PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Closed Emerald>your younger sister

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「皆のコピーが現れたんだ」
 そう告げたのは『踊り子』ローズマリー(p3y000032)。けれど彼女はいや、とすぐに訂正した。皆のコピー、というのは当たらずとも遠からず。正しくはログアウト不能になったアバターのエラーデータである、と。
「いつそんなことをしたのかはわからないけれど、相手はこの世界にバグを撒けるからね。知らない内に解析されてたんだと思う。そのデータを転用しているみたいだ」
 中身は無い、ノンプレイヤーキャラクターである。しかし彼らはバグにより発生したNPCであり、プレイヤーが動かすアバターとは能力の程度なども異なるらしい。
「彼らは『パラディーゾ』と名乗っているよ。彼らを翡翠から追い出すことがクエストとしての主目的みたいだ」

 翡翠。それはネクストに存在する一国であり、現実で言えば深緑と同等の国家である。しかし現実よりも排他的で過激的な彼らは、先日突然にサクラメントを一斉停止させたのだ。

 ――『余所者』が翡翠を荒らし、『大樹の嘆き』が現れている。

 この調査結果に、しかしイレギュラーズはどういうことなのかと眉をひそめていた。プレイヤーである誰かが翡翠に無作法を働いたと言うのだろうか? それとも、どこぞの国家が秘密裏に攻撃を加えていたのか。
 そんな疑問は、いよいよ翡翠の封鎖が完了しようというところで『余所者』自身らにより解消されることになる。
「彼らは、翡翠各地にある大樹へ攻撃を加えたそうなんだ。本来なら援軍を受けてでも撃退すべきなんだけど……お国柄が、ね?」
 ローズマリーが言いづらそうに言葉を濁す。つまりは、まあ、援軍なんてものも許せないのだ。外の者も余所者であると一括りにし、敵として認識しているらしい。
 もちろんそのような者ばかりではなく、此度のクエストは翡翠の穏健派から出されたものだ。停止していたサクラメントも解放されている。
「彼らがお上の人を説得してくれる。ボクたちはその足掛かりを作るんだ」
 それが即ち、話戻って――パラディーゾを翡翠から追い出す、という話なのである。



 さく、さく、さく。
 さく、さく、さく、さく。
 軽やかな足取りで彼女は森を進んでいた。煌めく愛の力は兄と姉を想う妹の心。溢れるそれが木々に穴を開け、地面を抉り、大樹の幹に傷をつける。その様を見て彼女は――『ルージュ』と同じ姿をしたものは、嬉しそうに笑った。
「いい感じ! こんなもんかな? もっとやっておけばにーちゃんねーちゃんたちが喜んでくれるかな!」
 赤ずきんのような赤色が翻る。しかし彼女は低い唸り声に足を止めた。
 彼女へ威嚇する数体の獣。それはただの獣でも、モンスターでもない。
「大樹の断末魔……いや、大樹の嘆き? だっけ」
 彼女は首を捻りながら知識を引っ張り出す。翡翠の中にはあれを『大樹の嘆き』ではなく『大樹の断末魔』と呼ぶ者もいるのだとか。
 ともあれ、名称で変わることなど何もない。
「でもさぁ。おれと戦うより、もっといい戦い相手がいるんだぜ!」
 彼女はとん、ととん、とステップを踏んで――データを書き換える。ほんの少しだけバグを仕込んで、自分とそれに連なる者へは攻撃をしないように。
 大樹の嘆きと呼ばれたそれらは、程なくして従順な姿勢を見せた。にっこり笑った彼女は再び大樹を攻撃し始める。
「おれたちの邪魔をしようってヤツが現れたら、頼むぜ、皆!」
 明るい彼女の声に、獣たちは悲しそうに鳴き声を上げた。



 どうして。
 このような仕打ちを受けなければならぬのだ。
 いたい。いたい。
 何もしていないのに。
 苦しい。悲しい。
 枝を伸ばせなくなってしまう。
 水を吸い取ることができなくなってしまう。
 いけない。いけない。このままでは。

