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シナリオ詳細

<Closed Emerald>killer ivy

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●killer ivy
 ――どうして、私を『殺人鬼』の儘として扱ってくれないの!

 優しさなんて必要なかった。外の人間から味わったままの苦しみをぶつけ続けることしか存在意義が無かったのに。
 今更、救われたいなんて願っていない。殺し続けた私に、そんな資格が無いことだって知っている。

 なのに。
 どうして、私と同じ顔で笑うの?
 どうして、私とは違う道を歩めたの?

 奴らは勝手に森へと踏み入った。幼い私たちを商品と呼んで地面へと叩きつけた。
 逃げられては困るからと骨を折られた。拉げた。腱を切れば動けなくなるだろうと笑われた。
 抵抗をするなと顔面へと押しつけられた炎は熱く、苦しかった。
 苦しい、苦しい、苦しい、苦しい。

 私の名前は『フラン・ヴィラネル』
 あなたたちと交わることのない未来に生きる者。

 だから、この大樹の嘆きと共に私はあなたたちを殺す。殺し尽くす。
 もう二度とは、笑えないように。

●『緊急クエスト』
 ――緊急クエストが発令されました。

 そのアナウンスを目にして紅宵満月 (p3y000155)は「ルフランちゃん!」と呼んだ。
 呼びかけに応じたルフラン・アントルメ(p3x006816)の傍らにはリュカ・ファブニル(p3x007268)の姿がある。
 満月が調査していたのは翡翠でその姿が見られたキラーアイヴィであった。彼女の逃亡後を心配しての事ではあったのだが……。
「クラブ・ガンビーノの皆さんには調査に協力して頂きまして」
「『異世界』のウチの奴らが役に立ったんなら良かった」
 立場は違えど、ファミリーが褒められるのは悪くはない。リュカが頷けばルフランは神妙な表情で「どうなりましたか」と問うた。
「じゃあ、まず『現状』について確認するね。今現在は『翡翠』方面のサクラメントが一斉停止しているんだ。
 それから、異常事態が起きたのではないかって調査を行って貰っていたけれど、『余所者』の排除に動いてるらしい。
 この状況にキラーアイヴィが『境界線』から調査に赴いてくる傭兵達を排除しようとしていたのが前回のクエスト。
 そこから状況が変わったのは『余所者』が大々的に動き出した、って事かな? あ、我々じゃないっすよ!」
「……余所者って」
 ルフランの脳裏に過ったのは『フラン・ヴィラネルを痛めつけた』者達であった。外が恐ろしいだけでないと知れど、不安は胸を過る。
「『ピエロ』と『パラディーゾ』――
 詰まりは我々にとっての世界の敵だね。其れ等が『大樹』を攻撃したというデータログが観測されてる訳です。
 それらのせいで『大樹の嘆き』という魔物……ああ、いや、言い方が間違ったね.精霊が活性化したらしいんだ」
 大樹の嘆きは幻想種達にとっては決して魔物などでは無いはずだ。大樹の断末魔と呼ぶ者も居る。つまり、防衛機構の一種である。
 それがファルカウの周辺に存在する霊樹等から顕現しているというのだ。
「このままじゃ翡翠は疑心暗鬼で暴力に塗れちゃう。キラーアイヴィだって外に対しての警戒を強めていく。
 一部の穏健派が大樹の嘆きを発生させている者を追い出して欲しいというクエストを出してきた――んだけど……」
「でも、私たちが『受けるべきクエスト』は違うんだね?」
 ルフランの言葉に満月は頷いた。リュカは「くそ」と小さく呻く。
 満月が緊急クエストと共に齎したのは『大樹の嘆き』と共に姿を現したキラーアイヴィの情報であった。
「クエストは『大樹の嘆き』……霊樹プルウィアと呼ばれた美しい木から生み出されたそれと戦うこと。
 けど、そこにはキラーアイヴィが必ず介入してくる。『フランさん』は困惑していたみたいだから……」

 ――どうして殺人鬼として扱ってくれないの!

