PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<神異>花屑のかたわら

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 つづる桜――そう呼ばれたいにしえの霊桜に精霊がひとり。
 八百万と云ふ訳ではない。それは神霊達とも心を汲み合った過去のある美しき霊桜である。白花を風に舞わせたそれは泡沫の夢を見る如く人の姿を作り出す。
 津々流、と。そう名を改めた霊桜は華やかなりし発展を覆う光に憂いを覚える。神咒曙光を包み込んだ神の威光は人々を惑わせ、自身をも忘却の水へと流す。
 嘗て、この地でつづる桜を祀り愛した人々は、命を絶やし消えていった。
 眠る前に、この地に残った子等に人旅の平穏を与えたい。
 それが、地に根付いた精霊の出来ることであると知りながら。


 咒いの気配が國をも包む。愛しき國に陽が陰る。唇を震わせて、津々流は「瑞様」と名を呼んだ。
 何時の日か、この地に姿を見せて共に語らうた神霊の慟哭が耳をも劈くかの如く。
 錦の彩に桜紅葉を混ぜること無く津々流は里へと急ぐ。帝都の装いに身を包めばブーツの踵が硬い煉瓦を蹴り上げた。
 ――瑞様は何処に。彼女ならば、此度の動乱に心を痛めているだろうか。
 急ぎ、民を救わねば。其れが僻地に咲き誇った霊桜のひとときの願い。深き眠りにつく前に平穏に笑う民を見たいと願った有様。
 里を抜け、此岸ノ辺へと辿り着いた津々流を包み込んだのは奇妙な違和感。
 さやさやと風が戦ぐ。芒が揺れて、その向こう側から顔を出したのは一人の娘。

「何処へと参るおつもりですか」

 射干玉の髪を照らした陽は面妖な形をしていた。輝きを帯びたその娘の瞳が爛々と紅を帯びてゆく。
 津々流は唇を戦慄かせる。神咒曙光の神霊『黄泉津瑞神』の眷属か。彼女より発された狂おしき気配は陽の気配を宿していた。
 侵食は、正を喰らい『母』が為と口にする。豊底比売の威光を受けて、彼女は邪魔立てを許さぬのだろう。
 ならば、津々流が助けを請おうとした瑞神とて同じか。

「何処へと、聞きました」

 娘が一歩踏み出した。津々流は身構える。この地で果てようとも、樹が脅かされなければまた再度がある。
 だが、そうなった未来に民草は笑っているだろうか。不安げに唇を震わせた津々流は「何としても、行かねばならないんだ」とそう言った。
 自由気ままに旅をする。そんな人々に夢を見た――津々流の目に映ったのは『気ままに旅をして国を救う』高天京特務高等警察の姿であった。


「急いで欲しい場所があるの!」
『春の魔術士』スノウローズ (p3y000024)の髪を煽った秋風が僅かに孕んだ温い気配は夏の名残であろうか。
 秋の気配の傍らで、彼女は侵食度を確認する。現実とR.O.Oの何方にも影響を与えた其れはついに最終フェーズに移行したのだろう。
「実は此岸ノ辺で豊底比売が――……ってあれ?」
 此岸ノ辺へと繋がる小道に一人の青年が立っている。桜吹雪に身を纏い、春の香りを纏った青年だ。
 彼は神使の姿を一瞥して、はと息を飲む。彼の背の向こう側には射干玉の髪の少女の姿が覗いていた。
「ごきげんよう。高天京特務高等警察の皆様。
 私は黄泉津瑞神の眷属が一人、『華字(かじ)』と申します。それから、こちらが――」
 少女の後ろからぞろりと見えたのは無数の狼か。津々流が身構える。
「……ええと、千匹狼。うん、万葉から聞いてるよ。なら、華字さん。あなたは『鍛冶が嬶(かじがばば)』ね?」
 スノウローズが問いかければ華字はにんまりと微笑んだ。その姿は美しき白銀の狼へと変わる。

