PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ダブルフォルト・エンバーミング>Break

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●blue bird
「先に行ってくれ」
 探求都市国家アデプト『練達』。
 旅人を中心とした都市国家。
 人々の多くは自身の故郷に戻るための研究を日夜続け、あるいはそれに賛同して、ないしは……『単に居心地が良いから』そこで暮らしている。
「彼らを守るんだろ」
 故郷を離れ、異世界で。人は生きなければならなかった。
 ――ただ生きるだけではなく。
「――優先順位を間違ったりはしないから」
 心を活かすための希望や拠り所が必要だった。
 力を合わせ、世界の謎を紐解き、技術力を提供し合い、研鑽し合い、階段を一つ一つ登り、望む解を導こう。暗闇に垂れる蜘蛛の糸めいたそれを掴みたい者たちが一人また一人あつまって、誰かが光を燈して、誰かが階段を作り出して、また別の誰かが糸を底の方から太く補強していこうと言い出して――生活と研究のための環境を作り出して。
「キミが生かした命は、作戦に全力を注ぐだろう」

 救うため、守るため、戦っていた。
 現実を変えたくて。望まぬ未来を回避するために。
 その手段は人それぞれだけれど、同じ寂しさや悲しさ、憤りを持てば共感できるものだ。
 見はるかす視線の先を共有し目標を掲げて組織だてば帰属意識も芽生えるというものだ。
 引き篭もるようにして生活する場。そこにいる時間が長ければ長いほど景色が、空気が、日常が当たり前となっていく。
 Country、capital、Organization、home。
 『セフィロト』。
 ――首都で、異変が起きている。ネットワークがハックされ、都市の至るところで爆発音と光が炸裂し、人々の良きパートナーであったAIロボットが暴走し。
 学校に悲鳴が響いて、学生服の少年少女が床一面の割れたガラスの上を逃げ惑い。
 非常用電源に切り替えて緊急手術をする病院の医者は薄氷の上で患者の命を繋ぐ危機感に汗を浮かべ。研究者たちは――、
「敵(エネミー)、特別研究棟『ヘキサゴン』C区画に接近中」
 昨日までの生活の友(技術)を、我が子(AI)を、頼もしい相棒(システム)を敵と呼ぶ。
 研究者たちは各々の知識と技術を駆使して事件の収束に努めていた。統制を失った最新システムではなく、泥臭く足を使い声を張り上げ無線を使い、白衣を汚して頬に泥や煤を付け、彼らの戦い方で現実と戦っている。

