PandoraPartyProject

シナリオ詳細

追いついてきた過去

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●招かれざるもの
 きらきらの光が木々の合間を差している。
 美しい深緑の大樹の並ぶアルティオ=エルムの森の中を、幼い2人の幻想種が走っていた。
「ノエル~早く早く~!」
「待ちなよ、ユニス!」
 先を行くのは、ユニスと呼ばれた少女。
 後を走るのは、ノエルと呼ばれた少年。
 二人とも外見は人間種でいうところの10歳程度であろうか。
 幻想種であることを加味すればもう少し上なのかもしれないが、それでも成人しているという事はないだろう。
「もう、遅いよ!」
 可愛らしく頬を膨らませて振り返ったユニスが、そのまま後ろ向きで歩き出し――木の根っこに引っかかってコロリとこけた。
「ユニス!? だ、大丈夫!?」
「いたい~~」
 転んだときに尻もちでもついたのだろう。少女が声を上げる。
「前向いて歩かないと危ないって」
 そう言ってノエルが手を差し伸べれば、ユニスはその手を取って立ち上がる。
「それは、分かってるけど~」
 お尻の汚れを叩いて改めてしょんぼりするユニスに、ノエルが少し照れたように頬を掻きながら。
「でも、その、ごめん、僕がもっと早く歩いてたら、君がコケることもなかったよね」
「そうだよ! 責任取ってよ!」
 拗ねたように怒っているユニスに、ノエルも笑う。
 本気で怒ってるんじゃないと分かってるからこそ、もう一度、ゴメンと謝って手を取った。
「で、もうすぐなんだっけ?」
「うんそうだよ、この先を行ったら、綺麗な花が咲いてるんだ」
「じゃあ、手を繋いでいこうか」
 そう言って、2人は笑いあうと、手を取り合って仲良く歩き出した。

●離別は突然に
 そうして、少年と少女が2人、ゆっくりと脚を進めていく。
 1つ角を曲がり、4つめの角を曲がって。
 そこに広がっているのは、綺麗な白色の花。
 純白の花は鮮やかに咲き誇っている。
「……誰ですか?」
 落ち着いた声だった。声色的に女であろう。
 2人は突然聞こえたその声にびっくりして、声の方を向いた。
 しかし、そこには誰もいない。
 不思議に思った二人が視線をあげると、木の上、枝の1つに腰かける女性がいた。
 黄緑色の長髪が、緩やかに風になびいている。
 その双眸は美しい黄緑色なのに――どうしてだろうか、どことなく昏い印象を受けた。
「私はユニス! こっちはノエル! お姉さんは?」
「私? 私は――――」
「え?」
 確かに、彼女は名前を言ったはず。
 風なんて一度も吹いていないのに。
 まるで風にかき消されたように女性の名前だけが聞こえなかった。
 思わず声に漏らして瞬きをしたら、そこに女性はいなかった。
「あれ?」
 首を傾げたユニスと顔を見合わせれば、彼女の顔が驚きに包まれ――ノエルは意識を失った。

――――――――
――――――
――――
――

 意識を取り戻した時、ユニスは既に村の中にいた。
「助けて――助けて、お父さん、お母さん――ノエルが、ノエルが……!」
 息も絶え絶え、少女は自分の家へと走り抜ける。
 扉を開ける手が、今までで一番力が入っていた。
 驚いて顔を上げた母が叱ろうとしたのが分かったが、直ぐにその表情が怪訝そうに変わる。
「ノエルが――ノエルが、連れていかれちゃった!!」
「何を言ってるの、ユニス。落ち着きなさいな」
 落ち着かせようと、頭を撫でてくれた母に、『そんなことしてる場合じゃない!』って言いたくて。
 でも、言えなかった。母の眼は酷く真剣で、だから――私は、私は何も言えなかった。

●見てはならぬモノ
 ――あれから、5年以上の月日が流れている。あの日ノエルが消えてから、ユニスは故郷を出た。
 あの村にいてもノエルが見つかるなんて思えなかったし、そもそもノエルの両親はユニスの事を恨んでいた。
 両親はどこか遠くに引っ越して、ユニスは違う村でレンジャーになった。
 だからもう、その月日の分だけ、両親にだって会ってない。
 それでもよかった。それはノエルから両親を奪ったユニス自身への罰でもあったから。
 大切な幼馴染から家族を奪ったのに、自分だけ家族一緒にのうのうと暮らせるほど、ユニスは能天気じゃいられなかった。