「ええ」

 かぁん、と。音がした。鍋を叩き標的を見つけたと千匹狼に合図を送るのだ。
 其れ等は神使と津々流に襲いかかる。スノウローズは「もう、せっかち!」と呻いた。
「と、とにかく。豊底比売を止めるために神使を此岸ノ辺……高天大社に送り込むのが今回のオーダーらしいの!
 だからこうやって『侵食された神霊の眷属』が私たちを足止めしに来てるって事ね。相手は『従わなければ殺して良し』で来ているから……」
 スノウローズは早口でまくし立てながら津々流の手をぐっと掴んだ。
「あなたも一緒に戦いましょう! 人数は多い方が良いわ!
 華字は『鍛冶が嬶』と言う名前で『現実世界』にも顕現した事があるの。
 その時は強すぎて戦うことが出来なかったんだけれど……ううん、今はとりあえず、倒せる相手みたいだから!」
 現実へと侵食した結果、脅威となり倒すことが出来なかった『鍛冶が嬶』をこの世界ならば妥当できる。
 彼女が怪異として希望ヶ浜に姿を現すことを止めることが出来るならばある意味で一石二鳥だ。
「……津々流だよ。精霊なんだ。どうか……民を護るための力を貸してくれないかい?」
「勿論! だって、警察ってそのために居るんだもの!」
 自身満々に微笑んだスノウローズは手を差し伸べる。
 彼の住む里も侵食が続いている。里の民がもう一度居笑うため。その為に、先へ続く道をこじ開けねばならないのだから。

GMコメント

 日下部あやめと申します。どうぞ、宜しくお願いします。
 かじがばばについては『<半影食>狐落し』に登場していますがご存じなくとも支障はございません。

●目的
 華字の撃破

●眷属:華字
 黄泉津瑞神の眷属です。希望ヶ浜には『鍛冶が嬶(かじがばば)』として染み出したことがありました。
 本来の姿は白銀の狼です。現在は射干玉の髪の美しい少女のなりをしています。
 鍋をかん、かんと叩いて狼たちに攻撃指示を送ります。本人は遠距離攻撃を得意としているようです。
 爪より生み出されたつむじ風は狼ごと神使を巻込んで炸裂します。

●夜妖<ヨル> 千匹狼
 華字の配下となる狼です。華字の魔力で生み出されて居るのか無尽蔵に生み出されます。
 10匹倒すことで華字にダメージを与えることが出来ます。基本は華字を庇い続けるようです。
 前衛攻撃を行います。牙や爪での攻撃が得意です。

●シチュエーション
 此岸ノ辺に繋がっている脇の小道です。紅葉が美しく、通路は千匹狼が塞いでしまっているようです。
 障害物になるものなどは周辺になさそうです。

●味方NPC
 ・津々流
 鳶島 津々流(p3p000141)さんのR.O.Oでの姿。桜の精霊。ヒイズルの端の里桜として親しまれてきました。
 つづる桜と呼ばれて居ましたが侵食の影響で祀る人々が減り、里の人々の平穏を心配して此岸ノ辺までやってきました。
 柔和で優しく穏やか。民の平穏を望んだのは彼の初めての願いです。何でも願いを聞いてきた彼のはじめてで最後のお願いになるでしょう。
 ヒーラーとして戦います。自衛は出来ますが攻撃には適していません。

 ・スノウローズ
 桃色の髪の可愛らしい女の子。「皆さんの先輩、だよ♪」
 ヒーラーです。中の人は山田君ですがそれを言うと「やだ~!乙女の秘密!」と拗ねてきます。

●侵食度
 当シナリオは成功することで希望ヶ浜及び神光の共通パラメーターである『侵食度』の進行を遅らせることが出来ます。

●侵食度<神異>
 <神異>の冠題を有するシナリオ全てとの結果連動になります。シナリオを成功することで侵食を遅らせることができますが失敗することで大幅に侵食度を上昇させます。

