シナリオ詳細
羽ばたきの書
オープニング
●書の鳥
青空に、鳥が舞った。
白い白い鳥が、一斉に木から飛び立っていった。
慌てて待ってと手を伸ばしても、青い空へと浮かんだ白へは届かない。
「ああ、どうしよう……」
まさか、こんな事が起きてしまうだなんて。
悲しげに降ろされた手が、落ち着いた色合いのエプロンの胸元でぎゅうと握られた。
幻想王国のとある街からほど近い森にある、大木。
大雷に打たれ一度その木は死にかけたが、人々が手を掛け時間を掛け、今尚枝葉を伸ばし続けている。
雷で穿たれたために出来た空洞に世話をするひとが住むようになり――そうしていつしかそこで物語を集め、訪う人へ茶や菓子を提供するようになった。
――『Book Bird Cage』。
其処は、知る人ぞ知るブックカフェである。
そのブックカフェから、鳥が飛び立った。
いずれも白い翼を持つ小さな鳥たちは自由に空を飛び回り、空を見上げた店主は眉を下げ、大きな溜息を吐く。
――困ったな、これでは店を開けることが出来ない。
店主に出来るのは大木の世話と、『鳥』たちの世話だけだ。捕まえるために飛ぶ技術も持ち合わせていなければ、鳥たちをおびき寄せる『もの』を持ち合わせてもいない。
「あれ。今日はお休みなのかな」
空を見上げて溜息を吐き続ける店主の前に、偶然現れたのは――。
●ローレット
「鳥がね、飛び立ってしまったんだ」
それでとある店が困っているのだ、と『浮草』劉・雨泽(p3n000218)が秋風の爽やかな日に依頼を持ち込んだ。
依頼内容は、こうだ。
――『書の鳥』たちを捕まえて欲しい。
書の鳥? と首を傾げる君たちの前で雨泽は両親指を合わせると、手で作った鳥をパタパタと動かした。
「書の鳥たちは、書物の『頁』だよ。その店の店主は少し変わった魔法が使えてね、語られた物語を書物にすることが出来るんだ」
物語を綴る書の頁は、愛らしく囀る小鳥たち。
住処は雷で大穴の空いた木の中に作られたブックカフェ――の、書架。
「いつもは大人しく書物として人々に読まれて愛されているのだけれど、鳥たちには苦手なものがあってね」
書物の天敵――そう、水である。
「店主がうっかり、大木にあげる水を零す……と言うよりはぶち撒けてしまった、かな」
鳥たちはもう、大慌てだ。飛び出した頁たちがバタバタ飛び回って他の書物にまで水を飛ばすものだから、すごい有様だったそうだ。……店主から話を聞いた雨泽が最初に思ったのは『ちょっと見てみたかったなあ』だったが、空気を読んで口を噤んだのだとか。
そうして改めて、鳥たちを捕まえて欲しいと口にした。
「書の鳥たちは『物語』が大好きなんだ」
楽しい話、悲しい話。
恋の話、冒険の話。
知らない場所の、知らない話。
そこに『不思議』が加わるともっといい。
「君たちならそういうの得意な子もいるんじゃない?」
よろしくお願いするねと雨泽は笑い、君たちを件のブックカフェへと案内するのだった。
- 羽ばたきの書完了
- GM名壱花
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年10月08日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●語り部たちと物語
――ピーチュチュチュ。
木々の合間から、鳥たちの囀りが降り注ぐ。
木漏れ日のように穏やかに降り注ぐ囀りに、『埋れ翼』チック・シュテル(p3p000932)は細い顎を上向けた。
(本の……子達、どこかいる……してる、かな)
振り仰いでもその姿は見えなくて、その鳥が『本物』なのか『書の鳥』なのかは解らない。けれど訪れたブックカフェで改めて店主から説明を受けたイレギュラーズは、鳥たちはそう遠くへは行けない旨を伝えられている。鳥の状態では編んだ魔法が解け、消えてしまうからだ。
「鳥とはいえ本ってことは紙なのか? 雨に濡れたらヤバそうだよな」
書の鳥たちのためにも早く戻してやらねーと。
魔法で編まれたものとは言え、ボロボロになった本は見たくない。
その思いは『特異運命座標』囲 飛呂(p3p010030)だけではなく、みな同じ。
森の中へと入ったイレギュラーズは適当な場所で足を止め、木の切り株や丸太、ぽこりと飛び出た木の根などに腰を落ち着けた。
