PandoraPartyProject

シナリオ詳細

悪魔の儀式

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●理想を求める悪魔
 醜悪な臭いが鼻を突くと同時、唐突な覚醒が訪れる。
 朧気な瞳を見開きながら、ハーモニアで花売りの少女クリム・シュリファナは自身が危機的状況に置かれていることを自覚した。
 寝台に寝かされ縛られ動かない手足。のみならず首も固定されている。
「いや……な……これ。ど……して……」
 か細く喉を鳴らすもうまくしゃべることができない。首の感覚が麻痺していることに気づく。
 訳もわからず涙が零れる。
 お父さん、お母さん、助けて――脳裏に過ぎるのは家を出る前に母から聞いた人攫いの噂だった。
「おや、気づいたかな?」
 その声にびくりと肩が震える。旨く動かない首を動かして視線をやれば、高級そうな衣服に身を包む一人の若い男。
「ふむ、いけないね。泣いては瞳の周りが赤くなってしまうじゃないか」
 そういって男はクリムの瞳を優しくハンカチで拭う。
 クリムは男に見覚えがあった。
 目覚める直前。
 王都で花を売っているところに現れた男。二言三言会話し、一輪の花を手渡した。その直後、男の笑みと同時に記憶が途切れている。
 なぜ自分はこの男と二人でいるのか。そしてこの醜悪な臭いのするこの場はどこなのか。男が――噂の人攫いなのか。
 様々な疑問が浮かぶも答えはでず。ただ自身の命の危機を前に怯え震える。
「ふふ、怯えなくても良いんですよ。大丈夫あなたは選ばれたのです」
 何に――?
「さぁこれをご覧なさい。私の愛しの少女。理想を目指した完璧な少女です」
 この人は何を言っている――?
「君の瞳はまさに理想の色形。私の理想を体現する最後のパーツとなるのです」
 恍惚な表情を浮かべる男の視線の先には、つぎはぎだらけの裸の少女が椅子に腰掛けている。
 その双眸に光り無く――目元だけが綺麗に刳り抜かれている。
「ふふ、ははは。もうすぐだ、あと少しで私の理想の少女が完成する! 私の医学的知識と、この禁書に記された悪魔的邪法を持って、命ある少女が生まれるのだ!!」
 男は笑う。
 理想へと手が届きそうな今その時の気持ちを抑えきれず。
 クリムは祈る。
 誰でも良い、誰かこの悪魔から救い出してほしいと。
 ――仄かに光るランプの明かりだけが、対象的な二人の姿を見つめていた。


