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シナリオ詳細

猛進するは暴牛なり

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 鉄帝国北東部、ヴィーザル地方付近にて、鉄帝国とノーザンキングスとの戦闘が繰り広げられていた。
 ――否、それは『戦闘』と呼んでいいものだっただろうか。
 多人数同士がぶつかり合ったことは事実だった。
 だが、その戦いは『戦闘』というにはいささか一方的であった。

 それは暴勇であった。
 それは地獄であった。
 それは悪夢であった。

「ブルゥゥァアアア!!!!」
 巨人とさえ思わせる牛頭の男が、その巨体をしてなお巨大な大斧を、大仰な大振りの横薙ぎで叩きつける。
 刹那――斬撃が最前衛横一線を薙ぎ払い、風圧が兵を煽って吹き飛ばす。
 体勢を立て直した兵士達が巨人の如き男へ半狂乱になりながら突貫。
「ブルゥハッハッハ!! どうした、東国の田舎者ども!! そんなものか!」
 大男はそれを大斧で防ぎきるや、笑いながら一歩前へ踏み込む。
 そのまま大斧の刃を背中に付けるように振り上げて――
「どぉぉらぁぁ!!」
 ――勢いよく振り下ろした。
 斬撃が疾走し、風圧が兵士達を再び煽る。
「そらそらそらぁ!! このグィエンを止められる者はいないか!!
 ブルゥハハハハ!! 逃げろ逃げろ!!」
 大笑いしながら大男が戦場を暴れまわる。

 最早、それは戦闘ですらなかった。
 巨人の如く牛頭人身の悪魔――否、武人に腰砕けた敵兵が後退していく。
 それを逃してなるものかと牛頭人身の男が武器を振るい、追撃とばかりに走り出す。
「――止まることを知らんのか、あの暴れ牛は……」
 その有様を見ながら、こめかみを抑えたのは、牛頭人身の男の上官に当たる。
「……そんなことだから上からも睨まれるのだぞ」
 大きなため息を吐いて、彼は周囲の誰にも聞こえぬ小声で呟いた。
「総員、続くぞ!」
 追撃を始めて突出していく牛頭人身の男――グィエンに続くように兵を動かした。



 猪突猛進とばかりに戦場を突き進むグィエンの部隊と、それに遅れまいと動き出した鉄帝軍。
 それから必死に逃亡するノーザンキングスの軍勢が、眼下を走り去っていく。
「だいぶ無茶するなぁ」
 イルザが呆れ半分に笑う。
 戦いにもなっていない追撃戦を見せられていたところで、イルザが振り返ってくる。
「さて、流石に時間がないし、状況の説明を始めよっか。
 あっちにいる鉄帝軍、あそこの戦闘をめちゃめちゃデカいどう見ても魔獣のミノタウロスがいるでしょ?
 今日のお仕事は、あれを止める事だよ。
 ちなみに、僕らがそろそろ到着することは鉄帝軍は知ってるから、今回は悪名的なことにはならないね」
「止める事?」
「そう。あの先頭を行く彼、名前はグィエンっていうんだけどね?
 見た目は2m越えてるし、牛頭人身で筋肉ムキムキだしで魔獣っぽいけど、あれでもれっきとした獣種なんだ」
「……あれで?」
「そ、あれで。問題は、彼が見た目通りに猪突猛進で兵士の犠牲すら気にせず戦場を突き進む狂戦士みたいなことしてること。
 戦術判断の悪くない本能型の猛将タイプなんだけど……性格が誇り高すぎて驕慢なうえに、個人的な武勇はさっき見た通りすごいんだよね」
 そう言ってイルザは一度肩をすくめつつ、槍をグィエンが斧を振るったようにしてジェスチャーで示す。
「もちろん、鉄帝じゃ『個人の武勇』は絶対的に美徳だよ。
 実際、兵士達からの信頼は配属当初は高い……らしいからね。
 でもそんな無茶するから兵の信頼は直ぐ地に落ちるし、猪突猛進で回りに合わせないし、性格には難があるし――と。
 まあ、ぶっちゃけ『この国でさえ手に余る面倒くささ』らしいんだ。
 言うならば、武人としては及第点だけど軍人としては落第ってところかな?」
 ――武を尊ぶ鉄帝国軍でさえ手に余る。
 つまりは『個人の武勇』よりも『性格に難あり』の部分があまりにも大きいのだろう。
 それはあの魔獣にしか見えない男の面倒くささを端的に理解させてくれる。
「で――鉄帝軍は、彼に罷免状を突きつけた。
 でも、彼は『この罪は軍功で賄い晴らす』って言って出撃しちゃったんだよね」
「……それが、さっきまでの?」
「そう、さっきまでの戦い。で、僕と君達が受けたこの依頼は、『そんな馬鹿げたことおっぱじめた彼を捕縛して帝都へ送還する事』だよ」
「でも、貴方は鉄帝軍人じゃないんじゃ?」
 明らかに軍人らしくも、雪国特有の色白なところ以外鉄帝人ぽくもないイルザはからりと笑って。
「うん、だから僕は鉄帝軍人から派遣されてきた援軍の傭兵って形だね。
 今回の直接的な依頼は姉さん――ユリアーナ姉さんになるよ。
 ――さて、それじゃあ、さっさと行こうか、イレギュラーズの皆。
 そろそろ相手が通り過ぎちゃうし!」
 笑みをそのままに、イルザはくるりと槍を構えて君達に背中を向け、斜面を降りるべく身を低くする。