 彼女は、これからどうすれば良いのか分からずにただ、ただ、殺人鬼として外の者を。『プルウィア』を傷つける者を除外することを選ぶだろう。
 大樹の嘆きを倒すためには彼女の撃破が必要不可欠だと言うことだ。
「凄く強い、相手だよ。知った顔だったりすると、特にね」
 攻撃するのを戸惑うでしょうと問うた満月にリュカは「畜生」と小さく呻いた。どこから見たってフラン・ヴィラネルのかんばせをした彼女との『もう一度』がやってくる――

GMコメント

 夏あかねです。緊急クエストだー。

●クエスト達成条件
 『キラーアイヴィを撃破(捕縛)』した上で、攻撃可能になる『コア』を破壊する(大樹の嘆きの沈静化)

●クエスト地点情報
 現実での『集落情報』:
 ファルカウより離れた『古語』も残っているような閉鎖的な地域です。浅黒い肌を持った幻想種だけの集落。
 プルウィアはクリスタルを思わせる透き通った霊樹です。雨の力を蓄え、魔力に変換し祝祭の夜に花開くように魔力を降らせるそうです。
(夏あかねシナリオ『プルウィアの祝祭』にも出てきた里です)

 幻想種たちは避難済み。プルウィアより生み出されたモンスター(泣き虫のプルウィア)と共にキラーアイヴィが『霊樹:プルウィア』の前に立っています。

●『キラーアイヴィ』フラン・ヴィラネル
 フラン・ヴィラネルさんのR.O.Oの姿。有り得たかも知れない未来の姿です。
 砂嵐の盗賊に襲われ、治癒することの無かった傷を体に残された少女です。背中には傷が、折れた右腕は力が入らずだらりと降ろされ、顔には火傷の痕が刻み込まれています。
 砂嵐を恨み、非常に鬱屈とした性格です。通称を『キラーアイビィ』『男殺し』。
 男性を特に毛嫌いし、国境を安易に跨ぐ砂嵐の人々を許しはしません。殺人鬼です。森林警備隊からは除名されて久しいようです。
 彼女は騒動に乗じてやってきた『砂嵐の青年』を殺すが為に動いています。
 腕には力が入りづらいために魔力で生み出した蔦を駆使した魔術士タイプです。『魔種』と呼べる程に強敵であり、人を殺し慣れた彼女は情け容赦も致しません。
 ……それでも、イレギュラーズとの一度の邂逅で心に惑いが生まれたのは、確かのようですが……。
 捕縛もしくは撃破を必須としています。生かすも殺すも『皆さん次第』です。

●『大樹の嘆き』プルウィア
 翡翠各地に存在する、永い時を経た『大樹』がなんらか危機に陥った際に放出する事がある、防衛機構・兵器の様な存在です。
 つまり、プルウィアの防衛機構が顕現した姿なのです。傷つけられたことに悲哀を湛えております。

 ・泣き虫のプルウィア 10体
 キラーアイヴィと共に戦うモンスター。クリスタルの精霊を思わせる外見をしており、悲しみと苦しみを口々に囁きます。
 種族:幻想種orハーモニアに対しては余り攻撃を強めることはないようですが、その他の種族には容赦はしません。

 ・プルウィア・コア
 キラーアイヴィと『泣き虫のプルウィア』がかばい続けるコアです。この部位は自身を守る存在が撃破された後に『霊樹:プルウィア』に露出してきます。

●味方NPC
 ・『クラブ・ガンビーノ』のメンバー 5名
 調査にも関わったクラブ・ガンビーノのメンバーです。以前、キラーアイヴィに襲われた者達ですがイレギュラーズに協力を申し入れました。
 遣られてばっかりではファミリーの名が傷つく!からです。

