PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Noise>グレイ・グリード・クライシス

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 無機質なタイピング音のみが響き渡る研究所。日夜も問わず働き続ける青年はゼリー飲料を喉へと通す。
 センターモニターの端に表示している電力供給量を見るに安定はしていない。セフィロト内ではライフラインの麻痺が起こっているのだろうか。
 ナヴァン・ラグランは嘆息する。
 安住の地セフィロトはマザーによる恩恵を享受していた。冷暖房システムを始め、生活の必需という部分まで彼女の権能に寄り添っていたのだ。

 system error:応答はありません。

 ナヴァン・ラグランは嘆息する。
 作業はからきし。目標とした進捗度には到底届かない。
「こんにちは。差し入れです」
「……ああ、お前か。セフィロトで購入できたのか?」
「いえ。お店は何処も閉まっていましたから、外から」
 研究室の扉を開きひょこりと顔を出したニル (p3p009185)にナヴァンは後ろ手で合図をした。
 食事に頓着しないナヴァンと『おいしい』に興味があるニルの奇妙な関係は親鳥が雛に食事を与えるかのように密やかに続いている。
 備え付けたアナログ時計の針がぴたりと引っ付いたランチタイムに席を立ったナヴァンは後方でモニターがエラーを吐き出したことに気づいた。
「食事は後でも構わないか?」
「どうかしましたか?」
「……拙いことになったな」
 エラーを検知しました。
 その文字が躍るモニターの無機質さを余所に遠く、爆発音が響いた。
「これは?」
「治安維持用ロボットのエラーコードだ。犯罪者追跡システムを搭載している……が、これがエラーを起こしたのか」
 拙いともう一度呟いたナヴァンは慌てたようにモニターの前へと着席したのだった。


「ランチタイムにごめん、ちょっと手伝って欲しい」
 セフィロト内に存在するとある研究所の前で山田・雪風 (p3n000024)はイレギュラーズへと言った。
「何があったのでしょうか。外に出るように言われました」
 首を傾いだニルに雪風は「ナヴァンさんは?」と問うた。彼はモニターに齧り付き何らかの作業に没頭しているらしい。
「ナヴァンさんは人工知能の研究者。練達ではセフィロト内での生活を豊かにするロボットの研究を行ってるらしいんだ。
 研究所には沢山のロボットが研究材料として設置されていて、それが今回の騒ぎで暴走したらしい」
『Rapid Origin Online』より生じたマザーの不調が現実に影響を及ぼしているのは聞き及んでいるだろう。多数のイレギュラーズがR.O.O内に取り込まれた一方で現実にもダイレクトに影響が出てきたと言う訳だ。
「ナヴァンさんはロボットを研究所内から出さないように尽力してくれてるんだと思う。
 それで、俺達はロボットをぶん殴りに行くのが仕事、な訳です。暴走ロボットとか近未来アニメっぽくてちょっとテンション上がるよね」
 そんな風に笑った雪風に『悠長なことを言っている場合はない』とナヴァンはスピーカーを通して返答する。
 イレギュラーズを所内へ招く準備が整ったと言うことだろうか。
『簡単に説明するとこの研究所内に現在設置されているロボット達は番犬と呼ばれたユニットだ。
 所謂、治安維持。人相やその人間が持っているデータをインプットしており、犯罪者を追尾するシステムを搭載している』
「詰まるところ、警察ロボット?」
『ああ。簡単に言えばその通り。追尾システムにエラーが発生している。現状での復旧は難しいだろう。
 無秩序に全てを犯罪者として認定し追尾、捕縛を行おうとしてくる奴らだ。油断しないでくれ。できるだけ外に出さないように誘導はしているが……』
 打ち込んだコードは直ぐに破棄される。AIが人間を越えて暴動を起こしている様子をありありと見せつけられているかのような不快感。
 ナヴァンにとっては『故郷』を思い返す非常に心証の悪い事件ではあるが――
『暴動を早く終えてランチをするつもりだったんだ。お前達もさっさと仕事を終えて飯にありつきたいだろう。
 今日の食事は幻想王国のものらしい。さっさと敵を破壊して食事の時間にしよう』
 楽しいランチタイムの為だときっぱりと言い切った彼は研究所の入り口のロックを解除したのだった。

