PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Closed Emerald>そは悪を布くもの、第二天・水星天の徒

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●燃える森
 ぼう、ぼう、ぼう、と火が燃え盛る。
 あちこちの木々が炎上し、熱が肺を焼き、灰が雪のように降り積もる。
 その地獄のような光景を、一人の女が歩いていた。灰の髪の女である。手にした凶悪な凶器=ガトリングガンを軽々と抱え、鼻歌でも歌いながら、煉獄の光景の中を行く。
 女の足元で、けろ、けろ、と何かが鳴いた。デフォルメされた、ぬいぐるみのカエルのような外見をした一匹の精霊が、火にまかれて逃げ遅れていた。
「あら、逃げ遅れたのね」
 女が笑う。
「苦しいでしょ。助けてあげるわ」
 腰のホルスターから拳銃を取り出すと、女は躊躇なく精霊へと向けて引き金を引いた。一発。二発。その後に「んー」と考え込むように声をあげてから、おまけに三発目。
「ほら、もう楽になったでしょ?」
 動かなくなった精霊のカエルを蹴り飛ばすと、精霊の身体は空中で消滅した。自然に還るのだろうか? 温い人生を送ってるものだ、と女は思う。
「思うに――この世は地獄よ。救いなく、憐憫なく、善なく、平和もない。
 だってこの世界に、神はいないもの。
 ああ、いえ、作った奴はいるのかしらねぇ。だってここは作り物の世界だものねぇ」
 女は笑う。その両の手を大きく広げて。ばちばち、ばちばちと、火炎は拍手のような音を立てて燃え盛る。
「まあ創造者は居るけれど、そいつだって結局は観測するだけ。手を出さずにいるのなら、それはきっといないのと同じだわ。
 シュレディンガーの猫? バカバカしい。中の猫にだって、反抗する権利くらいあるわ。そうじゃない?」
 けろけろ、とカエルの精霊たちが逃げるのが見えた。戯れに、女は手にしたガトリングを打ち鳴らしてやった。けろろ、けろろ、と逃げ遅れたカエルの何匹かに命中し、そのまま空気に溶けるように消滅した。
「アタシは悪を布くわ。救いなく、憐憫なく、善なく、平和なく――この作り物の世界に(R.O.O)に悪を布き、そして世界を壊しましょう」
 ノイズに隠れた女の顔は、声は、姿は、コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)のそれにひどく似ていた。
 コルネリアががゆっくりと進む先には一本の大樹があった。足元には、カエルの精霊たちがけろけろと何事かをわめいている。刹那、大樹が光に包まれる。若干の鳴動の後に、大樹はさながら、魂を吐き出すかのように、その身体から光の粒子を解き放った。
「大樹の嘆き。えーと、防衛機構みたいなものかしらぁ? アンタたちの最後に頼る術よねぇ」
 大樹から生み出された光が、巨大なイメージを作り出す。いうなれば、トカゲ。怒りの炎に身を包み、吠えたけるそれは、巨大なファイア・サラマンダーだ! 相対するだけで圧倒されるような気配すら感じる、それは大樹の怒り、大珠の嘆き、大樹の咆哮。
 しかし、そのような怪物に遭遇してなお、コルネリアは小ばかにするように笑ってみせた。
「必死にすがって、必死に崇めて。その神に捨てられるってのが、この世界なのよ」
 コルネリアが、その手を掲げる。ポリゴンのような不可思議なエフェクトがその手に宿り、刹那、ポリゴンで作られた槍のようなものが、サラマンダーへと突き刺さる。
「教えてあげるわぁ。この世がいかにクソかって事を」
 コルネリアが笑う。ポリゴンの槍がファイア・サラマンダーを蝕み、その眼に昏い光を宿らせた――。

