられます。やったね。

 女帝のカード…ビエラの手からすり抜けた意思を持つ不思議なカードです。

●お菓子の兵隊
 楽しいパフォーマンスではなく戦闘での攻略をする場合、お菓子の兵隊を倒す必要があります。
 お菓子の兵隊はケーキやクッキー、チョコレートに手足が生えており、槍や弓を持っています。
 耐久力は低いですが数が多く、とても素早いです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 以上です。
 楽しくのびのびと挑んでくださると、とても嬉しいです。
 よろしくお願いいたします。

  • <タロット・ワークス>12月の女帝完了
  • GM名透明空気
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年12月13日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レッド(p3p000395)
赤々靴
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼空の眼
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
プラハ・ユズハ・ハッセルバッハ(p3p010206)
想い、花ひらく
滋野 五郎八(p3p010254)
鶏ライダー

リプレイ

●はじまりの扉
 What should we aim at after all?

 扉の内でヘリオトロープが揺れている。
 髪を頬を、全身をすすいでいくような外の風。
 それは乾いていて、けれど内の風は湿っている。
 ――ワタクシは本来、不幸の使者。
「相互理解が及ばぬ故の行き違い……逆位置の『女帝』の意味を思わせるような事件ですね」
 占いに精通する『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)が語り。
「互いに悪意はなく……意図せずに傷つけ合ってしまったのであれば、不幸のまま幕を引くのは些か後味も悪いでしょう」
「私はそういうのに疎いから、ヴァイオレットのような詳しい者が居て助かるな」
 『蒼空』ルクト・ナード(p3p007354)は仲間を視る。個々が替えのない世にただ一つの存在を。
「親子共に、女帝の逆位置のような状態。二枚並べて正位置にしていきましょう」
 『春を取り戻し者』プラハ・ユズハ・ハッセルバッハ(p3p010206)は燈杖を手に祈るように唱え。
「なんとかしてあげたい! 残された二人だけの家族だもん」
 『特異運命座標』滋野 五郎八(p3p010254)が梵天丸を抱きしめて。
「がんばろうね! ぼんちゃん!」
「まず聞いておきたいのは、肝心の父親の気持ちだろう」
 『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)は共感を瞳にのぼらせ。
「そして、彼女視点の確認も、だな」
 呟く『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)にマルコが頭を下げる。
「私はアンナを愛しています、大切で……けれど」
(お互いが上手く気持ちを伝えられなくてすれ違うのは、見ていて心苦しい)
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)がその背を労わる。
「力になるよ。本当の気持ちを伝えられるように」
「ああ――有難うございます」
「あと、さすがに女装は伝わらないと思うよ……」
「いけませんでしたか」
「どういう想いで何故そういう行動を取ったのか、本音を言葉にしてみてほしい」

 相手の心はそう簡単には分からない。

 イズマは人の感情の複雑さ、繊細さを知っている。耳を傾ける大切さ、言葉を尽くす必要性を知っている。その豊かな感性は人が人と交わる時のすれ違いの寂しさと手を繋いだ時の得難い喜びを理解していて、慎重さを兼ね備えながらも手を差し出し歩み寄る勇気を手放すことはない。
「アンナさんが戻ってきたら話をしよう。お互いの本音をきちんと聞くんだ」
 ――誤解をなんとか解いてあげたい。
(思い違いスレ違いからお別れなんて寂しいっす)
 レッドもあわいの瞳に想い揺らし、声を添える。
「マルコさんも思った事や悩んだ事、言葉にしてアンナちゃんにまだ伝えてない事あるなら伝えてみると良いっすよ」
 心を見せれば、心が返される。マルコは確りと頷いた。
「はい。必ず」
「親が子を思う気持ちはどこも同じなんだね」
 『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が想うのは、母が娘のいのちと引き換えになった自身の境遇と、二人の愛。
「どれだけ想われているっていうのも伝えてあげたいな」


