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シナリオ詳細

反逆者たち。或いは、誰も知らない矜持ある戦争…。

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●スラムの子供たち
 そこは埃塗れの地下室だ。
 かつては食糧庫であったらしく、空になった木の棚や渇いた樽が転がっている。
 蝋燭の明かりだけが頼りといった空間の中、地べたに座り込んでいるのは1人の少女。
 背丈は150センチほど。骨の浮いた身体に、やせ細った枯れ木のような手足。
 長く伸びた前髪と、ニット帽で目元を覆い隠している。
 口元に笑みを浮かべ、少女は言った。
「苦しんで死ぬか、苦しんで生きるか。ここのスラムにあるのはその2択だけっす」
 にぃ、と口角を吊り上げたいかにも嗜虐的な笑み。
 彼女は荒い手つきでポケットの中を漁ると、数枚の硬化と錆び付いたペンダント、それから泥まみれのぬいぐるみと、3つの飴玉を取り出した。
 音も立てずに、彼女はそれを目の前の床に置いて言う。
「これはそんなスラムの子供たちが遺した宝物っす。過酷な生活の中、ほんのひと時の安らぎを求めて、拾い集めたガラクタを後生大事に抱きしめて……」
 けれど、子供たちはもういない。
 つい最近、スラムに拠点を構えた流れの傭兵崩れが遊び半分に殺してしまった。
「一番幼い子は5歳。故郷を戦火に焼かれ、両親と共にスラムに逃げ延び……両親が事故死した後は、子供たちが作ったチームに引き取られて生活していたっすよ」
 雪深い鉄帝国。
 子供だけで生き延びるのは容易ではない。
 年に何人もの仲間を見送り、年に何人もの仲間を受け入れる。
 そんなことを繰り返すうちに、子供たちの作ったチームはそれなりの規模の組織となっていたのである。
「チームの名は“トレイター”。拙いながらも子供間でのネットワークを構築し、貧しいながらもスラムで長年生き延びて来た……偏に、リーダーを務める少女“リベール”の腕っぷしとカリスマのおかげっす」
 仲間が害されれば、大人相手でも退かずに報復を行った。
 怪我をした仲間がいれば、アジトで傷が癒えるまで匿った。
 助け合いの精神を軸とし、組織を結成したことで、大人相手にも抗う力を身に付けたのである。
 スラムの大人たちは、誰も彼もが自分が生き延びることに必死。
 蹴落とし合うことはあれど、助け合うことなど無かった。
 孤を相手に群で襲い掛かれば、子供だけとはいえ大人にも抵抗できた。
「けれど、流れて来た傭兵崩れどもは群だったっす。大人の群れと子供の群れ、喧嘩慣れした子供と、殺し合いに慣れた大人……どっちが勝つかは明白でしょう?」
 群れとはいえ“トレイラー”は14人ほどの小さな集団だ。
 一方、傭兵崩れたちの数は戦う力を持たない下っ端まで含めれば20人ほど。
「初めはトレイラーに傘下へ入るよう脅しをかけたっす。自分たちに従え、さもなきゃお前らもこうなるぞ、って」
 犠牲になった子供たちは5人。
 スラムの隅のガラクタ置き場……傭兵崩れたちがアジトにしている辺りでゴミ拾いをしていた子たちが捕まって、嬲り殺しにされたのだ。
 恐怖による支配。
 なるほど、いかにも傭兵崩れの好みそうなやり口だ。
 彼らに出来ることなど、所詮は暴力を行使することだけなのだから。
 だから彼らは“傭兵崩れ”。
 傭兵を続けることも出来なくなった、武力を有するならず者なのだ。

