シナリオ詳細
<オンネリネン>カナリアの歌がやむとき
オープニング
●炭鉱のカナリア
幻想のとある山岳地帯。そこには長らく、怪物が巣食い危険であるという炭鉱があった。
そこでは良質な鉱石が取れる。うまく鉱山の運営が軌道に乗れば、一つの収入になるのは確かだ。
近隣の領主たちは何とか、この鉱山を人の手に取り戻したかった。が、正式に自身の麾下の兵を動かすわけにはいかない。手勢を消費することになるし――自身の動きを他の領主たちに悟られれば、実効支配の前に手を出され、領有の主張をごねられる可能性もある。また、仮に討伐に失敗した場合、撤退する兵士たちが、鉱山の外へ怪物を引き連れてきてしまうかもしれない……そう言った不確定要素による均衡が、付近で形成されるなか、一人の年若い領主が動き出していた。
作戦はひそかに、静かに行われなければならない。そこでその領主は、裏のルートへ手を回し、とある傭兵部隊を雇い入れ、内部調査の依頼を行ったのである。
雇われた傭兵部隊は、オンネリネンと名乗った。子供たちばかりを運用しているという集団だが、しかし裏の名声は相応に名高い。それに重要なのは、実力よりもむしろ、簡単に使い捨てられるタイプの傭兵だという事だ……。
――オンネリネンL-5部隊が敵と遭遇したのは、炭鉱に侵入してから30分後のことだった。敵は賢かった。炭鉱奥へと長く隊列を作らされた一行は、横合いから強襲される形での襲撃を受けていた。
現れたのは、巨大なオーガの一行だ。筋骨隆々のその肉体から放たれる強烈な打撃は、如何に大人顔負けの訓練を行ったとは言え、子供が耐えるのは強烈に過ぎた。一撃で壁にたたきつけられた術士の少女が、うめき声をあげて動かなくなる――それを皮切りに、殺戮の場は顕現した。
「ヴィサ、生き残ってる子を連れて撤退しよう!」
リーダーである少年、カイの判断は早かった。サブリーダーであるヴィサに指示すると、自身も懸命に剣を抜き放って応戦しながら、じりじりと後退する。
「こいつ等は可能な限り此処で抑える! 後ろの子は出口まで走って!」
「カイ、ダメだ! 後ろの子が、出口が塞がれてるって言ってる!」
「なんだって!?」
カイが声をあげた。本当なのか? と声をあげようとして、とどまった。そんな嘘はつかないだろう……ならば、閉じ込められたのだ。誰に? いや、これが怪物たちの罠であろうと、雇い主の裏切りであろうと関係ない! 追い詰められているという現実だけがある。今何とかしなければ……全滅する!
「皆、バラバラに逃げるんだ! とにかくまとまっていたら全滅しかねない……! 一人でも、生き延びて……!」
そう叫ぶカイの言葉を遮る様に、オーガの棍棒が彼を襲った。
●魔窟での救出戦
「すみません! みなさん、ちょっと急ぎの依頼です!」
と、ローレットの出張所にて仕事を探していたイレギュラーズ達の前に現れたのは、情報屋である『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013) だ。ファーリナはイレギュラーズ達をテーブルへと誘導すると、そこで資料をテーブルへと広げた。
その資料には、幻想にある山岳地帯の、鉱山の地図が記されている。
「この鉱山なんですが、良質の鉱石が取れるって言うことで昔はにぎわったんですが、何やら怪物たちの巣窟になってしまって閉鎖されてたんだそうです。
ですが、昨日、この鉱山に人が入っていったって言う情報があったんですね。そんなわけないと騎士団が調べたんですが、近くの領主が白状しまして。内部の怪物を掃討する名目で、ひそかに傭兵団を中にはなったと。
その傭兵団なんですが、アドラステイアが各国に放ってる、オンネリネンって言う傭兵団なんです!」
オンネリネン、とはアドラステイアが各国に派遣している傭兵団の名だ。アドラステイアが擁する事実からわかる通り、その構成員は十歳前後の少年少女で構成されている。その性質から、表ではあまり活動していないが、裏では相応の活動を行い、実績も得ているのだという。
「領主は見捨てて放置するつもりだったようですが、流石にそう言うわけにはいきません。それに、脱出できないでいるのは子供です。余計に見捨てておくわけにはいきません! と言うわけで、救出作戦がローレットに依頼されました!」
ですが、とファーリナは言う。
