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シナリオ詳細

<ダブルフォルト・エンバーミング>エポナの夢

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 終末だ。それを正しく体現した獣が地へと姿を現した。
 荒れ狂う波濤の如く、砂を巻き上げる。無風、されとて荒れた空より飛来するのはラグナヴァイスと呼ばれた存在であった。
「行くのかね?」
 竜王ベルゼーの言葉に巨大な鋏を背負い上げた『亜竜姫』珱・琉珂は「止めないって言ったじゃない」と唇を尖らせた。
 亜竜集落『フリアノン』。巨大な竜種フリアノンの遺骸が被さった洞窟に形成された亜竜種達の住処では避難が完了している。
 傍らに位置する砂嵐の影響を受けないと言い切れない。山々により立ち塞がれたこの領域でも亜竜種は脆弱なる生き物なのだ。
「私は亜竜姫としての役目を確りと終えたわ。民の皆には『竜骨の道』に近付かないように言ったもの。
 ワイバーンの子供のお世話も一先ずは取りやめ。食料の備蓄を行うように指示を出したの!」
「食料の備蓄……はあ、『万が一、外が駄目になったとき』かい?」
「ならないとは限らない。けれど、最悪を想定するのが統治者の役目――でしょう?
 まあ、ならないようにしに行くのが私なのだけれど!」
 琉珂はくるりと振り返る。巨体を屈ませて座っていた眠たげなオルドネウムは欠伸をかみ殺してからゆっくりと立ち上がった。
 竜種の子であるオルドネウムは奇妙な因果でフリアノンにて育てられた数少ない『友好的な竜』とも言えよう。
 利害関係の上で、亜竜種と協力する竜種もいるがオルドネウムと、そして彼と共に育った兄弟――『地生竜』スェヴェリスにとってはフリアノンは故郷、そして此の地の亜竜種は家族なのである。
「オルドネウム、起きようよ、大変のよ。流石に琉珂に怒られるのよ?」
「……我は此処で居眠り……いや、守護をしておるのでな。琉珂、それからスェヴェリスは行ってくるが良いぞ」
 微睡竜は相変わらずだ。其れを眺める地生竜はのそりと大きな体を動かして「ベルゼー」と呼んだ。
「らしいのよ。どうするのよ?」
「……置いていっても構わないけれど。オルドネウム君、君……」
 ベルゼーが何らかの言葉を紡ごうとした途端に、跳ね上がらん勢いでオルドネウムは「背に乗せ、琉珂」と声を掛けたのだった。

 ――遥か、見下ろす砂漠は絶望の有様であった。
 幼い頃に王の目を盗んでオルドネウムと空を駆ったことがある。
 竜種の背に跨がるなど奉仕種族とも称された人の子、亜竜種が本来犯してはならぬ領域であったのだろう。
 それでも幼い頃から共に過ごした気心の知れた彼は琉珂を背に乗せることを好んでいた。その言葉に甘えたのだ。
 フリアノンを抜け出して他の竜種や亜竜(モンスター)に見つからぬようにと幼い大冒険を繰り広げた二人は見た。
 無味乾燥とした砂漠に点在した緑、美しき泉。オアシス。そして『自分たち以外の人の営み』を。
「きれい」
 そんな言葉を呟いたことが、今も思い出せる。思い出せる――と、言うのに。
「オルドネウム……あれ……」
「集落は消え失せておる。琉珂、アレは見えるか――『ベヒーモス』なる終焉の獣であろう」
「ええ、ええ、おじさまから外の情報を聞いていなかったら……あんな領域に居る竜種よりも大きな存在。正気で見て入られなかったわ」
 遥か遠くの海にはリヴァイアサンが眠っているのだという。その巨体も想像上でしか琉珂は知らず、訪れた友人達はそれを『別の世界』で倒したのだと夢の様に告げて居た。
 ならば、彼らにとってはこれはあの再来にも似ているのだろうか。
 砂漠は荒れ狂う海のように砂を巻き上げ、無風であった筈の場所を荒し続ける。
 あの日、美しいとさえ感じたオアシスは見るも無惨にその姿をも『無くした』。どこにも人の営みの影は無い。
「……クスィラスィアは無事かしら……」
「スェヴェリスが見に行ったのならば直に教えて呉れるであろうよ」
 そうね、と琉珂は呟く。口内にまで入り込んでくる砂がじゃりと音を立てたが構っては居られなかった。
 あの絶望的な存在の元に、援軍に向かわねばならない。追い縋るように――二匹の竜を連れて。
「怖じ気づいた、って言ったらどうする?」
「ならば直ぐに領域へ戻ろう」
「バカね、バカだわ! アナタって、私が『おともだち』を見捨てると思って言っている?
 それとも、冗談としてその言葉を並べただけ? どっちでもいいけど……私って、結構未練がましい女なのよ。
 折角出来たお友達と簡単にさようならなんてできないんだもの。それに、アナタも約束したでしょ? オルドネウム」
 ――外に連れ出したいと。
 そんな風に笑ったイレギュラーズにオルドネウムは「竜種等を外に出すとは愉快な奴らよ」と囁いた。

 これはゲームの世界だから。
 そう言ってしまえば簡単だ。現実ではオルドネウムも、地を這い琉珂の支援を行うスェヴェリスも居ないかも知れない。
 居たとしても同じ関係を結べるかは分からない。全てが架空の世界だからこそ成せることがある。
 例えば――彼女が竜種と共に援軍にやってくるだとか。
 例えば――


