シナリオ詳細
<ダブルフォルト・エンバーミング>今この時は、手を取り合って
オープニング
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Patch4.0 ダブルフォント・エンバーミング。その先行告知は世界崩壊の序章だったに過ぎない。世界の構造の一部として産み落とされたイノリと、練達の守護者・マザー(クラリス)の兄妹機であるクリストがマザーを楽にしてやるための――ネクスト、及びセフィロトを崩壊させるための宣戦布告。
元よりイノリの権能とクリストの演算能力により、バラまかれたバグはパラディーゾや真性怪異・神異、シャドーレギオン、大樹の嘆き、ワールドイーターといった『有り得ざるもの』へ実現されていた。彼らが本腰を入れたと言うことは、それらのバグが一斉に牙を剥くということでもある。
各国を蹂躙し、滅ぼさんと動き始める病巣たち。彼らが世界を蹂躙したならばマザーは防御限界を迎え、飲み込まれてしまうだろう。
――けれども。パンドラの箱の中には、詰め込まれた災いの他に『希望』だって残っている。
R.O.Oの誰もが終焉をただ待つだけではない。国という境目を乗り越えて、今ばかりは手を取り合おうとする者も少なくない。
死んでしまったら国も何もあるものか。命あってこそである。この時、誰かの敵は『誰か』ではなく『強大なる終焉』であった。
●
グリース・メイルーン(p3x000145)は一面にポップしたクエスト詳細画面と睨めっこしていた。それはこのR.O.O、及び現実世界を守るためであり、決してあちらにいると気分が落ちるとか、気まずいとか、そういうことではない。ごめん嘘言った、ちょっとそういうのある。
失敗する可能性が十分にある、難しいクエストだった。それは事実だけれども、グリースが『護れなかった』ことも、『敵わなかった』ことも事実なのだ。それらが余計に心へ影を落とす。インクが紙へ滲むように、じわりと、広がって。
――けれども終焉は待たない。待ってくれない。
グリースの目に留まったクエストは終焉獣防衛線。敵の赴く先は大陸の西、翡翠の国。クエストの場所を確認し、グリースは踵を返した。
あの国は何とか鎖国を阻止したものの、未だ閉鎖的な空気は抜けない。穏健派などの動きもあり、イレギュラーズには寛容な者も現れ始めていると聞くが、『彼』はどうだろうか。
(どうかな)
自分だというのにさっぱりわからない。わからないのは彼の持っていたものをグリースが持っていないからか。
「……だいじな、もの」
持っていないから、見えてしまう。
持っていないから、羨んでしまう。
羨んでも手に入りはしないのに、止められないのが人の心だ。
けれどきっと、グリース自身も。自分が今持っている大事なものは、本当の意味で理解していないだろう。それこそ失わない限りはわからない。
サクラメントを経由する間に同じ方へ向かうプレイヤーと合流し、砂嵐の中でも翡翠に近い街まで辿り着く。ここは幸いにして終焉獣たちによる蹂躙をまだ受けていないらしい。しかし瞬く間にその情報は広がったのか、人はかなり少ない状態だ。
ここからは自らの足で翡翠の近くまで向かわねばならない。一同は柔らかな砂を踏みしめ、足跡を残しながらまだ見えぬ緑豊かな地へと歩き始めた。
しかし異変はすぐさま察せられた。大きな砂の塊――否、大木だろうか。砂漠のど真ん中に出現しているそれらは、一様にイレギュラーズたちと同じ方向へ進んでいる。
「あれが……終焉獣か」
君塚ゲンム(p3x000021)は剣呑な表情を浮かべながら見上げる。なんて大きなモンスターだろうか。あれらが翡翠まで進軍したならば、かの国が砂に埋もれかねない。
「見て、あそこで終焉獣が止まってる……誰かが戦ってるんだ」
グリースはその先で完全な砂へと崩れ落ちていく終焉獣へ視線を向ける。翡翠へ進ませないよう、必死に戦っている者がいるのだ。
「加勢しよう!」
走り出す一同。イレギュラーズが到着する間にもまた終焉獣が近づき、前面から食い止める者を援護するように、一同も背後から畳みかける。
滝のように大木を模していた砂が地面へ零れ、イレギュラーズたちは埋もれてしまわぬように飛び退いた。しかしそれも僅かな時間の事だ。砂が完全に落ちきってしまえば反対側も良く見えて。
「……え?」
「……は?」
グリースと、反対側で息を切らしていたクロバ・フユツキは互いに目を丸くした。
「生きてたのかよ……じゃなくて、何でここに」
「それはこっちの台詞だよ」
翡翠の一件であればイレギュラーズは犯人でなく、余所者の中でも様々な者がいるのだと説得が為されたのではないか。いやもしかして一度家に帰ったのにまた飛び出してきたのかこいつ。
