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シナリオ詳細

<オンネリネン>パラティーシの浸食

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 独立都市アドラステイア。
 それは天義内に存在する、しかし天義より独立した存在であると誇示する都市――いや勢力か。天義より様々な事情で離脱した者達が寄り添いあい、『新たな神』とやらを創造し心棒する……そんな彼らの特徴としては構成員がほとんど『子供』であるという事だろう。
 彼らは良くも悪くも純粋な者が多い。だからこそ――利用されている。
 数少ない大人たちの甘言に踊らされ、奴らこそが間違っているのだと唆され。
「さぁ――もうすぐだよ。もうすぐ港だよ!」
 そして。その子供らが闇夜に紛れて行動している。
 人目を忍ぶように。汚れた正義になど見つかってたまるかというように。
「いいね? マザー・カチヤの言う通り、私達は海洋の方へ行く」
「分かってるよハミル。で、途中で船を占拠するんだろ?」
 同時……彼らは歩みを止めずに会話を。それは今後の『計画』についてだ。
 彼らはその懐に武器を携えている。見えぬ様に、ローブの下に隠しながら。
 ――目的は『外』だ。天義という国の外に、彼らは往くつもりなのである。
 しかし勿論只の旅行などという意味ではない。
 それは『上』から指示され、その意図を果たす為に――だ。それは。

「うん、海洋からの依頼でね。薄汚い商人の船を強奪して……依頼主の下へ送り届けるんだ」

 一言で言うならば『強盗』の類である。
 ……この子供たちは只の子供ではない。彼らはアドラステイアにより教育され、戦闘能力を身につけた傭兵が如き子供達――傭兵部隊『オンネリオン』の一員である。
 彼らの目的は『外貨を稼ぐ』事。
 マザー・カチヤという指導者……アドラステイアの幹部の一人と目される人物により派遣される分隊の一つ。天義では騎士団が邪魔をしてくるだろうが、しかし外国であれば派手に暴れても問題ない――とでも思ったのだろうか。
 いずれにせよ彼らはそれぞれの指令の下に各地で行動しようとしている。
 そして――ハミルと呼ばれた少女が率いるここの者達は、海洋の船を襲撃せんとしているのだ。
 『薄汚い商人が集めた金を、清浄なる者の下へ――』
 そんな事を言っていたが実際はどうか。船を襲撃し、乗組員を殺害し、貨物を全て持ってこいなど……碌な依頼だとは思えない、が。彼らはそんな事疑問にも思わない。
 ――そういう風に教育されているのだから。
「ベン、ミッター。先走らないようにね? 港で騒ぎを起こしたら警備兵がすっ飛んでくるから」
「分かってるよハミル! だから、ある程度海に出てから行動するんだろ?」
「ああ――乗組員は全員殺して。抵抗するのも、ね」
 そして彼らは最終確認をする。マザーの為に、この計画を成功させる為に。
「よし、見えてきた……行こう! ここからは特に慎重に行動してね……!」
 港街の中へと踏み込んでいく。
 その目は狂う程に濁った光だけが宿っていた。
 アドラステイアという密閉空間により育まれた――歪な光であった。