●反逆者たち
「さて、トレイラーは仲間を殺され従うことを決して良しとはしなかったっす」
 リーベルは愛用の鉄パイプを手に仲間たちを鼓舞した。
 “やられっぱなしで、死んでいったあの子たちに顔向けできるのか!”
 若さゆえの無鉄砲か?
 否、スラムに落ちても失うことの無かった矜持の発露である。
「そうしてリーベルを始めとした14人の子供たちは、ガラクタ置き場へ攻め込んでいきましたとさ」
 とん、と。
 音を立てて、ニット帽の女は汚れた床に指を突く。
「で、その際に彼女たちは私に1つの依頼をしていったっす。これ、その報酬ね」
 トレイラーの保有していた財産は、スラムに暮らす戦う力を持たない子供たちに分配された。
 残ったのは、大した金にもならない、大した役にも立たないガラクタが少しだけ。
 死んでいった子供たちの“宝もの”も、そこには含まれているが、価値としては0に等しい。
「自分たちが死んだら、小さな墓でも立ててくれ。勇敢に戦い散って言ったことを、そして決して矜持を失わないでほしいと、今後スラムに来る子供たちに伝えてくれ」
 それが依頼の内容だった。
 錆びた硬化が3枚。
 錆び付いたペンダントが1つ。
 泥まみれのぬいぐるみが1つ。
 そして飴玉が3つ。
「こんなショボい報酬で、従ってやる義理もねぇっす。何で、ここから先は私の依頼……これ、全部あげるんで、あの子ら、出来るだけ多く助けてやってくれません?」
 
 ニット帽の女は自身を、裏社会の便利屋であるとそう言った。
 それから彼女は、肩を竦めて自分のこめかみを指先で数回ノックする。
「傭兵崩れ共は自分たちを“ルーザー”と名乗っているっす。リーダーは“ラット”と名乗る魔術師の男っす」
 ラットは灰色のローブを纏った小男だ。
 小さな体躯に貧弱な身体。
 けれど、長年にわたって幾つもの戦場を生き延びて来た経歴を持つ。
「ラットは身のこなしが素早く、目と耳がいいらしいっす。また【停滞】と【致死毒】を与える魔術と、体力と引き換えに身体能力を強化する付与魔術が使えるっすね」
 ラットが傭兵崩れたちをまとめ上げ、スラムに逃げて来た理由は分からない。
 何かしらの任務に失敗したか、雇われた先で問題を起こしたのだろう。
 ラットを含めて20人……ルーザーのうち、戦闘能力を持つのはそれだけだが“鼠の目”と呼ばれる5人の偵察係がいる。
 以上が、ニット帽の少女が調べた“ルーザー”の情報だ。
「傭兵崩れたちは剣や槍、斧を所持しているっす。まともに喰らえば【流血】と【ショック】ぐらいは受けるっすかね」
 鎧を着ている者もいるが、粗末なものばかり。
 ガラクタ置き場を拠点に、3つのグループに分かれて住んでいるらしい。
「ガラクタ置き場の中央には小川。小川を挟んで西側にはガラクタの山、一方東側は、馬車の残骸や廃鉄を使った家屋が並んでいるっす」
 ルーザーたちのアジトの位置は不明。
 現在、リーベル率いる“トレイラー”は一塊となって“ルーザー”のアジトを捜索中だ。
 彼女たちに追いついて、出来るだけ多くの命を救うこと。
 そして、問題となる“ルーザー”を壊滅させること。
 その2つが今回の任務の内容となる。

GMコメント

●ミッション
①チーム“トレイラー”の救助。
②チーム“ルーザー”の壊滅。


●ターゲット
・ラット×1
傭兵崩れたちによって構成されたチーム“ルーザー”のリーダーを務める魔術師。
灰色のローブに身を包んだ小男。
目と耳が良く、身のこなしが軽いが、貧弱である。
また、ラットは“鼠の目”と呼ばれる偵察係5人を直属の配下として率いている。

ラットは体力と引き換えに身体能力を向上させる付与魔術を行使する。
ラットは【停滞】【致死毒】を付与する魔弾を連射する術を行使する。

・ルーザー構成員×19
傭兵崩れたちによって構成されたチーム“ルーザー”の構成員。
斧や剣、槍を持ち、粗末な鎧を身に付けている。
彼らは非常に短絡的だが、それゆえかラットの指示に忠実に従う。
そうした方が“生き残れる”と経験から理解しているのである。