「オンネリネンは、こちらを敵と教育され、刷り込まれている子達です……素直に助けられるかと言えば、それも怪しい。最悪、戦闘になる可能性があります。
この依頼は厄介です。オーガと戦い、もしかしたらいるかもしれない他の怪物と戦い、最悪救出対象とも戦わなければならなくなります」
オンネリネンは、ファーリナの言う通り、ローレットを敵視するように教育されている。オンネリネンによれば、ローレットは仲間達を殺した憎き仇……と言う事になっているらしい。そのため、敵意をむき出しに攻撃してくる可能性は否めない。
それに、炭鉱内部の地図は存在するが、生息しているオーガにより、内部が拡張されている可能性がある。もしそうなっていたら、手探りでの捜索を行わなければなるまい。
「少々込み入った依頼ですが……皆さんなら何とかできると信じています! どうぞよろしくお願いしますよ!」
と、ファーリナはイレギュラーズ達を送り出すのであった。
- <オンネリネン>カナリアの歌がやむとき完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年10月08日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●るつぼ
廃鉱山の入り口には、静かな風の音だけが響いている。
入り口を閉ざすのは、分厚い扉、そして巨大な鎖と錠前。中にはまだ、傭兵たちが……オンネリネンの子供達が取り残されている。取り残された傭兵たちの救出のために、ローレット・イレギュラーズたちは鉱山までやってきた。
「傭兵稼業じゃ、尻尾切り前提で動かされることはザラにある。
だから、依頼の内容や発注者からリスクや裏を考えることも、傭兵にとって必須な能力だ」
『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)が言った。
「……まぁ、組織の大元がそんなこと考えさせてる訳ないだろうがな。
むしろ、あえて教えていないか……」
「末端は使い捨て、って事ね。つくづく」
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は嘆息すると、懐から鍵束を取り出した。
「依頼人は選べって毎回お説教してるんですけどねえ。
……嗚呼。冷静に考えたら、皆殆ど帰してないから伝わるわきゃなかったわ」
『律の風』ゼファー(p3p007625)が顔をしかめた。ローレットと遭遇したオンネリネンは、そのほとんどがイレギュラーズ達に保護され、施設で生活する者もいる。
「あの連中のことよ。どうせ口をふさぐわ」
イーリンが呆れたように言うのへ、ゼファーも肩をすくめてみせた。
「さて、鍵を開けるわよ。サーチ、何か引っかかってる?」
イーリンの言葉に、
「大丈夫ですよ、隊長さん!」
『花盾』橋場・ステラ(p3p008617)が答えた。
「一応聞き耳を立てていますが、扉の近くからは生物の足音や息づかいなどなどは聞こえません! 不意打ちの危険性はありませんよ!」
ステラの言葉に、イーリンは頷いた。鍵を開ける。かんぬきが自由になって、それをずらした。ず、と重い音を立てて、扉が開いた。同時、冷えた空気と共に、何かがどさり、と地面に倒れ伏す。反射的に、イレギュラーズ達が武器に手を伸ばしたが、それが『生者』ではないことに気づいて、すぐに武器から手を離した。
「……子供、か?」
『特異運命座標』日高 天(p3p009659)が呟いた。見れば、軽鎧で武装した、10歳前後の幼い少年だった。体のあちこちにケガを負っていて、死因は失血死だろうと想像できた。
「まさか、必死に扉までたどり着いて……そこで……!」
ぎり、と天がこぶしを握った。怒り。無力さ。そんな感情を込めて。
「……気休めだが」
『元神父』オライオン(p3p009186)は、静かに、自分に言い聞かせるように言った。
「血は渇いている。身体も硬い。恐らく死後、相当の時間がたっている。
俺たちが多少急いだ所で、この子は助けられなかった」
「分かっている。気に病むな、と言うのだろう。だが……」
天が言うのへ、オライオンは頷く。
「君の気持ちもわかる。だが、今は気持ちを切り替えるべきだ。此処で俺たちが悔やんでいても、その時間でまだ救えるものを危機に追いやる危険性がある」
「…………そうだね。でも、少しだけ」