GMコメント

 日下部あやめと申します。よろしくお願い致します。

●目的
 ナヴァンと共にシステムの沈静化

●研究所
 ナヴァン・ラグランが所属している練達の研究所。暴走中のロボットが研究所内を占拠しているようです。
 研究所内ではロボットを探索する必要があります。どこかに潜み、此方を捕縛しようとしてくるでしょう。

●ロボット 10体
 所謂、警察ロボット。犯罪者を人相や此までの行動暦から判別し逮捕する為の支援ロボットです。
 全員を無秩序に犯罪者であると認識して襲いかかってきます。
 研究所内では所員達が捕縛されており、至る所に転がされているのが見て取れます。
 犯罪者へと対抗するために作られたロボットであるために、非常にすばしっこく戦闘行動を得意としています。
 物理攻撃や、遠距離での魔法攻撃、ダメージの反射を行います。小細工はあまりなく、単調な戦闘を行うようです。

●ナヴァン・ラグラン
 ニル (p3p009185)さんの関係者。練達の研究者です。
 人工知能の研究者であり、食事に頓着せず研究に没頭する事が多い青年です。
 ニルさんが選んだ食事のみを非常に楽しみにしており、ニルさんが居なければ食事をしないのでは?とさえ囁かれます。
 ロボットへと数ターンに1度行動阻害プログラムを送り込みます。1Tのみ行動を阻害しますので彼と連携してロボットを沈静化してください。ナヴァンさんはモニターから所内をチェックしています。
 彼が音声データを取得してくれますので彼の研究室との連携は容易に行えます。
 戦闘後は一緒にランチタイムを楽しんであげてください。屹度とっても腹ぺこです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <Noise>グレイ・グリード・クライシス完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
ジュリエット・フォーサイス(p3p008823)
翠迅の守護
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
緋翠 アルク(p3p009647)
知識が使えない元錬金術師