 守らなくては――■■■■を。

GMコメント

●成功条件
 バグNPCの撃退

●情報精度
 このシナリオの情報制度はCです。
 不測の事態に気をつけてください。

●フィールド
 迷宮森林内。天候は問題ありません。
 翡翠各地に存在する大樹の一つがほど近くにあります。

●エネミー
・『天国篇第二天 水星天の徒』ルージュ
 ルージュ(p3x009532)さんのデータを模したバグNPCです。パラディーゾという団体に属しており、そこの仲間のことを兄、姉と慕っています。
 小柄な少女ですが、妹の力は超絶大。高い攻撃力と回避力を併せ持つ、非常に危険なエネミーです。
 その手数の多くは不明ですが、『愛の力』という強力な貫通攻撃は確認されています。

・大樹の嘆き×5
 傷つけられた大樹により放出された防衛兵器、のようなもの。しかしバグデータによりパラディーゾのメンバーのみ狙わないよう操作されています。他は至って正常ですので、皆様が駆けつければ『守るために』立ちはだかるでしょう。
 反応と多数に長けており、その技で相手を翻弄します。


●友軍
・『踊り子』ローズマリー(p3y000032)
 皆様と同じプレイヤーキャラクター。そこそこ戦える物理アタッカーです。味方と同じ姿に思うところはあるものの、全く別の存在として割り切っています。
 指示があれば従い、なければ大樹の嘆きから倒しにかかります。

●ご挨拶
 愁と申します。
 ルージュさんのバグNPCが発生したようです。大樹を守るため、立ち向かいましょう。
 それでは、よろしくお願いいたします。


●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●重要な備考
 <Closed Emerald>には敵側から『トロフィー』の救出チャンスが与えられています。
 <Closed Emerald>ではその達成度に応じて一定数のキャラクターが『デスカウントの少ない順』から解放されます。
 但し、<Closed Emerald>ではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。

●『パラディーゾ』イベント
 <Closed Emerald>でパラディーゾが介入してきている事により、全体で特殊イベントが発生しています。
 <Closed Emerald>で『トロフィー』の救出チャンスとしてMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
 MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
 但し、当シナリオではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。

  • <Closed Emerald>your younger sister完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年11月09日 22時26分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラピスラズリ(p3x000416)
志屍 瑠璃のアバター
梨尾(p3x000561)
不転の境界
ロード(p3x000788)
ホシガリ
スティア(p3x001034)
天真爛漫
ダリウス(p3x007978)
尾を喰らう蛇
壱狐(p3x008364)
神刀付喪
アズハ(p3x009471)
青き調和
ルージュ(p3x009532)
絶対妹黙示録