●大樹の嘆き
 翡翠国、閉鎖さる――。
 翡翠国サクラメント一斉停止から端を発した事件に進展が見られた。
 イレギュラーズ達の調査と戦いの結果、翡翠国は『余所者』による攻撃を受けていたというのだ。
 余所者。それは、バグにより発生したNPCたち。
 例えば、イレギュラーズ達の前に幾度か姿を現した『ピエロ』。そして、昨今その姿を現しはじめた『パラディーゾ』――ログアウト不可能となったイレギュラーズ達のデータがバグらに解析され、その兵となってしまった存在達だ。
 余所者からの攻撃、と言うのは、中らずといえども遠からず……といった所だろう。
 さて、彼ら『バグ』による攻撃の結果、翡翠国内部にある様々な『大樹』が危険にさらされ、その防衛システムたる『大樹の嘆き』が解放されてしまった。周囲を無差別に襲う、大樹の怒り……これが、翡翠国を襲った異変であったのだ。
 翡翠国内部は穏健派と過激派にわかれ、翡翠国の完全鎖国との間で意見が揺れている。このままでは翡翠国が疑心暗鬼に飲まれ、崩壊に進んでしまう事は目に見えていた。
 ……そんな状況の中、『バグ』たちの本格的な進行が行われていた。翡翠国にて穏健派が意見を通そうと、国土を荒らされてしまっては意味がない。
 イレギュラーズ達は穏健派と協力し、『バグ』の討伐にあたることになった――。

「あら、意外と遅かったのねぇ」
 森が突如火に覆われた――そのような情報を穏健派の森林警備隊たちから聞き、現場へと急行した特異運命座標たちを迎えたのは、惨憺たる光景であった。
 カエルのような精霊たちは怯え逃げ惑い、森のあちこちは炎に焼かれ。そしてその災禍の中に、巨大なファイア・サラマンダーと一人の女性……コルネリアが立っている。
「ごらんのとおり。大樹の嘆きはアタシの支配下よぉ? 防衛機構が敵に協力してるってんだから、笑っちゃうわよねぇ」
 くっくっ、とコルネリアは笑う。その性質、纏う雰囲気は、現実の彼女とはかけ離れていた。バグにより変質したコルネリア。いわば純粋悪たる怪物が――。
「名乗りがまだだったわね。
 アタシは天国篇第二天 水星天の徒。名前は――そうね、コルネリアで良いわ」
 コルネリアは、ファイア・サラマンダーの背の上で、ガトリング砲を構えた。
「アタシの仕事はもう終わったけど、そうね、少しくらいは遊んであげるわ。
 精々泣き叫んで殺されなさい」
 コルネリアが纏う気配は、間違いなく強者のそれだ! 大樹の嘆きたるサラマンダーと共に、この怪物を相手にしなければならない!
 特異運命座標たちは、意を決すると、武器を構えた。翡翠国を守るための戦いが、ここに幕をあげた。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 現れた、パラディーゾ。敵の使役する大樹の嘆きを撃破するのが、皆さんの仕事です。

●成功条件
 大樹の嘆き:ファイア・サラマンダーの撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 翡翠国を襲った異変。それは、『バグ』NPCたちによる攻撃でした。
 新たに発生した敵の襲撃を防ぐために、迷宮森林内の大樹へと向かった皆さん特異運命座標たち。
 そこにいたのは、バグを利用して『大樹の嘆き』を支配し、暴れまわる『パラディーゾ』……水星天の徒、コルネリアでした。
 皆さんの目的は、あくまで大樹の嘆きの鎮圧。しかし、コルネリアが妨害してくるのは確実でしょう。
 皆さんは、コルネリアと戦いながら大樹の嘆きを撃破し、この地に平和を取り戻さなければなりません。
 作戦決行タイミングは昼。周囲は火災により大きく開けており、足場などのペナルティは発生しないものとします。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●重要な備考
 <Closed Emerald>には敵側から『トロフィー』の救出チャンスが与えられています。
 <Closed Emerald>ではその達成度に応じて一定数のキャラクターが『デスカウントの少ない順』から解放されます。
 但し、<Closed Emerald>ではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。

●『パラディーゾ』イベント
 <Closed Emerald>でパラディーゾが介入してきている事により、全体で特殊イベントが発生しています。
 <Closed Emerald>で『トロフィー』の救出チャンスとしてMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
 MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
 但し、当シナリオではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。

