シナリオ詳細
時読めぬ絡繰人形
オープニング
●
豊穣の国には『絡繰り人形』なる存在がある。
それはかの国独特の機械仕掛けの人形。
歯車や糸などを用いて作られた玩具――である、が。
モノによっては『玩具』などという枠組みに収まらぬ絡繰りもあるものである……
「くそ――またやられたのか」
「ああ。これでもう三件目だぞ……」
ある民家。その前にいるのは刑部省――つまりは警察機構を司る者達だ。
彼らの眼前にあるは死体が幾つか。
全て鋭き刃物かなにかで切り刻まれる痕が残っており、凄惨極まる現場となっている……しかし真に酷いのはこれが既に――彼らが零した言葉の中にあるように、複数件目の事態であるという事だろうか。
豊穣の街中の一角で起こる連続殺人とも言うべき事件。
犯人は今の所分かっていない――が。
「辛うじて逃れた生存者によると……犯人は『六つの腕』を持っていたらしいが……」
「――まさか。怪物か何かだとでも? ありえないとまでは言わんが、しかし……」
いくつかの目撃情報だけは入手出来ていた。
犯人は『六つの腕』を持ち『それぞれに刀や槍』を抱いているらしい。
六つの腕を持つ怪物、ならまだ分かる。しかしそれが刀なども持ち巧みに操るというのであれば只の怪物や妖の類という訳ではなさそうだ。
この世界には『外』より訪れる『旅人』――
カムイグラの言語では『神人』ととも呼ぶが……そういう存在もいるのであれば、六つの腕を持つ人物もいない訳ではないかもしれない。しかし神人よりも先に刑部省の者達が想像したのは。
「――もしや絡繰り人形であろうか?」
「うむ……その可能性がありそうだな」
『絡繰り人形』。ただし人形とは言っても、彼らが言葉にしたのは……別の国の言葉で言うなら『ゴーレム』というニュアンスが近いだろうか。巧みな歯車や、あるいは何らかの神秘性を宿した絡繰り仕掛けの人形は高度に動く。
主人たる存在に従って。いや或いは、主人が不在となって暴走したという可能性もあるか。
「いずれにせよ次なる事件は防がねば。民が不安になろう」
「事件の発生日時と場所の移動から考えると、次なる出現箇所はある程度予想できるが……しかし我らだけではなんとも、十分な警備を敷けるとは言い難い。如何したものか」
――ともあれ。犯人はどうも夜、誰もが寝静まった頃に民家を襲う様だ。
これまで発生した三件の発生現場を点と点で結ぶと……次なる場所の割り出しはおおむね住んでいる。しかし正確に『此処』だと割り出せたわけではない。確実なる迎撃の為、全域をカバーする為には多くの人員が必要となるが――無尽蔵に人材がいるのであれば最初から苦労はせぬ。
「――やはり、神使らに援軍を頼むとしようか」
故に。手が足りぬ所へは、実力と信頼も確かな者達に頼むとしよう。
神使。巫女姫の動乱を退けた彼らであれば――必ず――
●
――主人の命は『敵の殲滅』であった。
『よいか……次なる戦、巫女姫様らが必ず勝利しよう。
であれば敵は逃亡、四散するに違いなし。それを貴様らは切り殺すのだ――』
それまでこの倉で伏せておけと。この倉の扉が開くまで、と。
その命が出されて既にもうどれほどの日が経ったか……しかし『彼ら』は認識しない。
巫女姫らとの戦いがもう既に過去のモノであるなどと。
豊穣の地に平穏が戻っているなど……作り出された『彼ら』は知らぬ。
巫女姫ら側として戦いに参加した主人が死んだことも、知らぬ。
ただただ待ち続けていた。己らの出番が、至るまで。
「――獄人滅スベシ。起動」
そして彼らは――偶然に倉を漁る者が出てきた事により、動き出す。
外の光は彼らにとっての始まりに等しく。
故に夜な夜な切り殺しに出かけるものだ。
獄人を。下劣なる鬼を。主人の命をと――果たす為に。
忠実にして、故に時代を読めぬ彼らは今日も動き出す。
その名は、絡繰り人形『阿修羅像』
六つ腕の戦人形は闇夜を駆けて――命を奪いに参上す……
- 時読めぬ絡繰人形完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年10月31日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
豊穣の闇夜を殺意が駆ける。