『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)が言った。そのまま、硬直した少年兵の遺体を優しく抱き上げると、扉の傍に寝かせて、力なくうっすらと開いていた瞳を、閉じさせてやった。
「ごめんね。でも、必ず君は連れて帰るから」
サクラが祈る様に瞳を閉じて、そう言った。立ち上がると、仲間達に頷く。
「……話によると、子供たちは、こちらを憎んでいるかもしれない、と」
「そうね。アドラステイアって、そう言う教え込みする連中だものね」
『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)が、静かに言った。
「けど、あっちがあたし達を嫌っていようが敵視していようが関係ないわ。
あたしは、絶対に救うべき人を救う。
えぇ、そうよね。
『主はそれを赦される』。
……行きましょう」
リアがぐっ、と拳に力を籠める。リアの言葉に頷くように、仲間達は力強く、廃坑内へと足を踏み入れた――。
●救出・衝突
鉱山の廃坑内へと足を踏み入れる。ほどなくして、自由勝手に掘り進められたと思わしき増設通路が、イレギュラーズ達の前に立ちはだかった。恐らくは、内部に巣食ったオーガたちが、自らの都合の良いようにルートを開拓したのだろう。
「では、予定通りに2班に分かれましょう」
イーリンが言う。イレギュラーズ達は4人二組に分かれた。オライオンは灰から使い魔の獣を生み出すと、リアへと手渡す。
「連絡はこいつに頼む。……子供達の数だが、情報では20名。だが、これまでみてきた痕跡を考えれば……」
「残りは10人くらい、ってわけね。オーケー、わかってるわ。残りは救う。全部ね」
決意を込めたリアの瞳を、オライオンは受け止めた。ゆっくりと頷き、離れる。
「それじゃあ、気を付けて。
『神がそれを望まれる』」
イーリンの言葉に、一行は二手に分かれて探索を開始する。
「随分と広げたものだ。これはオーガ共も快適だろうな」
エコーを拾いながら、マカライトが言った。
「ここを逃げているのか、ガキ共は。うまく敵を撒けていると良いが……」
「幸い、ほんとに無秩序に通路を掘り進めてるみたいだし、隠れられる場所は多そうよ?」
ゼファーが言った。
「オーガに秩序だった建設プランが無かったのは、幸か不幸か、って所ね。
その分、捜索にも骨は折れますけれど、ええ。そこは喜んで折りましょう。
マカライト、あなたがこのチームの目よ。私ももちろん、探せるものははいつくばってでも探します。協力お願いね?」
「言うまでもないさ」
マカライトは静かに呟くと――皆を制した。
「その前に、招かれざる客だ。この反射は……デカい。子供じゃないな。
構えろ、多分まだ気づかれてはいない」
「了解した。司書君、薙ぎ払おう」
オライオンがそう言うのへ、司書、つまりイーリンが頷く。オライオンがゆっくりと術式を編み上げる。その手に煌々と輝くそれは、暗闇をも照らす神罰の光。
「放つぞ」
オライオンがゆっくりとそう言った瞬間、放たれた光が前方を激しく薙ぎ払う。光に照らされたのは、2体の巨大なオーガであった。神聖な光の刃がオーガの肉体を切り裂き、奇襲を受けた形のオーガが浮足立つ。
「このまま薙ぎ払うわ! その後に続いて!」
イーリンが魔術書を開き、そこから眩い光が溢れる。その光の名から生み出される、一筋の光――戦旗を取り、力強く振るう。
戦旗は魔力をおび、魔力の刃となる。その魔力の刃は、紫の燐光を放ち、宙を切り裂く聖剣となる。刃が、オーガを貫く。オーガが手にした棍棒を取り落とした。刹那、オーガのすぐ隣に移動していたゼファーが、鋭く槍を突き出す。残像すら見えるほどの、高速の一撃! それがオーガの胸を貫いて、絶命させる。
「悪いけど――」
ゼファーが言った。
「あなたたちに加減してあげるほどお人好しじゃないわ」
ゼファーが槍を引き抜くと、オーガが地に倒れ伏した。もう一体のオーガが慌てて反撃にうつるが、もう遅い。その身体を、巨大な黒龍の顎が喰らいつく。マカライトの身体の鎖が、手にした機械剣を基点に形成したものだ。それはまさに黒龍の顎となって、牙で以ってオーガを食いつぶした。
「クリア」
マカライトが言う。
「が、のんびりはしていられないな。戦闘音が聞こえたか、あるいはそうじゃなくても、この死体がオーガ共に見つかる可能性は高い」
「ならば、素早く移動するとしよう。マカライト君、索敵を頼む」
