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シナリオ詳細

<Noise>再現性東京2010:デジタルドッペルゲンガー

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●大停電の夜が来れば、何もできない僕らがいた。
 月の光が窓から差し込み、二人がけのソファを照らし出す。
 手すりの端に足首を、もう一方の端に頭を乗せて、『希望ヶ浜学園校長』無名偲・無意式 (p3n000170)は器用にグラスを持っていた。中にはウィスキーらしき液体が揺れているが、校長はまるでグラスに口をつけるつもりはないらしい。
 毎日が葬式のような不吉すぎる顔をしている彼が、今日はより一段と暗い。
 それはおそらく、校長室はおろか校舎全体が停電状態になっていることと無関係ではないだろう。
 がらり、と開いた扉に反応して顔を動かし、グラスを持った手を乾杯でもするように掲げる。
「ああ、お前か……」
 片足を大きく上げ、反動でもつけるかのように身体を起こす。その際もグラスの中身は一滴たりともこぼれなかった。
「停電騒ぎの理由を聞きに来たのか。それとも――」
 無名偲校長はスッと懐からガラケーを取り出し、開いてみせる。
「俺の呼び出しに応えて来たのか。特待生?」
 それに答えたのは、新道 風牙(p3p005012)だった。
「後者のほうだよ。まあ、いきなり停電したのはオレも驚いたけどな」

●雷鳴が鳴ればすぐに分かるんだ。僕らがいかにちっぽけか。
 練達の中枢たるマザー。ROOのシステムを演算するにあたってマザーの一部を間借りする形をとっていたが、それが付け入る隙になっていた。
 マザーと同等の演算能力をもつ兄機Hadesからの攻撃的干渉によってマザーは人間で言うところの重傷を負うに至った。マザーを失えば練達は未曾有の危機にさらされる。それゆえシステムからの切り離しを行い修復(療養)を行うことになったが、その結果練達全土では数え切れない程のシステム障害がおこっていた。
 マザーがこの国全体の平和を護っていた証であり、マザーを失うことがいかに危険か思い知る事件である。
 そしてそれは、まるで別世界かのように振る舞う希望ヶ浜地区とて無関係では居られない。
「この希望ヶ浜は、特別な結界に覆われている。
 ジャパニーズタウンで暮らすアメリカ赴任者と同じだ。ただ『現代日本っぽい街並に暮らす』だけで外の世界を無視し続けることはできない。
 この世は平和だという常識。戦争も飢餓も魔種の災害も遠い国の関係ない出来事だという常識。そういう感覚を無意識に維持させる『常識の結界』がこの街を護っている。
 夜妖はその弊害だが、それさえ刈り続けていれば希望ヶ浜という街の平和は保たれるというわけだ。だが……」
 ソファから立ち上がり、窓際へと歩く。
 紐をひくと、窓にシャッターが降りた。
 月光すら差し込まないこの部屋は、ひどく暗い。
「もしそのベールが剥ぎ取られれたなら、『混乱』どころでは済まないな?」

 真っ暗な廊下を、懐中電灯ひとつきりで歩く。その後ろに風牙や仲間達が続く形だ。
 風牙たちに、振り返りもせず無名偲校長は語りかけた。
「結界などとオカルトを述べているが、別に呪文を唱えて血の魔方陣を書いてばかりじゃあない。中世のヨーロッパじゃないんだ。21世紀にでもなれば魔術師だってスマホで魔方陣をスワイプするだろうさ」
「なんか嫌だなその魔術師」
「魔術とは薬草と獣の血だけでできているわけじゃない。紙とペンがデジタル化することもあれば、薬草や血がデジタル化することだってある」
「はー……」
 よくわかんねー話だなあという反応を見せる風牙。
 階段を下り、下り、一階まで降りてから床に設置されたフタ状の扉に鍵を差し込み、校長はひねった。
 ゴゴンという鍵を開けるにしては重すぎる音がしたが、いざ扉を開いてみるとそれは地下への階段だった。石で出来た階段である。
「え、おい、なんだここ。床下収納とかかと思ったけど……地下室あんのか!?」
「『常識の結界』も、マザーの演算能力を一部利用している。予備のサーバーを使って一応維持はされているが、放っておけば感覚が剥がれていくだろう。
 『現代ごっこ』をしている自分に気付き、この世界が薄氷の上にあることに気付く。安寧を何十年も続けるつもりだった人間にとって、それは身を裂くほどの恐怖だろうな」
 暗闇にライトを差し込んだせいだろうか。それとも窓からさしこんだ月光のせいだろうか。校長がギザ歯を見せて悪魔の如く笑ったように見えた。

