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シナリオ詳細

<オンネリネン>餓狼伯と兎の来訪者

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●超えちゃならない一線
「……何の用だ、シルヴァンスの小僧っ子めが」
「そうカリカリすんなよ、『餓狼』ってのは人の心にも飢えてんのかい?」
 イレギュラーズは今、『金狼』ヴォルフ・アヒム・ローゼンイスタフ――ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)の父である――と、ノーザンキングス、シルヴァンス部隊『白兎』部隊長であるヴァイス・ブランデホトとの会談という、傍目に見ても信じがたい状況に立ち会っていた。
 申し出たのはヴァイスの方であり、ヴォルフにはつまらぬ話だと切って捨てる選択肢もあったはずだ。
 だが、こうして顔を突き合わせている。それは翻って、ヴォルフという男の器の広さと、ヴィーザル地方に於いて狡猾に、しかし厳粛に立ち回ってきた軍人としての采配の巧みさを感じさせる。
「貴様ら『ノーザンキングス』が決して一枚岩ではないことは知っている。だが、こうして的である私を頼るなど恥を覚えぬのか? それも、『ローレットを立会人にする』などという条件付きではな」
「別に、俺はアンタ達鉄帝本国とドンパチやってるだけで解決するとは思ってねえよ。どっかの頭固い連中が自治権くれねえし排除しにくるから抵抗してるだけだ。……だからって関係ねえ連中から奪ったり、本国寄りの連中を人質に取るクソみてえなやりかたを許せるかってえと別問題だがな。今回もそういう件だ……そこの嬢ちゃん、『餓狼』の娘だろ? 『オンネリネン』って知ってるか?」
 唐突に水を向けられたベルフラウは、暫し逡巡してから「ええと」、と記憶を掘り起こす。自分は直接関わりがないはずだが、話は聞いたことがあると。
「確か……アドラステイアの傭兵部隊だと聞いた覚えがある。ファルベライズ遺跡の一件に介入した、いや、売り込んできたんだったのだったか……?」
「ガキ共の傭兵としか聞いてなかったが、天義(おとなり)の厄介者共ってか。面倒くさいことだぜ」
 ベルフラウの回答に頷いてから、ヴァイスは深い溜息をついた。つまり、オンネリネンを率いたノーザンキングスが何かをやらかそうとしている……そういうことなのだろう。
「なんでも、ノルダインのクソ野郎がそのガキ共を率いて、冬をまえになけなしの食料を求めて海に出た漁師共を潰して、漁村も略奪して回ってるんだとよ。俺達シルヴァンスからすれば、後が無くなる奪い方は利口だとは思わねえ。『今後』の為にも先細りする手口はただつまらねえだけなんだよ」
「フン、我々との争いにかまけているだけの三下かと思ったが、少しは頭が回る連中も居るということか。ヴィーザルは我等の地だ、そこを荒らすのなら誰であろうと捨て置けん」
 『我等の地』のあたりでヴァイスが顔をしかめたが、話を遮る気はないのかすぐに表情を押し隠し、イレギュラーズに視線を向けた。
「そういうワケだ。略奪もだけど、ガキを使い走りにしてふんぞり返ってるクソをほっとくわけにも行かねえ。あ、ガキをどうするかは俺は知らねえ。殺すなりで勝手にするんだな」
「こちらとしても、他国の子供を敢えて引き取る義理もない。邪魔であれば海に沈めてしまえ」
 ヴァイスとヴォルフはともにそこだけ見解が一致し、互いを苦虫を噛み潰した目で睨み合った。……少なくとも、ヴァイスは共闘するらしい。

