PandoraPartyProject

シナリオ詳細

狂える森の賢者

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●二人の呪術師
 昔々、ある所に二人の呪術師がおりました。
 一人は負の感情を利用した強力な呪いを、
 もう一人は正の感情を利用したささやかな呪いを得意としており、
 二人共人々の生活を豊かにしようと考えておりました。
 ですが、人々が頼るのはささやかな呪いばかり。
 強力な呪いは怖がられ、嫌われていたのです。
 次第に周囲から人々がいなくなっていった呪術師は、もう一人の呪術師に嫉妬し、憎む様になりました。
 そしてある日、ついにもう一人の呪術師へ死の呪いを掛けたのです。
「お前さえいなければ」
 歪んだ負の感情からなる彼の死の呪いはそれはそれは強力なものでした。
 ですが、懸命に生きようと足掻くもう一人の呪術師も自分に呪いを掛けます。
 不死の呪いを。
 とても弱々しいそれを、もう一人の呪術師は幾重にも重ねていきます。
 人々も彼を救うために協力しました。
 かくして死の呪いを抑え込むことができたのですが、当然、彼の呪術師は怒り狂うのです。
 不死の呪いを重ねたように、彼もまた死の呪いを重ねて、不死の呪いを破ろうとしました。
 恐ろしい鼬ごっこの始まりです。
 死の呪いと不死の呪いを重ね続けて、重ね続けて、重ね続けて……。
 その呪術師は、永遠に死に続け、生き続けることとなったのです。

●負の遺産
「と、そういうわけなのです」
 ギルド・ローレットにて、周囲にイレギュラーズを集めた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が古びた絵本の朗読を終えた。
 なんのためにもならなそうな教訓もなにも無い絵本。それをなぜ今読み上げたのかと言えば、ユリーカは「ちょっとした事情説明なのですよ」と言う。
「これは昔々の実際起こった悲劇のお話なのです。呪われた呪術師は今もどこかで生き続け、死に続けているのです」
 絵本をテーブルに置いて、今度は手帳を開く。
 いくつかのメモをテーブルに並べ、最後に依頼書を取り出した。
「その呪術師の肉片が、森の賢者と呼ばれる動物に寄生しました」
 言って、指差すメモの一片には、目玉の様な何かが張り付いた動物の絵がある。
 森の賢者。人に似た姿で人に似て賢く、しかし人よりも力強い。そして何よりも優しく大人しい動物だ。
 体長はおおよそ3m。基本は人型だが、上半身、特に両腕が異常に発達しており、握力も人間の数十倍を誇る。しかし争いを好まず、その膂力は主に樹上での生活に用いられるという。
「だから森の賢者とまで呼ばれているのですが、肉片に寄生されたことで狂ってしまったのです」
 悲しそうに言うユリーカが指し示す二枚目のメモには、肉片がもたらす呪いが羅列されている。
 それは肉体の腐敗、壊死、崩壊、変質、融解、炎上、石化、蒸発等々……。
 そして、それらの再生。
 想像を絶するありとあらゆる苦痛が賢者を襲い、そしてそれが延々と繰り返されているのだと言う。
「この呪いはとうぜん肉片の方にもかかっているのです。既に地元の猟師が試したのですが、肉片を攻撃しても再生します。そもそも賢者自身が肉片を引き千切ったりもするそうなのですがすぐに治ってしまうとのことです」
「厄介だな……」
 誰かのつぶやきに、小さく頷く。
 そしてユリーカは最後に依頼書を差し出した。
「依頼内容は肉片の駆除。おそらくは賢者ごと屠ることになるとおもいます。森の賢者は元々それなりに強い動物ですが、呪いと狂気によって肉体のリミッターも外れている状態なのです。見境なく暴れるだけの獣、ですが、イレギュラーズと言えど正面から戦えば相当な痛手を負うと思うのです」
「救う方法は無いのか?」
「……ボクには見つけられなかったのです」
「そうか」
 昔々から続いている幾重にも折り重なった呪いを解く方法など無い。
 しかしイレギュラーズなら、森の賢者だけでも、と、そう思わずにはいられなかった。
「救えずとも、せめて安らかに死なせてやって欲しい」
 依頼書に書かれた依頼人からの縋るような一文に、イレギュラーズは頷いて支度を始めるのだった。