「ちぃ、ちぃ、ピピピ……♪」
 小鳥型のロボットが小さな羽根で通路を飛んでいく。AIに寄らぬ手動遠隔操縦、シンプルな機械音声の囀り。
 一つの分岐路。
 もう一つに隔壁を落として一方通行に見せかけて囮を飛ばして通路を選べば、敵の数体が釣られてついていく。
 ……とは、いうものの。
「数は減ったけど焼石に水かな。建物の構造データを持っているだろうし」
 ロボット工学の鬼才『エメス・チャペック』は黒ずんだ血痕で汚れた白衣もそのままに自身の研究所が制作したロボット群の人工知能を休眠させ、手動アナログ制御にて偵察や囮、時間稼ぎの前線兵として投入している。白衣の血痕はこの区画に移る道中の襲撃で仲間研究員が彼を庇ってつけたもの。
 少年めいた顔立ちは冷静で、瞳は感情的とは程遠い。
 声は淡々と事実を連ねるように敵味方全機の製造番号と製造者名を羅列する。
 敵機の中には暴走した機械が多分に含まれるのだからして、畢竟それは暴走した味方と味方が衝突し合い潰し合い齎す被害報告なのだった。操縦するロボットの視界が乱れた映像で操縦者が見つめるモニターに映っている。複数のモニターの中のひとつに、虎型の魔獣模機が迫る視界があった。
「『タイガー』の暴走を確認」
「ガアッ!」
 虎型の魔獣模機が吠えて、まるで本物の魔獣の如く鋭い爪の暴力を振るい、凶爪に小鳥をひっかけた。
「ピ……」
 囮として別の通路に誘導していた小鳥は、呆気なく地面に落ちて物言わぬ残骸と化した。
「可愛い可愛い小鳥さん、生まれてきてくれてありがとう」
 報告に悼むような優しい声を捧げたのは、占い師兼研究者の『テンペスト・オブ・ゼタバイト』。
 楚々とした仕草に長く艶やかな夜色の髪の内側、明るいインナーカラーがしゃらりと広がり――ひと房、此処に来る途中の戦闘で切り取られて不揃いになった髪に手を添えて。心配する他者に、「怪我もないし、髪もまた伸びるわ」と微笑んだ彼女。
 彼女の慈愛に満ちた唇が気遣うように囁いた。
「落ち着いたら、どの子もみんな直してあげましょうね」
 誰にでも優しく母のように接することから、一部の人に『練達のお母さん』と呼ばれるテンペスト。そんな彼女が安心させるように微笑んで周囲に視線を送れば、その空間はふわりとあたたかになって明るさを増すようだった。
「そう――直せる。どれだけ粉砕されても、直す。都市も復興できる」
 エメスは白衣の血痕に視線を落としてから、ログインルームの扉に視線を移した。
「だけど、『死んだら終わりだ』。だから、ボクたちは挽回が利かない大切なモノをこそ、守らなければならない」
 そのやりとりを交わす間にも、味方のロボットが破壊され敵ロボットが進軍してくる。先頭を進む一体に味方の一体が体当たりするように向かっていき、破片を散らしながら地面に転がり、ぐしゃりと潰される音を立てて後続に踏まれていく。その道のりには幾多の残骸が横たわる。血液の代わりにオイルを流し、火花を散らし、同型同機が並んで壊れて、どちらが味方でどちらが敵かも動かなくなってからでは区別もつかない、そんな通路。


●Section C
 フルダイブから覚醒したプレイヤーには「おはよう」でも「おかえり」でもなく、警報音が騒がしく異常事態を伝えていた。
「時間がありません。これ以上の人数を集める余裕もありません。けれど、守らなければなりません」
 特別研究棟『ヘキサゴン』C区画に集まったイレギュラーズに作戦内容を伝達される。
「R.O.O内では、イレギュラーズのプレイヤーキャラクターたちが決戦の真っただ中です。ログイン中の彼らの肉体を守るため、ログインルームを防衛するのがこのチームの任務です」
 イレギュラーズは、8人。
「援軍は期待できません。ゲーム内外各地で戦闘が展開されていますから」
 どこも人手が欲しいのだ。一騎当千のイレギュラーズともなれば、なおの事。
「味方ロボットの前線崩壊、もう保ちません、突破されます!」
 悲痛な声が響き渡る。
 防衛チームの研究員や技術者は普段からろくに運動もしないような痩せぎすだったり太っちょだったりするけれど、蒼褪め震えながらもいざとなればその身を投げ出してでも敵の進行を止めようという悲壮な覚悟を見せている。イレギュラーズを集めて布陣するこの段階に至るまでにも、犠牲は何人も出てしまった。友や仲間の犠牲を想えば、託された意志を思えば、自分も覚悟を決めずにはいられない。
 背後に守るログインルームにいる『彼ら』は戦っているのだから。
 ログイン中の無防備なその体は、信頼の証でもあるのだから。
「――通さない!」
 叫んだのは誰だっただろう。自分かもしれないし、他の誰かかもしれなかった。
「そうだ。俺たちは諦めが悪いんだ」
「諦めがよかったら元の世界に戻るための研究なんてしないからな……!」
「あの人たちがログアウトしてくるまで、守る」
 手には使い慣れない銃や金属棒を持ち。

「どうも、自己犠牲精神は伝染するんだね。まあ、蝶や小鳥を多少減らすぐらいなら、できるかもしれない」
 エメスは肩を竦めてテンペストを見た。
「何か助言がある?」
 テンペストが天啓めいた聲を響かせる。
「『ドクター』が敵の盾を務めることでしょう……あの子は暴走しても、まわりのみんなを守ろうとするのね」
 銃を携えた単眼重量二脚ロボットが群れの奥から姿を現すのは、その言葉の後だった。

