シナリオ詳細
<大樹の嘆き>白い森の、その奥で
オープニング
●白と青の森の中で
「急げ、余所者がこの地を通り抜けてくるかもしれん」
松明の炎が、吹雪の中で揺れる。
雪の中、防寒着を着込んだ屈強な三人の幻想種が駆けていく。その手には矢と弓。誰かを追っているわけではない。この地に動く者が、余所者がいれば即座に射貫くためにつがえているのだ。
空に雲はなく、真っ黒な空の下に見えるのは白い雪と木の代わりに地面から鋭く突き出た幾つもの氷柱、そして……それに貫かれた、無数の幻想種の死体。胸を貫かれたその全てが凍り付き、気の遠くなるような年月、そのままでいるかのようであった。
「……朽ち果てる事も許されないとは」
ぽつりと弓を手にした男たちの一人がそう呟くと、その隣で細身の幻想種が白い息を吐き首を振る。
「我々は精霊を愛している、奴らとは違う……行くぞ、この地の精霊と共に余所者に死を与えるのだ」
「ああ……」
吹雪はなおも止む気配はなく、目を光らせながら男たちは氷柱を遮蔽物代わりに慎重に進む。張り詰めた空気が、彼らの意識を地面から逸らしたその時――彼らは何か固いものを踏み込んだ。足を離し確かめ、幻想種達は首を振る。
「これは……鎌か? 妖精が繋がれている……」
「なんと惨い……」
弓を納め、妖精達を弔おうと指を伸ばした男たちの手が止まる。誰かが、笑っている。
振り向けば白い衣の少女が、吹雪の中で微笑んでいた。驚いた男の一人が隣の男に警戒を促す様に肩を叩く……が、男はぴくりとも動かない、地面から突き出した氷柱に心臓を貫かれて。
「な――!?」
即座に弓に手を伸ばそうとする、だがつかめない。指が凍り付いている。死んでいたはずの妖精が鎌を手にゆらりと浮かび上がり、何かを唱える。現れた精霊たちが、自分達を狙って襲い掛かってくる!
「なんなんだこいつらは!? 動けるはずがない、確かに『凍り付いている』んだ、なのに――」
指先から凍り付いた仲間を押しのけ残った一人のハーモニアが見たものは雪から浮かび上がる無数の凍り付いた妖精達、そして自分の首を目掛けて振るわれた鎌――。
●「集合! イレギュラーズ集合! 翡翠の鎖国騒ぎの特ダネだよ!」
所は変わりネクストの伝承、その酒場にて大きく腕を振ってイレギュラーズを呼び集める巨人が一人――
『見りゃわかんだろぉ!?』メープル(p3y000199)は持っていたビックリマークの看板を胸に抱きかかえるとふうとしかめっ面で一息ついた。
「みんな聞いて。今、翡翠のサクラメントが止まっちゃってるじゃん? 鎖国の原因を調べたくても中に行けなくてさ!」
鎖国騒ぎ――現実世界でいう深緑にあたる『翡翠』が突然国境を封鎖し、そのサクラメントのほとんどが機能を停止したのは記憶に新しい。陸路で向かおうにもその途中にはイレギュラーズとは敵対状況にある砂嵐の地を通らなければならず交戦は避けられない。
「どうしようもないって思ったんだ、でも私、みんなに秘密のサクラメントを知っててさ……もしかしたらって思って調べたら動いてたんだ、翡翠の近くの、『凍える森』のサクラメントが」
凍える森。そこはかつて幻想種達の中でも過激的な選民思想を持つ者たちが住んでいたという豊かな森。おごりたかぶった彼らはやがてその地に踏み込んだあらゆる異種族に手を下し、精霊をも追い出そうとした矢先に天罰を受けて死に絶えたという。その地は今も凍り付いた帰らずの森となっており、翡翠の民も砂嵐の民も近寄らぬ場所となった。
「幻想種達が永久放棄した帰らずの場所なら、警備だって手薄なはずさ……そこでみんなは真っすぐ、そこから翡翠の中にあるサクラメントに向かって欲しいのさ」
難攻不落のサクラメントにたどり着き、機能を復旧さえすればイレギュラーズ達が翡翠内部へ情報収集をする足がかりとなる。翡翠へと向かうショートカットを作る、簡単に言えばただそれだけだが『大樹の嘆き』を攻略するには便利な一歩となるだろう。
「私はみんなに万が一があった時のためにここで待ってる、それと……個人的な事だけどね」
メープルは『妖精粒子』シフルハンマ(p3x000319)を見下ろす様に視線を動かし――目をそらして。
「私、人探しをしてて……『知り合い』の消息を辿れたのはそこまでなのさ、だから、何か……その人の手がかりが見つかったら、持ってきてほしいんだ」
