PandoraPartyProject

シナリオ詳細

木々の子守唄

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「ぼくだって、ぼくだってやれるんだからな!」
 そう言って家を飛び出した少年は早くも後悔していた。
 ざわざわと葉が擦れる音が、こんなにも不気味に聞こえるとは思わなかったと、瞳に涙を溜めて迷宮の中を彷徨っていた。
 自分も深緑の外から出て冒険がしたい。そう両親に主張したものの、体の弱いお前では無理だと決めつけられてしまい、悔しくて悔しくて――自分にもやれると、後先考えずに飛び出した後、気が付けば鬱蒼木が生い茂る森の中。
 気が抜けてしまった少年は、もう歩く力もなく。木の陰に凭れかかりながら、自分は誰にも気づかれないまま、死んでしまうのだろうと――ゆっくりと目を閉じた。

●ギルドにて
「お集まりいただきありがとうなのですよ!」
 今日もギルド・ローレットに響き渡る『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の声。今回の依頼を特異運命座標たちに伝えるべく、意気揚々と依頼内容を読み上げる。
「今回の依頼は深緑のとあるご夫婦から、家出をした息子を探し出して欲しいという依頼なのです。息子さんの名前はレルク。身体が弱いそうなので、そう遠くには行っていないみたいですが、町にはいなかったので、もしかすると迷宮森林に迷い込んだ可能性があるのです」
 まだ幼く、身体も弱い少年であるため、迷い込んだとしてもモンスターも出ない、迷宮の浅部ではあるだろうが、少年にとってはそれでも恐ろしいと感じるだろう。
「レルクくんは幻想種で、深緑の住人でもあるので森林に惑わされることは無いと思うのですよ! きっとすぐに見つかるはずなのです!」
 しかし、迷宮森林の特性上、もしかすると特異運命座標には迷宮森林の惑わしを受ける可能性もある。用心をして行くに越したことはないだろう。
「念のため、町の人に話を聞くといいですよ。彼を見かけている可能性もあるのです。それと……もしかすると、迷宮のモンスターなどが襲い掛かってくる可能性もあるので、準備はきちんとしていくのですよ」
 ユリーカは可能性のあるモンスターをいくつかリストアップし、依頼人から送られてきた少年が行く可能性のある場所を示した地図も特異運命座標へ渡した。
「レルクくんは特異運命座標に憧れているみたいですから、かっこよく助けてあげて欲しいのです!」
 さながらヒーローのように! と、ユリーカはぴしっと決めポーズらしいものをして、特異運命座標たちを送り出した。

●迷子の少年は
 くるる、と腹の鳴る音がして少年は絶望に身を浸していた。
 なんとか凭れかかった木に生っていた木の実を食べて飢えを凌いでいたものの、少年の限界は着実に近づいていた。
「お父さん、お母さん……ごめんなさい」
 こんな状況で助けに来てくれる人がいるのなら、それはきっと――ヒーローに違いないだろう。そう信じて、少年は再び目を閉じるのだった。

GMコメント

まずはオープニングを見ていただきありがとうございます。
きみどりあんずと申します。
今回は深緑で、人探しの依頼となります。
こちらは心情メインのシナリオとなっております。その為、戦闘はおまけ程度になる可能性があることをご了承ください。

●成功条件
 迷宮森林を探索し、依頼人の息子である少年、レルクを救出する。

●場所
 深緑のすぐ傍、迷宮森林の浅部。

●モンスター『ゴブリン』×5 もしくは『スライム』×5
 比較的ポピュラーなモンスター。特に強くはありません。
 プレイヤーの行動に応じて、どちらとも戦闘する可能性があります。

●スタート地点
 深緑から始まります。まずは情報を得てから迷宮浅部に挑むと少年の発見率が上がります。
 なるべく早めに見つけられると良いでしょう。

●この依頼のポイント
 渡された地図や、町の人の情報で戦闘を減らすことが可能ですので、情報はなるべく集めると良いことが多くなるでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 木々の子守唄完了
  • GM名きみどりあんず
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
チェル=ヴィオン=アストリティア(p3p005094)
カードは全てを告げる
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
クロエ・ブランシェット(p3p008486)
奉唱のウィスプ
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