「ブランシュ、お疲れ様」
 早番だった同僚に、そう声をかける。
「ありがとう。貴女はこれからだっけ?」
「うん。今から見回りに行ってくる」
「それなんだけど……実は、隊長から一緒に遠征に行ってほしいって話があるの」
「遠征?」
 遠征――とはいっても、厳密にはどこかを攻めたりとかじゃない。
 ただ単に、配属されている区画から離れた所への調査するだけのこと。
 その名称だって、うちの隊でだけの言葉遊びみたいなものだ。
「良いけど、どこへ?」
「えぇっと……なんでもね、すごい綺麗な白い花が咲いてる――」
 思わず、手が止まった。
 いや、別にそれだけならどこにだってあるはずだ。
 ただ白い花なぞ、珍しくない。
 だから――
「なんでもその花、その辺りでは見たことないのに、いつの間にか開いていたそうでね」
「ブランシュ、その場所だけ教えて。貴女はここにいてほしい」
「え?」
「それから……ローレットの人達を、呼んで。きっと、あの人たちなら何とかしてくれる気がする」
 言うや、場所だけ聞いてユニスは跳ねるように立ちあがり、その場所へと走り出した。

 そして――そこで、私は。
「――ユニス、きれいになったね」
 私に微笑みかける消えたはずの幼馴染を見る羽目になった。
 そして――彼の周囲には3匹の白蛇。
 その1匹1匹が3mほどあろうか。胡乱な蛇の眼はこちらへの敵意に燃えている。

GMコメント

こんばんは、春野紅葉です。
早速、詳細をば。

●オーダー
【1】ユニスの救出
【2】状況の調査

【2】に関しては努力目標とします。

●フィールドデータ
 異常大きな一輪の白百合の花が特徴的な、純白の花畑です。
 その中央にノエル、皆さんが到着する近くにユニスがいます。

●エネミーデータ
・『???』ノエル
 くすんだ黒色の髪をした幻想種の青年です。
 ユニス曰く、髪の色が昔より抜けていることを除けば、子供の頃の彼をそのまま成長させた感じ、とのこと。
 5年ほど前に何者かに攫われ、行方不明となっていました。
 口調は穏やかで、優しげでさえありますが、それ故にどこか狂気的です。
 恐らくは獲物を持たぬことから、魔術師タイプでしょう。
 リプレイ開始時の動向は不明ですが、状況的に良からぬことが起ころうとしていると思われます。

 対話を試みるだけならば大丈夫ですが、
 討伐を狙う場合は難易度が1段階上昇することになります。

 白大蛇との関係性も不明ですが、3匹は非常によく懐いている様子。
 ノエルを狙うと白大蛇が庇う可能性などもあります。

・白大蛇×3
 3mほどある巨大な白蛇です。
 歯に猛毒があり仕込まれると【致死毒】【業炎】【痺れ】【麻痺】が生じます。
 また、巨体を生かした薙ぎ払いには【飛】効果があります。
 高めのHP、物攻、防技を有します。

●友軍データ
・ユニス
 いわゆる『迷宮森林警備隊』ではなく、
 迷宮森林内部にてひっそり暮らす小部族の1つが持つ自衛用の部隊に属す少女です。
 かつて5年ほど前にノエルが行方不明になった際の唯一の目撃者であり、生存者でした。
 その後、家族と別れて今暮らしている小部族の下へ移住してきたとのこと。
 何故見逃されたのかは現時点で不明です。

 自衛用部隊に所属するレンジャーだけあり、戦闘能力はあります。
 ただそれでも幼く、実戦経験も少ないためイレギュラーズにはやや及びません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 記された情報は信頼できますが、隠された情報は非常に多くあります。
 不測の事態を警戒して下さい。

  • 追いついてきた過去完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月10日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