構成員たちの攻撃には【流血】【ショック】が付与される。


・チーム“トレイラー”×14
リーダーである少女“リーベル”を筆頭に、20歳以下の男女で構成されたチーム。
ルーザーに仲間を殺されたことで、報復を決意。
命を捨てる覚悟でスラムへと攻め込んだ。
現在、ひと塊となってガラクタ置き場を捜索中。


●フィールド
スラムの外れにあるガラクタ置き場。
直径にして200~250メートルほど。
中央を小川が流れている。
小川を挟んで西側にはガラクタの山。
東側は、馬車の残骸や廃鉄を使った家屋が並んでいる。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。  

  • 反逆者たち。或いは、誰も知らない矜持ある戦争…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月20日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
遺言代行業
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
エステル(p3p007981)
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
キャナル・リルガール(p3p008601)
EAMD職員
佐藤 美咲(p3p009818)
無職

リプレイ

●日陰者の行進
 ところは鉄帝。
 名も無いスラムの隅にあるガラクタ置き場が此度の舞台だ。
 世界中、どこにだって多少の悲劇は起きるもの。
 どこにだって、運の悪い者はいて、子供だからとか、大人だからとか関係もなく、それは誰にだって平等に降りかかるのである。
 この世の中で、最悪から数えて1つか2つ、マシだろうといった程度に治安の悪いその場所で、しかし強く、誇りを胸に生き延びて来た子供たちがいた。
 彼らは“トレイラー”という名のチームを結成し、弱者同士、身を寄せ合い、助け合って生きて来たのだ。
 あの日……。
 今を遡ること、数週間ほど前に傭兵崩れの男たちがスラムにやって来るまでは……。

 かぁん、こぉん。
 金属を叩く音が鳴り響く。
 ガラクタ置き場のどこかしらで、誰かが作業でもしているのか。
「ほぉんと……冗談きついっスよー」
 そう呟いた『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)は、手の平の中の飴玉へと視線を落とす。
「供のお使いじゃ無いんスから、こんなんで体張るのは無理でスよー?」
 現在、トレイラーはスラムの何処かを移動している。
 仲間の子供たちを殺めた傭兵崩れ……ルーザーへ報復するためだ。元とはいえ戦闘訓練を積んだ傭兵と、孤児たちを寄せ集めたスラムのチーム。どちらが勝つかなど明白だ。しかし、それでもトレイラーたちには引けない理由があったのだ。
「おガキさん達はいい心がけだ、だからこそ想いを尊重した上で止めたいね。ンでもって弱い者イジメがお好きらしい鼠と仲間達にゃ……地獄を見せてやる」
「とはいえ、手を貸してあげるにしても、まずは双方の位置を探らなくてはならないのだわ」
 『EAMD職員』キャナル・リルガール(p3p008601)は拳を握り、『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は使役する小鳥をスラムの四方へと放つ。
 かぁん、こぉんと金属の鳴る音に鳥の羽音が重なった。
 飛び去って行く鳥の姿を見送りながらエステル(p3p007981)は囁くように言葉を零した。
「正義というのはあまりわかりませんが、助け合い、誇りを持ち続けるトレイラーこそ正しいと思いますからね」
 一刻も早くトレイラーの子供たちを見つけること。
 犠牲者を少しでも減らすには、それが何より重要だろう。