●仲良し仲間は海へいく
「見えてきたよ、テッド君! あれを沈めればいいんだよね?」
「そうだよ、でも、1人は生かしておこうね。どこから来たのか聞いておかないと」
「別に聞かなくてもいーじゃん? 全部襲うんだろ?」
「もーっ、ヴィー君はちょっと乱暴すぎるよ!」
 少年少女は己の身と同じかそれ以上のサイズの武器を手にし、不釣り合いなヘルムを揃いで被り、船上で虎視眈々と次の獲物を狙っていた。
 テッド、そしてヴィーと呼ばれた2人の少年はそれぞれ15歳と14歳と年長者で、しっかりしているが抜けたところのあるテッド、スレているが抜け目ないヴィーとの役割分担ができている。
 男女比であれば3:7といったところ。少女達は2人の少年に憧れているが、それ以外の『きょうだい』達に対しても強い絆を覚えている。
「気合入ってるじゃねえか。今日も頼むぜガキ共」
「うるさい。僕達は雇われてやってるだけだ。勝手にやらせてもらうよ」
「おお、おっかねえ。流石に俺の部下を皆殺しにして雇えなんて言ってきた連中は違うねぇ」
 ノルダインの『元』部隊長である『白椋』ゼガンは憎むでもなくそう返し、近付いてくる船を見た。皆殺しにされた連中のことは、オンネリネンの子供達の優秀さとそれに伴うアガリの増加ですっかり顔も忘れてしまった。こいつらの方が扱いやすいなら、それでいいと思っている。
「待って! あの船……漁船じゃないよ! イレギュラーズが乗ってる!」
「皆を殺した敵!? なんとしても沈めないと!」
 物思いに耽るゼガンの思考を、突如として興奮し始めた少年少女の声が断ち切る。どうやら、自分達狙いのようで……彼等も、倒す気でいるらしい。厄介な話になったが、邪魔をされてはたまらない。
「勝手にしな。こっちの邪魔するなら、捻り潰すまでだ」

GMコメント

 ヴォルフ卿も混沌のヴァイス君も大体10ヶ月ぶりくらいの再登場なのでした。

●成功条件
・オンネリネンの子供達の無力化(全滅、または一部捕縛でも可)
・『白椋』ゼガンの討伐

●オンネリネンの子供達×15
 特に実力のある『テッド』(大剣、命中そこそこで攻撃力高め。大味な攻撃が多い)と『ヴィー』(命中精度の高い大口径2丁拳銃によるEXA高めの攻撃)を中心とし、術士数名を含む面々です。
 ノルダインと同行しているためかあらっぽい気性に染まっており、さらにイレギュラーズを強く敵視しているため戦意旺盛です。
 ただ、不殺などで行動不能になった仲間を敢えて殺すなどはしません。大事な仲間だからです。巻き込まれて死ぬ、は有り得ますが……。
 全体的に戦闘能力は低くないですし、数が数なので十分に警戒が必要でしょう。

●『白椋』ゼガン
 ノルダインのいち部隊を率いていた男。こいつが殺されていないのは依頼主として売り込むため半分、『殺せなかった』こと半分。それだけの実力者です。
 武器はハルバード、肉弾戦も得意です。武器の大きさ的にレンジ1(近距離)まではカバーしてきますし、全体強化も使ってきます。

●友軍:『白兎』ヴァイス・ブランデホト
 銃器の扱いに長けたシルヴァンスの青年です。
 距離をとらせて狙撃に回すとか、効果的な運用は幾つかあります。敢えて飛び込んでくる蛮勇ではありませんので、うまく運用しましょう。

●船上戦
 今回は特にプレイング等になければ「借りた漁船に9(メンバー+ヴァイス)人で乗り込んでの戦闘になります。
 敵船に乗り込むか、相手を誘い込むかは自由ですが、ゼガンは基本船を移動しません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <オンネリネン>餓狼伯と兎の来訪者完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月08日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
柊木 涼花(p3p010038)
絆音、戦場揺らす