「アタシ達の物語、気に入ってくれるかしら♪」
木陰に座り、一度ポロンと鳴らして音を調整した『ヘリオトロープの黄昏』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)が竪琴を静かに奏で始めれば、木の葉がさわりと揺れる。
「物語を森中に届けて欲しいの」
ジルーシャが背にした木の枝が大きく揺れたら、それが是の合図。低級の精霊には森中は難しいかもしれないけれど、普通に届く範囲よりも声を広げてくれることだろう。
「それじゃあ、アタシから始めちゃおうかしら」
――ポロン。優美な指先が爪弾く美しい旋律に乗せて謳うのは、ジルーシャが元いた世界に伝わる寓話――精霊と人間の、悲しい恋のお話。
「アタシの世界では、精霊は“見えないお隣さん”。二つの世界は側にあるけれど、決して交わらないと言われているの」
けれどある時代、一人だけその姿が見える人がいました。
彼は一目で精霊に恋をし、精霊もまた、自分を見つけてくれた彼に惹かれました。
運命の出会いだと信じ、ふたりの距離は縮まります。
しかし、ふたりの幸せは長くは続きません。人と精霊では生きる時間が違いすぎるからです。
『僕が死ぬ前に、どうかこの両の目を持って行って』
今際の際の彼の言葉を受け入れ、精霊は彼の瞳に別れのキスを贈りました。
精霊の口づけは、奇跡の兆し――その瞬間、彼の心臓は再び動き出しました。
彼は喜び、悲しみました。瞳が失われ、愛しい姿が見えません。
精霊は喜びました。例え彼の瞳に映らなくとも側にいられるなら、と。
「いつまでも二人……もしかしたら、今も世界のどこかで静かに暮らしているのかもしれないわね」
アタシの話はおしまい。そう切り上げたジルーシャの右目は前髪の帳が降りている。まるで話に出てきた『彼』が彼のようで、イレギュラーズの視線が自然と集まった。
「……あれ」
頭上にさした影に、『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)と『激情の踊り子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)が顔を上げた。白い何か――鳥が、空から、森から、集まってくる。
「わ、鳥さん達来た! 本当に来た! 鳥さん達、本当に本なの?」
「いらっしゃい」
肩や頭に止まる鳥たちにジルーシャがくすぐったげに笑い、その姿に『少年猫又』杜里 ちぐさ(p3p010035)がいいにゃぁと瞳をキラキラと宝石のように輝かせた。
「次は誰が行く?」
「……それでは、俺が」
控えめに挙げられた手に視線が集まる。『活人剣』ルーキス・ファウン(p3p008870)はこれから話す内容を思えば気恥ずかしいのか、トレードマークの青いバンダナを少し下げながら「これはどこにでもある普通の恋の話です」と前置き、パタパタと集まってきている白い鳥たちを視界へ映した。
白い小鳥。そう聞いて真っ先に脳裏に浮かぶ人がルーキスには『いる』。
豊穣の地に生まれ特異運命座標となった青年は、世界を知りました。
幾多の冒険、数え切れない出会いの末、ある少女に出会い彼は恋をします。
少女は、白い翼を持った美しい人でした。白百合のように可憐な人でした。
彼は空を飛ぶ鳥を見る度に、どうしても少女のことを想ってしまいます。
焦がれる胸は、いつも青年に疑問を突きつけます。
『何故自分は空を飛べないのか』
『何故彼女と同じ視界を共有できないのか』
彼女と空を飛び、同じ景色を見られたら――それはどんなに幸福なことだろう。
翼持たぬ人間種は、夢を見続けます。
それは今も、ずっと――。
空を舞う鳥たちへと手を伸ばしたルーキスの手が、ゆっくりと落ちていく。
仲間たちの視線が熱いくらいに注がれていることに気付き、更にバンダナを引き下げた。
「……御気付きかもしれませんが、これは今も続いている俺自身の話です。なので、結末はまだ……あぁ、改めて言うと恥ずかしいですね。よし、次の方お願いします!」
段々と早口になっていったルーキスは微笑ましげな視線に耐えきれないような顔をする。
自身の恋の話なぞ恥ずかしくなるだけだと解りきっている。それならば何故話したのか。誰かに聞いてもらいたかったのかも知れない。今も尚、あの翼に手を伸ばし続けていることを。
