PandoraPartyProject

シナリオ詳細

生物学者・ウィティコの依頼。或いは、未確認生物を確認せよ…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●未確認生物
 巌のように、太く巨大な樹があった。
 大の男が数人で手を繋いでも、その外周を囲むことはできないだろう。
 樹齢は1000を優に越える大木に、1人の男が手を触れた。
 2メートルを超える長身、頭部から伸びた鹿の角に、汚れてすり切れた外套を纏った怪しい男だ。
 背には大きな背嚢を担ぎ、顔にはガスマスクのようなものを付けている。
 旅人……だろうか。
 否、彼は生物学者であった。

 この世に存在する生物のうち、86%が未だに未確認であるという説もある。
 未知なる土地へ足を運んで、未だ知られぬ生物を見つけ、その生態を記録する。
 生物学者・ウィティコの30年に及ぶ人生の半分以上は、そのような生活の繰り返しであった。
 これまでに彼が発見した生物の数は100にも及ぶ。
「……樹齢が1000を越えた樹ばかりが狙われている。それも決まって、皮だけが食い荒らされているな」
 木の幹を撫でる手を止めて、ウィティコはそんなことを呟いた。
 ウィティコが触れた大木の下部……地上から2メートルほどまでの間に樹皮は無い。
 木の幹に付いた無数の歯形や爪の跡から察するに、どうやら樹皮は何者かに食い荒らされているらしい。
「しかし、なぜだ? この森に樹皮を喰らう生物などは居ないはず……いや、突然変異か、新種という可能性もあるか」
 彼の調査により明らかとなった生態、習性も数多く、その筋ではそれなりに高い評価を得ている。
 そんな彼の知識を持ってしても、樹の皮だけを食う生物に心当たりなどは無かった。
 例えば、鹿や猪の類が樹の皮を食うことはあるし、角や牙を幹に擦りつけて研ぐこともある。
 けれど、樹の皮が無くなるまで食い尽くすなど、そんな話は聞いたこともない。
「やはり、調査を行う必要がある」
 そう呟いてウィティコはその場に背嚢を卸した。
 幸い、そう遠くない場所に川がある。
 食物も、森の恵みを喰らえばそれで問題ない。
 鹿の獣種であるウィティコなら、それこそ辺りの雑草などを喰って生き延びることもできる。
 そうして長い期間、森の中に居を構え、根気強く生態系を調査する。
 それがウィティコのやり方だった。
 
●ウィティコの依頼
 深緑。
 前人未踏の深き森は、ウィティコにとっても危険な場所だ。
 テントにランタン、地図やその他のキャンプ道具に、護身用の武器を幾つか揃えていても命を落とす時には落とす。
 ましてや、今回ウィティコが調査する対象は、岩のような硬さを誇る分厚い樹皮を食い千切るような生物なのだ。
 万全に備えたうえで、なお警戒を強くしても足りないと言うこともあり得る。
「つまり、我々の役割は“万全に備えた上での護身”というわけだ」
 そう言って『黒猫の』ショウ(p3n000005)は肩をすくめた。
 なるほど確かに、相手がいかな生物であろうとイレギュラーズが8人もいれば、およその事態に対応できる。
 自身の力を過信せず、また中途半端な戦力を応援に呼ばなかった辺り、ウィティコの判断は最適解であるとも言える。
「護衛と言っても、場合によっては調査を手伝ってもらう必要が出てくるかも知れない。その点も考慮してほしい」
 例えば、炊事の手伝いであったり、高所の調査であったり、或いは斥候であったり、場合によっては手分けしてのフィールドワークが必要な場面も出てくるだろう。
 森は広大で、そして何より地図が無い。
 安全地帯も危険地帯も不明瞭な森の中、無事に行って、正しい情報を持ち帰ってくるだけのサバイバリティが求められる。
「一応、拠点の近くで火を炊いているらしいが……煙はあまり出したくないということだ」
 獣の大半は火や煙を忌避するものだ。
 しかし、中にはそれに興味を抱いて寄ってくる獣や生物もいる。
 食物の匂いに引かれ、襲いかかって来る生物もいるだろう。
 可能な限り、無用な殺生をしたくないというのがウィティコの考えだ。
 森に元々住んでいた生物と、森に立ち入ったウィティコたち侵入者。
 どちらの生活が優先か……と考えた時にウィティコは前者を選択したのだ。
「まぁ、実際のところ樹皮を喰った生物におよその当たりは付いているということだ」
 そう言ってショウは、依頼書らしき書類を手にして、その文面に目線を流した。
 細かな文字がびっしりと書き込まれている当たり、ウィティコはなかなか筆まめらしい。
「その生物が現れたのは明け方、空が一番暗い時間帯だったそうだ。外見は体毛の無い猿のよう……角度によっては2足歩行のトカゲにも見えたと書かれている」
 消えかけの焚き火を踏みつけにして、その生物はウィティコを襲った。
 幸い、持っていた銃で迎撃できたが、ダメージは大して負っていない様子であったという。
「外皮が硬いのか……鱗のようなものを備えているのか。残念ながら暗くてよく分からなかったそうだ」
 しかしサイズや出現地点、周囲に残った足跡などの痕跡から、その生物が樹皮を喰ったものであるとウィティコは予想しているという。
 突然変異か、或いは新種の生物か。
「前者であれば処分、後者であれば生態系の調査を行いたいという」
 種の存続には最低でも20の個体が必要という。
 20体以上の“それ”が発見された場合は、生態を調査して放置。
 20を下回る……例えば、1体や2体の突然変異種であるのなら、討伐することが推奨されるとウィティコは判断したという。
「予想される状態異常は【滂沱】や【恍惚】【足止め】か、非常に頑丈なことも特徴と言えるな」
 なるべく早期に結論を出して帰還してくれ。
 困ったようにそう呟いて、ショウは仲間たちを送り出す。