GMコメント

 こんばんは、春野紅葉です。
 皆さんで『ここにいるぞ!!』をするシナリオです。
 参考にした元ネタさながらに後ろからバッサリ行くも良し、遠距離からぶち抜くもよし、正々堂々行くもよし。

●オーダー
【1】『暴牛驍将』グィエンの無力化、捕縛。

●フィールドデータ
 左右をやや斜面の緩い崖で囲われた隘路です。
 リプレイ開始時、皆さんは左右どちらかの崖の上か、地面に降りた状態のどこに布陣するか選べるものとします。
 崖の上の場合、よほど機動力に長けている場合を除いてグィエンへ肉薄するのに時間がかかります。
 その代わり、高所からの狙撃が可能となり遠距離以上の攻撃で命中にボーナスが加わります。

●エネミーデータ
・『暴牛驍将』グィエン
 身長2mを誇る牛頭人身の武人。
 見た目だけならミノタウロスにしか見えませんが、れっきとした獣種。
 武器はめちゃくちゃデカい大斧。

 猪突猛進、苛烈かつ驕慢な性格をしています。
 卓越した武勇、直感的な戦術センスを持つ猛将であり、ヴィーザル戦線にて活躍中です。
 その一方で難のある性格で、めちゃくちゃな戦をするらしく、上にも下にも嫌われた挙句、
 軍の上層部から『流石に使いにくすぎる』と罷免されました。
 鉄帝国でなお『使いにくすぎる』と評される驍勇と猪突猛進っぷり、難易度を鑑みるに相当に厄介なのでしょう。

 驚異的なタフネス(EXF)とHP、物攻、防御技術を持っています。
 【飛】と【ブレイク】以外のBSを持ちませんが、その分のリソース全部を火力に注いでおり、その威力は折り紙付きです。
 攻撃手段として、大斧での中貫、近範、中扇、自域の他、格闘での至単を持ちます。

・グィエン軍×10
 グィエン指揮下の兵士ですが、説得的なことをするとすんなりイレギュラーズ側に降伏し、
 グィエン軍後方に続いている鉄帝軍に合流します。
 リプレイ開始時こそ一応は敵ですが、基本的に戦うことはないでしょう。