●エネミーデータ
 大樹の嘆き:ファイア・サラマンダー ×1
  炎を纏った、巨大なトカゲの如き怪物です。大樹の嘆き、と呼ばれる、危機に陥った大樹から発生した防衛機構のような存在です。
 もともと怒りと嘆きのままに周囲を破壊するような存在でしたが、パラディーゾに使役される形となった結果、明確に翡翠国に敵対する怪物になり果てました。
 倒す以外に、彼を止める方法はありません。
 主に神秘属性の攻撃を行います。体の炎を使った『火炎系列』のBSや、トカゲの毒物による『痺れ系列』のBSに注意してください。
 また、巨体であるため、マーク・ブロックには二名以上が必要になります。

 天国篇第二天 水星天の徒 ×1
  コルネリアさんのデータを利用して生まれた『パラディーゾ』です。暫定で『コルネリア』を名乗っています。
  コルネリアさんをベースにしていますが、残虐・非道の純粋悪のような性格をしています。
  非常に高い物理攻撃力を持ち、放たれるガトリング砲の威力は脅威的と言えます。
  ボスフラグを設定されているのか、すべてのパラメーターが普段より強化されています。
  『出血系列』『火炎系列』のBSや、『追撃』をもつ連続攻撃に注意してください。
  倒す必要はありません。大樹の嘆きが撃破されるか、HPが一定値以下になれば撤退します。


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <Closed Emerald>そは悪を布くもの、第二天・水星天の徒完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年11月10日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アイ(p3x000277)
屋上の約束
樹里(p3x000692)
ようじょ整備士
エイル・サカヅキ(p3x004400)
???のアバター
真読・流雨(p3x007296)
飢餓する
壱狐(p3x008364)
神刀付喪
デイジー・ベル(p3x008384)
Error Lady
Λ(p3x008609)
希望の穿光
マチルダ(p3x009315)
その罪は譲らない

リプレイ

●火炎・水星
 爆炎が、辺りを舐めつくす。銃声が轟き、周囲に傷跡を穿つ。
 巨大な火トカゲ=ファイア・サラマンダーの背中に炎が燃え盛る。それを砲弾のように解き放てば、周囲が炎へと飲み込まれる。
 一方、銃声の主=水星天:仮称コルネリアは、次々とモザイクから銃器を生み出し、まるで使い捨てるかのようにガンガンに撃ち込んできた。
「ふぅン?」
 炎、そして銃弾。その雨をかわしながら、『R.O.O tester?』アイ(p3x000277)は鼻を鳴らす。翻るマント。擦過する銃弾。ずざぁ、と着地。間髪入れず飛び出せば、刹那のうちにその場は火に飲まれる。
「足を止めている暇もないようダ? クエストの目標はサラマンダーの討伐だけれド、彼女をほうっては置けないみたいだネ!」
 飛んできた火の粉を盾で振り払いながら、アイは言う。確かに、水星天を抑えられなければ、サラマンダーの相手をするのも一苦労だろう。
「だが、コルネリア君……失礼、コルネリア君ではないな。とにかくパラディーゾにだけ手を取られていて、大樹の嘆きをフリーにしてもまずいだろう」
 『恋屍・愛無のアバター』真読・流雨(p3x007296)が言った。その言葉通り、大樹の嘆きを完全に野放しにするわけにもいかない。
