PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<lost fragment>笑ってさえいればいい

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●異界「憎悪なき笑顔の世界」
 人々は笑顔で街を行き交う。その表情に作り物めいた雰囲気はなく、みな心から笑っていることが窺えよう。
 ここは「笑顔咲く街」フロイロンド。誰ひとりとして他者に憎悪を抱くことのない、笑い絶えぬ明るい街だ。
「おはよう、今日もいい天気だね」
「ええ、今日も貴方に会えて何よりよ」
 中年男性と年頃の少女が挨拶を交わす。笑顔のままに男は少女にハラスメントじみた狼藉をはかり、しかし少女は笑顔のまま――一片の憎悪も顔に浮かべず――男の頭部を酒瓶をフルスイングして叩き割った。血塗れで倒れた男性は驚愕や不運に見舞われたことへの不平はなく、笑顔のまま痙攣を繰り返していた。周囲の人々は彼女の狼藉に対して驚くこともなく「あらあら元気ね」と肯定的だ。あろうことか、笑顔の人々が男を抱えあげると水路に投げ込んだではないか。
 別に、男にそうまでされる謂れはない。はずだ。その男は少女とみるやハラスメントを繰り返すどうしようもない男だが変態性をひた隠しにして影で女性を泣かせることはしなかったし、そもそもこの街では悲しむこともありはしない。
 男は少女を過当に辱めたことはないのである。だが、笑うように花のように散らされた。
 周りを見れば、なおその特徴が顕著なのが分かるだろうか?
 笑顔で行き交う人々は、しかし微笑ましく仲が良いというわけではない。むしろ、平時より残虐性や他害に対するブレーキが壊れているとしか思えない。
 互いに腹を、心臓を刺しあい頭部を殴打し建物から突き落とす。何事もなかったかのように笑顔でそれら(死体)を片付ける掃除夫はしかし、背後から首を絞め上げられ落命した。
 お互いの笑い声、笑顔が咲くように乱れるその地は――どこよりも笑顔が咲き乱れる街。

●ワールドイーター『ラフィン・ヘイトレス』
 フロイロンドの異常に足を踏み入れた、というかバグの真っ只中に飛び込んでいったイレギュラーズ一行は、いままさに目の前で起きている状況に声を失った。
 『【偽・星読星域】(イミテイション・カレイドスコープ)』をして事後の出来事として観測されたこの異界の有様は、「食べられた後の世界」であり、ワールドイーターを撃破することで開放が可能となるらしい。
 そう、アストリアが言っていたのだから間違いはあるまい。
 それにしてもだ。
 フロイロンドという都市は贔屓目にいって治安がよい方ではないが、ある程度の協調や意思疎通ができる人々が主であるということだった。……『これのどこが』?
 人々は笑顔のまま憎悪や敵愾心をおくびにも出さず、小競り合いや言い争いで終わるような些細な出来事を人死にを交えた争乱でもって完結させている。
 まるで、憎悪という経過をぽっかりと失ったばかりに、二足飛び程度に行動を成立させているかのようにも思える。
 恐らく、今しがた現れた『あなた達』に対しても敵意をみせることなく害をもたらしてくるであろう。
 そんな人々は、しかし遠くで笑顔を振りまきながら歩く男の後ろをついてまわっている者がチラホラと見られる。それらは、今しがた人を殺した者達だ。
「皆さんは笑っていればいいんですよぉ。憎悪とか敵意とかつまらないでしょう? 争うのはお嫌いでしょう? そんな『重い』ものはこの天秤に置いていって、軽い気持ちだけを持って帰ってくださいねえ!」
 天秤を持ってあるく白黒のピエロじみた男。体格はひょろりとしていて、仮面は白と黒のセパレート。底抜けに明るい声に応じるように、人々の歓声があがった。そして、天秤に触れた人々は消えていった。
「さあさ、憎しみを捨てて罪を捨てて、またあしたからやり直しましょう! 何度でも何度でも、憎しみも罪もない幸せな日々を!」