「――オンネリオン、という傭兵部隊を知っているかな。
 彼らはアドラステイアで設立された……子供だけの部隊でね」
 同時刻。天義の港町『アイヘンリッツ』に集ったイレギュラーズ達に語り掛けるのはギルオス・ホリス(p3n000044)だ。傭兵部隊オンネリオンが妙な動きを見せている――と。アドラステイアがどうにもかなり乱暴な手段を行使しようとしているらしい。
 オンネリオンという子供だけの傭兵部隊を用いて。
 幻想や鉄帝などなど……各国に人を派遣し『金を稼ぎ』に行かせているのだとか。
「全く胸糞悪い話だ。
 ……ま、ともかくね。実はこの街の商人から依頼があった。
 なんでもオンネリオンが狙っている『船』があるらしい」
 そしてイレギュラーズ達にはその船を守護してほしいのだと。
 実は先日も海洋と取引のある船が、密航していた謎の人物たちによって襲撃を受けたらしい。内部に潜み、ある程度外洋に出たところで一斉に刃を向けてきたらしく……助けは間に合わなかったのだとか。
 ――そしてどこからの筋か、またオンネリオンが同じことを狙っているという。
 二度も三度も同じことをさせる訳にはいかない。
 しかし半端なものでは返り討ちにあってしまうかもしれないと……
「ローレットに依頼が来た、という訳さ。護衛の船は大型と中型の間ぐらいかな……食料とか日用品をたっぷりと積んだ船が今夜出向する予定があるらしい。それが無事に海洋に着くまで護衛してほしいのだってさ」
「ふむ……その、襲撃者達ってのは子供なんだろ? 殺すのか? 捕らえるのか?」
「それは任されている。ただし捕らえる場合でも戦闘力は確実に奪ってほしいそうだ」
 厳重に捕縛しろ、という事か。
 まぁアドラステイアの者達はどうあれ狂信の領域にある。一部にはある程度マトモな者もいるかもしれないが……少しでも抵抗の余地があらば最後まで死力を尽くしてくる可能性もあるのだ。厳重に捕縛しろというのもその通りではあろう。
 ともあれ。既に船に忍び込んでいるかもしれないし、海の方から接近し来るかもしれない。
 捜索・或いはしっかりとした警備が必要になるだろう――
「……今日は曇り模様、か」
 一人が空を見上げる。そこには月明りが何度となく隠される雲で一杯であった。
 闇夜の中に潜む子供達。さて果たしてどのように対処したものだろうか……

GMコメント

●依頼達成条件
 『オンネリオン』の子供達の全ての撃破・撃退・捕縛。
 いずれかを達成してください。

●フィールド
 海洋方面に出向く船『テルウイング』内です。
 そこそこ大型の船で、食料や日用品などがたっぷりと船内にはあります。
 船の出向予定が迫っていますので、事前にしっかりと内部を調べる余裕はないでしょう……出港後、どのぐらいのタイミングでオンネリオンが動き出すかは不明です。

 内部は様々な部屋がありますが、いずれも荷物で一杯です。
 つまり隠れられそうな場所も結構多い事でしょう……探索系の非戦スキルなどがあると役立つかもしれません。

 また、船内には船を動かしている船員などもいます。基本的には彼らはオンネリオンを警戒して無暗に行動などはしません。多くの者は船を操る艦橋に集っているようです。なお、彼らの生死自体は成否に関係ありません。

●敵戦力『オンネリオン』の子供達×10名~
 傭兵部隊『オンネリオン』とは子供だけで構成される集団です。
 アドラステイアの尖兵として様々な行動をしています。

 彼らは内部に既に侵入しているか、或いは何かしら(小型の船などを用いて)急速に接近してくるかの可能性が考えられます。外にも内にも警戒が必要でしょう。
 子供ながらその戦闘力はアドラステイアの教育により大人レベルにあります。大半は剣やナイフなどを用いての接近戦タイプが多いですが、一部には治癒魔法などを用いて味方の援護や遠距離戦を得意とする者も混じっています。

 リーダーとして『ハミル』という少女がいます。
 槍を用いて、近~中距離戦を得意としている様です。一番戦闘力が高いようで、同時に周囲の者を鼓舞したりもします。彼女がこのオンネリオンを統括し、そして支えている事でしょう。

 彼らはアドラステイアの在り方を信じており、説得などに耳を貸す可能性は低いです。(ゼロではないかもしれませんが)このまま放置していれば彼らは海洋方面へと進出してしまう事でしょう……とにかく鎮圧してください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <オンネリネン>パラティーシの浸食完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
クシュリオーネ・メーベルナッハ(p3p008256)
血風妃
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
オライオン(p3p009186)
最果にて、報われたのだ
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼

