PandoraPartyProject

シナリオ詳細

二度とは訪れなかったはずの、明日

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『クエスト』
 航海の小島を越え、国境沿い。正義国へと繋がる街道に一人の少女が立っていた。
 海を思わせる青い髪に旅装束を着用した幼さを滲ませた少女だ。その立ち居振る舞いは貴族のそれ。到底、この様な場所に一人で立っている訳がない存在だ。
「やあ」
 軽やかな声音で彼女は挨拶をした。どうやら普通のクエストNPCではないようだ。
「こんにちは。ふふ、不思議そうなものを見た顔をした。どうしてだろう? どうしてかな?
 それは誰に聞いても分からないね。屹度、そうだ。僕のことを知っているのかな? それとも僕(クレマァダ)かな」
 歌うように問いかけた彼女の名前はカタラァナ=コン=モスカ。
 航海の外洋。不踏の海域の外に領海を持っている辺境伯コン=モスカの令嬢だ。
 ……確か、彼の家には令嬢が2人居た筈だ。双子の姉妹の内、片方が突如として姿を消したと聞いていたがもしや。
「16歳になる前に、僕はとおいとおい世界を見に行ったんだ。綺麗な珊瑚を眺めて、砂を踏みしめてみたかった。
 そうして、僕の中の世界が海だけではなくなるように。僕の世界は緑も繁り、陸地は立派に聳え立った。
 関係ないかな? 関係ないね。僕と君は『今日、初めまして』だったのだから」
 そう微笑んだ彼女はクエストを提示してくれるのだろう。

 ――成程、ここはかりそめの世界。
 目の前に立っているカタラァナ=コン=モスカが『現実世界では死した存在』であろうとも。
 この世界は無情にも彼女の存在を模倣した。
 静かに語らう彼女を見つめていたヴィルヘルミナ・ツェペシュ(p3x008547)は口を噤んだままだった。
 その隣に居たファーリ (p3y000006)とてそうだ。
「カタラァナさん」
 そう呼んだファーリは酷く懐かしい名前に感じて居た。
「家出少女だっけ?」
 悪戯めかして問いかければ、彼女はくすくすと笑う。
「そうなんだ。僕(クレマァダ)に全て、全て任せてしまって。妹のことは知っている? 僕の大切なかたわれ。
 屹度、しなびた昆布みたいな顔をして忙しそうに走り回っているんだろうね。何時だって、潮騒を聞いているはずだから」
 からからと笑った彼女はよく話す。成立する会話が『彼女の現状を説明してくれている』事を分らぬ訳がない。
 NPCとしての在り方。そう思いながらも、ヴェルヘルミナは懐かしい彼女の声音が『自分を呼ぶ』感覚に惚れ惚れとしていた。

「簡単なクエストなんだ。この道をずうっと進んだ場所に行きたい。
 僕を正義の国にまで連れて行って欲しかった。ただの、それだけだよ。この道はとてもおそろしいから」

 そう指さしたカタラァナは覆い繁る森に少しばかり不安を滲ませているようだった。
 ……成程、この森はモンスターが出ることで知られている。
 この地を通り抜けた先に広がっていたのは正義の片田舎か。
 正義も今や動乱が続いている。彼女が森を越えた先に安全が存在するとは限らない。
「どうして心配そうな顔をするの? 大丈夫、屹度、大丈夫だよ。
 僕をとおくとおくへ連れて行って欲しいんだ。君たちになら、きっと、この気持ちが分るはずだから」
 新しいものを見たいのだと歌ったカタラァナは微笑んだ。
 正義の国へと辿り着いたならば、宿を取り、そこから暫く旅を続けたい。
 少しだけの護衛任務。
『もう、二度とは訪れなかった』筈の明日を。今一度、始めよう?