リプレイ


 その周辺は、あまりにも静かだった。
 動物の気配がしない。彼らは逃げてしまったから。
 風が流れて行かない。精霊が止めてしまったから。

 何者をも歓迎することのない張り詰めた空気は、しかし大樹の嘆きが生まれたとあっては当然と言うべきであった。
「よりにもよって翡翠の大樹を攻撃するなんて……」
 むぅ、と『天真爛漫』スティア(p3x001034)は唸る。そこに住まう民が怒るのもわかるし、大樹だって生きているのだ。悲しみ、苦しんでいるだろう。
「でも……だからこそ、かな。今の大樹は何者も寄せないつもりだろうね」
 『踊り子』ローズマリー(p3y000032)はこれまで寄せられていた情報を思い返す。大樹の嘆きと呼ばれるモノは無差別に攻撃をしかけ、発生した周辺を更地にするまで止まらぬかのように暴れるのだ。それが余所から入って来たモノかなど関係ない。幻想種であろうと、これまで長い時を共にしてきただろう同胞(植物)だろうと、向けられる敵意に関係はない。
「その大樹の嘆きを起こした……翡翠を荒らしたのがパラディーゾ、だったか」
 『アルコ空団“路を聴く者”』アズハ(p3x009471)は見えてきた大樹に視線を向ける。まだ遠い。けれどもう近い。そこにも今回の『元凶たるパラディーゾ』がいるのだろう。
(犯人がエラー存在だろうというのは想像がつくが、まさかアバターデータを使ってたとは)
 全くもって趣味の悪いことである。現実世界でも妖精郷アルヴィオンにてイレギュラーズそっくりの敵性存在がいた、という報告書はあったが、ゲームの世界でまで出なくても良いだろうに。
「ともかく、大樹をこれ以上傷付けさせてはいけない」
「ええ。周りの自然も、大樹も、守りましょう」
 『燃え尽きぬ焔』梨尾(p3x000561)が保護方陣を展開すると同時、自らを強化したアズハが駆けだしていく。そこにいる獣たちと、小柄な影へ技をぶつけにかかるが、その影はひらりと木の葉のように空へ跳んだ。
 赤いマフラーがその軌跡を描く。その先へ小石が――おおよそ小石とは思えぬスピードで――飛んだ。
「あたっ」
 その影は身体にぶつかった時こそ短く悲鳴を上げたものの、そこまで大きなダメージになっているようには見えない。そしてくるりとイレギュラーズたちの方を振り返って。
「にーちゃんたちとねーちゃんたち、遊びに来てくれたのか? でもごめんな、おれ今すっごく忙しいんだ!」
 その姿は『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)と酷似している。けれどもイレギュラーズたちの中にルージュは紛れているから、相手は別人だ。
(匂い、声……基本的なデータは同じ……?)
 梨尾はその声や匂いを探るが、ルージュと遜色ない様に感じる。しっかりと比べたならわかるのかもしれないが、この場においてそのような暇も隙もない。パラディーゾの前へと獣たちが立ちはだかり、イレギュラーズたちへ向けて威嚇しているのである。
「残念ながら、あなたを倒しに来ました」
「ふーん? でも邪魔をされるわけにはいかないんだよなー」
 な? とパラディーゾが促せば、大樹の嘆きたる獣たちがイレギュラーズへ向けて飛び掛かり、牙をむく。ローズマリーは飛び掛かって来た1体をナイフで受け止め、横へと受け流した。しかし着地と同時に態勢を変えた獣はあらぬ方向から再び攻撃を仕掛ける。
 その姿はどう見ても、パラディーゾの手先であった。
(己を傷付けた相手から身を守らんと現れたものを、奪い取って護身と成す……効率は良いのでしょうね)
 許容は出来ないが、と『志屍 瑠璃のアバター』ラピスラズリ(p3x000416)はより広く場を見る為に視界を広げていく。これを倒したならば、翡翠との関係改善が進むことだろう。
「ローズマリー、そのまま大樹の嘆きの相手を頼む。仲間の攻撃に注意してくれ!」
「わかった!」
 彼女からの返事を聞きながら『バンデッド』ダリウス(p3x007978)は影を纏う。何人たりとも『影を捕まえる』ことなんて、できやしないのだ。
「NPCだけどNPCじゃない……? うーん」
 なんだか嫌だな、と顔を顰めた『ホシガリ』ロード(p3x000788)は小型プログラムのサポートを受けながら魔術を展開する。それを大樹の嘆きへ放てば、キャインと悲鳴が上がった。