リプレイ

●情報収集
 それぞれ役割分担をした特異運命座標たち。
 依頼人の家を訪れたのは『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)。
 不安そうな表情でキルシェを見る依頼人――レルクの父と母は突然訪れた者に訝し気な表情を見せる。
「突然ごめんなさい。レルク君のことでお願いしたいことあってきました! あ、ルシェはキルシェです! イレギュラーズです!」
 イレギュラーズ、と聞いてパッと表情を変え、キルシェを通すレルクの両親。
 立ち話は何だとリビングに通され、改めてキルシェの話を聞く態勢になった。
「それで、お願いしたいこととは何でしょうか?」
「えっと、レルク君のために持ち運びできるご飯作ってくれませんか?」
「もちろん! あの子もお腹を空かせているだろうし、すぐ持ち運べるものを作りますわ」
 と、パタパタと母親は走り去り、レルクに渡すための料理を作り始めたようだ。
「お手数をお掛けしますが、息子を……レルクをよろしくお願いします」
 料理が出来るまでではありますが、とキルシェに温かい飲み物を出そうと席を立った父親に、キルシェはもうひとつ、伝えたいことがあると再び席に座らせる。
「レルク君のこと、もう少し信じてあげてくれませんか?」
「――――何?」
「ルシェも、体弱いです。ギフトのお水と、リチェ……この子のお陰でやっと人並みに活動出来ます」
 そう言ってキルシェは相棒のモルモットを見せる。自分もレルクの気持ちがわかるから、という言葉に父親は、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「レルク君が心配なのはわかります。ルシェもいっぱいルシェの家族に心配されたし、今もされてます。でも……レルク君の夢を否定しないであげて欲しいの」
「……そう、ですか」
 長い沈黙。
 そうして時間が経ち、母親が料理を作り終えたのかまたパタパタと慌ただしくやって来る。
「お待たせしました。こちらを……丁度いい温度に固定していますから、あの子でも食べられるはずです」
「ありがとうございます! 絶対助けるから待っててほしいの!」
 キルシェを見送る両親の表情は、ほんの少し――翳りを帯びていた。

 情報収集のために分かれたチームである『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)、『ただの死神』クロバ・フユツキ(p3p000145)、『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)、『夜空見上げて』クロエ・ブランシェット(p3p008486)の四名は町人や、レルクの友人を当たって調査をしていた。が、町人はレルクのことは知っていても、失踪当日に見かけた者はおらず、同じ年ごろであろう少年少女はレルクのことすら知らないという。
「どうしたものだろうか……」
 ウィリアムは悩むように口元に手を当てると、一人の老人が三人の元へ寄ってくる。
「あんたら、レルク坊ちゃんを探しておるのかね?」
「! あなたは……?」
「儂はレルク坊ちゃんの……そうさな、友達だよ」
 老人ははにかんで四人にレルクのことを話し始める。
 彼が疾走する前日。老人の元にレルクはやってきて、旅に出ると告げたらしい。老人は止めたが、足腰を痛めている身体では追いかけることも出来ず、またレルクにこの事を誰にも言わないでくれと必死に懇願されたため、今の今まで黙っていたという。
「じゃあ、レルク君が居なくなった方向は……」
 クロバは老人が指を指した方向を見やる。地図から見れば、迷宮森林の中でも場所がはっきりとわかる範囲にいると推測できた。
「大体の位置が割り出せましたね。あちらの班にも共有しないと……」
 と、チェルが地図に情報を書き込んだところで、別れていた班のキルシェ、希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)、『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)、『カードは全てを告げる』チェル=ヴィオン=アストリティア(p3p005094)が集まってくる。
「話は聞いていましたので、大丈夫なのです」
 中継役としてテレパスを使っていた珠緒がそう言い、今度はこちら側が共有する番だとアレクシアは口を開く。
「こちらもレルク君の目撃情報は、そちらのご老人くらいだったよ。それ以外に迷宮森林のモンスターのことも聞いてみたんだけど……」
 モンスターは二種類。どちらも大した強さはないけれど、迷宮の守り人として十分な役目を持っているようだ。
「よし、じゃあ今度は迷宮で捜索だね。僕は……クロバ、チェル、クロエと一緒だね」
「ああ、よろしく」
「よろしくおねがいします」
「よろしくお願いしますわ。……と、キルシェさん。少しいいかしら?」
 事前に取り決めた班に分かれ、いざ出発という時に、チェルはキルシェを呼び止め、先程キルシェがレルクの両親からもらった料理を分けてもらい、改めて二班に分かれ迷宮の探索へ向かう。
「どうか先の短い坊ちゃんに、一時でも夢を見せてやっておくれ……」
 去り行く特異運命座標たちの背中を見つめる老人の姿は、溶けるように消えていった。
●迷宮森林
 鬱蒼と茂る木々に、何処からともなく聞こえる鳥の声。獣の息遣いさえ聞こえそうな森を歩きながら、分かれた班の一つ、アレクシア、キルシェ、珠緒、蛍の四名は懸命に捜索を続けていた。
「木々なら、何か知っているかも」
「アレクシアさんは植物から情報を得られるんだよね。キルシェさん、アレクシアさんのことを見ていてくれないかな?」
「わかったわ!」
 蛍は情報伝達係をしている珠緒をフォローしている手前、アレクシアが木々から情報を得ている間、キルシェに状況を任せないと――と、思考を巡らせていたが、想像よりも早くアレクシアが木々から情報を得られたようだ。
 すっと立ち上がり、三人の方を向くアレクシアの顔は期待に満ちていた。
「どうやら――すぐに見つかりそう!」