GMコメント

 夏あかねです。あなたがこのお洋服を着て歩いているだけで感無量です。

●目的
 クエスト『カタラァナの護衛』をクリアする

●NPC『カタラァナ=コン=モスカ』
 航海の辺境伯コン=モスカの家出令嬢。カタラァナ=コン=モスカさんのNPCとしての姿です。
 彼女は現実よりも何処か大人びた印象を受けます。どうやら、様々な国を旅して様々な音楽や景色を学びたいと考えているようです。
 正義まで辿り着いて宿を取ってしばらくは宿を続けたいと願っています。
 波濤魔術による護身術は身に付けていますが、少しばかり世間知らずな印象は否めません。
 皆さんと愉しくお話ししながら正義までの街道と森を歩いて行くことを楽しみにしています。

●『街道』
 クエストの舞台です。途中に森が挟まり、1日ほどの時間が必要となります。
 徒歩で移動することが求められるためのんびりと進んで頂くシナリオです。
 1日間の間、のんびりと護衛を行いながらカタラァナさんと世界について語り合ってみたり、夜営を行って下さい。

 森の中では少し暗がり。どこからモンスターが襲ってくるか分りませんので注意して下さい。
 野盗、モンスター(蜂やクマ)などが難易度相応程度に襲いかかってきます。
 カタラァナさんと一緒に合流してのんびりと進んでいって下さいね。

●同行NPC
 ・ファーリ (p3y000006)
 ご一緒します。近接遠距離何方も出来ます。指示がなければカタラァナさんのおとなりで護衛をしています。
 騒がしいR.O.Oですが平和なクエストですのでキャンプ気分で参加しているようです。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 R.O.O3.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。

  • 二度とは訪れなかったはずの、明日完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月16日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

IJ0854(p3x000854)
人型戦車
夢見・ヴァレ家(p3x001837)
航空海賊忍者
ユウキ(p3x006804)
勇気、優希、悠木
ブラワー(p3x007270)
青空へ響く声
モモカリバー(p3x007999)
桃剣舞皇
きうりん(p3x008356)
雑草魂
カノン(p3x008357)
仮想世界の冒険者
ヴィルヘルミナ・ツェペシュ(p3x008547)
†夜の闇を統べる女王†

サポートNPC一覧(1人)

ファーリ(p3y000006)

リプレイ


「それじゃ、そろそろ行くね」
 彼女が旅立つ前に。護衛は、『おままごと』はそろそろおしまい。
 その背中は見慣れたようで、見慣れない。『ひと』になった器の在り方。

「カタラァナ」

 呼んだ名前は、馴染むようで遠い。
 遠離るその背中に――


 家出少女の護衛任務。クエストを目にしたときに『雑草魂』きうりん(p3x008356)は「これはクレマァダちゃんのお姉ちゃん?」と問いかけた。
 その問いかけに肩を揺らせ――それも悟られぬようにと知らんぷりをした『†夜の闇を統べる女王†』ヴィルヘルミナ・ツェペシュ(p3x008547)。
「ふむ……カタラァナ・コン・モスカか。現実の彼女とは面識はないが、彼女には多大なる恩がある。
 もう恩返しをする事はできないが……。虚構だが、今は彼女と仲間との旅を楽しもう」
 そう告げてクエストの受注を決めたのは『桃剣舞皇』モモカリバー(p3x007999)であった。『もう恩返しできない』という言葉に悲痛な表情を浮かべる『勇気、優希、悠木』ユウキ(p3x006804)は小さく息を呑む。
 目の前で、見慣れぬ衣服に身を包み――面影はあれど、人の姿をしているのは初めて見る気がすると認識する――カタラァナはユウキにもヴィルヘルミナにも紛れもなく『IF』の存在だった。
(……俺達の知るカタラァナさんじゃねぇのは知ってるが、幻想や偽物のカタラァナさんは何度も見てきたし、夢にだって出てきてる。――でも)
 あんな風に幸せそうに笑うから。
「……――かかっ、女々しいなぁ、"俺"って」
 ユウキは誰にも聞こえぬように独りごちた。その側で身を揺らがせる『航空海賊忍者』夢見・ヴァレ家(p3x001837)は嘆息する。
「……なんだか、こう、妙な気分になりますわね。いえ、現実のカタラァナ殿と別人であると分かってはいるのですが」
「割り切れるものでも、ないのね。ええ、私だって彼女を深く知っているわけじゃないのよ。
 深くは知らないけど、深く知れる前に、死なせてしまったから。今度こそ一緒に歌って仲良くなりたいの」
『青空へ響く声』ブラワー(p3x007270)は真っ直ぐに、彼女を見遣った。クエストの受注を選べば、彼女との奇妙な旅が始まる。
「当機にカタラァナ氏のデータは存在しません。しかし、歌の一節だけは存在します」と告げたのは『人型戦車』IJ0854(p3x000854)。
 それでも、歌の一節が自身と彼女を繋いでいる気がして、仕方がなかったから。
「これは、奇跡的な一期一会かもしれませんね。家出してまで見聞を広めたいなんて、伝聞以上の冒険精神です。
 一冒険者として、彼女を応援しない訳にはいきませんっ!」
 揶揄うように笑った『仮想世界の冒険者』カノン(p3x008357)はそっとカタラァナへと手を差し伸べた。
「宜しくお願いします。カタラァナさん」
「うん、宜しく。初めましてかな。僕はカタラァナ。カタラァナ=コン=モスカ。
 ああ、いまはコン=モスカとは名乗ることは出来ないのだろうか。家出したから、唯のカタラァナさ」
 謳うようにそう告げるその声音にIJ0854は『記憶』をなぞる。