GMコメント

 悪意というか敵意というか、感情というものは往々にしてブレーキであるとか何とかきいたことがあります。壊れればそうもなる。

●成功条件
『ラフィン・ヘイトレス』撃破
(オプション)上記達成の間に可能な限り『笑顔の市民』を殲滅し、再出現前に成功条件を満たす

●ラフィン・ヘイトレス
 世界を喰らい、正義国をバグだらけの世界に置換する「ワールドイーター」、その一体です。
 フロイロンドの街における「敵意/悪意/憎悪」などを喰らいまくったことで人々の感情からそれらを奪い去り、その影響でフロイロンドを異界化させました。
 外見上は存在しない街となっており、認識できる人間が突入するとOPの通りの惨状が発生しています。
 武器は非所持。手にある天秤が傾くごとに、本人の周囲レンジ3以内に『怒り』の真逆の現象……対象以外を積極的に攻撃するようになる状況を生み出します。この現象は主・副いずれの行動も消費しません。
(便宜上『魅了』と同等のBSとして判定します。このBS罹患時、例外的に『笑顔の市民』は攻撃できます。また、ワールドイーターに対しては『攻勢BS回復(中)』として作用します)
 また、声による長距離神秘系攻撃によりステータス減少系BSをバラ撒きます。あとは空間に干渉する感じの中距離物理攻撃。ほか委細不明ながら、そこまでべらぼうに攻撃力が高いわけではないようです。
 本人はHPそこそこ高め、抵抗は然程高くないですが再生能力を有します。
 なお反応や機動は普通かちょっと低めです。

●笑顔の市民×多数
 何処にでもいる一般人、のように見える異界の住人です。もとはフロイロンドの住民でした。ここで殺しても依頼達成がなれば生存状態で復旧します。
 HPはまったくの一般人よりは高いです。誤差なきもしますが。
 笑顔のまま何の罪悪感もなく殺しにかかってきます。敵意がないためエネミーサーチ系統、感情探知系統はまったく用をなしません。まー周り全員敵なんで……。

●戦場その他注意事項
 フロイロンド街内はそこかしこで殺し合いやそれに準じた惨状が続いています。
 彼等は最終的にワールドイーターにリセットされるので罪を感じないまま攻撃行動ができるのです。
 マップとしては一般市街地。遮蔽物もそれなりあります。ぶっ壊しながら進んでもいいです。
 皆さんは遠くに消えたワールドイーターを追いながら市民を殺して周り、彼等(の魂オブジェクト)がワールドイーターに接触する前に撃破することを目標にします。
 なお、異界内ですがなぜかサクラメントがあります。壊されません。どんどんリスポンできるぞ。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 R.O.O3.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <lost fragment>笑ってさえいればいい完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月14日 23時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ(p3x000174)
クィーンとか名前負けでは?
梨尾(p3x000561)
不転の境界
Teth=Steiner(p3x002831)
Lightning-Magus
スキャット・セプテット(p3x002941)
切れぬ絆と拭えぬ声音
アウラ(p3x005065)
Reisender
ホワイティ(p3x008115)
アルコ空団“白き盾持ち”
ネコモ(p3x008783)
ニャンラトテップ
フローレス・ロンズデーライト(p3x009875)
憧れ焦がれる輝きに