「この飴玉、好きなんですよ。私」
 ガラクタ置き場中央。
 汚れた小川の畔に腰かけ『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)はそう言った。
 ルーザーに殺められた子供たちの宝物。
 何の因果か、それは報酬として瑠璃をはじめ、イレギュラーズの手に渡った。
 子供たちの救助を願った小柄な女性は、裏社会の情報屋と言っていたが……それにしては、回りくどいながらも人の良さが滲む。
「ふん、あんな報酬で働かされてはたまりません」
 そう言った『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は、報酬の受け取りを固辞した1人だ。古びた硬貨を依頼主に突き返し「持ち主に返しておいてください」と、そんなことを言っている。
「ただ折れるんじゃなく立ち上がり奴らの喉元に食らいつく。ガキ共にしちゃ図太い気概じゃねぇか。俺ぁ気に入ったぜ」
「ってもなぁ、スラム育ちが傭兵くずれを甘くみちゃーだめだ。その辺の皮膚感覚がなさそーなのが同じスラム育ちとして心配だが」
 錆びたペンダントを首にかけ『錆びついた放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)は口元に笑みを浮かべて見せる。
 一方、『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)はというと、耳を澄ませて周囲の音を拾っている。
 ルーザーとトレイラーが会敵すれば、必ず戦闘音が鳴り響くはずだ。
 或いは、子供の囁き声の1つでも聞こえればそれでいい。
 ルーザーのアジトが判明すれば、奇襲をかけることも出来る。
「ていうか、さっきからかんこんかんこん煩いな。どこの誰だよ、ガラクタ置き場で飽きもせずに鉄を叩いてる奴は」
 耳に手をあて、サンディは顔を顰める。
 イレギュラーズがガラクタ置き場に入った時から、かぁんこぉんと金属を叩く音が鳴っていた。継続して鳴るその金音が、サンディには耳障りだったのだ。
「……さっきから? え、いや……ちょっと待つッス」
 キャナルは、何かに思い至ったのだろう。
 美咲の肩に手を置いて「あの」と声をかけた。
「ん?」
「これ……もしかして、トンツーじゃないっスか?」
 
●行動開始
 トンツー。
 正確にはモールス符号と呼ばれるそれは、主に軍隊などで使用される暗号の一種だ。短点(トン)と長点(ツー)を組み合わせ、遠くの味方へ文字コードを送る技術であり、トンツーというのはその俗称である。
「っ!?」
 キャナルの言葉を耳にするなり、美咲はその場にしゃがみこむ。
 近くに落ちていた木の枝を拾い、地面に線と点とを書き込み始めた。
 かん、こぉん、と鳴り響く金属音に合わせ、書き込まれる線と点の数は増えていく。
「……少しずつ内容が変わっていまス。子供……北……70……あぁ、もう。どこを基準にして北なのか分からないッス」
「とにかく北の方を探せばいいのね?」
 美咲が解読した情報を元に、イナリはカラスへ指示を送る。
 それと同時に、バクルドはその場を駆け出した。
「負け犬共とガキが鉢合わせるのを遅らせてえ。ルーザーかガキどもを見つけたら教えてくれ」
「それと音を鳴らしてる奴……いや、奴らもっスね。そっちは私が当たって情報を引き出しまス」
 イナリとの連携が崩れない限り、単独行動を取っても情報の共有は出来る。
 バクルドは罠を仕掛けるために先行し、美咲はトンツーを送る何者か……おそらく、ルーザーの一味であろう……の捜索に向かった。

 ガラクタ置き場、北。
 小川の上流付近にあるゴミ山を、少女たちは懸命によじ登っていた。
 ゴミ山に埋もれた馬車や、ゴミを使って作った家屋にルーザーたちがアジトを構えているという情報を得たからだ。
「とくに頭を張ってるラットって野郎は絶対に仕留めなきゃだめだ! 死んでいった子たちに、あの世で謝らせてやるのよ!」
 先頭を進む少女の名はリーベル。
 孤児たちを纏め上げ、トレイラーを組織した若き頭目である。
 彼女は勇敢で、それなりに戦う力もあった。
 しかし、一端の指揮官と呼ぶにはまだまだ若すぎる。
「リーベル!! 待って! あっち! あっちの方から大人たちが来る! いや、向こうからも……!」
 仲間の1人が悲鳴のような声をあげた。
 その声に反応し、リーベルは背後を振り返る。
 そこにはゴミ山へ向け3方向から向かって来る大人たちの集団が見えた。
「ルーザー!? え、何で……」
「騙されたんだよ、リーベル! くそ、ここじゃ敵から丸見えだ!」
 慌てふためく仲間たちに、リーベルはかける言葉を見つけることが出来なかった。
 動揺からか、心臓の鼓動が早くなり、呼吸も次第に苦しくなる。
 掴まされた情報はガセだった。
 そう気づいた時には既に遅く……集団の中で、ひと際小柄なローブの男が、リーベルたちへ向けて手を翳したのが見えた。
 その一部始終を、カラスが空から睥睨していた。
 
