PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<大樹の嘆き>Grey-Error

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『killer ivy』
 ――憎い、憎い、憎い、憎い、憎い。

 ――侵入者だ。殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ。殺される。酷い目に合うのは『いつだって私達』だ。

 何をのうのうと生きているのか。
 あの砂嵐に神聖なる緑の地を踏ませることを許すのか。
 美しき若葉すら匙を投げた無の大地に住むあいつらの仕打ちを忘れてはならない。

 幸せそうに、笑わないで。
 息をすることさえ、許さない。
 私の幸せを壊して行ったくせに。

 赦してなんか、やらない。
 死んで償え。死んでしまえ。

●国境線
 キャラバン隊の消息が途絶えている。砂嵐からもそうした情報が回ってこない。
 並べられた情報のどれをとっても突如とした翡翠との外交断絶は疑問符ばかりであった。
 だが、元より閉鎖的な国家であった彼の国にとって其れ等は何時起きても可笑しくないことであったのは確かである。
「翡翠という国は、深緑をベースに考えられているでしょうが……システムの解釈ならば現実よりも凶暴性が増したって感じかなあ」
 紅宵満月 (p3y000155)はうーんと首を捻った。練達の研究者でありVR技術にも詳しい彼女は所謂マッドハッター達の使いっ走りとして調査を行っていたようである。
 新規イベントである『大樹の嘆き』をどの様にクリアするか。それが今回の焦点だ。
「流石はゲームの体を為してるのでクエストが出てる……と、これは興味深いかも?
『砂嵐の傭兵団がキャラバン隊の振りをして情報収集に向かった。それを食い止めようとする翡翠の殺人鬼を撃退して保護をしよう』」
 読み上げた満月は「これをクリアすれば砂嵐の傭兵団の力も借りれるかも知れないよね!」と笑みを零した。
 ネクストでは『ジーニアスゲーム』のイベントで敵対した傭兵団ではあるが彼等に『恩』を売ればどうにか協力にこぎ着けられる可能性はある
 それよりも満月が気になったのは殺人鬼の文字であった。
「んー?」
 首を捻り、研究者として解析を試みる。佐伯操女史程ではないが満月もわりと『デキる』女に成長したのである。
「あー……皆、ちょーっと聞いておくんなまし。
 私の見間違えってワケじゃないし、先に伝えなきゃこまるかもしれないから。
 クエストは『砂嵐の傭兵』を過半数以上保護することでクリアできるけれど、その為には『翡翠の殺人鬼』の撤退が必要不可欠になるのです」
 そう言う満月にイレギュラーズは頷いた。
「その殺人鬼の名前だけ解析できたから。……『フラン・ヴィラネル』
 イレギュラーズの女の子と同名だよね。あっ、私はR.O.O内でのリアルは詮索しないからね。貴女だよ、とかは言わないから」
 謎の配慮を見せた満月はすう、と息を吐いた。それもそうだ、フランは治癒士を志しているイレギュラーズである。
 そんな彼女が『殺人鬼』と呼ばれているのだから何か事情がなくては可笑しい。
「……フランさんが小さな頃に賊に襲われて治癒士を志したっていう、夢、があるよね。
 それが別の未来をもたらしたのが彼女みたい。『キラーアイヴィ』と呼ばれてる殺人鬼はね、賊に襲われて傷付けられて、相手を酷く恨んでるんだって。
 だから、侵入者だった男が嫌い。殺人鬼として沢山殺してきた彼女は森林警備隊も除隊され、今は唯、殺し続けて居るだけになってる」
 それでも、森への侵入者を止めることには役に立っているためにお咎めはなしなのだろう。
 彼女が排除するのは『同胞以外』なのだから。
「……うーん、強敵だね。強いよ。殺し続けてきてるんだもん。
 無茶せずにね。サクラメントがあって復活できるったっても、『知ってる顔に殺される』って案外クるものがあるだろうしさ」
 頑張ってね、と笑った満月はサクラメントを近くに設置する調整を始めたのだった。

GMコメント

 夏あかねです。有り得たかも知れないもう一つ。

●成功条件
・『キラーアイヴィ』フラン・ヴィラネルの撃退
(『キラーアイヴィ』フラン・ヴィラネルは命の危険を感じた際に逃走します)
・『砂嵐の傭兵』の過半数以上の保護