「私はその森に何でか入れなくてさ……ついででいいから、頼んだよ」
●[閲覧不可]
彼は全てに疲れていた。
諦めていた、失望していた。だからその噂を聞いた時に探した、どんな試練が待ち受けようとも、過去の報いを受けようとも。同胞たちを、小さな妖精たちが集まる理想郷を、自分の死に場所を。
彼は感じた。
理想郷でなくともたどり着いた小さな集落で、同じ小さな仲間たちが自分を歓迎する光景を。そこで感じた確かな心の温かみを。
『長耳』達が放った毒が自分を蝕む痛みを。仲間たちの悲鳴を。誰かの祈るような声を。
どうかキミだけは、死なないで――
彼は右手に持っていた何かをぽとりと落とすと、ふらふらと彼と共にいた青白い精霊と虚空へ向かって飛んで行く。
通りすがり、白い少女が寂しそうな笑顔でこっちを見つめていた気がしたが、彼にその意味は分からない、疑問に思うことはない。
何故なら、彼の肉体と心はもう凍り付いて動かなくなっていたのだから。
- <大樹の嘆き>白い森の、その奥で完了
- GM名塩魔法使い
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年10月12日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●無限に続く白と青
突風が雪をかき混ぜ、ごうごうと吹き付ける風の音が背筋に寒の気を生じさせる。
サクラメントから僅か数分、彼らを待ち受けていたのは枯れ果て凍り付いた木々がそびえたつ、極寒の雪原。
「えっ、いや、さむ……!?」
『ヒーラー』フィーネ(p3x009867)は両腕で自分の体を抱きしめながらそ寒気に思わず震えあがってしまう。寒いと聞いていたが想像を遥かに超えていた。
出発したのは真昼のはずなのに空を見上げれば一面の闇だ、いや、いつ出発しようとこの地区は闇に閉ざされているのだろう。このような寒さではいかなる生物も機能しないだろう。
「暗闇に閉ざされた、吹雪の止まない雪原ですか……確かに天罰と思ってもおかしくないですねえ」
『妖刀付喪』壱狐(p3x008364)がその暗闇を眺めながら、けれど、と零す。
「そうとは思えないです、むしろ……」
「物騒な女性の仕業とかかな~」
『R.O.Oの』神様(p3x000808)はそんな考察はどこふく風。だって俺は天罰を与えてないしねと口笛を吹いた。
「きっと精霊の方がそれっぽいよ~、それにしても寒いなあ」
「じゃ、じゃあ私の優しさであたたまってください! ぽわぽわ~!」
「おっ、いいねフィーネちゃん! 温まって来たヨ!」
そんなやりとりを遠めに眺めながら『きつねうどん』天狐(p3x009798)がリアカーを引きながら後列から追いかけるように歩いている。時折身震いをしては、歩き出し、また身震いをして。
「なにやっとるんじゃのう、この厳しい寒さの中で……へくちっ」
「大丈夫ですか、天狐さん? これ使いますか?」
「心配ない! この屋台20メートル以内はうどんの湯気で寒さも……へっくしゅ」
『仮想世界の冒険者』カノン(p3x008357)に押し付けられる形で赤いドリンクを手渡され、天狐はため息。
「環境対策は幾らしても問題ないですから、しっかり備えていきましょう!」
カノンは取り出した防寒マントを羽織りながら思索する。噂に聞いていた帰らずの氷の森が、こうも単純に通り抜けてとは思えない。サクラメントが不自然に起動していた事も含めて、きっと今の翡翠の情勢にかかわる何かがあるかもしれない、と。
何より、通り抜ける以外の『頼み事』の方は――
「ダメだねえ、完全にイメージも凍って止まっちゃってる。広がる闇と凄い吹雪ぃ、それにこれってぇ、精霊たちの」
『深海に揺蕩う月の花』エイラ(p3x008595)は首を横に振り、枯れ木を撫でお礼の言葉を投げかける。
「探し人の手がかり、時間がかかりそうだねえ、そっちはどう?」
エイラに声をかけられ、アレクシア(p3x004630)が目を凝らす。彼女が放ったフクロウは吹雪にも負けじと翼をしならせ、その夜目でアレクシアへと情報を送っていた。
「あったけれど、これは……幻想種の人、死んでる……こんなに沢山」