GMコメント

 解呪(物理)です。
 以下依頼詳細です。

●肉片
 死の呪いと不死の呪いを受けた人間の肉体の一部です。
 それそのものが呪具に等しく、寄生された者にも呪いが伝播します。
 寄生する理由は不明。
 死と不死の呪いのバランスを崩す事で破壊可能であり、端的に言うとダメージを与え続け再生不可能(戦闘不能)まで追い込めば勝手に消滅します。
 寄生中は母体に根を張る形で存在し、体外に大部分を露出していますが、根の部分が残っている限り、露出部分を潰しても再生します。
 露出部分には目玉の様な物が有り、常に涙を流しています。
 また、「助けて」「生きたい」「死にたくない」などと言う事も有ります。

●森の賢者
 HP、物理攻撃力、反応、命中、回避に優れた動物ですが、
 呪いと狂気により反応、命中、回避は下がり、攻撃力が大きく上昇しています。
 また、非常に強力な再生能力を備えています。
 攻撃対象は自身と肉片を含む周囲全てであり、【怒り】などのBSを含む、全ての攻撃誘導を受け付けません。
 我を失い暴れているので、恐らく逃走はおろか移動もあまりしません。
使用スキル
・通常攻撃 物至単 低命中/大ダメージ
・暴れ回る 物至域 低命中/大ダメージ
・殴り倒す 物至単 低命中/特大ダメージ/反動
・振り回す 物近列 低命中/大ダメージ
・怒り狂う 自付与 物攻+特大/防技-大/回避-大/【副】

●ロケーション
 鬱蒼とした森
 森の賢者の周囲以外は木々で覆われており、距離を取るほどに射線の確保が難しくなります。
 周囲には人も動物も居ません。

●謎の情報郡
・肉片は他生物へ寄生する
・肉片は再生するが、元の人の姿にはならない
・死に近づけば死の呪いが勝つ
・可能な限り回復させても不死の呪いが勝つ事は無い
・再生力は最低限森の賢者の自滅ダメージを上回る

  • 狂える森の賢者完了
  • GM名天逆神(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年07月12日 21時40分
  • 参加人数10/10人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

シルヴィア・テスタメント(p3p000058)
Jaeger Maid
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
フロウ・リバー(p3p000709)
夢に一途な
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
雷霆(p3p001638)
戦獄獣
プティ エ ミニョン(p3p001913)
chérie
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
シラス(p3p004421)
竜剣