●魔哭天焦『月閃』
 当シナリオは『月閃』という能力を、一人につき一度だけ使用することが出来ます。
 プレイングで月閃を宣言した際には、数ターンの間、戦闘能力がハネ上がります。
 夜妖を纏うため、禍々しいオーラに包まれます。
 またこの時『反転イラスト』などの姿になることも出来ます。
 月閃はイレギュラーズに強大な力を与えますが、侵食度に微量の影響を与えます。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●重要な備考
 <神異>には敵側から『トロフィー』の救出チャンスが与えられています。
 <神異>ではその達成度に応じて一定数のキャラクターが『デスカウントの少ない順』から解放されます。
(達成度はR.O.Oと現実で共有されます)

 又、『R.O.O側の<神異>』ではMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。

 『R.O.O側の<神異>』で、MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
 但し、<神異>ではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。

  • <神異>花屑のかたわら完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月01日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ちゅん太(p3x000141)
あたたかな羽
神谷マリア(p3x001254)
夢見リカ家
ディリ(p3x006761)
桜陽炎(p3x007979)
夜桜華舞
かぐや(p3x008344)
なよ竹の
ひめにゃこ(p3x008456)
勧善懲悪超絶美少女姫天使
現場・ネイコ(p3x008689)
ご安全に!プリンセス
星芒玉兎(p3x009838)
月光

リプレイ


 かぁん、かぁん。まるで鐘を鳴らすが如く荘厳に響かせたのは鍋の底。輝きを帯びた瞳は悍ましくも血色を滲ませて。
 射干玉の髪の娘の姿が狼へと変貌する様を眺め『怪盗見習い』神谷マリア(p3x001254)はやれやれと肩を竦めた。
「随分とせっかちなやつじゃないかにゃあ? 依頼の話くらいゆっくり聞かせてもらいたいにゃあ」
 嘆息し銀の髪を靡かせるマリアは猫を思わせる金色で狼のその姿を捕らえる。美しい、白銀の獣だ。それは喉を鳴らし神使を警戒しているようにも思えた。
「じゃにゃいと……そっちの言い分聞く前にやっつけることになるにゃよ?」
 唇で嘯いたのは僅かだけ。何方に言い分があれど聞き分けることが出来ないのが現状だ。神使の出方を確認する辺りは『彼女』も用心深いのだろうか。
『春の魔術士』スノウローズ (p3y000024)に勢いよく手を引かれてやってきた『ふっくらすずめ』ちゅん太(p3x000141)はふっくらとした体を揺らして驚いたように嘴をぱちりと鳴らした。
「ぼ、ぼく……!?」
 白銀の獣と相対しているのは白髪を結わえた桜角の青年だ。その愁いを帯びた金瞳は鈍い色彩を湛えている。自身の姿が眼前にある事を驚くちゅん太は合点がいったようにこくりと頷いた。