 終焉の獣『ベヒーモス』
 その一歩が生み出すは虚。
 重苦しくも、地をも揺らがすその一歩を食い止めんとするイレギュラーズ達は更なる援軍を受け入れ、戦い続けていた。
 霞帝を始めとした神光、そして砂嵐の傭兵団に航海の民達。各国へと援軍要請を行うイレギュラーズ達は此の地への集結を望んでいるのだろう。
「いやはや……あれだけ大きいとおっかなびっくりよりも脚が竦むと言いますか……」
 紅宵満月(p3y000155)はそう呟いた。
 彼女の視線の先では幾人もが戦いを続けているのが見て取れる。
 例えば、死しても何度でもを繰り返す ルージュ (p3x009532)。
 例えば、戦場(Dance hall)でcoolに決める崎守ナイト(p3x008218)。
 そして、フリアノンを心配し彼の地の方角を見つめる三月うさぎてゃん(p3x008551)。
 三人に共通するのは竜の領域へと縁が深いことだろうか。ナイトはグループで、ルージュや三月うさぎてゃんは個人での踏破を目指していた。
 そんな三人だからこそ、満月は声を掛けやすかった。
 彼女達ならば屹度――『彼女達のピンチ』を救ってくれると考えたからだ。
「ベヒーモスへの救援を要請したい場所があるんだ。
 けど、『救援に応えてくれた』あの子達は、終焉獣に行く手を遮られてるみたい。だから、助けに行って欲しいんだ!」
「Hey、構わないぜ? 救援(ピンチヒッター)を頼んだってんなら社長(president)が迎えなくちゃな」
 笑みを浮かべるナイトは仲間達を振り返る。自身でなくても良い。救援に応じてくれた仲間を僻地でみすみす殺すわけには行くまい。
 ルージュはくるりと振り返り「何処まで迎えにいけばいいんだ?」と問いかけた。「満月ねー」と呼ばれた満月は小さく頷く。
「ベヒーモスの進行とは逆の位置――向かって欲しいのは南だよ」
「南……クスィラスィアか!?」
 満月が頷けば、その言葉に三月うさぎてゃんが「琉珂さんたち!?」と驚愕したように目を見開いた。
「琉珂さんたちがこっちに向かってきてるの?」
「うん。クスィラスィラの民は入り口を閉ざしているから難を逃れてるらしい……んだけど、琉珂さんたちはラグナヴァイスに行く手を遮られてる。しかも、数が多いんだって」
「そーか。終焉(ラスト・ラスト)が近いもんな。琉珂ねー達を迎えに行って、其の儘逃げながらここまで来たら良いって事か?」
 満月は頷く。
 終焉(ラスト・ラスト)から飛来してくる終焉獣(ラグナヴァイス)をある程度打ち払い、増援として彼女達を誘う。
 それが今回のオーダーである。勿論、追撃は行われるだろう。ベヒーモスにまで合流してしまえば、それらは取り巻きの有象無象と同じ。此の地でイレギュラーズによる撃滅作戦が行われている以上、全てを撃破しなくとも一緒に撃破することも可能なはずだ。
「……ねえ、あの、満月さん」
 マッドハッターの使いっ走りを名乗る練達の研究員に三月うさぎてゃんはそろそろと問いかけた。
「その……どうして琉珂さんたちの現状が分かったの?」
「あ、ああ」
 それはね、と。満月が足下を見下ろせばルージュとナイトの体が突如として持ち上がる。
「スェヴェリスがいるからなのよ」
 地中より体を持ち上げたのは巨大な亀を思わせる竜であった。
「背中に乗って欲しいのよ。スェヴェリスは地ではさいきょーなのよ」
「と、言ってるオルドネウムの兄弟に当たる竜種が琉珂ちゃんの使いっ走りでやってきまして。
 ……凄いね、電脳空間。竜種との共闘できるなんて、ファンタジー極めちゃってるよ!」
 呟いた満月にスェヴェリスは首を傾いでから「のるのよ」ともう言った。
「スェヴェリス、地中に潜れるのよ。でも、皆を乗せたら潜れないのよ。
 だけど、スェヴェリスは少しだけ姿を隠せる力があるのよ。それを遣って皆と琉珂のところにいくのよ」
 スェヴェリスは地中に潜り移動することの出来る竜であるそうだ。大地に同化し、自身の体に張り付いた存在諸共気配を幾ばくか隠せるらしい。高機能な光学迷彩と呟いた満月ははっとしたようにイレギュラーズを見遣る。
「『亜竜姫』琉珂と、彼女を背中に乗せてるオルドネウムを助けに行って欲しいんだ。
 大丈夫、スェヴェリスは信頼できる竜だよ。この子と助けに行って、もう一度合流したら……次は竜種も加えたベヒーモス狩りに移れるんだからね!」

GMコメント

 夏あかねです。ダブルフォルト・エンバーミング、事態の変化に伴い『竜の領域』の援軍が……

●目的
『亜竜姫』琉珂&『微睡竜』オルドネウムをベヒーモスの戦場まで誘導すること

●フィールド情報
 シナリオは琉珂にほど近い位置からスタートします。皆さんはスェヴェリスの背に乗って移動中です。
 終焉獣の数が増え、『大騒ぎする声』が近くに聞こえてくることでしょう。
 ベヒーモス(ゴール地点)とは随分と距離が離れています、が、竜の力を借りて移動する為に距離は余り問題ではなさそうです。
 どちらかと言えば多すぎる程の終焉獣を打ち倒すことが必要です。
 何もない砂漠地帯にて、終焉獣を『ある程度』打ち倒した時点でオルドネウムが移動可能かどうかを判断してくれます。
 其れまで粘ってから、スェヴェリスとオルドネウムと共に移動を開始して下さい。
 移動中も終焉獣によつ追撃がありますので、油断しないで下さい。
 リスポーン時は『戦闘中』にスェヴェリスが地中に穴を掘ってくれたので『竜信仰の民』が住まうクスィラスィラのサクラメントを使用可能です。(初期状態でサクラメントに移動は不可です)復帰には2Tを有します。

●終焉獣(ラグナヴァイス)
 あまりに『数が多すぎる』『見渡す限り居る』ような状況です。飛行タイプ、地上タイプ、様々です。
 其れ等は石花の呪いと呼ばれた特殊能力を有しているほか、戦闘能力は様々です。琉珂曰く、「直ぐに隠れるコバンザメみたいな奴が回復してくる」そうです。

○石花病と『石花の呪い』

 ・石花病とは『体が徐々に石に変化して、最後にその体に一輪の華を咲かせて崩れて行く』という奇妙な病です。
 ・石花病は現実の混沌でも深緑を中心に存在している病です。
 ・R.O.Oではこの病の研究者アレクシア・レッドモンドの尽力により『試薬』が作られました。試薬を駆使して、『石花の呪い』に対抗できます。(プレイヤー一人につき、誰か一名による1Tのギミック解除時間が必要)