●重要な備考
 <Closed Emerald>には敵側から『トロフィー』の救出チャンスが与えられています。
 <Closed Emerald>ではその達成度に応じて一定数のキャラクターが『デスカウントの少ない順』から解放されます。
 但し、<Closed Emerald>ではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●『パラディーゾ』イベント
 <Closed Emerald>でパラディーゾが介入してきている事により、全体で特殊イベントが発生しています。
 <Closed Emerald>で『トロフィー』の救出チャンスとしてMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
 MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
 但し、当シナリオではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。

  • <Closed Emerald>killer ivy完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年11月09日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

パンジー(p3x000236)
今日はしたたかに
スティア(p3x001034)
天真爛漫
ファン・ドルド(p3x005073)
仮想ファンドマネージャ
ルフラン・アントルメ(p3x006816)
決死の優花
リュカ・ファブニル(p3x007268)
運命砕
ベルンハルト(p3x007867)
空虚なる
イデア(p3x008017)
人形遣い
ベネディクト・ファブニル(p3x008160)
災禍の竜血

リプレイ


 ――顔も、声も、心だって。
 世界が違ったって、歩んだ道が違ったって、彼女は『あたし』と同じなのだと言ってくれる人が居た。
『フラン』、名を呼ばれるだけで『あたし』は『私』を愛してあげられるような気がしたの。

「彼女が、キラーアイヴィか」
 そう呟いたのは『大樹の嘆きを知りし者』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)。青年が人伝に聞いて居た殺人鬼は暗い面差しの儘でイレギュラーズを見つめている。彼女は余所者を嫌う。男を更に毛嫌いし、無数の人の命を奪い続けた殺人鬼。
「見知った顔の方と戦うのは初めてではありませんが……いつものことながらあまりいいものではありませんね。もしも、というのは時として残酷なものです」
 落ち着いた声音でありながらも僅かに滲んだのは困惑か。『人形遣い』イデア(p3x008017)のアメジストの瞳は不安げに細められる。
 フラン・ヴィラネル――『キラーアイヴィ』は『天真爛漫』スティア(p3x001034)の知る彼女とは大きく様子が違っていた。
 明るくて優しい雰囲気。癒やし手である彼女。それに慣れきったスティアにとってはキラーアイヴィの表情は違和感と驚愕を覚えずには居られない。
『仮想ファンドマネージャ』ファン・ドルド(p3x005073)は眼鏡の位置を直し、杖を握り前線へと向かう『大樹の嘆きを知りし者』ルフラン・アントルメ(p3x006816)の様子を眺める。
「悩み揺れている少女ですか――迷える少女を導く役目は、適任がいるので任せましょう。少女を救う大任に比べれば、我々の仕事は露払いですが」
「でも本質的な部分は一緒だと思うから救ってあげたいなって思う。
 そういう感情を知らないというなら教えてあげれば良いだけだしね!」
 頑張ろうと拳を振り上げたスティアに『赤龍』リュカ・ファブニル(p3x007268)が勿論だと頷いた。
「『もう一度』か――案外早い再会だな、キラーアイヴィ」
「……」
 出来れば戦いたい相手ではなかった。もう一度、彼女とやり合わねばならないのだ。リュカの言葉に何も応えを返さないキラーアイヴィはルフランを睨め付けている。
 彼女の傷――ルフランも経験したことのある過去。一方の少女は癒やし手の力に感銘を受けた。もう一方は、外を恨むことにした。
(……『あれから』こっちのあたしは、殺さなくっちゃ生きていけなくて、あたし自身は、殺すのが怖くて。
 逆に見えるけど、でもあたしには殺したくて殺すようには見えなかった。あたしたちは同じなんだね)
 震える指先に決意を乗せる。ルフランとフランは同一であり、別個の存在だ。
 目映い光に導かれたように、癒やし手を目指したルフランは『奇跡』だったのではないかと『彼誰-かわたれ』パンジー(p3x000236)は感じていた。
 理不尽な目に遭い、様々なものを失った。それは平穏であったのかもしれないし、植付けられた不安が日常を害したのかも知れない。それは否定できない。そんな目に遭って、受け入れて前を向ける人間はどれだけいるのだろうか。
 誰だってそうだ。大抵の人間は心に蓋をする。無理矢理眼を向いている『ふり』をしているだけ。時は何も解決してくれない。ただ、勝手に過ぎるだけなのだ。パンジーの心も――
「私は泣き虫のプルウィアの数減らし、がんばるね」
 目の前にある己のやるべき事へと向き直る。静寂の弔鐘という呼び名を欲しいものとする指輪がきらりと魔力の光を帯びた。
「どうして?」
 キラーアイヴィの呟きにルフランは顔を上げる。泣き虫のプルウィア――霊樹プルウィアより生み出された大樹の嘆き達の側に立っているキラーアイヴィは唇を震わせる。
「プルウィアも、私のことだって、貴方たちは放っておけば良いのに。どうして邪魔をするの?
 勝手に此の森に踏み入ったのに。勝手に、木々を傷つけプルウィアを苦しめたくせに……。
 こんな汚くて、救いもない、馬鹿みたいな世界で、綺麗な言葉ばかりを私に言うの!?」
 叫ぶ、彼女の声に『空虚なる』ベルンハルト(p3x007867)は苦しげに眉を寄せる。
 人殺しであろうとする心。それは彼女の叫びだ。その声音は悲痛。少女が殺人という衝動に苦しみながらも進んでいるのならば。
「綺麗事等というならばそれでいい。殺人の衝動がめる事を自らの慰みとする事を止めろとは言わん。
 なればこそ、今お前が殺さねばならぬのは俺達だ――俺達を殺し尽くすまでは、俺達だけを見ろ」
 己が、余所から来た人であるならば。彼女も、プルウィアも、此方を殺す事を狙っているだろう。ならば、此方だけを見ていれば良い。
 今の己達こそが、彼女たちにとって排除すべき存在なのだから――


