PandoraPartyProject

シナリオ詳細

悪徳は砂を越え海を越え

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「辞職せよ! 辞職せよ! 辞職せよ! さもなくば殉職せよ!」
 怒号にも似た叫び声が響いている。
 その数たるや、1つや2つならず。100人は下らぬだろうか。
 それはこの町の、自発的に動けるほぼすべての人口に相当しそうでさえある。
 照り付ける陽の光、レンガ造りの道路を埋め尽くし、取り囲むのは、豪奢極まる邸宅である。
 怒号を鳴らす人々の一部が塀を乗り越えようと試みれば、傭兵の銃弾がその人を叩き落とす。
 まだ慈悲があると思えるのは、その弾丸がゴム製のものであることだ。
 今のところ、死人は出ていないようだが、ゴム弾とて当たり所が悪ければ怪我はする。
 落ちる時に打ちどころが悪ければ死ぬだろう。
 そんな危険性を恐れず、人々は怒号を上げながら邸宅を囲っている。


「――おのれ、貴様らのために私がどれだけ……ッ」
 邸宅の中、怒りのままに持っていた灰皿を地面へと叩きつけたのは、恰幅のいい男であった。
 室内は外観からの想像の通りに豪奢に飾り立てられ、調度品の一品とて一般的な民衆では何ヶ月分の給与を注がねばなるまいか。
「それもこれも、あの時の男のせいか……」
 ぎりりと歯ぎしりをする。舌打ち気味に思い出すのは、ある男の顔。
 それは、商人だと名乗ってこの邸宅に入ってきた、眼鏡を付けた人間種の青年だった。
 理知的で穏やかな性格で、こちらも商売として真っ当に交渉した。

 ――だが、その夜だった。『見知った奴隷商から密かに買い受けたその女が、青年によって盗まれたのである』。
 ――美しい女であったし、いい声でなく女でもあったが、『ただそれだけ』であり、男としてもそれぐらいなら気にしなかった。
 ――そう、気にしなかったのである。
 今にして思えば、気にするべきであった。気にしてさえいれば、今回のようなことは起きていないだろう。
「――とはいえ、たかが奴隷一匹、私が何をしようと勝手であろうが!」
 激昂。苛立つ彼は、手慰みとばかりにまた調度品を破壊する。
「私がこの町の発展に、どれだけの金を注ぎ、どれだけの時間をかけてきたか……分からぬのか、愚か者どもめ」
 やっと我に返った男は荒い息を吐き、椅子に座るや背もたれにのしかかり、ぎしっと音を立てた。


「さて皆様、お集まりいただきありがとうございます。
 皆様、ラサの南東部の海辺の町へ行っていただけませんか?」
 そう言って情報屋のアナイスが声をかけてきた。
 その隣には、眼鏡をかけた人間種の青年が立っている。
 風貌や隙の無い所作を見るに、恐らくは傭兵か。
「実はラサの南東、海沿いに町があるのです。
 沿岸沿いという事もあり、近頃は発展著しいのですが……」
 何かを渋るような、残念そうな表情を浮かべて、アナイスは君達に視線を向ける。
「この町を長らく統治し、安定した政権を築いていた現職の町長があるスキャンダルに燃えています。
 政治家としては素晴らしい辣腕を振るって統治初年度から見れば著しく発展させたそうなんです」
 その言い方であれば、まるで『スキャンダル』とは縁遠そうであった。
「ここからは私が話を継ぎましょうか。ハンノと申します」
 眼鏡を抑えたハンノは君達へと微笑みかけてくると。
「さて、早速ですが。件の彼は確かに政治家として優秀なのです。
 ただその裏では『少々よろしくない傭兵と商人から奴隷を買っている人物』でした。
 奴隷を買うこと自体は個人的考えはともかく、それそのものを否定はできません。
 問題は、『質が悪い』こと。数々の犯罪行為に手を染めている彼らに手を届かせるには、この男から情報やら証拠を掴むべき、と考えています」
 穏やかに笑みを浮かべる彼――ハンノは整然と見解を述べる。
「本来ならば、うち――アイベンシュッツ傭兵団が受けた仕事。
 最後までこちらで受け持つべきなのですが。
 私達は一度目の接触で想定以上に劣悪な環境にいた子供達を救い出す必要があると判断してそちらを優先しました。
 このため、敵に顔を見られているのですよ。
 他の傭兵に仕事をやって大きい顔されるのは気に食いませんが、皆さんであれば構いません。
 ここは1つ、貸しを作ると思ってお願いできませんか?」
 そう言って彼は穏やかに笑みを向けてきた。
「それで、私達?」
 藤野 蛍(p3p003861)の言葉にハンノは頷いて。
「以前、私達がちょっとしたトラブルを終わらせた後、お二人から少しばかりお話を戴きましたから」
「色宝の時に来るかと思ったが、そちらは来なかったな、そういえば」
 ラダ・ジグリ(p3p000271)の言葉に、ハンノは少しだけ苦笑いを浮かべ。
「それに関しては、こちらはこちらで少しばかり大きな仕事を抱えておりましてね……申し訳ないのですが」
 少しばかり申し訳なさそうにしつつも、こほん、と一つ咳払いをして。
「あまり関係のない話をしてしまいましたね。
 さて、お願いできますか?」
 真剣な面持ちとなって、ハンノが君達を見る。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 悪徳商人と通じていたらしい商人兼町長をぶちのめすお話になります。