リプレイ


(子供不殺派が優勢、か。それなら『仕方ない』)
 『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)は深く息を吐くと、現状を思考の中で再整理する。アドラステイアから派遣された『オンネリネンの子供達』、要は傭兵の撃退と雇い主の打倒。子供の生死は依頼に含まれてはいないが、死なせずに連れ帰る意向が大局を占めているのもまた事実だ。
「……酷い話よね、子供なのにあんな風になってしまって」
「……世界のそこかしこに自分たちの私服を肥すためだけに子供たちを派遣するなど許せません。いたちごっこになっているのは分かります」
 『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は遠く見える船の上でぎらついた目をして此方を見る子供達に、胸が締め付けられる思いがした。『未来を願う』小金井・正純(p3p008000)はオンネリネンの、もっといえばアドラステイアの闇を多く見てきた身として、子供達を無為に殺す考えをまるきり除外していた。当たり前だ、洗脳されただけの子供を、敵だからと切り捨てて殺せるのは割り切りがすぎる。
「オンネリネンの子どもたち……彼らと同じ頃のわたしがどうしていたのかは憶えていませんが、それぐらいの年で戦場に出るというのはとても悲しいことだと思います」
「……にしても。傭兵部隊を出すほどにあの国に住まう子ども達の数は多いということでしょうか」
「益々もって、あの子供達の本国での価値が分かってきまスね……」
 柊木 涼花(p3p010038)は記憶の多くを持ち合わせていないが、子供達が戦いに身を投じることの異常さ、歪みは十二分に理解している。だからこそ、その異常に顔を歪める。対して、『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)は純粋に首をひねった。それだけの子供をさらうなり洗脳するなりで集めていることの危険性もあるが、傭兵として惜しみなく国外に派遣する神経は理解の外だ。美咲はむしろ、その事実を以てオンネリネンの命の軽さを再認識してしまったのだけれど。
「可能な限り子供達は救いたい……! 皆! 最善を尽くそう!」
「ええ、そうねマリィ。子供と戦うには気が進まないけど、戦わないと救えないものね」
 船の舳先に足をかけ、『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)はよく通る声で一同に声をかけた。『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)はそれに応じ、メイスを握る。奥の方に見えるノルダインの男はいい。だが、揃いの粗末な服に、各々武器を構えた子供達はどうにも不気味で、哀れにすら思えた。
「ブランデホトさん、船の横付けは可能ですか?」
「任せときな。俺は兎も角他の奴等は近づけねえと戦えねえだろ。あいつらだってそれは望むところの筈だぜ。今日はいつもより時化てやがる、舌噛まねえように黙ってな!」
 クラリーチェの申し出に、心得たとばかりにブランデホトは応じる。彼の言葉通り、いまのヴィーザルの海は荒れ模様。それでも微動だにしないマリアの体幹がおかしいのであって、これが素面じゃないヴァレーリヤなら出港時にドボンである。
「さあ、おいたをする子供らに灸を据えにいくとするか!」
「ゼガンの事は詳しくねえけど、ノルダインの連中は大体自信ばっかり増長して好き放題やる連中だからな。奴の部下が見当たらねえのが気がかりだが……まあ、いい。一気にぶつけるぞ、耐ショック、もしくは突撃準備だ! 俺の代わりに泡吹かせてやれ!」
 『金獅子』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)が旗を振り、短槍を敵船に向かって突きつける。天星弓を握った正純は今や遅しと乗り込むべく前傾姿勢で身構え、涼花は接敵に先んじて仲間達に賦活の歌を奏でていく。かき鳴らす響きはその勢いを増し、一同の能力と魔力の循環を底上げする。最早準備は成った。船をターンさせるべく舵輪を握ったブランデホトをよそに、ヴァレーリヤはマリアと並ぶように前進し。
「主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え」
 祈りをもって、船の横っ腹をぶち抜きかねない一撃を叩き込んだ。衝撃、破損、その混乱に紛れるように、突撃が始まった、。