リプレイ

●生き地獄の体現者
 血が湧きたち、皮膚は爛れ、骨が突き出しては砕け散る。
 常人ならば数分も経たずに死に至る様な惨状を、しかし森の賢者は生き長らえていた。
 いや、生かされていた。
 血と臓物と絶叫を撒き散らしながらも彼の内側からは溢れた分だけの血が、零した分だけの内臓が、砕けた物に代わる骨が生まれ続けている。
「なんて地獄だ」
 『戦獄獣』雷霆(p3p001638)は呟いて両手の中の得物を握り締めた。間違いない。森の賢者も、肉片も、戦っているのだと。
「……救えるのかな。森の賢者を」
 惨状を前にして弱音を吐くマルク・シリング(p3p001309)。救えるとはとてもじゃないが思えない。それでも、陣頭指揮を務める軍師たるマルクは、覚悟を決めて前を見た。
「……いずれにせよ、やれる限りの事はやってやるさ」
 同じく救う自信が持てなかった『星を追う者』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)も肩を並べる。迷うのも悩むのも、今は必要ない。
「昔々で始めたらめでたしめでたしで終わらなきゃいけないんだぞ!」
 そう言う『chérie』プティ エ ミニョン(p3p001913)はどうも彼の肉片に纏わる昔話が気に掛かるらしい。
「然り。此度の悲劇は終いに非ず。成り果てが果てる前に救済を」
 深淵めいた貌に嗤いだけを浮かべた『Eraboonehotep』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)も続ける。救済せねば、と。
 その物語が綴じていないのであれば、生き足掻いているのなら、先を綴る事は可能であり、そうすべきだ。
「この距離なら問題はないみたいだねぇ」
 木々の間を行き来しながら森の賢者を見ていた『Jaeger Maid』シルヴィア・テスタメント(p3p000058)が呟いた。
 賢者の周囲は木々が圧し折られ、砕かれている。が、イレギュラーズが今居る20m地点では鬱蒼とした森が視界を覆っている。
「地形の把握が些か甘かったですね」
 そう言う『夢に一途な』フロウ・リバー(p3p000709)だが、それでも対策はしてきたつもりだ。現場についてみて分かったのは、射線は10mを超えるとどんどんと確保し難くなり、現在地でも辛うじて見える程度、間違いなく命中精度は落ちるだろうという事だ。
「森の賢者、苦しそう……できれば、たすけてあげたい、な」
 『孤兎』コゼット(p3p002755)がか細い声で呟く。森の賢者にしてみれば最低最悪の災難に見舞われたようなもの。あまりにも理不尽だ。
「依頼人の考えも森の賢者を助けられるなら助けてほしいってところだよね」
 ローレットで見た依頼書の一文を思い出しながら『鳶指』シラス(p3p004421)は言う。「せめて」と言うのなら、本当はもっと良い結末を求めているはずだ。
「自分が生き残るために他を巻き込んでちゃお終いだ。その呪いとやら、此処で断ち切らせて貰うぜ」
 そう言った『黒キ幻影』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)が腰を落として構える。
 視線の先、もがき苦しむ森の賢者。その振り回した両腕が地面へ叩き付けられ圧し折れた瞬間、イレギュラーズは一斉に走り出した。


●死に追いやれ
「おおおおッ!!」
「はぁあああ!!」
 ボゴンッ――!
 雷霆とシュバルツが駆け寄るや否や叩き込んだ一撃は森の賢者の分厚い胸板をぶち抜いた。
「ごめんね、がまん、して――……!」
「せぇーいっ!」
 揺らぐ巨体に瞬きの間で肉薄したコゼットは蹴りを浴びせ、彼女の頭上を飛び越えてきたプティがほとんど飛び乗る形で森の賢者を組み敷いた。
「最高の出だしです、畳み掛けましょう!」
「いくよ! 続いて!」
「任せなあ!!」
 マルクの指示、シラスの号令に続き、シルヴィアの正確無比な射撃が森の賢者を穴だらけにしていく。
 後衛からの攻撃はやはり精度に欠くが、それでも確実に賢者の体力を毟り取って行った。
「肉片ではなく、森の賢者狙いにしたのは正解ですね……!」
 射線の確保を優先し、放出した魔力で賢者を打ちながらフロウは言った。
 この距離からでも分かる。死の呪いとイレギュラーズの一斉攻撃により削げた森の賢者の身体の中には、文字通り木の根の如く網状に広がった肉片の触手が見えていた。
「あれを全部除去するのは無理か……!」
 ウィリアムが星剣を召喚し、森の賢者へと射出する。流星の一閃は森の賢者ごと肉片の根っこを断ち切るのだが、根っこは血が噴き出すよりも早く再生を始めていた。
「削れてはいます。ですが……」
 マルクがジッと観察し、与えたダメージや森の賢者の余力などを推し量るが、余りにも変動が激しい。分かるのは、非常に長い戦いになるという事だけだ。
 それともう一つ。
 森の賢者の膂力は、想定以上に桁違いだ。
「ごぉおおあああああああ!!!!!!」
 断末魔の様な咆哮。
 連撃を受けて押し倒された森の賢者が、起き上がりながら両の腕を振り上げていた。
 ドゴンッッ!!!
 自滅を厭わず、地を割り木々を薙ぎ倒す怪力の一撃は、オラボナの胴体を引き潰すかの様に深く抉る。
「オラボナ!」
 仲間を庇ったオラボナがただの一撃で吹き飛ばされた。
 潰れる音。
 砕ける音。
 だが、その音に混じる、嗤い声。
「何ら問題無い。手を止めず綴るべきだ、救済を齎す王道なる未来を」
 立ち上がったそれは、何に臆する事も無く再び森の賢者の前に立つ。
 つられて、他のイレギュラーズからも笑みが零れた。
「さあ。魅せて晒そうか」
 救うと決めた。
 だから、イレギュラーズは敢えて苛烈な戦いを挑む。