 ――斯くして揃いし騎兵隊。勇猛果敢で恐れ知らず。

 かたや絶海の主。あのドレイクだって泣いて逃げ出す海の王リヴァイアサン――うそじゃないよ、僕は見て来たんですからね?

 ローレットたちのお話の続きは……慌てない。慌てない。さあ、続きを今から歌うからね――。

「さて……うたわれる者たちはこの世界にはおらず。その一節の続きを紡ぐものは、どこにいるのか。
 どちらが欠けても歌われませんが、しかし、物語は続くのです、そのときも、今も」
 IJ0854は微笑んだ『ただの』カタラァナへと声を掛けた。此処ではただの人型戦車と家出娘。そんな奇跡的な一期一会の始まりは何時だって挨拶からだ。
「おはようございます。当機はIJ0854、貴方の健康を守ります」


「怖いけどさ、その分一杯知らないものがあって楽しいよ!」
 ブラワーは森に入ることは怖くはないとカタラァナへと微笑みかける。歌いながら歩けば大丈夫。
 幸い、これだけの仲間が助けてくれるのだから。そう言って手を引けば、カタラァナは「皆は恐ろしくはない?」と問いかけた。
「まるで、世界さえ食べてしまいそうな大渦のようだよ。それでも、恐ろしくはない?」
「恐ろしいのは未知が多いから。知っていけば怖くない。そうでしょ?」
 ブラワーにカノンは「はい」と微笑んだ。知れば、こんな森だってへっちゃらだと彼女はやる気を溢れさせて。
 やることは至ってシンプルだとユウキはカタラァナの傍らに立っていた。
 戦陣をずんずんと進むきうりんは「やあやあ」と森へと声を掛ける。
「これどっち行けばいいと思う?ㅤ……ふむふむ、なるほどね!」
「分るんですか?」
 問うたカノンにきうりんは真面目な表情で返した。「何言ってるか分んないや!」
 成程、分らないらしいがカノンの冒険技能と探索技能を活かして、カタラァナには安全無事に進んで貰うことと決めて。
「まぁ、危なそうな雰囲気がするほうは伝わったから避けて行こう!」
「それでいいのか?」
 ぎょっとしたファーリ (p3y000006)に「いいのいいの」ときうりんが背を押した。カタラァナに小型の偵察機――ちょっとキモカワなそれを渡していたIJ0854は「何かあれば当機にお声かけ下さい」と冷静な声音で返した。
「カタラァナ殿、危ない!! ……なんだ、リスでしたか。てっきり魔物の類かと」
 手を差し伸べて、庇うように身を挺したヴァレ家にカタラァナは「可愛いリスだ」と楽しげに笑う。ぎゅう、とカタラァナに引っ付いていたヴェルヘルミナは「もう」と頬を膨らませた。
「そんなに引っ付いてちゃ、カタラァナさん動けないでありますよ?」
「別にー? ミナちゃん、真面目に仕事はする女だもーん? だから他意とかないしー?」
 ふい、と外方を向いたヴィルヘルミナにきうりんは「こっちだよー!」と声を掛けた。カタラァナに促されて歩む彼女は「……あ、ねえ。足下、小石あるよ。躓かないでね?」と指さして。
「喉かわいてない? そろそろ休憩する?」
「過保護」
 呟いたユウキに「ミナちゃんは護衛対象のー面倒を見てるだけだもーん?」とヴェルヘルミナは外方を向いた。