「クロバさん、この方々は」
そこへそっと横から口を挟んだのは武装した幻想種だった。その視線はあまり気持ち良いものではなかったが、大樹の嘆きの一件で黒幕を追い払ったらしいとクロバが言えば、視線に複雑なものが混じる。
力不足であったと感じているのだろう。けれども素直に外からの助力を喜べないと言った所か。
「……僕たちは今回も翡翠の、いいや、世界の為に戦う。味方をしてほしいとは言わないけど、邪魔はしないで」
「それはこっちの台詞だ」
どことなく似た返しを聞いた気がする。静かに火花を散らす2人の間に入ったのは長髪の幻想種だった。
「――落ちつけ。また奴らが来るぞ」
男性の姿にゲンムがはっとした表情をするも、一方的に知っているだけなのだろう。男性――ブラス・ロックハートは視線をクロバへ向ける。
「こいつらはイレギュラーズなんだろ? なら協力した方が良い。人手も全体の力量も足りないのはわかっているはずだ」
一瞬噛みつくような表情を浮かべたクロバは、しかしぐっと悔しそうに黙り込む。グリースはちらりとブラスを見た。イレギュラーズに対して敵意を感じない。穏健派の人間だろうか。
その視線を受けたブラスは、ゲンムを始めとした他のイレギュラーズの視線も集まっているのを見て肩を竦めた。
「若い頃に翡翠を出て、それからはフリーの狙撃手さ。あんたたちのことも小耳に挟んだ」
そのおかげで半ば余所者扱いをされているとのことだが、国を出た同胞が国のために戻って来たとなれば、幻想種たちからすれば無下に追い払うこともできない――先日の件を思えばなおさら、戦える同胞が必要だと感じているのだろう。
「あんたたちも一緒に戦うってことならそろそろ構えておいた方が良い。準備できることはさっさとやっとけよ」
「……今回限りだ。奴らの攻撃には石花の呪いが込められてるから、死にたくなきゃあいつらに助けて貰えよ」
渋々と言った表情のクロバが片手で仲間の幻想種たちを示す。曰く、彼らが石花の呪いを解く試薬を持っているのだと。自分たちでも使うだろうし、数に限りはあるだろうが、死ぬ前に助けてやっても良いと言っているのである。
見渡せば、砂丘の向こうからまた砂で出来た大木がやってくる。終焉を携えたそれがひとつ、ふたつ、みっつ。
物申したいことは吐き出せば止まらなくなるだろう。グリースはぐっと唇を噛んでクロバから視線を外した。
――今この時は、手を取り合って。
- <ダブルフォルト・エンバーミング>今この時は、手を取り合って完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年12月05日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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砂漠の足場は柔らかく、踏みしめれば足跡が残る。僅かでも力を入れたならば足元は容易くぐらつくだろう。これより後退し、砂ではなく土でできた地に足を付けたならそれもなくなるが、ここで食い止めていた者たちが抱く焦りは如何ほどか。
故に、退かない。イレギュラーズたちはそう選択した。
「宜しく頼む」
「ああ」
『胡蝶の夢見人』君塚ゲンム(p3x000021)はブラス・ロックハートと共に後方へ。現実では師匠なれど、この世界では初対面となる男である。敬意を払うべき存在ではあるが、今のゲンムは『君塚ゲンム』で、あくまで友軍の1人だった。
(しかし、少し意外だったかもしれない)
ゲンムにとって――君塚ゲンムというアバターを動かす彼にとって、ブラスは根無し草のイメージが強かった。おかげで彼は未だ、現実で師匠と再会していない。おそらく深緑にも帰っていないのではないだろうか。
しかし翡翠の危険に駆けつけたゲーム内のブラスは、現実からデータを読み込んでいる筈である。もしかしたら祖国に対する思い入れが全くないわけではないのかもしれない。ネクストのブラスも、現実のブラスも。
「世界は違えど、ここはわしの故郷。クロバ殿にブラス殿、幻想種の方々……頼りにさせてもらうぞい」
この場で手が取り合えれば十分だと『フロル・フロールのアバター』白花老(p3x010209)はひらりと羽根を羽ばたかせ笑う。感じる視線に含まれるのは僅かな戸惑い。彼らはきっと、まだ余所者に頼るということに慣れないのだろう。
けれども彼らと語り合う時間はそこまで残されていない。『あたたかな羽』ちゅん太(p3x000141)は近づいてくるサンドウッドを見上げる。
(とっても大きい……ぼくの攻撃って通るのかなあ……?)