「幻想で少女達を攫い、悪魔的な儀式を行おうとしている男、フィルフィス・シトラウザの足取りを掴むことができたわ」
 『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)がいつになく怒りの感情を露わにして依頼書を渡してきた。
「この儀式、ハーモニアの少女の身体を依り代にする必要があるようなのだけれど、あろう事か、自身の理想の少女像を作り上げるために、何人ものハーモニアの少女の身体を八つ裂きにして、部位ごとに集めていたみたいね」
 おぞましい行為、吐き気を催すほどの邪悪さに、リリィは顔を顰める。
「今朝方一人のハーモニアの女の子が行方不明になったと連絡が来たわ。その足取りを追って、ようやく居場所を突き止めることができたの」
 リリィは自身の集めていた情報との繋がりから、犯人はフィルフィスだと断定したようだ。
「フィルフィスは元々天才的な医者だったようだわ。外科的な心得も当然持ち合わせているわね。――そんな男を狂わせたのが手にしている禁書よ」
 禁書『グアドラスの技法』は悪魔崇拝者のグアドラス=テニシアが編み出した六十の禁術が記されているという。
 その禁術は単純な悪魔召喚から死者蘇生、魂の定着法など多岐に渡る。
「呪われし書として強い力を持つ禁書よ。本来なら封印されてしかるべきものね。どこで手に入れたのやら……」
 本依頼のオーダーは三つある。
 一つ、フィルフィス・シトラウザを止めること。なお生死は問わず。
 一つ、囚われているハーモニアの少女を発見でき次第助けること。
 一つ、禁書『グラドラスの技法』を持ち帰ること。
「禁書は焚書してしまったほうがいいんじゃないか?」
「そうしたいのも山々なんだけれど、色々調べて見たら、この禁書、燃やしても破いても、水に沈めても……何をしてもしばらくすると元通りの姿で転移してしまうようなの」
 自己保存の魔法でもかかっているのか。禁書を消し去ることはできないのだという。
「だから、禁書はこの聖骸布で作った封印袋に入れて持ち帰ってきて頂戴。その後は魔導図書館と呼ばれているディオーネ図書館に持って行って封印してもらうわ」
 直接触れるのは、どのような影響が起こるか不明なので禁止ということだ。
「フィルフィスの潜伏している建物は王都の西にある森の中よ。廃屋のような作りだけれど、地下へと進める隠し扉があるわ。
 地下はフィルフィスの呼び出した悪魔が犇めいてるようね。油断すれば大きな怪我にもつながり兼ねない強敵よ。心して頂戴」
 儀式が行われる日は次の満月の夜だ。いまから準備すればぎりぎり間に合うだろう。
 だが、それは同時に、悪魔達の相手をしている間に儀式が行われてしまう可能性があることを示唆している。囚われの少女の安否も気がかりだ。
 戦闘は最小限に。場合によってはチームを分ける必要もあるかもしれない。
「私のギフトでわかった情報も書き足しておいたわ。参考にして頂戴」
 リリィはそう言って席を立つと、イレギュラーズ達に言葉を掛ける。
「同じハーモニアとしてフィルフィスを許すことはできないわ。たとえ禁書に操られていたとしてもね。どうかお願い、これ以上の凶行を行わせる前に止めて頂戴」
 深い怒りを覚えるリリィを落ち着かせるように、イレギュラーズは強く頷くのだった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 呪われた書を手に悪魔の儀式を行おうとする者がいます。
 ハーモニアの少女を救うため、皆さんのお力を貸してください。

●依頼達成条件
 フィルフィス・シトラウザの制圧(生死は問わず)
 禁書『グラドラスの技法』を傷つけずに持ち帰ること。
 
●情報確度
 情報確度はAです。
 想定外の事態は起きません。

●フィルフィス・シトラウザについて
 三十二歳。天才的な医者だったがある時を境に表舞台から姿を消す。
 ハーモニアの少女に対して重度な偏愛を抱いている。
 悪魔の書物『グラドラスの技法』を手にしたことから、禁じられた邪法へと手を染める
 そして自身の理想の少女を生み出すために、幾人ものハーモニアの少女を供物として捧げた。
 表面的には紳士。しかしその本質は狂気に染まっている。

 邪法によって身体強化されています。
 人体解剖を得意とし、高CT高EXAで連続攻撃から一気に相手を解体します。

●地下に潜む悪魔達
 フィルフィスが禁書を用いて呼び出した異世界の悪魔達。
 多くは下級の雑魚悪魔ですが、中に一匹だけ中級悪魔が存在します。
 ただし知能は低く与えられた命令をこなす事しかできません。
 
 ・雑魚悪魔
 特筆するところのない悪魔ですが、数が多いです。ちくちくと通常攻撃を繰り返します。

 ・中級悪魔
 BS耐性が高く、範囲攻撃(物中範・狂気)を持ちます。高耐久で相手をするのは骨が折れるでしょう。

●禁書『グラドラスの技法』
 悪魔崇拝者グアドラス=テニシアと呼ばれる人物が記した、自身の知る六十の邪法が掲載されている書物。
 傷をつけると自己保存魔術が発動し、傷を修復すると共にどこかへ転移します。
 たびたび『無辜なる混沌』の各地に現れては騒動を引き起こす呪われた書物。