●ガーディアン
 階段を下っていくと、部屋があった。壁際のレバーを上げれば、部屋の天井に設置されたらしい大型の電球群が部屋を灯す。
 部屋の奥には一台のラップロップパーソナルコンピューターが置かれ、箱形のCRTディスプレイと千円もあれば手に入りそうな安っぽいキーボードがそれぞれ学校の標準的な机の上に置かれていた。パソコンの本体は机の下に置かれ、椅子はそれをさけるよううにぴったりと机につけられている。
 奇妙なのは、部屋の広さが軽くバレーボールのひとつでもできそうなくらいあるというのに置かれているのがパソコン一台のみだということだ。
「…………オイ」
 風牙の怪訝そうな顔はもっともだろう。地下室があるにしても広すぎるし、広すぎる上に用途が不明すぎる。
 その疑問には全く答えてくれないまま……。
「アレを倒して屈服させろ。さもなくば、この街は壊れると思え」
 パソコンに背を向けたまま、無名偲校長は親指でそのパソコンを指さした。
 不思議な言い方に風牙が首をかしげたが、疑問はすぐに解けた。
 パソコンがひとりでにブゥンと音をたてて動き出し、画面にカートゥーンめいた顔が表示されたのだ。
 顔はパクパクとアニメーションをおこし、それに伴ってディスプレイスピーカーから音が発せられた。
「俺をどーにかしようって? オイオイなんだ、こんな場所に収容しておいて困ったら俺頼みか? ナメてくれるよぁー」
 HAHAHAと電子音で笑ってみせる。
 そして、空間に無数のホログラムを生み出した。
 そのひとつは……。
「――」
 風牙と全く同じ見た目をしていた。
「テメーでテメーに殺されとけ」

GMコメント

●オーダー
 謎のパソコンを屈服させるべく、生成された『あなたの偽物』と戦いましょう。
 偽物はアバウトにあなたの戦闘能力を模倣して作られています。
 細かい部分はおいといて、あなたと互角の敵がいるとお考え下さい。

 屈服させるにはこの戦闘に勝利する必要がありますが、主には『自分の偽物を倒す』という形で勝利するのが理想です。
 できればタイマン。ペアで戦うのが前提ならタッグマッチ。支援専門なら支援勝負という具合になるでしょう。
 倒してぶっ壊すのが目的なのではなく、屈服させて協力させるのが目的なので、性格の隙を突いたり一時的に自分の武装を解除したりといった裏技は仮に思いついても今回はやらないほうがよいでしょう。

 フィールドはそこそこ広く、バラバラに散って戦っても問題なさそうです。
 校長は後方で腕組みしながら皆さんが戦うのを見ています。校長曰く『俺はパソコンの静電気だけで死ぬぞ』だそうです。すげえ嘘っぽい笑顔で言っていました。

●今回の最終目的
 謎のパソコンを屈服させることで、マザーに頼っていた一部の演算を代行させ『常識の結界』を当面の間維持しようという考えのようです。
 ただ相手が相手なのでいつまでも利用させてはくれないでしょう。マザーが復調するまでの間だけ働かせる契約を、どうやら校長は皆さんの戦闘の裏で取り付けといてくれるようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

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●再現性東京(アデプト・トーキョー)とは
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 その内部は複数のエリアに分けられ、例えば古き良き昭和をモチーフとする『1970街』、高度成長とバブルの象徴たる『1980街』、次なる時代への道を模索し続ける『2000街』などが存在している。イレギュラーズは練達首脳からの要請で再現性東京内で起きるトラブル解決を請け負う事になった。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

  • <Noise>再現性東京2010:デジタルドッペルゲンガー完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)
無銘クズ
耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール

リプレイ

●if($('Astral')){$('body').append($('Astral').copy(1,0))}
「うおっ、俺がもうひとり……!?」
 学園の地下室に連れてこられた『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)が二度目の驚きに身をこわばらせた。
 一度目は階段下のあのなんともいえないスペースからここまで広大な空間に繋がっていたという驚き。二度目はその空間で自分のコピーと遭遇した驚きだ。
 とはいえ経験豊富なイレギュラーズなら、この世界のあちこちにそうした技術があることは知っている。形だけコピーした幻術を作り出す魔法や、遺伝子情報から形状の似た穂ムンクルスを作る錬金術。並行世界の自分と対話させる神秘などだ。
 なので……。
「ま、オリジナルとしては負ける訳にはいかないよね!
 所詮はパチモン、強さも美しさもアタシが上に決まってるんだから!」
 『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)はまずは堂々と腰に手を当てて立って見せる。
 相手は(もとい京コピーは)京が普段やるような戦闘の構えをとるのみである。表情も普段のそれと変わらないが、微細な変化のようなものがない。本物ソックリに作った人形のよな印象だった。
「ふむ……」
 『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)は胸の前で両手を組み、ハートの形を作る。更に左右の手それぞれで人差し指と親指を交差させるようにして小さなハートを作り、最後に両手を複雑に組み合わせて犬の形を作って見せた。
 相手も少し遅れて、同じようにハートから犬まで作った。それを観察してから、澄恋は目を細める。
「どうやら動きを模倣しているようですねえ。先読みしているわけじゃないのに普段の構えができるのは……事前にどこかで学習していたんですかね?」
 話し合いは通じそうですか? と『どんまいレガシー』ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)に問いかけようとしたところ、ジョーイは謎のステップで反復横跳びめいた動きをしながらコピーとその早さを競っていた。
「むむむ!あのかっちょいいメットのイケメンは誰でありますか!?
 おおー、吾輩のコピーでありますか! 流石のイケメン!」
 雄弁に語る(?)ジョーイに対して、相手は無言。
 なるほど感情や台詞まではコピーしていないということか、と瞬時に納得できる光景だった。
「けど、こちらを模倣した存在と戦うのは簡単じゃないのだわ」
 『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)袖を口元にあて、うーんと考えるしぐさをした。
 どっかの世界に『敵を知り己を知れば百戦危うからず』という言葉があるが、それに則るなら自分自身の動かし方と『自分と同じ存在が敵に回ったらどう倒すべきか』を知るべきだということになる。
 華蓮が知る限り、華蓮はちょっと勢いをつけたくらいで倒せるほどヤワな存在ではない。そうならないように工夫と鍛錬(言い方を変えると功夫)を積み重ねてきた。
「あれっ!? みんな、自分のコピーと戦って驚くターン終了ッスか!? イルミナだけ出遅れてる!? 空気を読めるロボなのに!?」
 不覚! と頭を抑えるイルミナ。対して相手のイルミナコピーは直立不動の姿勢を保ったままだ。
 冷静になって考えてみると、出現させただけで襲いかかってこないのはこちらの撃退が目的ではないからだろう。
「あの箱の……ぱそ、こん? がこちらを試したがってるってことなのかしら?
 実際、私達のコピーを作り出すくらいだから相当の演算能力があるのよね……」
 『幻耀双撃』ティスル ティル(p3p006151)は腕輪を起動させて刀の形状へ変化させると、その柄をぎゅっと握った。
 ぱそこん(仮)はマザーほどでないにしても、希望ヶ浜地区のシステムを部分的かつ一時的に補える存在だということだろう。
「事情はわかったけど……もっと素直に頼めなかったのか!?」
 それまで周りの様子を見ていた『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)が、バッと振り返り無名偲校長へと呼びかけた。
 無名偲校長は自分と風牙を交互に指さしてから、『依頼人と、非依頼人』と端的に言った。
「俺は『契約』に基づいて依頼しただけにすぎん。『お願い』をしたことは一度もないぞ」
「こいつ……」
 ルールに対して極めて厳格だが、ルール化していないことに関して極めてルーズだ。
 やり方がなんとなくメフィストフェレスの物語を彷彿とさせた。希望ヶ浜の維持という点で利害が一致しているので今はいいが、そのために風牙たちを殺す必要があるなら淡々と実行しそうなところがこわい。(そうする必要がイチミリもないのでやらないという信用も同時にある)
 風牙は咳払いをし、そしてパソコンへと振り返りなおした。
「で、ボロパソコンさんよ。おめーの言う通りだ。閉じ込めておいて、都合のいい時だけ利用しようなんざ、ほんと虫が良すぎるわな。
 けど、ま、お前みたいなのに頼らなきゃいけないくらい、ヤバい状況ってことだ。こっちも余裕がねえ」
「らしいな。でなきゃ『力尽くで』やってたところだ」
「ん?」
 今からそうする筈じゃねーのかな? と思ったが、どうも言葉の前提が違うっぽいにおいがした。だが風牙はそれ以上考えない。細かく考えるのは苦手だし、間違うよりは選ばないほうが得だと知っている。
 対して、パソコンのディスプレイに浮かんだカートゥーンめいた顔が笑ったような形を作る。
「そんじゃあ行くぜ。手加減はしてやらねーから、死んでも文句いうんじゃねーぞ」
 パソコンはそう言うと、何の命令もなく一斉にコピー体たちを動かした。