リプレイ


「憤怒や憎悪を捨てて幸せにってか。ああ、最高に気に入らねぇクチだな」
「『憎悪や敵意を消す』だなんて謳い文句はキレイですけれど、その実この異界は悪趣味が過ぎますわね!」
 『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)の言葉は静かなものだったが、その実、周囲から発散される感情は激しい憎悪に裏打ちされたものであることは疑いようがない。『最高硬度の輝き』フローレス・ロンズデーライト(p3x009875)ほどに直接的な感情の発露であればまた違っただろうが、そればかりは個々人の違いといえよう。
「うへぇ、敵意もなく笑顔で襲われるってのはホラー感満載にゃー、住民全員サイコパスモードってなんてホラゲーにゃ!」
「憎悪や敵意、悪意などといった代物は間違いなく感情そのもの。その感情を奪うという事は、もはやそれは死んでいるのと変わらないよ。だから『動く死体』になった彼らは死んでも構わないのだけど……」
 『Reisender』アウラ(p3x005065)は近くで怯えている『ニャンラトテップ』ネコモ(p3x008783)の姿をちらりと見て、それから義憤に燃える仲間たちに目をやって、今ひとつノりきれていない己を鑑み、小さく息を吐いた。
 興味のない相手を殺すことに躊躇はない。殺さないことも、また遠慮がない。どちらでもいいのだ、彼女の中ではすでに死んでいると割り切れる相手なのだから。だが、仲間達が『不殺』を目指す理由はかなりウェットで、そしてナイーブでもある。自分達の嫌悪を見咎めて近付こうとする市民に気づいた表情に、哀れみだの怒りだのはない。ただ面倒くさいものを見る目だ。
「ピエロ野郎の思惑通りに元市民を殺すのは少し嫌ですね。でも生かしておいたら記憶が残ったりするのもありそうなのも怖いのですが」
「この異界自体が『悪い夢』だ、ここで何が起きたって綺麗サッパリ忘れるだろうぜ。そうじゃねえと、皆殺しに『できなかった』時の対処がキツすぎんだろ」
「見せかけの正義や偽善、それに笑顔も、私は嫌いだ。こんなものに染まったことを覚えているなど、耐えられない……そこまで悪辣だとは思いたくないな」
 『ここにいます』梨尾(p3x000561)の懸念は尤もだ。ワールドイーターの『異界』の影響を軽視できず、さりとて相手の意図を汲む形となることも好ましくはない。Tethと『蒼穹画家』スキャット・セプテット(p3x002941)の思考はともすれば楽観的と言えようが、倒されてなお悪意を振りまく敵だとは考えたくもない、というのもまた然り。
「人を害する痛みも知らず忘れられて笑顔で過ごせる、もしかしたらそれこそは本当に幸せなことかもしれません。ですが私達はそうなるようには作られてはいないんです」
「笑ってさえいればいい、なんて……笑顔は誰かに強制されるものじゃないんだよぉ。これ以上、好きになんてさせないよぉ!」
「ええ、凶行はここで止めます」
 『クィーンとか名前負けでは?』シフォリィ(p3x000174)と『ホワイトカインド』ホワイティ(p3x008115)の表情筋は、およそ笑顔とは無縁のものであった。他の面々もそれぞれ笑顔とは異なったが、2人のそれは無表情を通り越して最早能面と化してしまっている。決意の言葉にこもる情熱とは裏腹に。
「なるほど、ヤツの位置は見えたぜ。ただ、市民達があちこちに群がってやがるからほっといて向かうってのは無理そうだがな」
「いや見つけるの早すぎにゃ!? 探すだけで一苦労になるかと思ってたにゃあ」
 Tethがいつの間にやら飛ばしていた偵察ドローンは、早々にラフィンの位置を捉えていた。だが、街の異常に毒された人々があちこちに溢れかえっているのを見ると、簡単に向かえないのも道理だ。ネコモは屋根伝いに向かおうと考えていたが、スキャットはどうやら違ったらしい。