●ロケーション
 翡翠と砂嵐の国境。翡翠の国境を跨ごうとする青年にキラーアイヴィが襲い掛からんとしています。
 彼女はフードで目深に表情を隠して居ますが、発される殺意は隠せるものではなさそうです。
 翡翠側には木々が茂り障害物が多くありますが、砂嵐側は障害物はありません。
 サクラメントが存在し、砂嵐側にはサクラメントが存在して居ます。死亡後2Tで戦線に復帰できそうです。

●『キラーアイヴィ』フラン・ヴィラネル
 フラン・ヴィラネルさんのR.O.Oの姿。有り得たかも知れない未来の姿です。
 砂嵐の盗賊に襲われ、治癒することの無かった傷を体に残された少女です。背中には傷が、折れた右腕は力が入らずだらりと降ろされ、顔には火傷の痕が刻み込まれています。
 砂嵐を恨み、非常に鬱屈とした性格です。通称を『キラーアイビィ』『男殺し』。
 男性を特に毛嫌いし、国境を安易に跨ぐ砂嵐の人々を許しはしません。殺人鬼です。森林警備隊からは除名されて久しいようです。
 彼女は騒動に乗じてやってきた『砂嵐の青年』を殺すが為に動いています。
 腕には力が入りづらいために魔力で生み出した蔦を駆使した魔術士タイプです。『魔種』と呼べる程に強敵であり、人を殺し慣れた彼女は情け容赦も致しません。
 彼女を突き動かしているのは激しく燃える怨嗟の炎でしょう。

●『蔦の化身』5体
 まるで小竜を思わせるキラーアイヴィの連れたモンスターです。蔦で編まれた小竜達は彼女の指示に従いイレギュラーズや傭兵達を襲います。

●『砂嵐の傭兵』10名
 キャラバン隊に所属していた青年たちです。本来は傭兵団のメンバーであり、キャラバンのふりをして情報収集のために翡翠へと入り込もうとしていました。
 が、フランに見つかり同行者が二名、殺害されたことで畏れを抱き残るメンバーで逃亡中。
 彼ら自身は翡翠に入ることを諦め帰還したいようです。
 どうやら『ある巨大な傭兵団傘下』に所属しているようです。彼の現在の境遇を『ボス』が知ったならばキラーアイヴィを追いかけることを選ぶでしょう。まもってあげてください。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • <大樹の嘆き>Grey-Error完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年10月17日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァリフィルド(p3x000072)
悪食竜
パンジー(p3x000236)
今日はしたたかに
梨尾(p3x000561)
不転の境界
リアム・アステール(p3x001243)
星纏う幻想種
ファン・ドルド(p3x005073)
仮想ファンドマネージャ
ルフラン・アントルメ(p3x006816)
決死の優花
リュカ・ファブニル(p3x007268)
運命砕
ねこ神さま(p3x008666)
かみさまのかけら