(私も、この世界の子供達、別の世界の子供達。誰もが平和に、安心して暮らせる未来の為に頑張るわ)
 テンペストは優しい瞳に決意を籠めて前を見た。ほんとうは、惨劇に満ち満ちて悲鳴と悲嘆溢れる都市がつらくて痛ましくて、耳を塞いでしまいたいほど。けれど。
(弱音なんて吐いていられないの)

 ――大事なものがいっぱいあるの。
 それは、この日この場で戦う全ての人がきっとそう。
 ――ふしぎね。

 私たち、みんな、お互いのことをわかり切ってるわけじゃ、ない。
 みんなひとりひとりが色々な世界からやってきて、価値観や文化、常識も様々で――でも、こうして事件が起きるとみんなが一緒になって……目の前の命を助けたいと思うの。
「私、この都市が好きよ」
 ここに生きるみんなを、愛してる。人も機械も、みんなみんな。

GMコメント

●オーダー
・成功条件:C区画でログイン中のイレギュラーズの肉体を守る。
 C区画内は現在、暴走したロボットたちによって危険な状態になっています。
 戦闘場所:特に指定がなければログインルームに向かう長い通路での戦いになります。敵の進路上に今作戦に参加するイレギュラーズのパーティ、その後方に研究員や技術者たち、そのさらに後方にログインルーム、という状況です。

●エネミーデータ
 暴走したロボットです。このロボットたちは、元々都市の研究者たちが制作し、都市のあちこちで人々の身近な存在として働いていました。例えば、病院の小児科で子どもたちの笑顔を守っていたとか研究員の仮眠室や医務室付だったとか、だいたいそんな感じです。

・『蝶』型 x多数
 飛行ロボット群。
 小さく俊敏。耐久力と攻撃力は低いですが数が多いです。飛行しつつ散布する鱗粉は敵対存在を魅了・足止めする能力あり。

・『小鳥』型 x多数
 飛行ロボット群。
 小さく俊敏。耐久力と攻撃力は低いですが数が多いです。体当たり攻撃をしてきます。

・『ドクター』単眼重量二脚ロボット x1体
 中型。麻酔薬入りの弾が入った銃を携えています。動きは遅いですが、装甲は厚く機体修復能力も備えています。

・『タイガー』魔獣模機 x1体
 中型。俊敏。鋭い牙と爪を持ち、攻撃力が高いです。

●PCのみなさん
 この作戦に参加するみなさんの設定は各自におまかせです。
 C区画でログアウトし、そのまま防衛に参加したという設定もよいでしょうし、外や近くで戦闘していたけれども転戦してきた、という設定もよいでしょう。特に何もしてなかったけど気が向いたので守りにきました、でもよいです。

●味方NPC
 この防衛チームは、「現地NPCたち+イレギュラーズの8人パーティ」です。
 現地NPCたちは研究者や技術者メイン、普段は引き篭もってデスクワークしてるような人たちです。銃や棒で戦ってくれるようですが、あまり戦力として期待できません。
 最前線で戦うイレギュラーズパーティが苦戦する様子を見せたり撤退することがあれば、現地NPCたちは命を賭してPCを庇ったり、ログインルームの扉を守ろうと行動することでしょう。

・エメス・チャペック
 イルミナ・ガードルーン(p3p001475)さんの関係者です。
 年齢不詳のロボット工学者、特に機構部分を得意とする研究者。自他ともに認める天才で、実力の伴う自信家ですがイレギュラーズに会う前は研究が行き詰まり、苛立つ事もあったようです。

・テンペスト・オブ・ゼタバイト
 Tricky・Stars(p3p004734)さんの関係者です。
 占い師兼研究者(研究者が本職)、得意分野は化学(特に宇宙化学)。誰にでも優しく、誰にでも母のように接することから、一部の人に『練達のお母さん』と呼ばれているようです。

・研究者や技術者たち
 C区画のログインルームを守るために手を尽くしている数人チームです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

  • <ダブルフォルト・エンバーミング>Break完了
  • GM名透明空気
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年12月10日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
松元 聖霊(p3p008208)
それでも前へ
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
シオン・シズリー(p3p010236)
餓狼