リプレイ


「さて――」
 エラーを告げるアナウンス。冷暖房システムも麻痺をしているのか秋らしさを忘れ、冬の寒々しさと夏の茹だる気配が交互にやってくるセフィロト。
 ドーム内で袖を捲り上げて、施設のロック解除を行う研究員の背中を眺めていた『“侠”の一念』亘理 義弘(p3p000398)はそう口を開いた。
「今回の仕事は施設内の警察ロボットを破壊することだ」
「治安維持用のロボットであるというのに、破壊をしなくてはならないだなんて。練達のあちらこちらでおかしなことが起きていますね」
 通常ならば手出しすることのない対象と敵対し、破壊活動まで行わねばならぬと言うのだから驚きであると愁いを帯びたブラックパールの瞳を細めた『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は嘆息した。練達という狭くもある旅人達の宝島は未曾有の危機に瀕しているというのだ。
「練達全体がマザー頼りなのが問題ですね。マザーを分散管理しておけばよいものを。
 ……愚かですね。この過ちを生かしてもらわないと困ります」
「確かに。一元管理型の警備ロボットはこう云ったところが不便ですね。スタンドアロンならまた違ったのでしょうが……」
 む、と唇を尖らせたのは『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)。長く伸ばした髪を煽った風は決して大いなる自然が齎したものではなかった。マザーによる快適環境の整備は彼女に起きた『事件』により平和を大きく揺るがせて居るのだろう。熱風を受け止めて広がった硝子のような髪をフードでそうと押さえつけてアッシュは研究所のロックが外れたことを確認する。
「ナヴァン様がおなかをすかせて倒れちゃう前に、ニルはロボットをやっつけなきゃなのです。ナヴァン様のサポートもあるので、がんばらなくちゃ」
 ランチタイムを邪魔されてしまったのだから、経口での食事に頓着しないナヴァンの食欲中枢が麻痺してしまうと『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)は大いに心配していた。
 ニルにとっては素晴らしき友人であるナヴァンが所属する研究室では現在、治安維持に使われているロボットがコントロールから外れて暴れ回っているらしい。
「なんだか大変な事になっておりますが、全力で頑張らせて頂きますね。
 ロボットと呼ばれている物と対峙するのは2度目ですが……やはり、良く暴走するものなのですか? それとも私の知見が狭いだけなのでしようか」
 首をこてんと傾いだ『淑女の心得』ジュリエット・フォン・イーリス(p3p008823)に「この状況では仕方が無いのでしょうね」と幻が肩を竦める。
 ジュリエットの仕草と共に柔らかにウェーブの掛かった髪先が美しき虹を描く。その美しさを眺めながら『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は「R.O.Oでの問題と直接関係があるのでしょうか」と呟いた。
「マザーが妨害を受けた事で、この様な事が起っている.其れだけならいいのですが……。
 少しでも御主人様の役に立つ為にも頑張らなければなりませんね。これもご主人様の帰還のため。邪魔物は全て排除してしまいましょう」
 彼女にとって排除すべき存在であるロボット達は、自身の主人が『現実』に帰還した際の生活の邪魔になる可能性さえある。紅色の瞳に強い意思を乗せたリュティスの長耳に届いたのは『ロックは解除している、いつでもOKだ』というナヴァンの声だった。
「全く……面倒くせー話だ。まあ、いいか。ロボがどこに隠れていようが俺達が見つけ出して全部ぶっ壊してやる」
「ああ。ロボットの反逆、か。まぁ、意思を持っているという訳でもなく不具合のようなものなのだろうが。
 ……あまり気持ちのいいものでもない。早いところ片づけたいな。俺も腹が減っているところだ」
 全てのことが済んだらランチタイムを改めて。そう聞いていたという『知識が使えない元錬金術師』緋翠 アルク(p3p009647)の言葉に『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)の視線が愛おしい妻へと向けられた。彼女の『愛情』を楽しみにする青年は慣れ親しんだ獲物を手に、研究所の中へと滑り込んだ。