「俺達は大樹の嘆きを鎮静化させる事をまず優先……キラーアイヴィについては任せるが、大丈夫か?」
 問いかけるベネディクトはこの様な状況でもなければ彼女に声を届けることが出来ただろうにと肩を竦めた。
 プルウィアの状況も捨て置けない。言葉を尽くすには忙しない戦場で彼が己の想いを託すのは兄弟の契りを交わした相手と信の置ける戦友だ。
 任せることに同意するようにパンジーはこくりと頷いた。小さな少女はラベンダーに色づく銀髪をふわりと揺らす。愛猫の名を借りた己の小さな身体でも成せることがある筈だ。
(――まるで、泣いているみたい)
 苦々しい思いが口内に溢れる。自己投影をするべきでないと知りながら、どうしても彼女の苦しみに寄り添ってしまう。
 パンジーの感情をひしりと肌で感じ取るスティアは瑠璃桜の衣を翻す。散華の刃が泣き虫なモンスター達へと飛び込んだ。冴えた刃は、天より降った光の如く。神速に咲かせた氷と化した。
 この世界は残酷だ。それでも、残酷ながら優しい世界に生きてきた。少しずつでも、どれだけ途方のない時間が掛かってでも良い。自身等は『長く生きる』のだ。故に、この世界の優しさを知って欲しいとスティアは踏み込んだ。
 IFの『彼女』を一瞥してからイデアはまとめてプルウィアを引き寄せた。ドローン・ライフルが中へと浮かび上がる。
 自身が全てを引き受ける。先に倒れてはメイドの名折れであると引き寄せるイデアは伸びる糸をくい、と引き寄せた。漆黒の騎士が彼女の仕草一つで動き出す。周囲を引き寄せる役目は己にあると胸を張る騎士にイデアは何も申すことはない。
(――アイヴィはお任せしても大丈夫なお二人でしょう。それが、殺人鬼になってしまったフラン様の相手でも。
 私は私の仕事を続けるだけです。メイドとして、望まれたのはプルウィア・コアの撃破。其れまで立ち続けみせましょう)
 イデアの瞳がすうと細められた。水気すら感じられぬ砂漠で砂を食むような絶望感は此処にはない。安堵は信と呼ぶ暖かさよりやってくる。
 二人に、リュカに、ルフランに任せることは信を置くが故。ベネディクトが飛び交うように攻撃態勢に転じるプルウィア達へと圧倒的な存在感を放った。その身こそ、畏れよと告げるような気配がひしりと周囲へと広がって行く。
「さて――」
 ファン・ドルドはその冷たい美貌を宿したアバターの細い指先で長曽祢虎徹を握り込んだ。少女を導く任を達成するために走る少女。彼女のために道を切り開かんとフリオそる刃は変形する。納刀状態で周囲を薙ぎ払い、続くのは抜刀での追い打ち。ヴィジュアル重視のエフェクトに吹き荒れた旋風を追いかけるのはベルンハルトであった。
「大いなる森の守護者プルウィア……最早此処にお前の敵はいない」
 獰猛な獣の如く。牙を剥きだして、嘆きを前にした青年は武器など必要ないとその鋭き爪を突き立てる。
 木々は嘆いている。己を傷つけるモノへの不和に。己を傷つけるモノへの侵略に。尊きファルカウを護るべき己等を害する全てを否定するが如く。
「……止まぬのだろう。なればお前が守るべき土地を荒廃させてしまう前に終わらせてやろう」
 ベルンハルトの鬨(ウォークライ)は高々と響き渡った。美しき淑女が自身の身をも削るならば、狼が其れを見過ごすわけにも行かない。
 命を求める咢は浮かび上がるプルウィアの嘆きすらも捕食する。舞台を整え、全てを任せるは陽色の娘。