フクロウが氷柱に覆われたドームの上を通った瞬間、曇っていたアレクシアの目が驚愕の表情に変わる。
「いや、一人生きて……小さな子がこっちに来てる!」
「……ああ、やはり生きていたか」
『妖精の守護鎌』シフルハンマ(p3x000319)の体にブロックノイズが走り、現実の姿――サイズの姿を取る。そして雪原に降り立ったその小さな影も、またサイズのそれであった。
「え、あ、あれ!? どういうことなのぉ!? シフルハンマが2人!?」
エイラの驚愕にサイズは覚悟を決めると、静かに告げる。もう一人の『サイズ』は、何も言わず、鎌を抱きしめる様に構えていた。その刃は、ぼろぼろに朽ち、欠け、今にもへし折れそうだった。
「あれがメープルの言っていた『探し人』……この世界の俺自身だ、話してみる」
「そうですか、気を付けてくださいね、この世界の自分自身が、善人であるとは限りませんので」
壱狐の言葉にサイズは若干苦笑し、じっと『サイズ』の方へと歩み寄る。周囲の冷たい空気が緊張で張り詰める。
「驚かないでくれ、俺は並行世界から来たキミ自身だ、よかったら話を――」
一歩、一歩、さらに一歩、あるくになるつれ、高まる緊張は恐怖で叫びをあげてもおかしくないほどで、ほんの数メートルの距離までサイズが歩み寄った、その瞬間。
『サイズ』は、こちらへと向け、素早く鎌を振り上げた。
●たったひとりのいきのこり
「サイズ!?」
『サイズ』の鎌が雪原に刺さり粉雪が舞う。サイズの頬に傷が走り、傷口が開く。避けるのが間に合わなかったのは油断したからではない。呆気にとられたのだ。
サイズの傷口は凍っていた。炎の精霊種であるはずのこの世界の『サイズ』に熱気はなく、ただ冷たい空気だけが纏わりついていた。その矛盾が、彼の意識を逸らせてしまった。
舞う粉雪にノイズが走り、それは数多の白い妖精、アイススピリットの姿を取る。それらは息を吸い込む様に魔力を取り込むと、イレギュラーズ目掛けて無数の氷の矢を降らせる!
「逆転、している、何故……?」
「わかんないけど、怒ってるね、すっごく怒ってるねぇ~」
アイススピリット達が放つ無数の氷の棘がくらげ型の火球に飲み込まれ、激突する。蒸発する湯気が白くじゅうじゅうと音を立てて立ち上がる。
「特に長い耳の持ち主に怒ってるみたいだねえ、アレクシア!」
「うん、わかってる!」
矢をつがえ、アイススピリットの周囲をかく乱する様にアレクシアが駆ける、彼女の足元の雪原に次々と穴が開こうともそれは彼女を捕まえる事は無い。ハーモニアを狙うというのなら利用させてもらおう。
「あなた達が狙う相手は、私だよ!」
炎の魔力を宿した矢は天へと届き、無数に別れ大地を穿ち煮えたぎらせる。その幾つかは『サイズ』の服を掠めるも、燃え上がることは無く。
(炎の魔力が意味をなさない? 傷が付かないというわけではないのに)
壱狐は振るわれる鎌をすんでのところで躱しながら彼の背後へと回り込み、本体たる神刀を構える。現実世界の彼には悪いが、まずは大人しくなってもらうしかあるまい。
「火行の太刀、お覚悟を!」
炎を纏った刀が雪原ごと、縦に素早く2度振るわれる。妖精鎌の服は一瞬燃え上がり、そしてそれは急に掻き消される。まるで燃え上がる何かが足りぬと言わんばかりに。
「まるで体そのものが氷の様に硬い、ここまで凍り付いて何故生きて……」
凍り付いたぼろぼろの鎌が天高く振り上げられる。瞳孔に光の無い彼は、それをしっかりと握りしめて振り下ろした――
「させないですっ!」
遮るかの様にカノンの両手から機関銃の如く放たれる赤い魔法弾がその鎌を弾き飛ばし、妖精鎌の体勢を崩す。
「あの不死身の状態を長引かせてもきっと得はありません、今はやるしかないのです!」
「そうですね!」
アイススピリットが再び集まり、サイズを護る様に取り囲む。カノン達は即座に回り込むように走りだす。
「フィーネちゃん、どう思う?」
「え?」
神様が戦場を伺い、サイズを護ろうとするアイススピリットを巻き込むように巨大な火球を叩き込みながら彼の治療をしていたフィーネに問う。
「もう死んでてもおかしくないくらい凍っててさ、傷付かないなんてさ~おかしくない?」
「けれど、アレには何も不具合が無いんです、だから、わからなくて」
「うん、だから僕、まさかと思ったんだけどさ」