 練達の中央制御システムはマザーと呼ばれていた。母と称するには余りにも美しいおんなは『外部』から攻撃を受け、国全てを巻込んだ未曾有の危機に瀕しているらしい。停電を繰り返している研究所内は絶えず光と闇の表情を繰り返し、耳を頼りに進む義弘の眼前の景色を変化させる。
「まさに『スタンドアロンであれば』だ」
 そうぼやいた義弘に幻は本当にと呆れを滲ませて頷いた。研究者というならば、この経験を糧にして欲しいものだ。探求都市の名を汚すような行いだけは避けて欲しい。
「学びにして頂きたいのですが……そうでなければ練達は只のピ・エ・ロですからね。
 ラグラン様なら僕が言ってることの意味ぐらい理解してくださると信じてますよ」
『――む』
 どこか気まずそうな声がスピーカーから聞こえる。こてんと首を傾いだニルの様子も幻の言葉ひとつにとってもナヴァンは全てをコントロールルームから確認していた。イレギュラーズの支援を行い、所内の各地に点在するカメラを使用しての情報収集を行う彼によるバックアップ体制は万全だ。
「さて、昼食も抜いて頑張ってらっしゃるラグラン様のためにも、早く治安維持用ロボットを倒してきましょうか。さぁ、奇術ショーの始まり始まり」
 腹を空かせては戦も出来ぬ。美しい奇術師はステッキをかつりと鳴らし前線をすたすたと歩み行く。幻の頬に一度すり寄ってから所内へと放たれたのはジェイクのファミリアー。可愛らしい小鳥はちち、と小さく鳴いてからナヴァンの死角となる場所を探すように先遣する。
「探索ですか。……とはいえ、ロボットの好む所はどこなのでしょうね? 狭い所、空気孔、ダクト等を重点的に見ておくとしましょうか」
 隠れて此方を伺っているとなれば実に人間的だと呟いたリュティスの傍らでニルは周囲へと保護の結界を張り巡らせる。
 進めば暗がりで両手足を縛られてじたばたと暴れている研究員の姿が見て取れた。芋虫のようにもだえているその様子にジュリエットは「苦しげですね」と眉をひそめる。
「申し訳ありません。警備ロボットさんがまだまだ動き回っておりますから……下手に動くと危険であると思います。
 安全のため、もうしばらく其の儘で居て頂いてもよろしいでしょうか? ロボットさんがどこから現れるかもわかりませんから」
 困り顔でそう呟いたジュリエットにニルも困惑をその表情に貼り付ける。屹度、彼らは『くるしい』のだ。
「拘束されてる人は……すみません、多分そのままのほうが安全だと思うので、もう少しだけ我慢しててくださいね。
 解放したら、もう一回ロボットに襲われちゃうかもですし……」
『くるしい』けれど、もういちど『いたい』を味わって欲しくはない。ニルとジュリエットが研究員を心配するその様子を眺めながらもアルクは警戒を怠ることはなかった。
 雷撃Danceinthezone改Iを手にナヴァンからのアナウンスを確認し周囲を見回して行く。幸いにして揃ったメンバーの火力はお墨付き。
「解いて逃げ出せば再度捕縛されかねません……ので。もうしばしご辛抱を」
 アッシュは物陰で少し息を潜めているようにと研究員へと声を掛けた。不安げな彼らのアフターフォローはまだまだ後ほど。
 研究所内には此方を悪人だと認識したロボット達が攻め込まんと虎視眈々と時を待っているのだから。
 先行するファミリアは床を這い、天井を行きと縦横無尽に奇襲を警戒した動きを見せる。それだけ人間とロボットは大きく違うのだと警戒を滲ませたアッシュは足を止めたジェイクの背中を見上げてそっと武器を構えた。
「――ストップだ」
 銃を構えたジェイクの言葉にニルはぴたりと止まる。彼の小鳥たちが『何か』を察知したのだろう。心強いと微笑んだニルは自身の周囲で最小の魔方陣を描くキングブレイスを一瞥する。

 ――対象を確認しました。

 硬質なメッセージが響き渡る。顔を上げた義弘は勢いよくロボットへと接近した。膂力全てを雷撃へと変換し、その腕へと乗せる。
 一閃だけでは壊れないか。ロボットは接近戦に移行したと認識したのかその硬い腕を一気に振り上げた。
「成程、戦闘行動で判別しているのか。よく出来ているな」
 流石は練達の技術者だと褒め頷いたアルクは毒の薬瓶を投げ入れる。アルケミストの青年は支援を行うと共にロボットへの援護射撃を行い続けた。
 揺らぐのは闇の月。暗き運命は破滅へ誘う如くロボット達の明暗を占って。ニルの傍ら、迸る一条を放つジュリエットはタクトを握りしめながら目を見開いていた。
「はあ……何と言いますか、お化け屋敷に似たような気持ちになってしまいますね。
 横からいきなり出てこられたら、びっくりして少し叫んでしまいそうです……」
 息を吐いたジュリエットは危うく叫びかけたのだと唇をそうと指先で押さえる。桜貝を思わす爪先に咲いた色彩は鮮やか。
 魔力が踊り出し、蛇の如く周囲を取り囲むように姿を見せ始めたロボットへと雷撃が降り注ぐ。
『上だ――! だが、待てよ。今だ!』
 ナヴァンの声が響き渡る。顔を上げたリュティスのレェスとフリルに溢れたスカートの下からそうと覗いたのは錐刀。舞い踊るように、無機質なる命を刈り取ればロボットからはシステムメッセージが響く。