 別にデータだって分ってる。皆が知っているカタラァナ。『我』の知らないカタラァナ。そうして笑っているだけで、違和感が形を為して。
「ねえ、カタラァナ。はっきりとわかった。人に成ったんだね。……きっとあなたの妹は、それを喜んでる」
「そうかな。僕(クレマァダ)は屹度、怒ってるよ」
「ううん。我にはわかるよ。なんでかって? ……なんでだろーね?」
 笑ったヴェルヘルミナはぎゅう、とカタラァナの手を繋いだ。不思議そうな顔をして、それ以上は聞かないカタラァナから視線を逸らす。
 これは本物じゃない。ネクストの人間なんてデータだ。そんな意地の悪いこと、考えたこともなかったのに。
 これは本物じゃない。こんな『クレマァダ=コン=モスカ』の知らないカタラァナは偽物だ。……そう思わないと。
 繋いだ掌が温かい。彼女のぬくもりが、側にあるだけで泣き出しそうになる。
 彼女が、カタラァナ=コン=モスカが、『本物』だと認めてしまったら。このかりそめの姿なんて捨てて、飛び付いてしまう。
(……ねえ、ほころびを見せてよ。カタラァナ。貴女が、我(カタラァナ)じゃないって――)
 握る掌は。どうして、こんなにも知っているぬくもりなんだろう。 
「カタラァナさん、こちらですよ」
 カノンは手招いた。安全なルートを構築して進むカタラァナの側でユウキは何か話をしようと口を開いて――そうして閉じた。
 野暮だっただろうか。彼女が此処に居て、自由に生きて、幸せそうに笑っている。道を行き、楽しげに歌う声。
 それだけでも嬉しいのだから。だから、ユウキは『ユウキ』として振る舞うことに決めていた。
「ここは動物が多いんだね」
「まあ、森だもんね」
 ユウキは何気なく返す。普通に話して、普通に友達になって、好きな食べ物だとか、今まで旅してきた場所や旅あるあるの話なんか。
 女の子の話にだって付き合える。だからこそ、特別なことは何一つも必要ないのだ。
「これは興味本位なのですが、どうして最初に正義の国を選んだのですか? 鋼鉄や翡翠でも良かったでしょうに」
「あの国は僕が信じていた神様とは全く違うものを信じているんだって。神様を模した像や、それを祀る聖堂なんか。
 そうしたものが素晴らしいんだって僕(クレマァダ)――妹が言っていたんだ。とおい、とおい世界の話を、勉強だって言って学んでた。
 僕はそんな美しいものを見てみたい。それを沢山学んだら、僕(クレマァダ)に教えてあげるんだ」
 嬉しそうに瞳をキラリと輝かせて。カタラァナは微笑んだ。ヴァレ家はぱちり、と瞬いてから小さく頷いて。
「ああ、得心しました。それは拙者も興味があります。良いものが見られると良いですね」
 彼女は何時だって姉なのだろう。カタラァナを護る事を最優先にしているIJ0854は索敵するヴァレ家を仰ぎ見る。
「やや、敵影がありましたよ! 準備はよろしいですか?」
「……ああ」
 モモカリバーが距離を詰め、勢いよく飛び込んだのはきうりん。
「大丈夫、青い空はこの森の上にしっかりあるから!」
 ブラワーの鼓舞する歌声に奇襲を仕掛ける側であるカノンの魔弾が飛び込んだ。


