シナリオ詳細
<大樹の嘆き>深夜0時、状況開始。或いは、真夜中の拠点防衛戦…。
オープニング
●状況開始
かつてそこには誰かが暮らしていたのだろう。
四方を見渡せば、朽ちた古い遺跡の名残り。
家は家の形を成さず、柱は柱の役割を果たさずへし折れている。
渇いた大地に転がる岩や土塊も、元をただせば遺跡の一部だったのだろう。
さて、今回の舞台となるのはそんな翡翠との国境、その一角にある遺跡群。
『翡翠』方面のサクラメントが一斉に停止、またR.O.Oの世界でも翡翠に入れなくなるという異常事態を受け国境へと調査へ赴いた一団があった。
調査団のリーダーを務める男の名は“ハルコン”。
かつてはどこかの軍に所属していたという、厳めしい顔付きの偉丈夫だ。
「……もうじき夜になるな」
赤く染まる西の空を見て、ハルコンはそう呟いた。
遺跡の中央付近、まだ岩壁に横穴を空けたみたいな古い教会跡地を見つけ、ハルコンはそこを調査拠点とすることにした。
雨風日差しを凌げ、また有事の際は立て籠ることも出来る防衛拠点。
今回の調査において、それが必要であると彼は判断したのだ。
「この先は1本道だ。道の左右には高台……広さが足りないな。十分に動き回るのは難しいか」
見張らしが良いとは言えないが、翡翠へと続く通路を見下ろすには十分な高さがある。
その分、落下すれば大きなダメージは避けられないだろうか。
「ここを拠点にするに当たって、物資の搬入や設営が必要だ。夜通し作業するとして……その間、“迷宮森林警備隊”の襲撃が無いとは考えられない」
そう言ってハルコンは赤い空へ視線を向けた。
遥か上空を、ゆっくりと旋回する影が1つ。
それは、翼を広げた1羽のカラスのようだ。
まるで、調査隊の様子を観察するように、カラスはしばらく前からそこを飛んでいる。
おそらくは迷宮森林警備隊の偵察だろう。
調査隊の進行は、既に相手方にばれていると考えた方がいい。
「だからといって“はい、撤退”ってわけにもいかねぇのが雇われの辛いところだな。幸い、拠点の設営が終わればちょっとやそっとの襲撃程度、楽に対応できるんだが」
問題は設営が終わるまでの数時間だ。
今回、ハルコンたち調査隊に同行している戦闘員は少ない。
大半が拠点の設営や維持を主任務とする工兵や、近隣の環境調査を目的とした学者たちなのだから。
指揮官であるハルコン、そしてその部下2人。
さらに、数名のイレギュラーズ。
まともに戦えそうな戦力は、たったのそれだけなのだから。
「道幅は狭いな。横に並べて2、3人ってところか。100メートルほど先に土砂が積もっているから、人を配置するならその辺りまでが限界か」
そこから先は未知の領域だ。
拠点からの援護も届かないとなると、不用意に土砂より先へ人を進ませない方がいいとハルコンはそう判断した。
それから、彼は口を噤んで思案する。
1本、煙草に火を着けて……思考の時間は、それを吸い終わるまでの数分間。
吸殻を足元へ落とすと、ハルコンは言った。
「俺の部下を偵察に出す。その上で、今夜を乗り越えるための防衛網を張ろう」
事前に通路に戦力を配置し、夜間に襲って来るであろう迷宮森林警備隊の襲撃を阻む。
ハルコンが提案したのは、そんな守りの策だった。
●拠点防衛戦
――QUEST:拠点防衛作戦、発生――
Rapid Origin Online
それはもう一つの現実。
それはもうひとつの混沌。
それはもうひとつの世界。
ハルコンの部下2人によって、迷宮森林警備隊の戦力が暴かれた。
それによると、相手側の戦力は数名の人間、そして使役される魔物による混成部隊とのことだ。
人間の数は5人。
うち4人は魔術による遠距離からの狙撃を得意とする狙撃兵。