●false
 誰よりも早く動いたのは、やはりというべきか風牙&風牙コピーであった。
 一番初撃を入れて欲しくない所に入れる、という動きをこちらから阻む必要がある。風牙は風牙コピーめがけて直進し、そして『烙地彗天』を突き込んだ。回避――の動きは読んでいる。槍を棒術の動きで振り上げほぼ直角に動かすと、風牙コピーへ槍のボディを直撃させた。
 威力はそれほどのっていないが、相手の動きを崩すことはできる。
 風牙は自身が『崩し』に弱いことを理解していたがゆえの搦め手である。
 対する風牙コピーはそうしてくることを予め予期していたのか、わざと短くもった槍を風牙へと突き込んでくる。
 肩口に刺さった槍。そのままえぐられては厄介だ。片手をはなし、柄を掴んで素早く引き抜く。
「強い……けど、心が乗ってねえ!」
 風牙には見えていた。風牙コピーからなんのオーラも出ていないことが。だとしたら、よく動く機械にすぎない。
「そこで見てろよボロパソコン。てめえのコピペなんざ大したことねえってところをよ。
 お前の能力のすげえところは、もっと別の形で示してもらうぜ」
 一方、カイトは既に地面から飛び上がり、室内であるにも関わらず凄まじいマニューバで飛び回っていた。
「積み重ねてきた『カイト・シャルラハ』を舐めるんじゃねえ!!」
 自分の攻撃がカイトコピーに当たらないことは百も承知だ。自分自身そこを重視して技を磨き上げてきた。その辺の常人が束になってかかったところでカイトに一発たりとも当てることはできないだろう。
(それでも研鑽を怠ればやられる。それくらい強い連中を相手にしてんだ。今いる他のコピーたちみてえにな……!)
 カイトは相手の放つ紅蓮の羽根による弾幕をサーカスのような機動で回避。
 弾幕の引いた赤い軌跡のなかを掻い潜り、そしてカイトコピーへと肉薄する。
「そこだ――!」
 類い希なる機動性を『敵に当てる』ことのみに転用したカイトによる必中の型である。ざくりと刺さった三叉蒼槍。しかしカイトコピーとて同じ。カウンターのように突き出した三叉蒼槍がカイトの腹へと刺さる。
 カイトを一発で撃墜するような威力ではない。だが、無視するにはあまりに鋭い。
「戦いは、気合の入った方が勝つッス!」
 その下を走るイルミナ、そして迎え撃つイルミナコピー。
 接近する二人はまるで減速することなく突き出した頭を思い切りぶつけ合った。
 反動でのけぞるが、エネルギーフィールドを爪の形にして展開。バク転の動きで姿勢を整えると、素早く相手に斬りかかった。
 ストレートな斬撃――が向こうからも来る。展開したエネルギーシールドがそれを阻むも、ガシャンというガラスが割れるような音をたててシールドが破壊された。
 いや、そんなことは分かっている。自分が誰より知っている。
 当然こちらの爪も、相手のシールドを破壊し相手の胸を切り裂いたのだ。
 と同時に、イルミナは青い光を武装ユニットから放ち自らの動きをブースト。
 超高速の連撃をたたき込む。
 それは相手も同じこと。純粋な削り合いへと持ち込んだのだ。
 『運が悪ければ負ける』というような状態だが、イルミナには不思議と勝算があった。なぜなら――。