「こんなこともあろうかと朝から漬けておいたきうりがここに……!!
 私が品種改良した特性の美味しいきうりだよ!ㅤいっぱいあるから食べて食べて!」
 夜営の時間にパーティーと聞きまして、ときうりんは微笑んだ。
 夜営の設営はカノンにお任せあれとその知識を活かしたものが整頓される。モモカリバーは食事の用意を手伝おうと談笑しているカタラァナをちらりと見遣った。
「……それで……このきゅうりは?」
「おいしいよ?」
「……」
 きうりんのきうりを眺めるモモカリバーは取りあえずなんとか調理をして見せようかと唸った。
「カタラァナさん、色々と教えて貰えませんか? 話でしか知らなかった色々な話を聞いてみたいんです。
 コン=モスカは特殊なのでしょう? カタラァナさんが旅に出た理由とか……それに、航海のお話とか」
 知りたいですと微笑んだカノンにカタラァナは頷いた。「折角ならば、謳おうか」と立ち上がる彼女にブラワーの瞳がキラリと輝いて。
「カタラァナ、一緒に歌ってみない?」
「一緒に? 勿論。歌おう、歌おう、海のものがたりを」
 カタラァナの手を取ってブラワーは歌い出す。夜空へ響け、遠い空にも遠い海にも、世界の果てにも、違う、この世界を見ているものにも――誰にでも。
 この世界で生きていることを歌うため。此処で生きていると笑うように。
「当機の装甲は叩けばいろんな音色が出ます。楽器代わりに使って頂いて構いません」
「それは困ったりはしない?」
「ええ、歌のお代ですとも。お気になさらず。それで足りなければ……覚えておいてくだされば、それで」
 IJ0854へとカタラァナは目を細めて「分った」と頷いた。その笑顔は何時までも変わらない。
「お礼にお話してもいいですか? 遠くの世界の冒険譚を披露させてください。知らない世界、此処とは違う世界の話です」
「不思議な響きだね」
 カタラァナは教えて欲しいと瞳を輝かせた。何だって興味がないような、虚。それが、ヴェルヘルミナの知っていたカタラァナ=コン=モスカだったのに。
 どうしてか、今は何事にも興味を持って、沢山の言葉を重ねて、歩んでいく普通の『人間』のようだから。
(――ホンモノじゃ、ないのに)
 彼女がローレットで歩んだ道を、間近で見せ付けられているような、違和感。ふわふわと、水泡の様に揺蕩うだけの彼女じゃなくなったあの空間。
 それが、此処にあるような気がしてヴェルヘルミナが感じたのは一抹のさみしさと、彼女の存在が現実であると実感した苦しさ。
 楽しいパーティーの時間は直ぐに終わり。余り起きていれば、明日に差し支えると告げるIJ0854にカタラァナは「そうだね」と頷いた。
 火の爆ぜる音が聞こえる。薪を放り投げていたブラワーはふと、ふらふらとした様子で近寄ってくるヴァレ家に気付く。
「いくらしぶとい拙者と言えど、この眠気は……。IJ殿、拙者もう限界です。見張り変わって下さい」
 ものの数刻でがっくりとしたヴァレ家にモモカリバーは「まだそんなに時間は経って居なさそうだが?」と問いかける。
「当機の担当時間ではありません」
「ロボットなんですから、別に寝なくても良いじゃないですか! けち!」
 拗ねるヴァレ家にIJ0854はつんとした様子であった。IJ0854が起きていようとも、ヴァレ家とモモカリバー、そしてファーリが夜営なのは仕方がない。
 ブラワーが歌う子守歌をぼんやりと聞きながらカタラァナが佇んでいることに気づきヴァレ家はそっと傍らに腰掛けた。
「おサボりかな?」
「まあ。もうすぐで戻りますよ。怒られちゃいますから。……カタラァナ殿、寝ていなくて良いのですか?」
 眠ってしまったヴェルヘルミナやユウキ、カノンを見下ろしてカタラァナは「ちょっとね」と微笑んだ。
「ちょっとですか?」
「そうだよ、ちょっと。ちょっとだけ」
 起きていたいんだ、とヴェルヘルミナの髪を撫でてカタラァナは「明日でお別れだね」と囁いた。
「はいみんな起きて!!ㅤ私食べられちゃうよ!!!ㅤ食べられてるよ!!!!」
 ――きうりんの叫び声に慌てて起き上がったユウキは「うわ、食べられてる」と小さな声で呟いたのだった。