「隙だらけだぜ、おっさん!」
 突き出されたラットの手を、斬り裂いたのはサンディだ。
 腕に仕込んだ刃を一閃。
 ガラクタの山に紛れ接近していた彼は、見事に奇襲を成功させた。
「お前ら、さっさとゴミ山を越えて裏へ回れ! いいか、傭兵相手のケンカってのはつまりは戦だ。纏まんなきゃ死ぬぞ!」
 たたらを踏んで下がるラットを牽制しながら、ゴミ山にいたリーベルたちへ怒鳴り声をあげる。驚愕に目を見開いた子供たちの頭上では、カラスが1羽、旋回していた。
「何してる! お前ら、さっさと前に出ねぇか!」
 自分の意思で先頭に立っていたことさえも棚に上げ、ラットは配下の傭兵たちへ指示を飛ばした。
 ラットの呼び声に応え、別方向から進行していた2グループも進行速度を早くする。彼ら荒くれ者たちにとって、ラットの存在は大きい。満足に作戦なんてものも考えられない彼らに代わって、策を練って、指示を出してくれるラットは“絶対”なのだ。
「ガキ共の用意した伏兵か? こざかしい真似するじゃぁねぇか!」
 血を流す手を押さえながらも、ラットは勝利を確信していた。
 奇襲を許し、一撃を貰いはしたものの、相手はサンディ1人だけ。10を超えるルーザーに囲まれて、無事に逃げ切れるわけがないのだ。
「見せしめだ。せいぜい、苦しんでくたばりな!」
 仲間の1人を盾にしながらラットは告げる。
 傭兵2人に追い立てられるサンディへ向け、血に濡れた手を翳した彼は、いかにも悪辣な笑みを浮かべた。
 その手に魔力が集中し、形成されるはどぶ水のような色をした、酷く不気味な魔弾である。
 けれど、ラットがそれを撃ち出すことは叶わない。
「あ?」
 サクリ。
 奇妙なほどにあっさりと、ラットの腕は手首から先が斬り落とされた。
 それを成したのは横合いより飛来した不可視の刃だ。
「な、あぁ?」
「油断が過ぎますよ。生きて欲しいと願う者があれば、時に戦場には不確定要素が入り込むものですから」
 くすり、と微かな笑みを零してそう告げたのはエステルだった。
 混乱に乗じ、接近していたエステルはラットを挑発してのけた。頭に血が上ったラットは、まんまとエステルの誘いに乗った。
 仲間へ指示を出すことさえも怠って、エステル目掛け魔弾を連射し始める。