『サイズ』が鎌を横なぎに振るう。それを手で受け止め、神様は閃きを共有する。
「もしかして、凍ってるのは身体じゃなくて。『時間』とかかもね~って、で、誰かがその体を動かしてるってワケ、そしたら無敵になるよねえ」
「そりゃめちゃくちゃじゃないかのう?!」
精霊の吹雪をリアカーで防ぎながら、天狐が声を張り上げる。
「いいや、あながちあり得るかもしれない……攻撃だけではなく、回復も通らなかったんだ」
サイズが静かに本体の鎌を眺め、そしてもう一人のサイズの欠けた鎌をじっと眺める。
「初めに、俺はあれの治療を試みた、あんなに刃が溶けて欠けてる俺は、まともな状態じゃない……それに、何があっても、どんな世界でも『俺』は妖精を攻撃したりしない」
あれは、操られている、そしてどういうわけか、死にかけた状態で時間を止められている。
「だ、だからって魔法の上から殴るっていうのかえ!? 死ぬぞ!?」
冷気が雪原から湧き上がり、肺が凍り付きそうなほどの冷気が支配する。サイズは違う、と首を振る。
「魔法が弱まった瞬間を狙って解除して、俺たちの魔法で治療する、して見せる……だから、信じてくれ」
「シフルハンマ様、私にもお手伝いさせてください!」
フィーネにサイズはうなずくと、それを合図に天狐が飛び出す。
「とにかく削ればいいんじゃな! それなら任せるのじゃ!」
「死なないように頼むよ~」
操られた妖精鎌は再び全身を使い、その身の丈はある大鎌で首を跳ね飛ばそうと薙ぎ払う――天狐はそこを身をかがみ、リアカーを手放しスライディングでくぐりぬける。
「これが連打の極意、ロマンなのじゃー!」
超威力の拳の嵐が、『サイズ』に、彼を護っていた魔法に蓄積されていく。そして〆には全身全霊のアッパーカット。
「いまなのじゃ!」
放たれた仲間の飛ぶ斬撃が、魔弾の嵐が、魔力の矢が『サイズ』を貫く、何かがカチリと音を立て、それは再び動き出した――
●動き出す歯車
「……ル……め……」
『サイズ』の体から突如、緑の霧が吹きだす。鎌が熱く赤く輝き、そして目に見えてその刃が腐り、欠けていく。
「時間が、動き出した……みんな急いで! サイズ君の身体が……!」
アレクシアは目を見開き、大きく後退する。主の魔力を剥がされ、精霊達が怒りに震えている。
「大丈夫、今から治すから!」
アレクシアは魔法矢をつがえ、精霊の身体をひと思いに穿つ。暖かい魔力を放つそれは精霊の胸を射貫けど、その命を絶つことは無い――
「私はあなたたちもあの人も気づけない、だから、どうか道を開けて!」
「開けないなら開けるから大丈夫なのじゃ!」
天狐が急旋回、サイズを護ろうとするスピリット目掛けて突進する。
「せつなさみだれうち――リアカーバージョン!」
ド派手な爆発エフェクトが渦を巻き、吹き飛んだスピリット達をかき集めてもう一回さらに吹き飛んでいく。
「うーん、エフェクトがかき混ぜられてド派手ですね~さあお嬢さん、おやすみなさい」
神様はご満悦な様子で、スピリットをそっと抱きしめると氷柱の傍に運び寝かしつける。その背後から切りかかろうとした精霊もまたカノンの衝撃弾に痺れ叩き落とされる。
『サイズ』は空中で体をひねらせると、本体である鎌を全力で放り投げる、その顔には苦悶の表情が浮かんでいた。もう残された時間は、ない。鎌は無数の冷気の幻影を産みイレギュラーズ達へ雨あられの如く降り注ぐ。エイラはそれを受け止め、フィーネ達の進軍を促す。
「早くたすけてあげてよお!」
エイラの声を背にフィーネは手を伸ばす。
「まだあきらめないでください! あなたは助かります!」
そしてサイズもまた、もう一人の自分自身に手を伸ばす。届け、届いてくれと魔力を伸ばす。
「妖精郷にたどり着くためにも、そうでなくたって妖精鎌として妖精を死なせる訳には行かないんだ、たとえ俺自身だとしても!」
サイズは虚空に手をかざす。届いた。『サイズ』の身体が空中に見えない鎖に拘束される。かざした手に毒と冷気が染みこうとも、刃で斬られようとも離したりはしない。
「お願い、どうか、目を覚まして――!」
フィーネの祈りは『サイズ』に届いたのか。その身体からは暖かい光が溢れ、目に光が灯る。
凍り付いていた涙が、零れた。
「……て、くれ」
頭を下に、力尽きた妖精は垂直に落ちていく。サイズはもう一人の自分を落とすものかと駆け――
