PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Slam Dog Monochrome

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●愛と形容されたソレ
 ひとりぼっちは寂しいと呟いたその日、センセイは僕に教えてくれた。
 鈍色の刀を捕らえた男の首筋に当て、力を込めて引きながら。

「センセイ、それは何?」

 刃に滴る赤を指先で掬い上げ、センセイはいつも通り薄く笑う。

「これはな、"愛"や」
「あい?」

 馴染みのない発音を繰り返す。「せや」と短く返してセンセイは曇天の空を仰いだ。

「こないなロクでもない世界で大人になるまで生きて来れたっちゅう事はつまり、
 この人間は弱いまま、この歳までのうのうと生きてられる程、まわりに愛されて守られてきたっちゅー事や」
「守られているものを、僕たちが壊してしまっていいのかな」

 僕の問いかけに、何故かセンセイはちょっと驚いたような顔をした。ガシガシと頭を搔いてから、男を踏みつけて僕の前までやって来る。

「ジューゴ君は兵器の癖に時々めんどい事考えるなぁ。もしかして中身は子供か?」
「この生体兵器の素材になった脳は15歳の人間だから、そうとも言えるね」

 素直な言葉とは裏腹に、ジューゴと呼んだ生体兵器の声は低くざらざらとしている。
 センセイと呼ばれる俺よりも遥か高い、2メートル強の巨躯の姿。二足歩行の大型犬の様なソレは、とある研究施設で死にそびれた実験体のうちのひとつだった。


――正直、俺は自分の事以外どうでもいい。

 この兵器を拾ったのも、こうして連れまわすのも気まぐれだ。

「なんや、やっぱりガキやないか。子供はたっぷり愛されんとな」
「センセイ、愛されるにはどうしたらいい?」
「簡単や。いっぱい愛したれ……こんな風に」

 鮮血が夜風に舞い、闇へ溶けていく。捕らえた男が事切れたのを確認し、俺は再び廃滅のスラム街を歩きだした。

 偽りの愛でもいい。嘘でもいい。
 この生体兵器は人間を殺さずには生きられない。殺しのセンセイが教えてやれる事なんて――ひとつ以外、あり得ない。

●破滅的なフタリ
「今回の依頼は『スラムドッグ・モノクローム』というライブノベルの世界での仕事だ」
『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)は説明をつづけながらも、どこか気がすすまない様だった。
「この世界のスラム街に住んでいる住民達から、人を無差別に殺してまわっている者達を処理して欲しいと依頼がきた。
 あまりこういう危ない仕事をお前さんらに頼むのは気がひけるが、困っている人達がいるのは事実だ。引き受けてくれるか?」

 集まった特異運命座標に承諾を得ると、赤斗は帽子を被りなおして気を引き締めた。腐っても情報屋。彼ら彼女らの覚悟が決まっているなら、出来うる限りのサポートをするのが自分の役目だ。

「詳細はこの依頼書を見て欲しい。準備が出来たら声をかけてくれ。街まで送り届けてやる」

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 曇天のスラム街。血を浴びて生きる破滅的な師弟を止めましょう。

●目標
 センセイ、シューゴの討伐

●戦闘場所
ライブノベルの世界『Slam Dog Monochrome(スラムドッグ・モノクローム)』
 パイプが無数に這う灰色の建物ばかりのスラム街。道は入り組んでおり、身を隠せそうな路地が沢山あります。
 建物などの遮蔽物がありますが、壊しながら戦っても問題ありません。予め依頼人達と赤斗の方で交渉は済んでいます。
 化学スモッグの煙がもうもうと煙突から立ち上り、どこまでも続く曇天の空の街が心を澱ませる……そんな寂しげな雰囲気の世界です。

●エネミー

 センセイ
  胡散臭いエセ関西弁を喋る殺し屋の男。30代前半。
  得物は日本刀で、全身黒ずくめ。黒いロングコートには血の臭いが染み付いています。
  攻撃レンジは近接~中距離。剣士としてのプライドはなく、砂を掴んでの目潰しなどもしてくるようです。
  攻撃と反応が高め、防技はやや低め。【出血】や【暗闇】などのBSに注意が必要です。