「となると、やはりここは二手に分かれるべきだな」
「異論なーし!」
 『???のアバター』エイル・サカヅキ(p3x004400)が、ばしっ、と拳を打ち付けながら言った。
「で、誰が抑えるかだけどー……まっちーなんか言いたそげじゃん?」
 そう言うエイルの言葉に、『銃の重さ』マチルダ(p3x009315)は頷いた。
「ン……ま、言いたいことがあるわけじゃぁないわね。あのアホ面、ぶん殴ってやりたいだけよ」
「そっかそっか、じゃ、任せていい?」
 何かを察したようなエイルの言葉に、マチルダは頷く。
「任せな。わがままな餓鬼には鉄拳制裁、ってのがうちの教育方針でね」
「おっけー、頑張って!」
 祝福するように、エイルがマチルダの方を叩いた。刹那、その身体に活力がみなぎるのを、マチルダは感じていた。背中を押されたのだ、と理解する。
「ふむ、じゃあボクも手伝おうか」
 『黒麒』Λ(p3x008609)が微笑った。
「少しばかり、あの顔の人物には興味があってね……オリジナルとは随分と本質が違うようだけれど。
 ああ、別にマチルダさんの邪魔をしようってわけじゃないよ。手伝えればってね。ひとりより二人の方がいいでしょう?」
「好きにしなさいな」
 Λの言葉に、マチルダは頷く。
「では、のこりのメンバーでさらまんだーをねらいましょう」
 と、『ようじょ整備士』樹里(p3x000692)が言う。
「これはじゅんせんのクエスト……あとは、こちらのせんじゅつとじつりょくが、むこうにつうようするか、という戦いです。
 けっこう、私たちのじつりょく、見せてあげましょう」
「相談は終わったかしらぁ?」
 樹里がそう言ったのを待っていたのか、水星天が嘲るように言う。
「もうちょっと時間をあげてもいいわよ? けっきょく全員ぶち殺すことにわかりはないんだしねぇ」
「わーおコルコル、超ワルい女じゃん。
 でもさー、なんかちょっちズレてるからエイルちん的コルコル検定不合格~」
 人差し指を左右に振りつつ、エイルが言う。
「理由は……アタシ……じゃない、友達の知ってるコルコルは、あんたみたいなこと、絶対言わないんだ」
「喰うわけでもなく、皆殺しとは感心せんな。所詮、何処の世であろうと儘ならぬのが人生だ。餓鬼の我儘に付き合ってやるほど暇でも無いが。
 この世界にも守りたいモノがあるのでな。それが例え造りモノだとしてもだ」
 流雨が、しゃきん、とパンダクローを煌かせる。
「では、行きましょう、皆様」
 『怒号雷霆』デイジー・ベル(p3x008384)が静かにそう言った。
「森とあらば火気厳禁、とは私も知っています。
 マッチ一本火事の元と言うのなら、この大きな火トカゲだとどれぐらいの火事の元なのでしょうね。
 実際に確かめるわけにはいきません。迅速に駆除を」
 デイジー・ベルが、両手に砲を構える。仲間達も、再度武器を構えて、二体の敵に立ち向かった。
「大樹の嘆き。それを操るパラディーゾ……」
 『妖刀付喪』壱狐(p3x008364)が、己の本体、すなわち『神刀『壱狐』』の刃を炎にかざす。赤い炎が刃に反射し、煌きをなお輝かせた。
「ここで果てていただきます。お覚悟を」
「ハッ! やってみな、いい子ちゃん共が!
 さぁ、トカゲちゃん、思いっきり燃やしてやりなさいな!」
 轟、轟、轟、とサラマンダーが吠える。
「行くわよ。まとめて黙らせるわ」
 マチルダの言葉を合図に、特異運命座標たちは再び、強大な敵へと立ち向かうべく、その足を踏み出した。