●終わらない『おしまい』
「フィーネさん、ありがとう――」
サイズが『サイズ』の体を受け止め、そっとシートを敷いた雪原の上へと寝そべらせる。スピリット達は周囲を回り、空へ向けて消えていった。
「あの子たちも操られてたみたい……ありがとう、って、それと……召喚したのは、白い少女、だって」
「ん? 白い少女って誰なのじゃ?」
「わかんない~ってさぁ」
「……そう、か」
「エイラは先に行くねえ、リスポーンしたばっかりで体力もあるしぃ」
サイズはそっと頷き、修理道具を出す。その目線は暗闇を見つめ……そして『サイズ』の鎌へとそっと向き直り。
「気を失っているけど、耐酸性の魔法コーティングで応急処置をする。かなり気を使う作業になるが、タネさえわかれば直せないものじゃない」
しばらく考え込んだサイズは周囲を見渡し、声をかけた。
「すまない、少しだけ一人にしてくれないか。すぐに向かうから」
イレギュラーズは一人、一人とサイズの意志を尊重する。最後に残った天狐もまたサイズが温まれるようにと火を起こすとささっと鍋にうどんを入れ、サイズの肩を叩いて去って行った。
「腹が空いたら食べるといい、くれぐれも無茶はするでないぞ?」
「……ああ」
ただ物が動く音だけがそこに響き渡る。サイズはもう一人の、自分のコアを丁寧に、素早く修復していく。もう一人のサイズの本体に熱が宿り、周囲の雪が融けていく、白い湯気に視界がチラつく――
「どうにかなるかと思ったが、これでしばらくは大丈夫だ、なあ」
周囲を確認する。吹雪でよく見えないが、誰もいない、ただ暗闇だけ。
「ヒントは揃っている、いや、集めさせられたのか――」
そう静かに呟くと、サイズは自らの本体を振り上げ、空間を切り裂いた。暗闇がまるで膜を張っていたかのように裂け、本来の景色を現していく。
「キミの言うとおりだ。『俺は変わらない』、変わりっこない、だから、迎えに来たよ」
空気が凍り付きそうな空間の中、白銀の髪とドレスが舞う。彼女は、始めからそこにいた。じっとサイズ達を藍色の瞳で見つめていた。サイズは目を見開き少女の名を叫んだ。ノイズまみれの言葉が出た。
少女は、目をゆっくりと細めて――
「おっと、あぶない~」
神様の声と強烈な衝撃、サイズ達の身体が宙を舞う。彼らがいた所に巨大な氷柱が形成され、砕け散る。
「!?」
「あーあ――あと少しでキミの初めて、奪えたのに」
受け身を取ったサイズの耳に、少女の乾いた笑い声が響く。彼女の目線は、駆け付けた何人かのイレギュラーズへと向けられた。
「サイズ君、大丈夫?!」
「どうして、戻って」
「嫌な予感がしてフィーネ君に聞いてみたら、急に凄いバグが見つかって……もしかして」
アレクシアはサイズを庇うように前に立つと両腕を広げて彼を庇う。今にも弾けてしまいそうな空気に、カノンの声が震える。恐怖からではなく、彼女から放たれるその余りにも強い冷気に。
「凍える森の、精霊」
それを肯定するかのように、少女は冷気を一か所へと集中させる。イレギュラーズは攻撃に備え身構えて――
「待ってくれ! 攻撃しないでくれ!」
静寂を破ったのはサイズの悲鳴だった。
「……おひとよし」
少女はその様子に呆れた様子で構えを止め、イレギュラーズへと背を向ける。
「けれど貴女は攻撃を止めました、私、貴女とお話したくて……何か事情があったのではと」
フィーネのその優しさに白銀の少女は少し考え込んだのか、そっと目を瞑り。
「事情……それは起きたらその人に聞けばいいよ」
眠りについた『サイズ』を眺め、息を吐く、少女の吐息がダイヤモンドダストの様に、ぱらぱらと輝く。
「大樹の嘆き、そんな化物が下手人の仕業で出てる。そいつをキミ達は倒せばいい、今はそれ以上の情報は必要ないでしょ?」
「ねえ、もっと言ってくれてもいいんだよ~、助けになるからさ~神ですので~」
神様の言葉に少女は話は終わりだとだけ告げると暗闇へと溶け込んでいく。
サイズが思わず飛び出し、虚空に声にならない叫びをあげる、その名前は、言葉は、ノイズに掻き消されてしまった。
「もう私は――じゃない、キミのその願いは、叶わない」
考えても見なよ。
原罪の呼び声を受けた異端の事を、世界を壊そうとする奴らを、キミ達の世界ではなんて呼ぶんだい?