「本物の重みってのを思い知らせてあげるんだから!
 アタシの戦い方はアタシが一番よく知ってる。昨日今日身につけたようなのに負けてたまるかっつーの!」
 京は思い切り京コピーへ距離を詰め、そしてわざと初撃を相手に譲った。
 跳び蹴りが繰り出され、京の側頭部へと命中。
 が、それを京はあえて利用した。
「赫灼の――」
 ギラリと目を光らせ、京はその場から連続のキックを繰り出した。
「プラウドシュート!」
 蹴りに乗った勢いは相手のもの。先に撃たせて利用するという戦法は普段の京ならあまり使わないものだ。
「フッ、これが偽物には持ち得ないインテリジェンスってもんよ!
 京ちゃん負かしたかったら、期末テストでも持ってくることね、あっはっはー!」
 蹴りによって吹き飛んだ京コピーを前に勝ち誇ってみせる京。
 後ろで無名偲校長がぽつりと呟いた。
「期末テストか。今からやるか?」
「やらない!」
 コピーが相手なら、普段と異なる動き。もしくは『自分がやられて嫌なこと』を実行するのが近道だ。
「故に、旦那様を殺しましょう」
 澄恋がぞっとするような笑顔で言った。
「女子力が高くはーとをずっきゅんするのが得意なわたし。
 圧倒的かつ無敵か弱さとカウンター戦術を併せ持つ超高火力プロ花嫁。
 女として完璧。何故まだ結婚できてないのか不思議なほどに……」
 ビッと『突駁天涙ハクレイ』を突きつけると、澄恋から五つのパーツが飛び出した。
 旦那様の右腕
 旦那様の左腕
 旦那様の右足
 旦那様の左足
 旦那様の頭部
 五つは背徳的な光を放ち人の形を取り始める。
 優しく香る和風出汁を風に乗せ、構えた人型実態――のど真ん中に澄恋は薙刀を突っ込んだ。
 破壊。そして突破。
 薙刀ごと手放し、突き出した腕は旦那様コピーを貫き澄恋コピーの胸へとめり込んだ。
「流石わたし、殴られても綺麗ですね」
 ズッと腕を引き抜き、何かに濡れたそれをかざした。
 崩れゆく旦那様コピーをよそに、殴りかかってくる澄恋コピー。
 喪失の悲しみすらないとは……と呟きながらも、澄恋はその殴り合いに応えた。
 旦那様を求めぬ己など、恐るるに足らずとばかりに。

 戦いは激化の一途を辿る。
「この一歩の踏み込みで吾輩は過去の吾輩を超える! であります!」
 ジョーイは刀を握り相手に距離を詰めると、ジョーイコピーのそれとぶつけ合いつばぜり合いへと持ち込んだ。
 表示する顔文字でフンスとやると、相手の腹に足をつけて思い切り蹴り出した。
「覚悟はいいでありますか? 吾輩は今できた!」
 突き飛ばして距離を取り、近づいてきたら必中の技で削り殺す。
「名付けて――『所謂待ちジョーイ戦法』であります!」
 対するジョーイコピーは距離を詰め、同じ型をたたき込んでくる。
「あっ『待ちジョーイ待ちジョーイ』は反則であります!」
 ウリャーと叫んで気合いで打ちかえすジョーイ。
「ええいこれ以上わがままを言われるとパソコン殿にへっちなゲームをめちゃくちゃインストールしまくって動きがっくがくにせざるを得なくなりますぞ!」
 剣によるぶつけ合いで派手に火花を散らしまくるジョーイとは対照的に、華蓮は静かに、そして確実に互いの一手ずつを読みあっていた。
 10秒単位で打ち合う早打ち将棋のように、何十手も先を見据えて位置取りと技の選択を行う。
 華蓮は自分が酷く倒しづらいことを知っている。だが手順によっては一方的に勝利を収めることも可能だ。
 例えば『享楽のボルジア』を使えば相手の再生能力をゆうに上回るダメージを与え、窒息状態になれば充填能力を実質的に殺せる。そのうえでBSを重ねた上での『Code Red』を連打していけば回避や防御の余地なく相手を詰ませることだってできるだろう。『ミリアドハーモニクス』による回復もAPが尽きれば終わる。それを計算にいれても充分だ。
 だがそれは相手も同じ事。それまでにこちらが同様のバッドステータスをうけずにやり過ごし一定のHP差をつけたまま押し切るという手順が必要になる。
「……い、何時まで続くのだわよ……これ……!」
 華蓮ほど『如才の無い相手』と戦うなら、少しのミスも許されない精密作業のような戦闘が要求されるのだ。
 互いにかなりの長期戦になったところで、華蓮はしかし勝利を確信した。
 この戦いに持ち込んだ祈りの結晶『Innocent』。そしてパンドラによる運命力を行使することで、たとえ『同点試合』だったとしても勝利するのだ。
 そう、それこそがイレギュラーズが共通してもつ勝機だ。そしてその勝機を掴むための腕力こそが――。
「恋する乙女の忍耐力を舐めない事だわね!」