 ・『石花の呪い』はバッドステータスと種別を同じくする特殊ステータス状態です。
 ・敵の攻撃がクリーンヒットした時に20%程度の確立で『石花の呪い』が付与されます。
 ・『石花の呪い』に感染したキャラクターは3ターン後に体が石に転じ死亡します(デスカウントが付与される状態になります)

●味方NPC:『亜竜姫』珱・琉珂(おう・りゅか)
 亜竜種の姫君。亜竜集落『フリアノン』に住まいプレイヤーキャラクターとも交友関係にあります。
 (特に『竜域踏破』『<Phantom Night2021>プローテウスの街角で』に参加していたキャラクターに対しては友好的です)
 巨大な鋏を有しており、戦闘方法は独特ですが近接攻撃を種としているようです。焔の魔法なども駆使します。
 オルドネウムの背に乗っており、イレギュラーズを助けたい一心でやってきました。
 終焉獣に絡まれてお怒り。「お邪魔虫ね! 空気の読めない子!」とぷんすか怒り続けています。

●味方NPC『微睡竜』オルドネウム
 まだ幼竜。フリアノンでベルゼーに拾われて育てられた事で琉珂とは家族同然に育った竜種です。
 幼竜といえども巨大です。飛行することが出来る翼を有しており、薄桃色の尾をゆらゆらとさせています。
 氷の攻撃をお得意としており、体の中が透き通っているために魔力の動きが良く分かります。
 連続攻撃が得意で吐息などでの広範囲の攻撃を行います。が、いまは琉珂を護るために実力の半分も出せていないようです。

●味方NPC『地生竜』スェヴェリス
 PCを乗せて移動する竜です。亀のようなフォルム。広い背中をしておりのそのそと動きます。こちらもまだ幼竜。
 その実力は未知数ですが、地中に潜る事が出来るほか、高機能光学迷彩と満月が称したように気配を消す技能に長けています。
 琉珂曰く「逃走するにはスェヴェリス」だそうです。ただし戦闘には余り向いていません。

●tips『亜竜種』『竜種』『亜竜』
 混沌世界では分類がそれぞれ別です。
 竜種→リヴァイアサンなど、強大なドラゴンをこれに分類します。非常に強力なユニットです。
 亜竜→モンスターの総称です。ワイバーンや、各種モンスターをそう称することが多いです。
 亜竜種(ドラゴニア)→竜(亜竜)の因子をその肉体に有している人間です。つまりは人種の一種です。特別な力を有している訳ではありません。

●重要な備考
 <ダブルフォルト・エンバーミング>ではログアウト不可能なPCは『デスカウント数』に応じて戦闘力の強化補正を受けます。
 但し『ログアウト不能』なPCは、R.O.O4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』が敗北に終わった場合、重篤な結果を受ける可能性があります。
 又、シナリオの結果、或いは中途においてもデスカウントの急激な上昇等何らかの理由により『ログアウト不能』に陥る場合がございます。
 又、<ダブルフォルト・エンバーミング>でMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
 MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
 予めご理解の上、ご参加下さいますようお願いいたします。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 R.O.O_4.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。

  • <ダブルフォルト・エンバーミング>エポナの夢完了
  • GM名夏あかね
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年12月10日 21時20分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

梨尾(p3x000561)
不転の境界
Ignat(p3x002377)
アンジャネーヤ
シラス(p3x004421)
竜空
アレクシア(p3x004630)
蒼を穿つ
リュカ・ファブニル(p3x007268)
運命砕
真読・流雨(p3x007296)
飢餓する
崎守ナイト(p3x008218)
(二代目)正義の社長
きうりん(p3x008356)
雑草魂
三月うさぎてゃん(p3x008551)
友に捧げた護曲
ルージュ(p3x009532)
絶対妹黙示録

リプレイ


 小さな頃に、夢があった。
 母さまの書斎にこっそりと忍び込んで手にした世界地図。慄く程に広い世界を旅するのだと。
 閑散とした砂と岩肌、獣の骨ばかりのフリアノンの外とは違う。鬱蒼とした腹を空かせた獣の吐息溢れる森林とも違う。
 何もかもを攫った砂の海だけではない。もっともっと、素晴らしい世界が待ち受けているのだ。
 外の本にはそう書いてあった。大きな水たまりは海と言う。草木繁った山は心地よく、石畳と呼んだ固い地面を踏み鳴らすのだ。
 困ったように笑った母さまは「叶うと良いわね」と肩を竦めるばかり。母は心の底からの応援等無く溢れる希望への諦観の傍らに佇んでいたのだ。
 こんな小さな世界から、大きな世界に旅に出て一人きりで生きていけるわけがない。
 竜の因子をその身に宿していても、所詮は人間。強くならなくちゃ生きていけないのだ。
「……って、知ってたんだけど」
 珱・琉珂はオルドネウムの背を撫でた。薄桃色の皮膚の下で魔力の輝きが透けて見える。
 可愛らしいその肢体、卵より孵ったというオルドネウムは人を好み、常に側にいてくれた。竜種に言わせれば『物好きの呆れた竜』だ。
 フリアノンを守護してくれるオルドネウムもスェヴェリスも、私の面倒を見ていてくれただけ。……巻込んだのは、私だ。
 琉珂はそう独りごちた。
 終焉何するものぞ。
 そう意気込んで集落を飛び出した亜竜姫の眼前には無数に至った終焉獣(ラグナヴァイス)。
 揃いも揃って此方を睨め付け翼を揺らす。
「ねえ、オルドネウム。私ね、とってもとっても、夢があるんだけれど聞いてくれる?」
「そんな話をして居る場合であろうか、琉珂」
「ふふ。いいじゃない。あのね、小さな頃の夢は――」
 ぎゅう、とオルドネウムの首にしがみついた琉珂は身を縮めた。終焉獣の攻撃を避けるだけでも精一杯。反撃に移りたくとも数が多すぎる。
 まるで辞世の句でも唱えるような心地で琉珂はオルドネウムの背へと擦り寄った。