●オーダー
【1】『業火の辣腕』ブレージの捕縛
【2】犯罪の証拠の回収


●フィールドデータ
 ラサに存在する海沿いの町、そこにある豪奢な邸宅です。
 邸宅の中に入るまではアイベンシュッツ傭兵団の道案内があり、スムーズに行われます。

 中は豪奢に飾り立てられた調度品の数々が出迎えてきます。
 たくさんの部屋がありますが、多くは空き部屋です。
 ブレージは邸宅の書斎にいます。
 窓から外が見える位置におり、外の様子をしきりに見ては腹を立てています。
 邸宅の中にはほとんど人気がなく、ちらほら使用人がいる他には警戒すべきはブレージのみです。

●エネミーデータ
・『業火の辣腕』ブレージ
 今回の捕縛対象。恰幅のいい壮年の男性です。
 政治センス、特に経済的な才能は高く、ド田舎の貧相な町を裕福な都市へ育て上げました。
 その一方(あるいはそれほどの精力ゆえか)、裏では奴隷を多く買い求め、その欲望を発散していました。

 二つ名に違わず、【火炎】系列の魔術を用いる魔術師である一方、
 恰幅の良さに違わぬ近接戦闘能力を持ちます。

・『老練なる』フォルクマール
 ブレージ配下の執事長。傭兵出身であり、油断ならぬ実力者です。
 腰に剣を佩いており、ブレージの部屋の外にて万一の備えを行なっています。
 物攻、反応、EXAが高めの手数型です。

・『堅牢なる』アポロニア
 ブレージ配下のメイド風の女性です。長剣と盾を装備しています。
 露出の多いメイド服を着ているように見えて、そのメイド服が金属製の鎧のようです。
 物攻、防技に秀で、多数戦闘用の防衛戦闘に長けた範囲攻撃型です。
 皆さんの邸宅突入とほぼ同時、念のために部屋の中の守りを固めるために戻ってきます。

・その他使用人×6
 その他の使用人たち。
 戦闘能力はありませんが、皆さんを視認すれば悲鳴ないしは警告の声の1つや2つは上げるでしょう。
 不殺なり気絶させるなりして潜り抜ける必要があります。

●NPCデータ
・アイベンシュッツ傭兵団
 皆さんを邸宅まで道案内してくれます。
 本来ならば自分達で請け負っていたしごとでしたが
 邸宅の中に入ってから、想定以上に劣悪な環境の奴隷が多かったため、そちらの救出を優先。
 それにより顔が知られたため、別口を探して皆さんにお願いすることにしたとのこと。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 悪徳は砂を越え海を越え完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年12月13日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
ロゼット=テイ(p3p004150)
砂漠に燈る智恵
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇
シオン・シズリー(p3p010236)
餓狼