1人は魔物を指揮する能力を持った鹿の角を備えた巨躯の男……ウェンディゴという名であるらしい。
魔術による狙撃には【体勢不利】【呪縛】の効果が付与されていることが確認された。
一方、鹿角の男は状態異常を備えた攻撃手段を持たない。
しかし、彼は非常に勘が鋭く、打たれ強い。
また、彼は使役する魔物たちに遠隔で命令を下す能力を持っていることが確認された。
「ウェンディゴの指揮が無くなったからと、魔物が無力化されるわけじゃないってのが面倒なところだ。せいぜい統率が取れなくなる程度で、依然として脅威であることに間違いはない」
そういってハルコンは煙草を燻らす。
ウェンディゴは必ず隊の最後尾に立ち、絶えず魔物たちへ指示を出している。
おそらく、魔物たちや、周辺の地形、状況を視認している必要があるのだ。
「ウェンディゴが操る魔物は以下の3種類。それらは各10~40体ずつ用意されており、順次戦線に送り込んでくることが予想される」
1つは、狼に似た魔物。
鋭い爪と牙を備え、俊敏な動きが特徴だ。
その爪や牙に裂かれれば【滂沱】の状態異常を受けることだろう。
もう1つは、雄々しい角を備えた牛に似た魔物。
大の男が2人並んだほどの巨体であり【ブレイク】【飛】の効果がある突進を得意とする。
最後の1つは、偵察にもつかわれていたカラスの魔物だ。
飛行能力を備え、【猛毒】薬の詰まったカプセルを運搬している。
「道幅が狭いからな。一斉に襲って来るってことは無いだろうが……さて、朝までの間に何度か襲撃してくるはずだ」
拠点の設営が終われば、迎撃用の大砲やバリスタが使用できるようになる。
それまでの間、防衛網を維持することが今回の任務の内容だ。
「まぁ、気楽にいこうや。防衛に人手が足りるってんなら、拠点の設営に回る奴がいてもいい。その方が早く拠点の設営も終わるだろ」
なんて。
煙草の吸殻を投げ捨てて、ハルコンはそんなことを言う。
「あぁ、それと、少し調べて分かったんだが、ここの土地は少し特殊らしくてな……1度戦線から離れたら、100秒は復帰できないと思ってくれ」
- <大樹の嘆き>深夜0時、状況開始。或いは、真夜中の拠点防衛戦…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年10月06日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●状況開始
深夜零時。
冷えた空気の満ちる中、獣が空へと吠え猛る。
渇いた大地を踏みしめて、10に近い狼たちが疾駆した。
古い石畳が敷き詰められた通路だ。
通路の左右は岩の壁。
壁の一部には足場らしきものがある。
この遺跡は、崖の中央を無理やりに切り開いて造られたのだろう。
まっすぐに伸びた通路の先には、洞窟を改装して造られた古い教会跡地があった。
「来たか。全員、配置についているな? 状況開始だ!」
通路の奥、洞窟の前に陣取っている男が叫ぶ。
口元を埃避けの布で覆った厳めしい顔の中年男性。その立ち居振る舞いから、彼が戦闘のプロであることが窺えた。
男の名はハルコン。
国境調査隊のリーダーを務める元軍人だ。
「森林警備の割には妙に物々しい事をしてきますね……まあ、事実上封鎖されているところに突っ込もうとしているのは私達なので致し方ないのですが」
自身や周囲の仲間へ向けて『クィーンとか名前負けでは?』シフォリィ(p3x000174)は手を翳す。一瞬、蒼い閃光が瞬いて、仲間へ付与(エンチャント)をかけた。
「生き物のいる所、即ち争いある所……なんですかねぇ」
通路の両脇、高台の上で『修道女カブりで済まないアノ娘』パンジー(p3x000236)はそう呟いた。彼女は眼下へ視線を向けると、狼たちの中心めがけ指先を向ける。