「オルにーー。琉珂ねーー。来てくれたんだなーー!!」

 響いたその声音に琉珂は「ルージュ?」と呟いた。ぶんぶんと手を振って、スェヴェリスの背で踊って見せた『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)。その気分や無敵そのもの。なんたって友がここまでやってきてくれたのだから。
「琉珂さん!」
 声を張り上げ、『ネクストアイドル』三月うさぎてゃん(p3x008551)はその姿を視認する。そうして、その大きな瞳を輝かせた。
「ッ、ああ、もう。邪魔だなぁ。漸く会えるんだから邪魔しないで!」
 いつも以上に声を荒げて、偶像なんのその。今はアイドルなどと言っている場合ではない。フリアノンの歌い手たる三月うさぎてゃんは琉珂達と自身等を遮るように存在する終焉獣を睨め付ける。
「ステージへの花道を塞ぐのは何時だってマナー違反よ! 退いて頂戴!」
 憤慨する三月うさぎてゃんに琉珂が可笑しいと言わんばかりに笑う。「スェヴェリス!」と呼ぶ声にスェヴェリスは身をゆらゆらと揺らがせた。
「皆を連れてきたのよ。スェヴェリスがんばったのよ」
『地生竜』スェヴェリスは甘えたような口調で空を眺め見る。地を這う巨大な亀のような体。まるで大地が動いているかのような感覚を覚えながらも『竜空』シラス(p3x004421)はぼやいた。流石は本物の竜種だ。驚くほどに巨大なのだ。
「この姿で竜の背に乗る日が来るとは思ってなかった」
 呟いたシラスの言葉にくすりと笑ったのは『蒼を穿つ』アレクシア(p3x004630)。何時もはシラスの背に乗って天駆けるのはアレクシアの役目だ。
 そんな彼が巨大な竜種の背に乗りながら移動してきたのだから何とも不思議な心地になる。
「観測隊の二人も来てくれたのね! お迎えが豪華すぎて驚いちゃう。てゃんはお歌を歌ってくれるでしょうし……」
「ありがとう、琉珂君たち! 来てくれてうれしいよ。
 あまり危険な目には合わせたくないけど、それ以上に、一緒に戦ってくれるなら心強いよ! 必ず、終焉なんてやっつけちゃおう!」
 手を振ったアレクシアにシラスも頷いた。出発進行とずんずんと進みたいがそうとも言えない。一方は終焉獣を迎撃し、もう一方が琉珂達との合流を目指す。琉珂達の安全を確保し、防衛に徹しながらも隊の合体を行うまでがこの作戦だ。
「ああ! オルドネウムくんおひさ!ㅤあの日食べられたきうりだよ!!
 今回は共闘といこうじゃないか……竜にも匹敵する圧倒的デスカウントぱわーを見せてあげるよ!」
『グリーンガール』きうりん(p3x008356)を一瞥したオルドネウムは自身との手合わせを行った日と比べれば随分と脅威になった少女の姿に「ほう」と呟いた。オルドネウム自身が有しているのは相手の善悪や強弱を見極める感覚だ。それが『より良き睡眠』を得るための必要不可欠であると知っているからである。
「随分と、『変わった』な」
「ふふん。勿論! きうりんもなんだかんだ色々ありまして。まあ、オルドネウムくんと共闘したいっちゃしたいけど、今回は琉珂くんの護衛をするんだけどね! お任せあれ!」
 R.O.Oでのデスカウント――それが『ゲームマスター』の設定により『ログアウト不能』である彼女を驚異そのものに仕上げたのだ。故に、オルドネウムは琉珂をその背から降ろし彼女らに任せるという判断を直ぐに下したのだろう。
「合流せねばならぬが」
「おうおうおう! 勿論だ! OK任せてくれ、目立つのも勝ち逃げも大得意じゃねーの!
 これから現実の覇竜でも俺達は活動していくんだ。行く度にR.O.Oで紡いだ俺達の縁を想って寂しくなる様な事にはなりたかねぇ。
 ――全員守り通してベヒーモスの所まで行くぜ!」
 彼と彼女にとって『現実』と『電脳世界』の区別はない。それでも、否、それだからこそ『(二代目)正義の社長』崎守ナイト(p3x008218)はスェヴェリスと共に彼らを救いよりよき未来を描くことを望んだのだ。
「琉珂さん! 待ってて下さいね!」
 叫んだ『ここにいます』梨尾(p3x000561)に琉珂は「私が行くわ!」と返す。その言葉にぎょっとしたのは『炎竜』リュカ・ファブニル(p3x007268)。否、彼女はそう言う少女だったかと思い直せば何とも笑みが滲んだ。
「琉珂、大人しくしとけ。絵本で読んだことないか? 王子様が迎えに行くってのをな」
「あら、ごめんね。リュカと私は番にはなれないの! だって、お名前が一緒だから! それでも迎えに来てくれる? 王子様」
「いきなり飛躍したな? ああ、勿論だ。待ってろ」
 揶揄うように笑った琉珂はオルドネウムに待機してと囁いた。軽口を叩きながらもイレギュラーズの意図はしっかりと伝わったか。
「援軍はありがたい。けどもっと自分を大切にしてほしいです。命は一つしかないのです。
 世界の危機とはいえ無理をして死んだらみんな悲しみます。
 だから死なせない為に……皆で明日を掴み取って勝利パーティーをやる為に、自身の屍を積み上げてでも守ります。
 タルトのレシピが浸透してるか確認もしたいですし。だから、待ってて下さい。琉珂さん。直ぐに迎えに行きますから!」