オライオンが言う。
「了解だ。ゼファー、何か見つかったか?」
マカライトの言葉に、
「足跡ね……たぶん、子供。こっちに続いてるわ」
ゼファーが指さす通路は、少しだけ狭い獣道のような場所だ。
「他に手がかりもないわ、ゼファーの情報に従いましょう」
イーリンがそう言うのへ、仲間達は頷いた――。
探索は続く。わずかな情報と反応を手掛かりに、迷宮の中へ。道中、幾度か敵と遭遇しながら、イレギュラーズ達は奥へと向かっていく。
暗がりに潜む何者かの呼吸を、察知したのはステラだった。
「呼吸が聞こえます……一つ、二つ、三つ……一つは凄く弱いです……!」
ステラの言葉に、天が頷いた。
「こっちのセンサーにも反応がある……子供達だ、行くぞ」
四人は、通路を進んでいく。狭い通路を、奥へ、薄暗くなるその先に、肩から血を流した少年、それを看護する少女、そしてこちらに剣を向ける少年、その三人が姿を現した。その眼は、明確な敵対の色に満ちている。
「動かないで。それ以上動いたら斬るよ」
鋭くにらみつける少年に、リアはゆっくりと両手をあげた。
「落ち着いて。敵意は無いわ」
「信用できない」
「分かってる。これで、お話は聞いてくれる?」
サクラが、刃を納刀して、両手を放して見せた。
「何の用?」
「あなた達を助けに来た。これは正式な依頼。
そっちの子は? オーガにやられた?」
リアがけがを負った少年を覗き込もうとするのへ、剣を持った少年は剣を突き出す。
「近づかないで。近づいたら、斬る」
「いいよ」
サクラが言った。ゆっくりと、一歩を踏み出す。
「それで信用してくれるなら……ううん、使用してくれなんて言わない。信じられないと思ったら後ろから刺してくれて良い」
サクラは落ち着かせるように、穏やかな笑みを浮かべる。
「脱出してからも自由に逃げて構わない。
……私は誰も死なせたくないの。だからお願い。協力して」
「おねがい、それ以上、近寄らないで」
少年が言う。腕が震えている。もう、あちらの精神も限界なのだろう。だが、教え込まれた教条が、彼に投降を許さないのだろう。リアは、そう仕込んだ大人たちを思うと顔を歪めたくなったが、我慢する。
「……その子、傷ついてるでしょう。私たちなら、応急手当てができる。だから、お願い。私達に任せて」
ゆっくりと、歩み寄るサクラへ、しかし少年は、その精神の疲労から暴発した。
「来ないで、って言ったよ……!」
子供が泣き叫ぶように、そうできない代わりに、少年は刃を振るった。その刃が、無抵抗のサクラの右腕を切り裂いた。深い傷跡が斜めに走る。しとどに零れ落ちる血。サクラはそれでも笑った。
「私たちは、君達を傷つけないよ。どうか。今だけ、手を取って」
自ら傷ついて、なお微笑むその姿は、子供たちにとっては、母のように見えたのかもしれない。少年は項垂れると、剣を取り落とす。サクラは、左手で、その頭を優しく撫でてやった。
「ありがとう。すぐに、そっちのこの怪我も見るから。
リアさん、お願いできる?」
その言葉に、リアは頷いた。
「任せて。終わったら、あなたの番だから。
……あなたも無茶するわね」
呆れたように言うリアに、
「私がこうしてなかったら、リアさんがこうしてたでしょ?」
そう笑い返すサクラ。リアは、む、と唸って目をそらした。
――。
「お二人とも、説得は成功しましたか?」
天と共に、周囲の警戒を行っていたステラが言う――と同時に、目を丸くした。
「さ、サクラさん! お怪我を……!」
「大丈夫だよ」
サクラが笑う。右腕には深い切り傷が残っていた。リアの応急処置と治療が適切だったため、すぐに治るだろうが、しかしサクラの能力低下は否めまい。
「無理はしないでくれよ」
天が言うのへ、サクラは頷く。
「オライオンからも連絡があった。向こうも二名、子供たちを見つけたらしい。此処からが正念場だ。さぁ、残りの子供たちを探しに行こう」
天の言葉に、仲間達は頷く。その様子を、子供たちは不安げに見つめていた。
●その先に、道があるなら
イレギュラーズ達は、順調に子供たちを見つけていった。隠れている子供たちだけでなく、オーガに襲われる寸前にまで追い詰められていた子も居たし、混乱し、襲い掛かってくる子供達もいた。
イレギュラーズ達は困難と障害を乗り越え、深く傷つきながらも探索を続ける。そしてついに最後の子供と接触。救出することに成功した。