意義なく意味なく、されどそれらが絡繰り仕掛けの定めであれば。
唯々ソレを果たすのみ。
「主人亡き今も己の使命を全うする人形と言えばまあ、一般的には泣かせる話ですけど。
ただ其れが殺戮機械ってんだから、質の悪い置き土産なのよねぇ……
残念ながらこのお話の行く末は魑魅魍魎が倒されるだけの三文話と同類かしら」
しかしそれも今宵限りと。『律の風』ゼファー(p3p007625)は天を見据えるものだ。
この街のどこかに『奴ら』はいる。
敵意を探知する術を走らせながら、人形話の終焉目指して――彼女も動き出すのだ。
とにもかくにもまずは人形共を見つける事。
その為に神使達は二手にまずは別れた。
「職人としては良く動いている――と言いたいところだが既に終わった戦いも認識出来ずに殺戮を尽くすようではな。まぁ、好意的に見るなら人形に罪はなく、作り手が良くないといえるかもしれんが」
「いずれにせよ敵味方識別機能関連に大いに問題がありそうな個体は放っておけませんね……これ以上の辻斬り事件は見過ごせません。破壊しましょう」
その内。ゼファーと共に行動を起こした中には『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)とロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)の姿もあった。広く周囲を見渡せるだけの注意力をもってして錬は探り続ける――
見つけることが出来れば、預かったファミリアーによる使い魔越しにもう一つの班にも連絡を取る予定だ。ゼファーが敵意を探り、錬が周囲を俯瞰するように観察し、ロウランも周囲を警戒。
更にそこへ『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)の優れた三感も加わるものだ――
「絡繰り仕掛けの人形……事戦闘に関したら厄介かもしれないッスけど、その動く音が人間と同じな訳がないッス。違いのある音を見極める事が出来れば、見つける事もしやすくななすッスよ……!」
奴らは全身が人……いやそもそも生物ですらない。
ならば必ず違う。その足音は、駆動音は。故に『耳』を重点的に集中させ――彼女は探る。
そして、もう一つの班もまた同様に人形共を探しつつあった。
「うう……お姉ちゃんと一緒じゃないんだ……そっか……うん……カナ、頑張るよ……」
その内の一人が『二律背反』カナメ(p3p007960)だ。
敬愛すべき――というような段階を二足も三足も飛び越えるお姉ちゃん――と一緒じゃないのは残念だが、まぁこういう事もあるかと己をなんとか持ち直す。夜な夜な動く人形が人殺しをするなど、あぁまったく恐ろしい話だ――
「あはは! でもでもお化けじゃないんだもんね!」
けれど怖くもなんともない。いやむしろ高揚が止まらぬというべきだろうか。
人殺しをする程の『痛み』……一体どれ程の『痛み』を齎してくれるのか……
うぇへへ……♪ 思わず早くなる鼓動を押さえて、周囲を探索していれば。
「絡繰り人形! いいわね、つまり異世界のゴーレムでしょう? 文化の違うゴーレムだなんて興味があるわ……どういう構造や構成してるのかしら。上手い事倒したらバラしても問題ないわよね」
カナメとは別の意味で高揚感が訪れていたのは『在りし日の片鱗』ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)だ。
絡繰り人形とは……所謂和製ゴーレムとも言える。故にこそ、彼女にとっては興味の対象でもあった――高鳴る胸の鼓動は、さて。しかし勿論仕事である事も忘れてはいない。
「ああ……仕事は仕事で勿論ちゃんとやるから心配しないで頂戴。
と言っても、探すのは任せる事になりそうだけどね」
「さてさて。なるべく早くに見つけることが出来ればいいんすけどね……」
暗きを見通す眼をもってジュリエットは周囲を捜索し、同時に『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)は錬と同様に周囲を俯瞰するが如き広い視点をもってして――人形の探知に当たる。
人形たちに『悪意』の類はないのかもしれない。