リプレイ


 白百合に囲まれた広場の中央、少年が立っている。
 1匹の蛇の顔の下を擽るように撫でるその少年がノエルというのだろう。
(久々の再開かと思ったら、怪しい雰囲気だし大蛇まで連れてるってか……
 当人も何も知らないってなると、マジで背景が掴めねぇな)
 幻想種の少女――ユニスの背中を見て、向かいに立つノエルに視線を向けた『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)は、得体のしれない空気を感じ取っている。
「あんたがユニスって子か? 待たせたッス」
 ユニスは振り返らない。
 向かい合う相手を警戒しているのだろう。
 それを察して、葵は彼女の隣に立った。
「出来るだけオレから離れるな、こっからどうするかはオレ達で見極めるっス」
「イレギュラーズの方、ですか。ありがとうございます、来てくれて」
 ユニスの声色から、安堵がうかがい知れた。
「ユニス、その彼は知り合いかい?」
 ノエルが微笑む。その声色は平静を装うようで、どことなく警戒のような物も感じ取れる。
(突然行方不明になり、時を経て変質した姿で帰ってくる。
 まるで神隠し、チェンジリング……似たような話はあるものですが。
 少なくとも、見た目が消えた『ノエル』本人に見える事だけは間違いないらしい)
 余裕をもって立つノエルの様子を鑑みながら、『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は思案する。
「……貴方は、ユニス様を迎えにいらっしゃったのですか」
 真っすぐにノエルを見据えれば、彼は静かに笑って。
「怪しい雰囲気を持つ司祭のような方。
 今回の再会は偶然だ。僕達は彼女と出会う気はなかった。
 ……出会えたのは、君があの時の花を忘れなかったから……かな?」
 アリシスを見て、しかし。ノエルは直ぐにユニスの方を向いた。
「……それは」
「だよね――この花は僕達が最後に会った時のあの花だ。
 これを覚えていれば、話を聞いてしまえば飛び出してくるしかない……」
 そう言って、ノエルは近くにあった白百合を1つ、自然な動作で手折り――美しき純白は見る見るうちに黒く。
 やがて、ほろほろと落ちていく。
 それが、平常ならざる事態であることは明白だ。
 純白を――『純潔』を、『尊厳』を手折り、『恨み』に『復讐』に変える。
(それだけでも怪しいですが、この一面の花はどう見てもこの地に元々あったようには見えない。
 ……まるで、あの彼岸花のよう)
 豊穣へ誘ったあの花を思い出しながら、アリシスは警戒を解かない。
「えっと……どういう事、なのかな……?
 あっ蛇かわいい……じゃなかった。
 とりあえずこの状況、なんとかしないと……それ以前にどういう事かしっかり見極めないと!」
 困惑しているしきりの『マスターファミリアー』リトル・リリー(p3p000955)はふるふると頭を振って。
 その視線は、敵愾心を見せながらチロチロと舌を出す白い大蛇の方へ。
「えっと……聞きたいことがたくさんあるから、教えてほしい!」
「小さなお嬢さん、何でもどうぞ……ええ、残念ながらお答えできることは少ないでしょうけれど」
 ノエルは紳士的にリリーへと視線を合わせてそう答えた。
「それじゃあ……」
 どれから聞くべきか、リリーはグルグル回る頭で考え始めた。
(あの日ユニスさんが見たものはなんなのか、話を聞いてる限りは何かしら察していたような親御さんの素振り……
 気になる点は残るけど、今は、まず、彼女を守り抜かないとね)
 白百合のサンプルを取ろうと試みた『澱の森の仔』錫蘭 ルフナ(p3p004350)は、先程の事を思う。
 瞬く間に黒へと変わって、ホロホロと落ちたあの姿。
 その変化は、ノエルが触れたからなのか、あるいは『誰が触れようとそうなるもの』なのか。
 密かに1つ手折ってみれば、瞬く間に白百合は黒ずみ、ばらばらにほつれて落ちていく。
(この様子だと、この花はそういうふうに作られたもの……)
 ノエルと初対面のルフナが適当に手折ってもそうなる以上その可能性は高い。
「あぁ。気を付けて。無理に手折ったら、あまり良いことは起きないだろうから」
 ノエルがそう言葉だけ返してくる。
(いなくなったはずのお友達と再会出来てよかったって素直に喜んでていい状況じゃないみたいだね)
 ユニスの方へ近づいた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は、神域を展開して周囲を守りながら、じっと相手の方を見る。
「始めまして、ボクは炎堂焔だよ、キミは?
 凄く綺麗なお花畑だけど、ここで何をしてるの? お散歩っていう感じでもなさそうだけど」
「ご丁寧にどうも。僕はノエル。この花畑の手入れをしてるんだよ」
「手入れってことは……これを作ったのは君なの?」
「正確には、師匠かな……僕は師匠が作った花畑が、根を張るのを見守るだけ」
 のんびりと笑いながら返すノエルの発言に、焔はどこか嫌なものを感じた。
(どうも尋常な存在では無さそうな気配がするんだけど)
 焔の問いに答え、緩やかに微笑むノエルを見ながら、『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は目の前の彼への警戒を解かない。
 ひとまず、周囲に咲き誇る白百合へと、ウィリアムは対話を試みる――が。
(……何も感じない。聞こえてくるのは周囲の森の声……ということはこれは、自然ではない?)
 先にノエル自身が、そしてルフナが見せた白百合の変化を鑑みれば、その推測は容易ではある。
「白百合の花を綺麗だと思っていたけど、この様子を考えるに不気味だね」
 咲き誇る白百合を眺めて『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)呟いた。
 手折った瞬間から黒百合へ姿を変える百合、というのはいくら何でも不気味すぎる。
「色々気になることはあるけど……ユニスお姉さんは連れて行かせないわ!」
 最後に姿を見せた『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)は、そうノエルの方を見て告げると、くるりとユニスの方を見て、ぺこりと頭を下げた。
「ユニスお姉さん、レンジャーさんなのよね?
 だったらルシェと一緒に後ろね!」
「え、ええ、分かったわ」
「ユニスを連れていく? ああ、なるほど。そっちはそう思っているわけか。
 今回はただの偶然だったんだけど。まさか、そこまで警戒されるなんて」
 そう、彼は苦笑する。