 彼は『ねくすと』での自分自身。NPCと呼ばれたかりそめの一人なのだそうだ。ぼく、と呼ばれた『つづる桜』、津々流は「しがない神咒曙光の精霊だよ」と穏やかに笑みを浮かべる。
(そっか……もう一人のぼくは精霊なんだ。この国の変を察知してここまでやって来た、と……
 平穏を取り戻した神咒曙光を見せてあげたいから、まずは目の前の敵を何とかしなくちゃね……!)
 決意するちゅん太の前を横切ったのは鮮やかな桃色。ずんずんと前線へと飛び込んだ『勧善懲悪超絶美少女姫天使』ひめにゃこ(p3x008456)はスノウローズの眼前へと立ち塞がる。
「ひ、ひめにゃこさん?」
「こんにちはスノウローズさん! いやーひめも一目見た時から可愛いなーって思ってたんですよ! いいですよね! フリフリピンク!! ひめもピンク大好きです!!」
 捲し立てるひめにゃこに『中身』は男子であるスノウローズは「近い、近い~!」と慌てたように叫び、その様子を眺める『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)にお助けあれと一瞥送る。視線を少し逸らされたのは屹度、気のせいではない。
「でもですね、ちょっとひめとキャラ被ってません……? ひめの姫としての地位を脅かしちゃうならちょっと解らせないとなーって……
 えい、ほっぺぷにぷに、ぷにぷに! ひめにゃこの方が可愛いって言うまでやめません!」
「むきゃっ、かわ、かわい、かわいいから。あの、あのっ」
 場の空気を和ませる桜色の二人を見つめてから『月光』星芒玉兎(p3x009838)は「狼さんも困っておりますよ」とくすくすと笑った。
「さて、スノウローズちゃん弄りはこの辺にして、真面目にミッションをこなしましょう!
 狼の群れって事なんで、余裕ですね! だってひめのリアルはハイエナですし。ハイエナの方が強いです! 根拠は無いです」
 びしりと指さしたひめにゃこに星芒玉兎は成程と頷いた。兎を思わせた紅色の瞳は丸い色を帯びて目の前の狼を見遣る。
「まこと美しい銀狼ですこと。神の眷属に弓引くは畏れ多い事ですが、ここは押し通らせていただきましょう。……それに世界が違うのですから、ノーカウントですわ」
 世界が隔てられたならば信ずる者も大きく違う。況してや美しき銀狼の主は紛い物の神に心を奪われているというのだから。
「狼の群れと少女が一人か。ゲームの中だからあまり気にすることでもないが、時間は少ない。
 多少思うところはあっても押し通らせてもらおう。それに華字を倒せば無限に増殖するってわけでもない。
 ――なら話は早い。狩った分だけダメージが入るのなら、まとめて叩き伏せればいいだけの話だ」
 簡単な話だとガンブレードを構えた『君の手を引いて』ディリ(p3x006761)の傍らですらりと剣を引き抜いたのは『夜桜華舞』桜陽炎(p3x007979)。その整ったかんばせは一層美しく咲き誇るつづる桜の哀愁を湛えるかの如く。
「――其が桜、願いは散らさじ咲き誇れ……人を護りし、見つめしその桜に敬意を。
 枯れし桜の忘れ形見は、今在る桜へ祈りを以て。千本桜と千匹狼――斬り合いを、始めようか」