 ――さあ、不思議な世界へ!
 扉の向こうに踏み出せば、遥かな天穹と風にさやさや唄いながら色鮮やか咲き誇る花々が待っていた。鮮やかな緑の蔓草と、城庭の噴水の音。
「メルヘンな世界っすね!」
 プリズム光る風、ふしぎな花畑の中。
「お花の国のお姫様と王子様みたいっす!」
 レッドは大切に創った花冠を皆に贈る。
「……あまり、可愛い服とかは得意ではないのだが」
 傭兵ルクトの本領は、戦場での命のやり取り。されど今日は武器は置き、ガラリと印象を変えるデザインフリルのドレス姿。透け感のある繊細な重ね生地は1枚1枚が微細に色を変え奥行を演出、袖部分で美しき義肢を魅せて。
 そんなルクトにレッドは満開の夏の花めいて笑み、「似合ってるっす!」と保証した。
「可愛いもの……可愛いものかぁ」
 五郎八は梵天丸とお揃いの花冠姿で青い小鳥の紙人形に唇を当てた。そっと息を吹きかければ、命宿した青い小鳥の式神が羽ばたき愛らしく囀って、梵天丸が一緒になって聲放つ――こんにちは! 初めましての気持ちを込めて。
「鳥が鳴いてる?」
 アンナが城の外を見てルクトに気が付いた。花冠華やかにドレスを翻して空を飛ぶ姿は、美しい。
「妖精のお姫様だ!」


●友好のステージ
「ピアノがあったよ!」
「それじゃあ始めようか、アンナさんと『女帝』のためのステージを!」
 イズマがヴィブラスラップの音を立てれば、お菓子の兵隊たちも興味を抱く。持ち替えたギロの音を啼かせ、楽しさを演出すればスティアが雪花石膏のように白く滑らかな指で鍵盤叩き。
 一音、試すように「ポーン♪」楽しむように音を連ねて「タンタララ♪」そよ風のように優しい歌声添わせれば、ピンクローズとルバーブのパフェ、お伽紅茶のクリームブリュレ、薔薇のブランマンジェ、黒スグリと苺のフレジェ、兵達が代わる代わる好きな曲をおねだりし、おかしな踊りで燥ぎだす。

 何にも縛られずのびのびと直線天翔けて、柔らかに弧を描いて雲の隙間に自由の魂を遊ばせるみたいに軽快なルクトがアンナは気になって仕方ない。ああ、世界はなんて明るいの、楽し気な音楽が始まって……内に籠るのは勿体ない!
「わ、あ……!」
 誘われて顔を出した女帝とアンナを歓迎したのは、楽しい舞台とアフタヌーンティーテーブル。
「こんにちは!」
 花冠を差し出すレッドの笑顔はおひさまみたいに明るくて、うさぎが跳ねて「きゃっ」――肩にぴょこり、人懐こく頬を寄せてご挨拶。
「動物は好き?」
 五郎八が細い目の笑顔でふわふわの鶏を差し出して、「ぼんちゃんだよ」優しい声色とぼんちゃんのぬくぬくほこほこの体温がアンナの心に春を呼ぶ。
「特別だよ? もふもふしてていいでしょ~」
「かわい~い」
「おっと、うさぎがこっちに」
 五郎八が天真爛漫なうさぎに飛びつかれて抱き留めると、レッドが楽しそうに笑った。

「パーティへようこそ、お嬢さん」
 花に囲まれるテーブルセットにアンナを招いて給仕するモカは、男装が似合いすぎて仲間からも性別を間違われる事のある。カップの内でとぷり揺らめくのは、白花浮かぶカモミーユ茶。ふわり、癒しの香に包まれてアンナはふと気づく。
「お兄さんは、お姉さんなの?」
「男前だろ」
 ぱちりとウインクしてみせるモカは、格好良い。アンナはこくりと頷いて舞台に目を向けた。
「すごい!」