 一方でウィリアムたちの方でも、重要な情報を見つけたようだ。
「――うん、こっちにいるみたいだ。あっちの班にも伝えて……」
 植物はどうやらお喋りなようだ。得られる手掛かりを手繰り、共有した情報の元に歩けば少し開いた道に出た。
「何だかやけに開けた場所だな?」
 クロバが一歩足を踏み出すと――がさり、と物陰から木の葉の擦れる音がした。
 敵かと身構え、一同は武器をしっかり揺れた草陰へ向けじっと相手が現れるのを待っていた。
 しかし、それは杞憂に終わったのだった。
「ぷはぁ! びっくりしたの!」
 草陰から出てきたのはキルシェであった。どうやらお互いの情報を擦り合わせた結果、この開けた道に出てきたらしい。よく見ると他の三人もキルシェの後ろで気まずそうに笑っていた。
「ごめんなさい。キルシェさんが勢いよく飛び出していくので……」
 珠緒は申し訳なさそうに木の葉を払いながらウィリアムたちにぺこりと頭を下げる。
 少し和やかな空気が流れ、落ち着いたところに再びがさがさと鳴る音。――今度こそ、と思い音のなる方へ近づこうとした、その時。
「ぐぎゃぁ!」
 モンスターが勢いよく飛び出してきた。ゴブリンが五体。これなら対処できると皆一斉に攻撃をけしかける。
 眩い光が敵を包み込み、あっという間に消えてしまったが、この辺りにでるモンスターはさほど強くないとの情報通りだった。
「レルクさん、無事でしょうか……」
 不安そうに呟くクロエに、皆焦りが滲んでくる。
 ここまで来るのに、まだそう時間はかかっていないのだが――と、ふと珠緒のファミリアーが何かを見つけたようだった。
「……! 皆さん、こちらです!」
 珠緒の呼びかけに皆が向かうと、倒れた少年の姿があった。
 聞いていた特徴と一致する。彼がレルクだろう。
 位置からして、モンスターが出ていたところと同じだが――襲われたという傷はない。寧ろ、彼を守っていたかのような。
「ぅ……」
 掠れた声で苦しそうに声を出すレルクに、間に合ったと安堵しキルシェは水を渡したが、物を掴めない程には弱っていたようだ。
 ウィリアムがレルクの背を支えるようにして、チェルが受け取った水を少しずつレルクの口に流し込んでいく。
 段々と意識がはっきりしてきたのか、レルクはぽかんとした顔で特異運命座標の皆を見回す。
「あ……え? ヒー、ロー……?」
 その問いに対してクロバが少し照れ臭そうにはにかんで答える。
「ああ、ヒーローたちだよ」
 レルクは嬉しそうに顔を緩めて、やっぱりヒーローは居たんだ! と大喜びした。
 その後、ぐきゅるるる。と大きな腹の音を響かせて、丁度開けた場所という事で少し休んでから戻ることにした。