 つづる桜の化身なる津々流は民を守る力を貸して欲しいと神使へと懇願した。ネイコはにんまりと微笑んで「スノウローズさん」と呼びかける。
「現実で脅威だった相手もこっちでなら何とかなるんだね?」
「うん。向こうじゃどうしようもなかったらしいけど……こっちなら倒せるって!」
「だったら絶対に倒してみせるよっ! 今は遠くても、大事な日常をこの手で護る為にもねっ!
 ……それに、お願いされちゃったからにはマルっと応えないとね! 警察として、私自身として。手の届く人達は皆守っちゃうんだからっ!」
 狼になど遠慮することなく此方に攻撃してくるであろう『華字』は黄泉津瑞神の眷属の少女であるらしい。胸を張った『なよ竹の』かぐや(p3x008344)は堂々と竹槍を手に華字と狼を睨め付ける。
「――華字をブチ転がしますわ!」
 その優美なる月の女神を思わせたかんばせとは大きくかけ離れた快活なる言の葉は一歩も引くこともないという決意に他ならず。
 射干玉の髪を揺らがせた乙女の竹槍がまっすぐに投擲される。些か、淑やかから離れたフォームから発されたのは鋼鉄の竜すら打ち抜く渾身の一撃。
「無限に湧き出る狼の群れ、喧嘩の相手としては文句なしですわね。
 ケモノ相手は舐められたら負け。前衛に立ち、ガンを飛ばしつついざバトル!
 わたくし必殺の竹槍投擲によって、向かってくる狼をドカバキ貫いて差し上げましょう。ぜってぇ怯まず屠ってゆきますわよ」
 宣言するかぐやの傍らでガンブレードのシリンダーに魔力を充填させたディリが武器を担ぎ上げる。挑発を行う仕草は二度、紅の闘志を湛えたディリは狼たちへと回転剣を放った。
「来な。手下の雑魚共も纏めて、俺が躍らせてやろう」
 がちゃり、と音を立てる。シリンダーに充填されていた魔力が勢いよく噴射し、狼たちをもろとも巻込み続ける。
「わ、わ……!」
 ちゅん太は気付けば姿を少女のそれへと変貌させていた華字をまじまじと眺めていた。ならば、と負けじと人の姿へと変化する。構えた刀は悪鬼羅刹が振るった地獄そのもの。雀の尾が衣より覗くちゅん太の周りに桜花が舞い踊る。まるで『小さな己』を見つけたようで津々流は不思議そうに彼を見遣った。
「些か、不思議な心地だね」
「ふふ。ちゅん太さんが頑張って人の姿で戦ってくれるのだもの。私たちも頑張りましょう! つづる桜さん!」
 回復は任せてと笑ったスノウローズにちゅん太は大きく頷いた。『もうひとりのぼく』とスノウローズに支援を任せ、波のように迫り来る狼を倒さなくてはならない。
「二人のことはぼくが護るからねぇ!」
 ――もう一人の自分だからこそ、彼の願いはなんとなくでも分かるから。
「にゃ? ふふーん、マリアだってカッコいいところを見せるにゃあ!」
 尾を揺らがせて豊満な体でも邪魔になどならぬと俊敏な猫の如く地を駆けるマリアは影の名を冠する殺人術を放つ。猫又由来の獰猛な本能はアバターへとインストールされる。モードチェンジ宛ら、金の瞳がぎらりと輝いて、マリアは勢いよく狼を切り裂いた。
「此の儘削り合いましょうか。貴女が何時までその場所で咲いていられるかは分かりませんが」
 華字をまっすぐに見据えた桜陽炎は踊るように剣を振り上げた。斬撃は花びらの如く鮮やかに傷口を咲かせ、仲間達を巻込まぬようにと狼たちを相手取る。
「……けものを殺すことには頓着をしないのですね。皆、この地に生きているだけであるというのに。なんと嘆かわしい」
「ええ。ですが、貴女方はこの地に生きる人々を害する可能性さえあるではありませんか。身を守るのは生物の本能でしょう」
 桜陽炎の返答に華字は唇と釣り上げた。射干玉の髪が揺らぎ『かぁん』と音が鳴れば狼たちの数が増える。
「いえいえ、すっごい増えるじゃないですか? スノウローズちゃんたちはひめ達の後ろに居て下さいね。なんか姫プで腹立ちますね!」
「でもプリティなプリンセスって魔法は物理だったから、ひめにゃこちゃんもプリティなのでは!?」
「……はーい! それでは、覚悟して下さいね。華字さん!」
 にっこりと微笑んだひめにゃこが放ったのは『ひめにゃこの可愛さ』を具現化したたいふーん。愛らしい桃色のエフェクトが乱舞するその中をスノウローズが例えに出したプリンセスは前線で声を張り上げる。
「その鍋の音結構大きいね!」
「ええ。ずうっと遠くまで響かせなくてはなりませんから」
 人の形になったのは狼たちに指示をするため『華字』は『鍛冶が嬶』と呼ばれたもののけであったらしい。ネイコは彼女を狙いながらもその行く手を遮る狼たちに派手なエフェクトと共に災厄の一撃を叩きつける。
 星芒玉兎はまじまじと華字の仕草を眺めていた。あの鍋一つをどうにか出来れば――そう考えずには居られない。
(月閃は使わずに済めばうれしいにゃあ。なんか気持ち悪いから嫌にゃのにゃ)
 最後の手段が存在することには安堵を覚えてマリアは研ぎ澄ませた爪先で虎視眈眈と華字を狙う。
「マリアを怒らせたことを後悔しにゃがら死んでいく準備をするのにゃあ!」