●リリィのメモ
 地下空間は北と南に進む道が分かれているわ。その先も結構な空間が広がっているみたい。
 狙うべきは、北にあると思われる研究室の扉ね。ただ、そこまでに巡回している悪魔の処理が問題になるかしら。
 南には悪魔を召喚し維持するための魔方陣があるはずよ。遠回りになるけれどそれをつぶせれば探索も楽になると思うわ。
 ただしあまり時間がないわ。
 最短ルートで悪魔を蹴散らしていくか、遠回りだけれど悪魔を一網打尽にしてから進むか、その判断は皆に任せるわ。
 どうか、同胞である少女を救い出して頂戴。頑張ってね。

●想定戦闘地域とその他
 地下空間での戦闘になります。
 狭い通路ですが、戦闘は問題なく行えます。その他目に付く障害物はなく戦闘に支障はでないでしょう。
 地下空間は仄かに明かりが灯っていますが、薄暗い場所になります。
 そのほか、有用そうなスキルには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。 

  • 悪魔の儀式完了
  • GM名澤見夜行(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年07月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
蒼の楔
メアリ(p3p000591)
クランクドール
祈祷 琴音(p3p001363)
特異運命座標
高千穂 天満(p3p001909)
アマツカミ
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルフト=Y=アルゼンタム(p3p004511)
飛騨・沙愛那(p3p005488)
小さき首狩り白兎
ユー・アレクシオ(p3p006118)
不倒の盾

リプレイ

●潜入
 王都西の森の中に、その廃屋はあった。
 一見すれば打ち棄てられた廃屋に過ぎない。廃墟マニアでもなければ近寄るようなことはしないだろう。
 だが、そんな何の変哲もない廃屋に痕跡は残されていた。
「……確かに出入りしてるなァ。上手く痕跡を消したあとがあるぜ」
 床を丹念に調べていた『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)が見つけた痕跡をなぞりながら声を上げた。
「ならこのあたりに隠し扉があるな」
 杖を突きながら近づいてきた『クランクドール』メアリ(p3p000591)が杖で床を叩きながら音を確かめる。
 音の違う床は、あっけなく見つかった。床板を外すように持ち上げると、地下へと降りる階段が見つかる。
 イレギュラーズは頷き合うと、音を立てずにその階段を降りていった。
「いやねぇ……こんなところで沢山殺して、つぎはぎの女の子作ってるんでしょぉ? よくわからない趣味よねぇ」
 階下へ降りながら『とにかく酒が飲みたい』祈祷 琴音(p3p001363)が思ったままに言うと、
「こんなところ、だからであろう。……趣味がわからないのは同感であるがな」
 『アマツカミ』高千穂 天満(p3p001909)の言葉に、聞いていたイレギュラーズは「同感だ」と頷いた。
 階段を降りきり、地下空間にたどり着く。人工の明かりが仄かに灯り、人の手によって維持されていることがわかる。
「これだけの空間、誰がどのように作ったんだろうねぇ」
「さあ? どうなんでしょうね。例の禁書の力なのですかね?」
「それこそ、まさかだ。大方金持ちの作った秘密の遊び場かなにかだろう?」
 『蒼ノ翼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)の疑問に、『小さき首狩り白兎』飛騨・沙愛那(p3p005488)と『Security』ユー・アレクシオ(p3p006118)が答える。真相はどうであれ、事実情報通りに地下空間が存在した以上、この先にハーモニアの少女に偏愛を抱く殺人鬼、フィルフィス・シトラウザがいるのは間違いないだろう。
 ハーモニアである、ルフト=Y=アルゼンタム(p3p004511)は情報屋に目的確認したときの会話を思い出し、強く拳を握る。同胞に何かあれば――感情が抑えられないかもしれない。突いた想いが口から零れ出る。
「頼みがある。もし俺が暴走しそうだったら手荒で構わない。止めて欲しい。
 感謝こそすれどそれで恨む事などない」
 その宣言にイレギュラーズはルフトの肩を叩き、了解した。
「それじゃいくかァ。糞ったれな結末にしない為にもな」
「二人も気をつけてねぇ」
 イレギュラーズは地下空間の入り口で二手に分かれる。直接フィルフィスがいるであろう研究室へと向かう北班と、地下空間を巡回するフィルフィスの手下――悪魔を消し去る為に、悪魔を生み出し制御している魔方陣を破壊する南班だ。
 レイチェルとメアリの二人が少数で副次的目的である南へ向かい、残りの六人が本目的である北へと向かう。
 連れ去られたハーモニアの少女を救うため、イレギュラーズが最善だと考え抜いた上での作戦だった。
 南方のルートを進むレイチェルとメアリは、ルーキスのファミリアーによって呼び出された鴉と共に進んでいた。少数であることを活かし、その速度は迅速と呼んで差し支えないだろう。
 レイチェルを先頭に、片足義足のメアリが後に続く。とはいえ、メアリの移動は健常者のそれと謙遜ない程度に素早く、そして静かだ。義足がハンデとなることはない。
 二人は、スキルを駆使しながら進む。
 気配を殺し忍び足で、暗視ゴーグルをつけたレイチェルが先導し、メアリの感知した敵対心持つ者――悪魔達――の位置情報を確認しながら、隠れ、潜み、躱し進む。
 時間との勝負である。二人の行動が早ければ早いほど、状況は優位になる。
 だが、当然全てを素通りというわけにはいかない。
「ありゃァ無理だな。やるぞ」
「私は弱いが……仕方ないか」
 通路を塞ぐように立つ下級悪魔。進行の邪魔となるソレめがけて、レイチェルの魔力が迸る。緋色の光を帯びた魔術式が足下に展開し、噴出する闇が狼の牙のごとく悪魔を引き裂いた。
 レイチェルの攻撃に合わせて、メアリも手にした毒の薬瓶を投げつける。叩きつけられた薬瓶が割れ中の猛毒が悪魔を襲った。
 奇襲は成功したと言って良いだろう。悪魔と言えど、そう強くはない低級なものだ。二人の攻撃により、悪魔はなすすべ無く沈黙した。
 そうして安全を確かめた二人は奥へ、奥へと進んでいく。
 長い入り組んだ通路を駆けることしばしの後、儀式めいた調度品の並ぶホールに辿り着いた。
「どうやら、目的の場所らしいな」
 中央の地面に描かれる大魔方陣。その上に開いた異空間への入り口。狙い通りのものがそこに在った。
「手早く壊してしまおう」
 メアリの言葉に頷いてレイチェルが魔力を走らせる。地面に描かれた魔方陣に亀裂が走り術式が欠ける。
「――ッ!」
 だが、一撃では破壊できない。同時に音を聞きつけた悪魔達が大挙して押し寄せる。
「構うことはねぇ――魔方陣だ!」
 襲い来る悪魔達に囲まれながら、二人はその力を魔方陣へと向け放った――。