けれど、ただ穏やかに暮らす――それすら許されないなんて。
「酷っすよ。枕を高くして眠れるようにしましょう」
「『心芽生えし絡繰りが、亡き主の想いを遂げる』と表現すれば心打たれるものもありますが……これは古き命令に従うだけの物体であります。いや、ここまで無差別であれば、もはや妖怪の類とも断じられましょうか――町の平穏の為、早急に壊してしまわねば」
慧の言葉に頷くように述べるのは『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)だ。
生憎と――不運を齎すだけの絡繰りを許容するには、この世界は狭すぎる。
彼らを生かしてはおけぬと、周囲を窺いながら同時に彼女は別班に預けたファミリアーと五感を共有し、あちら側の状況も確認するものである。位置は今の所どこにいるか……離れすぎてはいないか……
いざ敵と戦闘という時にすぐに駆け付ける事が出来ない、では意味がないからだ。
一定の距離を開けながらも平行的に移動できるように気を付けながら皆は進む。
どちらの班も、この闇夜のどこかに潜んでいるであろう人形を見つける為に……
――と、その時。
「……ッ! 今なにか『妙』な音がしたッスよ……そっちの路地裏ッス!」
気付いたのは鹿ノ子だった。彼女の優れた感覚が妙な気配を捉えた――
一般人? いやいや違う。これはそういった生易しい代物ではない。
聞こえてくるは歯車の音。全身が精密に駆動する……人外の領域。
「――障害発見。障害ヲ排除シ、命ヲ続行」
「はは――仕事熱心は大いに結構! ですけど、躾がどうやらなってない様ねぇ」
現れる絡繰り人形。時に取り残された――只の遺物。
相対するようにゼファーが槍を構え、そして。
「ご主人とやらは近所迷惑って言葉は教えてくれなかったかしら――
あの世でもう一度教育されなさいな」
往く。
彼らの生を終わらせるために。置いて行かれた者達を、辿り着かせるために。
●
邂逅すぐさま激しき金属音が鳴り響く。
絡繰り共の剣撃だ――人ではない速さをもってして、人を滅さんとしている。
これほどの性能。只の粗悪な絡繰りではないと錬は思考する――が。
「全く、戦闘能力が十分あっても認識判断がお粗末では……
戦闘人形としてもガラクタだと言わざるを得ないな!」
だからこそ惜しいと。言いながらにして紡ぐは式符だ――
それは炎の大砲を形成する。放たれる火弾は色鮮やかにして、周囲を焼き尽くす大爆発を伴おう――自らに秘められた力を開放し、自らの神秘性を高めていれば尚に威力は挙がる。乱戦となる前の初手にてその一撃を投じれ、ば。
「人形の構造はよく分からないッスけど、仮に痛覚がないとしてもダメージは蓄積される筈ッス! 無敵の存在なんていなければ――必ずいつか打倒できるッスよ!!」
「さてさて。お利口さんに全部揃ってるみたいだし……ここを逃す手はないわね」
次いでゼファーと鹿ノ子が前へと。無機質にして冷徹な殺意と敵意を感じながら――しかしその毒牙を躱す。鹿ノ子の一撃、いや三撃が人形共に繰り出され――そのまま押し切らんとするが如くの流れにて攻撃の手を途絶えさせない。
同時にゼファーもまた人形を一体相手取り、その撃を受け止めよう。
敵の狙いを引き付け後衛には通さんとして――隙あらば一手を。
速度。生かしたソレはさながら質量を持つ残像が如く……
人形の眼にすら捉えきれぬ勢いをもって――槍が繰り出されて。
「ギギ……排除。至急、排除」
「……災いは忘れた頃にやってくる、というやつですね。このような産物がまだまだ残っていたとは……せっかく平和になったんですから、置物でいてください。永遠に」
が、それでも人形らは止まらぬ。刀を、槍を振るって前へ前へ。
であればそこへと至るのがロウランの魔砲だ――
自らの全霊を此処に、刹那の合間に放つ魔力の収束が全てを貫く。
仲間には当たらぬ様に機を窺ってからの一撃だ。人形らを穿ち、少なくない傷を与えて……
瞬間。そのロウランに投じられしは――人形共の、矢か。
「射手ヲ排除。排除!」
「そうはさせるか――ッスよ!!」
六つの腕を巧みに使い構えられる弓――だけれどもそう好きにはさせぬと鹿ノ子が一閃。
「その邪魔な六つの腕、一つずつ破壊してやるッスよ!