●NPCデータ
・鉄帝軍×30
 グィエンの後方から着いてきている鉄帝軍です。
 大将以下、将校は皆さんが戦場付近でグィエン捕縛のために現れることを知っています。
 ローレットであることを告げればグィエン捕縛の邪魔にならないように後退します。
 大将は依頼人のユリアーナ(p3n000082)と知人。
『グィエンが罷免状に不満を持ってるから何かするかもしれん。何かいい案は無いか』と相談したのが今回の依頼が発生した経緯とのこと。
 今後登場することは多分ないはず。

・『壊穿の黒鎗』イルザ
 青みがかった黒髪をした人間種の女性です。穂先を魔力で延長させる特殊な槍を振るいます。
 今回は姉貴分である依頼人から道案内と共に傭兵として参加するように言われている様子。

 物神両面に加えて反応が高めのパワーファイターです。
 皆様と同程度の実力を有した鉄帝を出身とするラサの傭兵。
 皆様に対して好意的で、共闘できることを心の底から喜んでいます。
 特別に何かさせたい場合はプレイングで指示をお願いします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 猛進するは暴牛なり完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年10月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レッド(p3p000395)
赤々靴
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護

リプレイ


 戦場を突っ切るグィエンの姿が、戦場の中ほどまで突き進む。
 その姿を捉えながら、紅の閃光となった『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は疾走する。
(ある意味ユリアーナ君からの依頼か。
 彼女も苦労しているね……友人として少しでも気苦労を減らしてやりたいところだ!)
 その視線の先には、突出するグィエンと、それに着いていこうと頑張っている軍人たち。
 やや間合いを開けて、その後方から本隊であろう鉄帝軍が着いてきている。
「しばらくすればフロールリジ大佐がこちらへ来る! この場で待機し指示を仰げ! 以上!」
 突如として登場したマリアの言葉に、グィエン隊の兵達が動きを停止する。
 ざわざわとしているのは、現状が分からないが故の混乱か。
「ブルゥハ! 新手かよ!」
 息を荒くグィエンがこちらを見ているのを感じて、マリアは徐々に崖の方へと移動し始める。
「グィエン君! 君は軍人失格だ! 軍とは! 鉄の規律を遵守して初めて集団として機能する!」
「ブルゥハァ! うるせえうるせえ!」
「君は将として隊の見本であり規律とならねばならなかった! というのに……」
「ブルゥッハッ! 俺に着いてきてる兵がいる以上、見本てやつだ!」
「――君の勝手な行動で罷免されているのにかい? 兵士達は上官の命だから着いてくれてるってだけだろう」
「ば、馬鹿にしやがって! 畜生! 降りてきやがれ!」
 マリアの言葉に、我を失ったグィエンは容易く誘導されてくれる。

「わーお、見るからに噂で聞くミノタウルスさんにそっくりっす!
 周り見ず猪突猛進で武勇を誇るには軍隊行動する組織に不向きっすね」
 マリアの誘導にまんまと釣られたグィエンを見ながら、改めて『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)は崖の上に潜みながらそれを見ていた。
 そんなレッドの脳裏に、ピン! と来るものがある。
(後で教えてあげようっす!)
 きっと彼のような男であれば人気が出るはずの――彼にとってのうってつけの場所を。

「あーゆーやつは野放しにしてると大体変な事を吹き込まれて悪い方向に傾くもんだ。
 ここらで一回『やられて』もらって、軌道修正できれば御の字、だよな」
 レッドとは逆側の崖に布陣する『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)は思うように動かされているグィエンを眺めながら一言。
 布陣は完璧。あとは都合のいい場所まで目標が動いてくれればそれでいい。