小さな自分が、大きな敵に立ち向かうなんてできるだろうか。もたげる不安に、ちゅん太はぶんぶんと首を振った。弱気になったらきっと押し負けてしまう。心を強く持たなければ。幸いにしてクロバやブラス、幻想種たちは協力してくれるのだから、自分に出来る事を精一杯。
「……クロバ・フユツキ」
「……なんだよ」
『灰の流星』グリース・メイルーン(p3x000145)とクロバ・フユツキの視線が交錯する。ふとしたきっかけさえあれば言葉が飛び出してしまいそうで、グリースは視線をサンドウッドへと逸らした。
「翡翠を守りたい気持ちはわかるけど、君に倒れられても困るからね」
「まずは自分の身を気にしたらどうだ? ま、意外にタフみてぇだけど」
この前確かに殺したはずなのに――そんな呟きが聞こえて、グリースは小さく肩を竦めて溜息をついた。
「死体なんて見つからなかったろう? 仕留め損ねたってことさ、残念だったね」
NPCに『ここはゲームの世界で、自分たちは死んでもログアウトされるだけ』だなんて説明のしようがない。それなら実は生きてました、という方がよっぽど理由らしい理由になるだろう。
「クロバさん、私、これが終わったら言わなきゃいけないことがあるんだ。だから絶対、後で聞いてよねぇ」
「私も……ですが、まずは目の前の危機を退けてからですね」
『青の罪火』Siki(p3x000229)に『クィーンとか名前負けでは?』シフォリィ(p3x000174)と、クロバへ次々声をかけていく。そうして声をかけられるたびにクロバの瞳には不可解と言いたげな困惑の色が滲んだ。
「……なんだってんだ、余所者が揃いも揃って」
「さあね」
そんなこと、わざわざ今言ってやる義理もない。精々ここで生き抜いて聞けば良い。
「ひゅー!! こいつが世界の終わりってやつか! まったく嬉しくねぇお祭りだな!」
テンション高い『心にゴリラ』ハーヴェイ(p3x006562)を『花火職人』火柱・慎吾(p3x008563)が横目で見る。この火鼠、いかなる時もテンションが高い。
「ま、俺はやる事やるだけだ」
「おうよ! 終焉が相手だろうと一歩たりとも退くつもりは無いぜ!!」
ハーヴェイは小さな、回し車で鍛え上げた手足で砂地を駆け始める。深緑であろうと翡翠であろうと、彼にとっては大切な場所。なんとしても守るのだ!