GMコメント

●ミッション
未確認生物の生態調査

●ターゲット
・未確認生物×?
毛の無い猿か2足歩行のトカゲに似たシルエット。
岩のような分厚く硬い樹皮を喰らう。
出現が確認されたのは明け方、空が最も暗くなる時間帯。
身体は非常に頑丈で、ウィティコの撃ち込んだ銃弾を弾いたらしい。
1、2匹程度の突然変異個体なら殺処分。
20匹以上いるのであれば、新種の生物として生態調査を行いたい。

また、未確認生物の攻撃には【滂沱】【恍惚】【足止め】が付与される。



●依頼人
・ウィティコ
鹿の獣種。
ガスマスクにボロボロの外套。
荷物の満載された背嚢を背負った長身の男性。
生物学者であるらしく、年の大半を前人未踏の森の中や秘境で過ごす。
新種の生物を発見し、その生態を記録することを生き甲斐としている。
護身用に大鉈や銃を持っているが、あくまで本職は学者。
観察および考察、記録を主とするものである。


●フィールド
深緑。
人の手が未だ入らぬ森の奥深く。
樹齢数百年~1000年を超える大樹が無数に生えた土地。
その一角にて、地上2メートルまでの樹皮が喰らい尽くされた大樹が発見された。
最初に見つけた大樹の付近にウィティコはテントを張り、観測拠点としている。
拠点を中心に、未確認生物の生態を探ることになる。
当然ながら地図などはない。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 生物学者・ウィティコの依頼。或いは、未確認生物を確認せよ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

リプレイ

●1日目
「私には慣れたものだが、君たちにとっては過酷な毎日になるかもしれない。それでも協力を申し出てくれたこと、感謝する」
 そう言ったのは、鹿角を備えた巨躯の男だ。
 ボロボロの外套にガスマスク。背には荷物の満載された背嚢と、一見すれば旅人のようにも見える恰好ではあるが、彼の職業は生物学者だ。
 とはいえ、1年の大半を野山に暮らしているのだから、半ば旅人のようなものだが。