 ――朝が来て、別れが近づいている背中を眺めて引き続きの護衛の時間。
「お姉ちゃん」
 ヴィルヘルミナ・ツェペシュは彼女の妹ではない。
 それでも、呼んでしまった。呼びたくなった。恐ろしいほどに彼女が、カタラァナだったから。
 その存在感が現実になる。ぼやけた輪郭が確かなものになる。彼女の声が、今も反響する。
「どうしたの? 僕(クレマァダ)……ああ、ごめんね。間違えた。
 僕(クレマァダ)とミナちゃんはまるで違うのに。どうしてだろう。僕には、妹(クレマァダ)のように見えたんだ」
 困ったように笑う、望郷の瞳。そんな『人間らしい表情』を見たことはない。
 ヴェルヘルミナは息を呑んで立ち竦む。『我(クレマァダ)』だと。言うことは出来ないのに。『我(カタラァナ)』は――
「ッ――」
「ミナちゃん。元気でね。『また』会おうね……それじゃ、そろそろ行かなくちゃ」
 正義へと続いた街道へ。これから先は彼女一人の旅路。
「ねぇ、一緒にもっと歌いたい」
 せがむように、ブラワーはそう言った。カタラァナの外套を掴み上げて唇を震わせる。
 訪れなかったはずの、明日に。君と居る。「ずっと一緒にいていいじゃん……」と呟く言葉にカタラァナは仄かに笑った。
「大丈夫、また会えるよ」
「……また……また、一緒に歌おうね、カタラァナ!」
 カタラァナはこれでもお姉ちゃんだからとブラワーに微笑んだ。
「さようなら、いつか海の上で私達を守ってくれた人。
 今度こそ貴女の夢が、願いが、叶うことを祈っています。またいつか、どこかで」
 願うようにヴァレ家は紡ぐ。彼女の背後で俯いたヴェルヘルミナは唇を震わせて。
「君のことは覚えたよ。IJ0854……ええと、じゃあ、いーちゃんだね。いーちゃん」
 覚えておいて下されば、そう告げたIJ0854の言葉の続きを用意してカタラァナは微笑んだ。
「聞き覚えのある、歌声だったなあ。そういうことかあ」とぼやいたきうりんは走り出す。カタラァナの手をぎゅうと掴んで笑みを綻んで。
「まぁいいや!ㅤ楽しかったね!ㅤまた遊ぼうね!!ㅤ護衛もね!」
「うん、また会おうね」
 ――来なかった明日の言葉を。いとも容易く口にする。モモカリバーは息を呑んだ。
「……あなたが困った時はいつでも私、破邪の戦士モモカリバーを呼び出してくれ。
 ……まぁ、あなたならどんな困難にも立ち向かえるだろう……また、この世界のどこかで会えるさ」
「どうか、冒険精神旺盛なあの彼女の道行きが輝かしい物になる事を――」
 祈るカノンはこの世界の彼女は此処に生きているのだと目を伏せる。
 広い世界をその二本の脚で歩いて行く。謳いながら、世界を楽しむように、何者にも囚われぬ様に。
 最早、しがらみなんて知らぬ彼女の背中にユウキは、追いついた。
「カタラァナさん」
 ちくしょう。

 アタシは『ユウキ』なんだ。彼女は違う歴史のカタラァナ。知っている存在じゃない。
 なのに、どうしようもないほどに涙が溢れる。駄目だ、駄目なんだ。歌を聴いたぐらいで泣いちゃ。
「カタラァナさん――!」
 そうならなかった今日を、友人として過して。何気ない女友達との一日を彼女に楽しんで貰いたかった。
 それから、別れ際にはこう、言うつもりだった。「またな」。そうやって揶揄い笑うつもりだった。

「――貴女の事が好きでした」

 笑う、彼女の輪郭がぼやけて行く。
 歌声だけが残されて。

 ――君と二度とは訪れなかった明日を歩いていることが、僕は、とってもとっても嬉しいんだ。だいすきだよ、僕の大切な……。

成否

成功

MVP

ユウキ(p3x006804)
勇気、優希、悠木

状態異常

モモカリバー(p3x007999)[死亡]
桃剣舞皇

あとがき

 お疲れ様でした。
 色々言うのは無粋なので。凄く心のこもったプレイングだったなあ、と思いました。

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