「状況、完了ね。よし、Aチームに連絡を。このまま離脱を開始するわ。オライオン、帰りのルートは?」
イーリンの言葉に、オライオンが答える。
「問題ない。把握している」
「よし。ゼファー、しんがりお願いできる? きついと思うけど……」
「折れる骨は折る、って言ったわよ? お任せなさい?」
その身を深く傷つきながらも、ゼファーは笑ってみせる……が、マカライトの声が上がった。
「まずい。デカブツが動いている」
「デカブツ。オーガか?」
オライオンが尋ねるのへ、マカライトは頭を振った。
「いや、この反響は、さらにデカい! この坑道を飲み尽くすくらいに――」
「オーガたちが崇めてる神って奴ね?」
イーリンが舌打ち。が、すぐに頭を振ると、
「相手にしてなんてられないわ! すぐさま走って逃げるわよ。Aチームにも連絡お願い、オライオン! ゼファー、もしかしたらもっとしんどくなるかも!」
「しょうがないわね、毒を喰らわば何とやらよ」
ゼファーが笑う。
「マカライト、索敵はずっと続けて! 些細なことでもなにかあったらすぐに報告! いい――逃げるわよ!」
と、イーリンが言うのへ、仲間達は頷き、子供たちを伴い可能な限りの速度で移動を開始した。その後を追うように、ずずず、と何かが這う音が聞こえた――。
一方、坑道の入り口では、Aチームのメンバーが、6名の子供たちを連れて待機している。サクラなどはひどくボロボロで、一度は可能性の箱を開き、なおもその身を危険に投じたと思わしい。
「他の皆は……」
「サクラさんは休んでいてください、何かあったら拙たちが」
ステラが微笑んで、耳を澄ませる。何かが脈動する音。巨大何かが這う音が、どうにも耳から離れない――何か恐ろしいものが、中を動いている、そんな反響音が聞こえる。
「……最悪、ここでオーガの崇める神と戦う事になるかもしれません」
「分かってる。リア、サクラと子供達と一緒に、近くの小屋に隠れていてくれ」
「後半は賛成。でもあたしも戦うわ」
リアが笑ってみせる。
「だが、君は子供たちを説得する際に負傷して……」
「あたしがいなくなったら、誰が皆の傷を治すのよ? みんなギリギリでしょ? 泣き言なんて言ってられない」
「……分かった。共に戦おう」
リアの言葉に、天が頷く。刹那、ステラが声をあげた。
「……来ます!」
構える――同時、飛び出してきたのは、四名のイレギュラーズと、四人の子供達だ!
「ステラ、まずい! 聞こえるだろう! 近づいてきている!」
マカライトがそう言うのへ、ステラが頷いた。
「扉、締めます!」
ステラが大慌てで、扉を閉める。その隙間から覗く、巨大な爬虫類の目。蛇の目。ゾッとしながらも、ステラは重い鉄扉を閉めることに成功した。
「錠前を!」
「任せろ」
オライオンがかんぬきを差し込み、錠前と鎖を括り付けた。そのまま錠前を閉じると、まるで何事もなかったのような静寂が、辺りを包み込んだ。
「……危機一髪ね」
イーリンが言うのへ、皆が頷く。
「……けど、本題はここからよ」
イーリンたちが助け出した少年……カイが、子供たちを集めて、ゆっくりとイレギュラーズ達から距離を取る。先ほどよりも警戒心は薄れていたが、しかし疑念の色は解けない。
「イレギュラーズは契約を守るわ。貴方達の命を助けると決めた以上、それより先は関知しない。
後日殺しに来てもいいけど、その前に少しでも学ぶことね」
「学ぶ? 何を?」
と尋ねるカイへ、イーリンは頷く。
「何を? 自分で考えなさいよ。こうならない方法を、ね」
「帰るなら止はしないわ」
リアが言った。
「でも、そうね。自分で見て、自分で考えて行動しなさい。大切な人を守りたいのならね」
リアの言葉に、カイたちは頷いた。
「ありがとう。お礼は、言いたい。けど……」
子供たちは顔を見合わせた。自分たちの信じていたモノ。それが瓦解しようとしているのだ。
だが、ここで言葉の奔流を浴びせかけても、かえって混乱させるだけだろう。
「……嗚呼。一つだけ。貴方達のお友達かどうかは知らないけど。
少なくとも、あの黒髪の子……ミェスと、茶髪の子のユリウス。
それとあの子達についていった子達は元気してるわよ。
ウチで預かってる子もいるしね?」
ゼファーのその言葉に、カイは目を丸くした。
「……死んだって聞いてた」
「でしょうね。でも、そうね。会いたくなったら、会いにいらっしゃい」