 生物学者ウィティコの依頼を受け、未確認生物の調査に集ったイレギュラーズは都合8名。
 木の皮を食い荒らすその生物の正体を確かめることが目的だ。
 突然変異であれば、生態系を崩さぬために討伐を。
 新種の生物であれば、生態を記録し撤収を。
 その判断を下すためには、十全な時間と人の目が必要となる。
「しかし、樹皮を食べる魔物というのも中々変わった性質してるっていうか……」
「ルシェたちハーモニアも知らないこといっぱいだから、まだまだ不思議な生き物もいっぱいなのね!」
「もし新種の生物、となりますともしかしたら図鑑に新たな1ページが追加されるかも知れないのですよ!」
 ところは森の奥深く。
 樹皮を喰われた大樹の下で、小さな焚火を囲んでいるのは『ただの死神』クロバ・フユツキ(p3p000145)、『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)、『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)の3人だ。
「樹の皮を喰うだけなら、鹿や猪なんかもそうするね。鹿なんかは、角の生え変わりの時期に樹へ頭をこすりつけることもある。といっても、この規模で樹皮が無くなることもそうないが……」
 3人の元へ近づいて、ウィティコはそんなことを言う。
 彼が視線を向けた先には、すっかり樹皮を失った大樹。それも、樹齢1000を超えているような巨大で古いものばかりだ。
「新種だったとして……自然に生きる生物が、歪な進化を遂げていないとも限らないんだ」
 太古の昔には、進化の過程で環境に適応できなくなってしまった生物も存在した。
 そういった生物が原因で、生態系に狂いが生じたり、種が滅んでしまったこともある。
「さて、どういった結果になるものか」
 なんて。
 誰にともなく、ウィティコはそう言葉を零す。

 森の奥へと進む人影は3つ。
 そのうち1人、浅黒い肌のハーモニア、『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)の足取りは軽い。
「今回は生態調査ですね。ローレットには色々なお仕事が舞い込みますが、泊りがけの調査依頼は、少し旅行めいて楽しく思ってしまいます」
「状況はなかなか笑えねぇ感じだがな。この辺りの樹も食い荒らされてる。それに、見てみろよ」
 白紙に簡易的な地図を描きながら『“侠”の一念』亘理 義弘(p3p000398)は大樹の根元へ視線を向けた。
 そこにあったのは、4本の指を持つ巨大な足跡。おそらく樹皮を喰らった生物が残していったものだろう。
「ぐるぐると樹の周りをまわっているわね。数は……足跡からじゃ分からないわ」
 そう言って『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は妖精姿の使い魔を呼び出し、付近の偵察へ向かわせた。
 魔物についての知識は豊富なれど、生憎と現段階ではターゲットの正体に思い至らない。
 ならば、その姿を、生態を、その目で確かめるしかないのだ。

 昼でもなお、深緑の森は薄暗い。
 生い茂った緑の枝葉が、陽光を遮っているのだ。
「そろそろ戻るか」
 調査に出ていたウィティコが告げれば、散開していた『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)と『白き不撓』グリーフ・ロス(p3p008615)が彼の元へ集まって来る。
 現在、3人がいるのは拠点から500メートルほど南へ進んだ場所だった。
 その辺りになると、樹皮を喰われた大樹の数も減っている。
「随分と食欲旺盛と見える。いや、樹皮ばかり食べられるのはちょっと困るね」
「水場か、或いはより古い樹のある場所を中心に行動しているのでしょうか」
 木の上にいた2人は、手に食糧を抱えていた。
 高い位置になる果実で、それを喰らう獣が少ないためだろうか、随分と多く実っていたのだ。
「うん? その実はまだ残っているか? だとすると、少しおかしいな。大半は熟れる前に猿なんかが喰ってしまうから」
 なんて。
 2人の抱えた木の実を見やって、ウィティコは首を傾げるのだった。

●3日目
 1日目と2日目は、周辺調査で時間が潰れた。
 途中、夜中にそれらしい影を見かけたが、接触にまでは至っていない。
「見つけたのは我の使い魔よ。確認のために先行させたのだけれど、ある程度近づいたところで敵と判断されて喰われたわ」
 3日目の朝、朝食に用意されたスープを啜りながら彼女はそう言った。
 その話を聞いたウィティコは、人の気配を察知し様子を伺いに来たのだろうと判断を下す。
「夜は俺とドラマも哨戒に参加していたが、近くまでは来なかった。この辺りは縄張りから外れているってことかもな」
「些か早計かもしれません。様子を見に来たということは、少なくともこちらを認識できる範囲に巣があるのでは? そうすると、巣の割り出しが必要になると思います」
 具材の減ったスープの鍋に、刻んだ野草を追加しながらドラマは言った。
 クロバとドラマの作った料理の香りに惹かれて……という可能性もゼロではないが、だとすると随分、好奇心が旺盛な生き物である。