リプレイ


 ――政治とは清い水だけで構成されている訳ではない。
 清濁がある。ちょっとくらい『問題アリ』だとしても、全体として街を発展させてくれたほうが良いに決まってる――少なくとも『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)はそう思考を抱いており。
「ブレージってヤツに関しちゃ運がなかったな、としか言えねえな。
 あるいは、油断があったか……ま、ただよ。『ちょっとくらい』つってもよ。
 ――奴隷を欲望の捌け口にしてるってーのは気に入らねえ」
「……ラサにも色んな人がいるもの。こういう事もままあるわよね――
 だからと言って見逃すなんて事考えていないけれど、ね?」
 が。同時にその問題にも『種類』はあるものだと。
 『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)もその意思に同調するものだ。ラサには商人から傭兵から赤い髪のお方から色んな者がいれば……時にはこういう人種もいるのだとう、と。
 なにはともあれバレてしまったのが運のツキ。
 書斎を目指して歩を進めるものだ――アイベンシュッツ傭兵団の案内で邸宅に侵入すれば優れし耳にてシオンは周囲を窺い、エルスは暗きを見通す目で隅から隅まで覗き込んで。
「このようなことに手を染めなければ、『英雄』のままでいられたでしょうに。欲で身を滅ぼすのが人というもの、と言われてしまえばそれまでですが……立場を得た後での寄り添ってくる悪魔の囁きに抗えませんでしたか。もしくは元々『そう』だったのかもしれませんが」
「ふむ。来る前に少しばかり町の様子を見てみたが……領主としての手腕は本物だな。ついでに自分の欲望もうまく管理できてれば完璧だったが……そうそうなんでもできる奴は滅多にいない、か」
 同時。『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)と『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)も領主に対する愚かさを思案しながら周囲の警戒を行う。シオンと同様に優れた感覚を持つラダは警戒網を張り巡らせ。
 そんな彼女らの後を追うように一歩離れた位置にサルヴェナーズはいる。
 彼女は使用人達への即時対応をせんとしているのだ――悲鳴を挙げられては厄介と。
「為政者に清廉さが求められるのは常ですが。しかし奴隷制自体を否定しない地でこの暴動……流石に過激に過ぎるような。或いは、かつての首輪事件もあって過敏に……? それとも何か別の要因が……」
 そして更に先行する形で赴いているのは『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)だ。いずれにせよ本件自体に否はありませんが、と紡ぎながら彼女もまた書斎を目指す。小さな、鼠型のファミリアーを先行させて偵察さながら、だ。
 思う所はある、が。それはそれ、これはこれとまずは目前の事態を片すを優先し。
 『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)と歩を共にしながら往くものだ。
「性質が悪いからこそ政治家として辣腕を振るえたのかしら……ま、まぁそれはともかく。町の人達の怒りの分も乗せて、正義の剣を町長さんの胸元にきっちり届かせてやりましょ!」
 一方の蛍は己が気配を殺しながら進んで往く。
 足音が響かぬ様に。潜入の心得を知る彼女の才知は見事な程に……と、その時。
「しっ! 待って、この先……歩く気配を感じるわ。もしかして使用人の人かしら……?」
「――執事長などとすると、あまりにも隙がありますね。恐らくそうでしょう」
 蛍と珠緒がほぼ同時に勘付く。人の気配がする――と。
 強者の気配でなければ只の使用人であろう。ならばと、息を合わせて。
 一気に制圧する。悲鳴を挙げさせる暇も、こちらを認識させる隙も与えず。
 目的たる――『業火の辣腕』とやらへと辿り着く為に。


