PandoraPartyProject

シナリオ詳細

少女たちの目覚め

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

・少女たちは囁く

 人形の生産が盛んな国だった。数多くの職人が集い、美しく精巧な人形を作り上げる。フリルやリボンで飾られたそれらはまるで本物のようだ、と噂されている。欲しがる者があとを絶たない中で、とりわけ高名な人形師がいた。
 彼の作る少女たちは、それこそ生きている人のようだったのだ。肌の滑らかさや唇の柔らかさは人間と変わりがなく、今にも動き出しそうな雰囲気を醸し出していた。

 その少女たちは、誰の手に渡ることはなかったという。人形師の娘であり、コレクションである彼女たちは、「人間」にされようとしていたのだ。
 人形に魂を埋め込めば、人間のように言葉を話し、動き出す。一部の人形師の間で伝わっている、魔術の一種だ。彼はそれを、己が娘に施そうとしていたのだった。ところが彼は、人形に与える魂を捕らえた後に、命を落としてしまったという。

 今彼の工房に残されているのは、作られた人形たちと、一人ずつに与えられるはずだった魂。
 少女たちの身体は動かないまま。それでもなお、ある者は蔦に足を絡めとられ、ある者は手足にリボンを結ばれている。
 少女たちの魂は捕えられたまま。ふわふわと籠の中を漂うそれらは、事あるごとに言葉を囁く。

「ねえねえ、わたくしたちのご主人様はいなくなってしまったの」
「私たちに身体を頂戴な」
「魂だけで在るのは苦しいものなのです」
「ああ、わたしたちに身体を、身体を与えてくださらないかしら」

 月明りが差し込む部屋の中、小さな声が転がっていく。それらを拾う者は誰もおらず、動けない少女たちの身体はただ一点を見つめるばかりである。

 人形師の遺言は、彼女らに生を与える事。少女たちの願いは、人間らしくあること。
どうか、その願いが果たされますように。

・****

 境界図書館。その場所で境界案内人カストルは静かに微笑みを浮かべていた。

「お人形を、目覚めさせてあげてほしいんだ」

 やらなければならないことは一つ。少女の身体に魂を移すことだ。
 彼女ら誰か一人の魂を飲み込み、身体に触れて念じれば、魂を移すことができる。手を握る、抱きしめる等、方法は様々だ。どのような形であれ、気持ちさえあれば仕込まれた魔術は発動する。
 彼女たちを目覚めさせた後は、少しの間ではあるが、自由に時を過ごして良いという。少女たちと対話しても良いし、遊んでも良いとか。

 一つになるために作られた彼女たちの、不完全な姿。少女たちを在るべき形にすることで、そこにいる者たち、そしてそこにいた者の想いも救われることだろう。

NMコメント

 こんにちは。椿叶です。皆さまにとって良き物語になりますよう精一杯務めさせていただきますので、よろしくお願いいたします。

・目標
 今回の任務は、少女たちに魂を与えることです。一人につき一人ずつ、この儀式を行っていただきます。少女たちは工房に何人もいますので、好きな子を選んで魂を与えてください。
 目覚めた少女たちは、言葉を話したり動いたりします。連れて帰ることはできませんが、数十分ほどでしたら一緒に時間を過ごすこともできます。目覚めさせるだけでも構いませんし、しばらく遊んでいくのでも構いません。

・世界観
 人形の制作が盛んな場所です。一部では人間らしい人形を作る秘術が伝えられており、皆さまに行っていただく場所では、その儀式が途中まで行われています。

・特殊ルール
 儀式を行う際は、魂を飲み込んで、かつ人形の身体に触れてください。あとは念じれば魂が身体に宿ります。


・サンプルプレイング

 思っていたよりもずっと綺麗なのね、このお人形たち。本物みたいだわ。昔はお人形遊びもしたものだけど、懐かしいわね。あの頃は友達と――ああ、こんなことはいいの。
 さて、お人形ね。魂のことだけれど、わたしはこの子を選ぶわ。だってこの子、ずっと寂しそうな声をあげているんだもの。
 あなたの身体はどこなの? 教えてくれる? あの青い目の子? わかったわ。
 えっと、魂を飲み込んで。そうね、抱きしめてあげましょうか。寂しかった分を、埋められるように。


 プレイングには、キャラクターの行動と気持ち、それらの理由について記載してください。
 人形の特徴(見た目や性格など)について記載していただけました場合、それに沿ったお人形を描写いたします。記載がない場合は、こちらでお人形を用意いたします。

  • 少女たちの目覚め完了
  • NM名花籠しずく
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年10月01日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

回言 世界(p3p007315)
狂言回し
雨紅(p3p008287)
愛星
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者

リプレイ

・めでたしめでたし、のその後を

「人形に魂を宿す、ねぇ」

 薄暗い工房の中、『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)はひとつ呟いた。
 あの有名な話みたいじゃないか。人形が嘘でも吐いたら、その鼻を伸ばしてやったほうがいいだろうか。なんて冗談はこれくらいで。