 弱者を虐げ、強きに媚びて、時に裏切る。
 雇い主と上司を謀り、金と命とを奪ってみせたラットは確かに小悪党だろう。しかし、ラットについてきた傭兵崩れたちにとっては、頼もしきリーダーなのである。
 彼らは長年、傭兵として数多の戦場を渡り歩いた。
 大した実力も持たないながらも、これまでどうにか生きて来られたのはラットがいたからだ。だからこそ、彼らはラットの命令に忠実に従い、ラットを守るべく身体を張った。
 ラットがサンディの攻撃を受けたのを見て、傭兵たちは目標をトレイラーから、イレギュラーズへと変える。一目散にラットの元へと駆けていく彼らには周りが見えていなかった。
「うぉっ!?」
「なんだ? な、縄?」
 先頭を走る2人が縄に足を取られて転倒した。後続は、倒れた仲間に蹴躓いて体勢を崩す。
 最後尾にいた傭兵だけが、どうにか転倒を免れた。
 けれど、それこそが彼の不運であろう。
 背後より迫ったオリーブの剣が、無防備な背中を斬り裂いたのだ。短い悲鳴を零して男が地面に伏した。
「てめぇ! お、俺らのダチが死んじまうだろうが!」
「知りませんね。息があったら息があった、死んでいたら死んでいた、です」
 関係ない、と吐き捨ててオリーブは次の獲物へ向けて斬りかかった。不安定な姿勢から、斧を構えてオリーブの剣を受け止める。
 姿勢が悪い。
 初撃を防げただけでも奇跡的と言えるだろう。
「な、なぁ……助けてくれたのか? なんで助けてくれるんだ?」
 慌ててゴミ山を駆け下りながら、そう問うたのはリーベルだ。
「よお、お前さんら、怪我ぁねぇか? 負け犬共に吠え面かかせたいんだってな? 協力してやるから俺の話を聞いてみねえか?」
 そう答えたのはバクルドだ。
 ゴミ山の中に伏せた彼は、片手に縄を握っている。先ほど、傭兵たちの脚を絡めたのがそれだ。
「……はぁ?」
 薄汚れたバグルドの恰好を見て、リーベルはポカンと口を開けて呟いた。
 そんな彼女に呵々と悪戯っぽい笑みを返して、バクルドは言う。
「俺たちが助けてやるっつってんだ。そして他のガキたちにお前さんらの生き様を生きて伝えろ」
「自分たちもルーザーの始末に雇われたんですよ。あぁ、依頼人は秘密です」
 傭兵の最後の1人を斬り倒し、オリーブはそう告げたのだった。

 戦場となったゴミ捨て場の片隅に、ローブを纏った男が1人、蹲る。
 彼は戦場を眺めながら、しきりに鉄の棒で錆びた鎧を叩いていた。
 その男こそ、ラット子飼いの配下“鼠の目”の1人だ。
「見つけたっス」
 そう呟いて、キャナルその場に膝をつく。身体を固定し突き出すようにビーム銃を構えたキャナルは狙いを定め、引き金を引く。
 刹那、ビリと空気を震わせながら放たれるは一条の閃光。
 戦場のただ中をまっすぐに突っ切ったその光は“鼠の目”の腹部を射貫く。
「……まず1人」
 悲鳴の1つも零さないまま“鼠の目”はその場に倒れた。

 扇状に広がる火炎が、傭兵たちの進路を阻む。
 目立つことを恐れたラットは、部隊を3つに分けてゴミ捨て場に潜伏させていたのだが、今回に限ってはそれが裏目に出た形だ。
「怯える傭兵崩れとはここまで滑稽なものなのですね」
 黒い刀を片手に下げて、瑠璃はくっくと肩を震わせて嗤う。挑発に乗った傭兵が1人、駆け出すが瑠璃は慌てず刀を薙いだ。
 刹那、傭兵の周りを包む彩雲。
 苦悶の声を零した傭兵は、目を回してその場で足を止めた。
『交渉は上手くいったみたいなのだわ』
 瑠璃の肩にカラスが止まった。黒い瞳はじぃと彼女を見つめている。脳裏に響く声はイナリのものだろう。
 トレイラーの子供たちの安否が分かれば、残る仕事は至極単純なものとなる。 
 それはつまり……。
「出来る限り、生け捕りにしましょう」
 掃除は得意なんです。
 そう言って瑠璃は、倒れた傭兵の脚に刀を突き刺した。

●負け犬は負け犬らしく
 ほのかに香るアルコール。
 舐めるように酒を啜る男の姿。
 美咲の前でそうしている男は、自称、スラム一番の情報通ということだ。
「酒出させといてクソみたいな情報だったら小指の一本は覚悟してくださいねー?」
 どこか冷たい眼差しで、美咲は男にそう言った。
 男の飲んでいる酒は、情報の代価に美咲が渡したものである。
 酒の代わりに得た情報は、ルーザーの潜伏拠点や“鼠の目”たちの居場所について。「情報は正確だ」と言い切る男をその場に残し、美咲は“鼠の目”の捕獲へと向かう。