●悪魔を滅す
 一方北方へ進む六人のイレギュラーズ。こちらもまたスムーズに先を進んでいた。
 各種スキルは有効に機能し、仄暗い迷宮めいた地下道の探索を楽なものにしていた。
 当然、こちらも南ルート同様に避けられない戦いがあった。六人は奇襲を行い迅速に処理、先を急ぐ。
 そうしていくつかの曲がりくねった道を進んだ先で、ルフトが停止のハンドサインを出す。通路の先、それまで見てきた悪魔とは異質な悪魔が立っていた。
「見るからにやっかいそうな奴がいるのです」
「情報にあった中級悪魔って奴かな」
 沙愛那とユーがのぞき込んで声を漏らす。通路の先、扉の前に鎮座する大柄な悪魔。山羊の頭のそれは、じっと動かずその場で気配を探るようだった。
 ――恐らく、研究室……フィルフィスが凶行に及んでいる部屋は、あの扉の先だろう。
 イレギュラーズは顔を見合わせ意思を疎通する。
 この場で待っている時間は惜しい。南側の状況的に魔方陣への到達はもうすぐだと思われるが、それを待ち続ける理由はなかった。
 そう、今こうしている間にも、連れ去られたハーモニアの少女に危機が迫っているのだ。
 ならば――。
 これまでの通路で行ってきたように六人は山羊頭の悪魔を奇襲する。
 ルーキスが無数の石礫を召喚し放つと同時、身体強化したユーが手にした重火器で射撃する。
 射撃音とほぼ同時、残りのメンバーが通路から飛び出し、一足飛びに肉薄すると、手にした得物で切りつける。
「ヴォオォ――!」
 致命打を狙った連続攻撃だったが、悪魔の皮膚は硬く、攻撃を骨まで通さない。不意を突かれたことに怒りの咆哮をあげる悪魔。生み出した鎌をその手に持てば、地下道を揺るがすように大きく振るった。
「怒らせちゃったかしらねぇ?」
「仲間を呼ばれても面倒だ……一気に片付けよう」
 悪魔の振るう鎌を取っ手のついたテーブル天板で防ぐ琴音。悪魔が集まってくることを危惧するルフトが武器を構え直す。心を斬るを信条とする薄刃流の太刀筋が、心持たない悪魔にどの程度通用するかは興味深いところであろう。
 イレギュラーズの放つ攻撃が、次々と悪魔に突き刺さっていく。だが、その悉くを受けてなお、悪魔は揺るがず、底知れない体力を見せつける。
 狂気を齎す咆哮が響く――精神を汚染する叫声が頭に響き渡る。戦いの音に釣られ、通路から続々と下級悪魔達も集まってきた。
「南の様子はどうなっている!」
 天満の声に、ルーキスが反応する。
「魔方陣には到達している、もう少しだ」
 で、あれば、今は魔方陣へと仕掛ける二人を信じ消耗を押さえるが吉か。
 悪魔達がイレギュラーズを取り囲む。こうなると下級悪魔達を滅しながら、大鎌振るう山羊頭の対応に追われることとなる。
 琴音が怒濤の勢いで飲酒すれば悪魔達の注意を引き、その隙をついてルーキスとユーが牽制となる遠距離攻撃を放つ。
 体勢崩れる悪魔達へ、天満と沙愛那、そしてルフトが飛びかかり、得物を振るう。残光が軌跡となって地下道に閃いた。
 そうして、幾度目かの打ち合いの後、それは唐突に訪れた。
「ヴォアァ――……」
 弱々しい咆哮をあげた悪魔達が土塊のように固まり、そして崩れ落ちる。
 悪魔達はまるで最初からいなかったかのように、砂へと変わり消えて行った。
「二人がやってくれたみたいだね」
「……急ごう。この騒ぎもあの扉の向こうで聞きつけているだろう。少女が心配だ」
 ルーキスとユーの言葉に一同は一斉に扉へと向かう。
 ここまで来れば隠し通す必要もない。
 イレギュラーズは乱暴に扉を開け放ち、中へと踏み込んだ。