ルーキスの話にしきりとうんうんと頷いていた飛呂には、その感覚が解る。何故なら彼も絶賛……いや、大絶賛恋愛中だ。運命のキューピッドに出会ってしまったのだから仕方がない。
あの小ささと、それから翼――。
ひいらりと空から舞い降りてきた鳥を見て、あれ? と飛呂は瞬いた。
(何だったんだ、今の)
何かを思いかけ、気のせいだろうとかぶりを振って、思念を頭の隅に放る。今は仲間たちと物語を語らう時だ。同志の志を引き継ぐ気持ちで、語り手を引き継いだ。
「俺が知ってる話はさ、ほとんど再現性東京で聞いたものなんだ」
うろ覚えな部分はアレンジで補完して語り始める。
『月には大きな宮殿と、綺麗な大樹が生えている』
その伝説を確かめに、少年は初めて街の外へと出ました。
旅の中で少年は、初めて森に入り、鳥と話をしました。
山を登り猫と友になり、海を見て――そこで少女と出会いました。
全てが初めてずくめの旅は一人からふたりになり、そうしてふたりは月へと辿り着きます。
伝説の通り、宮殿も大樹もありました。
――少年たちは知らないかも知れません。
いつしか語られる伝説が変わっていることを。
『月の宮殿には少年と少女が居る。月の大樹では鳥が休み、時折彼らの友である猫が遊びに来る』
少年は、伝説となっていたのです。
「これ、旅で出会ったひとたちと最後まで一緒なの、いいなって思うんだ」
「いい話だな!」
好きだった絵本の話なんだと締めくくれば、『ドキドキの躍動』エドワード・S・アリゼ(p3p009403)が飛呂に同意を示した。
旅に出た少年の気持ちは、自分に近かったのかもしれない。
冒険好きのエドワードは思い描く夢をなぞらえたような心地で笑い、次はオレなと語り手を引き継いでいく。
「へへ、オレの好きな話も気に入ってくれるかな」
集う鳥たちは着実に増えていっている。気に入ってくれると良いと思いを込め、口を開いた。
あるところに、人と動物と自然が共存する平和な森がありました。
人々は平和に暮らしていましたが、ある日、森に恐ろしい雄叫びが響き渡ります。
雄叫びの大きさに大地は割れ、川は溢れ、森の住人たちも大慌て。
そこで一人の勇気ある若者が立ち上がります。
原因を突き止め解決すると若者は告げ、仲間と共に森の最深部へと向かいました。
そこには、それはそれは巨大な、森の緑を映したかのような美しいドラゴンが暴れていました。ドラゴンはとても苦しげです。
若者はすぐにドラゴンの口内に針が刺さっていることに気が付きます。
若者は森に住まう人々を集めました。人々と動物は力を合わせ、針を抜いてあげたのです。
痛みから開放されたドラゴンは大暴れしていた姿から一変。とても穏やかな瞳で若者や森の住人たちを見つめました。
ドラゴンは住人たちに感謝を告げると大地も川も元通りにし、森には再び平穏が訪れました。
めでたし、めでたし。
「話はここまでなんだけど、オレはこの後はドラゴンも皆と暮らしていると思っているんだ」
話の流れ的に、ドラゴンがいた事を事件が起きるまで森の住人たちは知らなかったのだろう。その後はきっと、皆仲良く平和に暮らしている。そうあればいいと、エドワードが笑った。
それじゃあ次はと話し出すのは、美咲だ。
「この話でも大きな鳥が暴れているよ。故郷のお話を、体験でアレンジして語ってみるよ」
美咲が話すのは、仲良しの狐と狸の話だ。
ある日ふたりが森の広場へ行くと、大きな鳥のマルスが暴れている所から話は始まって――。
『降参! 降参だ!』
力を合わせたふたりに叩きのめされたマルスが、翼を畳んで降りてきます。
マルスは何故暴れていたのでしょう?
『皆と遊びたかったんだ』
皆へのお詫びに卵をくれたマルスは、次からはちゃんと力加減ができるよときちんと約束をしました。
――さて、とっても大きなこの卵はどうしよう?
お菓子を作る? 大きすぎない? そうだ、皆で食べて仲直りだ!
大きな卵に砂糖を混ぜてよく泡立てて。
ミルクとバター、小麦粉を丁寧に混ぜたら、温めたフライパンでじゅう。
いいにおいがしてきても、まだ慌てちゃいけません。
ふわっと膨らんで綺麗な色がついたら、もういいかな?
はい、カステラの出来上がり!