「石花の呪いは攻撃を受ければ受けるほど、呪いにかかる可能性が高くなるのでしたね」
ふわりとその身を宙へ浮かせるシフォリィ。短期決戦となるならば、出来る限り砂に足を取られたくない。
「――それじゃあ、1体ずつ確実に。頑張ろうね」
アバターの姿を人へと変えたちゅん太はすらりと刀を構え、タンッと砂を蹴る。一瞬にしてサンドウッドの根元まで肉薄した彼は鋭く一閃を放った。
「皆、そっちは任せたよ!」
Sikiは更に奥まで走って、続くサンドウッドたちを睨みつける。その身は人の姿成れど、その気迫は青き龍のそれ。さあ、終焉の為に倒すべきは此処にいる。
「うむ。白花老――推して参るぞ!」
彼女へ頷いた白花老の身が、風を起こすほどの速度でサンドウッドへ接近する。ふわりと軌跡を描くのは砂漠に似つかぬ白い花。舞い散るそれらにサンドウッドの視線――眼球は見当たらないが、確かに感じた――が移った瞬間、白花老の魔槍が硬い守りを貫き、更なる隙を与えていく。そこへグリースの放った弾幕が降り注いだ。
(クロバは――うん、大丈夫そうだ)
慎吾たちと共に同じサンドウッドへ攻撃している姿に、知らず知らず息をつく。どんな感情を抱けども、自分と同じ姿をしたヤツが死ぬ瞬間など見たくはない。
それと同時、サンドウッドが声なき叫びを響かせ、大気を震わせた。伸びた太い枝を大きく振り回し、目の前で自身を食い止める邪魔者を排除せんと横薙ぎにする。その姿は近くにいる者からすれば圧巻するほどで、遠くにいたとしても距離感とその大きさに違和感を覚えることだろう。
届かぬ後方でそれを見ながら、ゲンムはぽつりと呟いた。
「……なるほど、この距離からでも良く見えるほどか。あんなのが翡翠に殺到されたらどうなることか、想像に容易いな」
「だがその分、当てやすいってもんだ」
ゲンムとブラスは視線を交錯させ、小さく口端を上げた。幻想種たちの攻撃に合わせ、彼らもまた照準を合わせる。此処まで離れていれば、単純な攻撃では呪いの含まれた砂も飛んでこない。
「思う存分、蜂の巣にさせてもらうぞ」
彼の手にしたガトリングキャノンが暴れ出す。それを押さえつけ、ターゲットを一直線に狙い撃つ収束連射。その下をちょこちょこ走っていたハーヴェイはサンドウッドへ加速し、身に纏う炎を燃え盛らせた。
「うおおおおお行くぜ行くぜーーーー!!!!!」
彼の突進にサンドウッドの幹を形成していた砂が飛び散る。シフォリィはダメージを受けた友軍へ向けて癒しの光を放つ。何としてもここは持たせなければ。
そんなシフォリィに気付いたか。Sikiの引きつけから漏れたサンドウッドが横合いから迫り、枝葉を伸ばしてくる。ちゅん太は近づくすれすれのところを刀で薙ぐと、サンドウッドの視線を自らへ逸らした。
「ここを通すわけにはいかないなあ」
自分が相手だと刀を構えたちゅん太。しかし、不意に視線が横へと逸れた。
敵の後ろから1体、別のサンドウッドが姿を現す。それは一直線に後方へ向かっているようだ。また別の方向を見ればSikiがそれを追いかけようとしているが、その足は常よりも遅い。ゲンムが魔弾を浴びせるも、サンドウッドは後衛に向かって砂の雨を降らせる。
サンドウッドを退けようと弓を番えた幻想種は、ピシリという音に足元へ視線を向けた。
「あ……足が!」
「石花病だ、試薬を使え!」
死への怯えを纏った声にクロバが叫ぶ。他にもちらほらといるようだ。先ほどの幻想種と、別の幻想種を庇った白花老。それに――ゲンムか。
「貴女、どうして」
「なに、大局を見たまでのこと。生き長らえるべきは皆の方じゃよ」