リプレイ


「……例え今は成功していても。海賊行為も被害が重なれば、何れ軍が本格的に動くことにもなるでしょう。もしそうなれば、子供達は……」
 縛り首か、或いは戦闘の最中に海戦の大砲で吹き飛ばされるか……
 碌な結末でありはしないと『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)は確信していた。斯様な未来を防ぐためにも――彼女が目を向けるのは外。襲撃者あらば即応できるように。
 暗きを見据える目によって、何者かがいないか常に視線を巡らせている。
「船内に多数の人間が潜めるとは思えない。内部に侵入する人間が多い程、まずもって見つかってしまうものだ……だから、きっと船内と外から小型船で来る者の二手に別れている筈」
「勢力の拡大か、或いは行き詰まりの証か。いずれにせよ、放ってはおけませんね――
 来るならばそろそろかと思いますが……」
 そしてアッシュと同様に船外の注意を行っているのは『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)と『血風妃』クシュリオーネ・メーベルナッハ(p3p008256)もだ。クシュリオーネもまた、遠くまで見据える目と、暗闇であろうとも問題なき力を宿している。
 それによって遠くまで見据えるのだ――
 Я・E・Dは音も逃さない。聞き耳を立てて不審な音がないかと……
 奇襲を挫くにはまずもってこちらが先制する事が重要。だから、アッシュは内部を探索している者達ともすぐに連絡が取れる様にファミリアーを用いて合図をいつでも出せる様に。
「子供達を兵士に……か。戦いに参加するのに年は関係ないかもしれないが、しかしアドラステイアの子供たちは騙され、その尖兵とされている……あまり面白い話ではないな」
 さすれば出発した船の中。『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は早速探索しながら言葉を呟いていた。ゼフィラ自身、人死にが起きうる依頼に自分の都合で参加するような人間だ――だから、人様に文句を言えるような立場でないと思っている。
 けれどだからと言って、利用されている子供達を見て何も感じない人間でもないのだ。
「可能であれば出来る限り殺さずに捕らえたい所だ――」
「……彼らを枷から解放しましょう。所詮彼らは大人達にとって使い捨ての駒…このまま見過ごす訳にはいきません。放置していれば、彼らの行く末は……一つでしょう。」
「そうだね……アドラステイア。これ以上、身勝手な人達の好きにさせたりはしないよ」
 その言葉に反応するように。同時に船内の探索に努めているのは『活人剣』ルーキス・ファウン(p3p008870)と『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)である。
 スティアの横。見えた窓から見据えた先は、丁度天義の――特にアドラステイアがある方角だっただろうか――
 許せない。無垢なる子供達を洗脳し、操り、人殺しも厭わぬ兵士にさせるとは。
 ――必ず子供たちの行いは止めてみせる。
 奥歯を噛みしめ――往く。ゼフィラは船内の地図を思い起こし、攻めるならばどこに潜んでいるだろうかと戦略的な視点から考え、スティアは温度に変わった所がないか……つまり人の体温が潜んでいないかと視線を巡らせるものだ。そしてルーキスは優れし耳と壁を透過する術によって捜索を開始。
「潜むならば死角にいるものですからね、こういうのは」
 隅々まで探そう。透視する眼があらば、多少の壁は見据える事が出来るから。
「精霊さんがいれば、後はその子達にも手伝ってもらおうかな。うん」
「それにしても船上での戦闘か……船外、船内双方からの襲撃に警戒せねばなるまい。
 特にどこに隠れていると確定している訳でもなければ、尚更な」
 同時に協力してくれそうな精霊が近くにいないかとスティアは探して、『元神父』オライオン(p3p009186)は一度上を、甲板がある方向を見据えるものだ。向こうは向こうで軽快しているメンバーがいるが、さてどこに子供達はいるものやら、と。
 部屋の一つの扉を開けて中を捜索。
 わざとドアを開け閉めする音を大きくしたりもするものだ――
 それによって潜む者がいないか――注意深く観察する。反響する音に扉以外の音が混ざらないか。ファミリアーによる使役によってドアの開閉のタイミングをズラしたり、と。
「それにしても洋上で船を襲う計画とは……確かにこんな所は逃げ道のない、いわば密室。
 子供ながらも相手は中々の策士がいるようだね」
 そして『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)は子供達の行動に警戒する。或いは唆した大人がいるか分からないが……大人の姿が見えない以上、少なくとも子供達にも現地で判断する脳はある筈だ、と。
 故に――思考する。
 全員中にいるのだろうか、と。船に混乱を巻き起こすならば外と内から攻撃するのが予想されるのでは……と。では内部の者達が行動する起点は――? もし船外の襲撃が合図だったりしたら。
「逆に誘き出せるかもしれないね! ――よし!」
 では、と。彼女は往く。
 事前に考えていた事を成す為に。
 こうもあろうかと彼女は船員と接触していた。そして彼らの声を借りて――