リプレイ


 クエスト情報を提示している研究者が改まって告げた名は『星纏う幻想種』リアム・アステール(p3x001243)に衝撃を与えた。
(フラン、あいつが、こんな事に……運命ってのは、一つ間違えただけでこうも変わるものなのか)
 視線を送れば、自身こそがフラン・ヴィラネルの『アバター』であると公表していた『大樹の嘆きを知りし者』ルフラン・アントルメ(p3x006816)は物憂げな瞳をしていた。これが、このR.O.Oで構築された『フラン』の姿。然うしてまざまざと見せつけられたのはある一部分だけで道を違えた殺人鬼の姿であった。
 故に――ルフランは「あたしも『こう』なっていたのかもしれないのかなぁ」と呟くのだ。だからこそ、止めねばならない。自分の『IF』がどれだけ恐ろしいものであるかを知っているからだ。
「ねこです。よろしくお願いします。ネクストに反映されたフランさんというわけですか。
 そういうキャラクターが生成されているという情報はありましたがこういった形で相対するのは……」
『かみさまのかけら』ねこ神さま(p3x008666)はクエスト情報を閲覧し、そう口にした。此度は国境線より情報収集のために翡翠へと入り込もうとしていたキャラバンを装った傭兵達の救出である。
 しかも、相手は殺人鬼で傭兵を目の敵にし彼らを殺そうとしていると言う。敵対することに間違いは無い。ねこ神さまの側で「にぃあ」と鳴いた猫は彼女を心配しているかのようである。
「いえ、悲劇的な境遇に同情しているわけではないです。
 が、『運営』がこの境遇を掬い上げているとしたら、大した悪趣味だと思っただけです。
 相手は魔種相応の力の持ち主と聞きました。迷いで攻撃を曇らせるわけには行かないです」
「まあ、気が乗らねぇのは確かだ。知った顔が『こう』なるなんて考えたくもねえ。
 そいつをぶちのめすなんてのは以ての外だが……そうしなきゃもっと望まねえ事になるってんなら仕方ねえ。ったく……気が重いったらねえな」
 がりがりと頭を掻いた『赤龍』リュカ・ファブニル(p3x007268)の視線は所在なさげにしているルフランへと向けられた。
 電脳世界といえども、彼女にこれ以上殺人という罪を背負わせる様を見せ付けられるのだ。あの快活な笑顔を曇らせ憎悪ばかりに濡れた少女の瞳は――ああ、リュカにとっては想像するだけでも不愉快そのもの。
「成程……。R.O.Oの世界には、ログインした本人以外に、『この世界が構築した本人』が現れることもある……という事でしょうか」
 もしかすると『現実世界の自分自身』もこの世界に存在しているのか。その姿がフランのように何か一つ、道を違えただけの姿で現れるのだろうか。
 首を捻った小さな少女、『彼誰-かわたれ』パンジー(p3x000236)は考えても答えは出ないかと息を吐いた。リュカやねこ神さまの言う通り、『もしも世界に構築された自分』と相対したときにどのような行動を示せるのかは、想像にも難しい。
「殺人鬼とは穏やかではないな。境遇に同情せぬことはないが……彼女の行動を肯定する理由にはなりえぬな。
 なれば止めるしか無かろう。これ以上犠牲者が出ぬよう。そして、彼女の手をこれ以上汚させぬためにもな」
 朗々と告げる『悪食竜』ヴァリフィルド(p3x000072)に『お家探し中の』梨尾(p3x000561)はこくりと頷いた。
「……復讐は否定しません。許せない事は誰にだってあります」
 彼女の境遇は『クエスト受注画面』から見ることが出来た。『仮想ファンドマネージャ』ファン・ドルド(p3x005073)は小さく息を吐く。
「ふむ、あれがネクストに反映された、フランさんの『可能性』ですか。運命の歯車が一つ狂えば、未来は大きく分岐する。
 我々のこの行動もまた、翡翠の将来を大きく動かすことになるかもしれませんね。
 それが良き未来か悪しき未来かは、神ならぬマザーのみぞ知る……いや、今やマザーも全能ではありませんでしたか」
 この世界で『意味の無い行動』は何一つ無い。そう認識するファン・ドルドはクエストを受注し、男性アバターの姿でしっかりと眼前を見据えた。
 燃えたぎる怨嗟は、薄暗い闇色の瞳に灯される。明るい笑みなど忘れ去った亡霊の如き少女の唇が揺れ動いた。
 ぴ、と音を立てて一人の男が膝をつく。救出すべき男へと伸びた蔦が迫り行く姿。彼女の唇が、奏でる――『死んでしまえ』と。