「──この祈り 偉大なる狩人、星を撃ち落とせし英雄に奉る」
 正純の祝詞にあわせ、空から降り注いだ一撃が船上の子どもたちへと降り注ぐ。精度を限界まで高めた一撃は、避けがたく受けがたい。不殺の誓いを以て放たれたそれを、しかし『躱さずに避けた』者がいるのは驚嘆に値しよう。オンネリネンの一員、2丁拳銃持ちのヴィー少年だ。
「いきなりご挨拶だね。やっぱりローレットは殺人集団なんだ」
「挨拶代わりにその口径で撃ってきたのは君も同じだろう? 他人に責任ばかりを押し付けるのは感心しないな」
 ベルフラウはヴィーの銃から放たれた大口径弾をこともなげに払い落とすと、両手を広げオンネリネンの子供達へと笑みを交えて正対する。それを挑発と受け取った一同はすかさず得物を向けるが、数名は正純の先制攻撃で動けずにいる。どころか、美咲の一発を強かに受けた少女は猛攻の結果、浅い呼吸を繰り返し立ち上がれずにいた。美咲は彼女を素早く抱えると飛び退り、小型船へと横たわらせた。
「シルヴィ!? イレギュラーズ、彼女をどうするつもりだ!」
「勿論、君達を保護しておしおきしたうえできちんとまっとうな人生を送れるようにしてあげるのさ!」
「マリィは優しいのですから、抵抗しないでさっさと投降するのをおすすめいたしますわ!」
 痺れる体をおして全身するテッドの眼前にふわりと降り立ったマリアは、素早い拳打でその得物を打ち上げ、胴へと拳を叩き込む。同時に、他の傷の浅い者も纏めて攻め立てることで動きを止めるべく尽力する。
 ヴァレーリヤは猛烈な勢いで子供達の行動が鈍化したのを見るや、狙いをゼガンへと照準する。船を吹き飛ばそうとした一撃を彼に照準し、叩き込む……が、ハルバードで切り払うように炎を打ち上げた。当然焦げ跡は残っているが、本来与えられた傷の何割にもならぬだろう。化け物か、と彼女は驚愕で動きが止まる。
「ハハッ、威勢よく船に上がってきた割にドタマがら空きだぜ女ァ!」
「……させないわ」
「大概にしろよクソ野郎が」
 ヴァレーリヤの頭頂めがけ、ハルバードが振り下ろされる。その直前、一陣の暴風に乗ってライフル弾が打ち込まれる。ヴァイスの放った暴風の術式に、偶然か意図してか、ブランデホトが射撃を併せたのだ。
 船の縁へと背を打ち付けたゼガンは一瞬息をつまらせ、射線にあった子供達は危うく海に落ちかけたところを美咲が抱えて飛び退る。流石にゼガンの間合いに踏み込めず、さりとて子供を攻撃すれば殺しかねぬタイミングだったため、矛先は不幸なノルダインの船へと向けられた。重量と速度の載った連撃は、当然船を大きく揺らす。
「大丈夫ですか、ヴァレーリヤさん!? 他の皆さんも!」
「え、ええ、振り下ろしの余波でちょっと切ってしまいましたけど」
 クラリーチェは仲間達の状況に合わせ治癒術を放ち、状況を見守る。同時に涼花の賦活術式も届けることで、戦局はなんとかイレギュラーズ有利に動いていた。子供達は当然反撃にうつるが、優先順位を過たず猛攻を叩き込む一同の能力を前に、本来の連携を発揮できていないようだ。
「痛いですか?それはあなたがこれまでに誰かに齎した痛み……アドラステイアではそれが良しとされてきたのでしょうが、傷つけるということは痛みを伴うのですよ」
「痛みも地獄もとっくに見てきた。アドラステイアに居る限り、僕達は少なくとも理不尽には殺されない。だから僕達は、お前達を倒して帰る!」
「あまりおいたしちゃいけないわ。そんなわからず屋にはおしおきよ!」
「ホラ、クラリーチェ氏もヴァイス氏も助ける気満々でスし? 殺しはしないからこっちに来るんでスよガキ共」
 クラリーチェの誘いをすげなく切り捨てたテッドを、ヴァイスは強い口調で非難する。美咲はどちらでもいいんだけど、という態度は崩さない。いい加減不機嫌がピークに達している感じはあるが。
「ははは、君達の攻撃は温いな! 私の旗を下ろさせることは到底無理そうだ! ならば掲げた旗と主張を下ろすべきは君達なんだよ!」
「っの、ガキどもを洗脳するんじゃねえ!」
 ベルフラウの堂々とした態度は、ゼガンの怒りを加速させる。またたく間、まさに電光石火の勢いで無力化されていく子供達に割って入ろうとしたゼガンを止めたのは、マリアの放った蹴りと正純の放った明けの明星たる一射。それらを振り払うがごとくに弾こう『とした』のは脅威と言うほかはない。だが、マリアは関節狙い、正純は正面から攻撃を叩き込み、それらの攻撃をより強い攻撃足らしめたのは、涼花が直前にはなったなんのこともない音の一撃だ。捻りなく激しさもなく、しかし賦活術式を籠めて精度の上がったそれは、ゼガンのタイミングを崩すことに大きく寄与した。
「畜生が……! これで終わりだってのかよ」
「ああそうだよクソ野郎。こいつらの目に留まったのが運の尽きだったな」
 ライフルを担いでにらみつけるブランデホトの姿は、いかにもリラックスしているようで。ナメているようで。
 だって、ゼガンには既に後がない。彼へ向けて直進する風の術式は、そのハルバードを叩き折り、そのまま海へと叩き落とすべく突っ込んできているのだから。