 眠たげなオルドネウムを見上げたスェヴェリスは「起きてほしいのよ」と身をゆらゆらと揺すった。その感覚に『アンジャネーヤ』Ignat(p3x002377)は特別な心地を感じて目を細める。
「ドラゴンライダーって言えばやっぱり混沌男子の夢だよね! リアルでも乗れる日が来ると良いなぁ!
 ――と、こんな楽しい気持ちをまだまだ味わうためにはここからの地獄を勝ち抜かなきゃね!」
「スェヴェリスはリアルは分からないのよ。けど、Ignatを乗せるのは嫌いじゃないのよ。一緒にがんばるのよ」
「モチロン!」
 Ignatは前衛へと飛び出したリュカに「やっつけよう!」と声を掛けた。「そうだな――琉珂、待ってろ!」、叫んだ声音にオルドネウムが「留まれば眠りこけてしまいそうだが」と大あくびを噛み砕いた。
「もう、オルドネウム。そんな冗談を言ってる場合じゃ」
「いや、何。おねむは相変わらずだな。このような時でもいつもと変わらぬ。
 だが、それが頼もしくあるな。この面倒事が終わったら、全身くまなくまっさーじしてやるから、ゆっくり眠ると良い」
 オルドネウムを『おねむ』と呼んで親しんでいた『恋屍・愛無のアバター』真読・流雨(p3x007296)はうんうんと大きく頷いた。
 彼女達との合流はそれ程難しくは無いはずだ。合流を目指すための役割分担も上等。流雨が構えを寄ればスェヴェリスが身をのろのろと地へと沈めた。
「さぁ、さっさと事を済ませるとしよう。シャイネンナハトも直ぐ其処だ。面倒事は手早くすませなければな」
「それじゃあ、スェヴェリス。お願いします!」
 サクラメントへと繋がる『道』を地中に掘ってくれるというスェヴェリスはクスィラスィラのサクラメントを利用可能にしてくれるのだという。
 梨尾はその匂いを覚え、行ってらっしゃいと背を撫でる。幾ばくか――それも琉珂と合流を果たす程度の短い時間だろうが離脱するスェヴェリスが戻るであろう場所を起点に戦陣を組む。
「ねえ、アレクシア! もしかして、私ってとっても『絵本のお姫様』のようじゃない?」
 にんまりと微笑んだ琉珂にアレクシアは「じゃあ、お姫様はのんびりと待っていてね!」と声を掛けた。
 鼻をすん、と鳴らした梨尾は焔傘を開いた。グラフィックが変化し、纏う多のは紅き焔。それは絶対零度にへと変化する。凍て付く気配が終焉獣へ襲い征き、傍らを過ぎ去るのはルージュ。スェヴェリスはその体故に直ぐに帰還するだろう。琉珂の真下に移動し、琉珂を帰還したスェヴェリスの背に降ろすまでが今回のオーダーだ。
 体が大きすぎる故に、スェヴェリスには地中に潜って移動して貰った方が良い。そうで無くては終焉獣の絵集中狙いが待っているか。
「琉珂ねー! 直ぐにこいつら蹴散らすから! オルにーも防衛に徹してくれ! おれたちが追いついたら直ぐにオルにーの本領発揮だからな!」
「琉珂、見くびられて居るぞ」
「だって、私か弱いプリンセスだもん……なーんて!」
 すう、と息を吸い込んだ琉珂が焔のブレスを放つ。流石は竜の因子を宿した亜竜種か。彼女はその見た目からも分かるとおりに『炎竜』と呼べるような『スキル』を有していたのだろう。
 出来る限り周辺を威嚇する琉珂の勢いにナイトは「いいじゃねェの!」と手を叩いた。
 すうと息を吸い込んで三月うさぎてゃんが終焉獣を睨め付ける。今は可愛い女の子なんて気取っては居られない。可愛くいるのはあの方の前だけでいい――今は、形振り構わず『お友達』を助けなくてはならぬのだから。
「ここを開けろ、『RrestrictedData』!」
 それは彼女の新曲。誰だって秘密を抱えて生きている、そんなR.O.Oをイメージした歌声は真っ直ぐに終焉獣のその体を貫いた。体を苛んだ痛み、自身のデータへの損傷さえも厭わずにアイドルのステージ衣装を揺らがせて三月うさぎてゃんは「進んで!」と叫んだ。
「任せて! まぁ私がいれば琉珂くんに指一本触れさせないことなんか容易だからね! 責任重大だね! その前に合流だ!」
 突撃の号令を叫んで、勢いよく駆けだしてゆくきうりん。雑草だって美味しく食べれる彼女だが、今日は亜竜姫のナイトになる予定だ。
 踏まれても立ち上がる雑草の一撃で、道を開かんと狙うきうりんへと支援するようにIgnatが電磁ネットを展開し続ける。
 地の僅かな揺らぎ、足下をスェヴェリスが進んでいるという確かな感覚。
「はは、味方のモノだって分かっても地震にはビックリするね!」
「流石は竜種……強大そのもの、負けてはられないな」
 息を呑んだシラスに「確かに!」とIgnatは笑った。敵の集団へと突撃してゆくIgnatの前に立ちはだかってシラスはアクティブスキルを駆使し周辺の終焉獣を引付ける。
 防衛役を引き受けてくれるシラスの元に集う終焉獣を蹴散らしている間にも、琉珂との合流を目指すのだ。戦線の維持を行う事を目的としていたアレクシアは「シラス君、お願いね!」と声を掛けた。
「ああ、アレクシア。君は琉珂を迎えに行ってくれ。お姫様は大人しく待ってるで納得してくれるみたいだからさ」
「ふふ、そうだね。私でも王子様になれるかな? ……スェヴェリスも戻ってきてくれてるね。今だね!」
 アレクシアが走り出す。スェヴェリスの気配を感じ取りリュカは「琉珂!」とその名を呼んだ。
 オルドネウムが進撃できるようになるまでは前線で終焉獣を退けるのが彼の役目だ。天へと高く飛び上がったルージュを追いかけんとする終焉獣へと流雨が間髪入れず攻撃を放つ。
「おねむ、当たらないように気をつけてくれ」
「……当たった場合は、対価が高く付くが?」
「一発位ならでこぴん程度だろう?」
 流雨の言葉にリュカが「違いねぇ」と笑う。何とも言えない仕草で身を揺らがせるオルドネウムの背へと飛び乗ったルージュは地上を見下ろした。
 手を振るきうりんがスェヴェリスの背でぴょんぴょんと跳ねている。終焉獣を払い除けるように動いていたナイトと梨尾は、美味しそうなきうりんへと狙い定めた終焉獣に気付く。
「――っと、捕食対象か?」
「まあね?」
 滑り込んだリュカは琉珂が「コバンザメみたいなやつを優先してね!」と叫んだ言葉の通り、ぺたりと終焉獣に張り付いていた地を泳ぐ獣へと狙いを定めていた。
「琉珂ねー!! っていうか話し込むのは後だな。周りの敵は何とかするから、いったん下に行こうぜ」
 オルドネウムの背から琉珂をスェヴェリスへと降ろすルージュにアレクシアは頷く。オルドネウムの背から移動することを考えていなかったか琉珂は面食らったようにイレギュラーズを眺めて。
「琉珂君のことは私達がキッチリ絶対に守るから! オルドネウム君は思い切り戦って!」
「えっ! 私も戦うわよ?」
 アレクシアは自身の言葉に琉珂が張り切って戦うと告げる事を予期していた。そんな彼女の様子に三月うさぎてゃんは「琉珂さんらしい」と小さく笑う。
 アレクシアは頷いた。その手をぎゅうと握って、魔法陣を指先に踊らせて。その気配に反応したデジタルファミリアーが声を響かせる。
「一緒に頑張ろう! せっかく琉珂君と出会えたこの世界、まだまだ消えてほしくないもの!」
「アナタ達って、いっつも世界とか広い話ばっかりするから驚いちゃうけど。そうね、私だってまだまだ知らないことが多いんだから!」
 護って頂戴と笑った琉珂はその言葉と裏腹に巨大な鋏を構えて見せた。