そんなに腕があるのなら、多少無くなっても困らないッスよね!!」
「もしも腕を失えば全てが終わるなど、なかろうな? それは欠陥だぞ」
まずは奴らの腕を塞がんと斬撃を振るうのだ。続いて錬も、氷の薙刀を鍛造すれば言の葉を紡ぐ。
もしも、どこか一つでも壊れれば機能停止するのは――あらゆるモノが精密過ぎて替えが効かないのは『欠陥』であると。遊びがない人形は長持ちせぬ。その真価がはたして彼らにあるかないか……試すように一帯をなぎ払う一撃を。
――が。人形らの攻勢は時を経る事に、より猛烈となっていった。
六つの腕。人では実現できぬ動きが激しさを濁流が如く。
四人では抑えきれぬか――? 段々と押され始め、しかし。
「絡繰りの『時』。永劫に進まんとするその歩みを、今こそ止めて差し上げましょうぞ。
……主らのあるじは、既に亡い。ゆえに」
その時、至ったのは――分かれていたもう一つの班であった。
飛び込んできたのは希紗良だ。ファミリアー越しに連絡を受け取った彼女らが、間に合ったか……彼方より飛来する刀撃は、距離あろうとも両断せんとする殺人剣が一端。
「はいはーい、あなたの相手はカナがするよ♪ ねぇ殺す為に生まれたんだよね? 人を、敵を! だったらさカナに見せてみてよ! その力を――殺せるものなら殺して見せてよ!」
「やれやれ間に合ったっすかね。話しには聞いてましたが、とんだ形相の人形達だ事で……」
更に続いてカナメと慧も至るものだ。
耳に届く機械音が近くなる度、カナメは高揚が自らを満たしていく感覚を感じていた――そしてその姿を捉えれば真っ先に前へでて彼らの注意を引かんとする。こういう無機質な連中は煽ってもあまり意味が無い事だけは残念だが、まぁたまには真面目にしようかと。
刀で往く。人形らの撃を受け止め、そして慧もまた前衛として盾として前線へと。
「誰の殺意で刃を向けてるのかは知りませんが、俺らに向けるそれで終いにしましょう。
もうこれ以上歩んでもなんの意味もないんすよ――応えてくれる主もいないのであれば」
尚更に、と。紡いだ彼は殺意を呼び寄せ防御を固める。
鉄壁の守りを固めて耐え忍ぶのだ。彼が引き寄せている限り他の者の負担も減るのであれば凌ぎやすくもなろうと――巨大な壁の如く彼らの前に立ち塞がれば、後衛の方へと通しもせぬ。
「さぁ遂にお目に掛かれたわね! さっさと動きを止めさせてもらって、それからゆっくり中身を拝見……じゃない、事件を終わらせるのよ」
であればジュリエットにとっては全霊の一撃を投じるチャンスである。中間の距離を常に保ちながら、放つは数多の負。黒きキューブが敵を包んであらゆる苦痛を施せば――その苦しみを更に穿つように死霊の矢を一閃。
着弾。呪いが炸裂するように人形たちを疲弊させていくのだ。
「ギ――ガガガ!」
さすれば一時は優勢になったかと思われた人形側だが、状況は一変する。
単純に考えても神使達の数が倍になっているのだ――