『敵襲、敵襲だ! 総員、甲板に上がれ! 繰り返す、敵襲だ!』

 大声で。張り裂ける程に大きな声で――誰しもに届く様に響かせた。


「――動揺が走っているな。向こうだ。向こうの部屋で妙な音が響いているぞ」
 そして、アリアの声に伴って――オライオンは察知した。周囲の反響音を捉えるエコロケーションで、だ。
 予定よりも明らかに早い襲撃……もしも冷静であれば或いは経験豊かな者であればこれが偽情報だと見破ったかもしれない、が。此処にいるのは子供達ばかりという状況であり。
「見つけた。悪いが少し眠っていてもらうよ――大丈夫。目が覚めた時には終わっている」
「う、うわぁ! なんだこいつ、ぐぁ!!」
 その間隙を突いてゼフィラが踏み込んだ。
 見えたのは二人の子供――放つ光が彼らの眼を塞ぎ、衝撃を与えて。更にオライオンもまた重ねて光を放つように。であれば。
「く、くそ! 全員武器を取れ! 大人達を殺すんだ!」
「神の為に! 行くぞッ――!」
 他に潜んでいた子供達も見つかった事に気付き一斉に刃を構えるものだ。
 その言には狂気が大なり小なり含まれている。
 子供が簡単に誰かを殺す、などという言葉を用いるなんて……
「……君たちはずっと、ずっとそう教え込まれてきてるんだね」
 スティアは呟く――彼らの悲しき道のりを、想って。
 彼らはソレが正しいと信じている。いやそれ以外に正しいモノが無いと思っている。
 やはり止めねばならない。必ず、ここで!
 瞬間。魔力を旋律に変えて神の福音を鳴らす。それは彼らの脳裏に響き渡る一音――
 その音に魅入られし者は、術者から目を逸らせなくなる。
「どうして貴方達はこんなことに手を貸すの? 何か目的があってこんなことをしているの? それとも――誰かに言われた事を、ただやっているだけなのかな?」
「な、なにぃ……!?」
「もし誰かの為にって考えているのなら一度考えてみてほしいな」
 故に。その狭間にスティアは彼らの眼を捉えながら――話しかける。
 この行いが正しいのか否かを。君たち自身がどう考えているのかを。
 彼らより向けられる刃を捌きながら――逃げも隠れもせずに。
「大人達の戯言に耳を貸すな! ティーチャー達が言ってただろ、外の連中は悪魔のささやきをしてくるって!」
 が、その時。子供達の統制を取り戻すかのような声が響き渡る――
 それはこの集団のリーダーたるハミルという少女だ。
 彼女は高らかに唱える。アドラステイアの素晴らしさと、外の卑劣さを。
「これは奴らの罠だ! 耳を塞げ! 神にだけ目を向けろ――突撃ィ!!」
「向かってくるつもりなんだね。そう……まぁこの状況じゃあ、とにかく強い言葉をもって皆の制御をするのが先決だろうけど、さ」
 けれど、そっちが向かってくるのならば容赦はしないと――アリアは魔力を収束させ。
「ちょっとは怪我をするかもしれないけれど、覚悟の上って事だよね!」
 往く。紡ぐ呪詛の歌が、まるで紅蓮の蛇の様に彼らに絡みつき。
 その一瞬に踏み込んで――神秘の破壊たる権化の一撃を、懐に。
 穿つ。絶対なる一撃をもって制圧せんが如く。向かって来た子供の一人を吹き飛ばしながら。
「諦めなさい。そもそも船を奪って何をする気ですか?
 まさか、海の果てを超えて新天地にでも向かおうと?
 新たなる大地を求めるつもりですか?」
「神のお言葉が届かない辺境なんて興味はない……! ただ、汚い金を正しい事に使う為にこの船が必要なんだ! 邪魔をするなよッ――!」
 それでも尚に子供達の闘志は減衰しない――これが『神』を理由に戦う者達が故なのだろうかとルーキスは思考しながらも、更なる探りを入れて行こう。もしも彼らの行いが外洋進出にあるならば……カムイグラも危険な所であるから。
 しかし少なくともこの子供たちは――そこまで広いビジョンを持っている訳ではないようだ。彼らの指導者らから言われた事だけを実行する、ただそれだけの……
「ぐぁ!!」
 やはり殺す必要もない事を再認識するものだ。だから、ルーキスはオンネリネンの子の顎を打つ様に武器を振るい、その意識を刈り取っていく。
「自分達を殺す気が無いのかって? 笑止。殺しだけが戦いにあらず……『人を活かす』戦い方もあるという事を教えて差し上げましょう」
 名乗り上げ、不敵な笑みを携えながら――彼らの注意をも引いていくものだ。
 敵の数の方が多い、が。子供であるという事や、アリアの一声によって彼らのタイミングをズラしたことが優勢に繋がっていた。また、各部屋の探索をもしっかりと行っていた事から『この部屋にはいない』という事で、背後を気にする必要がない事も心理的に楽になっていたと言えるだろう。
 背後を取られない。それだけで前面に集中する事が出来るのだから。
 そして――
「く、くそ! なんだ、既に始まってるのか!? ハミルはどうしてもう始めたんだ!?」
 船外。急速に接近する小型船が二つあった。
 右と左から接近してくるそれはオンネリネンの別動隊……彼らの元々の作戦は、左右から接近する船に注意を向けた上で内部蜂起し、一気に艦橋を制圧する事にあった――しかしその前提は既に崩れ去ってしまっていたのである。
「……さぁ。では参りましょうか。やはり念に念を押していた甲斐がありましたね。
 ほら――一隻ではなかったでしょう?」
 と同時。甲板上から振舞われるは――雷撃だ。
 蛇の様に波打つ一撃が左舷より迫っていた船に振舞われる。それは、アッシュだ。
 例え船倉が吹き飛んだとしても海面から目を離さないつもりであった彼女の眼に、オンネリネンの船が逃れる事はできなかったのだ。一応、ファミリアー越しに内部の人間に連絡を入れておこうかと思考して、接近前に第二の雷撃を浴びせておこう。
 先制攻撃をもってして彼らの士気を挫く。
 更にЯ・E・Dもその一撃に続く様に。
「船の海戦で大切なのは大砲だからね。悪いけど好き勝手はさせないよ?」
 収束させし強大な魔力が右舷側の船に向く――それは我が身さえも顧みずに魔力を収束させる、砲撃の一種。光が集まり、一個の球体となりて。破裂せんばかりの気配にまで昇華したその時に――放つ。
 海を分かつように。帆を撃滅し、柱を叩き折ろう。
「こっちの船が進んでる限り、向こうが進めなくなったら――もう追いつける手段もないしね」
「念のため。何らかの手段で登ってこられても困りますし……追撃しておきましょうか」
 直後、クシュリオーネが指を差す。船の在りし方角に、そして弄ぶ様に指を振れば――
 生じるはまるで雨の如き魔力の奔流。
 鋼の驟雨は敵を決して逃がさない――船にいる人員を纏めて穿ちて。
「さて、こんな所でしょうか。船に乗っているのは……片方五人ずつ程度?
 恐らく本隊ではありませんね。中の援軍にいけば、決着はつくかもしれません」
 さすればアッシュが見据えるものだ。ボロボロになりつつある、敵の船を。
 ……仕組まれ、強いられて戦場に駆り出される子供達。
 そんな姿に、シンパシーを感じる所もあるのだが。
「く、くそう卑劣な大人め!! 地獄に落ちろ――!!」
「……あなた方は、そうは思っていないのでしょうね」
 船の上から罵倒を浴びせる彼らに少しだけ目線を向けて。
 事態の解決の為に――今度は船の内部へと、意識を向けるのであった。