「よぉ琉珂。やっと『着陸』か。相変わらずの向こう見ず、危なっかしくて驚いただろうが。
 ……お前さん達にとっても他人事じゃねえってのはわかってるけどな。それでもこうやって助けに来てくれたのは嬉しいぜ。ありがとうな」
 くしゃりと頭を撫でたリュカに「アナタ達のピンチ、私が来なくて誰が来るの?」と琉珂は自慢げに笑う。
 天真爛漫に幼さを滲ませた亜竜姫――それは世間知らずや警戒心が薄いとも言えるようで何とも『危なっかしい』――にリュカはそうだなと頷いて。
「俺らも負けじと格好いいところを見せねえとな――さぁ、いくぜ!」
 リュカはオルドネウムとその名を叫ぶ。巨大な影が地へと落ちる。スェヴェリスがのそのそと歩き出し、その背に乗るきうりんは「出発~!」と指し示して。
 ルージュはオルドネウムの首へとぎゅうと抱きついた。このための『竜の妹』。自身のアバタースキルを一つ使ってでも、彼との連携を意識しておきたかったのだ。ルージュにとってはこの時のためだとオルドネウムに騎乗する。羨ましいこったと呟いたリュカは竜の背に乗った『皆の妹』を見上げた後、直ぐさまに終焉獣へと向き直った。
「いいな、ドラゴンライダー」
 呟くシラスの言葉に、彼へと集っていた終焉獣を蹴散らしながら「スェヴェリスも悪くはないんだが」とリュカは呟いた。
 地が揺らいだ気がしたのはスェヴェリスの無言のアピールか。その気配を感じてシラスとリュカは顔を見合わせて笑う。彼へと集った終焉獣が『回復されている』位置さえ割り出せば回復スキルを有する終焉獣の撃破は可能だ。
「琉珂も羨ましいが、ああやって仲間が乗れば更に羨ましいもんだな」
 リュカにとって竜というのは憧れだ。自身の目的と目標、目指すべき存在との共闘がどれ程までに心を震わせるか。
 スェヴェリスの背へと移った琉珂の護衛を務めるきうりんにアレクシアと三月うさぎてゃんが頷いた。其れを見下ろしてか、オルドネウムの翼が揺れる。