 日中、クロバやドラマ、キルシェは主に拠点の見張りや食事の用意を担当している。
 長期間、森での生活を送ることを前提として、食料は多めに持参していた。また、現地で仕入れた野草や果実、キノコの類も食える物は材料として数えている。
 夜間の見張りや戦闘も視野に入れ、十全とは言えないまでも体力の消費やストレスの加算は避ける方針なのだ。
 当然、長い野外生活を送るウィティコもそれは承知している。
 しかし、彼の本質は生物学者。料理は出来ても、それはただ「喰える」だけのものになりがちだった。
「すっごく長生きの樹の皮を食べる生き物知らないかしら?」
 薪や食料を集めるついでに、キルシェは木々に問いかける。
 この2日間、欠かさずに続けた日課のようなものである。或いは、ある種のルーチンとでも呼ぶべきか。返って来る返答は、断片的なものである。だが、少しずつだが情報を得ることには成功しているようだ。
 例えば、それが現れたのは雪の溶ける頃だとか。
 例えば、それが現れて以降、他の生物が姿を消したことだとか。

 3日目の昼、ウィティコたちは少し遠出をすることにした。
 件の生物が、餌場と住処を分ける類の生物であると仮定しての行動だ。
「嗅覚で察知されるかもしれないので出来るだけ風下にいるよう気を付けた方がいいだろうね」
 そう言って、ウィリアムは先頭を進む。
 遠征を案として出したのも彼だ。2日間の調査を終えて“閃いた”のだと彼は言う。
「水場はどちらに? 生きる上で、それは必ず必要でしょう」
 森の途中で足を止め、グリーフはそう問いかける。
 ウィティコは顎に手を添えて、方位磁石を取り出した。
 現在、一行が拠点としている付近にも小川が流れている。川の流れと、森の形状から判断し、水場の位置に当たりをつけているのだろう。
 
 ウィティコの誘導に従って、3人は森を南東へ進んだ。
 その途中、ウィリアムはピタリを足を止め、背後の2人へ合図を下す。
「植物が急に静まり返った。それに、この臭いは……」
「腐肉の臭い……ですね。いざとなったらウィティコさんは撤退を。耐えることだけでしたら、お任せください」
 朱の旗を手に掲げ、グリーフは隊列の先頭へ。
 通常、森で死亡した生物は早い段階で獣や蟲に食い尽くされて白骨化する。だというのに、死臭を感じるということは、新しい死体が近くにあるということだ。
 チチ、と鳴き声をあげて足元を駆けていく鼠を、グリーフの連れた蛇がじぃと見つめていた。
 周囲を警戒しながらも、3人はゆっくりと前進を続ける。
 数メートル進むごとに、死臭はより濃厚なものとなった。思わず顔を顰めるウィリアムは、ほんの少しだけ羨まし気にウィティコのガスマスクを見やる。
「正直、暑いし、臭いは分からないしで不便だよ。だが、少々、調査の過程で肺を病んでいるものでね。ほんの少しの毒素でさえも、私には致命的なんだ」
 なんて。
 肩を竦めてウィティコは応えた。
 それからしばらく、3人が辿り着いたのは森の一角にある湿地帯であった。
 そこに転がっていたのは、腐敗した幾つもの動物の死体。
 それも、猿や山猫といった身軽な生物のものが多い。
「っ……糞も混じっている。ここは、廃棄場だ」
 高い位置にいる生物は、皆喰われるか、逃げるかした後だったのだ。
 そのことを悟ったウィティコは、慌てて頭上へ視線を向ける。
 生い茂る木々の中に、獣らしき姿は見えない。
 けれど、何かの視線を感じる。
「一度、退こう」
 ウィティコがそう判断を下すまで、長い時間は必要なかった。

 3日目、夕方。
 拠点に戻ったクラリーチェは、地図に幾つかの印を付ける。
「は、調査予定地はこことここ……調査後は食事と仮眠を取り、夜明け前に行動ですね」
 午前の調査を終えた結果、一行は拠点を南東へ移すことに決めていた。
 その候補となる場所を、こうして選定しているのである。
「餌場に廃棄場か。水場の位置も分かってるんだ。もしかしたら巣の場所も見つかるかもしれねぇな」
 拳を握って鳴らしながら、義弘はそう呟いた。
 人数の関係で、御前中は廃棄場の調査を途中で切り上げている。しかし、義弘やクラリーチェ、レジーナも同行すればある程度の安全を確保したうえで、調査を行えるだろう。
 