リプレイ

「……っは、やっとクエストを終えて出てきたら、こんなことになってたのか!」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が現実世界に覚醒し。
「ああ、おかえりなさいませ!」
 研究員が焦燥を伝える声色で状況を説明する。
「休む暇もないな! だが、まだR.O.Oへのログインを続行してる仲間が中にいるのだから、ここを通すわけにはいかない。
守り抜く!」
「こうなる可能性を考えてはいたが。流石に、実際にやられると少し堪えるモノがあるな?」
 『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)がログイン装置から身を起こし、猫耳をひょこりと揺らす。
「まぁいい。迎撃地点まで走っていけば、少しはウォームアップになるだろうさ」
 交わす視線には迷いなく、駆け出すのは同時だった。



「まずは数で圧倒するのが常道とは言え。流石に造りすぎだろ、これは」
「まったく、あちらもこちらも忙しい事です」
 『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は連戦の疲れを露ほども見せず曇りなき眼鏡越しに防衛チームに指示を出している。人脈を使い事前の根回しにより築いた基盤。研究員や技術者にとって好感の持てる無駄を省いた的確な指示。提案には慣れている――静かな自負。驕りではない。それは事実でしかない。
「敵は我々が食い止めますが、打ち漏らしがあるかもしれない。皆さんは我々より後方、可能であればログインルームの入り口を固めてください。万一敵がそちらに向かった場合は、一体を全員で集中攻撃。いいですね?」
 それは誰もが納得する、望む解へと至る道筋が明確なビジョンの共有。
 合流したイズマが合わせて声を響かせる。
「最前線に出て戦うのは俺達の役目だ。研究者と技術者の皆さんには何としても生きていてもらいたい。何故なら、ログイン等の設備を整えられるのは皆さんだけだからだ。そうして土台を作ってくれるからこそ、俺達は戦えるのだから」
 イズマの指示でバリケードが創られていく。
 寛治が頷き背を向ける。
「では、ログインルームと仲間の身体は、皆様にお預けします」

「どこもかしこも大変ね! 助けに来たわ!」
 『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)が凛として。
「ここを守らないと向こうのみんなが危ないのでしょう? なら張り切って守り抜かないといけないわね!」

「大切な街、大切な世界を守るため!イルミナは頑張るッスよ……!」
 『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)が溌剌とした声で。
「というわけで!お待たせしましたエメスさん! イルミナが来たからにはもう安心ッス」
 拳を固め、背を見せる。
「これが終わったらまたメンテ、お願いしますよ!」
「変な呪いは今回は遠慮するからね。ああ、それと。この騒動が落ち着いたらキミにもう一つ依頼したい事が」
「フラグッスか?」
 緊張感が抜ける声をあげたイルミナに少年姿のエメスがくしゃりと笑う。
「一緒に生き残ろうね」

「稔ちゃん!」
「御命令いただかなくともやるべきことは理解しております」
 『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)がテンペストに恭しく頭を垂れる。
「勿論、貴女のお考えも分かっていますよ、主様。こちらで貴女と会うのは召喚されて以来数年ぶりですが、元居た世界では数百億という長い年月を共に過ごしたのですから」
 弱きを助け、守ること。
 一人の犠牲も出さないこと。
「その志自体は共感しますが『いざという時は体を張って守ろう』なんて無茶は止めてくださいね」
 朝焼けを掬い取ったような髪をテンペストがそっと撫でる。
「ええ。お母さんは見ているわ」

 松元 聖霊(p3p008208)が高く掲げる杖を皆が視ている。
「仲間の為に、死んだ友の為に震える足に力入れて立ってんのは立派だ。でもお前らが感じる恐怖は当たり前のものだ、その上で伝えるぞ」
 技術だけでなく、言葉が。姿が。杖が。患者自身の心が、戦う力となる事を聖霊は知っていた。
「絶対に前に出るな。死ぬな。死にさえしなけりゃどんな重症だって俺が絶対に治してやる」

「あたしはイレギュラーズになったばっかりで、しかもその時にゃすでにこの騒動は始まってた。だから、寝てる連中のことはさっぱり知らねえが……」
 『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)は背後をちらりと視て軽く首を傾げた。
「まあ、先輩方に恩を売っとくのも悪くねえだろうさ。そういうワケで、せいぜい暴れるとしようか!」