 ――征くぞ。

「おう、オルにー!  やっと外で会えたな!! 判ってると思うけど、おれを庇う必要は無いからな。じゃあ、行こうぜ!!」
 当たり前の事だ。これが兄と妹。その絆であるとルージュはスェヴェリスが用意してくれたクスィラスィラのサクラメントを確認する。
 全戦で戦い続ける梨尾がその身に感じていたのは痛みだ。死が近い――それは無数の終焉獣を相手取る故である。援軍達と共に戦うベヒーモスの戦場とは比べものにならぬ程の脅威がひしひしと肌を焼く。
(ネクストでも、混沌でも皆が戦ってる。誰かが頑張ってる。二人目の息子が俺を助けるために無茶しに行ったんだ……! 父兄として痛みや恐怖に震えてる場合じゃない!)
 梨尾はオルドネウムと共に移動可能になるまで、出来うる限りの殲滅を心掛けていた。無論、この様な場所だ。単純な『お迎え』程度で済むわけもない。
 体を襲った痛みは攻撃手であるイレギュラーズならば傷を抉るような痛みばかりだ。梨尾が懸命に攻撃を続ける中で、耐え忍ぶシラスはクリーンヒットを食らわないと攻撃を寸での所で避け続けた。
「当ててみやがれノロマ共が!」
 嘲るように告げるシラスは粘ってみせるとスェヴェリスが使用を可能にしたサクラメントでの使用が可能となるまでを耐え忍んだ。
 とにかく周辺を薙ぎ払っていたアレクシア。シラスに蓄積された傷に痛ましいと眉を寄せるが、琉珂達を救うためだ。
「シラス君、大丈夫!」
「ああ。アレクシアこそ――大丈夫そうだな」
 揶揄い笑うようなシラスにアレクシアは頷いた。「数が多いなら、逆に利用させてもらうよ!」と終焉獣達に付与した混乱の魔術は、互いを傷つけ合うものと転ずる。
 使役する蓮とストームクルセイダーに索敵を頼んでいたナイトは「ビンゴ!」と手を叩き合わせた。
「Hey、リュカ! アレクシア! 『あそこ』だぜ!」
 指を差すナイトは指鉄砲を打つ。エフェクトは盛り上がり『bang!』という文字が空中へと躍り出す。
 ナイトは社長としての『ツテ』を考えていた。どうしたことかバグの影響で弟がギョスり続ける病に罹ってしまって居た鵜来巣 朝時――つまりは、正義の社長(初代)に願い出たのだ。
 航海はソルベ・ジェラート・コンテュールが拠点を設置し、終焉へと戦うための支援を行っているらしい。そこに居るはずの朝時にベヒーモスへ向かう移動ルートを進言する。スェヴェリスが通る前に地上の敵を削るのだ。その様子を見せれば琉珂にも名を売ることが出来る。詰まりは勝機と商機のチャンスなのだ。
(そこまで行くために――今は、奴らにゃお帰り頂かなくっちゃな!)
 ディフェンス役であったシラス達をサポートするナイトは生への執着心を見せ付ける。つまり、死んでは商売も元も子もないのだ。
「今回の戦場は子供も多い。いざって時は身体を張るぜ。それが大人の仕事って奴じゃねーの!」
 唇を吊り上げて、地を蹴って叩きつけたのは社長舞踏戦術(danceing president night)。輝くミラーボールと共にキレッキレに踊るナイトは決めポーズと共に終焉獣を吹き飛ばす。
 その様子に面白いと言わんばかりにIgnatは同じく貫通砲撃を叩き込んだ。
「未知の世界への第一歩は障害を吹き飛ばすところから! 行くよ! FIRE IN THE HOLE!」
 この世界に捕われているIgnatにとって、『死に慣れる』事は良くないと分かりながらも活かして行きたい。ナイトの指摘を聞き、Ignatは「オーケー!」と蟹挟みの腕をひょこんと上げた。
「あいつだね! 見敵必殺! 細切れにしてやるよ!」
 死したとて、復帰するならば自身の役割が適している。直ぐさまに回復手を撃破に向かったIgnatの背を確認しながら三月うさぎてゃんは攻撃に当たることないようにと気を配る。こんな所で死んで琉珂が巻込まれたら? 背筋に感じた嫌な気配を拭い去った。
「きうりんさん、うさてゃんも協力します」
「うんうん! はいはーい、そっちじゃなくてこっちに来てねー!ㅤ私が一番美味しいからねー!!」
 きうりんは琉珂から引き離すようにと終焉獣を引付ける。琉珂の護衛は継続、故にその身を張った。きうりんが倒れたならば三月うさぎてゃんがサポーターとして入ると決めている。そうして彼女を守り切るのだ。
「ぱんち! ぱんち! それから毒!」
 しゅっしゅと拳を突き出したきうりんに琉珂も同じように炎を吐き出す。竜の吐息(ブレス)はその身に宿した因子が故か。
「こんがりきゅうりになるかしら?」
「琉珂くん、私のことを食べる気? 今は駄目だよ!」
 笑ったきうりんに琉珂は頷いた。するりと攻撃を躱していた三月うさぎてゃんは「琉珂さん、リクエストは?」と問いかける。
 死なないように、それは『アイドル』の心得だ。ファンのお触り厳禁。もしも、そうなされても掴めないものだと身を躱す。
「そうね、今にぴったりな戦場の歌を歌ってよ?」
「新曲のリクエストね! ええ、ええ、歌いましょう!」
 三月うさぎてゃんの声は響き渡る。自分こそがフリアノンの歌い手、琉珂の『オトモダチ』
 死んで堪るか、死なせてなるものか。終焉獣が世界を覆っても、その終焉よりも尚、目映い光を射せば良い。

 ――さぁ! 声が枯れても喉が潰れても歌い続けろ、叫び続けろ。敵に囲まれても、のまれても声を絶やすな、味方に場所を伝え続けろ。

 歌い上げたその声にルージュが「オルにー!」と声を張り上げる。無数の終焉獣を薙ぎ払い、共に上昇すればその位置へと流雨の鋭き一撃が叩きつけられた。腕が僅かに軋んだ、石化か――石花の呪いを払い除けるナイトに頷いて流雨は戦線維持に気を遣う。
 死さえも畏れぬその身でも、此処が瓦解すれば彼女達を失ってしまう。これがゲームであるならば、極端に離れた位置からの回復もない。攻略方法(ルール)は確かに底に存在しているのだから。
「ゆけ。おねむ。お前に追いつける者はいない。全て薙ぎ払うのだ!」
 戦争は数だと誰かが言った。やれやれ、と肩を竦めて返してやりたい。数の暴力に勝るのは、勿体ぶった戦法でも何もなく突貫で我武者羅に戦う事だけなのだ。命などかなぐり捨てる勢いで流雨がそう叫ぶ。
「はっ! こりゃご機嫌だ! どこに攻撃しても敵に当たるじゃねえか!
 お前さんの強さは直接戦った俺らはよく知ってる! 本気のブレスってやつをみせてやりな!」
 リュカは煽る。オルドネウムの翼の揺らめきに、その力強さに焦がれる故に。
 オルドネウムの吐き出した凍て付くブレスが周囲を焦がす。それは凍傷として身を軋ませ、羽ばたくことさえ赦しはせずに。
「――本当に味方でよかった」
 シラスの言葉にオルドネウムは満足そうに宙を踊って。最高だと手を叩いたリュカがスェヴェリスの背へと飛び乗った。
「来い!」
「オーケー!」
 Ignatが手を伸ばし、固いスェヴェリスの背に乗れば梨尾が「追ってきます!」と叫ぶ。
 この地点からの移動。スェヴェリスの能力を駆使しても、追っ手は全てをまくことは出来ないか。合流さえ果たせば有耶無耶にして見せられる。
 アレクシアは回復手は軒並み倒しきったのだと鋭く終焉獣を睨め付けた。身をも蝕む石花の呪い。それは、終焉の気配に似ている。
「あなた達がどれだけ呪いを振り撒こうとも、私達が繋いだ希望は負けない! 絶対に!」
 アレクシアは――もう一人のアレクシアは――確かに希望を貫いた。天を穿ち、雲を晴らして。終焉の気配など無くして見せろ。