「次はどう進むかだな。邪魔があるなら壊して進むことも已む無しと考える。無論、先頭に梨尾を据えてだが……」
「出来なくはないですけどそれは乱暴過ぎる気が……」
「まぁでも、建物の方はガンガンなぎ払って視界を良くしまっても構いませんわね!」
「そこまで雑に周囲に被害を与えちゃダメですよ!? できればもう少し穏便に……いえ」
 当然、梨尾本人とシフォリィは即座に異を唱えた。脳筋的なやり方は、ここが仮想世界の、さらに言えば軽々に修復される世界だからこそ通用するものであるが、進軍の都合にも心情的にも気分がいいものではないのである。
 あるのだが、ここでフローレスが同意しているあたりで状況が混沌としてくる。相手の意図通りに人々と戦わねばならぬなら、建物だっていいだろうと。……脳筋がすぎる。シフォリィは反論しつつ、ならどうすべきかを考えた。結論はすぐに出る。自分が身を切るべきなのだ、と。ここで言い争っていたら人々の殺戮の波に巻き込まれてしまう。
「私が全員を飛べるようフォローします。少なくとも、障害物を避ける事はできると思いますが」
「相手は此方の都合などお構いなしに殺し合うので、殺さない程度に痛めつけて回らないといけない、と」
 シフォリィの提案に大仰に頷いたアウラの言葉に、一同は逡巡してから、重々しい頷きを返した。放っておいても殺し合う。殺さぬ程度に痛めつけた輩は、別の誰かが殺すかもしれない。なれば、見える範囲だけでも皆倒してしまわねば危険だ。
(……なんともまあ、お優しい人達で)
 アウラは人々の生死など、依頼達成に関係ないならどうでもよかった。生かす道を模索しているのは、そうした方が敵にとって不都合だからにすぎない。
「飛べるのなら話は早いですわ! 足元の人々を蹴散らしつつ前に進んでいくのですわ!」
 フローレスの勇ましい言葉を背に、梨尾を先頭としたイレギュラーズの一団は空を駆ける。それを見た人々は何事かを口にしあい、指差しながら手に手に持った物を投げつけて地面へと落としにかかる。時折ナイフや鈍器のたぐいが鈍い軌道を描いて地面に向かい、別の人間を襲う様も、それによって逃れ得ぬ死が現れることも必定であり……総ての死から人々を遠ざけることの困難さを彼らはまざまざと見せつけられることとなった。
「死ぬ時は死ぬと割り切らなきゃいけなさそうですね。全く自分から死にに行くなんて面倒な……」
「仕方ないよぉ、わたし達ができる限り殺さないようにしないとねぇ。あいつの近くにいる人達はなおさら」
 アウラは自ら死へと向かう人々の有様に辟易しつつ、しかし任務には忠実に、と弾丸を叩き込む。周囲を殺さぬ程度に切り払うホワイティも市民の姿には少しばかり思うところあったが、総てを止められるなどとは思っていまい。割り切るべきところは、割り切らねばならぬ。
「竜巻猫風脚……っとと、目が回るにゃ、空飛びながらは危ないにゃ」
「バランス以外にも危ないところがいっぱいある気がしますけどね!」
 ネコモは周囲を蹴りで蹴散らしながらフラフラと空を飛ぶ。時折屋根に降り立ち遮蔽をとったり工夫を続けるが、シフォリィはそれどころじゃない『危険』を感じていた。総て口にしないあたりが利口である。
「アナタ方はワタクシの活躍を見ていなさい。この威光には誰も逆らえないでしょう!」
 フローレスは周囲へと光を放ち、次々と市民をなぎ倒していく。彼女に倒された人々はしかし、作り物ではない笑みを浮かべているようにすら見えた。投擲物の巻き添えで死ぬ者は少々いたかもしれないが、されど地上に降りて戦うよりはだいぶマシだったかもしれず。
 やがて、一同はゆっくりと歩き回り笑顔を振りまくピエロ……ラフィン・ヘイトレスの影を掴むことに成功するのだ。