「ひめにゃこはー、今日も~超絶カワイイー☆」
 響いた声が華字が叩いた鍋の音を遮断する。その声にびくりと驚いたように目を見開いた津々流はそれで遮断が出来るなら良き判断だと頷いた。
「な――」
 驚愕に目を見開いた華字の眼前へと飛び込んだのはディリ。その手に握られたガンブレードのシリンダーへと充填されたシェルは十分量。
「余所見は良くないな。お前の相手なら目の前にいるじゃないか」
 急接近し、勢いよく切り上げたディリへと華字が苦々しげに睨め付ける。苛立ちを滲ませた射干玉の髪の少女の背後から飛び出した獣たちは牙をむき出しにしていた。
「ッ――わらわらと……!」
 地を蹴って、靴裏に張り付いた砂が鬱陶しく感ぜられるままにガンブレードの魔力を炸裂させる。ばちん、と音を立てて爆発したそれに怯んだ獣の前へとかぐやが竹槍を叩きつけた。
「そのまま24時間根性比べの耐久バトルに持ち込むのももちろんアリ! ですわよ?
 けれど映えを意識するなら直接ぶっ飛ばすことも視野に入れてこそ。それでこそバトルは盛り上がるというものですわ!」
 ふふんと胸を張ったかぐやは竹槍を構え直す。鍋を狙う星芒玉兎は冷徹な氷輪の輝きを放つ。蒼き光が狼たちを包み込めば、それらは異界より授けられた星詠みの秘奥の前に目も眩む。
「しめたにゃ!」
 周囲には罠も存在しない。『こちらが舐められている』事くらいそれだけでも十分に分かると言うようにマリアは勢いよく狼たちの元へと飛び込んだ。
 星芒玉兎の秘奥と同じく、マリアも狼たちを困惑の渦へと巻込んでゆく。どれだけ暴れたところで、目撃者を消してしまえば『完全犯罪』が立証できるとでも言いたげに乙女の爪は鋭く研ぎ澄まされた。
 積極的に周囲の狼たちを狙い続けるネイコは前線で敵視を取り自身のその身全てを盾とするディリへのサポートをスノウローズと津々流へと再度願う。
「狼の数が予想以上に多いよね……!」
「ああ。だが、アチラも狼を消されるたびに疲弊しているのは確かだ。此の儘畳みかけるぞ……!」
 ディリ一人への負担が重たいことは確かだが、アタッカー全員で協力し合えば彼を其の儘前へと押し進めることは出来る。彼の立ち位置が自軍の進行度を示しているように思えてネイコは大きく頷いた。
「よーし、一気にぶちかましますよー!」
 ひめにゃこの『かわいい』がまっすぐに狼たちへと届けられる。その傍らより桜の花びらを散らしながら踊る桜陽炎は『狼の増える速度』が衰えていることに気付いていた。
「もう少しですね……!」
「うん。もう少し!」
 頷いたちゅん太は『もうひとりの自分』の心境を慮って苦しげに息を吐いた。こうして、傷つけ合う様子さえもきっと彼は好ましくはない。
 愛した神咒曙光の姿が泡沫の如く消え去る恐ろしさ。発展を遂げた街の明かりは全てを明るく照らし続け、夜の闇など忘れ去ったように光だけを見せ付けてくるのだから。
(あと少しで終わらせるから……!)
 もう一人の自分が望んだ平穏へ。神霊たちと慈しんだこの地を思うようにちゅん太の剣が閃いた。
「待たせたな。もう一度相手してやろう」
 再度、華字へと相対したディリが頬に付いた汚れを拭う。ガンブレードを担ぎ直し、自身へと敵愾心を集めるように鋭く研ぎ澄ませた瞳で睨め付けた。
「終幕、フィナーレ。ジエンド……というやつです。開花全開、見せて差し上げましょう――」!
 堂々と宣言したのは桜陽炎。桜を纏った切っ先が月明かりを受けて鈍く輝く。
 その瞳に乗せられた仄かな狂気は夜妖(よる)を灯して昏き鈍色へと変化した。舞い踊った桜吹雪。それはつづる桜にとっては春先に、民が喜ぶ笑顔を思い浮かべさせる。
(ああ――あの子達を護りたいなあ)
 茫とその様子を眺めた津々流の前で、桜吹雪は剣の如く形作られ、華字へと繋がる道を開いた。
(――届くッ!)
 ネイコは目を見開いた。その長い髪がふんわりと揺らぐ。安全第一と掲げた武器の切っ先に乗ったのは仄かな月明かり。
「――行くよ、闇夜の一時に『夜妖』を纏え『月閃』っ!」
 叫ぶネイコの言葉に小さく頷いたのはちゅん太。華字に迫る彼女への後押しは己のみに宿された深き月夜の欠片。舞い踊った桜は赤黒く血色に染まり、纏う衣は黒衣へと変化する。ちゅん太は「此の儘押し切ろう!」と叫んだ。
「うん。華字さんの好きにはさせない!」
 ネイコの手が、華字へと届く。それでも少し足りないと唇を噛みしめた乙女の背後より金の髪がふんわりと揺らぎ、月の気配を散らす。