「――あんたがコピーされた"おれ"なんだな」

 ルージュは束の間、自身と瓜二つのパラディーゾと相対する。正直な所、同じデータを持っているのならば彼女は後回しにする方が得策のはずなのだ。
「ああ、そうだぜ! おれは『天国篇第二天 水星天の徒』ルージュ――あんたの妹だ」
 パラディーゾにも分類があるらしい。水星天の徒という位にいるらしい彼女に、しかしルージュはびしりと指先を突き付けた。
「当たり前だけど同じデータから産まれたんだからソックリだ。だけど『妹』の誇りにかけて"妹勝負"だけは負けるわけにいかねーんだ!」
 どちらも『妹』を自称する存在である。ならば互いにどちらが『妹』であるのか、白黒つけなければならない。そしてルージュは黒星を取るつもりはさらさらない。
「だから、あえて呼ぶぜ。あんたの事は『ねーちゃん』ってな!!」
「それならおれも引くわけにはいかねーよな、『ルージュねー』!」
 呼び方は違えど、双方一歩も引く気はない。妹というアイデンティティを失うのは、果たしてどちらなのか。
 自身を強烈に高めるルージュの脇をすり抜け、スティアのもつ二振りの刀身が鞘より抜かれる。大樹の嘆きたちの攻撃を誘うような『刃物』の煌めき。
(パラディーゾ達の思い通りにさせる訳にはいかないんだから!)
 幾体かを引き付けたスティアは大樹から離れるように動く。この戦いの最中にも大樹を傷付けられては、また新たな大樹の嘆きが生み落とされるかもしれない。そうでなくてもパラディーゾたちがこの大樹を傷付けようとするならば、阻止しておいた方が良いだろう。
 それらを『妖刀付喪』壱狐(p3x008364)は攻勢の構えを取りつつ、何か情報が得られないかと目を凝らす。バグだからと言われてしまったらそれまでだが、仮にも防衛機構と称される存在である。それを敵に奪われるのはただ事ではなく、必ず入り込んだ箇所が存在する。彼らの動きを観察するのは勿論のこと、干渉した痕跡が見つかれば倒さず無力化だってできるかもしれない。
「あなたは自分がまとめて相手しましょう」
「あ、梨尾にーとそっくりだ!」
 燃え盛る炎が流れていく様を横目に、パラディーゾの彼女は梨尾の姿を見て目を輝かせる。反して梨尾はひくりと口元を引きつらせた。
 彼女が言っているのは梨尾のデータで生まれたパラディーゾの事だろう。梨尾が彼にそっくりなのではない。彼が梨尾にそっくりなのだ。それに。
「自分と似ているその子はあなたの兄ではありません。自分の弟です! 父兄を差し置いて妹を名乗るな!」
「梨尾にーは梨尾にーだぜ? それに妹であることを名乗らなくったって、妹であることに変わりはないんだ。にーちゃんが兄だって思ってるのと一緒だな!」
「一緒にしないでください!!」
 嗚呼、全くもって腹が立つ。しかし梨尾の放つ炎を遊びのようにひょいひょいと避けるパラディーゾは瓜二つの兄に興味深々のようだ。
「今のうち、ってとこか?」
「ああ。畳みかけよう!」
 ダリウスはデータ解析のエフェクトを発しながら大樹の嘆きの動きよりも早く攻撃を叩きつける。反応速度なら負けない、負けられない。アズハも続いて攻撃を放ち、敵を軽く吹っ飛ばす。
「こちらも早々にご退場頂かないといけませんね」
 ラピスラズリの攻撃がパラディーゾを庇うように立っていた獣へと降りかかる。パラディーゾ自身にかかってしまいそうな攻撃も庇われてしまったが、それならそれで良い。
「あとでちゃんとバグを直してやらないとな」
 ロードの貫通攻撃がスティアの引き付けていた敵、そしてパラディーゾの方まで突き抜けていく。パラディーゾは避けられてしまうかもしれないが、大樹の嘆きたちは上手く捕らえられただろう。
(自分を傷つけた本人たちを狙うべきだろうけど、これもパラディーゾのせいなんだろうな)
 彼らの動きを見るに、パラディーゾへ立ち向かおうとしたところで細工されてしまったか。所詮は彼らもシステムなのだと思わされる。
「ロードにーにも負けてらんねー! 行くぜ! ルージュアターック!!」
 ルージュもまた同じように愛の力をぶっぱなす。しかしまだ立ち上がる獣たちは、まず自分らの気を引いたスティアへと飛び掛かった。それらを受け流し、受け止め、スティアは流れるような連撃を放つ。
「簡単には倒れないよ!」
 ふわりと舞った花弁は、まるで親友から背中を押されているよう。嗚呼、例え厄介な敵だとしても屈するわけにはいかない!
「防衛機構なのに乗っ取られるとは……バグが一枚上手だったにしてもセキュリティに難ありですよ!」
 壱狐は喝を入れるが如く、術式を纏った神刀を振り下ろす。すかさず返してもう一太刀。彼らを観察した彼女はその柔らかそうな箇所――データ的にはウィークポイントと呼ばれる場所――へ止めどなく攻撃を与える。最後の一太刀を浴びせた時、大樹の嘆きは崩れ落ちてデータを霧散させた。