 外の船がやられた――? まさか――
 ハミルは既に嫌な予感がしていた。外から援軍はこないかもしれない……
「それでも……神の為に、戦うんだ!」
 だけれども、退けない。
 だってどこにもいけないんだ。彼らは、子供達は。
 だからハミルは必死に皆を鼓舞して――イレギュラーズを排さんとする。
 自らも自慢の槍を振るいて、必死に戦場に穴を穿たんとして。
「君たちが信じる教えを否定する資格は持っていないけれど……見過ごすのも気がひけるのでね。邪魔させてもらうよ。これがきっと、君たちの為にもなるだろうさ」
「殺すつもりはありませんが――これ以上抵抗するなら、少し痛い目にはあってもらいましょう」
 それでも、ゼフィラもルーキスも崩れない。
 そればかりか半包囲の態勢を築かれ、殲滅されかねん勢いだ――まぁ殲滅とは言っても、昏倒させたオンネリネンはルーキスらがロープなどで捕縛している為、殺している訳はないが。
「――お前達は何に魅入られここに立つ」
 瞬間。子供の一人を相手取りながら言葉を紡いだのは、オライオンだ。
「説得などではない、ただ気になっただけだ。何に信仰し、何に希望を持つのか……その瞳に映っているのは、果たして本当の神なのか」
「なにを――神を否定するのか!」
「……盲目だな。その瞳には何も映っていない、それにお前たちは――気付いていない」
 数度の会話。その果てにオライオンは確信する。
 彼らは――知らぬ者らなのだと。
 神を信じているようで、ただただ世界が見えていない者達……
「止めさせてもらうぞ。
 神の下僕であったのは俺も同じ、信じることを捨てた外道がお前達を阻むのだ」
 ならばある意味信仰の先達として、己が止めよう。
 激しき掌底の一撃を彼らの懐へ。吹き飛ばし、距離を詰めて――また一人。
「うーん、貴方達を殺す気は無いよ。
 けど、これ以上悪さをされても困るから色々と教えてね。
 ……あっ。勿論抵抗されると困るからロープで縛ったままだけど」
「命は取りません――しかし、あの国に。アドラステイアにそのまま帰す事もしません」
 そして。甲板上より至ったЯ・E・Dとアッシュもあらば。
 ハミルが如何に奮戦しようとも――イレギュラーズの優勢はもはや崩れなかった。
 全て捕縛する。そして、もっとマシな場所に帰すのだとアッシュは紡ぎながら。
「とはいえ……絶対に殺さない、殺されないなどと思わないでくださいね。
 ――殺意を持って至るのなら、こちらも殺意をもって応答します」
 同時。クシュリオーネは――全力の一撃を『敵』へと叩き込んだ。