皆で大きなカステラを分け合って食べ合えば、自然と笑顔が溢れます。
「こうしてこの森では、仲直りのときには皆でカステラを食べることになったのです。めでたし、めでたし」
話している途中で誰かのお腹がぐぅと鳴ったけれど、そこは聞こえないふりをして。後からカステラでお茶をしようかと美咲は笑った。
「お茶かー、いいね! ボクは何のお話をしようかな」
みんなのお話はどれも素敵だねと両手の指を合わせて無邪気に尾を揺らしたヒィロは、どうしようかなと視線を彷徨わせ、
「あっ、コレならお話できそう!」
昔々のつい最近――。
明るく話していたヒィロは、ほんの少しだけ声を落として話し出す。
ある貧民街で暮らしていた狐の子お話を。
狐の子は――、
手を繋ぐ親子を見て涙を流しました。
仲良く遊ぶ子供等を見て涙を流しました。
明日の約束をする声を聞いて涙を流しました。
狐の子は親を知らず、友を知らず、未来の希望すらも知らなかったからです。
いつの間にか狐の子の頭上に太陽は輝かず、自分が日陰でしか生きられないと知った時、狐の子は鬼の子になっていました。
鬼の子は――、
飢えて倒れても、奪われて殴られても、初めて人を殺した時も、涙は流しませんでした。
流せるだけの涙が心のお皿に残っていなかったのです。
鬼の子は、明るく笑いながら生きます。血を流しても、太陽が見えなくても。
――ある日、鬼の子は月に出会います。
夜空に輝く七色の月光。
愛しいその輝きに鬼の子は愛を知り、そうしてその頬を涙が伝ったのでした。
「鬼の子と月の物語は、きっとめでたしめでたしで――ね、美咲さん!」
向けられた笑顔に美咲がヒィロと似た笑みを返すと、ヒィロの豊かな尾はパタパタと大きく揺らされる。それを見たイレギュラーズは少しだけ何かを察し、また羽ばたきの音とともに増えた白い鳥を見守った。
それじゃあ次は誰? 後話していないのは――。
仲間たちの視線がぐるりと動く中、白い手が控えめに挙げられる。
「次はおれが……お話する、ね」
ジルーシャのように歌おうか少しだけ悩んで、かぶりを振る。今日は、謳わない。歌う時を思い出しながら、言の葉を紡ごう。滑らかに口にできなくても、きっと皆は気にしない。けれどはっきりと、伝わる様に、思いを込めて。
そうしてチックが語るのは、旅先で聞いた不思議な御伽話。
――とある辺境の地に、卵が一つありました。
産みの親が解らない卵を見つけた鳥たちは、話し合いをします。
『愛情も何も与えられず、空っぽのまま生まれるのは可哀想だ。
それなら、私たちがこの子に贈り物を授けてあげよう。
この子の生きる道が、良いものであることを祈って』
鳥たちはそれぞれ、卵に祈りを込めてあげました。
優しい心を、彩り多き人生を、彼の行く先々に幸多かれと。
――そんな中、一羽の鳥だけが面白くない顔をします。
『みんな良いことばかりお祈りして、つまんないの』
『そうだ。あの卵に、僕の願いを吹き込んでしまおう』
誰もいない機会を窺い、ずる賢い鳥は卵に悪い願いを込めました。
『一緒に、悪いことをばら撒いてくれる子になります様に!』
「……卵は無事に孵ったのでしょうか」
それは、誰も知りません。
歌うような伸びやかな声で、チックはお話をしめくくる。
「えっ、そこでおしまいなのにゃ!?」
不思議な御伽噺をのめり込むように聞いていたちぐさが思わず目を丸くし、残念だけれどとチックは淡い笑みを浮かべながら、飛んできた書の鳥たちを指先に止まらせた。
えーとか、うーんとか、短く唸ったちぐさは、それじゃあ次は僕にゃと口を開く。
「僕が元いた世界の話にゃ。僕をはじめ妖怪がいっぱいの世界にゃ」
妖怪という言葉が馴染みの無い人にも解るように、妖怪は普通の人間には見えないし聞こえない、触れない存在なのだと先に告げて。
――あるところに、座敷童の女の子がいました。
座敷童は憑いた家に反映を齎す妖怪で、小さな子供の時にだけ見たり会話をする事が出来ます。
不変な妖怪と違い、人の成長はあっという間。子供が成長すると遊び相手が居なくなったと離れてしまう座敷童が多い中、その座敷童――『チヨちゃん』はその時は気紛れに、一人の女の子のそばに居続けていました。
女の子は成長し、結婚の為に家を出ることになりました。
チヨちゃんも女の子が居なくなるのならと家を出ていくことに決めました。
――ところが出立の前夜、不思議な事が起こります。
ふたりがよく遊んでいた居間に、付箋の貼られたゴム鞠が置かれていたのです。
女の子はもうとっくにチヨちゃんのことを忘れていると思っていたのに――。
その付箋には、こう書いてありました。
『今までありがとう』
「僕の知ってるチヨちゃんはいつもゴム鞠を大切そうに抱えてたにゃ」
そうちぐさが話し終えれば、一巡り。
いつの間にか皆の肩や頭には白い鳥が乗り、座る丸太や木々の枝にも書の鳥たちが羽を休めている。
「気に入ってくれたみたいにゃね」
「皆の話、いい話だったもんな!」
それじゃあカフェに帰ろうぜ!