「えへへ、また来ちゃった」

 どうしてと言いたげなキラーアイヴィの前でルフランは肩を竦めた。
 救われたいなんて叫ばない。翡翠も、フランも『あたしが救う』のだから、弱音なんて吐いて居られるわけもない。
 ルフランを前にしたキラーアイヴィの悲痛な表情に泣き虫は誰のことなんだろうかと、ルフランは感じていた。
「私の顔をしているのに、プルウィアを傷つけるの? どうして……どうして、『あなたは幸せそうに仲間に信頼されているの』?」
「ううん。あたしだって、プルウィアを護りたいよ。でもね、ごめんね。この暴走は、止めなきゃいけないの」
「木々を傷つけてでも――!?」
 叫ぶキラーアイヴィは『彼女を自分』であると認識している。鏡あわせの自分たち。ルフランは甘い香りを身に纏う。蜂蜜の優しさがその身を包み込む気配を感じながらルフランはぎこちなく笑った。
「よぉ、助けに来たぜフラン」
「――――ッ、」
 リュカを見据えたキラーアイヴィが警戒したように魔術を放つ。伸び上がる蔦に構うことなくずんずんとリュカは歩を進めた。
 其れ等を払い除けたのは竜の剛力。力任せに彼女の心へ触れるようにその身を投じる。
「死んでしまえ!」
「簡単に言うなよ、そんな泣きそうなツラで……思ってもないことを!
 お前だってホントは誰も殺したくねえんだろ! そんなツラでそんなこと言ったって誰も騙せねえよ!」
 見据えるリュカの赤い瞳に全てを見透かされてしまう気がして。キラーアイヴィは叫んだ。

 ――邪魔をしないで! 掻き乱さないで! 全部、『私』の顔をしたあいつのせいで!

 フラン・ヴィラネルは、キラーアイヴィと呼ばれた娘は、『ルフラン・アントルメ』に出会わなければ殺人鬼のままでいられたのに。
 どうして、幸せな自分を目にして冷静で居られようか。己は、人を殺すことでしか心を保っていられなかったのに。
『どうして』の冠言葉ばかりが着いた。緑に全て覆い隠された深き森で閉ざすように少女の魔術が襲い来る。