「隊列を組んでいる。先にドクターをタイガーと離さなければ隔離もできまい」
 イズマが敵の数と位置を知らせた。
「それと蝶と鳥が多い」
「やはり援護を」
 自分たちも前に出て数を減らそうかと意気込む研究者たち。
「いや。下がっていてくれ」
 それは、選択。

 ドクターを先ず叩く。
 パーティの方針が定まれば、最速のヴィリスは迷わない。
 未だ転がり続ける賽の末、死線のカーテン見極めて。
「いくわよいくわよいくわよ!」
 レーザーサイトを掻い潜り、瞬きのタランテラは鮮やかに開幕を彩る。
「舞台の最中に楽屋を覗くのはマナー違反よ? あなたたちを通すわけにはいかないの」
 過去の後遺症が身を蝕めど黒靴のバレリーヌが義足で奏でる刃音は気高く澄んで、2撃――3撃。疾く目まぐるしく翻弄する舞手。それが彼女だ。
「実に濃い」
 対照的な白纏う仙狸、汰磨羈が瑠璃の瞳に共鳴するような戦意を昇らせ、厄式邪剣で露払い。
「――この影」
 艶やかに笑み、じゃれるように大太刀を舞わせ。
「影法師は光あらばこそ踊るものよ」
 落ちる蝶の隙間を舞うヴィリスは嫣然と笑み。
「ダイブ時間が長かったせいで、体が少し硬くなっているからな。解す為に暴れさせて貰うぞ」
 汰磨羈の妖刀が人工灯を反射してぎらりと光り、水行のマナが凝縮する。
「生憎だが。ここから先は、猛獣お断りだ!」
 タイガーが吠え、ドクターの単眼が敵を捉えて燃えるような色に輝いた。銃口が動くより先にイズマが最前線に声を反響させる。
「俺が相手だ。俺より先には行かせない!」
 途端に周囲の敵が排除すべき最優先対象をイズマに定めた。
「そうだ、この道は通さない!」
 後ろを守る声はTricky、終焉のパーピュアを閃かせ。
 イルミナがフリーのタイガーを抑え込んでいる。
「こっちッス!」
 両腕で敵機をがっちりとホールドし、暴れるタイガーと縺れ合うようにしながら通路脇に開いた小部屋の扉に飛び込んで。
「今です」
 端的に指示を下すのは、寛治。
 死を齎す紳士の長傘のスコープには敵だけが狙われている。通路へと転がり部屋から脱出するイルミナ。追おうとするタイガーへと容赦なく撃ち込まれるラフィング・ピリオド・ハードヒット。指示に応える技術者の操作で扉が閉まる刹那、魔弾が滑り込む。
「タイガーの隔離に成功、味方被害なし」
 報告は淡々と事実を伝えるのみ。

 ――カラン。
 使い捨ての追加装甲が床を転がる。敵の攻撃の多くはイズマに集中していた。
(助かる!)
 シオンが前傾で駆け、低い位置から短剣アステラを躍らせる。鋭い軌跡は厚い装甲に傷を刻み甲高い悲鳴めいた金属音を奏でた。左から右へと走り抜ける紫電、踏み込む足の付け根から駆け上る衝動。鳩尾からじわじわ疼く情動。
 ――眉ひとつ動かしてやるもんか。喉奥にせり上がる熱を飲み下し、秘めて溜めて戦う力に変えていく。
 手に伝わる敵の装甲の感触は固い。あまりに硬い。
 反発するように我武者羅に力を籠め、下から上へと切り上げる。

 差し出した手を誰かが取ってくれただろうか、あたしの手を。
 幻想は、期待は、善意とやらは。家族は、父は、――涙は、何かを返してくれただろうか。

 マントが翻る。
 吠えてなんかやらない。
 そんな無駄な熱を吐いて、こんな世の中で生きていけるほど甘くはなかった。
 幻想を斬り捨て無駄を削ぎ落し、理不尽に高まる怒りと憎しみを刃に変えて、斬る。