『にゃぉっ!』
ひと声、パンジーが鳴き声をあげた。
指にはめた指輪がそれを増幅し、冷気を孕んだ音の爆弾を狼たちへと浴びせかける。
数体の狼が、鼓膜を破られその場に倒れた。
大部分は幾らかのダメージを受けながらも先へ進む。一目散に向かう先は、国境調査隊の拠点設営予定地……教会跡地の洞窟には非戦闘員が多くいる。
彼らを守り通すことが、ハルコンおよびイレギュラーズの任務である。
「狭い通路ン中を大所帯でくるたぁイイ度胸だ」
「第一陣は様子見か? 戦力の逐次投入は下策だろうに……」
「だが好機だ。纏めて転がしまくってターキー狙ってやらぁ!」
「あぁ、そうだな。僅かな隙を突いてでもこの場は必ず守り切らねばなるまい」
『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)のエネルギー弾、そして『蒼竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)の飛ぶ斬撃が転倒した狼たちを狙い撃つ。
翼を持たぬ狼たちが、頭上からの攻撃を受けきることはほぼ不可能。
半数ほどが斬られ、射貫かれ、凍らされ、通路の中央付近で無残な屍を晒す結果となった。
迫り来る狼たちの正面に、緑髪の女が1人立ちはだかった。
「ここを通りたければまずは腹ごしらえでもするんだね! 私が相手だよ!!」
女の名は『雑草魂』きうりん(p3x008356)。
不敵な笑みを浮かべた彼女は、一見して戦う力を持たぬか弱い獲物のように狼たちには思われた。
柔らかな肌に牙を突き立て、爪で引き裂き、肉を喰らう。
拠点を襲うという命令と食欲の狭間で、狼たちの思考は揺れた。
4体。
それがきうりんに襲い掛かった狼たちの数である。
「殺し合うのもやはり本意ではないけれど……今は剣を向けるしかない、か」
1体、きうりんの横を駆け抜けた狼の前に『シャルティエ・F・クラリウスのアバター』シャル(p3x006902)が割り込んだ。
踏み込みと同時に、剣を一閃。
狼の首を斬り落とすのと、その爪がシャルの肩を引き裂くのはほぼ同時。
「あぁ、出来りゃあ穏便に済ましたかったが……そうもいかねえみたいだ」
「ごちゃごちゃ言ってないで手ぇ動かしてよ、にーちゃん達。きうりんが喰い尽くされちまう!」
『赤龍』リュカ・ファブニル(p3x007268)と『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)の2人は後衛をシャルとシフォリィに任せ前へ出た。
「とりあえずこの通路は死守するぜ!!」
狼の数は残り4体。
きうりんが喰い尽くされる前にそれを討ち取ることなど、2人にとっては造作もない。
●魔物進軍
鹿頭巨躯の魔物使い、ウェンディゴが同時に操れる魔物の数は20体。
加えて、命令を下す魔物の姿を視界に収める必要がある。
様子見に放った第一陣はあっという間に殲滅された。それなりに通路の奥まで進むことは出来たらしいが、防衛線が厚すぎる。
「速度では出し抜けないか……ならば絡め手。そして、力押しでどうだ?」
狼の骸が消えるのを待って、ウェンディゴは次の魔物へ命令を下す。
毒薬の詰まったカプセルを持つカラスの魔物。
巨大な牛に似た魔物が2体。
そして、先ほどと同数ほどの狼たち。
「大進撃だ。逃げるか、踏みつぶされるか、好きな方を選ぶがいい」
雄牛が通路を疾駆する。
雄々しき角と、隆々とした体躯からそれが尋常ならざる破壊力を備えていることがよくわかる。
「国境警備隊ってより魔王軍って呼んだ方がしっくりこねーか? 魔物の比率がデカ過ぎんだろ、マジで」