 金がなくなって、砂漠に追い出された貧民の死体には見向きもしないのにね――
 『言霊使い』ロゼット=テイ(p3p004150)は思考する。暴動を起こしている者達に。
 なんとも都合のいいことを言う連中だと。
 お前達は普段路傍の石を見ても何も思わぬ癖に。一瞥はおろか認識すらするまいに。
「成功者蹴落とすのは大好きだものね、どいつもこいつも」
 派手な花に惹かれて集まる屑虫共が――
 まぁ、いい。と彼女が見据えるのは声を挙げる前に取り押さえた使用人の一人だ。
 気絶し、拘束されている。そういった事は仲間達に任せていた訳だが――
「見つからないのが一番だが、見つかっちまったら仕方がねェ。ま、運が無かったと諦めるこったな」
 見つからぬ事こそが此方にとっても、彼方にとっても幸運だったろうと二重の意味で『最期に映した男』キドー(p3p000244)は思うものだ。見つからなければ痛みもなく、そしてこちらも余計な手間を掛けなくて済んだものを。
 だが、そうなってしまったのなら命は取らねども容赦もしない。
 ラダのゴム弾が彼方より飛来し脳天に直撃。
 続けざまに珠緒の閃光も浴びせられれば――崩れる態勢。
 直後。その間隙を逃さずシオンの蹴撃が使用人に一閃する。
 手を地に。一点にて体を支え体重の全てを足先に。
 体の軸を回し、その顎の筋を撫ぜればそれだけで脳を揺らすものだ
「悪いが、少しばかり寝てもらうぜ――起きた時には全部終わってるからよ」
 派手に当てる必要はなく真実撫ぜる様に。
 起きる脳震盪が意識を奪い――そのまま近場の部屋へと放り込んでやろう。
 後から来た使用人に目撃されても勘付かれても面倒くさいのだから。
「ええ――さぁ。お眠りください。一時の夢の中に……すみません。来たばかりでどうにも不案内で……旦那様へ報告せねばならぬことがありますので、書斎までの道筋を教えていただいても宜しいでしょうか?」
 そして。その渦中で微かに意識が残る様な者があらば――サルヴェナーズの魔眼が向けられる。まるで新人の使用人にでも会った場面とばかりに……脳髄を困惑させ、そのまま揺蕩う世界の中にいてもらおう――
「やれやれ。だが……随分と進む事が出来ているな。恐らくそろそろの筈だが」
「――と。噂をすれば、あれがフォルクマールかしら?」
 そしてゴム弾を回収しつつ再度進むラダ――と、その時。
 エルスの目が奥の部屋を捉えた。何者かが一人、部屋の外で立っている。
 只者ではない。隙の見えぬその佇まいたるや一朝一夕で身に着いたものではあるまい……あれが情報にあったフォルクマールだろうか。で、あれば中にはブレージとアポロニアもいる事であろう。
「あの執事さん、只者じゃなさそうね。まぁ、負けるつもりはさらさらないけど。
 それじゃ行きましょ――珠緒さん!」
「ええ、蛍さん。一気呵成に参りましょう!」
 であれば。フォルクマールへと撃を成すは――蛍と珠緒だ。
 共に往くその連携は刹那の瞬きすら許さぬ。奇襲……そんな言葉では生ぬるい程の超速。珠緒の一足はまるで光へと到達せんばかりの速度となりて。その速さに導かれる蛍もまた執事長の懐へと――神速が如く。
「ぬっ――! 侵入者、だと……!?」
 居合一閃。反射の領域で剣を抜刀したフォルクマールだ、が。
「負けないよ……退かないよッ! だってボクには……!」
 ――珠緒さんがいてくれるから。
 どこまでだって歩んで行けるんだと斬撃を躱す――
 逸らし、抑え、受けようとも身をもって耐えきり凌ぐのだと。
 同時。イレギュラーズ達が突入する。
 如何に執事長が強さを秘めていようとも珠緒らを相手にしつつ他の者達まで、とはいかない。彼女らが彼を抑えている間に本命を確保するのだと。
「むっ!? な、なんだ貴様らは――外の馬鹿共が踏み込んできたか!!?」
「フォルクマールは任せたぞ……私達は、ブレージを!」
「邪魔するぜクソ野郎。年貢の納め時ってやつだ――精々自分の行いでも思い返してな!」
 ここまで可能な限り隠密で来たが故か、ブレージは驚愕の色を顔に出す。その焦燥は突入したラダやシオンの瞳にしかと映るものだ……彼女らは書斎の中の状況を素早く把握。その中でラダは近くの本棚の影へと踏み込み、銃を構えて――
 瞬間。割り込む影があるものだ。
 それはメイド。いやメイド風の護衛である――
「へぇ。アンタがアポロニアって奴かい。ちょっくら相手してもらおうかァ!」
「下賤な……近づけはさせませんよ」
 アポロニアだ。ブレージの退路を断つべく突入したキドーだが――割り込んで来た彼女をまずは相手にするべきかと思考すれば、狙いを変える。放つは爆弾。陶製の器に魔光を封じた特別性であり――手榴弾の様に降り注がせて、アポロニアを削らんとするのだ。
 その防を貫きて援護とせんと。さすればラダもアポロニアを射線に捉え、放つ。
 絞り上げた引き金が一撃を形成。敵の身を穿つ雨の如き銃弾が降り注ぎて。
 ――戦闘が始まる。
 商人を護らんとする者と。その守りを打ち砕かんとする――両者の戦いが。