「そちらが話し合いを希望なら、少しだけ、この子たちには下がっていてもらおうか」
 ノエルがパチン、と指を鳴らせば、敵愾心を見せる蛇たちがするすると下がっていく。
「えっと……ノエルさん? これまで何をしてたの?」
 考えをまとめたリリーの問いに、ノエルがきょとんとして、少し俯いて考え込んだ。
「何をしてた……何を……うーん……いろいろなところを、見て回ってた?」
 問いかけた言葉への返答は、まさかの疑問形で。
「うん。僕はこれまでの5年間、師匠と時々会いながら、色々なところを旅したんだ。
 深緑を出て、ラサの砂漠を歩いて、幻想に触れて――海を見た。
 その後、この国に帰ってきて、これまで少しの間、師匠に魔術を教わりながら師匠と一緒に活動してたよ」
 向こうも考えを纏めたように、すらすらとそう告げる。
 それが果たして本当なのかは分からない。
 5年もあれば、イレギュラーズでないにしても三ヶ国を渡り歩くことぐらいできるのだろうが。
「じゃあ、そのこと達とはいつから、どうして、一緒にいるの?」
「うん? ああ、この子らか」
 リリーが蛇たちに視線を向けると、再び不思議そうにきょとんとしたノエルが3匹を撫でる。
「もしかして、お姉さんが元々蛇さん達と一緒にいたんじゃないかしら?」
 リリーの問いかけに被せるように、ルシェが声をかける。
「かもしれないね。正確なところは覚えてないけど、多分、僕が師匠と出会って直ぐに与えられたから……それこそ5年だろうね」
 警戒を示すままにノエルの指示に従うように控える3匹に、リリーの瞳は興味がある。
(あそこまで懐いてるの、すごいなぁ……)
 リリーは素直に感心していた。
 どう見ても蛇だが、蛇のそれを凌駕する知性すら感じられる。
「この百合の花はどういうものなんだ?」
 後ろへ下がった蛇への警戒を忘れず、ウィリアムが問えば、ノエルは一番大きい白百合をそっと撫でた。
「これは師匠の実験だよ。どういうものかは知らない。
 僕は、これを育てるように命じられてるだけだから」
 花が折れないように細心の注意を払うノエルの言葉はゆっくりとしたもの。
「ねぇノエルお兄さん! ノエルお兄さんとユニスお姉さんがあったお姉さん、今どこにいるの?」
 ルシェの問いに、ノエルは微笑を崩さず。
「さぁ、どこだろう。きっと、どこかで見ているんじゃないかな?」
 首をかしげて、ノエルはそう答えた。
「そういえば、さっき師匠と言っていたけど、それは一体、誰?」
 ルフナの問いかけは、ほぼ分かっていることを、実際にそうかを確かめるためにしたもの。
 これまでの話で、ほぼ度々出てきては消えるその影は。
「師匠? あぁ――それは」
「――駄目よノエル。それはまだ内緒」
 その声は、突如として聞こえてきた。
 いつの間にかその女(?)はノエルの後ろに姿を見せた。
 そっと彼を抱き寄せるようにして、こちらを見る。
 その刹那、値踏みするような視線を感じて、ぞくりと悪寒が奔る。
 目の前に姿を見せた女(?)は、黄緑色の髪と瞳をしていた。
 その全身からは、驚くほど露骨な殺気が滲む。
 その女が、女であるという確信が、ルフナにはつかなかった。
 いや、見た目は明らかに女だ。
 それは間違いない。
 だが、どこか何か不自然なところがある。
「私達の計画は、まだまだこれからよ、ノエル。そんなに早くネタバレししちゃ、だーめ」
 色っぽく、そっとノエルの唇に人差し指を添えた後、その手を今度はイレギュラーズ側へと突きつける。
「もう、お話はおしまい。また会いましょう。無限の可能性を秘めた子ら」
 その掌に、魔方陣が浮かび――黒百合の花がイレギュラーズの視界を覆いつくした。
 その寸前、女に抱きしめられたノエルが手を伸ばそうとしている――ようにも見えた。
 確実に手を伸ばそうとしたのかは、判別がつく前に黒百合が全てを掻き消していた。
 2人が消えたのと同時、地上に映えた白百合は全て枯れ落ちたかと思えば、景色を塗り替えたようにまるで違う植物が群生する。
 それはさながら、景色そのものを塗り替えていたかのようだった。
「ノエル……!」
 切羽詰まったようなユニスの声が虚しく空を裂いた。