「数が多いな。あれ1体で防衛線が崩されかねない。Teth、リュカ、前衛に届く前に削りたいが……行けるか?」
「あぁ、任せとけ。こんな地形じゃあ狙いやすくって助かるぜ!」
ベネディクトの指揮のもと、Tethとリュカは魔物の群れへ狙いをつける。
斬撃と共にリュカの放った黒きオーラが雄牛と狼を纏めて地面に押し付ける。
そこへ迫る蒼き斬撃。
雄牛の肩を貫いて、背後に迫るもう1体の喉元を抉った。
「吹っ飛びな!」
Tethの展開したロケットランチャーが火を噴いて、雄牛たちを纏めて業火に飲み込んだ。
爆音、衝撃、土煙。
それを突き抜け、カラスが数羽、Tethの頭上へ飛来する。
投下されたカプセルが、ガチャンと音を立てて砕けた。
溢れ出す紫色の粉塵がTethの身体を包み込んだ。
Tethの身体に斑の痣が浮き上がる。じわじわと体力を削られ、溜まらず彼女は血を吐いた。
「こんなもの、前線に落とされたら大迷惑ですね。投下される前に倒さなきゃ」
夜闇に紛れて舞うカラスへ向け、パンジーは音波を放った。
増幅された鳴き声が空気を震わせ、カラスたちを地上へ落とす。しかし、そのうち1羽が、最後の力を振り絞り、パンジーの眼前へと到達。
力尽きるその寸前、足元へ毒カプセルを落としていった。
高台が粉塵に包まれた。
毒の煙に蝕まれ、パンジーとTethは大きなダメージを負っている。
一時、2人がカラスの対処へ回った隙を突くように、狼たちが跳びだした。
さらに雄牛が2体、その後に続く。
「数が多い……粉塵に紛れて魔物を追加して来たね」
まぁいいや。
まるで散歩にでも行くみたいに気安い調子で、きうりんは1人、前に出る。
「囮と足止めと時間稼ぎは得意だよ! 張り切っていこうか!」
「1人で大丈夫かよ? 敵のBSがきつそうなら言ってくれよな。ちょっとは力になれるぜ?」
「だーいじょぶ! なんなら私が全部せき止めてしまってもいいんでしょ?」
不安げなルージュにどこか不適な笑みを返して、きうりんは左右に腕を広げた。
まるで全てを受け入れる聖母のような仕草である。
そして、そんな彼女に誘われるようにして狼たちは通りの中央へと集まって来た。狼たちはきうりんを獲物と定めたのだ。
だが、しかし……。
「なるほど、狙いやすい……そのまま盾役をお願いしますね。前に出たらあっさりと私は落ちてしまいますし」
ひゅー、と気の抜けた音が鳴り、一条の魔弾が放たれた。
それは狼の眉間を穿ち、その生命を終わらせる。
右手に盾を、左手に誰かのリコーダーを構えたシフォリィは射程の長さを活かして次々、狼たちを討ち取っていく。
通路からはリュカが。
高台からはベネディクトが。
同時に放った斬撃が、雄牛の角を断ち斬った。
角を失い、額から血を流しながら、しかし雄牛は止まらない。
まっすぐに走れと、ウェンディゴの命令を受けているのだ。
「悪いが、通す訳にはいかない……退いてもらおうか!」
ごう、と熱波が渦巻いてシャルの構えた剣が炎に包まれた。
大上段から放つシャルの斬撃が、雄牛の脚を斬り飛ばす。
「っぐ!?」
突進に弾かれ、シャルの身体は後ろへ転がる。
身体を貫く衝撃により、骨が軋んで、内臓が痛む。
しかし、雄牛もバランスを崩しその場に倒れた。
勢いさえ殺してしまえば、雄牛はもはや脅威とならない。
その突進力が失われた今、雄牛は単なる的である。
「今だ! 頼む!」
転倒したまま、シャルは叫んだ。
彼の視界に映るのは、黒々とした夜空だけ。
仲間の姿は見えないが、それでも彼は確信していた。
自分の仲間は、この絶好の機会を逃すほどに愚かではないと。
「ここを通りたければ、おれを越えて行ってみせろよな!!」