「冒険って怖いだろ」
 クロバは母の料理を食べるレルクに向かって、優しく問いかけた。
「……こわかったけど、でも」
 それでも、広い世界を見て見たいという気持ちは、少年の中でずっと燃え続けていた。
「そうか……じゃあ他のヒーローにも話を聞いてみな」
 ぽん、とレルクの肩を叩いて、クロバは珠緒に声を掛ける。そして、レルクの傍に珠緒がやってきて、隣に座る。
「レルクさんは、身体が弱いのですよね」
 びく、と肩を震わせて少年は怒られるのではないかと震えていた。
「身体が弱ければ、時間をかけて改善しましょう。珠緒もここに来たばかりの時は、街中を歩いただけで血を吐いて倒れていました」
「そ、そんなに……?」
 レルクは半信半疑と言った様子で、珠緒の姿をじろじろを見る。どう見てもそんな風には見えないと言いたそうだ。――それは少年が世間を知らないから、とも言えるが。
「ええ、そんなに。だから――ひとりで進もうとしないこと。出会いは大きくひとを変えますし、大切な方と共に在れば、きっと強くなれます」
 今にも折れてしまいそうだった珠緒も、あのひとのお陰で強くなれたのですから。そう言って、珠緒は蛍を呼んだ。今度は蛍に話して欲しいようだ。
「ボクが話せる事なんてあんまりないけど……そうだね。胸に抱いた強い思いと、お友達を大切にしてね。皆で力を合せれば、きっとその思いを叶えられるから」
 くしゃりとレルクの頭を撫でて珠緒とふたりで蛍は帰還準備をするクロバの手伝いに行く。
 すかさずそこへアレクシアがやってきて、レルクに声を掛ける。休む暇がないなとレルクは食事を飲み込みながら思った。
「ふふ、ごめんね。ゆっくりご飯を食べさせてあげられなくて」
 みんな、レルク君に伝えたいことがあるんだよ。とアレクシアは笑いかけながら、レルク君と向かい合うように座る。
「これは秘密なんだけどね。実は私も、昔は君みたいに身体が弱くてさ。外に出られなくて、でも冒険にはとても憧れてたんだ。いつか、ヒーローみたいになってみせる、ってね」
 自分と同じで体が弱く、冒険に憧れを持つ者はたくさんいるのだとレルクは少し期待に瞳を輝かせる。そして、その一部の人たちは立派に旅をしているのだとも。
「君も、きっといつか冒険に出れる日が来る。だから、今できることをこれからやっていこう! 冒険者って体力だけじゃやっていけないんだよ! ……いつかその日が来たら、お姉さんが色々と教えてあげるよ。約束する」
 はい。と小指を差し出すアレクシア。恐る恐るレルクは自分の小指を差し出し、絡める。約束の儀式のひとつだ。
「楽しみに待ってるよ!」
 すっと立ち上がってアレクシアも帰還準備に手を貸しに行った。
「あのね、レルク君。お父さんもお母さんもレルク君のこと待ってるわ。大丈夫、二人とも怒ってないから、帰ったらちゃんとお話してね」
 ぼうっともう少しで食べ終わりそうな料理を眺めるレルクに、キルシェはそう言った。
「多くの子供は冒険に出たがるものだし、大人は危ないから駄目だと言うものだよね。……懐かしいな、僕も通った道だ。だから、ご両親に怒られるのかも、という心配はごもっともだ。だからこそ、キルシェの言う通り話をしなきゃ」
 それを見ていたウィリアムも、レルクの不安を取り除くように優しく語り掛ける。
「……うん」
 出発の準備が出来たというクロバの声に、ウィリアムとキルシェも向かう。
 レルクは残りの料理を掻きこむように口に入れ、飲み込んでから立ち上がる。ふら、とまだ回復しきっていない少年の身体が後ろ向きに倒れそうになる――が、それをチェルが受け止めた。
「危ないところでしたわね」
 にこりと微笑むチェルは、レルクをしっかりと立たせてから目線を合わせるようにしゃがむ。
「さぁ、帰りましょう。貴方のお父様とお母様が待っていますわ」
 よろよろと歩く少年の手を取って、帰りは交代しながらレルクをおぶって戻ってきたのだった。
 道中、葉が擦れる音が心地よく、まるで子守唄のようだと思いながら――レルクはまた、眠ってしまったのだった。