 聖霊が声を張り上げる。戦いの音を自らの声で塗り替えるように。
「『ドクター』って名前を貰ったのか。奇遇だな、俺も医者をやってんだ」
 杖を振り仲間を癒す。その力に包まれたなら、イズマが倒れる事はない。射程を読み、弾道に割り込んで鋭利な乱撃で群がる小鳥と蝶の一群を地に落とし音を発する。流れ出るのは挑発的な音。満身創痍となってなお、その身がより多くの敵を引き付け、盾となろうというのだ。

 後方に流れた残兵が非戦闘員を狙うより先にヴィリスが進路に割りこむ。
 傷に痛みを重ね思い通り動かぬ手は可能性を掴む感覚を知っている。故に凛として前を向き美しく踊る――至極自然に、当たり前に。華奢な躰に収まりきらぬ無限に羽ばたく自由な魂が昂然と敵を翻弄し、傷を重ねる。
「私は私の仕事を。皆は皆の仕事を――それが勝利につながる。それが、私達のいつも通り」
「ええ」
 鋼の驟雨が応えるように降り注ぐ。2人分。
 スーツに付着した鱗粉を払い、涼しい顔の寛治が頷いた。
「虫一匹たりとも通すつもりはありませんよ」
「怪我人は下がれ! ログインルームの中にでも隠れとけ」
 シオンが道を塞ぐ。背に注がれるのは感謝と羨望、信頼――むず痒い。
(あたしは善人じゃねえ)
 表情は動かないまま、獣の耳を倒して言い放つ言葉は刃に似て、芯に優しさを秘めていた。
「目の前で他人に死なれるのは寝覚めが悪ぃからな」

 小鳥が弾丸めいて突撃してくる。
 撃ち落され、引き付けられ。けれど、幾つかの手は後衛にも及ぶ。
(だが、これでいい)
「麻酔科のロボットだったんだな?」
 アスクラピアの杖が示すのは、抗う道。立ち向かう意志。鋼鉄の腕の破片が床に転がる。損傷を気にした様子もなく、防御に徹することもなくイズマは群がる敵を減らし続けている。その背を支えるのは、ヒーラーの仕事だ。イズマに杖を向けて稔と背合わせに治癒を送りながら聖霊がドクターに語り掛けている。
「お前みたいな優秀な麻酔科医が居れば手術もやりやすかったろうな」
 聡明なる片目紫を瞬かせ。
「そうやって制御を喪ってさえ、まだ皆を護りたいんだよな」
(俺達もだ。だから、非戦闘員を下げた)
「でもお前はもう暴走しちまってる」
 勢い付いた鳥の突撃が脳天を揺らす。膝を付き、霞む視界と思考。背で稔が声を上げている。
 数式にも似た覆らぬ現実法則を理解するからこそ医術は成る。医師だからこそわかる肉体の限界がある。呼吸を繰り返し、脈動を意識し、痛みに喘ぎ。

 笑みを象る患者の口元を思い出す。
 父の震える手を思い出す。
 痩せて骨ばって、ひんやりとして――その指が聖霊の手を握った感覚を覚えている。


 ああ、戦うんだ。
 ――限界なんて超えてやる。


「感染した細胞は感染を広げない為に自壊するけど、お前はそれすら出来ねぇんだよな」
(緊急手術だ、気合い入れろよ俺)
 屈さず、諦めず。
「俺にとってはどんな聖者だろうが極悪人だろうが、機械だって変わらねぇ――だから俺達が救ってやるよ」
「聖霊君!」
 薄く発光する羽根がその身を包み込む。それは、祝福にして救済。稔だ。血を滴らせ、荒い息を繰り返し懸命な顔で相方ヒーラーを支えようとしている。
 砂時計を落ちる砂。
「俺は」
 橙色が歯を食いしばり。
 手の中から零れる命を知っている。
「私は、」
 揺らいだ。刹那、躓いた事を思い出したから。
「ここは――」
 悪夢だ。悪夢の中で踊っている。
「――俺が」
 青の虚が口の端を持ち上げる。
 纏う色が揺らいで補色に移ろい人格替り。朝焼けが海に溶け、夕映えが星求め夜騒を迎えるように、2人セットなのだ、Tricky・Starsは。
「……支える!」

