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シナリオ詳細

五穀豊穣、縁定の夜に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●月が綺麗だね
 今夜はお月さんもひときわ綺麗やわ。
 深い藍色に紫苑霞を重ねた天鵞絨の夜空に、星が流れて尾を引いて、夜廻りのお月様が優しく見守るきみの嫁入り。葉天蓋の隙間から星々の瞬きが覗く特別な夜、花嫁行列が進んでいく。
 しゃらり、花飾りを揺らして。
 しゃなり、朱の野点傘の下。
 白角隠しは文字通り艶やかな緋角を内に秘めて、花嫁が大切な人と寄り添い歩く。大好きな人たちに囲まれ送られ、未来へと。
 皆の笑顔があったかで明るい、佳い夜やね。
 白地に金糸の無垢な打掛の愛しい人の隣、黒紋付の羽織袴で凛とした表情で進む新郎は、頭にぴょこりと狐耳が揺れている。種が異なる二人が結ばれるまでには本当はいろいろあったけれど、今は皆が認めるこの門出。

 五穀豊穣に感謝する祭りの日、特別な夜に特別を重ねて忘れられない思い出にしよう。
 太鼓と神楽笛が慶びあらわす情感たっぷりの音色響かせ、心を浮き立たせる。祭り囃子は楽し気で、祝いの声はあたたかいねと夜風に踊る稲荷提灯も笑うよう。風がひゅるりと吹き抜けて花葉色の木々が人工の明かりに照らされてほんのり色づく紅葉の葉擦れ。調子合せるように畑で秋晴れにそよぐ稲もさやさやと奏でれば、自然も高揚するらしいと農家の爺さんが冗談めかして微笑んだ。

 神社を見上げる広場にささやかに並ぶのは、神人との交流により広まった異文化交じりの料理屋台。大人も子供もいっしょになって飾り付けた祭り装飾、欅のテーブルに椅子並べ落ち着き楽しく時過ごす憩いの空間を作り上げた。
 果実酒や甘酒、秋上がりの地元米酒を檜のぐい飲みに注いで。お酒が飲めない方にはこちら、と勧められるのはしゅわりと気泡が爽やかな炭酸飲料、底が紫で上に向かって薄桃の彩変化を見せている。色を楽しむためにと器は透き通る硝子製。よく冷えたカラフル・ジュースに氷がカラコロ涼やかで、特別な今夜を演出するように音頭を取って隣のあなたと君とお前さんと、家族と友と良い人と、器合わせて高く澄んだ乾杯の音を響かせよう。

 屋台でじゅうじゅうと焼き音立てて競うように香ばしい煙をあげて食欲を刺激するのは、たこ焼きイカ焼きお好み焼き、串に刺さった鳥や魚の肉、「おっとお客さん目移りしてんね? 今日の主役はこれでどうでい」店主がどぉんと誇る分厚くカットした肉に肉を重ね特製のタレを贅沢に垂らした超重量級ジューシーステーキ。ほっこり甘やかなにんじんとポテト、コーンも添えて。見せつけるように切れ目を入れれば柔らかな肉がじんわりタレと肉汁を溢れさせ、祭りの灯りにテラテラと艶めいて湯気がふんわり、幸せの香りを届けてくれる。
「きらきらの飴があるよ」
 ちいさな子供たちの集団が頬を林檎みたいに赤くして指差すのは、愛らしいフルーツ飴と動物を象ったサワーグミが並ぶお店。隣のお店のお兄さんがふわっふわの綿菓子をふりふりして「こ、こっちにふわふわもあるよ……!」とアピールしている。
「あえ?」
 わくわくと小さながま口のお財布を探り、子供たちが目を丸くして口を開ける。
「お財布がないよ」
「ぼくも」
 小さなお財布を口にくわえ、尻尾をぽふんぽふんさせて悪戯成功に燥ぐのは妖の狐とたぬきたち。
 共に近隣の山を根城にしていて、仲が悪かった2種族は、人里で祭りがあるときいて決めたのだ。どちらがより沢山の悪事をするかを競おうと。