にっと笑みを浮かべた白花老は試薬を拒否し、ぎこちなく体を動かしながら魔槍をサンドウッドへ向ける。ゲンムもまた同様だ。故に、この場で使われる試薬は幻想種1人にのみ。
「俺が引き付けてやる。その間に試薬を使え!」
慎吾はサンドウッドの前へ躍り出て攻撃を仕掛ける。十分にヘイトを稼いだならば、仲間と敵達の方へと突っ込んだ。
(俺は一番、個としての戦力価値が低い。いてもいなくても大局的な影響はそこまでない)
その影響が小さいか大きいかは実際定かでなくとも、これはチーム戦。こういった戦い方もまたひとつの手。石花の呪いにかかったならば、死ぬまで暴れ続けるだけだ。
二輪の花。そして遅れて一輪の花が――咲いた。
●
シフォリィの癒しによりSikiは本来の調子を取り戻す。すぐさま後方へ抜けたサンドウッドを引き付けると、周囲へと青い炎をまき散らした。
「対石花病用に考えた特別仕様をくれてやる!」
それに包まれたサンドウッドたちは動けなくなったかのように固まってしまったり、突然自らを構成する砂を落とし始めたりと様々である。彼らに石花の呪いがかかるのかはわからないが、被弾数を抑えれば必然的に呪いを受けることも減るだろう。
「試薬は他の人に使ってくれー! ヒャッフー!!」
それでも近くで戦う者は少なからず石花の呪いにかかる可能性がある。ハーヴェイはそれを躊躇うことなく殴り合い――もとい体のぶつけ合いのため突っ込んでいった。
「おいおい、イレギュラーズってのは命を軽く見過ぎちゃいないか……?」
ともに戦うクロバがそう思うのも仕方がない。最も、彼が石花の呪いにかかったら周囲は容赦なく試薬を使わせるため後方へ追いやるだろうが。
その眼前を風が横切り、サンドウッドの足へ命中する。視線で追えば、グリースがリロードして再び構えているところだった。
どうしてか、彼女の姿は印象付きやすい。良い事ばかりではないが、今ばかりはそれを逆手に取ろうとしていた。
「さあさ、しかとその目にご覧じろ翡翠の皆さま。これがイレギュラーズ、そして僕がグリース・メイルーンだ!!」
再び放たれる弾丸。足に度重なるダメージを受けたサンドウッドはそれでも前へ進もうとし、その身を支えられず前のめりに倒れる。
「――なるほど」
それを見たクロバは小さくにやりと笑う。後方の幻想種からも足を狙え、という声が聞こえてきた。
一同の目的はサンドウッドを翡翠へ到達させない事。木の根のように多く伸びる足であっても、叩けば速度は落ちるのだとグリースは実際にやってみせた。
「オレも負ける訳にはいかないな……!」
刀とガンブレードを構えたクロバも肉薄し、止めどない連撃でサンドウッドの歩みを遅らせようと猛攻を始める。
それよりずっと離れた場所、サクラメントのある場所でハーヴェイはぽんと現れた。
「よっしゃ戻るぜ!」
まだ戦っているにしろ、終わっているにしろ、まずは合流からと手足を動かす。自分がこうしてリスポーンしたと言うことは、その分戦力となる頭数が減っているという事。これは誰が死んだとて変わりない。そうなれば一時手薄となり、翡翠へ近づかれる可能性が上がる。
それだけは何としても阻止しなければ。
「決して諦めない。翡翠は絶対に守ってみせる……!」
ハーヴェイがうっかり素を出した事に気付くのはこれよりすぐ後のことであるが、幸いにして周囲には誰もいなかったのだった。
実際のところ、戦場は手薄になり始めていた。ちゅん太は押し寄せるサンドウッドの砂を刀で振り払い、その進行を遅らせんと斬りかかる。シフォリィは皆の回復に必死だ。
(薬はあとどれくらいあるんだろう……?)