滑るように雄牛へ迫ったルージュの手には、どこか禍々しい意匠の剣が一振り握られている。
一閃。
ルージュが剣を振るえば、剣より伸びた光の波が雄牛の喉を斬り裂いた。
ごぼ、と。
声に鳴らない悲鳴と共に血を吐きだして、雄牛は静かに息絶える。
紫煙が空へ立ち昇る。
洞窟の手前で煙草を吹かすハルコンは、通りの先へと視線を向けた。
積もった土砂で出来た壁の上に、鹿角を備えた男の姿。ウェンディゴは、暫く前からそうしてこちらの動きをじっと観察している。
「睨み合いが続くのは連中としても避けたいはずだが……襲ってこないな。何を狙ってやがるんだ?」
「読めないか? ハルコン。頼りにしているのだが」
そう問うたのはベネディクトだ。
睨み合いが始まってから数十分。敵の動きが無いことを訝しんだベネディクトは、ハルコンの見解を聞きに後衛へと下がって来ていた。
新しい煙草に火を着け、それを吸い尽くすまでの数分……ハルコンは無言のままに思案する。
煙草1本を吸い尽くし、思い出したようにハルコンは言った。
「野郎……順番を考えてるんだ。どういう順に魔物を放てば防衛線が崩壊するか……だとすると」
「……まずは空か?」
暗い空へ視線を向けて、ベネディクトはそう呟いた。
カラスの群れが飛来する。
その数は20に近いだろうか。
狙いは一目瞭然。脚に掴んだ毒入りカプセルを、通路や高台にばら撒くつもりだ。
「拠点の設営が完了するまでは、ここは通しません! なのです!」
「普段は強襲側なんだがな。たまには、防衛ってのも悪くねぇもんだ」
通路を挟んだ高台に、それぞれ配置したパンジーとTethはカラスへ向けてそれぞれの技を撃ち込んだ。
音波が、エネルギー弾が、次々とカラスを撃ち落とす。その度にカラスは毒入りのカプセルを投下し、2人の周辺はアッという間に紫の煙に包まれた。
「うっ……!?」
悲鳴をあげたのはパンジーだ。
頭上のカラスに狙いをつけたその隙に、胸部を魔弾で射貫かれた。血を吐き、よろめくパンジーの眼前にカラスが迫る。
「し、森林警備隊!?」
投下される毒入りカプセル。
【死亡】判定を受け、パンジーが落ちるその直前、彼女の視界には地上を進む数人の男と、2頭の雄牛の姿が映った。
2頭の雄牛が疾駆する。
その背後には、魔杖を構えた森林警備隊が続いた。雄牛の突進で道をこじ開けた隙に、拠点へ攻め込む心算か。
さらにその後ろからは狼や雄牛たちが続く。
カラスが減った分、余裕が出来たのだろう。ウェンディゴはここに来て、残る戦力を一気に戦場へ投入することを決めたようだ。
「よぉ。魔物をぞろそろ引き連れてのピクニックってのはどんな気分だ?」
後続目掛けて、Tethはロケット弾を撃ち込む。
轟音、衝撃、爆炎と通路はまさに地獄絵図。狼数体と雄牛が1頭、そして森林警備隊の1人が倒れた。
「……っ、ここまでか。すまねぇ、リスポーンしたらパンジーを連れてすぐに戻る!」
魔弾の掃射を一身に浴び、Tethは【死亡】した。
しかし、パンジーとTethの尽力によりカラスの群れはそのほとんどが倒されている。後衛へ2羽ほど抜けたが、そちらはハルコンとその部下に任せておけばいいだろう。
ならば、ときうりんは自身の役目を果たすべく雄牛の前に立ちはだかった。
突進をその身で受け止めた彼女は、しかし直後、驚愕に目を見開くことになる。
雄牛の影に隠れて2人、森林警備隊がきうりんの左右に現れたのだ。
構えた魔杖に閃光が灯り……。
「出張って来たなら好都合! 攻撃に巻き込んでやるぜ!」
「事情があるのだろうけど、少し過激すぎるのは頂けない、かな……きうりん、もう少し耐えてくれよ!」
2発の魔弾がきうりんの頭部と脇腹を撃ち抜いた。
それと同時、ルージュの放った閃光と、シャルの刺突が警備隊の胸を貫く。