「えっと。わたしのまずやるべきことは」
 パンジーは悲奏サイレンス・カリオンを飾った指先で音を奏でる。きらりと目を光らせて、仲間達とタイミングを合わせるために。
 小竜を思わせる蔦のモンスターが警戒を鳴く。傭兵を見下ろしていたフードの娘はイレギュラーズの姿を一瞥し、鋭く睨め付けた。
 彼女は魔術師だ。後方に鎮座しながらも殺意だけがひしひしと肌を焼く。リュカはへたり込んでいた傭兵達へと声を張り上げながら前線へと飛び出した。
「俺は砂嵐の傭兵みてぇなモンだ! あのお嬢ちゃんに殺される前に引きな!」
 竜の呪いは物理的な圧力を伴ってフラン・ヴィラネル――『キラーアイヴィ』へと放たれた。リュカへと視線が向いたか。そのすきにねこ神さまは傭兵達を庇う為、その身をするりと滑り込ませる。
 気配を隠していたねこ神さまの『黒ねこ』さんは直線上に伸び上がる。鋭い爪がキラーアイヴィを捕らえれば、苛立ったような魔力が光を帯びイレギュラーズへと放たれた。
「はじめまして、キラーアイヴィさん、もしくはこちらのフランさん。邪魔しに来ました。これ以上罪を重ねる前に刃を治める事をお勧めしますよ」
「『こちら』?」
 キラーアイヴィはねこ神さまの言葉が理解できないとでも言うように苛立ちを滲ませる。その答えを示すように、ルフランはバトン・ド・ポムをぎゅうと握り『現実の姿』のまま――彼女と瓜二つのかんばせを並べた。
「はじめまして、こっちのあたし。やっぱり雨の日はちょっと背中が痛むのかな」
「……貴女は『私』?」
 へらりと困ったように笑うそのかんばせに、キラーアイヴィは叫ぶ。その顔で笑わないで、と。
『私』と『あたし』。何処で変わってしまったのか。其れを考えても致し方が無いか。巨躯を駆使して傭兵達に退くように告げるヴァリフィルドの息吹がキラーアイヴィの目を眩ませる。
 ひゅうと風を切る音。蔦が竜となり飛び交えば、風を切り、刃と化した。リアムは傷つくことをも物ともせずにキラーアイヴィの体勢を崩すことに尽力した。
 此方のアバターは幻想種だ。彼女たちの同胞と同じ姿をしているならば、砂嵐の為に戦う自身は裏切者として映るのだろうか。キラーアイヴィの気を引いているルフランのお陰か、避難誘導は容易に進む気配がある。だが、キラーアイヴィを撤退させねば彼女は追ってくるだろう気配をさせていた。
「そのように殺気に満ちた表情では、可愛い顔が台無しです。どうですか、私のアトリエでファンドモデルになると言うのは?」
「いやよ。『男』は何時も勝手! 私たちを愛玩動物だとでも思っているの?」
 根が深いか、とファン・ドルドは感じていた。アクセスファンタズムを使用して水着姿の画像を生成するファン・ドルドにキラーアイヴィが唇を噛みしめる。
「『男』も『外の人間』も許さない!」
 それが『復讐』に基づいているだけで梨尾は苦しくて堪らない。小竜を全て己の元に引きつければ、錨火に誘われたそれらが小さな梨尾の体を貫いた。
「許せない事は誰にだってあります。でも今のフランさんがやってる事って貴方の幸せを壊した賊と一緒です。
 当事者への復讐なら分かりますが、今までやってきた事は、同じ地域に、砂嵐に住んでるだけで何の関係もない人へのやつあたりです。
 貴方を襲った賊と一緒です! なぜ毛嫌いしてる賊と同じ行為をするんですか?
 幸せを壊された悲しみを、苦しみを知ってるのに……誰かの幸せを、明日を奪って貴方と同じ犠牲者を、悲しみを増やそうとするのならば……。
 自分は何度死んでも止めます。幸せが壊される人を無くすために! 幸せを壊したければ俺の心を殺してからにしろ!」
「なら。死んでよ。綺麗事なんていらない。
『お前達は同じ事を繰り返す』。そこの男達だってそうでしょう?
 お前達だって。静かに、穏やかに過ごしている翡翠に無断で踏み入って、勝手に蹂躙するお前達の心が改まるまで! 私は繰り返す!」
 びりびりと殺意が梨尾の体を差した。パンジーは何と根の深い恨みと怒りなのだろうかと感じた。彼女が抱いている苛立ちは容易に溶ける物ではない。
 一人の少女の人生が容易に狂わされた。彼女が森林警備隊として勤務している間にも類似の出来事を何度も見てきたのだろう。
『砂嵐』が盗賊であったから? 『翡翠』が排他的であったから? その全てが、彼女に救い難い男という現状だけを教え続ける。
 それでも、彼らを救うことこそがオーダーだ。パンジーは分担しキラーアイヴィを引きつける仲間達に任せながらその小さな手のひらを『男』に差し伸べた。
「もう大丈夫! ここは私たちに任せてね。動ける?」
 小さな体でも.誰かを支えることは出来る。彼らを支えて後ろへと。震えた脚を鼓舞してパンジーはちら、と後方を見遣った。
 ヴァリフィルドの向こう側、叫びだしそうなほどに怨嗟を称え魔術の焔を放ったキラーアイヴィの瞳が『こちら』を見ていることに肩を跳ねさせて。