 世界は工房をぐるりと見渡した。自分の人形を見つけるために。
 やることは至って単純なのだ。迷うことなんかない。人形だってさして選ぶ必要もないだろうが、折角の機会なのだから、不出来なものを選んでやりたかった。

 人形が並べられた棚の一番端。そこに、そっぽを向くようにして座っている少女がいた。その姿が拗ねているように見えて、思わず足を向けてしまう。

「それはあたしの身体よ!」

 途端、悲鳴にも似た叫び声が聞こえた。

「だめ! あたしはまだ完成していないの!」

 世界は一度、声のした籠と人形の背を交互に見つめた。行く先の迷った足の向きをずるりと変え、人形の方へと向かう。
 そろりと人形の身体を正面に向けると、その人形の塗装が不完全であることが分かった。なるほど、見せたがらないわけだ。

 この人形にしよう、と思った。手足に巻き付いたリボンを解き、籠に手を伸ばす。

 どうして、と戸惑うような声をあげた魂を取り出し、口に含む。喉に滑り込ませても、不思議と不快感はなかった。
 人形の身体にそっと触れ、口の中で言葉を紡ぐ。在るべき姿になるように、と。

 ぱちり、と人形が瞼を開け、ぷうと頬を膨らませた。

「一応お礼を言っておくわ。ありがとう」

 その短い一言が落ち着かなくて、世界は口をへの字に曲げた。大したことはしていないのに。お礼を言われるようなことなんて、していない。

「俺はもう帰るぞ、と言いたいところだが。そういえばあんた、世の中のことどれくらい知っているんだ?」

 他のやつらがゆっくりしていくんだろうから、一人だけ帰るのも空気が読めないみたいじゃないか。そう思い、人形の前に座り込む。

 目が醒めて、めでたしめでたし、で終わりではないのだ。動けるようになった彼女らにはこの先があって、自分たちの足で生きていかないといけないのだから。
 やらないといけないのは、知識や物、金の確認と、知識の訂正と、それから。

「ああ、塗装はきちんとやってもらえよ?」

 彼女にしてやることは、たくさんある。

「ありがとう、素敵なあなた」

 でも、お礼を期待してるわけじゃない。そうじゃなくて、魂が何処からきたものなのか教えてほしい。そう思い、世界は口を開いた。



・踊りをあなた様に

 人形たちに魂を与える。言葉に表してしまえば単純なのに、そこに自分を重ねているからか、心の中がふわふわとするような、不思議な感じがする。
 今回は逆の立場とはいえ、自分もまた、人に作られた存在だからだろうか。そう『刑天(
シンティエン)』雨紅(p3p008287)は小さく首を傾げた。

「身体を得たら『したいこと』がある魂はいらっしゃるでしょうか」

 私だからこそ、話せることがあるのかもしれません。そう思い、ゆっくりと声を響かせる。すると、少女たちの囁き声が大きくなったように聞こえた。

 食事やおしゃれ、歌。何だって構わなかった。全部受け入れて、精一杯微笑むつもりだ。
 心と身体がばらばらなままでは、できることなんて限られているだろう。だからこそ、何かを望む気持ちがあるのではないだろうか。
 そんな願いを持つものがいるとしたら、きっと自分はそれを分かってあげられる。何かに焦がれて手を伸ばす気持ちも、その手が空を掴む気持ちも、分かるような気がするから。

「ねえ、わたくしの手を取ってくださらない?」

 部屋の隅から、凛とした声が聞こえた。籠を持ち上げると、不思議とその魂に微笑まれたような気持ちになった。

 彼女に導かれるままに身体の元に向かい、目線を合わせるように膝をつく。魂をすくいあげ、ひと思いに飲み込んだ。

「あなた様は他の誰でもなく、自分自身が思うままに、この体を動かして良いのです」

 人形の拘束を解き、手を包み込むように握りこむ。そして、優しく微笑んだ。

「あなたの手、温かいわ。好きよ」

 人形は少女となり、確かにその唇を震わせていた。
 お互いの温かみを感じられるかなんて、分からない。だけどその言葉は、ゆっくりと胸に染みこんでいくようだった。

 挨拶を交わし、身体の不調がないか確認する。一つひとつの問いに彼女は頷き、微笑み、首を振った。そうして、こちらを安心させるかのように手を握り返してきた。

「これから、何をしたいですか」

 少女の瞳を見ていると、以前の自分を思い出す。踊りたいと心から思ったあの頃を。踊れるようになった喜びを。

「好きなことをできるのは、楽しい?」

 彼女の問いに、雨紅はしっかりと頷いた。

「わたくし、好きなことをつくりたいの。あなたの好きなこと、教えてくださらないかしら」

 思わず目を瞬かせる。
 温かい。そう口の中で呟き、雨紅は立ち上がった。目の前の少女に楽しんでもらえるように、と。



・きっと元気で、幸せに

 薄暗い工房。月明りに照らされて、ひとつの影が落ちる。ちゃんとうごけるようにがんばるから。小さな声とともに『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ( p3p008529)は前を向いた。