●巨獣・巨悪
 ぼおおおおお、とサラマンダーが吐息を吐き出した。それはファイア・ブレスとなって前方の特異運命座標たちを飲み込む。
「とおー、りゃあ!」
 その炎を一身に受けつつ、しかし突破する小さな影。樹里はサラマンダーの眼前に立ちつつ、
「もしここをとおりたくば…わたしのしかばねをこえていけ、というやつです。
 あるいはもしわたしをたおしても、だいにだいさんのわたしがあなたをブロックします、でしょうか?」
 ここでサラマンダーの動きを止める。水星天との連携はさせぬという決意が、この小さな体に巨獣を抑え込むほどの気迫を産んだ。
「たといたいかくがちいさくとも、ようじょのブロックはブロック一体分だとおそれふるえるがいいでしょう」
 うんうんと頷きつつ、サラマンダーを抑えるようじょ……樹里。とはいえ、前線にいるという事は、それだけ死亡(ログアウト)へのリスクが高まるという事に違いはない。
「ごめんね、じゅりー! アタシも合流する!」
 エイルが飛び込む。同時、流雨も続き、ぱんだくろーを輝かせる。
「続こう、ギャル君」
「あざまる! こんどマリトッツオおごるね!」
「気になる食べ物だ」
 鋭く放たれる、エイルのエグい蹴り。鋭く、えぐい角度でサラマンダーの首元に叩き込まれたそれは、またえぐい音を立ててサラマンダーの首をひねった。全身に感電したかのような痺れが奔り、間髪入れずに叩き込まれるぱんだのつめが、しゃきん、と音を立ててサラマンダーの皮膚を深く削り取る。
「むう、墜とすにはいささか遠いな」
「何度でもボコればいいっしょー! その間、抑えはアタシとじゅりーがやるし!」
「おまかせください。じゅりーあんどえいるです」
 ぴ、とピースサイン一つ。樹里の死角を庇うようにエイルがサラマンダーの抑えに入る。二人の気迫に、サラマンダーは完全に足を止められた。
「お気を付けください、毒風の呪詛を撒きます」
 デイジー・ベルが砲を構え、同時に打ち放つ砲弾。それは空中ではじけるや、周囲に毒風の呪詛をまき散らす。サラマンダーの身体を蝕む毒が、その炎のコントロールを狂わせたのか、自身の炎で自信を焼くような場面を見受けられるようになった。
「相手が燃えていようが関係ない、私のエラーも燃えている。
 どちらがより熱いものか。試してみましょうか?」
 デイジー・ベルの挑発に、サラマンダーはその炎を激しく燃え上がらせた。デイジー・ベルのいる位置までも舐めつく細野強烈な炎の奔流が、身が負けたデイジー・ベルの肌を焼く。チリチリとした熱の痛みを覚えながら、デイジー・ベルは静かに砲を構えた。
「その程度の熱で、私の熱(エラー)は吹き飛ばせない」
 砲による攻撃をくわえながら、デイジー・ベルはサラマンダーの体表を見た。よく見れば、モザイクのようなもので覆われた地点が見える。クエストの詳細によれば、水星天は、モザイクの槍のようなものをサラマンダーに打ち込み、操っているはずだ。となれば、あれがその傷口だろうか……?
「壱狐様。背中です」
 デイジー・ベルが声をあげる。巻き起こるサラマンダーの熱風を切り裂き、飛び込むは壱狐。携えるは『神刀『壱狐』』。
「全く、この森林で炎はご法度だとチュートリアル(ビギナークエスト)で習わなかったのですか?
 ……っと、ここは翡翠国でしたね」
 炎を切り裂き、炎を纏い、壱狐が跳躍。デイジー・ベルにより伝えられたとおりに、サラマンダーの背中には、モザイクの痕、かさぶたのように見えるものがある。
「一か八か、バグ相手となれば試す価値はあります!」
 降りぬく、壱狐。刃が、バグのかさぶたを切り裂いた。斬! 鋭い斬撃痕がひらかれ、内部から、ぼ、ぼ、とモザイクが吹き出す。よく見れば、そこにはモザイクのとげの様なものがある……だが、そのとげは現在も内部に侵入している最中であり、これを引き抜くのは、現在では困難だろう……!
 ぐお、お、とサラマンダーが吠える。壱狐の斬撃の痛みにか、或いは内部に侵食するとげへの痛みにか?
「……! なんと痛々しい。まるで侵蝕する悪意のように……!」
 とげの傷口を見やりながら、壱狐が跳躍する。すぐにモザイクが盛り上がり、その傷口をふさいでしまった。
「どうやら、彼を元に戻す、というのは難しいようだネ?」
 アイがそう言うのへ、マチルダ、Λとの戦闘を繰り広げていた水星天が、あざ笑うように声をあげる。
「はは! それで仮に治せたところでどうするつもりなのかしらぁ?
 もともとそいつは目につくすべてを焼き尽くす怪物よぉ?
 目的もを持たせてやった分、優しいとは思わない?」
「見解の相違だネ、パラディーゾ!
 無理矢理に使役して扱うのは、心地よいとは思えないナ!」