「稔ちゃん」
 テンペストは優しくじっとその姿を見守っている。手を出す事無く、駆け出す事もなく。祈るように、信じるように手を組んで。
 ――劇は、たのしい?
 テンペストは言葉を飲み込んで両の手を叩いて音を騒がせた。
「お母さん、観ているわ。お母さんが、見ているわ」
 いつも。ずっと。
 その優しさも哀しみも狂気も全て丸ごと、どんな色を見せても笑っても泣いてもいかなる時も――愛している。



 汰磨羈が小鳥を誘い込み、ドクターにぶつけて二又の尾を揺らす。
「いい頑丈さだ。盾代わりに丁度いい」
「ドクターを沈めるわよ」
 華やぐ聲はヴィリス。羅針盤は胸の奥で標を示し続け。淀みなき葬送の調べに導かれるが如く、残像さえ質量を持つかのように攻め立てるのはイルミナ。
 不可能を可能に変える力の体現者の如く。届かなかった頂きを目指す標のように。
「了解ッス!」
 声は、明るい。年頃の少女の声だ。
 イルミナは人のような自分を自覚していた。

 似ていると思っている。
 『似ているだけで違うと思っている』。

「ふん?」
 汰磨羈が白霊装を翻し、一息に距離を詰めている。単眼に映る猫武者のかんばせは蠱惑的に笑み、放つ汞手は世界の彩を反射し万華鏡めいて煌めいて、敵の装甲と邂逅すれば頑なな守りを蕩けさせ弄ぶように。
「……もう、鎮まるがよい」
 間近に単眼を覗き込むように切れ長の瞳が哂い、両手がその鋼鉄を霊力に変えながら柔らかにボディを撫ぜる。
「人と共に在りし者よ」
 かく撫でられたのだろう。嫋やかに繊手を滑らせて。
「守りし者よ」
 ――制御できない兵器など、欠陥品でしかないぞ。まったく。
「御主も」
 愛されて人の温もりを知るのだろう。
 霊力が回帰する。戯れに霊力の波打つ表層に頬寄せて、瞼を閉じて囁いた。


「       」


 胸に手を当てる――そこにココロがあるのなら。
 イルミナは感情を覚える。
 これはプログラムだとどこかで思う自分がいる。
 シグナルが駆け抜ける。

「もうお前は充分頑張った、仲間を沢山護って、沢山治したよ」
 聖霊がドクターの単眼をじっと見つめていた。まるで、そこにソレが『ある』みたいに。
「もう、休んでいいんだ」
 敵も味方も、ボロボロだ。
「君はもう限界だ。あとは――」
 稔が治癒の力を注ぎながらその声を聞く。
「ロボットは……すまない、今は壊すしかなかった。後で直してやってくれ」
 イズマが誰かに謝る声を。
「あ……」
「そして、限界は越えるものだ。……と、彼が手本を見せてくれたな」
 挫けず屈さぬ魂が生きるのだ。この舞台には。
 人格がゆらり入れ替わり、都度纏う色を変えるTricky・Stars――背には柔らかな羽根をひろげ、聖体頌歌を響かせて。癒され、意識を取り戻した者の眼に映る光景は神聖な宗教画めいていた。


 嗚呼、此処に――神聖な天使が顕現している。

 世界から、現実から目を背けて都市に引き篭もり、論理を重んじ理論固めに身を護る研究浸りで頭でっかちの大人達の心の奥の奥、柔らかな琴線に眠る本能に似た感情が刺激され、人々は気付けば手を組み、十字を切り、各々の故郷の方法で祈っている。


 単眼の光が消えたのは、その時だった。
「やった!」
 ドクターが倒れ、蝶が落ちてチームが歓声をあげる中、エメスはモニターに映るイルミナを見ていた。扉が開き、寛治による傷の影響色濃いタイガーが牙を剥いて。スーツ姿を未だ乱さぬ寛治が銃声を轟かせ、その斜線を把握した動きで前に跳び、宙でくるりと廻ってタイガーの背に掌をついて動力を吸い上げ。損傷して尚――追い込まれる程強くなるその拳。