 響音変転――イズマが華やかにステップを踏み創るのは仲間を引き立て、楽しさを何倍にも増幅する協調と笑顔のステージ。
 ――可愛いのは皆さんに任せるが。
 煌めく紅の瞳がレッドと合えば、サムズアップが返される。
「格好良いし、可愛いです!」
 五郎八が素直な声色で讃えて。
 ――合わせましょう。
 プラハが揺籃めいて緩く淑やかに舞い、テンポに寄り添い羽のような軽さでドレスをひらめかせる。ふわり、咲き始めの春花めいた初々しいステップ。ひらり、上空を舞うルクトが高度を低めると、プラハが意表をつくように高く跳躍して空で舞うルクトと交差する。一瞬間近で視線を交わし、共に笑顔でアンナに手を振って。
「わあ!!」
 アンナが頬を紅潮させ、大喜び。その周りを飛び跳ねるのは、レッドが招いたちいさな兎。おみみをピコピコ、燥いでる。そんな彼女にモカは笑顔で誘いかけた。
「お話をしよう」
「うん」
 かくして戦いは回避され、友好的な時間が流れたのだった。


●お話は縁のもと
 モカはアンナの話を引き出して、即興でギター弾き語る。

 ♪ある街に女の子とパパがいたよ

「パパは本当はね、女の子とパパの砂糖菓子を載せたケーキを作ったんだ」

 ――砂糖菓子を載せたケーキ。

 ♪パパは女の子のために絵本を買ってきたよ
「パパは本当は、女の子とずっと一緒にいたいと思ってプレゼントしたんだ」

 ――パパは本当は、そうだったのかな?
 アンナの心に波紋が生まれる。

「♪困ったパパは、ママになれば女の子がまた仲良くしてくれると思ってママになってみたんだけど」
「そうなの……?」
「パパはママになんかなれないよね」
 モカが笑いかければ、アンナは「うん」と笑みを返し、想った。パパ、そうだったのかしら、と。

 レッドが明るく添える御伽噺は、旅する仔兎の物語。
「自分の親は自分の事を何もわかってくれない信じてくれない、そう言って家出して」
「キャッ?」
 兎がひょこり、スティアが弾くピアノの鍵盤を踏んで不協和音をサプライズ。
「いけませんよ」
 ヴァイオレットが柔らかに窘め、頭を撫でて。
「長い時を掛け様々な冒険をした仔兎さん」
 腕の中で気持ちよさそうに目を細める兎にイズマが微笑み。
「旅の途中で仔兎さんが聞いたのは、悪い知らせ」
 ルクトが空から降りて席に加わる。
「お父さんが、病気だよ。仔兎さんはぴょんと跳ね、おうちに向かってまっしぐら」
 モカはルクトにお茶を淹れ、プラハのカップにも注ぎ足した。
「待っていたのは、変わり果てたお父さん。ああ、嬉しそうに頬寄せて、いとしく大事に囁いて――愛していたよ、ずっとお前を想っていたよ」
 五郎八はアンナと一緒に話に聞き惚れて、梵天丸に袖先をつんつんされていた。

 アンナは五郎八に身を寄せるようにして、父を案じる瞳を見せた。
 物語は、悲しい。そう思ったのだ。

 スティアがピアノを弾く指を休めて語るのは父と母の思い出。
「私にはもうお父様もいないからちょっと違うけど」
 似てるよね、と呟く瞳は過去と未来の狭間で優しく瞬いた。似た年頃のあの子を救えなかった瞬間を知っているからなおの事、目の前の十に満たぬアンナを救いたい意志に煌めいて、想い宿す笑みは優しくあたたかに厚意を伝える。
「アンナちゃんとお父様はただすれ違っているだけなんだよ。さっき少しお話したけどとても心配していたからね」
「心配してたの」
「うん。いなくなって喜ぶだなんて絶対にないよ。お母様がいないってことはお父様にもアンナちゃんしかいないってことだから、とっても大切な宝物なんだと思うよ」
「パパにも、わたししかいない……そっか」
「自分の愛した人との子供なんだから絶対に大事にきまってる! 私だって大切にして貰えたしね。だから少しだけ素直になる努力をしてみないかな?」
 今はお互いが上手く気持ちを伝えられないだけ。
 スティアの言の葉に誘われて、そうっと咲き初めていくこころ。