 相手は此方を殺すつもりだ。故に、近隣のサクラメントからの復活を繰り返しキラーアイヴィを撤退させるのが作戦である。
 リュカとファン・ドルドが『分担』し、ルフランが気を引く間に保護対象を後方まで逃がし続ける。ヴァリフィルドとパンジーが尽力する最中に、キラーアイヴィが連れたモンスターを引き受ける梨尾はじり貧の戦いを続けることになるだろう。
 相手は殺意の塊だ。故に、見知った顔だからといって加減など出来ない。リアムは『酷い悪夢』だと言った。それでも立ち向かわねばならない苦しさが鬩ぎ合う。
「過去は変わらない。失った過去は戻らない。ああ、よく知ってるさ。それで、お前は、殺してるだけで満足か?
 恨んで、殺しての繰り返しで……何か変わるのか? こっちのフランを見て、何も思わないのか? お前は、今のままで本当に良いのか!?」
「『しあわせそうね』」
 キラーアイヴィはそう言った。幸せそうに、仲間達の輪の中で微笑んで、彼らの庇護を受けているフラン・ヴィラネル。
 あり得なかった自分の未来に妬ましさが火を付ける。キラーアイヴィに肉薄したリュカはひゅうと息をのんだ。次いで、飛び込むリアムのスター・エングレイブは刻印を刻みつける。
「退けさせて貰う。全力で――その殺意、憎悪を退ける」
 無論、『死に戻り』は前提だった。彼女を前に戦う事に全力を傾けられないのは見知った『フラン・ヴィラネル』であるからだ。
 梨尾が引き受けるモンスター達を噛み砕くヴァリフィルドは彼がじり貧に耐え続けていることに気付く。
「我らでコレを倒しきる為に尽力しようぞ」
「……はい!」
 絶望の側でワルツでも踊るように。伸びる蔦がイレギュラーズを翻弄し続ける。ヴァリフィルドが強靱な顎で噛み砕けば、梨尾は逃がしはしまいと焔を灯す。
「いくよ!」
 パンジーが掻き鳴らしたアクティブスキルが光を帯びた。ぱちりと音を立て蔦へと叩きつけられれば、緑の魔力が眼前へと襲い来る。
 だが、怯んでは居られない。できる限りは救えたのだから。ここからは徹底的な攻戦だ。
「ねこは先ほど貴女に罪を問いました。貴女の為すこと為したことを罪と断じるつもりはありません。
 ねこが罪を説いたのは、歪まされたまま軽んじられた、貴方自身に対してです」
 今一度刃を納めろとねこ神さまはそう言った。キラーアイヴィは止まれるわけが無いと呟く。
「どうして――『どうして、何度も起き上がってくる』の! どうして『何度も私に私を殺させるの』!」
 それはイレギュラーズであるからだ。サクラメントからの復活を繰り返し、何度だって彼女の前に姿を現した。
 ファン・ドルドとリュカが気を引いている間に、ルフランはもう一度を重ね続ける。
「……ねぇ、外の世界は怖いよね。でも、あたしは外の世界でいっぱい友達が出来て、いっぱい楽しいことがあったよ。
 盗賊を許せなくたって、他の人が悪い訳じゃない。そうでしょ? 梨尾さんに、沢山怒っていたけど『あたし』達はまだ、救われるはずだよ?」
「『もう救われたって遅い』の!」
 罪に塗れ続けた自身。それでも、ルフランは笑い続けた。『フラン・ヴィラネル』のかんばせに、あり得なかった笑顔を乗せて。
 キラーアイヴィがだだをこねる子供のように蔦を手繰り、ファン・ドルドの胸を貫く。
「お願いです。その手を止めてください」
 パンジーの張り上げた声に、キラーアイヴィがうるさいと叫んだ。
 パンジーの知っている『フラン・ヴィラネル』は明るくて優しい少女だった。人を癒やし、護るために率先する彼女。『ヒーラー』に命を救われて、その背中を追いかけた彼女と、辛うじて救われた命と残された傷に恐れを抱いた彼女。
 似て異なる存在でも、攻撃を重ねるのは苦しい。
「……誰も、本当に死んだ訳じゃない。俺達の誰もが、『お前』に殺させやしない。そうだろ?」
 飾る事なんて無かった。取り繕う気持さえない。リアムは過去は変わらないことを知っている。
 何度殺したってこの世界では生きている。彼女がイレギュラーズを本来の意味合いで殺すことはないように、リアムは『重なったデスカウント』で彼女を受け入れることを選んだ。
「私は――」
「殺したいのならば、殺しても良いでしょう。ですが、私たちは『何度でも貴方の前に姿を現す』」
 ファン・ドルドが薙ぎ払った軌跡に風が残される。その気配を見遣りながらキラーアイヴィは「どうして」と呟いた。
 自分自身を殺し続ける、恐ろしさ。それが、少女の心に与えた不均衡は――『殺人鬼である彼女』そのものを脅かしているかのようだった。