「わ、わかった。けど、耐えられるっつったって痛くないわけじゃないんだからね!」
倒れかかる森林警備隊を押しのけながら、きうりんは叫ぶ。
その顔や身体からは、黒煙が立ち上っていた。
焼いたきうりは美味いのか。
ベネディクトとリュカへ術式の付与を終えたシフォリィは、ふとそんなことを考えた。
「これで良し。付与は私が居なくなってもしばらくは残ってくれます」
ぼんやりと光るリコーダーを手に、シフォリィは前線へと視線を向ける。
勇ましく怒声を響かせ、疾駆するリュカの後ろ姿が目についた。
そこに怯えや迷いはない。
荒々しき戦士は、ただ目の前の敵を斬り伏せるのみ。
「おぉっ!」
怒号が響く。
リュカは大きく剣を後ろへ振りかぶり、雄牛の顔面目掛けて叩きつけるように薙ぎ払う。
まずは一撃。
角が砕け、雄牛の鼻先に深い傷が刻まれた。
「相変わらず見事な腕前だ」
ベネディクトはそう呟いて、手にした剣を下段に構え一閃させる。
雄牛が倒れるまでもう少しだけ時間がかかるか。
砂埃の舞う中へ、シフォリィは視線を素早く走らせた。
「通路の端だ。敵が進行するなら、そういう場所を選ぶ」
背後からはハルコンの声。
その指示に従い、シフォリィは視線をさらに右へ。今まさに、前線を抜けた森林警備隊と視線があった。
「いた!」
森林警備隊の進行ルートを潰すべく、シフォリィは移動を開始。
警備隊の牽制をミラーシールドで弾き、その眼前へと回り込む。
●東の空に日が昇る
カラスは全滅。
森林警備隊4人も力尽きた。
狼はまだ幾らか残ってはいるが、ハルコンと部下が連携して狩っている。
残るは雄牛が4体と、それを操るウェンディゴだけ。
乱戦の中できうりんも【死亡】したらしく、その姿は見当たらない。
「よぉ、戻ったか」
戦線に復帰したTethとパンジーへ、そう声をかけたのはリュカだった。彼自身も傷を負っているが、もうしばらくは戦えそうだ。
「魔物と通じる者よ。何故この場所を狙う、それとも言葉は通じないのか」
剣を手にしたベネディクトは、遥か先に立つウェンディゴへ向けそう告げた。
こうして戦いは、最終局面を迎える。
雄牛たちを引き連れて、ウェンディゴは前へ、前へと進む。
パンジーの放つ音波を浴びて、ウェンディゴは大きく姿勢を崩す。
鼓膜を破られ、三半規管が麻痺したらしい。
だがウェンディゴは倒れない。
リュカの一撃を受け、雄牛が1頭、地に伏した。
それを横目に、ウェンディゴは前へ。
Tethのロケット弾は、雄牛を壁とすることで防御した。
粉塵に紛れ撃ち込まれたルージュの光線は、野性的な直観でもって回避する。
肉薄したシャルの剣を腕で受け止め、お返しとばかりにその顔面に拳を打ち込む。
1歩が重たい。
血を流し過ぎた。
意識が朦朧とし、魔物の制御が甘くなる。
問題ない。
最後に残った雄牛は、たった今、ベネディクトの手で斬り倒された。
仲間も、配下も失った。
けれど、ウェンディゴは歩みを止めない。
撤退を選ぶこともない。
国境の警備と、侵入者の排除。
それが彼と仲間たちに課せられた使命なのだから。
仲間や配下は命を賭して使命を果たさんと奮闘した。
その光景を、ウェンディゴは遥か後ろで見ていた。
彼らの戦いは、その雄姿は、しかと目に焼き付いている。
だからこそ、ウェンディゴは退くことが出来ない。
退きたくない、とそう言うべきか。
ここで退いてしまえば……仲間たちの死が無駄になってしまうような気がしたから。
「まだ……」
1歩。
腕の骨は砕けた。
1歩。
脇腹には深い裂傷。
1歩。
血に濡れた下半身の感覚は無い。
1歩。
思考が乱れ、息をする度に胸と喉が焼け付くようだ。