 店主がよそ見している隙に、お店の食べ物をくすねてやろか。
 花婿の脚を絡めとり、転ばしてやるのはどうやろ。
 人の身に化けてやって、浮気相手だと名乗り出たらどないな騒ぎになるかいな?
 悪戯心を胸中に、一匹の妖狐はお財布くわえて油揚げのっけたおうどんの屋台のまわりをぐるぐる回る。前脚で店主をつつき、お財布見せて尻尾を振って、つぶらな瞳で見上げてねだる。
 おくれよう。
 おうどん、食べさせておくれよう。
 お代は払うからさあ。
 こぉん、こん。

 ――だって、とっても美味しそうなんだもの!
 悪戯よりもご馳走じゃない?


●全部まるっとお任せするのです!
「お祭りを守ってほしいのです……!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が経緯を語り、腕章を配る。この腕章をつけていれば、祭り会場で自由に活動できるのだ。
 ユリーカの説明によれば、豊穣の辺境で祭りが催されるのだが、近隣の悪戯な妖たちが祭りに乗じて悪事を企んでいる情報を事前に察知したのだという。

「お祭りが無事であれば手段は問わないのです」
 例えば、例えば。
 ユリーカは背中の羽根をぱたぱたさせてアイディアを紡ぐ。
「妖たちは、食いしん坊で楽しい事が大好きなようなのです。シンプルに警備や護衛をするもよし、妖さんたちが好みそうな屋台を運営して惹きつけたり、思わず悪戯したくなったり一緒に遊びたくなるような何かをして誘い込むもよし……もう全部まるっとお任せするのです!!」
 指でまる印をつくり、ユリーカは元気いっぱいにお腹を鳴らした――ぐう、きゅう。きゅるる。

GMコメント

 こんにちは。透明空気です。
 初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。

 シナリオに興味をもってくださり、オープニングを読んでくださってありがとうございます。
 このシナリオは、「悪戯っこな妖たちからお祭りを守る」というシナリオとなっています。

●シナリオ成功条件
 妖たちの注意を引き付け、祭りを台無しにする悪戯をさせないこと。
 普通に「こらー山に帰れ~」と退治しても構いませんし、「悪戯はめっですよ」と優しく窘めつつ美味しい料理を一緒に食べたり提供したり、お祭りの邪魔にならないような遊びや競争を提案して遊んだり、その他GMがびっくりするような面白奇抜プレイをしてみたり。
 楽しく自由に活動してみてください。

●現場情報
 花嫁行列が神社に向かって石造りの階段をゆっくりと登っていきます。
 階段の下方に村の広場があり、新郎新婦の門出と五穀豊穣を祝った祭りの最中です。

●妖たち
 妖狐と妖たぬきが思い思いに悪戯をしようとうろついています。
 好奇心と食欲旺盛、楽しい事や悪戯が大好きな性質で、戦闘能力は野性の獣よりちょっと強いかな? 程度です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 以上です。
 プレイングを楽しみにお待ちしております、どうぞよろしくお願いいたします。

  • 五穀豊穣、縁定の夜に完了
  • GM名透明空気
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月15日 22時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
ロロン・ラプス(p3p007992)
見守る
ユイユ・アペティート(p3p009040)
多言数窮の積雪
暒夜 カルタ(p3p009345)
花合わせ
御子神・天狐(p3p009798)
鉄帝神輿祭り2023最優秀料理人
星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎

リプレイ

●さても星の入東風の騒ぐ様
(悪戯者の狐狸が両方集いましたか。なかなか骨が折れそうですわね)
 しゃらり、長く繊麗な御髪を靡かせ。『神使』星芒 玉兎(p3p009838)は檜扇を開いて呟き隠す――正直どっちも苦手ですわ、と。
 由緒正しき名門の末姫は明晰な瞳で判断し、先んじて祭主催と新郎新婦に事情を伝え、指示を出していた。
「狐狸が化けている可能性の低い顔見知りの方々に口伝てで周知もして頂きたいですわね」
 頷き、玉兎の作戦を実行しようと人々が動き出す。玉兎は思案を巡らせ、言葉を重ねた。
「笑って看過出来るものである限りは、悪戯に遭遇したら多少大袈裟に驚いたフリをしてあげるのもよろしいかと思いますわ。満足させてあげれば、そう過激な事はしないと思いますの」
「どうせイタズラするのなら微笑ましいくらいの方がいいよね」
(悪いことも楽しいかもしれないけど、驚きに喜びが加わった時の達成感も得難いものだと彼らに知って欲しいかな)
 『無垢なるプリエール』ロロン・ラプス(p3p007992)が隣で神輿を2つ手配している。その近くでは早速妖と接触する者が出ていた。
「もふもふしていいかな……?」
 そぉっと近づいて。『マスターファミリアー』リトル・リリー(p3p000955)がもふもふ妖と打ち解けている。
「こぉん」
「ん、頭にのせてくれるの?」
 彩異なる瞳が瞬き乗れば、可愛いリリーに妖が寄ってくる。一緒にあそぼと尾を振って。
 リリーは優しくみんなを撫でて、こそっと心に思うのだ。
(いたずらっ子とはいえ子供は子供だもんね)
「リリーはごはんじゃないよぉ?」
 髪の毛先を甘噛みし、鼻を寄せる妖に笑って誘うのは、鬼ごっこ。
「リリーにいたずらしたい? そっか、じゃあリリーと鬼ごっこしてほしーな」
 逃げる先は山の中。燥ぎ追いかける狐と狸の群れを引き連れて、人里から離れていく――離していく。

「ほぁー」
 祭会場では『多言数窮の積雪』ユイユ・アペティート(p3p009040)が店巡りしていた。笹紅の髪が祭灯りに艶めき、さらりと繊細に揺れる。
「美味しそうなものがいっぱい……目玉はやっぱりステーキだよねぇ」
 まずはたこ焼き、箱に並んでソース艶めき鰹節踊る一つを楊枝でぱくり。アツアツ、舌で持て余しがちに噛むと広がるとろぉり生地のソースと鰹節、青海苔交じりの美味しさよ。もふーん、ぷりぷりのタコ発見。
「楽しんでるね」
 声かけたロロンはぷるんとした水色の少女めいた形態に白地に天色の花咲く浴衣姿で綿菓子片手に夜店を巡る。浴衣の花柄と揃いのリボンが呂色帯に際立って美しい。その足元を狙うのは、妖だ。
 ――浴衣の可愛いお嬢さん、転ばしたろ。
 ロロンは足を引っかけようとした不埒な妖に気づいてぽふっと尻尾を捕まえた。
「けぇん!」
「随分と器用みたいだね?」
 ぷるるんと髪の部分が揺らめき、明かりを反射してきらきらすると妖は一瞬、目を奪われた。
「お祭りを邪魔するよりも一緒に楽しむのはどうかな? 屋台から差し入れだってもらえるだろうしボクもおひねりをあげる」
 つるりと微笑む。紡ぐのは、誘いの言葉。
「ボクと一緒に喧嘩祭りをしよう!」