「力自慢の猿妖、単純な暴力が得手の牛頭夜妖と戦ったばかりで……何だかその手の話に縁がありますね……」
 言いつつ『花盾』橋場・ステラ(p3p008617)は僅かばかりの親近感を覚えている。
 リソースをほぼ全て火力に注ぐ。そのスタイルは自身のそれと同じ。
「まあ、ぶっ飛ばす訳ですが!」
 故にこそとでもいうべきか。それをするのがステラの仕事だ。
 ちょっとばかりの思うところはあるが。
(武勇には称賛に値するところが確かにある……じゃがグィエン殿は雇用しない方針じゃな)
 堂々と正面から迎え撃つ気でいる『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)は、ヴィーザル地方に領地を持つ身。
 彼に暴れられることは他人事とも言い難い。
「その斧よく切れそうだな。どんな障害も破壊できそうな凄い斧だ。
 でもよ、どんなにすごい斧や剣でも主の思った通りの働きが出来なきゃそりゃ屑鉄と変わらねーんだよなぁ」
 イレギュラーズの姿を確認してもなお突っ込んでくるグィエンへ『撃劍・素戔嗚』幻夢桜・獅門(p3p009000)は破竜刀を構えながら呆れが多分に入った声を漏らす。
「貴女には自由に戦って大丈夫です。
 得手不得手も分かりませんので」
「そう? りょーかい! じゃあ、僕も自由にやらせてもらおっかな!」
 イルザへ声をかけた『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)に彼女は緩く答え、崖の下へ降りていく。
(それにしてもなんという戦闘力。なのに、使い方があれでは……)
 そのまま敵を捉えながら先程の様子を回顧する。
「……ここで暴走を止められれば、グィエンさんが新たな道を歩む切っ掛けに出来るかもしれませんね」
 剣を抜いて、前に立ちふさがるように。
「…………兵の質が悪い。頭が痛いな、これは。今回はメイド服ではなく、軍服を纏わねばならん」
 軍の依頼ということで、念のために着てきた軍服が正解だったことに頭痛さえ覚える『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)の眼には、こちらに向かってくる敵が見えている。