 少女たちの声に紛れて、鎖のこすれる音が響く。ころころと転がる笑い声が、不思議と鎖の上で跳ね返っているように感じられた。

 例え人形でも、魂があって、生きたいと思っているのなら、自分たちと何ら変わることはない。だからこそ、その一人に昔の面影を重ねた。

 人形の中でも、特に幼い少女だった。その娘は元の世界にいた「妹」によく似ていて、胸の奥がきゅっと締め付けられるようだ。ああ、あの子は、もういないのに。
 あの子は遠いところにいった。住むところも遠くなったから、もう二度と会えないと思っていたけれど、まさかこんなところで姿をみることができるなんて。

 自然と、人形に手が伸びていた。

 そして、身体が触れて気が付く。あの子とこの子は、別の存在だと。……いま見ないといけないのは、このこだよね。

「Uhhn……、うっかりかまないようにしないと」

 魂を見つけ出してきて、そっと口に含む。傷つけないように慎重にそれを飲み込み、人形の肩に触れた。

 どうしても、あの子と目の前の少女が重なってしまう。思い返すのは、昔のことばかりだ。
 外の世界を知らないまま死んでしまった子。幸せを知らないまま死んでしまった子。たくさん、たくさんいた。

 ああ、でも。目の前の少女は違う。

「君には、目をさましたあと、とおくに行って、たのしいこともうれしいことも、ぜんぶしってほしいなって」

 手足を縛るものなんて、簡単に解けてしまうのだから。
 そう思ったとき、少女の足に絡みついていた蔦がするりと落ちた。

「君は、もうなんでもできるよ」

 少女の光の宿った瞳を見た時、不思議と泣きたくなった。


 少女は随分と活発な子だった。自由になった途端、くるりくるりと工房を動き回る。乞われて一緒に遊びながら、リュコスはその様子を見守った。
 明るい笑顔を見ていると、切ないような、温かいようなそんな気持ちになる。ホゴシャみたい、と思わず目を細めて笑った。

 ぼくがみてなくても、だいじょうぶそう、かな。
 それじゃあ、げんきでね。しあわせになってね。



・貴方だけの未来が、どうか

 これはあくまで、この世界の話だ。だから彼らは「ワタシ」とは違う。
 少女たちの魂は、この儀式のために奪われてきた命ではないのだ。身体と一つになることが、自然な在り方なのだろう。
 それはつまり。誰かを模したわけでもなければ、誰かの代わりに作られたわけでもない、ということだ。

 胸のあたりが、少し痛い。羨ましいと思っているのだろうか。
 いや、と『白き不撓』グリーフ・ロス(p3p008615)は首を振った。この考えを忘れるために。

 他の人の様子や少女たちの様子を眺めていると、ふと視線を感じた。呼ばれているような気すらする。
 ぱち、と後ろで何かが小さく弾けたように思えて振り返ると、そこにいた魂と目があった。目なんてないはずなのに、不思議とそう感じられた。
 魂に目の高さを合わせ、ゆっくりと話しかける。

「私を呼んだのは、貴方ですか」
「ええ。あなたが私を探しているような気がして」

 ひょっとして、心が通じているのではないか。そんな予感がした。

 在るべき姿に戻るためとはいえ、一度別の入れものに入らないといけないのは、もしかすると怖いことなのかもしれない。だけど、自分は少女たちと同じ人形だ。この身体の中には、すでにひとつ魂がある。だからきっと、間違ってこの魂を縛ってしまうこともないだろう。

 よければ私を使ってください。そう伝えると、彼女はこちらを見透かしたように笑った。

「あなただからお願いしたいの」

 少女の身体はすぐに見つかった。教えられたわけでもなく、自然と足が向いたのだ。彼女と一緒にいる影響なのだろうか。
 きっと、この身体に還ることが自然で、あるべき姿なのだ。そう思ったら、尚更還してやれねばという気持ちが強くなった。

 少女の身体をそっと持ち上げると、手に結ばれていたレースがあっさりと解けた。
 左胸の核の前で、まるで赤子を寝かしつけるように、やさしく抱きしめる。

「さぁ、おかえりなさい……」

 目を開いた少女の手が、グリーフの頬に添えられる。まっすぐにこちらを見つめる瞳に、自分の瞳の色が映りこんで、きらりきらりと色を変えた。
 綺麗に輝くそれを見ていると、まだ彼女が自分の中にいるのだと、錯覚を起こしてしまいそうになる。だけど、彼女はもう、この胸の中にはいない。

「気分はどうですか?」

 その身体は、少女自身のものだ。大切にしてほしいと、心から思う。

 貴方だけの未来が、良いものでありますように。

成否

成功

状態異常

なし

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