 『零れぬ希望』黒影 鬼灯(p3p007949)は嫁殿と水入らず。
「素敵だわ、賑やかだわ!」
「祭りはいい。賑やかな囃子も、行き交う人々の声も楽しげで心を弾ませる。しかし……それを邪魔してしまう悪い子が居るようだな」
「鬼灯くん、狸さんと狐さんと遊んでいい?」
「ああ、いいとも。彼等もきっと喜ぶだろうし悪戯もやめるだろうさ」
 ――さあ、空繰舞台の幕を上げようか。
 忍集団『暦』頭領、此処に在り。茂み、木や建物の影を無音で渡り、仕掛けたのちに声かけて。
「ごきげんよう、此度のお客様は貴殿らかな」
 対象は悪戯仕掛んとしていた妖達。屈んで視線を合わせる鬼灯は持ってきた金平糖を手に乗せる。
「お近付きの印に貴殿らには星を贈ろうか」
 夜空から零れ落ちた淡色の星のよう! 一目で気に入り頷く妖。
「うふふ! 鬼灯君の手の中にもう一つあるわね」
「おくれ、もう一つおくれよう」
 手の中に隠して焦らしつつ、鬼灯はさりげなく屋台から引き離すように妖を釣る。ぞろぞろ妖の群れが釣れて、提案するのは遊戯めいた競争だ。
「影という影に金平糖の入った小瓶を隠したゆえ、探し俺の所に持ってきてくれ。沢山持ってきてくれた方が勝ち、負けても勝っても金平糖は貴殿らにやろう」
「頑張って!」
 静謐な佇まい。この男は人の上に立ち指示することに慣れたつわものよと思わせる。されど応援の声差し込む愛らしい人形に向ける眼差しは愛情溢れ優しく、穏やかだ。妖は従順に頷き遊戯を始めた。

「ぶはははッ、寿司食いねえ!」
 『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)の寿司屋台が集客している。
「領地の海沿いから仕入れた新鮮な海産物と自慢の米で仕上げた逸品だ」
 ねじり鉢巻き巻いたゴリョウがニカッと闊達な笑顔浮かべると「なんと領主が直々に」と農家の爺さんが驚嘆し、海の恵みに手を合わせて一貫頂く。程よい握り加減のシャリはややもちっとした触感で、醤油を合わせると絶妙な酢加減。綺麗な赤色のマグロは新鮮で。
「んまい!」
 ぷりぷりのイクラが口の中で弾けてわさびの辛みと丁度良い。イカの歯ごたえと甘味が心地よい。この特徴的な歯ざわりと美味な魚肉――エンガワ!
 寄ってくる狐と狸が目を爛々とさせて寄ってくる――この香りは魚? 新鮮な魚なのか!?
「おぅ、食ってみるか悪戯っ子ども?」
 強面のゴリョウがおおらかに笑えば、頼りがいありそうな兄貴然として妖を魅了する。
「こちとら海魚よ! 川魚とはまた違った趣があるぜ!」
「こぉん!」
「よっしゃ、食いねえ食いねえ!」
「「美味い!」」
「兄やん、あの店すげえ美味そう」
「いってみっか」
 人が人を呼び、妖が妖を呼ぶ。なにせ、美味いのだ――食えば食うほど評判になり、店主の人柄の良さがまた客を喜ばせ、気付けば行列になっている。
「隣店はうどんも出してるぜ」
 よろしくな!
 ゴリョウは目配せをした。

「まったく悪戯も程々にしないといかんぞぅ? でもまぁ、驚く顔を見たい気持ちはわからなくもないがな!」
『至高の一杯』御子神・天狐(p3p009798)のしいたけシャイニングな目が目配せに応える。
「今宵は賑やかな祭りの日、人も妖も皆で仲良く楽しまねば!」
 フード付きの巫女服に和フリルのエプロン重ね、屋台構えてお鍋をどぉん、ちゃちゃっと刻むおねぎさん。メニューは勿論――得意分野で攻めていく!
「麺狐亭出張サービスなのじゃ!」
 華やぐ声に人も妖も興味持ち、やいのやいの寄ってくる。こぉん、ぽっくりを小気味よく鳴らして迎える天狐は愛らしく、ゆったり袖振り細腕で景気よく。
「『きつねうどん』に『たぬきうどん』、今夜はこの2品で決まりじゃ!」
 拘りの黄金海鮮出汁を奮発し、コクのあるスープの出来上がり。おたま片手に鍋に向かい、掬い上げるは油揚げ。
「狐や狸、子供には無料で提供するぞ!」
「何ぃ!」
 狸は早速きつねうどんのお揚げさんを――あちあち、はふはふ、はむっ。……あ、甘ぁい! じゅわぁ、贅沢スゥプ溢れさせ、ほのかに甘い油揚げ。口の中でくったり柔らか、旨味が広がり幸せ気分。
「このおうどん、優しさの塊やぁ」
 妖狐がちゅるっと啜るのはコシのほとんどない、やわらか麺。揚げ玉ぷくぷく、白い麺にくっついている明るい緑のおねぎが健気で愛し、しっとり舌触りしゃきっぴりっと存在を主張して。
「この『きつねうどん』と『たぬきうどん』、どちらがより人気あるかのう」
 この特別な夜に妖と人間で一大ムーブメントを起こそうぞ!
 沸かせオーディエンス! 満たせ満足感!
 祭り会場のバイブスをテンアゲじゃ!
 天狐が対決方法を提案すると、妖達はうぬぬと悩む――だって、両方食べたいんだもん!
「あっ、こら。狐のくせに狸を頼むとは」
「お前、狸なのにきつねを……」
 しまいには皆が夢中でうどん囲んで有耶無耶に――ああ美味し!