「おやおや、今日は元気なお客さんがお出でなのですねぇ? 笑顔だけの街でそんなにカリカリしていちゃだめですよぉ?」
「陽光の一撃を受けてみろ……!」
「…………」
 ラフィンがニコニコと、というよりニタニタといった様相で笑みを見せると、ホワイティは聞く耳持たずといった様子でサンライズソードを掲げ、激しい炎とともに叩きつける。ラフィン自身の実力は低いのか、甘んじて受けた彼は炎に包まれる。
 梨尾は間髪入れずその身めがけ色合いの異なる炎を投げかけ、治癒を遅らせようと試みた。明らかにホワイティのものとは存在の圧力が違うそれは、ほんの僅か、相手の表情を歪める。
「もうおかわりは無しだぜ、クソ野郎!」
「困りますね、それはぁ。私はもっともっとこの世界で生まれかけた憎悪を摘み取り、皆さんによりよい笑顔をみせてほしいのですから!」
「アナタは悪い感情ばかり食べたことで、よい感情というものを全く召し上がっておりませんわね? それが……敗因になりますのよ!」
 Tethの放った雷撃を風船細工で受け止めたラフィンは、炎の中でなお笑顔だ。その姿は不気味ですらあるが、さりとて無傷とは言い難い。風船が割れた場所にまった紫電は、たしかに彼の腕にも通じている。フローレスが彼の間合いに敢えて入り閃光を放った。Tethといいフローレスといいホワイティといい、戦場の照度がとんでもないことになっているのだが、されど周囲の人々は笑顔を貼り付けたままイレギュラーズめがけ者を投げ、長柄の道具を叩きつけようとする。人の波に揉まれぬだけ、一同は幸運だったといえよう。
「奏でよう、極彩の旋律。鍵盤を叩く指に魂を込め、フィニッシュを描く。――ワールドイーターの鎮魂歌だ!」
「やーいやーい、笑ってばかりで怒れもしないようなヘタレが戦えるのかにゃ? 逃げ回るのが得意なんじゃないかにゃ? ん?」
 スキャットが奏でる音楽が、ネコモが放つ挑発が、じわじわとラフィンに対し不調を重ねていく。これが続けば、決してラフィンも無事では済むまい。……無論、彼の反撃をまともに受ける距離にあった近接班はたまったものではないが、さりとてある程度の覚悟はしている面々だ。耐えきれないとはよもや言うまい。
 問題があるとすれば、その一撃をまともに受けるのが一同の足元、そしてラフィンの周囲を取り巻く人々であること。
 彼らはイレギュラーズのように頑健ではなく、悪意に晒されればまたたく間に命を落とすということだ。
「さてさてラフィン君、君は負の感情を食らってきた。その体の中は沢山の負の感情を内包している事だろう……それで? その君自身はどうなのかな?」
 アウラのはなった追尾弾がラフィンを捉えるのと、何かが揺れる音がしたのとはほぼ同時。
 炎が晴れていく中から放たれた大音声は、周囲の人々の死体を量産しながらもイレギュラーズに多大な傷を生み出していく。
「この威力、この範囲……受けた傷に比例して威力が増える上に、再生させた魂の数でも力を増している……?」
 シフォリィは治療に徹し、仲間達の状況を確認する。そのチートじみた事態が、天秤が傾く度に増大していくなど理解し難い。そして、彼が生きている限り周囲に集まる人々を巻き込んで殺していく――『道程』は気遣っていても、『戦場』までは心得ていなかった。嗚呼、どうにも苛立たしい事実!
「知ったことか……! 命を懸けてでも、お前だけは必ず!」
「ああ、人々を手にかけるのは忍びないが、ここまでおちょくられてはな……!」
 ホワイティとスキャットの目に、強い怒りの感情が浮かぶ。天秤に奪われたものを差し引いても、なお心のうちから燃え上がるそれは彼女らの背を押し、より強い力を与えんとする。魔力が切れた、シフォリィの手が届かない、そんなものは知るかとばかりに、スキャットは自爆スイッチに手をのばす。冗談めかした局地的爆発のあと、彼女は全力で戻ってくる……徒歩で!
「馬鹿馬鹿しい、まったくもって馬鹿馬鹿しい! そんなに怒りたければ黙って心の内に溜め込んで首をくくればよろしい!」
「テメェが奪ったモンはな、なんだかんだで人に必要なモンなんだよ。それらを失った奴等は、テメェみたいな悪意の餌食にしかならねぇ。分かってやってるんだろ?」
「あいつは絶対逃がしちゃあかんにゃ、こんなサイコパス量産バグは絶対消去せねばにゃー!」
 ラフィンの慌てたような声は、スキャットの狂行について、そしてイレギュラーズ全体の採算度外視の生き様への感情からだろう。笑顔ではない、生の感情。それが必要なものだと、彼自身が証明してしまっていた。
 Tethもネコモも、そしてフローレスもそれを嗅ぎ取っている。
「ワタクシ達には人々の歓声がある、好意がある! アナタは奪うばかりで与えなかった! 上に立つ者としての誇りがなっちゃいなかったのですわ!」
「敢えてリアル側の物言いをしてやる。――災厄よ、疾く潰えるべし!」
 光が爆ぜ、敵を打ち据える。炎の刃が周囲ごと焦がす。
 ラフィンの胴が切り分けられた時、世界に確かなヒビが生じ、そして――。