「聖騎士気取りの薄汚い盗人に似合いの末路へ、ご案内しますよ?」

 捕縛できる者は捕縛する。けれど無理には行わない。
 本当に。殺すつもりの意志を伴いて――
「さぁ。もうお仲間は来ないみたいだよ。そろそろ諦めたらどうかな!」
「くっ! だ、誰がッ――!」 
 直後。アリアが遂にハミルへと肉薄する。
 彼女の放つ槍の一閃――掻い潜り、ハミルの腹部へと手を添えて。
 魔力一撃。討滅絶対。
「君たちの策は全てこっちが看破してたんだよ――悪いね。搦め手合戦はこっちが上」
 吹き飛ばされるハミル。壁にぶつかり、吐血して。
 それでも神の信仰が故にこそ立ち上がらん――とするが。
「もう止めなよ。こんなことを繰り返しても……悲しむ人が増えるだけなんだ!」
 スティアが一喝する。
 どうして続けるのだ――どうしてそう盲目であり続けるのだ――
 大人にそう教えられたからか。でも、違う。君たちは君たち自身の心を開くべきなんだ。「今は、眠って。きっといつか悪い夢だったと――気付く時が来るから」
「――――」
 直後、最後までオンネリオンの戦線を支えんとしたハミルの身が――崩れる。
 気絶しているのか。彼女が倒れ、他の面々ももう戦う力がなければ……これまでか。
「……この子達は、どこか預けられる場所を探したいな。アドラステイアにまた戻られても困るから――引き取り手はしっかりと探す必要がありそうだが……」
「一応、残党がいないか確認しますね。一人でも残っていたら大変ですし」
 であれば、ゼフィラが今後の事に思考を巡らせ。
 同時にルーキスが他にまだ隠れている者がいないか、周囲を見据えるものだ。
 ともあれこれで……少なくともこの場のオンネリネンの狙いは粉砕した。
 また一つ――子供たちが罪を犯す前に救えたと思うべきなのだろうか。

「救いとは……死であって良い筈がないのだよ」

 瞬間。オライオンは気絶している子供達へと紡ぎ、フードを目深にかぶり直す。
 ――彼がその瞳に見えたのは如何なる世界か。
 己が過去か。それとも間違ったままに進む彼らの未来だったか――さて。

成否

成功

MVP

アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 オンネリネンの活動を阻む事に成功しました。もしも皆さんがいなければ、きっとこの船の船員たちは皆殺しにされた挙句、全てを奪取されてしまっていたことでしょう……

 ありがとうございました。

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