「南方方面軍大佐、エーデルガルト・フロールリジである。
 現刻を以て貴様の軍務を解く。これは既に決定されたことだ。覆ることはない。
 大人しく退けば自己都合の除隊としてやろう」
 グィエンとの接敵、エッダ――エーデルガルトが静かに軍人として告げれば。
「ブルゥッハ!? こんなところに南方方面軍の大佐だって!?
 いいや、適当なこと言いやがって! オレが挙げるべき戦功の邪魔をするな!」
「……そうか。
 では、麾下の者は速やかに後退し友軍と合流せよ。これは命令である」
 明確に動揺する兵士達が、次々に後ろの方を見て、そちらに向かって戻っていく。
「お、おいおい! てめぇら! オレの部下じゃねえのか!」
 斧を振り回して怒りを露わに。
 その視線がエーデルガルトを射抜く。
「軍からの依頼である以上、『私』は職責を全うする。
 ……退かぬと言うなら、せめてもの餞である。私が戦ってやろう。
 正々堂々、正面からな」
「ブルルゥ! オレに勝てる気かよ! 勝てるもんならやってみやがれ!」
 挑発に乗りに乗ったグィエンが大斧を振り上げる。
「そこまで言うのならグィエン殿の腕前がどれ程か、このワシの身で確かめてもらおうかね!」
 武器を構えてオウェードはグィエンの前へ。
 そこに横槍を入れるようにして、深紅の鎧が走り抜ける。
 深紅の外を蒼き雷霆を帯びたマリアの突貫にぐらりとグィエンが揺れる。
 連撃による蓄積は、技個人の威力になく、その精神を削る物。
「まだ軍人としての矜持と誇りがあるのなら投降したまえ!」
 蒼雷が収まる頃に告げたマリアの言葉を、グィエンは一蹴する。
「それなら力ずくで連行するまでだ!」
 紅雷の出力を高め、見下ろすようにして敵を見た。
「ブルゥアァ!!」
 大斧が振り下ろされる。斬撃がオウェードを、エーデルガルトの身体を切り裂き、余波の風圧が身体を煽る。
 強烈な斬撃は2人の堅牢な防御力に勢いを殺されつつも、殺しきれない傷が浮かぶ。
 それでも、反撃にエーデルガルトが突きのように放った掌底は微かなスパークを残してグィエンの身体を強く打ち。
 返すように振り上げたオウェードの斧が傷を生む。
 エーデルガルトは斧を振り下ろした敵が動きを一時的に止めたのを見るや走り出す。
 敵のまばたきの一瞬は読み取り起きる足運びは、グィエンの死角へ。
 敵から見れば突如として懐に姿を見せたとしか思えない動き。
 打ち込んだ掌底に、グィエンの意識がこちらに向くのが確かに分かる。
 ――その時だった。
「それでは、お待たせしました――」
 その手に持つ赤と青の指輪がそれぞれ烈火の如く赤き光を、氷晶のような青光を放ち、姿を変えていく。
 それは交じり合い、重なり合って、やがて一本の長大な剣を形作る。
「お言葉の通り、やって差し上げます」
 膨張する赤と青の奔流を、ステラは真っすぐに振り抜いた。
 閃光を描く斬撃が『背中から』ばっさりとグィエンの身体を削りとる。
「んなぁ!? ぐぁあ……!?」
 前ぞりになったグィエンは踏ん張りつつも、目を白黒させながら背後を見ている。
「――などと、そんなうまい話があると思うか?
 戦場で槍をついてきたものならば心意気にも応えようが、今行われているこれが戦闘だと誰が言った?」
「ぐぅぅ……」
 酷く小柄であるはずのエーデルガルトに呑まれたようにグィエンが呻き、振り払うように雄叫びを上げた。
「足元がお留守ですよ」
 オリーブはそんな様子のグィエンに合わせるように、長剣を握ると、横薙ぎに剣を払う。
 それは覇竜に住まう幻想の頂きを思わせる斬撃。
 渾身の力を籠めて振り払う斬撃は、がら空きのグィエンの脚部を横一線に薙ぎ払う。
 斬りつけられたグィエンがその場でまえのめりに倒れこむ。
「この戦い、ワシが貰った! この一撃を受けるがいい!」
 続けるようにしてオウェードは再びグィエンの前まで来ると、片手用の斧を両手でしっかりと握りしめ、思いっきり振り抜いた。
 勢いは斧を握るグィエンに殺されるものの、その衝撃はグィエンの身体へ僅かに痺れを残す。
 続くのは獅門。握りしめた破竜の太刀を静かに握りしめ。
「勿体ねぇ話だが仕方ねえ。部下の命を預かってるのに手前の事しか考えてないんだからまあ向いてなかったんだろうさ」
 咄嗟に大斧で防ごうとしたグィエンの動きよりも速く、軌跡が走る。
 美しい斬撃は圧倒的な速度を思って同時にグィエンの身体を上下から切り刻む。
 それはさながら獅子が顎の如く。
 いっそ惚れ惚れする斬撃には、獅門の闘志が乗っているかのようですらあった。

「ブラックドッグ…噛みつきに行ってらっしゃいっす!」
 戦場の両脇、崖の上へ姿を見せたレッドは、旗を揺らす。
 その影が踊り、姿を見せたほっそりとした体躯の黒い犬を思わせる妖精が走り出す。
 ブラックドッグはぐんぐんと速度を上げ、隙だらけのグィエンの懐へ飛び込むと同時、その腹部にかみついた。
「オレが。ブルゥゥォォォ!!」
 雄叫びをひとつ。
 己の身体を奮い立てるように、グィエンが立ち上がる。
「前向いてるところ悪りぃな。次はこっちだぜ!」
 丑刻千人針苦無から1本を抜き取るや、サンディはそれをグィエンめがけて投擲する。
 敢えて回転を生んで放たれた苦無は放物線を描いて宙を舞い、くるくると回転しながらグィエンの首筋に突き立つ。
 呻いたグィエンが、射線を確認して、こちらを向いたのを見れば作戦の成功だ。
「小賢しい!!」
 激昂したグィエンが、真っすぐにこちら目掛けて走ってくる。
 そのグィエンの表情目掛け、抜いた苦無を、もう一度投擲。
 今度は苦無らしく、スッと流れたそれの穂先は、真っすぐに向かってくるグィエンの身体に突き立つのだが――
「ブルゥワァ!!」
 激昂と共に、益々怒ったようにも見える敵が近づいてくる。