「サイコパスはやっつけたからこれで終わりにゃー、いやー元の街に戻ってよかっ……」
「……た、のかね?」
 ネコモがすっきりした表情で周囲を見ると、今まさに中年男性が慌ててゼスチャー混じりの反論をし、それを少女が糾弾している真っ最中だった。決して真っ当なことをしていなさそうな男であるが、貼り付いた笑顔であるよりは大分マシだ。アウラは彼らのみならず、周囲の喧騒に少なからぬ争いの匂いが混じっていることを肌で感じとっている。これは果たして正しい結果なのだろうか? これを『なんとか』せねば、人の死は減らないのではなかろうか。
「だが、それでも笑っている人々はいる。彼らの笑みには感情が籠もっていて、ちゃんと『意味』がある。見せかけのものではない、心からのものが」
「笑ってるだけじゃ疲れちゃうからねぇ。笑えない時、感情を表に出さなきゃいけないときこそちゃんと出さないとねぇ」
「そうですわ! ホラあの子達! さっきまで喧々諤々の喧嘩をしていたのにもう笑い合ってますわ! 心からぶつからないとわからないこともありますのね!」
 スキャットの言葉にホワイティが同調し、少し離れたところの様子を目ざとく見つけたフローレスが指をさす。人を指でさすものではないが、彼女の気持ちもわかろうというものだ。『喧嘩するほどなんとやら』を眼前で繰り広げられて、微笑ましく思わぬ者は普通、いない。
「この様子だと、異界の時の記憶はなさそうだね。……よかった……」
「まあ、そりゃな。そうでもなければ、遠慮なく怒鳴り合ったりキレ散らかしたりはしねえだろ。下手打ってすぐに殺されそうなんてゴメンだぜ」
「人を害する痛みを分かっているからこそ、適切な距離感や感情の出し方を学ぶ事ができるんです。あんなこと、忘れるくらいで丁度いいですよ」
 梨尾が心からの安堵を見せている姿は、もしかしたらTethには滑稽にすら見えたかも知れない。だが、彼の感情はそれで正しい。彼『は』それが丁度いい。シフォリィは人々の雑踏にまぎれて聞こえる小競り合いも、互いを慮る言葉も等しく尊いと感じた。笑顔だけの世界が本当に実現できるなら、とほんの少しだけ希望を持ったことは心の何処かにしまいながら。

成否

成功

MVP

シフォリィ(p3x000174)
クィーンとか名前負けでは?

状態異常

シフォリィ(p3x000174)[死亡]
クィーンとか名前負けでは?
スキャット・セプテット(p3x002941)[死亡]
切れぬ絆と拭えぬ声音
アウラ(p3x005065)[死亡]
Reisender

あとがき

 総て都合よく、とはいきませんでしたが、それでも皆さんの創意工夫は伝わってきました。
 不殺策は道中ではなかり有効でしたよ、アレ。

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