 モカは見守るような目で促して、プラハは香り豊かな湯気の温かさの中で語りだした。
「わたしのお母さんは、わたしがあなたくらいの頃に亡くなったの」
 アンナは温もりの中で思う。
 自分ひとり、特別に不幸だと思ってた。だけど、お母さんや――お父さんがいなくなるのも、珍しいことじゃないんだ。
 プラハは淡雪よりも儚げに首を傾け、父を想うまなざしで語る。
「具合が悪くてもお父さんのお手伝いで寒い中ずっと外にいたから病気が悪くなったのに、お父さんはお葬式をさっさと済ませていつも通り。悲しくないんだ? と思ってすごく嫌ってました。
 でもね、一人で部屋で静かに泣いてるのを見ちゃって、大人の男性は人前で気持ちを表しちゃいけない時があるんだって知ったの」
 神妙な顔をするアンナ。そんな彼女にプラハはヤギさんの人形を見せた。
「ほんとうのことは、かくれんぼをすることがあるようです」
 蜂蜜が春の日差しに蕩けたような眼差しが思いやり深く囁いた。
「あなたのお父さんもそうかも。本当はどうなのか、お話したらどうかな」

 アンナは俯いた。
 ――本当は……そうなの……かな?

 痛みを知っているから、共感できる。
 傷つく心があるから、優しく温かにもなれる。

 乾き、潤うシャーデンフロイデ。好ましく厭わしく相対するは易しく――だから苦手で線を引きたくて。嘉音佳声を俯瞰して、木陰に零れるオリーブの滴めいた光に目を眇め、胸中に過る音――貴女の音色はとても興味深い、面白い旋律なのよ。
 薄く笑むヴァイオレットは仄暗い夜闇の紗を揺らし、蕩ける夕陽よりも思わせぶりな声紡ぐ。
「もし、お嬢さん。占いに興味はございますか?」
 小さな子……。
 思い秘め目線を合わせ、言の葉選ぶ。ああ、あどけない。微睡みを誘うように寄り添い、目覚めの朝を導く中で躓きがちな石ころを脇に避け、その歩みを妨げぬように。ああ、いとけない。
「占い?」
 嗚呼――。
 あやすよう、ゆったりした声は心身を包み込むよう。
「とても寂しそうな目をしてらっしゃいます。きっと悲しい事、お悩みの事……"相手の事が解らない事"があるのではないでしょうか?」
 アンナは首を縦にした。なんて従順で素直。続いて語る言葉は幼くて、まっすぐで――占い師は微笑んだ。
「では、お父様の気持ちを占ってみましょう。ワタクシの占い、結構当たるのですよ?」
 ヴァイオレットが引いたのは「逆位置の『魔術師』」。
 運命を語る声は神秘的で、アンナはドキドキした。
「このカードの意味は『想像力の欠如』……『不器用』とも言えます。お父様は……伝える方法を間違えてしまっただけではないでしょうか」