集中させる事の出来ていたダメージはどうしても分散してしまう。特に後からきたカナメや慧が積極的にその負担を請け負う様に注意を引きつけるのであれば、前半戦で与えたダメージになんの意味があろうか。
「――獄人滅スベシ! 滅スベシ!! 総員、突撃!!」
「まだ抗おうとするんッスか! 僕を止められるものなら止めてみるッス!」
「うぇへへ……いいよいいよ! もっとカナが受け止めてあげる! もっと一杯――ちょうだい!」
いやむしろカナメはダメージを負うごとに恍惚なる感情に身を浸しているほどだ……傷を負いながらも超高速再生すれば、致命傷を負わせぬ。死の領域に踏み込まぬ位置にて幾度も彼女を昂らせ――同時、その横から鹿ノ子の撃が人形を穿つものだ。
肉を切らせて骨を断つ……とも言おうか。双方ともに、ちょっと心境は異なるが――甚大なるダメージを負っても止まらぬ心が此処にあって。更にロウランの治癒術も投じられればそう簡単には崩れぬものだ。
「あぁどう動いてるのかしら彼らは。なんとなく見えてくる歯車から推察出来ないこともないけれど――って、だめね。依頼の最中にこんな事考えちゃ。うん、後よ後。もう少しなんだから」
そこへ後方からジュリエットの一撃。人形が受ければ、また装甲が剥がれようか。
見える。その中身が、むき出しになった内部構造が。
――まったく、いけない性が働いてしまうものだ。強敵であろうともソレがどうしてもゴーレムの類であれば……どうしても中身や作りとかの方に惹かれるのは。
「ここまで極端に攻撃的な作りだと、余程の殺意を込めて作ったんでしょうけど」
それははたして倒すべき敵がいたのか、それとも勝たせたい人がいたのか。
……最早知る術がないのが残念ではあるが、仕方ない。
このまま潰し。バラさせてもらうとしようか――
三体の内一体が遂に機能を停止し始める。
動きが鈍くなり、振り上げた刀は……しかし宙で止まる様に停止して。
残りの二体も既に満身創痍と言えるか。剥がれた肌の下からは幾つもの金属が見える。
しかし動け得る間は、未だ恐ろしい攻勢は健在。神使達が班を分け、彼らを見つける事を優先としたからまだなんとかなっているが――これが民の下に訪れれば成す術もなかった所であろう。
直後、慧が繰り出された槍の一撃を、腋と腕の間で受け止める様にすれば。
「今っすよ――隙が出来たす」
人形の体が、刹那の停止。
槍を手放すか慧に更なる一撃を紡ぐか……その判断が成立する、その前に。
「我が剣は、皓月となりて。只眼前の敵を――……」
打ち砕かん、と。
往くは希紗良だ。剣に宿りし意志が気持ちに呼応し、輝きを増す。
一筋の純白なる瞬きが閃光の如く闇夜の中にも煌めけば――放たれるは首落としの撃。
「仕舞であります。どうぞこれよりは主の下へ行かれるが宜しいかと」
するり、と。
魔性の切っ先が人形の首をまるで椿が如く。華を落として、地に響かせん――
残るは一体。しかし、それも。
「出て来たタイミングが悪かったわね。
ま、遅れてやって来るのは正義の味方的な子の専売特許みたいなもんですし?