「なあ、アンタはなんでアイツに仕えてんだ? それほど執着する様な主かね?」
「金かい? 名誉? それとも忠義かな?
 少なくとも後者は――この傭兵と商人の国には似つかわしくないけれども」
 シオンとロゼットは言を紡ぐ。アポロニアへ、何故此処にいるのかと。
 何か恩義でもあるのか。それとも甘い汁を共に吸う仲なのか。
「まあ何にせよ、引き際は見極めといたほうがいいぜ。『そいつ』にどこまで賭ける価値があるかな!」
「さて……正門以外より訪れた方へ語る舌はないものです。ご退場願いましょうか」
「そうかい。ま。悪いけど、押し通るよ。
 とっとと尻尾を巻いて逃げるのをお勧めするけどね」
 アポロニアへとシオンの左手が炸裂。接触した個所の鎧を無視するように――撃を成して。更にロゼットも引き寄せる様にアポロニアを誘導せんとするものだ。
「市民の見えない影で他者を蹂躙するのが本性なのかしら? 器が知れた者ね」
「黙れ! 小娘が何を偉そうに……貴様も地下牢の一人にしてくれようかッ!」
 直後、エルスが跳躍する。
 アポロニアへと呪いを刻む様な一撃を成しながらも言葉はブレージへ。
 放たれる炎の魔術。警戒していたエルスは振り払うように鎌で一閃すれ、ば。
「強欲。どこまでも深い、渦の様に……これ以上付き合われるのはお勧めできませんがね」
 サルヴェナーズが更にアポロニアの守りを崩すべく、魔眼による魔術を一つ。
 それは催眠の一端。その脳髄に、思考に靄を掛けて判断を乱す彼女の秘術。
「くっ――!」
 されば。その靄を晴らす様に繰り出す長剣。
 盾で視界を切りながらも――気配のみを探りてアポロニアは数で勝るイレギュラーズへ抗うものだ。斬撃数閃。場を制圧する様に振るうソレらがイレギュラーズへと襲い掛かり。
 更にはブレージも炎の魔術をより強力に紡ぎあげるものである。
 場が書斎であれば周囲は本だらけ。うっかりとすれば引火の危険もある、が。
 しかし些事よ。臆して勝てる相手ではないとブレージも分かっていれば――投じる。
 炎の玉を。アポロニアが抑えている者らへと、まっすぐ狙って。
「ああ――やれやれ。こういう時、どうしても一山幾らだったか……と考えてしまうのは、はたして悪い癖なのか、それとも商人としての性というべきなのか」
 であれば直後。ブレージの放った炎に巻き込まれ焼かれる本やソファなどに思考を寄せるのはラダだ。『壁』が燃え尽きようと次に移ればいいだけなのだが、ああ、全く。一体幾ら分が灰になったかは考えないようにしようかと、頭を振りながら再度狙いを。
 連射する銃弾の嵐がアポロニアの足を穿ちて彼女の戦闘力を徐々に奪うものだ。
 如何に防衛に優れていようとも六体二では押されて然るべきものである。
 或いは彼らの侵入に早期に気付けていればフォルクナールなりと連動してもう少しばかり有利に戦えたかもしれないが……イレギュラーズらの徹底した隠密ぶりが成果を齎していて。
「ぐっ……しかし、まだです」
 それでも、と。アポロニアはキドーの放つ青白き一閃を受けつつも――しかしそのまま彼を強引に弾き飛ばすように盾を振るいブレージを護らんとするものだ。やはり彼女がいてはブレージへの攻撃が薄く……故に。
「ったくよ。ああ分かったさ――後はもう、ゆっくりと牢屋で後悔しな。
 付いちゃいけねぇ奴に考えもせず付き従ってた――事をなッ!」
 シオンの蹴りが炸裂する。キドーを吹き飛ばした一瞬に見えた隙を逃さず。
 踵を落とす一撃がアポロニアの首筋へと――
 こ、ふっ。と零れた息があったかと思えば彼女の身が床へと一直線。
 倒れ伏す。さぁならばあとはブレージのみ――!
「ぐ、ぐぐ! フォルクマール、何をしているか!」
 故。思わずブレージは叫ぶものだ――が。
 扉の前でも激戦が繰り広げられていた。蛍と珠緒である。
 超速における戦いは瞬きの暇すら惜しい。手数で攻め立てるフォルクマール――に対し、蛍と珠緒は互いの信頼からなる連鎖的行動で常に撃を。どちらも守勢には回らぬ。守勢に回ればフォルクマールの手数に押されるやもしれぬし、彼にとっても主人の援護へと赴く為には。
「――見切った」
 が。その互いの攻勢にも――遂に終焉が訪れるものだ。
 幾度の斬撃。その中で見据えた刹那の見切りが、蛍を捉えたのである。
 繰り出される一閃。それは正に神速の如く……
 しかし。
「……ボクがただ耐えてるだけだと思ったら大間違いよ」
 しかし。それが最大の隙となった。
 フォクルマールからの一撃――蛍は予測していた事。
 いやむしろ注意を引く様に只管に我が身で受け止めていただけの話なのだ。
 故に。全霊たる一撃が紡がれたのであれば――