「行き詰っていた」
 迷子のように呟く声は、誰にも届かぬ独白だ。
 袋小路にキミが現れた。
「……キミが。キミ達の存在が未来に繋がる新しい道になったんだ」

 正確無比に照準合わせ、寛治がトリガーを引く。戦い慣れぬ者であっても歴戦の貫禄を肌で感じ取り、一弾一殺の余韻に報告の声すら止まる。
「アンタも打撃力には自信があるみてえだが、あたしも腕っぷしだけはそれなりに自身があるんでね! どっちの牙が鋭いか、勝負といこうじゃねえか!」
 シオンがトドメを差す聲が静寂を導いて。
「タイガー、撃破ッス!」
 一瞬の静寂を破るのはイルミナの声だった。八重歯をのぞかせ、愛らしい笑顔で手を振る姿がモニターに映ると、凄惨な現場において清涼剤のように皆の心を和ませ、癒す効果を齎して、世界の明度が数段あがったように陽気な空気がチームの間に立ち込めて、釣られたように数人が手を振り返し笑顔を見せる。
 これもまた、特別な力だ。
 それはひとつの強さの形なのだ。

「ドクター……」
 汰磨羈の耳が音を拾い上げる。
 残骸に向けられる聲。
 昨日までは、誇らしく頼もしい存在だった。
 汰磨羈は澄ました顔でじっと聞きながら妖刀で残党を狩る。
「最後まで気を抜かずに」
 スーツを汚す鱗粉を気に留める事無く、寛治は戦況を俯瞰して鋼の驟雨を追加した。
 至高の青薔薇を知る身に蝶の魅了が効くはずもない。宝石めいた煌めきも、星々の涙雫に似た輝きも、どれほど光を放っても霞んで色褪せて寛治の感性には露ほども響かないのだ。
 発砲の反動も感じさせぬほど静かにエージェントは仕事をこなす。
 その姿を見れば高揚していた現場の者は皆落ち着きを取り戻し、己の職務を全うせんと機械の部品と化したように動き出すのだった。

「負傷者は?」
 ヴィリスが全員の無事を確認し、声をかけている。
「これで奥にいる役者の皆は守れたのかしら。まだまだ大変だろうけれど頑張って頂戴ね」
 ――今の私にできるのはこんなことしかないけれど応援しているわ。
 仮面に覆われて一層魅力を増すような華麗な笑顔。それを手向けにプリマは義足を鳴らし次の舞台へと移る。揺るぎない覚悟を抱いて。
 誰も、その背を止められない。
 誰も、その歩みを邪魔できない。
 それは圧倒的な『自由』の風なのだ。

「稔ちゃーん!」
「あの2人はどういう?」
「私は授業参観のノリかと思いました」
「いや、主従でしょう」
 周囲は疑問を抱きつつ、微笑ましく2人を見守っていた。

「バリケードでいくらか防げましたよ。被害が抑えられたのは、イズマさんのおかげです」
 技術者が礼を告げている。
 聖霊はロボットの部品を譲り受けた。
「診療所に飾ろうとかと思ってよ」
「部品を?」
「こいつらは造られたとはいえずっと子供たちのこと見守ってきたんだろ。それをこんな形で奪われちまった、ドクターに至っては暴走して尚味方守ろうとしてたんだ。その献身を無かったことに俺はしたくねぇんだ」
 製作者はそれを聞いて頭を下げた。
「どうぞ。だけど、ボクだってこの子達を無かったことにする気はないよ」
 長い白衣を翻し、大切なイルミナを引っ張るようにしてメンテナンスルームに向かうエメスが汰磨羈とすれ違う。猫耳には小さな声が届いていた。

「……欠陥品で悪かったね」
 ――助けてくれてありがとう、と。


「……クエストを終えて出てきたら、こんなことに!」
 まるで冒頭のような台詞をログインルームから出てきた者が言えば、仲間達は顔を見合わせて笑った。

 彼らは、守り抜いたのだ。

成否

成功

MVP

松元 聖霊(p3p008208)
それでも前へ

状態異常

イズマ・トーティス(p3p009471)[重傷]
青き鋼の音色

あとがき

おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆さん。
防衛は成功です。EXプレイング含め、熱のあるプレイをありがとうございます。
MVPはパッションが光るあなたに。相談も拝見していました。

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