●偏愛の徒
「――そこまでだ!」
 部屋へと飛び込んだイレギュラーズが声を上げる。
 その部屋はまさに研究室と呼ぶに相応しい、雑多な資料に様々な器具が置かれている部屋だった。そして同時に呪術的な装いも見せる、錬成室とも呼べそうな部屋でもあった。
 その部屋の奥、ベッドに横たわる少女にのし掛かるようにして何事か手を動かしている男がいた。フィルフィス・シトラウザだ。
「――まったく、騒々しい。目玉が綺麗に取れないじゃ無いか。……一体何だね?」
 痩せ細った――病的なほどに――男が医療用刃物を手に振り返る。刃物には血液が付着し、その奥に横たわる少女の瞳は血と涙に濡れていた。
 瞬間――ルフトの血液が沸騰するように激しくざわめいた。有無を言わさぬ速度で武器を構えると刹那の呼吸でフィルフィスの懐へ飛び込もうとした。
「待て! ルフト!」
「ッ――!!」
 ユーの制止に踏みとどまる。同時にルフトの首元を過ぎる殺気。フィルフィスは少女の首を掴み、あろう事か自身の盾として扱った上で、ルフトの首を狙い刃物を振るったのだ。
 即座に間合いを取って仲間に謝罪するルフト。
「ハーモニアか……男には興味ありませんね」
 フィルフィスのその言葉に、ルフトが返す。
「こちらとて、外道に興味などない」
 今度は全員で武器を構える。この狂気に染まった男を止める必要がある。
 大きく息を吐き出したフィルフィスが少女をベッドに放り投げ、イレギュラーズと対峙する。そうして一同の瞳を一瞥したあと、大げさに肩を竦めた。
「まったく愚かしい。君たちは私の崇高な儀式を邪魔しようというのかね」
「ふざけるな」と返そうとするイレギュラーズを片手で制止し、コツコツと音を立てて部屋を歩き出すフィルフィス。逃げ場はない。一挙手一投足に注意を向ける。置かれた机の前まで辿り着くと、何事か想いを言葉にし始めた。
「嗚呼……美しきハーモニア。そう、特に少女が良い。
 ――私はね、噂に聞く深緑の指導者、かのリュミエ・フル・フォーレがどれほどの美しさを持っているのか、大変気になっているのですよ」
 突然出てくる深緑の指導者の名前。噂に聞く凜とした美しき女性。
 フィルフィスはまだ出会ったことのないその『美しさ』を想像するように仰ぎ見て、そうして机の奥へと視線を送る。
 釣られて視線を映せばそこには、全身をつぎはぎ、人の形をした――死体の集合体――少女がイスに腰掛けていた。
 その瞳は黒洞々とした深淵が覗いている。ともすれば吐き気すら催すその肉塊を前にフィルフィスは口の端を釣り上げた。
「ふふふ、面白いと思いませんか? 私の作り上げたこの理想の少女が、あのリュミエ・フル・フォーレより美しかったら……いや、必ず美しいと断言できる! 
 ふふ、ふはは! 最高だ! 想像するだけで達してしまう!」
「ほんと良い趣味とは言えないわねぇ」
「紛うこと無く狂っておるな」
 琴音と天満の感想には同感せざるを得ないだろう。確かにこの男は狂っている。自らの感じる『美しさ』を求め、犯してはならない罪を犯している。
 大げさに笑うフィルフィスは机の上の本を手に取る。神経質そうにページをめくりながら何事が呟くと、大事そうに本を抱えた。
「すべてはこの禁書のおかげだ! ハーモニアという理想種との出会い、そしてこの禁書が私の元に来た! もうすぐ、もうすぐなんだ! あとはそこの彼女の深蒼の瞳を両の眼にはめ込めば、完成する!!」
 偏愛を抱く男は、禁書という力を手に入れ、人ならざる者――外道へと落ちたのだ。
「……というわけだ、君達にはお引き取り願いたいのだが……」