 移動を開始したスェヴェリスの背でナイトの式神とアレクシアのファミリアーが情報収集を行い続ける。
 束の間の休息、そうと言えども背後からは軍勢が迫り来る。終焉の気配、それは身を包み込んで恐怖へと変わりゆく。そのれを打ち払うようにルージュはスェヴェリスの背を撫でた。
「なぁ、スェヴェリスにーって。にーちゃんなのか? ねーちゃんなのか?」
 スェヴェリスの背に乗り、ベヒーモスへと向かう最中で、ルージュはそう問いかける。呼び方が変わってくるから重要だと告げればスェヴェリスは「んー」と首を傾いだ。
「男の子よ。可愛いものが好きだから、女の子みたいだけれど」
 ねえ、と背を撫でる琉珂は「しつこい子達ね」と追い縋る終焉獣を睨め付ける。
 立ち上がったリュカがやれやれと言わんばかりに妖刀『無限廻廊』を構えた。竜の呪いは物理的な圧力を伴って不調をもたらす。その気配を傍らに、シラスは「迎撃だ。スェヴェリスはそのまま進んで」と声を掛けた。
「わかったのよ。こわくないのよ」
「ヒューッ、凄えなこの亀!」
 手を叩いて喜んだシラスはアレクシアのファミリアーによる情報で回復手が『体の下』に潜んでいることに気付く。終焉獣たちの中でも生存戦略に立てたそれはコバンザメのようにぴったりと引っ付いているか。
「……倒しましょうか」
 梨尾が立ち上がり、流雨が頷いた。きうりんが「琉珂くんは無理しないでね!」と声を掛ければナイトが『進行方向』は心配するなと肩を叩いて。
「竜の背中で戦うなど、なんぞゲームの世界のようだ。いや、ゲームなのだが」
「レアリティの高いイベントだ! 存分に楽しもうぜ?」
 流雨の竹槍を追いかけてナイトが終焉獣を蹴り飛ばす。スェヴェリスのその身から離れた体を咥え上げたオルドネウムは宙を旋回しその身を定位置へと戻した。
「もう逃がさねえぞ」
 蹴り飛ばされたことで露出した回復手の体をシラスが穿つ。完膚なき儘に叩き込めとリュカの呪いがその身を蝕み、Ignatは楽しげに切り伏せた。
 三月うさぎてゃんは「琉珂さん、少し休憩して下さい。此の儘、ベヒーモスに……あの大きな獣に、戦いを挑みますから」とその背を撫でる。
「ねえ、うさてゃん、それから、リュカ。もしも、世界に平和ってものが訪れたら我が儘があるのよね」
 スェヴェリスの背に乗りながら移動を行うリュカはオルドネウムの背に乗り換えた琉珂に「なんだ?」と問いかける。
 三月うさぎてゃんは琉珂の望みに気付いたように含んだ笑いを浮かべて見せた。彼女は何時だって『そうやって夢』を見てたのだから。
 八重歯のようにも見える小さな牙を覗かせて笑った琉珂は「アナタがオルドネウムに乗りたそうな顔をしてたから取引をするのよ」と自慢げに。
「……確かに、乗りたいが。まあ、いいさ。竜に認められて乗りたいんでね。それで? 琉珂の『我が儘』ってのは?」
「んん、じゃあ二人だけじゃなくていいわね。ねえ、みんな。
 私ね、『竜の領域』からきちんと出た経験はないの。砂嵐の都に買い出しに行くだけ。だから、他の場所に連れて行って。
 アナタ達が『リアル』とか『現実』って言う言葉を私はわからないわ。けど、そうね、『どんな私』であったって、手を引いて、とびきり素敵な世界に連れ出して欲しいのよ!」
 ――なら、その為に頑張らなくちゃ。
 三月うさぎてゃんは心に決めて琉珂を見上げる。
「琉珂さん、世界を覆った終焉なんかあっちいけって蹴り飛ばして沢山の世界を見ましょうね?」
「ええ、ええ!」
 微笑んだ琉珂の頭をぐしゃりと撫でたリュカは「琉珂、俺はお前に会えて良かったぜ」と笑いかけた。
 悍ましい気配さえも渦巻いた竜の領域。R.O.Oのアップデートで訪れることの出来た『現実でも未踏の場所』『データが分析された領域』。現実とは僅かに違いがあるかも知れない。それでも、彼女だけは変わらないと――そう、感じさせる。
 この天真爛漫さが沢山のことを教えてくれた。ダンスを踊り、楽しいと笑い合った。
「お前さんはもう俺の大切なダチの一人だからな!」
「……!」
 友達のその言葉だけで琉珂は此処までやってきて良かったと胸にじんわりと感じる。
「そうだぜ、琉珂ねー。ベヒーモスなんて、琉珂ねーとオルにーとスヴェねーが来てくれたから敵じゃない! おれは死んでもいいくらいにうれしいんだ」
 ルージュにとって、世界の終焉が訪れた恐怖はその心を酷く不安定にさせていた。不均衡になった平常。
 それと整えたのは彼ら、彼女らの援軍のお陰なのだから。ルージュの笑みに琉珂は微笑んで。

 ――外は、怖いところなのよ。竜種様も、亜竜種も『珍しい』から。外じゃあ恐ろしくて生きていけないわ。

 母様は臆病だったけれど、私も臆病だった。
 恐ろしくて堪らなかった外が、こんなにも素晴らしい。……あの、大きすぎるほどの終焉さえ居なくなれば。
「じゃあ、あいつを倒したら改めて、私を誘ってね? 約束よ。破ったら、スェヴェリスが頭からぱっくんと食べちゃうんだから!」

 その約束のため、今――『終焉の獣』の元へと向かう。

成否

成功

MVP

ルージュ(p3x009532)
絶対妹黙示録

状態異常

梨尾(p3x000561)[死亡]
不転の境界
Ignat(p3x002377)[死亡]
アンジャネーヤ
シラス(p3x004421)[死亡×2]
竜空
リュカ・ファブニル(p3x007268)[死亡]
運命砕
きうりん(p3x008356)[死亡]
雑草魂
ルージュ(p3x009532)[死亡×2]
絶対妹黙示録

あとがき

 お疲れ様でした。
 琉珂&オルドネウム&スェヴェリスとのお迎えシナリオです。
 <ダブルフォルト・エンバーミング>Behemothへと合流するためにやってきた彼女にとって、砂嵐の特定地域以外は初めての『外』です。
 無事にベヒーモスを撃破して、平和な世界を見せてあげてくださいね。頑張って、イレギュラーズ!

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