 ――良いかテメェラ。テメェらは俺の仲間と一緒に泣き虫のプルウィアを倒せ。
 だが危なくなったら逃げろ。これ以上アイツに誰も殺させるんじゃねえ。

 その声音は彼らにとってのボスとそっくりだった。クラブ・ガンビーノに所属した傭兵、否、この世界では盗賊と呼ぶのが正しいか。
 彼らはリュカに「殺人鬼を殺さないんですか」と問いかけた。リュカは只、笑ったのだ。「あんな泣きそうなガキを殺して楽しいか?」と。
 故に、戦場で共闘する盗賊達はベネディクトの言うことをよく聞いた。出来る限り深追いせずに命を大事に動き続ける。
 この世界は唯のデータでコピーだ。盗賊達も、キラーアイヴィすらデータに他ならない。だが、心の在り様を定められずに苦しむ女がデータと言われたならばベルンハルトは笑い飛ばしただろう。
「ならば、ならばそれを救わんとする7人は何故これ程までに己を尽くす?
 ――俺自身が作られただけの存在(データ)だと言うならば、何故これ程までに目の前の笑えぬ者(しょうじょ)を救わんと願うのだ!」
 叫んだベルンハルトに「そうだね」とルフランは呟いた。
「データだから、偽物だからなんて関係ない。あたし達は意思を持って此処に居る。
 ねえ、フラン。アを守りたいならあたし達を殺してみなよ! でも何度死んだって止めに来るよ!」
『あたし』は死なないから。ルフランは胸を張った。盗賊達は死ねばデータがロストする。自分は、何度だって蘇れる。
 イレギュラーズはデスカウントの増加を気にすることはなかった。ルフランが攻撃を受け続け、その膝をつけばベルンハルトが支援へと走る。
 リュカとルフランの二人だけ。少女の思いに応えるように傷を負えども、二人は何度だって復帰すると決めていた。
 あんなにも、泣きそうな顔をしているのだから。
「泣き虫。……なきむし。……ね。貴女も『泣いているの?』」
 泣き虫プルウィアの猛攻が少し緩む。コアへともう少しで手が届くと感じながらパンジーは静かにアイヴィに問いかけた。
「泣いてなんか――」
 否定するようなその呟きに、パンジーはまじまじと彼女を見遣った。プルウィアとキラーアイヴィは似ている。コアと同様に、彼女を形作る心の核は、イレギュラーズによる『攻撃』を受けているのだ。それを壊されるのは屹度恐ろしい。
 救いを願う心を固いからに閉じ込めた彼女。彼女の在り方は自分によく似ているから――傷つけた存在を赦して欲しいなど、言わなかった。
「泣いて叫んで、気が済むまで暴れたらいい。貴女が望むなら何度でも付き合うから」
 パンジーに小さく頷いたスティアは「世界は、残酷だから。泣いたって仕方ないんだよ」と囁く。
 コアへと届く刃が、桜の花びらを纏った。流れるような連撃にプルウィアの反撃が月天へと叩きつけられる。指先が痺れる、それでも尚も。
「――でも、世界は、同じくらい優しいんだ」
「優しいわけがない! 私は、こんなにも……」
 手足は、傷だらけになった。顔に残った火傷は二度とは消えない。己は、救われない存在だと泣き濡れた日々。
 傷ついた心にパンジーは祈るように願いを乗せる。似通った過去は、己を閉ざしてしまうから。プルウィアの嘆きのように、思い切り心の底から泣く事なんてできないから。
「今の貴女を心配し愛している人たちのことを、少しだけ思い出してほしい」
「誰が私なんかを愛するって言うの!?」
 キラーアイヴィの攻撃がルフランの横をすり抜けた。パンジーへと叩きつけられんとする其れをスティアが受け止める。
「……やれやれ。キラー・アイヴィ。いえ、フランさん。貴女の気持ちが分かる、なんて烏滸がましい事を言うつもりはありません。
 ――が、世の中には信じるに値する良い男もいるということを、覚えておいてください」
「ッ、」
 ファン・ドルドの視線がリュカを見ていた。その男の何を信じろと言うのだと叫びださんとする彼女を余所にファン・ドルドはコアを傷つけて行く。
 フランも、プルウィアも同じだとベネディクトは見上げた。
「例え同じ時間を歩んで来た事が無かったにせよ、俺達は今此処にいる。此処にいるんだよ、キラーアイヴィ」
 彼女が『フラン』と別人であろうとも関係はない。お節介焼きな隣人がいることを受け入れて欲しいとベネディクトは笑った。
 プルウィアは泣いている。それの心を『治めること』ができないならば。
「傷つけられた、それが悲しい事は解る。だが、このままでは無関係の者達まで君の様に傷つき、悲しみを広げる事になってしまう。
 プルウィア、許せとは言わない──だが、どうかその矛を収めてはくれないか……刃を握りながら、結局は脅しつけた様な物だな──済まない」
 コアを前に、ベネディクトは刃を振り上げた。コアの反撃をイデアが受け止める。身へと走る痛みなど、気になどならなかった。
「アイヴィ様――」
 呼びかければ、キラーアイヴィの肩がびくりと跳ねた。悲しげな顔の殺人鬼に笑って欲しい。それが己のエゴだと言われても、イデアはその為に身を張り続ける。絡んだ蔦が解けて、唯の一人の少女として笑って欲しいと願うのだから。
 イデアに小さく頷いたリュカはキラーアイヴィへと向けてその一撃を叩き込んだ。
「確かに過去は変えられねえ! 全てをなかった事には出来ねえ! それでもお前は変わって良いんだ! もう一度幸せになって良いんだ!」
「なれない!」
 叫ぶ彼女に「そんなことはありません」とイデアは首を振る。ベルンハルトは少女のかんばせを睨め付けた。
「全て全てどうでもよい! お前が殺人鬼であろうが、救われる事を願わなかろうが!」
 彼女の『上面』なんてどうでも良い。殺人鬼のことなど知らない、キラーアイヴィに語りかけているのではない。
 フラン・ヴィラネルに言葉を尽くしているのだ。キラーアイヴィが躊躇うと刹那に、コアがぱきんと音を立てた。
「プルウィア!」
 叫ぶその指先を通しはせぬとルフランは腕を広げた。救えなくても、傷を知る事は出来るから。
「ばか、あたしのばか!」
 ただ、ぽかぽかと、子供のように叩き続けた。
 彼女は知らないんだ。海の匂いも、サンドバザールの賑わいも、幻想種(あたし)の人生は長い。
 ルフランの肩を抱いて、リュカは叫んだ。手を伸ばす――攻撃に殺意はない。『殺人鬼』の彼女ではない、フランへと言葉を届けて。
「――笑って良いんだ……フラン……!」
 彼女は、笑顔が似合うから。弾け飛んだプルウィアのコアにキラーアイヴィは膝をついた。