 シューゴ
  センセイと行動を共にする生体兵器。身の丈2メートル強の、二足歩行の大型犬(ゴールデンレトリーバー)のような姿をしています。
  言動は子供のように幼く、いつも寒そうに両腕をさすっています。センセイに懐いており、いつも一緒に行動しているようです。
  防技が高めで攻撃はそこまで得意ではない様子ですが、自らの身体を燃やしての【火傷】攻撃は遠距離にも届く厄介な技となるでしょう。

●その他
『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)
  真面目な境界案内人。特異運命座標からの頼み事があれば、戦闘外の部分でサポートしてくれるようです。

 このシナリオの情報精度はAです。想定外の事態は絶対に起こりません。


 説明は以上となります。それでは、よい旅を!

  • Slam Dog Monochrome完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年11月27日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

回言 世界(p3p007315)
狂言回し
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

リプレイ


 曇天の雲の下、彩のない灰色のパイプとコンクリートの壁だらけの気の滅入る景観に、無差別殺人ときたものだ。
「物騒な世の中だな……」
『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は気乗りしない様子で頭を掻いた。殺す事に理由があるのか、あるいは快楽殺人なだけか。
 たとえどんな事情があったとしても、こちらのやることは変わらないのだが。
「それで、どうやって標的を探します? 血の臭いを辿れば行きつくとは思いますが、出来れば新たな事件が起こる前に止めたいところですよねぇ」
 美しい青翼を小さく震わせ『青き砂彩』チェレンチィ(p3p008318)が問う。何にせよ、こんな空気の悪い場所に居続けていては自慢の翼が汚れてしまう。仕事の後はいつもより丁寧に手入れが必要か。
「死者がらみの事件なら、プロフェッショナルがいるから大丈夫ですよ。ね、アーマデルさん」
『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)に話の矛先を向けられ、『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は頷いてみせる。
「死を齎す者、その周囲には血(生命)と死の匂いと……無念を残した霊が揺蕩うものだ」

 彼は目を閉じ、霊術士の力で疎通の出来る霊を探って――愕然とした。
 集まった霊魂達はどれも魂が食い荒らされている。ごっそりと何かに噛み千切られた様に不完全な人魂が、人のカタチすら保てずよろよろしながら集うのだ。
 感情表現が希薄なアーマデルの変化を、腐れ縁の世界は見逃さなかったようだ。「どうかしたのか?」と短く問われ、はっと我に返る。
「この場に漂う死者の霊は、何かしら欠けている。これではきっと安らげない。還るべき場所へ還る力もないだろう」
「そんな……ひどい」
 元いた世界で神として祀られていた睦月は、死者が根の国で苦しむ姿を幾度も「視て」きたが――そこに辿り着けなければ、輪廻も巡るまい。
 このライブノベルに漂う終末の空気はバイオ汚染だけでなく、真に生命が巡り切らず星が滅びかけているのだ。
「たとえ短くとも命は最後までまっとうするべきです。それを害するだけでなく、こんな事をするなんて!」
「嗚呼。もし今回の標的が原因だとしたら、許される事じゃない。『酒蔵の聖女』、あんたも頼むぞ……報酬は出来高払いで」
「最近、報酬が渋いっすわぁ」
 アーマデルに命じられ、彼と行動を共にしていた霊魂は肩を竦めてどこかへ消えた。
「最後に( ・◡・*)は……違った、霊魂じゃなかった」
 呼ばれたオレンジ色のまあるい生き物はカクンと頭を傾げる。
「低身長童顔成人男子?」
「お前は邪魔にならないようについて来てくれ」
「低身長童顔成人男子!」
 随分かわった鳴き声だな、とアーマデル以外の特異運命座標がオレンジ色を不審な目で見下ろす。するとソレはとことこ歩き、睦月をビシリと指さして――
「低身長童顔未成年女子!」
「「!?」」