 ――機能を停止します。

 その堅苦しいメッセージを聞きながら幻は「さて、常々気になっていたことがあるのですが」とシルクハットに手を掛けた。射干玉の髪をなぞったのは白い手袋に包まれた指先。
「――ロボットとは夢を見るのでしょうか? 僕にとっては最大級の関心事でございます。勿論、見なくとも『魅せ』て差し上げるのですけれど」
 指先は唇に。うっとりと微笑んだの言葉は愛しき人を思う夢の心地。それは酩酊の如く、宛ら離れがたき夢幻となってロボット達を包み込む。
 幻の奇術が魅せた愛しき人は傍らに。ジェイクの弾丸は夢の心地に溺れるロボット達を打ち抜いた。まるでそれは狩人の如き鋼鉄の雨。
「さあ、狩りの時間だ!」
 唇に浮かべた笑みはただ、悪戯に。命を刈り取るならば無情そのもの。幻は「作り物にも命はあるのでしょうか」とジェイクへと問いかけた。「さあ。だが、『狩り取る』事は出来るだろう?」と青年が返せば愛おしいと微笑む瞳は奇術師のいろをのせて。

 ――システムコントロール。バックアップに変更しました。

 ナヴァンによる妨害を振り切ったロボットが動き出す。宵闇を切り裂いたのはアッシュの握る一振り。まぁるいフラスコの中で眺めた『夢うつつ』よりも驚愕ばかりの世界を傷つきながらも少女は駆ける。
 絡みつく銀の斬撃。長く伸ばした髪をふんわりと揺らし、少女がいのちへと食らいつく。吸血種のように、そのいのちの底をなぞる刃は鋭く輝いて。
 アッシュの切っ先に踊るロボットは勢いよく飛び込んでくる。だが、飛び込まんとするそれを弾いたのは蒼き衝撃。
 幻が「お手つきはいけません」と笑う声が地へと転がるロボットへと降り注ぐ。
 それでも尚も立ち上がらんとするロボットを義弘は勢いよく壁と叩きつけた。其れ等には痛覚はない。故に、怯むことなく壊れるまで戦い続ける。
 これが暴走であるだけだからこそ、安堵できるのだとアルクはその様子を眺めていた。これらが兵器として戦時投入されたならばどれ程恐ろしいことになるだろうか。人間や動物と違い痛覚を有さず、壊れるまで踊り続ける機械人形。
 その様な未来を夢想してからアルケミストは薬瓶を投げ入れて、鼓舞をする。ニルは「いたいはないんですね」とぱちりと瞬いた。
「ロボットにとっては、ニルはわるものです。だから、わるものはここにいますよって教えました。
 ロボットたちが研究員さんたちを攻撃するのはニルは許せません。だから、頑張ります。けど……」
「ロボットは痛くはないのでしょう。けれど、後ほど修復して貰えば良いですね」
 痛ましい姿を見つめるニルへとリュティスは静かにそう言った。ナヴァンが攻撃阻害プログラムを送り込むまであと少し。
 連携を重ねれば、イレギュラーズ側の勝利は簡単だ。それでも、過ぎ去る時間が自身等の脚を引き摺る鎖となるのは確かで。
 息切れして仕舞わぬよう。此方が動きを阻害されぬようにとリュティスは気を配り、ジュリエットと共に戦線維持を行い続ける。ジュリエットが降ろす福音は響き渡りロボットへとその拳を叩きつける義弘の身を守る。
 義弘はその腕力で生き抜いた。故に、鍛え抜いた肉体こそが武器である。ロボット達を受け止めるその腕に力を込めて「任せるぞ」と声を掛ければOKと返答を返すようにジェイクの弾丸が応じてみせる。
 降る硬質の雨はロボット達の体を貫き丸い穴を開ける。雨水も何時かは穴を穿つが如く――弾丸が降れば、それは容易だと嘲笑うように身を貫いて。
「ロボットとは管理されているものなのですよ」
 囁くアッシュの声音は、破壊的な魔術と共に届けられる。目を瞠るほどの光は、目映くも辺りを包み込んで。