「なんだ、狐と狸は勝負したいのか?」
 ゴリョウはガハハと笑って「うちの店でも勝負するか」とロシアン寿司を提案した。
「人数分の寿司のうち1個にはたっぷりワサビの仕込まれた外れ寿司がある。これを引いたチームが負けってわけだ! 折角だし仲良く喧嘩しな!」
 並ぶ寿司に挑む妖。
「いいぞ、やれやれ」
「狐、勝て~」
「わしは狸に賭けるわいな」
 囃し立てる人々。外れて涙目の妖にさっと気を利かせ甘めの卵焼きを渡し、ゴリョウはその背を撫でてやる。大きな手が撫でる仕草は優しく、思いやりに満ちていた。
「これで遺恨なしってやつよ!」
 美味いもん食って腹が膨れれば万事解決。そう言って鉢巻を直す漢(おとこ)ゴリョウ。その貫禄を見てかの領地に住みたくなった、と人々はのちに語るのだった。

 ユイユはそんな仲間達と妖を見て。
「お、お仕事はちゃんとするよ!」
 山に駆け出した。
 もふもふ達は俯瞰する第二の視点に映っているから、探すのは簡単だった。群れに近寄り、同族のあかしをフリフリ――いつもは内緒の耳見せて――たこ焼きもサービス!
「やあ! 面白いこと企んでるねぇ、豊穣の先輩方!」
「なんやぁ、どこぞの村の坊かいな」
「上手くいけば美味しいものをいーっぱい貰えるプランがあるんだけど、聞いていかない?」
「ほうほぅ。……たこ焼きうまぁっ」
「今回は悪戯じゃなく化け合戦で競争! 折角のお祭りだ、皆で花火に化けてみないかい?」
「空にひゅぅん飛ぶんかいな?」
「どないに空に?」
「あれや、人間が火ぃつけるやつあるやろ」
「熱そぉ」
 ぽふん。ユイユは尻尾を揺らして扇動する。
「だからだよ。根性試しでもあるのさ。綺麗に化ければ、きっと祭りに来た人達も拍手喝采! 食べ物もたんまり! 君達が主役さ! あと、花火見た事ないから普通に見たい」
「くふぅ、主役言われたら弱いわぁ」
「っアハ、綺麗な花火見せたるぅ」
 皆、乗り気になった。
「皆行くよ~。カステラ食べながら行こ!」
 ぱたぱた、同族連れてユイユが走り出す。途中、鬼ごっこ中のリリー達とすれ違いながら。