●死を撒き散らす者
「ごあッ……があああああああ!!!!」
 近くの木を引っ掴み、出鱈目に薙ぎ払う。
 森の賢者の馬鹿げた膂力が成し遂げる理不尽にさえ思える暴虐は、オラボナをもってしても完全には防ぎ切れはしない。
 だが隣に並ぶ小さなプティが第二の壁として十全に機能していた。
「打たれ強さなら負けないよう!」
「我等『物語』に挑むか」
「頼もしい限りだ」
 二人の耐久力と再生力に加え、ウィリアムとマルクからのヒールが前線を支えていた。
「負けてらんねえなぁッ!」
 降り注ぐ弾丸が森の賢者の皮膚を削る。
「それはこっちもだ」
 傾ぐ賢者の指を取り、シュバルツが森の賢者を地面へと投げ付ける。
 轟音の上に轟音を重ねる雷霆の爆彩花。悲鳴と血が飛び散る中へ躍り込むコゼットが前蹴りを叩き込んだ。
 その直後に、賢者の足下が弾け飛ぶ。
「外したかぁ」
「こちらもです」
 不運と障害物、それぞれに阻まれ、シラスとフロウが歯噛みする。
 だが立ち止まるわけにはいかない。
 一歩でも前に出て懸命に手を伸ばさねば、誰かを救うことなんて出来やしない。
「僕が『視てる』から、全力で行って」
 その一歩を、マルクの一言が踏み出させる。
「ごぉああああッ!! があああああああああ!!!!!」
 雄叫びを上げる。
 振り上げられた剛腕は何も狙ってはいない。
 ただ振り下ろされた先にたまたま誰かが居るだけだ。
「そんな、たまたま、には、当たらない」
 コゼットが身を翻す。数ミリ隣に鉄槌が振り下ろされ爆音に鼓膜と全身を叩かれながらも、返す刃で傷んだ肘を蹴り砕く。
「良い技だ」
 美技に感嘆の声を漏らす雷霆は闘志の焔を燃え盛らせると、両の爪撃にさえその炎を滾らせる。放つ一撃は段々と火力を上げていき、反動で裂けた身体をも闘志の焔が覆っていく。
「そっち、も?」
 褒め返すコゼットだが、苛烈さを楽しみ笑う雷霆を見て思う。あれは技なのか。
「ふ――ッ!」
 シュバルツも負けじと一撃を叩き込む。
 浴びせ降り注ぐような連撃は、一撃に劣ろうと、総火力として見劣りはしない。
 直後、苦悶に歪み、再生する森の賢者へ追い打ちの様に被せられた術式は、剛腕を片方もぎ獲った。
「よし!」
「やるな」
「当たればね」
 会心の手応えに拳を握るシラス。その様子を見ながらフロウも魔力を放出し続ける。
「当たってますけど、直撃とはいかないです」
 射線が通らなければ攻撃は届かない。しかし射線が通ったとしても、射線が狭ければ狙いにくい。
 フロウの言う通り当てることは出来ても直撃が少なければ火力が抑えられるのと同じ事。
 同じく中距離から攻撃していたシルヴィアも頭を掻く。
「リスク背負わなきゃいけないってか」
 シルヴィアが短く笑うと、前へ飛び出した。
 木々を抜け、遮蔽物の無い空間へ。
 近距離。
 森の賢者の剛腕が届く距離。
 危険地帯だが、――見晴らしは最ッ高だ。
「くたばんなッ!!!」
 獰猛に笑うシルヴィア。その両手の拳銃が咆哮し、無数の弾丸が森の賢者を穴だらけにしていく。
 無傷である必要は無い。
 HPなんて1でも残っていりゃぁ十分だ。
 ヒット&アウェイで、撃ちまくる――!
「せいっ!」
 そんなシルヴィアを庇って、プティが丸太で打ん殴られた。
「大丈夫か!?」
「へーき! 8割軽減したから!」
 にっこにっこしながら言うプティ。既に並のイレギュラーズなら2回ほど倒れていそうなダメージを受けながら、シルヴィアにサムズアップを送る。
「そうだ、攻めないとな!」
 言葉と共にウィリアムが飛び出した。
 マルクからの指示も重なる。いよいよ大詰めだ。
 見れば、千切れた腕も、削げた胸部も、折れた脚も、穴だらけの全身も、再生が間に合わなくなった森の賢者が呻いていた。
 それでも死に物狂いで振るわれる腕は突風のようにイレギュラーズを薙ぎ倒していく。
 消耗は味方側も激しい。
 これ以上は体力も回復も気力も持たないだろう。
「肉片の再生力がこっちの火力を上回ればお終いだ」
「そうなる前に、出し切ろう」