それによっては先にNPCを下がらせる必要があるだろうか、などとちゅん太は考えをよぎらせるも、再び敵の薙ぎ払いがやってくる。刀で受け流そうとしたちゅん太は、別の方向から現れた人影に視線が向いた。
「あれは……!」
同時、ガトリング砲の連射がそちらからサンドウッドへ撃ち込まれ、敵は砂の山となって落ちる。サクラメントから急ぎ戦線復帰を果たしたゲンムは驚く幻想種たちへ声を張った。
「言われるまでも無いかもしれんが、総員気を張ってかかれよ!」
「全力全霊を以て、ここで討ち果たすのじゃ!」
同じく戻って来た白花老、そして少し遅れて慎吾がサンドウッドへの攻撃を再開する。彼らは石花の呪いで死んだはずなのに――NPC達の間ではそんな疑問も湧いただろうが、事実彼らはその場に立っていた。
かなり数を減らしたことで、クロバが一気に畳みかけようと踏み込む。それに気付いたシフォリィは彼を守るように立った。
「いざという時は庇います。存分に戦ってください」
「おいおい……オレは庇われるほどヤワくないぞ」
シフォリィにクロバは半ば呆れたような目を向けながら止めどない攻撃を浴びせにかかる。前へ、前へ。そんな彼へ向かう敵をグリースはヴォーパル・スターで狙い撃った。
「さすがに引き際くらい見極めてよね。家族が悲しむだろう?」
「そうだぜ! 特攻するのは俺たちだけで十分だっ!!」
戻って来たハーヴェイが背の炎を燃やし、その勢いのままサンドウッドの横から突進をかます。大勢を崩したその隙に、Sikiはその姿を変化させた。
「――override」
その身が青の炎に包まれ、手に持った美しい魔法剣もまたその力を宿す。
(またね、って言ったんだ。まもる、って誓ったんだ)
誰も、何も、傷付けさせなどするものか。
炎と共に舞う刀はサンドウッドの昏い穴へと飲み込まれ、そのまま背へと突き抜ける。砂が全て落ちてしまえばがらんとした空間には、ただただ砂嵐の乾いた風が吹いた。
「……クロバ」
「……なんだよ」
戦う前と同じようにやり取りをして、また同じように視線が交錯する。けれども今度は、グリースの眉が思いっきり依った。
「くだらないカッコつけはやめときなよ。どうせクオンに認められたい一心なんでしょ」
翡翠を守ったという実績を持ち帰って、父に見せつけてやりたい――そんなところだろうか。実際、クロバはグリースの言葉に物凄く嫌そうな顔をした。
「守りたい居場所があるのなら、自分からその居場所を手放さないべきです。貴方に守りたい物があるように、貴方の帰りを待つ人だっているのだから……!」
「……クロバ・フユツキ。家族が離れるのはものすごく寂しい事だ。だから、どんな理由であれ置いてくなんて許さないよ」
シフォリィの言葉にグリースが続ける。クロバは2人の言葉に瞑目して、それからくるりと翡翠の方を向いた。
「帰るなら早く帰りなよ」
「……帰るも帰らないも自由だろ。余所者に指図されるようなことじゃない。オレがしたいようにするさ」
肩越しにそう告げるクロバは、言葉に反して声音はとても苦々しい。帰った後の事を想像しているのだろう。
やれやれとグリースはため息をつく。どうしてこう素直じゃないのか。
「待って、待ってよ! 私も話があるんだって!」
しかし待ったをかけたのはSikiである。振り向いたクロバの前でSikiはちょこんと正座した。背筋を伸ばし、Sikiはクロバを見上げ――頭を下げる。
「ごめんなさい」
「え?」
「前の戦いで仲間の精霊さんを傷付けてしまったこと。ずっと謝らなきゃいけないと思って、会いに来たんだ」
クロバを連れ帰ろうとするあまり、彼の味方であった精霊を傷付けてしまった。仲間を傷付けられたら怒るのも当然だ。
頭を上げないSikiにクロバの狼狽えた声が落ちる。しかし周りも見ていることに気付いたか、小さく咳払いしたクロバは顔を上げてくれ、と告げた。
「精霊たちを攻撃された事実は消えない」
「……うん」
「だがイレギュラーズが翡翠を救おうとした事実も、消えない。……悔しいけどな」
そこまでは顔を上げるものの視線を落としていたSikiは、ようやくクロバを見上げる。彼は苦々しい表情を浮かべていた。
「それに、オレや同胞がイレギュラーズを傷付けた事実も消えない。だから、」
痛み分けにしよう、と。言葉を区切ったクロバは膝をつき、Sikiと視線の位置を合わせてそう言った。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
恐らくこの後のクロバはクオンからゲンコツのひとつやふたつ、食らっている事でしょう。
MVPはより効果的な攻撃を示した貴女に。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
エネミーの掃討
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。嘘などはありませんが、不明点があります。
●フィールド
翡翠の国境により近い砂嵐の国。砂漠のフィールド。足場がやや不安定です。