――大人しく諦めて頂戴な」
真正面より抗うゼファーの槍撃が、遂に人形の心の臓へと届く。
六つ腕による暴風が如き流れを乗り越えて。
勝機を見据えて、針の穴を解き穿たん。
「――貴方達には最初っから良い出目なんて用意されてなかったのよ」
それには仮に同情したとしても、手加減はなし。
いつか見た、師の技にして殺しの業を此処に。
命を命たらしめる其の一点を――気によって貫く。
機械であろうと生身であろうと関係は無し。
全ての命を繋ぐその線は……この世に動くあらゆるモノに存在しているのであれば。
「ガ――ガガガ、ガ……主、様……」
これにて終焉。これにて仕舞。
――遠くからは刑部省の者達だろうか。何者かが走ってくる気配を感じる。
彼らにこの人形の処遇を任せても良い、が。
「ふむ。しかし……些かばかり手を加えられぬものだろうかな。
ちゃんと立派な番人となれば、今までの過ちを更生させる機会ともなろう」
「あーとりあえずちょっとばかし見ておきたいわよね、この中を。どうなってるのかしら」
その前にと、職人として興味のあった錬とジュリエットは人形らを覗き込むものだ。
上手い事修理でも出来ないだろうかと――そうでなくとも内部構造はどうなっているか――特にジュリエットは随分と最初から興味があったのだから。最早動かなくなった彼らをじっくりと観察して。
「まぁ、元より壊れているようなものではありましたが……見た目は良いですねこの人形達。阿修羅像は多刀流というのもあり武人のロマンが詰まっているのでしょうか。その夢とイメージがあったのかもしれませんね」
「しかし主を失って永遠に動き続ける人形すか……こんなの、俺なら耐えられんっすわ」
同時。ロウランは治癒の術を用いて自身や皆の傷を治療して。
慧はもう動かなくなった人形達を見据えながら――言の葉を零すものだ。
彼らはずっと孤独だったのだろう。
そして動き始めた今の今までも、ずっとずっと孤独であったのだろう。
求めるべく主はどこにもいないのに……
「でも、どんな事情があろうが――見逃せないッスからね」
けれども、破壊すべきだったのだと鹿ノ子は語る。
主無き暴走する人形など、この国には不要なのだから……
――何はともあれ、豊穣の国の一隅を騒がせた絡繰り騒ぎは収束を迎えた。
これでまた少しばかり平穏が戻ってくるだろうかと――誰かは天を見据えるものだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
依頼お疲れさまでしたイレギュラーズ。
これにて主を失った絡繰りの魂は、黄泉路を渡りて主の下へと辿り着いた事でしょう。
皆さんのおかげで街に平穏は取り戻されたのです――
ありがとうございました。
GMコメント
●依頼達成条件
絡繰り人形『阿修羅像』の撃破
●フィールド
豊穣の街中です。時刻は夜。
最近、この辺りでは殺人事件が起こっています。
次にその犯人が出ると思わしい地域に皆さんは案内されました。
周囲は住宅街であり、殺人事件を恐れてかどこも戸を閉め外を出歩く者はいないようです……
ただ、そこから迅速に人形たちを見つけることが出来るかは、探索スキルや手段(プレイング)などにより変わってくることでしょう。上手く見つけることが出来れば、彼らがどこぞの民家に侵入する前の路上で戦闘に入れるかもしれません。
●敵戦力
・絡繰り人形『阿修羅像』×3
それはかつて『冥』に与していたあるヤオヨロズが作り出した暗殺兵器――だったモノです。三つの顔に六つの腕の姿……三面六臂の阿修羅をイメージして作成されたのだとか。
しかし主人は戦でなんらかの形で死に、それ以来放置されていました。なんらかの偶然により起動してしまった様で、夜な夜な主人の敵(主に鬼)を殺さんと闇夜を駆けているようです……
戦闘能力としてはかなり攻撃に全振りしています。
また、左側の腕と右側の腕それぞれを巧みに用いて『一ターンに二回』攻撃を行います。
攻撃方法としては以下の通りが存在します。
・刀:至近攻撃。攻撃力が一番高く、時折『出血』BSを付与します。
・槍:近距離攻撃。『貫』『列』の攻撃を可能とします。
・弓:遠距離攻撃。命中が高いですが、それ以外の特徴はありません。
また、彼らは『逃走』の意志がありません。
身が朽ち果てるまで戦い続けようとするでしょう。
その為、彼らが逃げるという可能性は考慮しなくて構いません。
●刑部省(味方NPC)
皆さんのいる地域には、犯人を追う刑部省の者も幾らかいます。
あちこちに散っている様ですが、戦闘の気配を察知すれば援軍として駆けつけてくるでしょう。尤も、攻撃と殺意に特化する人形達は戦いを長引かせようとはしないでしょうし、彼らが戦闘に間にあうかは不明な所です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
Tweet