 フィルフィスの言葉に、沙愛那が首を傾げ、
「うーん、よくわからないけど特殊性癖のロリコンさんだってことはわかったよ!」
 と、思ったことを口にすると、続けてルーキスも口を走らせる。
「偏愛も行くとこまで行くと狂気だね。悪魔に魅入られた……というよりかは利用しているつもりなのかな?」
 果たして利用されているのはどちらか。フィルフィスの手にする禁書が怪しく光ったように見えた。
「ふむ……自ら帰るつもりはないようだ。では仕方ない、退場して頂こう……バラバラにしてしまうから自分の足で、というわけにはいかないだろうけどね」
 顔に笑みを貼り付けたままのフィルフィスが医療用刃物を構える。殺気を感じ取ったイレギュラーズもまた、武器を持つ手に力を入れる。
 戦いは静かに始まった。
 誰よりも早く動くルフトが、蒼光の軌跡を描きながら剣閃を放つ。相手を圧倒する動きを見せつけるも、身体強化を行うフィルフィスは肌を焼く痛みに構うことなく刃物を振るう。その狙いは人体を良く理解している刃筋で、防御手段の裏を突く一撃となって襲い来る。
 天満が駆ける。フィルフィスを間合いに捉えれば焔を放ち燃えさかる炎へと包み込んでいく。だが、フィルフィスは巻き起こる火炎をものともせず抜け出ると、見るも鮮やかな連撃を放つ。天満の肌が朱に染まる。その悉くが致命傷を齎すもので、一瞬の油断が天満の意識を摘み取った。
「本を傷つけるなって言われると難しいね」
 遠距離術式で攻撃を仕掛けるルーキス。その間隙を縫って琴音と沙愛那が肉薄し、その痩せ細った身体に攻撃を叩き込む。琴音がマークする隣で沙愛那は続けて、
「特殊性癖の悪いロリコンさん! 今すぐ女の子を解放するのですよ! 解放しないなら……成敗します!」
 と、『ロリコン』の部分を強調してフィルフィスに怒りを灯らせる。
「おっと、まだ終わってないようだなァ」
「待たせたな」
 そのタイミングで、南で魔方陣を破壊したレイチェルとメアリが合流する。
 即座に攻撃に移るレイチェル。闇の牙がフィルフィスの身体を引き裂いていく。
 メアリは戦いに集中するフィルフィスを横目に、ギフトで生み出したゴーストを操り、囚われた少女の拘束を解く。この動きにはユーも呼応する。少女を起こし声を掛ける。
「助けに来たぞ、もう少しの辛抱だ」
 少女の瞳。しっかりと確認すれば、目蓋を切られただけなのがわかる。出血は多いが失明に至ることはないだろう。
 ユーが仲間達に告げることで、活気付く。逆にフィルフィスは焦りが生まれだしていた。
 レイチェルの放つ魔力がフィルフィスの脚を取る。バランスが崩れた。
「終わりだ、外道――」
「最後に本物を見せてあげる。
 食い千切られる覚悟はいい?」
 ルフトの剣閃が瞬くと同時、ルーキスの呼び出した意思持つ爪牙がフィルフィスを八つ裂きにした。それは確かな手応えと共に致命傷を与えたことを理解させる。
「ゴフッ……ばかな、あと一歩、あと一部位だぞ……」
 吐血するフィルフィスは、おぼつかない足取りで少女――クリムの元へと近づこうとする。だが、途中脚を縺れさせ倒れた。
「嗚呼、私の、私だけの……」
 倒れた視線の先は、イスに座ったつぎはぎの少女達の遺体。何も映すことのない暗黒の双眸が、フィルフィスを見つめる。だが、どこかそれは怒りと悲しみに満ちた形相のようにも見えた。
「悪い事をしたら命で償う……それが当たり前ですよね」
 無邪気に笑う沙愛那が愛用の巨大包丁のような刀を振るい、フィルフィスの首を落とした。
 そうして悪魔の儀式を行おうとした殺人鬼は、その理想を手にすること無く葬られるのだった。