 レルクの家に着くと、両親は涙ながらにレルクを抱きしめ、出迎えた。
「ありがとうございます……なんとお礼を言ったらいいのか」
 両親は特異運命座標たちにぺこぺこと頭を下げながら礼をひたすら言い続けた。そこに、クロエが一歩前に出て、お礼の代わりにと言葉を続ける。
「ご両親はレルクさんのことがとっても大切なのですよね。心配する気持ちわかります。それでお願いなんですが、一番側にいてあげられるのはご両親ですから、できることを一緒に考えたり乗り越えたりしてレルクさんの心も守ってほしいです」
 クロエの言葉に、両親は複雑な表情をしていた。
 そうしてあげたい気持ちもある。けれど、出来ない理由があるのだと。そう、顔に出ていた。
「最初に、ご飯を受け取った時もそうだったけれど、何か理由があるの?」
 キルシェは料理を作ってもらうお願いをした時に、彼らが同じような表情をしたことに気づいていた。冒険への憧れ、特異運命座標たちをヒーローと思い向ける尊敬する眼差し。――生きる希望を持っている少年の、熱い思い。
 それらを応援してやれないという両親の気持ちは、どこにあるのだろうか?
 キルシェの疑問は、想像以上に重い返答を投げつけられた。
「……レルクは、もう長くないんです」
 いつの間にか部屋に戻されていたレルクが居ない場で語られた真実。
「あの子は不治の病で、ずっとベッドで暮らしていたんです。時折、お医者様がいらっしゃるくらいで、お友達もいなくて」
「そんな……」
 誰が発したのかは、分からなかった。きっと誰しもが発していただろうから。
「出ていった時点で、覚悟はしていました。もしかしたら生きては帰ってくれないのかと……」
「あの子の夢を応援してあげたいのは、それはもちろんです。ですが……それ以上に、あの子がなるべく長く生きていて欲しい……そう願ってしまうのです」
 ぎり、と強く手を握り俯く両親に何も言えず、これ以上は野暮だと、立ち去る他ないのだろうかと思っていた矢先。
「せんせいが治るおくすりみつけたって」
 様子を見に来たのか、別れを告げに来たのか。眠っていた筈のレルクが自室へと繋がる扉からこちらを覗いていた。両親は驚いたようにレルクの方を向き、部屋に戻そうとするが、首を振って両親に伝える。
「――ぼく、おくすりの材料をとりにいったんだ。せんせいがあとひとつ足りないって」
 そうして迷子になったのは褒められた事ではないが、何にせよ彼の病気が治るのかもしれないと両親の瞳が期待に輝いた。
「では、最後に」
 安堵する家族を見て、チェルが口を開いた。
「レルクさん。今回の一件で、貴方は多くのことを学んだはずですわ。勇敢と無謀は違うこと、事前準備の重要性、死を意識する恐ろしさとそれに伴う慎重さ、飲食物の味、ご家族ご友人など大切な人たちへの思い。どれも、こうなるまでは想像がつかなかったと思いますの」
 チェルの言葉にレルクはう、と気まずそうに頷いた。責めている訳では無いと分かっていても、後ろめたいところがあるようだ。
 しかし――チェルが一番伝えたいところはここからである。
「それらを踏まえた上でなお、貴方がもう一度冒険に出たいと思う日が来るのを、少しだけ先輩の立場から、楽しみに待っておりますわね。大丈夫、貴方の未来には良いカードが暗示されていますわ。『山と靴のカード』――きっと乗り越えられますとも」
 そう言って差し出した占い用のカード。それが本当かどうかは、レルクにはわからないけれど――良いことが起こると、そう信じることができた。

●ギルド・ローレット
「皆さんお疲れ様なのですよー!」
 相変わらず忙しく慌ただしいギルドに響く『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の声。
 依頼を果たしてきたイレギュラーズ達に、報酬と全員に宛てた手紙が添えられていた。
「依頼人さんはとても喜んでいたのです! 皆さんは本当にいいお仕事をされたのですねー」
 手紙は、拙いながらも一生懸命に綴られていた。
『ヒーローさんたちへ
 ぼくはいま、びょうきをなおすくすりができて、それをのんでいます。
 すっごくにがくて、いやだけど、ヒーローさんたちとやくそくしたから、げんきになっていっしょにぼうけんしたいです。また来てね。レルク』
 手紙を読んだ彼らの耳には、あの時聞いた、木々の子守唄が囁いている。
「ふふ、皆さんにとってもいい仕事だったみたいですね」
 報酬を受け取って、またそれぞれの冒険を続けるために集まった一同は散り散りになる。
 ――再び、どこかで物語を紡いでいくために。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

とても楽しく執筆させていただきました!
色々と盛り込みましたが楽しい冒険になっていれば幸いです。

PAGETOPPAGEBOTTOM