少し後退すれば足元はしっかりし、やがて翡翠の国境にかかります。足場のマイナス補正はなくなりますが、翡翠へ攻められていることになるため友軍全体の士気が下がります。これは国境に近づくほど大きく減少します。
最寄りのサクラメントは少し離れた砂嵐の街であり、リスポーンされた後は全力移動しても直ぐに戦線復帰できない状態です。(数ターンかかると想定してください)
●エネミー
・サンドウッド×15
終焉獣(ラグナヴァイス)と呼ばれる凶悪なモンスターの一種です。
砂で形作られた巨木のようなエネミーで、その全長は40mにものぼるでしょう。木の根を足のように蠢かせ移動します。幹には眼窩と口のような穴が開いていますが、その中は暗闇になっておりどんな形状になっているのか不明です。
動きは鈍重ながら、防御と体力面で強いです。また、ダメージを受ければ受けるほど、攻撃力も上がるようです。
動くたびに周囲へ砂をまき散らし、砂のかかる位置にいる場合【足止】BSの判定がかかります。また砂を用いた攻撃はいずれも範囲攻撃になり『石花の呪い』のステータスが付与される場合があります。そのほか乱れ系統、窒息系統のBSが想定されます。
●友軍
・クロバ・フユツキ
現実のクロバ・フユツキ(p3p000145)とそっくりなNPC。翡翠に家族がいます。
裕福な家庭で育った彼は傲慢かつ不遜であり、我儘三昧な性格に育っています。けれどもこの翡翠のことは大切に思っており、渋々ながらも共闘するスタンスです。
刀とガンブレードの二刀流で接近戦を仕掛けてきます。EXAと【連】付の攻撃により、非常に手数に秀でています。また、反応速度も高いです。
また、錬金術による神秘攻撃も使用できますが、不慣れなフィールドであることから、練度の高い接近戦で挑むでしょう。
・ブラス・ロックハート
翡翠生まれの狙撃手。狩人として弓を扱っていましたが、混沌世界の彼同様に若いうちから翡翠を飛び出し、その後行方は知れませんでした。しかし独学で狙撃術を磨いた彼は、世界の窮地と知り故郷へ舞い戻ってきています。
レンジ4からの狙撃を得意としており、命中精度と攻撃力が高いです。手数を増やすよりも一発に全力を込めるタイプです。しかし半面、防御面では脆い所があります。後方からの援護射撃を中心に戦うでしょう。
・幻想種×5
クロバと共にエネミー迎撃に来た幻想種たち。彼の投資先に石花病の研究者がいたため、この戦場へ『試薬』を持ち込むことができたようです。(回数上限あり、石花病については後述)
彼らは戦闘を行う他、試薬を他者へ使用するという行動手段が取れます。これについては幻想種以外が行うことはできず、この間は非戦闘者扱いとなります。
戦闘時は槍や弓でレンジ2~3の攻撃を行います。いずれも反応面で長けていますが、5人で敵2体を相手取れるかどうか……といった具合です。
●ご挨拶
愁と申します。
昨日の敵は今日の友……というにはつっけんどんとした男が1名いますが、今回においては彼も味方です。
上手く協力して窮地を切り抜けましょう!
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
R.O.O_4.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。
●重要な備考
<ダブルフォルト・エンバーミング>ではログアウト不可能なPCは『デスカウント数』に応じて戦闘力の強化補正を受けます。
但し『ログアウト不能』なPCは、R.O.O4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』が敗北に終わった場合、重篤な結果を受ける可能性があります。
又、シナリオの結果、或いは中途においてもデスカウントの急激な上昇等何らかの理由により『ログアウト不能』に陥る場合がございます。
又、<ダブルフォルト・エンバーミング>でMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
予めご理解の上、ご参加下さいますようお願いいたします。
●石花病と『石花の呪い』
石花病とは『体が徐々に石に変化して、最後にその体に一輪の華を咲かせて崩れて行く』という奇妙な病です。石花病は現実の混沌でも深緑を中心に存在している病です。
R.O.Oではこの病の研究者アレクシア・レッドモンドの尽力により『試薬』が作られました。幻想種達はこれらを駆使して、『石花の呪い』に対抗できます。(1Tのギミック解除時間が必要)
『石花の呪い』はバッドステータスと種別を同じくする特殊ステータス状態です。敵の攻撃がクリーンヒットした時に20%程度の確立で『石花の呪い』が付与されます。
『石花の呪い』に感染したキャラクターは3ターン後に体が石に転じ死亡します(デスカウントが付与される状態になります)
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