 梨尾とパラディーゾは対峙していた。執拗なまでに攻撃には、さしもの彼女も大樹にかまけていられないと思ったのだろう。
「大切な人が喜ぶとしても、自然を破壊していい理由はありません。愛は免罪符じゃありませんよ?」
 このまま悪事を続けるようであれば、自身だけでなく兄や姉も酷い目に遭うかもしれない。そう示唆するもパラディーゾはあっけらかんとした表情だ。
「にーちゃんたちもねーちゃんたちも強いんだぜ? 早々あんたたちには負けねーもん!」
 まるで子供のような――実際子供の姿ではあるが――言い分である。痛い目を見ないと分からないのもこの年頃くらいだっただろうか。
「パラディーゾの攻撃がきます!」
 視野を広げていたラピスラズリの声に緊張が走る。兆候は読めたものの、伝達からの回避行動へ移すにはあまりにもあっという間な時間。放たれた謎の光に、それでも幾人かは難を逃れる。
「これでバグが取れると良いのですが……!」
 壱狐の攻撃に大樹の嘆きが地へ沈む。それが元に戻ったかは定かでないが、いずれにしても倒されたデータは電子の海に還ってしまうのだろう。少しでもバグを取ってから還したいものだ。
「それにしたってしぶといね……!」
 スティアは桜の花弁を舞わせ、一太刀。けれど彼らの攻撃は手数でその回復力を上回ってこようとする。
「――ぐ、」
 その前へ立ちはだかったのはダリウスだ。スティアを庇った彼のHPが勢いよく削られる。それでも、肉壁の一枚や二枚になれるのならそれで良い。
「今のうちに叩き込め!」
 ダリウスに庇われながら、スティアは刀を振るい自らを癒していく。梨尾はそこへ火を放ち、全てのヘイトを自身へと促した。血の臭いが濃い。暫くは自分1人ででも受け持って見せなければ。
 とはいえ、大樹の嘆きは半数ほどが撃破された。パラディーゾへその矛先が次第に向いていく。
「これを避けられたら大したものだ」
 アズハはより狙って、その一撃を叩きつける。命中と回避に秀でた敵だが、躱しきれない攻撃であれば?
「おわぁっと!」
 掠ったような音を聞き取ったアズハ。その声も、足取りも――いっそ気味が悪い程に同じ。自身のパラディーゾもこうなのだろうか。
「なあ、ルージュ! 慕うのはお前のところの団体じゃなくてもいいんじゃないか? 例えば、そう、俺達を兄とか姉って慕ってみるのはどうよ!!」
 物は試し。そんなロードの提案に攻撃をいなしながらパラディーゾが目をぱちりと瞬かせる。
 彼女は恐らく、いや絶対強いだろう。なればこそ、出来るだけ戦わず無力化させたいのが正直な所であった。少なくともロードは戦いたくて戦っているわけでもないのだから。
「おれ、皆の妹だぜ?」
 敵味方関係なく、自分は誰もの妹なのだと。
 そんな彼ににかっと笑ったパラディーゾは、でもと続ける。
「邪魔をするならにーちゃんたちでもおれは戦うんだ。ごめんな、にーちゃん」
 彼女の掲げた武器が淡く光り、それをイレギュラーズたちへ向ける。光は凝縮して――愛の力を放出した。
「っ……!」
 すぐさま陰の構えで回復する壱狐。ラピスラズリの攻撃に続いてスティアが神速の居合を放つ。これまで受けた痛みも力に変えて、鋭い刃がパラディーゾへ迫った。
「ねーちゃん、こっちも行くぜ!」
 その言葉と同時。本物のルージュから放たれた愛の力がパラディーゾを呑み込む。ぴょんとそこから飛び出したパラディーゾによる攻撃から、スティアは仲間の1人を庇った。
(私がいる限り、手は出させない……!)
 ローズマリーのナイフが最後まで残っていた大樹の嘆きを倒す。これで正真正銘、あとはパラディーゾのみ。梨尾は最期の力を振り絞ってパラディーゾを引き付け続け、アズハの狙いを定めた攻撃がパラディーゾを追い詰めていく。
 パラディーゾの乱発する愛の力がイレギュラーズたちを蹂躙していくが、こちらとて必死だ。仲間が繋いでいってくれる先に攻撃を叩きつける。死んだら最寄りの――とはいっても十分遠い――サクラメントから全力で駆けて戦線復帰する。
「片を付けましょう!」
 ボロボロになった壱狐が最大の一撃を構えた。あとはひたすら打ち込むのみ。
(ねーちゃんだって、ボロボロじゃねーか)
 勝機を見た。あとは掴むだけとルージュは武器に愛の力を貯める。
「わりーな『ねーちゃん』。あんたにとっての敗因はな。