 苛烈なる暴威が戦場を走る。
 地をも穿つ、いっそ馬鹿馬鹿しいくらいの火力は、イレギュラーズ側の傷を増やしつつある。
 当初の作戦の数々は上手く作用していたが、鉄帝においてなおの『使いづらい武勇』は伊達ではなく。
 少なくない傷をグィエンに与えているものの、損害は少なくない。

「賄い晴らすと言える事はある! ただ今回は相手が悪かったのう……」
 そういうオウェードの傷は深いが、それらの傷の多くは精神力を力に変えて癒してはいた。
 強靭な意志を力に変えて。守りへ集中する。
 それはオウェードの全身から漲るオーラへと変質していき、やがて肉体のみならず斧の刃に厚いオーラとなって纏われていく。
 それを踏み込みのままに打ち込めば、勢いよく流れるように紡がれた軌跡がグィエンの身体を撃つ。
 いよいよと息絶え絶えになってきたグィエンめがけ、獅門は踏み込む。
「いつかまた戦う機会があるならその強打に負けないくらいのお返ししてやるぜ」
 握りしめた破竜刀で撃ち抜くのは栄光への一太刀。
 すらりと入り込んだ太刀筋を、そのまま返すように斬り上げに利用し、斬り降ろす。
 三連撃となった獅門の剣は、真っすぐに敵の身体に刻み付けられる。
「ブ、ぶるぅぅぅアァ!!」
 大仰に構えたグィエンは、思いっきりぐるりと大斧で周囲を一周する。
 圧倒的な膂力より放たれた斬撃が、イレギュラーズの身体を大きく傷つけていく。

 オリーブは長剣を構えなおした。
「もうそろそろ、終わりにしましょう」
 真剣な目で、構えを取る。充実した気迫は闘志を剣身に乗せ、深く呼吸し――一閃。
 息を止め、全霊を籠めた一刀に、グィエンは斧で持ってそれを防がんと試み――スパン、と柄が分裂した。
 ぎょっとするグィエンめがけて振り下ろされた斬撃は回避の隙すら許さず、その身を削る。
 振り抜き終えたのと同時、勢いに任せてオリーブは再び足を踏み入れ――描くべきは瞬天三段。
「ここで誰かが倒れたら、グィエンさんを奮起させることになるっす……そうは易々と敗れはしないっすよ……!」
 崖の上で鼓舞するように旗をはためかせれば、旗から生じた魔力はもっとも傷が深そうなオウェードの身体を強烈にいやしていく。
「プランBといくか……」
 これまでお簡易徒競走は既に意味をなさなくなっている。
 サンディは丑刻千人針苦無をざっと適当に手にすると、一気に3本放り投げた。
 回転なく放たれた苦無たちは、真っすぐに飛翔する。
 多種の状態異常を引き起こす呪詛の念が籠った苦無は、連続してグィエンの身体に突き立ち、その呪詛をも以って苦しめる。
 それに続くようにして、ステラが動く。
 それまで、出来る限り間合いを開けて美しい剣技を披露したステラだったが、その身に宿る傷は多い。
「雷天一閃、今までの分を倍返しです!」
 赤と青の指輪が光を放ち、形状を改めて頂戴な一太刀へ。
 赤い刀身に青いオーラを纏うそれを、ステラは踏み込みと同時に振り払う。
 放たれたるは無双の切れ味。
 美しき軌跡を描き、がら空きのグィエンの胴体を横一線。
 青の軌跡を引く残像が失せた頃、グィエンの身体は地面に倒れていた。