「できました……木にカモフラージュした造形を維持したまま部品を交換するのは骨が折れましたが」
「それ、必要だったぁ?」
「必要です、幻想種からサクラメントを護るのに必要な措置です」
壱狐はエイラの小言にそうつぶやくとサクラメントの電源を入れなおす、大樹の様なそれは緑色に仄かに輝くと、天へと向けて鋭い光を放つ。
「それにこちらの世界のサイズさんが休むのに、木の洞は必要ですので」
「ふぅん……」
エイラは背後に広がる雪原をじっと眺める。あの奥から来るであろうイレギュラーズを待ちかねて、天狐もまたぼそりと呟くのであった。
「それにしても遅いのう、迎えうどんが伸びてしまうのじゃ」
「またうどんなんだぁ……(迎えうどんってなに?)」
「失礼な、こんどはきつねうどんじゃ、と――来たぞ!」
天狐の言葉通り森の木の陰から、イレギュラーズが姿を現していく。どうやら全員、揃っているようだ。アレクシアの背中の上で、もう一人のサイズが眠りについている。
ともかく今は、互いを労おう。そして必要になる時がくるまで、この世界のサイズとサクラメントを護ろうじゃないか――
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ROOのサイズさんは治療が済み次第、伝承か翡翠の安全な場所で待機をする事が決まりました。
また、サクラメント起動後、『凍える森』の面積が急速に縮小しているようです。
ありがとうございました。
GMコメント
こんにちは、塩魔法使いです。
クエスト<大樹の嘆き>のシナリオとなっております。
●依頼目標
襲い掛かる魔物を退治し『凍える森』を踏破、深緑サクラメントを再起動する。
オプション:NPC『サイズ』の装備を入手、あるいは身柄の確保。
●ロケーション
枯れ木と鋭い巨大な氷柱、雪原が延々と広がる、極寒の地帯。
夜間ではあるが極端なまでの冷気で空気は澄み渡り、地面から所々鋭く突き出ている氷柱がほのかな光を放っているため視界には困らない。
ただし火を用いた道具や武器、凍結耐性などの寒さ対策が無ければランダムで凍結系統のBS判定が発生する。
エネミーとの遭遇地点はサクラメントから300メートルほど、強化サクラメントの効果により復活を望む場合は即座にサクラメント地点へと復帰することが可能です。
●エネミー
・アイススピリットx10
何者かが召喚した青白い氷の不定形な精霊達。冷気や氷自体による重量を用いた攻撃をしてきます。
体力は高くありませんが、怒り狂っているのかその攻撃力は高いです。
・サイズ
サイズ(p3p000319)さんのR.O.O.の姿、こちらでは炎属性のグリムアザース……のはずですが。
心身共に凍結し深い洗脳状態にあるため高い戦闘力を持ち、一定体力以下まで一切のBSが効果を発揮することはありません。
一定体力以下で炎系のBSを受けることで、これまで受けていた全てのBSと【廃滅】を自分に付与します。
・『白い少女』
戦闘中のイレギュラーズ達を外から観察し続ける小柄な白髪の少女。
戦闘に参加する可能性は非常に低く、こちらが彼女の存在に気が付く可能性もまた非常に低いでしょう。
繧ュ繝滉サ・螟悶�繧、繝ャ繧ョ繝・繝ゥ繝シ繧コ縺ッ
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
それでは、よろしくお願いします。
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