 アイは跳躍し、自身の周囲に次々と短剣を投影する。刹那、降りぬいた腕に呼応し、投影された短刀が次々とサラマンダーへと着弾する!
 傷口からぼう、と鮮血のように炎を吹き出すサラマンダー。
「あんた達は結局殺すんだから、そいつがどんなバックグラウンドを持っていたも意味がないでしょう?
 どうせデータよ。そいつも、アタシも。神の気まぐれで露と消える。だったら……!」
「世界に傷跡を残そうト? パラディーゾ!」
 水星天へと視線をやるアイだが、しかしサラマンダーがそれを許さなかった。反撃の炎がアイを包み、熱に表情をしかめたアイが跳躍、炎をから退避する。
「そうよ、アタシはこの世界をぐちゃぐちゃにしてやる! それが、つまらない気まぐれでアタシを生み出した世界への答えよ!」
「餓鬼が、すねて当たり散らしてんじゃないわよ! 『コルネリア』!」
 マチルダの魔銃より放たれる銃弾が、水星天を狙い撃つ。水星天はその銃弾をステップして回避。出現させた拳銃を両手につかみ、ばらけるように一気に打ち放つ。
「こちとらログアウトできなくなって、このわけわかんない世界をさまよって……ようやく帰れたと思ったら、アタシの皮被った阿呆だと?
 最高にイカれた電脳世界だ。だが丁度良いわ、その戯けた笑い顔……ぶん殴ってやるわよ!
 手前の湿った感情で、他人に迷惑かけてんじゃない!」
「はっ――ははっ! その顔で言われると、なんかグッとくるわねぇ、オリジナル!
 けど、アタシにとってはこの感情の大元も情報に過ぎないのよねぇ!」
 打ち放たれる銃弾が、マチルダの足元に突き刺さる。激しい銃弾のタップダンスが地面を抉る。マチルダは足を止めぬまま倒れかけた木に隠れるが、すぐに何かを察知して飛び出した。刹那、その倒れかけの木が、水星天のガトリング砲によって消滅する。
「この嘘とでたらめだらけの世界でに生まれた、嘘とでたらめだらけのアタシ! 唯一本当なのは『今のアタシの思考』だけよ!
 われ思う故に我あり――アタシは生まれながらにして『悪』だったッ!」
「公平をつかさどる天秤は振り切れた……断罪の刃は振り下ろされる……。
 汝、咎人懺悔せよ……されど咎人にかける慈悲無し。滅殺あるのみってね」
 Λが飛び込む。その四肢を刃のように振るうΛ。無哭の刃が水星天を狙うが、水星天は小銃を楯のように使ってその斬撃を受け止める。
「正義の味方のつもりかしらぁ?」
「もしボクの存在理由がそうであるならば、そうだね、それもいい」
 再度振るわれる、無哭の刃! 四方から迫る四肢の刃を、水星天は身をよじって回避。そのまま拳銃で反撃を行う。Λは四肢の刃で拳銃弾をはじき、跳躍。マチルダの前方へと着地。
「強敵なのは間違いないね。でも、やはり、オリジナルとは随分と違う」
「そうね。アタシはあんなじめじめした癇癪もちじゃないわ」
 かちり、と魔銃の撃鉄を起こすマチルダ。
「一応聞いとくわよ、『コルネリア』。
 その顔で、その格好で、その得物で何を撃った?
 何故撃った?
 それは軽々しく引き金を引いて良いもんじゃねぇ。奪う物だからこそ相応の責任がある」
「ハッ。だからアンタは悪に染まれないのよ、『コルネリア』」
 水星天は笑った。
「引き金を引く。弾が出る。当たればそいつは死ぬ。それだけが現実で、それだけが真実よ、『コルネリア』。
 それ以外は、全て付随した『思い込み』に過ぎないわ。
 責任? 想い? くそくらえだわ。この拳銃だけが、アタシの真実。この拳銃だけが、そんな幻想をぶっ壊せる!」
「餓鬼が! 思考放棄したゆるゆるの頭の分際で! アタシの顔で笑ってんじゃねぇぞゴミカスがぁ!!!」
 マチルダが魔銃をぶっ放す! 同時、Λは駆けていた。Λの背を抜ける銃弾。それが、水星天を狙う! 水星天は跳躍して、銃弾を回避――が、その先にすでにΛはいる!
「ああ、さっき断罪とか言ったけど……あれは多分に、ボクの個人的な裁量が大きくてね。ボクは清濁併せのむタイプだから、ある程度のことは目をつむってあげるけど――」
 四肢の刃。無哭の刃。
「君に情状酌量は無しと行こう」
 振るわれる、刃。が、水星天は、そこでもなお驚異的な身体能力を発揮した。空中で無理やり身をひねると、Λの刃を回避してのける――。
 そこへ。
 迫る銃弾があった。マチルダの魔銃が、ポイントしていた。
「悪いね」
 Λが言った。
「ボクは、ブラインド代わりだ」
 ど、と。銃弾が、水星天の右腕を貫く。その瞳が、驚愕と怒りに染まる。
「クソどもが――!」
 水星天が叫んだ。その右手に、モザイクの槍が生まれる。
「Λ! 避けなさい!」
 マチルダが叫んだ。ダメだ! 動けない! Λがそれでも身をよじろうとした瞬間、モザイクの槍が、Λの胸を貫いていた。