 スティアとレッドが後押しするように声を添えた。
「それにお父様がいる内にいっぱい甘えておいた方が良いと思うよ。後で後悔しても遅いから……」
「アンナちゃんはお父さんが死んでほしい程大っっっ嫌いっすか? 兎さんと同じ後悔したいっすか?」
 先刻までの話を知ったアンナには、2人の言葉には説得力が十分にある。アンナはふるふると首を横にした。
「その気持ち言葉にしてお父さんに伝えると良いっすよ。考えてる事思ってる事は言葉にしないと伝わらないっすから」
(こういうのは回りくどい言い方をしない方がちゃんと伝わるものだ)
 ルクトは事前に聞いた父の言葉をありのまま伝え。
「父というのは、娘に対してどう接していいか、解らないものなのです。一度、ゆっくりと……お話をしてみては、いかがでしょうか」
 ヴァイオレットの言葉にスティアが溌剌と頷いて。
「ケーキを用意して待っていてくれるんじゃないかな?」
 モカが背を押すように。
「ママはきっと、二人がずっと仲良く暮らしてほしいと思っているよ」
(皆、それぞれ魅力的で心を寄り添わせている。だから、大丈夫だ)
 イズマはモカから差し出されたお茶をひとくち味わい、微笑んだ。
「アンナさん」
 皆で創った舞台の余韻に身を浸しながら、幼い心に視線を合わせて、父の不器用なまなざしを想う。
「パパさんは凄く不器用らしい。だからアンナさんが叱ってあげて。そんなんじゃ伝わらないよって」
「うん」
 パパは、わたしのこと嫌いじゃないんだ。
 アンナは喜びを胸に頷いた。
「アンナさん、現実はね、想っているだけじゃ勝手に好いように動いてくれない事が多いんだ」
 イズマは励ますようにその手を取る。
「頑張っても、うまくいかないこともある。けれど、今回は違う。絶対だよ」
 周囲に集まる仲間たちが皆、笑顔で頷いた。
「外に出れば変えられる。……帰るかい?」
「うん。わたし――帰る」

 五郎八の目には、娘に寄り添い優しく見守る魂が映っていた。想いに触れ、胸巡る衝動は――2人で歩いていってほしいんだ。想う傍ら、改めて実感する。
 ――リアルなんだな。
 だから、五郎八はちょっぴり臆病になる気持ちを叱咤して口を開いて、自分の言葉に気持ちを籠めた。
「あのね、わたしたちはアンナちゃんを心配したアンナちゃんのお父さんにお願いされてここまできたんだ」
 それが一番大切なんだと、五郎八は思うから。
「アンナちゃんが大切だからこそだよ。だからね、お父さんとお話ししてあげて。アンナちゃんの気持ちをちゃんと教えてあげて……ママは、アンナちゃんをいつも見守っているって。そう言ってるから」
「ママ」
 アンナは大切に噛みしめるようにはにかんだ。
「わたし、……わたし、大丈夫!」
 波紋が広がるように想いが広がり、花開く。


●ハッピー・エンド
 帰還の扉からアンナが一歩踏み出せば、父が涙を流して娘を迎える。
「パパ!」
「アンナ!!」
 再会した父娘が確りと抱き合うのを背景に、ビエラが嬉しそうにカードを受け取って感謝を告げた。
「ありがとう!」


「わたしの未来には一体何が待ち受けているのですか。これからどうなるのですか?」
 プラハがタロット占いを請えば、ビエラは困ったように水晶を持ち上げる。
「実は、他のカードにも逃げられていて――よければ、他のカードも探してほしいのよ」
 代わりにと水晶に手を翳してビエラはにこりと微笑んだ。
「そちらの占い師(ヴァイオレット)に相談すると良い助言で導いてくれるかもしれないわ」
「――それが占い結果……?」
 次いで水晶が映し出すのは、赤い彼岸花。
「あら?」
 ビエラはレッドをちらりと視た。
「新緑と出ているわ。心当たりが?」

 イズマは飴を貰い、全員に差し出した。
「皆で食べようか?」
「これは……ぼんちゃん型の飴!」
 五郎八が飴を日にかざし。
「私のはサメ型だよ」
 スティアが笑み咲かせ、モカとルクトが互いの飴を交換している。形も彩も様々な飴は、いずれも陽光にきらきら輝いて――まるでその場に集う皆の個性のように、世界にただひとつの味わいなのだった。

成否

成功

MVP

イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

状態異常

なし

あとがき

依頼おつかれさまでした。楽しく優しいプレイングを送ってくださり、ありがとうございました。結果はこのようになっております。無事『女帝』のカードが戻ってビエラさんもにこにこしているようです。関係者の主レッドさんが「この路線でOK!」と言ってくださるなら、また続編でカードキャプターできるかもしれません。
MVPは細やかな気配りと丁寧に練られたプレイングのあなたに。

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