 3日目、夜中。
 日中に行われた調査の結果、件の獣は1体のみと判断された。
 糞の量や、湿地にくっきり残っていた足跡の大きさを見るに、その判断に間違いはないだろう。
「特定の縄張りはもたず、移動を続けているみたい。同じような廃棄場がきっと他所にもあるのよ。それと、2本脚で歩くことに間違いはなく、住処はきっと高い位置にあるわ」
 爪が長すぎるもの。
 レジーナとウィティコが議論を交わした結果、そのように結論付けられたのだ。
 また、謎の獣の住処に近い位置へ拠点を移したこともあり、その日から夜間の警戒は一層厳重なものとすることに決まった。
 具体的に言うと、義弘やクラリーチェといった面子も、交代制で哨戒に当たることにしたのだ。
 
 誰よりも早く、異変に気が付いたのはウィリアム、キルシェ、クラリーチェの3人だった。
 風が吹いて、空に浮かぶ月が雲に隠れた瞬間、森の木々は突如、ざわめきを止めたのだ。
「く、クロバお兄さん、ドラマお姉さん、手伝ってください……!」
 慌ててテントから這い出しながらキルシェは叫んだ。
 テントの付近で焚火を囲んでいるはずの2人へ助けを求めたのである。現在、拠点から幾らか離れた位置にいる義弘やクラリーチェが危ない。
 キルシェに遅れて、ウィリアムとグリーフもテントから出てくる。
 しかし、そのころには既に2人の姿はなかった。
 代わりに、地面に残されていたのは南西へ向いた矢印が1つ。
「私たちも、南西へ……いえ、ここで皆さんのお帰りと、ウィティコさんの護衛を務めましょう」
 そう呟いたグリーフは、旗を握る手に僅かに力を込めたのだった。

 獣の気配は、素早く左右へ動いている。
 おそらく、木の枝を足場に跳躍を繰り返しているのだろう。
「ドラマ! どんな具合だ?」
「えぇ、既に交戦中のようです。しかし、依頼主の意向を尊重し、無用な殺生は避けましょう」
「よし、だが戦闘となったら俺の出番だな!」
 腰の太刀に手をかけて、クロバは走る速度を上げた。
 暗い森の中、岩を打つような鈍い音が鳴り響く。
 その音を頼りに、2人は現場へと急行する。

 肩を抑えた義弘は、視線を素早く左右へ走らす。
 肉が抉られ、血が溢れ、彼の足元は紅色に染まっていた。
 暗闇に紛れた頭上からの奇襲。
 回避できずに、先手を許した結果がこれだ。
「暗すぎて見ずれぇな。治療は後だ、光を頼む」
「えぇ、まずは特徴と数を覚えましょう」
 義弘の合図に従い、クラリーチェは頭上へ向けて閃光を放った。
 一瞬、視界が真白に染まり、木々の間を飛び回る巨大な生物の姿が見えた。
 閃光に身を焼かれながら、生物は地上へ向けて跳躍。その容貌を言い表すなら、毛のない猿といった具合か。体毛の代わりに、身体の各所を分厚くゴツゴツとした皮が覆っている。
 その材質をよくよく見れば、どうやら樹木と同じような硬化した繊維質のようだ。
 所々が尖った外皮は、なるほど遠目に見ればイグアナなどのようにも見えた。
「お前の縄張りだったか? そりゃ、悪いことをしたな」
 カウンター気味に、義弘は拳を振り抜いた。
 ゴツン、と鈍い音が響いた。
 義弘の拳を受けて、辺りに砕けた木っ端が散らばる。
 鎧猿は義弘の拳に爪を引っ掻けようとするが、間に合わない。
 背後へ大きく弾かれた猿は、樹に背を打ち付け地面に落ちた。

 義弘は肩と拳を抉られた。
 クロバとドラマが駆けつけると同時に、鎧猿は逃走を開始。
「なるほど……喰らった樹皮を取り込んでいるのね」
 その後ろ姿を見送りながら、レジーナはそう呟いた。