 徐々に数を増やした妖の群れ。リリーは目で「だいじょぶ?」と問う仲間にうんうんっと頷いて手を振り。
「わー!? みんな、はやいねーっ」
 捕まっちゃう、と慌てるフリ。うまく追いかけていると有頂天になる妖たち。
「捕まえちゃうで~」
「リリーちゃん、待て待て~」
 もふもふ、ハッスル大突進!
「えへへ♪」
 おねがい、と合図をして木の裏に行って気配を遮断すれば、透視する目に「あれ? どこ行ったん?」と呟く妖達が視える。森住まいの猫さんが茂みで音立てて「あっ、あっちや」誘われる妖達。そぉっと後ろに廻るリリー。
 作戦成功だね、と乗せてくれてた仔を撫でて、枝を手におどけて無垢な声あげる。
「うしろの正面、だぁれだっ」
「「わーっ!?」」
 ふわり、ちょこん。ひゅっ、枝に乗ったリリーが天翔ける風の透明な軌跡を夜空に描いて、おつきさまを背に皆を見おろす。
「えへへ、悪戯されたのは……そっちの方、だねっ♪」
 あどけないピュアな聲はまるでお忍びでお祭りに遊びにきていた月の妖精さんが正体を現したみたい。見つめる吸い込まれるような円かな瞳が心に言葉の魔力を刻むよう。
「悪戯しようとしたら、こうやって逆にされちゃう事だってあるんだよ。分かった?」
「「うん。わかった……!」」
 お行儀よく、従順に。皆は頷いたのだった。

 『花合わせ』暒夜 カルタ(p3p009345)は提灯揺らめく花嫁行列を先導していた。
 はぇー……獄人の花嫁さん綺麗。新郎さんは妖憑……ううん、八百万ですかねぇ。
「ホントに素敵な花嫁行列ですぅ。カルタもいつかお金持ちで、いなせで、笑うと目尻のシワが可愛い旦那様を捕まえたいなぁ」
 乙女もカルタちゃん級になれば遺族年金という4文字まで見越した具体的な夢(人生設計)を持っている――詳しくはケイオス・ホルダーズで。
 カルタはポニーテールと尻尾をぴょこりほわりと可愛らしく揺らし。
「ささやかですけど、どうぞっ!」
 キャンディ・ピンクの瞳がピュアな輝きを溢れさせ、花嫁に花冠を差し出した。穢れ無き白薔薇、魔除けのまじないを込めた花冠だ。
「まあ、ありがとうございます……!」
 感激した面持ちで受け取る花嫁と、頭を下げる花婿。

 ↓秘密だよ↓
「ですから、後ほど祝儀の後にはぶーけとすなるもののご便宜を何卒……★」
「まあ……」
 揉み手でひそり、本題に触れる。花嫁は戸惑いがちながらも頷いた。此処に密約が交わされたのだった。
 ↑秘密だよ↑

 朱の傘を見守り、玉兎がしずしずと神社に向かう列の中で事が起きる前だからこそ活きる札を切る。幻影を生むという札を――楚々とした仕草で俯き集中して創る幻影が木陰に揺らめき、今まさに悪戯を仕掛けようとしていた妖の脚を止めた。
「こ、こりゃ」
 妖が呻いたのは、"悪質な悪戯で人間を困らせた狐狸が鍋で煮られる"幻影に恐怖を覚えたから。
「おとん。屋台行かん?」
 妖の坊やが誘ったのは"人間と狐狸が混ざって食事をしている"幻影に心惹かれたから。
「向こうでは、婚儀を済ませた二人に周囲の人たちが多幸や多産を願って色々撒くそうなんですよぉ。参道の皆さん巻き込んでお祝いしたらもっと素敵になりますよねぇ!」
 カルタは頬に手を当て、近くにいた妖にウインクした。
「どうせなら一緒にやってみませんか!」
「なんや、可愛い子が面白そうな事言うとるやん?」
 屋台に向かおうとしていた足を止め、一部の妖達が顔を合わせ、頷いた。
 いざとなれば神気にて――と、有事に備えていた玉兎が息をつく。どうやら安全そうだと悟り、花嫁の親族が目元に浮かぶ涙を拭い、深々とお辞儀する。妖により祝いの花や飴、しゃぼん玉がふわふわ撒かれる綺麗な花道で。
「ああ、まこと姫君方のおかげでございます」
「仲間にも伝えておきましょう」
 屋台の方角、或いは山へ視線を送り、玉兎は佳麗なかんばせを柔らかな微笑で彩った。赤い鳥居にて一礼して。あえかに夜風吹けば月に映える白絹の髪が銀光纏いて煌めけば、御伽噺や伝承に描かれし絵画めいてあな美しや。昴星ほのかに光る佳月夜、人々の明るい声を背景にカルタと玉兎は花嫁と花婿の門出を祝い、豊穣祭の成功を見守った。