「悪ぃ。やっぱ無理だ」
 リュカは呻いた。どうしても、これ以上は攻撃する気になれない。隣に立っている『ルフラン』も、目の前の『キラーアイヴィ』も。
 呼び名が違えども『フラン・ヴィラネル』であることには違いは無い。よく知っている彼女だからこそ、名を違える程度では誤魔化せやしない。
「なぁ、『フラン』。やめねえか?俺はお前のそんな顔見たくねえ。お前を傷つけたくもねえ。
 そんな傷だらけになったお前をこれ以上傷つけるなんて、出来ねえよ」
 リュカにキラーアイヴィの目が見開かれる。フードがぱさりと落ちて、火傷が痛ましいかんばせが露わになった。
「ッ――どうして、私を『殺人鬼』の儘として扱ってくれないの!」
 優しくされることになんて慣れていない。『フラン・ヴィラネル』は幼さを滲ませながら叫んだ。
「私は『殺さなくっちゃ』生きていけないのに――!」
 それは、彼女がそうしなくてはその心を保っていられなかったことを示していたのだろう。
 痛ましいほどに、少女は『殺人鬼』として完成されていた。逃げ出すその背中にリアムは声をかけることはしない。
「ねこは……彼女にとっての『罪』とは、どのようなものになるのか、分かりません」
 同情したわけではない。ねこ神さまは嘆息した。取り残されたルフランの不安げな表情を垣間見てはそういうことしかできない。
 梨尾は理解している復讐者たるキラーアイヴィにとって、殺人は罪ではない。
 彼女は『自身が生きていくため』に必要なことをしていただけなのだと、そう告げていたのだから。
「翡翠に用がある傭兵団……考えられそうなのはレナヴィスカであろうか。だが、彼女たちは幻想種で構成されていたはずだ。
 あの閉鎖的な場所にまで入り込み、一体何の情報を求めているのか。助けてやったのだ。
 全てを語れずとも、対価として情報ぐらいはよこしてもらおうぞ。
 ……嫌なら別に、相応の金銭を要求してもいいのであるがな? 決して安くはないぞ?」
 そうやって声をかけるヴァリフィルドに男達は「命令だ。どうして『国境線が封鎖されたのか』……翡翠に何があったのかを探れっていうな」とがくりと肩を落とした。成程、彼らも伝承と同じく突如とした翡翠の国境封鎖に戸惑っていたのだろう。
「成程。ですが、情報はつかめていない、と」
 ファン・ドルドに彼らは頷いた。送迎代には足りない程度の情報しか彼らは手にしていなかったのだ。それだけキラーアイヴィが強敵だったというのか。
「……あたしが友達を殺すの、ちょっときつかったなぁ」
 脚が震えている。そんなフランの頭をぐりぐりと撫でたリュカは傭兵達へと「テメェら」と声をかけた。
「くだらねえ真似しやがって。クラブ・ガンビーノのメンバーだったら根性叩き直してやるところだぜ」
「え――」
 リュカは面食らったような顔をした盗賊団をまじまじと見遣った。この世界のクラブ・ガンビーノは『赤犬の群』傘下の『ガンビーノ・ファミリー』であるう。砂漠の盗賊である彼らが『そうである可能性』をリュカが想定していなかったわけではない。
 嘆息する。どうやら『彼女』には自分も因縁めいた関係がありそうだ――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

梨尾(p3x000561)[死亡×2]
不転の境界
リアム・アステール(p3x001243)[死亡×2]
星纏う幻想種
ファン・ドルド(p3x005073)[死亡]
仮想ファンドマネージャ
ルフラン・アントルメ(p3x006816)[死亡×3]
決死の優花
リュカ・ファブニル(p3x007268)[死亡]
運命砕

あとがき

 お疲れ様でした。彼女にとっては掛け違えたボタン。
 救われるのはいつのことなのでしょう。

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