「ユニスさん。白い花と聞いて俺たちを呼んだんだよな?
 ……それほど確かな予感があったのか?」
 イズマが改めて問えば、ユニスは小さく頷いて。
「はい……あの日見た花畑は、これと一緒でした。
 私が、ある日見つけたんです。『昨日まで全く別の花が咲いていた場所に、白百合が咲いてる』って。
 それで、信じないっていうノエルを無理やり連れて行って……」
「まあ、たしかに、昨日までそこにあった花畑が一日で別の物に変わってるなんて事情はそうそうないか」
 項垂れる彼女を見れば、納得も出来る。
「戦闘を避けられたのは良かったッスけど、さっきまで生えてた百合の花が何もなかったみたいに別の花に変わるのは普通じゃないな」
 姿を変えた景色を見ながら、葵はひとまずの緊張を解く。
 そのまま視線をユニスへと向けて。
「その日に花を見に行って、その時にノエルがさっきの女と一緒に消えたから、今回はオレらを呼んだってことっスね」
『別に他のレンジャーと一緒でも良かったはずなんじゃ』――そう問いかけようとした葵だったが、実際に女と出会った今ならわかる。
「あの女性――っぽい奴、正体は結局掴めさえしなかったっスけど、呼んで正解っス。
 もしかしたら、そのレンジャーごと、今度はアンタが連れてかれた可能性もある」
「ええ、無事を確認できただけでも十分な収穫です。彼の状況が読み切れない以上、今はまだ連れ戻すのは無理でしょう」
 アリシスも頷いて見せる。
(しかし、彼女、突如として現れましたね。
 生きて現れた以上、消えていた先も幾らか絞れるはずですが……)
「なんだろう、さっきの女の人」
 リリーが呟く。
「だよね、おかしいよね」
 同意したのは焔。その足元には本来、ノエルの撤退した方向を探すために待機させていた小動物がちょろりと脚を擽る。
「目の前にいきなり姿を見せたこともおかしいけど、『どこへ消えたの?』」
 あの時たしかにイレギュラーズの多くは黒百合で視界を覆いつくされた。
 だが、リリーのファミリアも、焔の神の使いも――イズマの広域俯瞰も、そういった目隠しに対抗する手段だった。
 それらの『保険的な目の全てに、彼女が姿を見せて消えるまでの覚えがない』。
 おかげで、共有する視覚が混乱していた。
「どうしたの?」
 ウィリアムはそんな3人へ不思議そうに声をかけた。
「いや、女の覚えが無くて」
「――いや、女なんていなかったよ? あのすごい大きかった白百合が黒百合に変わって、爆発したんじゃなかった?」
 マスクを払って、ウィリアムが言う。
「「――え?」」
 それは、3人のみならず、他の8人すべてからの疑問形だった。
「ウィリアムさんと俺達の違いって、マスクしてるかどうか……まさか、呼吸に起因する幻覚の一種か?
 だとしてら、幻覚の射程外から見ていた広域俯瞰やリリーさんと焔さんのファミリアーにも映ってない……?」
 イズマの言葉に、ぞわりと背筋に寒いものが駆け抜けた。
 呼吸に起因する幻覚を引き起こす魔術――もしウィリアムがマスクをしていなければ、今頃、本当はいない女に意識を向けていたかもしれなかった。
「反転は……どうだろう?」
「どうでしょう。先ほどの会話では呼び声を感じませんでしたが、私達の殆どが幻覚に惑わされていたとしたら、『先程まで問いかけて返ってきた全ての事柄が曲解ないし、まるで違う可能性』もある」
 アリシスは思わず呟いた。そのまま視線をウィリアムへ。
「ウィリアムさん、もし良ければ、今日の一連の話の内容を照らし合わせてよろしいでしょうか?」
「……あ、うん。いいよ、やろうか」
 アリシスの言葉に一瞬、不思議そうにしていたウィリアムが頷いて、お互いの聞いた話の照らし合わせが始まる。