「これにて、仕舞です。……時を感じることも、ないでしょう」

 珠緒が、往く。
 時間さえ置き去りにする程の加速と共に。
 完全にフォルクマールの意識の外から――襲来。
 蛍の紡いだ時の中で、珠緒がその軌跡を駆け抜けていく。
 ――一撃一閃。
 完全に防御も間に合わぬたった一瞬の間隙を縫いて――フォルクマールが、打ち倒れる
 一人では難敵だったやもしれないが蛍と合わせたこの時の狭間で。
 打ち破れぬ敵がいるものか――
「なっ、ば、馬鹿な……!」
「護衛達も倒れたわね――なら、もうこれで終わり、観念なさい」
 直後。驚愕するブレージへとエルスが突き進む。
 最早彼を護る盾も矛もあらず。『何故だ、何故だ何故――!』と困惑する彼、へ。
「まあ、奴隷についてはどうでもいいんだ。
 砂漠の掟は金と力だしね。自由がなくとも死ぬよりマシだ」
 ロゼットが最後の言葉を紡ぐ。
 ではなぜ邪魔をするかって? ――知れた事。
「ろくでもない奴と関わったからだよ。
 足跡探る為だけに潰されるんだ――有能なのに、勿体ない事だね」
 真っ当な商人と取引していればよかったのだ。
 分不相応な夢を見なければよかった。内から這いずる欲望のままに行動しなければ。
「もう少し慎ましかだったなら変態だろうがなんだろうが、見て見ぬふり位はしてくれただろうね、だれも、彼も。でも『外』を見れば分かるだろう――もう誰もその段階にはないんだよ。手狭く使い潰さずやってりゃあ良かったのに」
 取引相手を見誤った……そんな馬鹿は。
「此処では死んで当然さ――分かってるだろ?」
「――黙れェェェッ!!」
 なんで間違っちゃったんだい?
 そう、失望する様な視線を向けるロゼット。追い詰められていたブレージにとっては――彼女がせせら笑っていたようにも感じたかもしれぬ。紡がれる炎が彼女へと叩きつけられ……しかし最早戦況を覆せる様な状況ではなく。
 やがて制圧される。炎の魔術も紡げぬ様に。格闘術も――扱えぬ様に。
「ふぅ。よし、これで大丈夫そうだな……後は、例のものを探し出すだけか」
「金庫や鍵のかかった棚……ああもしかしたら隠されている部屋などもあるかもしれませんね。重点的に探していきましょう――何。障害を排除したのなら、十分に時間はあります」
 そして探し出す。あらゆる『証拠』を……
 契約書や証書の類が鉄板かな? とラダは荒れた書斎の中を探し。サルヴェナーズもまた、厳重に保管されている場所がないかと捜索し。
「……知ってる? SPYって尋問拷問にも詳しいのよ。その体で試してみる?
 おや。丁度良くこんな所に鋏が……」
 と、その時――蛍の一声。
 机の上にあった鋏を手に取り顔には笑みを張り付けて。
 さぁ――OHANASHIしましょうか?

 ……やがて。ブレージがどうなったのかは、さて。

 しかし彼が吐こうと吐かまいと――証拠品さえ見つかれば同じことだ。
 故、イレギュラーズ達もやがて撤退する。と、その途上で。
「……あら、海。海なんて――珍しいわね」
 エルスは言葉を零す。この砂漠の国では物珍しい……海の、潮風に対して。
「……ああ、ラサの海なんて珍しくって。こういう町もあるんだなって……ここをもう少し整備出来たなら水に困ってる国全体をどうにか出来ないかしらとか。そんな……ね。
 だってラサには水に困ってる人は沢山いるもの。
 ……もう少し。この国が……民が、盗みとか罪でその手を汚さずとも生きていけるようになる道はないものかと。どうしても彼女は――思案してしまうものだ。
 大き過ぎる理想かもしれないけれど。
「辛そうなラサの方々を見てきたから、ね?」
 進み続けた先に、きっと夢の果てはあるのだと――彼女は信じているから。

成否

成功

MVP

藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護

状態異常

なし

あとがき

 この度、代筆を担当しました茶零四です。お待たせしました。
 ブレージは捕縛され、証拠品も確保。やがてはブレージに然るべき時がくるのかもしれませんね。
 ありがとうございました!

PAGETOPPAGEBOTTOM