●決着
 暴風。
 手にした倒木を出鱈目に振り回すだけで、周囲には血風の嵐が吹き起きた。
 まだ無事だった木々さえ叩き割り、枝葉が飛び散り、殺傷力を伴う横薙ぎが襲い掛かる。
「いだぁい!?」
「些事だな」
「よゆう……」
 壁となったプティとオラボナが丸太を受け止めると、その上をひらりとコゼットが飛んでいく。
 上下反転したまま振り抜いた右足が森の賢者の後頭部を強かに打ち付けた。
 ぐすぐずになった頭部が揺れる。
 その隙を突き、喉元を穿つシュバルツ。命を抉る感触。確かな手応えを感じた瞬間、振り下ろされた拳に打ち付けられる。
「……次は立てそうにないな」
 べっ、と塊になった血反吐を吐き捨てて再度構える。
「アタシもだ」
 先の横薙ぎが直撃したシルヴィアもよろけながら立つが、二挺拳銃の照星が小刻みに震えていた。
「でもな、アタシも生き汚いんだ」
 気が合うだろ? 呪術師、なんて言いながら、シルヴィアは有りっ丈の弾丸をぶちまけた。
 後ろから飛んでくるフロウの魔力も長丁場で皆のAPが尽きていく中で最後まで継続してダメージを与え続けていた。
 それでも、
「ごあ、ああああ、ぐがああぁぁあッ!!!」
 怒り狂い、苦しみもがき、暴れ続ける森の賢者は、まだ倒れない。
 対して、イレギュラーズはとうに限界は迎えていた。
 それなら先に倒れるのも盾役の矜持とばかりに、プティは笑う。
「あとはよろしく♪」
 振り下ろされる怪力無双の無慈悲な鉄槌は、小さな笑顔を捩じ伏せた。
 だが、守った。
「任せろ」
 応じ、引き受けたのは雷霆。
 プティとはまるで違う凄惨な笑みを浮かべ、全身に劫火を纏う。
 翳した右腕に纏った焔が赤黒い雷に変わった瞬間、爪撃は賢者の胴体をぶち抜き、引き抜くと同時にハラワタをぶちまけた。
「が……ッ!」
 森の賢者の動きが止まる。
 致命の一撃は、しかし、ギリギリで死に至らない。
 それを狙っての一撃だからだ。
 それを願っての戦いだったからだ。
「――今だッ!」
 マルクが叫ぶ。
 飛び出したのは、全員だ。
 森の賢者の再生は、止まっていた。
 死の呪いと不死の呪い、その拮抗が、ほんの僅かに崩れた証。
 故に、肉片は叫ぶ。
「生ぎだい……ッ!」
 濁り、くぐもった声。
 悲痛な叫び。
 肉片に張り付いた目玉は、気付けば血の涙を流していた。
 次の瞬間、森の賢者の剛腕が振るわれた。
 瀕死で最早意識も無い森の賢者を動かしているのは肉片とその根っこだ。
「馬鹿力め……!」
 その一撃を受け止めながらシラスがぼやくも、先程とは明らかに違う。
 弱い。
 そもそも操れるわけではないのだろう。
「生ぎだい……ッ!」
 叫ぶ。
 ただ無理矢理に動かしただけの手足ではろくな攻撃にはなりはしない。
 それでも消耗したイレギュラーズには脅威になり得る。
「くそっ、ダメか……!?」
「いえ、まだです! まだ、生きてる……!」
 風穴の空いた身体も死の呪いによる追い打ちを受け少しずつ死に向かっている。
 だが、天秤が傾いたとはいえ、不死の呪いが消えたわけではない。
 それはまるで縋るように、致命傷から順に少しずつ再生していく。
「死にだぐない……ッ!」
 振るわれる腕を、オラボナが受け止める。
 威力が落ちたとはいえ依然強烈な打撃に、オラボナの身体が軋み、音を立てる。
「ならば、神々が伸べた腕を掴むが好い」
 いつもの嗤い貌のまま、掻き抱く様に肉片ごと森の賢者をおしとどめ、――そのまま崩れ落ちた。
 その後ろから、腕が伸ばされる。
「おいで。たすける、から」
 手を差し伸べたコゼットは願う。
 救いたい。
 それは森の賢者をだとしても、その為に張った命と想いは本物だ。
 肉片に、コゼットが触れる。
 流れ込む正の感情に、不死の呪いが強まる。
 森の賢者の傷が少しずつ再生していく。
 しかし賢者は目を覚まさない。
「助げで……ッ!」
 肉片は言う。
 濁った声で。
 血の涙を流しながら。
「助けてやるとも」
 周囲を見れば、ボロボロになったイレギュラーズが立っていた。
 不安や迷いは有れど、皆森の賢者を救おうと願い、戦った者達だ。
 その願いが、正の感情が、救いたいという想いが、森の賢者を癒していく。
 そして、
「ありがどう……」
 ほとんど全ての致命傷が癒えた後、肉片の根が賢者から抜け落ちた。
 その根は、ひどくのろのろとした動きでコゼットへと絡み付く。
 寄生する気なのだろう。
 だがその動きは、まるで何かに阻害されているように遅い。
「……殺じで」
 そうして肉片は言った。
「大丈夫、約束だ。お前の本体は必ず助ける」
 その言葉に、肉片は雷霆を見上げて、微笑むように目を細めた。