「怖いならあたしが一緒に手を引くし、一杯友達だって紹介するから……だから、あたしと友達になろう!」

『殺しても死なないあたし』だから。差し伸べた手に、少女は唯、蹲る。
 友達なんて、ずうっと必要ない存在だった。少女は涙ながらに呟く。
「わからない」
 それでも、もう二度とは『殺人鬼キラーアイヴィ』が人を殺すことがないような気がしてルフランは『自分』をそっと抱き締めた。
「ゆっくりで、いいよ」
 ――あたしたちは、ずうっと長生きだから。

成否

成功

MVP

リュカ・ファブニル(p3x007268)
運命砕

状態異常

ルフラン・アントルメ(p3x006816)[死亡×3]
決死の優花
リュカ・ファブニル(p3x007268)[死亡×3]
運命砕
ベルンハルト(p3x007867)[死亡]
空虚なる
イデア(p3x008017)[死亡]
人形遣い
ベネディクト・ファブニル(p3x008160)[死亡]
災禍の竜血

あとがき

 お疲れ様でした。
 彼女にとっての救いは、一筋縄ではいかないのでしょう。
 けれども皆さんの声は確かに届いたと思います。より、響く言葉だと感じた方へMVPを差し上げます。
 また、次の再会の機会があれば、普通の女の子としての過ごし方を教えてあげて下さいね。

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