「――いまはとて 天の羽衣 着る時ぞ 君をあはれと おもひいでぬる」

 紅色の瞳には爛々と狂気を乗せて。花びら散らすが如く、天の羽衣を纏うたかぐやが接近する。
 金に輝いた竹槍が狙ったのは鍋。狼たちへの指示が不完全になれば此方のものと言いたげにかぐやは叫ぶ。
「うおー! 殺ってやりますわー!!」
 ぎらりと煌めいた紅色の瞳を見据えて華字はその背の向こう側を見遣る。「悪あがきにゃよ」と声が振ったことに気づき、射干玉の髪の乙女は牙をむき出しにした。その美しいかんばせに獣が宿され、半端な狼の変化を見せる。
 くすくすと笑ったマリアが庇ったのは津々流。此方が畳みかけるつもりならアチラも。そう見越してその導線を塞いで置いたのだ。
「どうして邪魔をするのです――!」
「全ては、民を護るためだよ……」
 苦々しく呟いた津々流に華字は叫ぶ。「我らに任せておけば神の威光を頂きこの国は発展してゆくというのに!」と。
 その発展は人々を苦しめるだけなのではないかと。口を開けずに居た星芒玉兎の傍らで夜の気配を纏うネイコは「そうだね」と呟いた。
「けど、その発展に今までこの国に住んでいた人たちは納得できるのかな?
 できないから『警察(わたしたち)』を頼ってくれたんだ。市民の安全は、私が守る!」
 堂々と決め台詞を叫んだネイコにスノウローズが「きゃあ」と叫び声を上げる。ひめにゃこがじろりと見遣りながら狼を押しとどめれば、スノウローズは慌てて口を噤んだ。
「言い分は聞いたにゃよ。でも、それじゃにゃあ達も許せないにゃあ」
 マリアの目がきらりと輝いた。最後まで、彼女とは戦い続ける運命か――そう憂うように目を伏せた津々流を護るべくその身を張る。
 ガンブレードを振り上げたディリの傍らからひらりと桜陽炎が前線へと飛び出した。
「これでおしまいです――!」
 舞い踊った桜の花。それは何時かの日の幻想の如く。華字が花へ目を奪われたその眼前へ、ネイコはまっすぐに武器を振り下ろした。
 己の体から抜け落ちていく深き夜の気配を感じながら。一度の狂気に委ねたその力が花開いて、散ってゆく――

「月閃……」
 どうにもその名前には少しばかり引っかかりを覚えると呟いた星芒玉兎はほうと息を吐く。
「申し訳ありませんが、押し通らせていただきました。譲れないだろう彼の桜の為、違いの桜として。
 ……桜の一生は長き刻、されど一瞬を生きる『今』の人間たちの為」
 桜陽炎はゆっくりと目を伏せる。倒れ伏せた精霊は震える手で月に焦がれたように手を伸ばす。
 その手をそうと握りしめたのは害される立場にあった津々流――辺境に咲き誇るつづる桜。
「平穏が訪れたなら、共に桜を見よう……? 瑞様も一緒に……きみの好きなものでも食べながら」
「瑞、さま――」
 目を見開いた射干玉の髪の少女はふ、と笑う。ああ、そうだった。『彼女』は本来はこの国を慮り愛するただのひとり。その気持ちを代弁し、本来の彼女をないがしろにしたのは己だったのではないだろうか。
「ああ……」
 ゆっくりと目を閉ざした華字は呟いた。春は、平穏はもうすぐ側にあった事に、終ぞ気付かなかった、と。

成否

成功

MVP

ディリ(p3x006761)

状態異常

ディリ(p3x006761)[死亡]

あとがき

 この度はご参加ありがとうございました。
 MVPは無数に存在した狼を一手に引き受けた貴方様へ。とても素晴らしき健闘ぶりでございました。

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