 6人の傭兵たちに囲まれてなお、サンディは笑みを浮かべていた。
 全身を伝う汗と血の量は尋常でないが、隙を見せれば不利になると理解しているこその虚勢というものだ。
「……っと」
 とはいえ、限界も近い。
 サンディ、傭兵ともに傷だらけといった状態であれば、数の差で傭兵の有利であろうか。
 けれど、しかし……。
 サンディの背後に迫った傭兵を、一条のビームが撃ち抜いた。気絶し、倒れた傭兵を踏みつけて、現れたのはバクルドとキャナルだ。
「よぉ、くたばれ負け犬、ガキ共に威張るしか出来ねえ惨めさに抱えて震えろ」
 バクルドはそう告げて銃を構える。
 放たれる無数の弾丸が、傭兵たちの陣形を崩した。
「さぁ、今のうちッスよ!」
「「「うぉぉぉぉ!!」」」
 陣形が崩れてしまえばこっちのものと、キャナルの号令で子供たちが駆け出した。手には廃材、瞳には強い戦意を讃え、死んだ仲間の弔いのために命を賭ける。
 弱者でありながら、その心の在り様は強い。 
「この後どうするかは知らねーが、ま、うまくやれよな」
 鉄パイプを振るリーベルの背に声をかけ、サンディはその場に座り込む。
 じわり、と地面に赤い血が広がった。

 瑠璃の喚んだ雲や火炎に気を取られ、焦ったことが傭兵たちの敗因だろう。
 身を寄せ合い、一塊になったところへオリーブとイナリが左右から挟撃を仕掛ける。火炎に阻まれ前に出られない。
 右と左のどちらに警戒を払えば良いか判断できない。
 そうしている間に、オリーブの振るった剣で獲物を叩き落される。慌てて下がるも、食い下がるオリーブを離せない。悲鳴をあげそうになった刹那、腹部に感じる痛みの熱。
 無言のままに腹を刺された傭兵は、意識を手放し血に伏した。
「ラット! 指示をくれ!」
 怒鳴り声に返事はなく、代わりに返って来たのは嘲笑。
「貴方たちの首には興味無いけれど……あの子たちはどうかしらね?」
 どこか歪みを孕んだ声音でイナリは告げて、駆ける勢いそのままに傭兵の胴をライフルの底で殴打した。

 撃ち合いを制したのはエステルだった。
 魔弾の連射で押すラットに対し、正確性を重視した一撃と回復でもって対抗したことが勝因か。
「ま、待ってくれ! 謝る! 謝るから!」
「死者にですか? でしたら、お送りしてあげます」
「そうじゃねぇ! アレだ! 命乞いだ!」
 抉れた脇腹を抑えながらラットは叫ぶ。
 血と涙でぐしゃぐしゃになったその顔を、エステルはじぃと数瞬見やった。
 沈黙を“是”と取ったのか、ラットの口元が僅かに緩み……。
「ご存じでしょう……敗者に救済は訪れない」
 直後、ラットの表情は絶望と恐怖に凍り付いた。

 復讐は新たな復讐を呼ぶ。
 耐えることも大切だ。
 賢しらぶった愚か者は、軽々にそんなことを言う。
 死人に口は無いし、振り上げる拳も持っていない。
 ならば誰かが、生きている誰かが、死者の代わりに鉄鎚を下すという選択を、無関係の赤の他人が何の権利で止めようとするのか。
 拘束されたラットを見下ろし、子供たちは泣いていた。

「結局、どうして孤児は生まれるんだろう……どうして苦しくなるんだろう、って。貧しさってひとつの理由スよね」
 理由は分かる。
 理解も出来る。
 けれど、解決は容易ではない。
 立ち去っていく子供たちに手を振りながら、キャナルはそう呟いた。

成否

成功

MVP

バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪

状態異常

サンディ・カルタ(p3p000438)[重傷]
金庫破り

あとがき

お疲れ様です。
傭兵崩れの“ルーザー”たちは壊滅。
子供たちの犠牲は0のまま、依頼は成功を迎えました。

子供たちに待っているのは、これまで通りの貧しい生活です。
しかし、彼らは矜持と命を失わずに済みました。

この度はご参加ありがとうございます。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。

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