●傷と花
「確かにお預かり致しました。
 ……封印の方はお任せください。責任を持って禁書庫に封じさせて頂きます」
 そういって魔道図書館の司書――リィラ――は無表情に礼をすると受け取った聖骸布を手にローレットから出て行った。
 依頼をこなしたイレギュラーズはその報告を行った。オーダーは完遂。連れ去られた少女も目蓋に傷が残るものの、失明することはなかったようだ。
 ただ、すでに犠牲となっていた少女達の判別は、しばらくかかるということだった。
 一人の医者が道を踏み外し及んだ凶行。
 手の届かないところで起きた殺人には思うところもあるが――。
「あ、あの……」
 報告を終え帰ろうとしたところで呼び止められる。
 左目を眼帯で隠した少女――クリムがぺこりと頭を下げて、手にした蒼い小さな花を差し出した。
「ありがとうございました。それでよかったら、これを……」
 ――思うところはある。
 けれど今は、この一人の少女を救えたことを、喜ぶべきなのだろうと、イレギュラーズ達は思い、そっと花を受け取るのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

澤見夜行です。

二手に分かれる、その戦力バランスは良かったと思います。
一応、地下道探索でダイスロールしていたら良い目ばかりでるもので何のトラブルもなくて困りました。
手間取るようならクリムちゃんが失明または死亡もあり得ましたが、結果はリプレイ通り。

禁書を聖骸布に入れる人が誰もいなかったのでみんなで押しつけあったのかなって思いました。ばっちい物扱い。

依頼お疲れ様でした。
依頼の地域も広がってきたので、いろいろな依頼に挑戦してみてください。

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