「センセイ、人のニオイがするよ」
「なんや最近コソコソ逃げ回ってると思ったら、もう悠々出歩いとるんか」
 のそりと暗がりから起き上がったジューゴの前へ、センセイと呼ばれた男が瓦礫の上から飛び降りる。二人が向かった先は狭く薄暗い路地の裏側。向かい側からは確かに小柄な女性と白衣を着た眼鏡の男が歩いて来ている。
「いいんです。女の子はちょっと小さい方が可愛いって聞いたから……でも、童顔ってどういう事ですか! 僕はあと3年もしたら、婚約者がメロメロになるぐらい大人のおねーさんになる予定なのに!」
「小動物の悪戯にあったと思って忘れるんだな。……げっ」
 話に夢中だったのか、大きな影が落ちてようやく白衣の男――世界がこちらに気づいた様だった。
「そんな景気悪そうな顔せんでも。儲かってまっかー?」
「ボチボチに決まってるだろ。あんた達が無差別殺人やってる凸凹コンビか?」
 センセイは答えない。代わりに唇の端をつり上げる。
「どうか、無駄な殺生は止めてください」
「無差別殺人さえやめてくれれば実質処理したも同然。リスクを負わずに事が終えられて万々歳だ。
 アンタ達だって無用な戦闘を避けられるし死ぬ可能性を減らせる。悪い話じゃないだろう?」
 口々に説得の言葉を投げかける睦月と世界に、センセイはーー
「えぇで」
 あっさりと承諾した。
「無理だろうが……あ?」
 虚を突かれた様な声を世界が零す。その隙に抜刀するセンセイ。
「避けや、シューゴ!」
「センセイ!?」
 ほぼ同時、天より降る光の洪水。センセイ達の上空に世界の精霊が飛び出し、爆弾を投下する!
「「ーー!」」
 路地の建物が崩壊し、瓦礫がシューゴとセンセイを分断した。土埃を掃おうとシューゴが大振りに腕を振るうと、闇に紛れて接近していたアーマデルが蛇銃剣をその腕めがけて突き刺した。
「痛い! ッ、お前……!」
「俺は騎士でも戦士でもなく、決して綺麗な戦い方ではない方でな」
 アーマデルが振りかぶると、追撃を恐れたシューゴが身を固くする。しかし次の瞬間、その身へ貫く痛みはなく。
「……?」
 シューゴが気を抜いた所へ、すかさず肘内が炸裂する!!
「ぐぁっ! よくもやったなぁ!!」
 怒りと共に燃え盛るシューゴの身体。赤い光に照らされて、身構えるアーマデルと世界。
「ささやかながら俺達からのプレゼントだ。受け取ったまま、何も言わずに倒れてくれたらありがたかったんだがな。
 お前は体を燃やして攻撃するんだろう? その手間が省けるし喜んでくれるんじゃないかと思って用意させてもらった」

 いやぁ、敵に塩を送るとは俺も随分優しい男になったな。……なんて気さくそうな声でシューゴに語り掛ける世界。しかしそのの目は笑っていない。
 目の前のソレは人殺しの化け物だ。加減すればこちらが殺られる。

「僕のために用意を? ……そうか。君達も僕を愛してくれるんだね」
「教えられるただひとつの事を教授する。それは確かに愛であるのだろう、それは手の内を明かすという事でもあるからだ」

 流れ出る血を愛だと教え込まされた生体兵器。その存在にアーマデルはいつかの自分を重ねていた。
「わからなくもないな、冷え、乾いた心にそれはよく染みて、跡を残すもの。
 最初は気まぐれで、飽きたらいつでも捨てられると思っているが、その時が来ない事を願ってしまう」
「知ったような口をきくなよ! 僕がセンセイに捨てられるなんて――」
「……それは魂を侵す毒だ」
 不安と依存に蝕まれ、すり減る魂。痛みを負っても、若いシューゴは気づけない。しかしアーマデルの言葉が胸に突き刺さったのだろう。はは、と乾いた笑みと共に燃える身体を大きく逸らす。
「センセイは僕を捨てないよ。だって僕は壊れない。人を愛している限り」
「おい、何か嫌な気配がするぞ」
 霊感の薄い世界ですらわかる程、地上の魂がざわめき立つ。逃げ遅れた魂魄をシューゴは掴み、食いちぎって――貫かれた腕を修復していく!