元気に駆け出したちぐさとエドワードの後ろを二人の名を呼んだ飛呂が追いかけ、その後ろに他の仲間たちが続く。
帰ろう。鳥たちをあるべき場所に、本の一頁に戻しに。
●ただいま、おかえり
「皆、おかえり……わあ」
森から帰ってきたイレギュラーズを出迎えた雨泽は口を開いた後、笑みのまま少し固まった。イレギュラーズの皆が想像以上に鳥まみれだったものだから、吹き出すのを少し堪えているのだろう。
「ああ、こんなにも沢山……ありがとうございます。さぞや素敵なお話をされたのでしょうね」
感極まった様子の店主が鍵のような小さな杖を振るう。
途端に鳥たちは舞い上がり、広い木のうろの中をグルグルと飛んで――。
「本に……なる、した……」
「えー、すごい! 本当に本になっちゃった!」
「あら素敵。本になるところが見られるだなんて」
上がる言葉に店主ははにかみ、元の本のページに鳥たちがしっかりと戻っていることを確認した。
「改めて、ありがとうございます。今日は飲み物くらいしか提供できませんが、良ければ皆さんが鳥たちに聞かせた話を私にもお聞かせ願えませんか?」
今日はカフェの仕込みどころではなくなってしまったので。
けれどお茶で良ければ、さあどうぞ。
「こうして直接ご挨拶するのは初めてですね」
それぞれ思い思いの席に着き、指先をお茶で温めて。雨泽の隣に座ったルーキスがそう口を開けば、雨泽はいつもありがとうと笑った。
「僕も皆の話が聞きたいな。報告書だけでは味気ないからね」
「あ! 僕の話、本にして欲しいにゃ。お店に寄贈するにゃ」
「ちぐさがそうするなら俺もそうしようかな」
「オレも。オレの好きな話、気に入ってくれる人がいるかもしれないしなっ」
はーいと挙手したちぐさに続き、飛呂とエドワードが申し出る。
「俺は……貰っていってもいいですか? さ、流石にこの話を寄贈するのはちょっと恥ずかし……でも、お守り代わりにするのもアリ……かな、と」
「ルーキスは恋の話だったものね♪」
ポリ、と恥ずかしげに頬を掻くルーキスにジルーシャが微笑ましげに笑い、穏やかに笑んだ店主がではそのようにと会話を引き取った。
いつもは日が落ちる頃には閉まる木のうろのブックカフェ。
けれどその日は、遅くまで物語を囁く声が聞こえていた。
キミだけの物語が、鳥たちの美しい囀りのように。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
シナリオへのご参加、ありがとうございました。
素敵な物語をありがとうございました。
鳥が戻ってきて本の穴抜けはなくなり、カフェも開店できそうです。
おつかれさまでした、イレギュラーズ。
GMコメント
ごきげんよう、イレギュラーズの皆さん。壱花と申します。
読書の秋なので、本に纏わるお話をお届けいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。想定外の事態は絶対に起こりません。
●成功条件
書の鳥たちの捕獲
(一羽も鳥が戻ってこないと失敗になります。)
●シナリオについて
飛び立ってしまった鳥たちは、一羽一羽が書物の頁です。
現在ブックカフェでは頁の欠けた本が残されている状況です。
森の中で物語を口にしていれば興味を惹かれて寄ってきます。
プレイング次第ではありますが、スポット的な描写となる予定です。
●書の鳥
こちらが飛んで捕まえる必要はありません。
あなたが口にする物語が気に入れば肩や頭に止まり、そのままお家(ブックカフェ)までついてきてくれます。基本的にはおとなしい良い子たちです。
可能なら、参加者さんたちの話が被らないと、鳥たちの食いつきも良くなることでしょう。たくさん帰ってきます。
●物語
どんなお話でも大丈夫です。皆さんの素敵なお話が聞けると嬉しいです。
鳥を連れ帰った後、希望すれば店主がその物語を書物にしてくれます。
(※アイテムが発行される訳ではありません。)
●NPC
雨泽は鳥の捕獲には同行しません。
カフェには居ますが(店主を宥めている)、基本的に描写はされません。
話しかけられたりすれば応じられる範囲で動きます。
それでは、イレギュラーズの皆様、素敵な物語をお待ちしております。
Tweet