子供たちは、ゆっくりと後ずさる。後ろ髪をひかれるように、ゆっくりと。
「これからお前達がどうするのかは問わん。次は戦場で見えるのかもしれない。
だが忘れてはいけない、いつだって信ずるべきは見えぬ神ではないのだ」
オライオンの言葉をかみしめるように目を閉じてから、カイは頷いた。ゆっくりと両手をあげる。
「僕たちは、お前達に投降する」
そう言った。その言葉に反抗する子供たちはいなかった。皆ボロボロだった。
「分かりました。傷ついた子は、すぐにお医者さんに見せましょう」
ステラが言う。
「よし、それじゃあ、帰りの馬車を手配してもらって来よう」
天が言った。
「……何とか、落ち着くところに落ち着いたな」
マカライトが息を吐いた。
それからしばらくして、迎えの馬車が現れた。子供達と、イレギュラーズ達を乗せて、その馬車は先へと続く道へと進んでいった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ご参加ありがとうございました。
救出された子供たちは投降し、治療を受けています。
のちに、保護施設へと送られるか、皆さんのお世話になるのか……と言った所になります。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
悪徳貴族に雇われ、怪物の潜む炭鉱へと送り込まれた子供たちを救出してください。
●成功条件
一人以上の子供達の救出。
●失敗条件
子供達が全滅する。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●状況
怪物が潜む炭鉱の調査に駆り出された、オンネリネン傭兵部隊の子供達。怪物に襲われ、撤退を試みますが、こころない貴族の手により入り口は封鎖され、見捨てられてしまいました。
このままでは彼らは全滅してしまうでしょう。皆さんは、騎士団より、子供達の救出を依頼されます。
猶予はありません。皆さんは炭鉱にむかい、敵を蹴散らしながら子供たちを救出するのです。
しかし、問題はあります。地図があるとはいえ内部は入り組んでいる他、棲んでいるオーガにより拡張されている可能性は否めません。
それに、救出対象でもあるオンネリネンの子供たちは、ローレットを敵だと刷り込まれています。素直に言う事を聞くかは、皆さんの手にかかっているといえます。
作戦エリアは洞窟になっています。戦うだけの広さは充分にあるものとして判定します。また、内部には明かりが存在するものとしますが、明かりを発するスキルや道具などがあれば、より内部が見通しやすくなるでしょう。
●特殊ルールについて
このシナリオにおいては、『不殺属性を持っていない攻撃でも、その攻撃で手加減を行うと宣言すれば、ダメージの低下と引き換えに不殺属性をその攻撃に付与できる』ものとします。
もちろん、不殺を行うのであれば、不殺属性を持っている攻撃の方が効率は良いでしょう。
●エネミーデータ
オーガ ×???
内部に潜むオーガの類です。筋骨隆々な肉体と、棍棒などの鈍器が武器。
基本的に中~近距離での物理攻撃を行います。また、『出血系列』のBSを所持。
数は多めの他、オンネリネンの子供たちを捜索し、攻撃する思考をしています。
オーガの崇める神 ×1
オーガたちが神と崇める怪物です。多頭のヘビとの報告がありますが……。
あまり最奥から動かないので、やり過ごすことは可能です。万が一発見されれば、少々骨の折れる事態になるでしょう。
●救出対象
オンネリネンの子供たち ×10
シナリオ開始時に生存しているオンネリネンの子供たちは、10名です。その中には、リーダーである少年カイ、サブリーダーである少年ヴィサも含まれています。
皆バラバラに逃げているようです。全員を助けるのは、困難かもしれません。
また、基本的に、ローレットのイレギュラーズへは敵対しています。恐怖に錯乱もしているため、攻撃を仕掛けてくる可能性は非常に高いです。
戦闘能力としては、特筆すべきほどのものはありません。一般の傭兵、術士程度の戦闘能力を持ち、イレギュラーズ達よりは格下の相手になります。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。
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