●結実の光華祭
 金平糖を探し当てた妖達が鬼灯の前に並んでいる。
「もふもふさん、楽しいもの見せてあげるわね! 美味しいお菓子とお紅茶はお好きかしら!」
 遊戯を終えた妖を迎えたのは鬼灯と嫁殿の薔薇のお茶会。雪白くりぃむのケーキに素朴なビスキュイ、果実餡秘めた動物型の洋最中。香味芳しい琥珀色冴えやかな花紅茶。
「豊穣ではどれも珍しい物ばかりだろう?」
 ぱくっ。
「見え」
 食事中、鬼灯の口元は決して見えない。妖は驚いた。
「見えない!」
「ナンデ!?」
 覆布の下で笑む茶席の主は睦まじく寄り添い、驚く小さなお客様をおもてなしする。特等席めいた茶席からは、祭り風景も楽しめた。
「鬼灯くん、あれは何かしら」
「――喧嘩祭り、だな」

 ロロンに導かれ、雑踏の中を神輿が往く。荒ぶる獅子舞、練り子の妖は揃いの鉢巻に襦袢着て、色鮮やかな紙垂棒を振る。2つの神輿が近づいて――荒波のように衝突! 押し合い、提灯揺れて。
 わっしょい!
 わっしょい!!
 熱気渦巻く地上でユイユが片手を天に向けた。
「盛り上がってるね――さあ、合図だよ」
 ――聖鐘を共演させるように。
 たぁん。
 夜空に向かって愛銃が啼く――それが、合図。
「今やぁ!」
「やったるわ……!!」


 ひゅっ。
 ――パァッ……!

 夜空に大量の花が咲く。
「え?」
 夜闇を引き立て役に、一瞬の短すぎる光輝を誇るように、鮮烈に華やかに。火光が輪状に広がり花開き、瞬く間に落ち――交代するように次が上がり、光の環を咲かせて魅せる。
 ひゅぅ~、どぉん。ひゅー、どーぉん。
「……花火だ!」


 地上の人々が夜を彩る光華を一斉に見上げて騒ぐ。それが妖には楽しくてならぬ。
「あちちっ、でも楽しいわ」
「もっと派手にやったれ!」
 そんな妖にユイユは……何か忘れてる気が……?
「あ゛!? ステーキ食べ忘れた!!!」
 まだ間に合うかな? と、ステーキ屋台に駆け出した。

 精霊が道の脇の灯篭や人々が捧げ持ち括り下げた提灯で踊っている。色々な物が撒かれ華やぐ道――友が躍り燥ぐ視界。
「風に舞って、光を反射して、きらきらですぅ」
 カルタは持ち込んだ花火を共演させ、今日一番の笑顔を見せた。きらきらな夜空にブーケがふわりと――キャッチィィィッシャぁぁ! ――お祝いの気持ちが雨あられなのですぅ! 祭り会場が湧いて、人々の表情が楽し気で、汗と光が煌めく中を妖達が笑っている。ブーケも獲れた。YES!
「楽しいや」
「勝ち負けどうでもよくなったわぁ」
 妖も笑ってる。リリー、玉兎が祭屋台に顔を出すとゴリョウと天狐が自慢の料理を振る舞い、作戦は成功だと皆が確信して笑み交わし。
(本性を晒して妖を食べてしまうのがいつものやり方だけれど)
 皆で導いた華やかであたたかな賑わい。お祭りらしさを考えて、この光景に辿り着いたのだ――ロロンは右手のイカ焼きを指揮杖めいて振り、その光景をいつまでもいつまでも眺め続けた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

皆さまおかえりなさいませ、依頼お疲れ様でした。
心あたたまる素敵なプレイングをありがとうございました。
人々も妖たちも、皆さまのおかげで格別楽しい夜を過ごすことができました。

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