●決着
「いいわ、今回は退く。けど――」
 水星天が、槍を引き抜いた。刹那、Λの身体が歪んだのちに、ほのかに輝いた。
「代わりにこいつは貰って行ってあげる!」
 どさり、とΛの身体が地に墜ちる。マチルダが駆け寄った。同時に、水星天はその姿をすでに消している。
「大丈夫、だけど――」
 Λが呟いた。増えたのは、デスカウント。消えたのは、ログアウトのボタン。

 一方、特異運命座標たちの懸命な攻撃により、サラマンダーは確実に消耗していた。
「みなさん、だいじょうぶですか?」
 樹里が言う。その身体は深く傷ついており、既に身体を構成するポリゴンが消滅せんとしていた。
「ごめんネ……でも、君の働きは無駄にしないヨ!」
 アイが叫び、飛びあがる同時、樹里が死亡(ログアウト)。フリーになったサラマンダーが駆けまわるのを、アイは再び短剣を投影して、その身体を縫い付けるように投擲する。
「嘆いた挙句に燃やしちゃぁ泣きっ面に蜂って奴になるかもヨ?
 どうにかして君は倒すさ! 嘆きの時は終わりにしよウ!」
 ずだだだ、と次々と短剣が突き刺さる! サラマンダーが吠えた。同時、飛び込むボロボロのエイル。
「情熱的な人は好きだけどさー、ちょっちキミアツすぎ!」
 再びの蹴りの一撃。ヒールのかかとが、サラマンダーの脳天に深く突き刺さる。ぎゃあ、とサラマンダーは悲鳴をあげ、同時に背中から吹き出した炎が、エイルの身体を包んだ。
「ごめん、あとヨロ!」
 死亡(ログアウト)――流雨が、エイルの作った隙を逃さぬように、巨大な竹の槍を振りかぶった。
「ぶつけるぞ、続いてくれ」
 笹ぐにる――鋭い竹槍を投げ放つ流雨。宙を裂いて飛ぶそれが、衝撃音と共にサラマンダーの背中へと突き刺さる! ぎゅおおん、と悲鳴をあげたサラマンダーが横転し、その柔らかな腹を見せつけた。
 続いてくれ、と言う言葉に、デイジー・ベルが続く。その手を掲げると、巨大な骨の手が顕現し、そのままサラマンダーを握りしめる!
「抑えました――とどめを」
「承知です」
 上空から迫る、壱狐の姿。刃を上段に構え、動きを止められたサラマンダーの首を狙い、落下! 勢いを乗せた斬撃が、サラマンダーの首を落とす!
 きゅお、と一瞬、サラマンダーが息を吐いた。そのまま、サラマンダーの首と胴が泣き別れになって、ず、と地に倒れ伏す。
 一瞬のうちに、サラマンダーの身体と首は光に包まれて、そのまま消滅していった。それに合わせるように、周囲の炎もすべて消えていく。

 ……戦いは終わった。特異運命座標たちも相応の被害を負ったが、少なくとも、この場は収めることができた。
「……見てるかクソッタレな神さんよ。世の中は本当にクソだぜ。
 此奴をぶち抜く力ァ……いつか見せてやるよ……」
 マチルダは、虚空へと消えた水星天の背中を思い出しながら、吐き捨てるように呟いた。
「テメェは絶対アタシが殺す」

成否

成功

MVP

真読・流雨(p3x007296)
飢餓する

状態異常

樹里(p3x000692)[死亡]
ようじょ整備士
エイル・サカヅキ(p3x004400)[死亡]
???のアバター
Λ(p3x008609)[死亡]
希望の穿光

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 大樹の嘆きは鎮めることが出来ましたが、パラディーゾの攻撃により、『黒麒』Λ(p3x008609)さんがログアウト不能となってしまったようです……。

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