「召喚した精霊に精霊爆弾を持たせて死角に回らせたんか。あンのクソ眼鏡、最初から騙すつもりやったな!」
 騙したのはお互い様だ。世界がここに居たら、仏頂面のままそう言い放っただろう。崖を隔てた向こう側からは爆音と刃の音が響いて来る。
 センセイは腰の日本刀の鯉口を切り、目の前の女性――睦月とチェレンチィを睨みつける。
「嬢ちゃんらには悪ぅ思うけどな、行かせて貰いますわ」
「させませんよ。貴方を倒すのが僕の役目ですから」
 だからここから先の事は、睦月の我儘だ。凶行に走る二人。その理由を知らずに、ただ殺める事は出来なくて。
「センセイ、あなたは何故そう呼ばれるようになったのですか。過去に何があったのですか?」
「何も。シューゴが勝手にそう呼んだだけや」
 素早く抜刀するセンセイに凍印天羽々斬を作り出し、睦月は果敢に応戦する。金属のぶつかる音と氷の砕ける音が路地に響き、鍔迫り合いになった直後。
「僕はもっと貴方を知りたい。さぁ、映し出して……幽世の瞳!」
 見開かれた睦月の瞳へギフトが記憶の断片を注ぐ。刃を強くぶつけて距離を置くと、センセイは荒々しい声を上げた。
「何を……俺の何を視た!」

 食い扶持に困り手を染めた。血で血を洗う殺し屋稼業……きっと将来、ろくな死に方をしないだろう。
 生体兵器の研究施設を襲撃したのも金のためだ。顔も知らない依頼人に命じられるがまま、研究員も被検体も殺してまわった。
 最後の一匹。こいつで終い。振りかざした刃は――しかし。
『終わらせてくれて、ありがとう』
 俺よりくだらない一生で終わろうとしている怪物に、振り下ろす事は出来なかった。

「シューゴさんは魂を喰らわなければ生きていけない。だから殺しを"愛"だと教えて、罪悪感を負わない様にさせていたんですね」

 たとえそれが優しい嘘でも、積み上げた屍があまりにも多すぎた。
 瓦礫が吹き飛び、ボロボロのシューゴがセンセイの隣に倒れ込む。二人を挟撃しようと世界が、アーマデルが、睦月が、チェレンチィが。
 各々のスキルをもって、渾身の一撃を叩きこむ――!

「まだや、まだ…!」
「いいえ。せめて安らかに――」


「……こんなもんか」
 泥にまみれた世界が、ふぅと額の汗を腕で拭う。労いに冷たい水を差し入れ、睦月は並んだ二つの墓へ視線を落とした。
「彼らは、行くべき所へ行けるでしょうか」
「行けるさ。それは俺が保証する」
 言葉を返したのはアーマデルだった。彼の目には見えたのだ。センセイと呼ばれた男と、手をつないで歩く少年の霊。
 道行はきっと根の国(地獄)なのだろう。それでも憑き物が落ちたような顔で消えていく二人の姿は、心安らぐものだった。
「俺達も帰ろう。世界殿がだいぶ疲弊している様だからな」
「逆にお前は何でそんなにピンピンしてんだよアーマデル。俺の倍くらい穴を掘ってたんじゃねぇのかよ?」
「ふふふ。図書館に戻ったら、シャワーを浴びてからお茶でもしましょうか」

成否

成功

状態異常

なし

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