「……言いたかったことはほとんどマリアが言ってくれた。……だが一つ訂正だ」
 戦いが終わり、捕縛されるに至ったグィエンを前に、エーデルガルトは静かに彼を見すえ。
「――兵とは全て命令に悉く従う者である。
 全てが一箇の歯車となる物である。物が考えるな」
 軍という大きな機械の中の歯車のたった一つ。
 そのたった一つが狂うことは、機械の一部に支障をきたす。
「……そんなこともわからん貴様は、いらんのだ」
 それは酷く冷淡にも聞こえる――けれど、どうしようもない真実だ。
 それが分からない人間がいる軍は――それが出さなくてもいい犠牲に通じるものだから。
「 武勇も結構! だが軍人の本質とは命令に忠実であること!
 それが不当な命令でない限りね!」
 それにはマリアも同意するところだ。
「――だから、グィエンさんに提案っす!」
 エッダとマリア、2人の言葉に食い気味に続けたのは、レッド。
 未だに自分がどうして捕まっているのか分からないでいるグィエンはそんなレッドに視線を向けてくる。
「軍人なんて似合わない仕事より己の力が試されるし、もてはやされもする……
 ラド・バウの闘士になってみないっすか?」
 どうしてこの男が軍人になったのか――それは良く知らないが。
 少なくとも、軍にいられなくても、出来ることはある。
「ブルゥ……」
「たった一人でここまで戦えるとは見事じゃったッ! だが残念ながら最後に笑うのはこのオウェードじゃったのう!」
 ガハハと笑うオウェードもレッドと同じ意見だ。
 あとは、グィエンと上層部の反応次第。
 現時点でのグィエンには、何を言っても無駄そうではあるが。
 視線をイルザに向けてみる。
「さて、この国のお偉いさんが何をどうするかは知らないけど、まあ、軍規違反はしてるんだし。
 まずは何かしらの処分とか罰は受けるんじゃないかな? 多分。じゃないと示しがつかないしね」
 返ってきたのは、そんな一言だった。
「それぐらいは仕方ねえだろうな。でもまあ、俺もレッドさんの言ってるラド・バウの闘士っていうのはいいと思うぜ。
 軍人には向いてないっぽいが一武人としては筋がいいんだ。だからきっと活躍出来ると思うぜ?」
 獅門はイルザの言葉に頷きつつも、グィエンの方へ向いて笑って見せる。
「もしどうしても軍人がいいって事なら……落ち着きってやつを身に着けるしかねぇかな。
 俺もあまり人の事は言えないんだけど、我慢は出来る方だぜ。約束事は守らねぇと駄目だからな!」
 それだけ言えば、グィエンからは小さなブルルゥという声?のみが返ってきた。

 レッドは、そっと彼の下を離れると、鉄帝軍へ近づいていく。
「皆さんにお願いがあるっす。性格は最悪でしょうっすけど、頑張った彼を労わって送ってほしいっす」
「我らの仕事ゆえ、全うしましょう」
 それにこくりと頷いた将校に、レッドは安堵する。




「おや、どうしたのです?」
 オリーブは全てが終わり、撤退することになった段階でイルザの方を見た。
 どことなく真剣な面持ちで、油断なく後方――ノーザンの兵が逃げていった方角を見据えている。
「ん……? ああ、うん。僕? ごめん、何でもないよ。なんでもないんだけど、ね」
 柔らかく笑って言った彼女は、どことなく心ここに非ずといったようにも思える。
「それじゃあ、僕はお先に失礼しようかな。
 皆はきっと帝都まで行くんだろうし、そこまで行くと流石に僕は余所者だからね。
 先に姉さんに依頼を終わらせたことを話に行くとするよ――それじゃ、またね」
 快活な雰囲気を変えず、そう言ってウインク一つ。
 そのまま、イルザは速度を上げて一団から離れていった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

オリーブ・ローレル(p3p004352)[重傷]
鋼鉄の冒険者
エッダ・フロールリジ(p3p006270)[重傷]
フロイライン・ファウスト
オウェード=ランドマスター(p3p009184)[重傷]
黒鉄守護

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
その立場は何よりも大きい証明となりました。

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