「まだだ。腕はあがらずとも、まだ……噛みついてでも、務めを……」
務めを果たす。
その為には、前へ進まなければならない。
だというのに……なぜ、地面がこんなに近いのだろう。
「……死ぬのが仕事みたいなとこあるけどさ。君たちはそうじゃないんだよ」
腹部にシャルの剣を受け。
眉間をTethの弾丸に射貫かれ。
倒れるウェンディゴの身体を、きうりんはそっと受け止めた。
最後まで戦い抜こうとした彼を、立ったまま逝かせてやりたかったから。
「……後悔は無い。後悔は無いのだ」
そう言って、ウェンディゴはきうりんの肩に喰らい付く。
それはあまりに弱々しいひと噛み。
きうりんの肩に、ほんの小さな噛み痕を残し……彼は息を引き取った。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした。
ウェンディゴおよび森林警備隊は全滅。
調査拠点は無事に設営されました。
依頼は成功となります。
この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
拠点設営が完了するまで、迷宮森林警備隊の襲撃を阻み続けること
●ターゲット
・ウェンディゴ×1
鹿角を備えた巨躯の男。
魔物に指示を出す能力を持つ。
非常に打たれ強く、勘が良い。
・迷宮森林警備隊×4
ウェンディゴを中心とした強襲部隊。
魔術による遠距離攻撃を得意とし、連携の取れた動きをする。
彼らの行使する魔術には【体勢不利】【呪縛】の効果が付与されている。
・魔物たち
ウェンディゴに使役される魔物たち。
同時に命令を出せる数に限りがあるようで、戦線には順次投入されることになる。
また、ウェンディゴの視界に収まる限り、彼らはウェンディゴから直接の指示を受け取ることができる。
内分けは以下の通り。
①狼型の魔物×40 俊敏かつ狂暴。【滂沱】を付与する牙や爪による攻撃を行う。
②牛型の魔物×10 成人男性2人分の横幅。雄々しい角を備えた牛で【ブレイク】【飛】を備えた突進を行う。
③カラス型の魔物×30 飛行能力を備えたカラス型の魔物。【猛毒】状態を与える毒薬カプセルを投下する。
●NPC
・ハルコン、および部下2名
調査隊のリーダーを務める男性。
各人、従軍経験があり戦闘力は高い。
それぞれ接近戦用の牛刀と、遠距離攻撃用のショートボウを所持している。
今回、彼ら3人の配置をイレギュラーズが指示することが出来る
●フィールド
月が明るいため、視界に問題は無い。
サクラメントの位置は拠点設営地点付近。
※【死亡】後、復帰までに100秒のロスタイムが発生する。
遺跡の中央付近から、遺跡の出口にかけて。
直線距離にしておよそ100メートルほど。
だいたい以下のような地形。
どこかのポイントに立ち、迷宮森林警備隊の襲撃を待ち構えることになる。
※通路の幅は狭く、横に並べる人数は2、3人が限度。
※高台。地上からおよそ20メートル。非常に狭く、人が並んで移動することは出来ない。
高台
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l
土砂壁l 通路 拠点設営予定地点
l
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高台
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
※重要な備考
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
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