 ぐったりと倒れる子供達と、真っ二つに折れたハルバード。そしてゼガンの着用していた兜。勝利を示す証拠として、これ以上のものはないだろう。
「自分の意志で戦場に出るのなら尊重はします。けど、大人の言葉に従うだけのために戦場に出たのなら、これきりにすべきです」
 涼花は倒れこむ子供達に向け、肩で息をしつつそう諭した。魔力は尽きかけ、決して体力も十分ではない。さりとて、仲間達が立ち続ける為に最後まで成し遂げたことそのものが、彼女にとっての最大の戦果であるといえよう。間接的に、子供達を救ったのだ。
「ヴァリューシャ、怪我はないかい? 皆本当にお疲れ様だよ!」
「私は大丈夫ですわ。それよりも子供達を……大丈夫、安心して下さいまし。大人しくしていてくれれば、手荒な真似は致しませんわ。ほら、傷を見せて頂戴。手当してあげるから……」
 マリアの激しい心配をやんわりと抑え、ヴァレーリヤは子供達にゆっくりと近づく。拘束され、指の一本すら動かす気力のない彼らに抵抗する力はなく、殺された、と聞いているために恐怖と敵意におびえる目をしているばかりだ。
 だが、治療が成されればその態度も少しずつ軟化する。
「あら、慌てないで……落ち着いて頂戴? まずはお話しをしましょう。痛いところはないかしら」
「話? 俺達の仲間に、『故郷』に酷いことをした奴らに話すことなんて」
「それじゃあ反省会の時間ですガキ共。今回の戦い、何処で勝敗が分かれたでしょうか」
 ヴァイスが柔らかい言葉で何とか話ができないか近付くと、怒りのままに反論が響く。ここからおとなしくなるには時間がいるか、と一同が悩ましい表情を見せたところで、だしぬけに美咲が問いかけた。
 子供達は当然、反応に窮する。実力差があったのも無論だが、ほかにも過ちはなかったのか、と思案する様子が窺える。
「……今回の正解はとっとと逃げてから、後で私らに姑息に嫌がらせを仕掛けるとかだったと思いまスね。正義は戦いの前や最中に出すものじゃなくて、勝ってから出すものなんスよ」
「なるほどな。正義だ悪だ、道理だ誤りだを考えながら戦っていたのか、君達は。だったら私達に勝てるわけはないな」
 続く回答を聞き、ベルフラウはしたり顔で子供達を見た。正純含め、子供達を助けるべく戦う者も数名いたが、イレギュラーズは飽くまで目の前に現れた脅威から沿岸の人々を救ったに過ぎない。ベルフラウに至っては、父とローレットとの板挟み、果てはノーザンキングスまで入り混じった状況なわけで、善悪なんてものを考えている余裕があったようにはとてもじゃないが思えない。仲間のため、己がため。ただそれだけの為に旗を振る女に、小賢しい子供が抗えるはずもなし。
「さて、捕縛した子らの行先だが……」
「出来る限り穏便に済ませたいところですね。生かした以上、死ぬような道に送り込むのは忍びない」
「……何が望みだ」
 テッド少年は、品定めするようにベルフラウ、正純、そして一番得体のしれぬ美咲を順繰りに見る。穏便そうに見える人間ほど、内面は悪辣で油断ができないということをテッド少年は肌身にしみて分かっていた。だからこそ、正純の油断の出来なさも理解している。……その上で、ベルフラウの発言には驚きを以て応じた。
「父上と、あとはブランデホト、君にぜひとも相談したいのだが」
「は?」
「オイ、俺は厄介者共を排除してくれりゃあいいだけでこいつらの世話なんて」
「だが、痩せたヴィーザルの土地に、大人と遜色ない働き手がいたらどうだ?」
 呆然と生返事をした少年をよそに、ブランデホトは心から何いってんだコイツといった具合で食って掛かった。だが、働き手不足は深刻らしく、それを突っ込まれると押し黙るしかない。
「それに、有事の際は戦える人材だぞ?」
「……このアマ……ああもうわかったよ! あのジジイに会うのも癪だし、わざわざ喧嘩の種を作りたくもねえ! 中立地帯の連中に頭下げてやるよ、アダムスの野郎がな!」
 自分が頭を下げるんじゃないんだ、と一同はジト目でブランデホトを見るが、言い切った本人は腕を組んでふんぞり返るとそれ以上多くを語りたがらなかった。
「兎さん、案外優しいところあるのね」
「っせえ! 『太陽の種』の件といいロンペイロスのクソ野郎といい雪崩の件といい今回といい、お前達には借りがあるんだよ! 仕方ねえだろうが!」
 ヴァイスはブランデホトを笑いながら誂う。そういうところで悪人になりきれないシルヴァンスの青年は、しかしいつでも『こう』ではないだろう。
 いずれ何らかの形で敵対する未来があるとして、今は穏便に話ができることを、ヴァイスは今という瞬間に感謝する。
 ……それにしても借りが多すぎる白兎が心配になってきたが。

成否

成功

MVP

柊木 涼花(p3p010038)
絆音、戦場揺らす

状態異常

なし

あとがき

 子供達を保護した上でアフターケアの提案も完備。しっかりと練られた作戦の賜物と存じます。
 それはそうと初登場からずっと借りしか作ってないヴァイス君、今後ちゃんと敵対できるのかな……

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