●後日譚
 依頼は終わった。
 肉片は駆除され、森の賢者もイレギュラーズも皆助かった。
 森への被害もそこまでではなかったという。
「なんだったんだろう」
 しかしながら腑に落ちない。
「死と不死の呪いは、元凶が異なり、彼の源たる混濁もまた違える」
「どう、いう、こと?」
「ふむー。寄生って、死と不死の呪いの、どっちの効果だったのかな?」
「あー」
 それは考えなかったな。
 異なる呪い、異なる思い、相反する2つの要素が混じり合っている矛盾の塊があの肉片だった。
 なら、もしかして、
「寄生したのは死の呪いのせいで、不死の呪いは森の賢者を助けたがってたのかもなぁ」
 知らねーけど、と言いながらも、そうであって欲しいとも思う。
「でもそれじゃあ死にかけるほど寄生の力が強くなる気がします」
「たしかに。やっぱりよく分からないな」
 結末はあっさりとしたものだった。
 だが、望んだものだった。
 後味は、最高とは言えないかも知れないが。
「何にせよ、目的が増えた。あれより強力な個体が居るなら是非戦いたい」
「ぶれないね……」
「私は逆に、この手の呪いには二度と関わりたくないですね」
 生き生きとした一人とげんなりした様子のもう一人の対比に、イレギュラーズは笑い合う。
「これにて一件落着って訳だ」
 その言葉に、全員が頷いて返した。

 昔々のひとかけら。
 解けない筈の呪いが解けた。
 そんな奇跡を、彼等は日常茶飯事の様に成し遂げたのだった。



成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 御疲れ様でした。

 作戦は想定した内では完璧の部類です。
 射線関係は特に遠距離以上が多いと辛いはずでしたが、地味なペナルティ程度に収まってしまいました。
 作戦もですが、意志が統一されているのは素晴らしい事だと思います。
 素晴らしいプレイングでした。
 肉片が分裂する可能性とかも潰してあって素晴らしいと思いました。
 素晴らしいしか言えねえ。

 森の賢者は今頃森の中でウホウホ言っていると思います。
 きっと皆さんのこと超好きになったと思うので会いに行けばハグされますよ。躱さないと死ぬ感じの。

 それではご依頼参加いただきありがとうございました。

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