 情報の共有が終わった所で、焔はぽんぽんとユニスの肩を叩いた。
「帰ろう、ユニスちゃん! ノエルくんはどこかへ行っちゃったし、
 何より今回のお話を纏めて整理しないと、ちゃんとノエル君を取り戻せないよ!」
 焔らしく快活を心掛けて声をかければ、ユニスがこくりと小さく頷いた。
「ユニスさんは、何かリリー達に隠してない?」
 リリーはユニスの前にしゃがみこんで問いかけた。
「親御さんは何か知ってたりしない?」
 ルフナは重ねるように問いかけた。
 隠しているのではなくとも、こちらが知らない何らかの情報がある――ような気がする。
「分かりません。私は、父と母から離れましたから」
「でもそれもおかしいと思うの。ルシェは家族と一緒に暮らしてるのよ。
 五年前ということは、その時ってルシェと同い年よね?」
 ルシェの今の年齢は10歳――ユニスが最初に花を見た時と同い年だ。
「ルシェぐらいの年齢の子が家族と離れ離れで暮らすことってあるのかしら?
 御両親は健在なのよね? ねぇ、ユニスお姉さん。ルシェ、ユニスお姉さんからもお話聞きたいの」
 根本部分への問いかけだった。
「……本当は、ユニスお姉さんのお母さん、何か知ってたんじゃないかしら?」
 その言葉に、ユニスが表情を揺るがせる。
 それは『そうであってほしくない』と物語るようで。
「自分の親が事件に深くかかわってるかもしれないってなら、動揺するのも無理ないッス。
 まずは落ち着いて、深呼吸するッス」
 そんなユニスを宥めるように、葵は背中をさすってやった。
「結局、相手の本当の目的が何なのかは分からねえな……オレ達のほとんどを騙すやり口ってことは、相当やべえことになりそうだ」
 端から幻覚で本性を眩ましていたということは、逆に言えば『こちらの事を最初から敵として判断していた』ともとれる。
 ユニスだけが突撃した時は彼女を誑かすためだったのかもしれないが。
「そうですね……ですが、先程までの物が幻覚の類なのだとしても、残滓ぐらいは残っているでしょう。
 ……少しばかり調べてみましょうか」
 アリシスの方はそう呟いた。強い魔力の残滓を感じ取れるのは、やはりあの大きな百合が咲いていた場所。
 恐らくは、そこが起点なのだろう。

成否

成功

MVP

ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
MVPはウィリアムさんへ。
貴方の行動が無ければ、このお話はミスリードに引っかかったまま開始されることになっていたでしょう。

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