「始めよっか。どっちが速くても文句無しでお願いね?」
 風を纏い飛び出したティスルの斬撃が、ティスルコピーの斬撃とぶつかって火花を散らす。
 すれ違った瞬間に翼の羽ばたきでターンをかけ、紫電を束ねた衝撃を剣を振り込むことで放つ。孤月の形をした紫電が、しかしティスルコピーからも放たれ両者の間で炸裂。
 実力は互角。障害物もなく平地が広がる場所なら引き撃ち戦法もできそうだが、地下室という立地上必ずどこかでひっかかる。攻撃射程も機動力も同じなら、引いた側が不利だ。
「けど、こっちには運命の力がある。真正面からぶつかり続ければ……!」
 ティスルは剣に輝きを乗せた。髪が、そして刀身が黒く染まる。
 対するティスルコピーも刀身と髪を黒く染め、そしてどこか嗜虐的な笑みを浮かべた。
(この技を使う時の私って、こんな感じなんだ……ちょっと新鮮)
 ティスルは頭の片隅でそんな事を思いながら、全力全開の斬撃を相手めがけてたたき込んだ。
 交差する斬撃が互いの肉体を切り裂き、そして、両者同時に墜落。地面に身体をぶつけ、転がり、そして……ティスルコピーの身体だけが消えた。
 よろよろと起き上がるティスル。
「これで、私の勝ち……!」

●reboot
 戦いの結末は分かりやすいものだった。
 削り合いに勝利し相手を倒した者。
 パンドラによる運命力でギリギリ差をつけた者。
 この二つをわける要因は戦闘力の優劣などではなく、どういう戦い方をそれぞれが望んだかという判断でしかない。そして優劣を見るなら、戦いに勝利したことが彼らが優れたファイターである証明となっていた。
 パチパチと拍手の音がした。コンサート会場で大勢が拍手するときのような音声が、地下室じゅうで響いたのだ。
「なるほどなるほど、『ファウスト』がこんなとこまで連れてきただけはある。
 あの連中と同じ……いや、似たような力だな。世界に愛された力だ。別にそいつを何に使うかはどうでもいいが、力ってのは使いこなせなきゃあ意味がねえ」
 パソコンの画面が切り替わり、画面上に不思議なコードが流れた。
 英語の単語と記号を組み合わせた一般的なものだが、ものすごく凝縮された奇妙な文字の羅列だった。一単語4文字で同一されたそれの意味を読み解くのは不可能だ。最後にSYNCという文字列が点滅し、そして消えた。
「マザーが復調するまで、常識の結界だけは維持しておいてやる。対価はそれなりにいただくぜ?」
「当然だ。契約を結ぶことと守ることは違う」
 無名偲校長は不吉そうな顔で頷き、そしてパソコンに背を向けた。
「ここを出るぞ。そう長居すべき場所じゃあない」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――依頼完了
 ――希望ヶ浜のシステムが一時的に補強されました

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