 ――おれには、今ここに一緒に戦ってくれるにーちゃん、ねーちゃん達が沢山居る事だぜ!!」

 光の奔流がパラディーゾを呑み込む。傷だらけになりながらも未だ立つパラディーゾ、だが。
「いってて……これはちょっと不利かな?」
 少女は顔を顰めた。ぐるりとイレギュラーズを見回して、さらに死んだ者が全速力で帰ってくるところも見て、彼女は自らの考えに決断を下したらしい。
 そしてそこからの彼女は早かった。
「今日は帰るけどまた遊んでくれよな、にーちゃんねーちゃんに――ルージュねー!」
「おれが妹だぞー!」
 ルージュの反論を聞いてパラディーゾはにっと笑いながら、あっという間にその姿を小さくしていく。森の向こうへ消えるまで、数秒といったところか。
 確実に仕留めるなら追いかけるべきであった。しかし誰もが分かっていたのだ。ここで追いかけても仕留めきるほどの余力はなく。なにより大樹の方が気にかかったのだ。
「……樹木医の心得はありませんが、荒らしてしまった土地をいくらかでも元の状況に近づけておきましょう」
 小さく目を伏せるラピスラズリ。傷ついた大樹に何も出来ないのが心苦しいが、だから何もせずに戻るよりはマシだろう。
「パラディーゾが傷付けたのは……うわ、酷いな」
 アズハは大樹の周りをぐるりと一周し、大樹の傷を見る。細かな傷も多いが、何か所かは抉れるような大きな傷がある。愛の力によるものだろう。あとで翡翠の民に報告しておかなければ。
 できうる限りの原状復帰を行ったイレギュラーズたち。彼らをいたわるように、小さく風が吹いた。

成否

成功

MVP

ダリウス(p3x007978)
尾を喰らう蛇

状態異常

梨尾(p3x000561)[死亡]
不転の境界
ロード(p3x000788)[死亡]
ホシガリ
スティア(p3x001034)[死亡]
天真爛漫
ダリウス(p3x007978)[死亡×3]
尾を喰らう蛇
壱狐(p3x008364)[死亡]
神刀付喪

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 いつかまた。どこかで決着をつけましょう。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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