「さて、ご苦労だった。諸君」
「ナヴァン様。ありがとう、はちゃんというと皆喜ぶそうですよ」
 ニルの言葉を受け、ナヴァンは「う」と詰まった。青年の戸惑いを感じ取り笑みを零したジュリエットは「お役に立てたのならば何よりです」と微笑んだ。
「ナヴァンさん、本日は災難でしたね。トラブル対応お疲れ様でした」
「……ああ。何時まで続くんだろうな」
 マザーに起きた危機は一朝一夕で解決できるものではないだろう。幻の言葉は尤もだが、R.O.Oでの一連の騒動が収まるまでは『彼女』に新たな負担を掛けられないのだとナヴァンはがりがりと頭を掻いた。悩んでばかりでは腹は膨らまない。ニルはちょい、とナヴァンの袖を引いて首を傾いだ。
「さあ、全部終わったらおひるごはんですね!
 ナヴァン様はあいそがわるい? って言われますけど、食べているときはちょっと表情が優しくなるのです。
 ニルは、そんなナヴァン様を見るのが大好きなのです。いつもはナヴァン様とふたりだけだけど、みんなで食べたらきっと楽しいですよね、ナヴァン様!」
 一緒にごはんにしましょうとバスケットを手に微笑んだニルにナヴァンは「皆が良ければ、食事をとれば良い。何時ものように大量に持ち込んだんだろう」。そう外方を向いた彼の目線の先にはニルの大きな大きなバスケットがある。
「ああ。良ければ同伴に預かろう。ナヴァン氏の気に入っている料理も教えてくれると嬉しいが」
 テーブルに広げられたランチョンマット。ナヴァンが適当に珈琲を用意している背中へとアルクが言葉を投げかける。
「もちろんご一緒させて頂きますね。私は練達で最近流行りだというお店で買ったバケットサンド持参です♪」
 美味しいそうなのですと微笑んだジュリエットにリュティスは「どちらのお店かお聞きしてもよろしいでしょうか?」とメモ帳を手に問いかけた。リュティスは食事の準備も担当している。主人の為にも様々な料理の見識を広げ、再現する為に実食を心掛けているのだそうだ。
「お仕事をするとおなかが減りますから、ね。わたしはサンドイッチを持ってきましたので皆さんよければ」
 袋を取り出したアッシュはは、と息を呑む。ぺしゃりと潰れたサンドイッチは味は変わらず美味しいけれど、心がきゅうと締め付けられるような悲しみが過る。
「……潰れちゃってました。うう。見るも無残な姿です……」
「弁当なら用意している。分けて食べるか? まあ、こちらは運動した後、ナヴァンは頭を使った後だ。飯もうまいだろうよ」
 義弘がおかずを皿に取り分ければアッシュは「ありがとうございます」と大きな瞳を瞬かせて。
「さて。お昼ご飯――実はジェイク様に手料理のお弁当を用意したのです。名付けてジェイク様弁当と称しましょう。
 ご飯の上に海苔を細く切って輪郭を作り、色をつけたゴマでジェイク様の顔を象ったもので御座います。他にも弾丸ウィンナーや、銃の型で焼いた銃型卵焼きもあります」
 いかがでしょうと微笑む幻に彼女の『愛情』たっぷりの弁当に仄かな期待を寄せていたジェイクは満足そうに頷いた。彼女の美術の知識と技能を余すことなく詰め込まれた愛妻弁当は見るだけでも心が躍る。愛しい人の愛情がたっぷりこもった弁当を一仕事の後で食べられるのだから、至福の時だと笑みを零して。
「いただきます!」
 ニルの元気の良い挨拶と共に――今だけはつかの間の平穏を楽しんでいよう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度はご参加ありがとうございました。
 愉しいランチタイムを過ごして頂けたなら幸いです。ロボット達はナヴァンさんが責任持って修復と管理してくれるでしょう。

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