●5日目
 4日目の日中は調査に時間を費やした。
 ここまで得た情報を元に、仮称“鎧猿”の住処や行動パターンを予想し、レジーナとウィティコが出現条件を割り出したのだ。
 その間、ウィリアム、グリーフ、クラリーチェ、義弘の4人は周辺の捜索を行うことで、2人の仮定の確度をあげる。
 そして、5日目の早朝。
 闇の一番、濃い時間帯を狙ってそれは現れた。
 狙われたのは、炊き出しの用意をしていたキルシェとウィティコだ。クロバやドラマ、クラリーチェ、ウィリアムが周辺警護へ出かけている隙を突かれての襲撃である。
 だが、それもウィティコとレジーナの予想通り。
 鎧猿は知能が高く、単独で行動している得物を襲撃する傾向にある。また、食欲が旺盛であるためか、狙う得物は義弘やウィティコなど、身体の大きなものを優先するようだ。
「右ね! 教えてくれてありがとう、精霊さん!」
 いち早く、精霊からの情報を得たキルシェは、ウィティコへとそう指示を出す。
 ウィティコは鍋を蹴り上げると、周囲へ熱湯をばらまいた。いかに皮が分厚かろうと、生身の部分は幾らか露出しているのだ。熱湯を浴びた鎧猿は、悲鳴をあげて地面に落ちる。
「盾役は私が。2人は獣の届かない場所へ避難してもらえれば」
「前提として仲間が全員揃っている事を念頭に入れて。それまで耐えてちょうだい」
 キルシェとウィティコをテントの内へ誘導しながら、レジーナは告げた。
 無言で頷くグリーフへ向け、怒り狂った鎧猿が襲い掛かる。

 グリーフが攻撃を引き付けている隙に、義弘とクラリーチェが戦線へと加わった。
「回復は任せてください!」
「固い外皮の上からぶち抜いてやるぜ!」
 攻勢に出た義弘と、サポートに回るクラリーチェ。昨夜の一撃を覚えているのか、鎧猿は警戒して距離を取る。
 タン、と地面を蹴って跳躍。木に張り付くつもりだろう。
 だが、それは叶わない。
「討伐の判断が下された以上、出し惜しみしません!」
 響き渡るドラマの声。
 不可視の波動が鎧猿を射貫いた。
 直後、絶叫が木霊する。
 “痛み”を想起した鎧猿は、バランスを崩して樹から地面へと落下した。
 その真下へ回り込むのはウィリアムだ。
「すまないね。亡骸に祈りを捧げるぐらいはさせてもらうから」
 魔力の波動を纏った拳を鎧猿の腹へと向けて打ち込んだ。
 硬い外皮は砕けるが、本体へのダメージは少ない。
 だが、それでいい。
 外皮され剥がせれば……後は命を刈り取るばかり。
 その役目を担うのに、最適な男がその場に辿り着いている。

 研ぎ澄まされた意識の果てに、見えるは獲物の“死”という結末。
 1歩、滑るように前へ踏み込む。
 腰の位置に構えた太刀を、素早く、正確に、迷いなく振り抜いた。
 何よりも疾く。
 空気を裂いて。
 音を置き去りにする一閃は、外皮の剥がれた鎧猿の腹部へ切っ先を沈めた。
 慣れ親しんだ肉を絶つ感触。
 骨を避け、重要な臓器を外さないよう注意しながら、刃を上方へと滑らせる。
「多少の硬さで安心するのは早い」
 クロバ。
 死神と呼ばれた男の剣は、胸部に残った外皮をサクリと斬り裂いて、鎧猿の心臓を抉った。
 悲鳴を上げる暇もなく。
 痛みに悶えることもなく。
 口や目から血を零し、鎧猿はその命を終わらせた。

 いつか同じ進化を辿った生き物が、この世のどこかに現れるかもしれないね。
 寂しそうにそう呟いたウィティコは、白紙の紙に鎧猿の生態について記録した。
 いつか、再び鎧猿がこの世にあらわれたのならば……。
 どうか、自然と調和して、生き残れるものであってほしい。
 そんな願いを胸に抱いて、ウィティコは書面に“testa simia”の名を刻む。

成否

成功

MVP

善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
未知の生物は、異常な進化を遂げた突然変異個体と判明、討伐と相成りました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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